六限目

本来、授業から解放される六限目は嬉しいもののはずだったのに、今の僕には憂鬱で仕方ない。

しかも小テストだ。普段からそんなに勉強しているわけではなく。また、平均的な男子学生である僕はやっぱり平均点程度しか取れない。
そのことがさらに僕の気を滅入らせる。

ふと、隣を見る。さっきまでそこにいた僕の最愛の人が居ない。それだけでどうしようもない絶望感が襲い掛かってくる。
けれど前向きな僕は、今日一日の出来事を振り返って放課後の事に思いを馳せた。

僕は彼女を深く愛しているし。愛されている。それにお昼休みに約束したもんね。
そう考えるだけで憂鬱な気分は吹き飛んだ。今は放課後が楽しみで仕方ない。

六限目が始まっても彼女が戻ってこないもんだから、勿論テストに集中できるはずもなく。本当に体調を崩したのか心配でちらちら隣の席を見る。
いつだって僕の心を掴んで離さない彼女が居ない。居ないというのに、引きつけられる様にそちらを覗う。

小テストの短い時間を全部つかって一つの答えを導き出した。

僕も保健室へ行こう――。


テストの解答欄を一つも埋めることなく、すぐさま体調不良を訴えて教室を後にした。
風紀委員の彼が気遣って付いて来ようとするのを断って、さもしんどそうに廊下へ出た。

そこから僕は風のように駆け出した。背が低いのも幸いして、目立たぬよう身体を屈めて一気に駆け抜けた。


保健室に着いた。自分でも驚くくらい早く。普段から鍛えてあるお陰かというよりも、一刻も早く彼女の様子が知りたいから。
僕も先ほどの彼女のマネをして、仮病でベッドに入った。体調不良を装うなんて、変装して尾行するのより簡単だ。

カーテンを一枚隔てた向こう側に彼女がいる。さぁ僕の幸運よ――ここで働け。
そう念じたところ、養護教諭が所用で三十分ほど席を空ける事になった。
やっぱり僕の幸運は相当なものだ。思えばこの学園に入学できたのだって、彼女に会えて、さらにこんな関係になれたのだって……。

そう考えると、やっぱり僕の才能は幸運で間違いない。自覚すると、急に寂しさのようなものがよぎった。
もし僕に運がなかったら――そんな事を考えても仕方ないのに……。


この空虚な気持ちを埋めるために、教諭が退室した直後に行動した。

布団をどけて、静かに、物音を立てないようにベッドから降り、そーっとカーテンをめくり、彼女を見つけた。
おそるおそる名前を呼んでみるが反応が無い。どうやら眠っているらしい。
そりゃ戻ってこないはずだ。

心配して損した、なんて言わないけれど、スヤスヤと寝息を立てる可愛い顔を見ていたら僕の悪戯心に火がついた。

まずは耳元で名前を呼んでみた。「響子愛してるよ」
反応がない。まぁただの確認だ。いつもなら、こうやって耳元で囁けば何がしかのリアクションをとってくれるもの。

次に、出合った当初は冷たい人だ。と思っていた頬を人差し指で突いてみた。
無限に沈み込むんじゃないかと錯覚させるような柔らかさと、沈んだ分だけ押し返してくる弾力。
指先に伝わってくる彼女の温もり。今となっては、彼女が冷たいなんて微塵も考えたりしない。普段は隠しているだけなのだ。
でも、そのことを知っているのは僕だけでいい。彼女の素顔を知っているのは僕だけで……。


やっぱり反応が無い。
いい加減反応して欲しいので、起こすことにした。
あどけない寝顔。この寝顔も僕だけしか知らないはずだ。見慣れているはずの、だけど永遠に飽きることのない優しい寝顔。
見つめているだけで優しい気持ちになる。だから起こす際も優しく唇を合わせるだけ。

1,2、3……と、僕の胸が刻む三拍子。その僅かな時間で、僕の胸に広がっている優しい気持ちをくれた彼女に、感謝を示す。

だけど起きない。起きようとしないようだ。僕が唇を離す瞬間に、身体がわずかに強張っていた。
全く、仕方ないな……そう胸中でひとりごちた。

目を閉じながら、僕を待ちわびているであろう彼女に再びキスしてあげようと思ったが、直前で思いとどまった。
僕に心配をかけさせた罰を与えないと――。

すぐさま、もう二センチもない位置にあった彼女の唇から距離を置き、ベッドから離れて今度は足のほうに近づいた。


今頃になって、ベッドの脇に彼女の制服が折り畳まれていることに気付いた。
彼女の香りは好きだけど、服の残り香に興味はない。
僕はすぐに、彼女の足元の布団をめくり、そこに四つんばいになって進入した。
横から見れば、布団の足元の方がこんもりと膨らんでいるだろう。

僕の大好きな彼女の、蟲惑的な香りが広がった。

そうだ、さっきは脚の汗までたどり着けなかったな……。
早速、布団で光が遮断された薄闇の中でも映える、彼女の太ももに取り掛かった。

まずは太もも。健康的で美しく、且つ程よく肉付きのいい。とっても美味しそうな太ももを一舐め。
ピクッ、と反応が返ってきた。前面を手でさすりながら余すところなく舐めあげる。
小刻みに震えているようだ。

僕は気にせずに片方の脚を持ち上げた。
彼女の足首を肩にかけ膝を少し曲げて、片方の手で脛を押さえ先ほどまで舐めあげた太ももをもう一方の手で押さえて、裏ももをネットリと舐めることにした。
均整のとれた白磁のようなもも。舐める度にくすぐったそうに身じろぎし、僕の攻めから解放されたそうにするが、僕の手がそれをさせない。
ブルマからはみ出たお尻と脚の境目からじっくりと舐めあげる。
程よく筋肉が付いているので、僕が彼女の足先を伸ばしてあげるとピンと筋が伸びる。伸びた筋に沿って舌を這わせる。
そして脚を弛ませてあげる。そうすると今度は柔らかい部分が楽しめる。そこを唇で甘噛みするように挟んではチロチロと舌で舐める。
ジットリと湿ってきた。そうやって何度か膝の裏まで往復していると、フワッと僕の理性を溶かす濃い香りが漂ってきた。

まだ片方の太ももしか味わっていない。この空気を吸い続けてしまえば我慢できなくなる。換気しなくちゃ。

もう布団は邪魔でしかない。彼女の反応を楽しみたくて布団を剥ぎ取った。

まだ眠った振りをしている。目は閉じられたままだが、ほのかに赤みを帯びた頬が僕を意地悪にさせる。
「仕方ないな……」
そう呟いてもう片方の脚も同様に舐める。ただし、先ほど綺麗にした脚はまだ肩にかけられている。
僕の双肩にかかる重み。
あられもない格好をした彼女――さらに頬が赤くなっている。

いい加減起きればいいのに……それとも、もっとして欲しいから起きないのかな?
肩に両足をかけたことによって少し腰が浮く。その腰を支えるように僕は両手を滑り込ませて更に持ち上げた。

膝頭を舐めつつ、徐々に内ももの方へと降下する。
少しずつ少しずつ……まるでカタツムリが這うようにゆっくり、だが確実にテラテラとした足跡を残しながら、蜜を求める。
歩みはカタツムリのようだが、その進路は一定ではない。まるで蟻が餌を求めて彷徨うように、蛇行しつつ確実に近づいていく。


僕の嗅覚――蜜を求める蝶のように鋭敏なそれに頼って目を閉じる。

目的地まであと半分――僕の頭に割り込まれた脚に力が入った。
すこし締め付けてきた。この程度じゃ何の足止めにもならない。

さっきから喉がカラカラだ。この渇きを癒すには、汗程度じゃダメ。唇を湿らせるのが限界だ。
僕が求めるオアシスはもう半分も行けばたどり着ける。

あと三分の一――はっきりと頭に覚える痛み。だけど僕を止められる程じゃない。
これ以上の前進は困難なように思えるけど、僕は決して諦めない。
彼女を支えていた両手を更に引き寄せた。

グッと色濃く漂う芳香。もう僕の頭の中にここが学校で、今は授業中、それにいつ教諭が帰ってくるかもしれない、なんてことは微塵も残っていなかった。
あと少し――僕の両手はすでに彼女の太ももを握り締めている。もう少し――――。

その時、グッと抵抗が増した。

僕の顔を遠ざけようと彼女が身体を起こしつつ、その両の掌を僕のまぶたに押し当ててきた。
彼女が起き上がったせいで、自然前のめりになる。

今日だけでどれだけお預けを食らったと――我慢できずに押し切ろうとすると、僕を見る彼女の切なそうな目が、僕の動きを一瞬止めた。
その一瞬で僕の頭はオアシスから遠ざかり、閉じられた脚はまるで難攻不落の城のようで。
すぐさま、顔を赤くして僕を睨み付けてくる彼女を見上げた。

今の僕は、餌をお預けされた子犬のようだと自分でも思った。

だから代わりの潤いを求めて、彼女が何か文句を言おうとする前にその唇を塞いだ。
前のめりの位置からバネを使い、それこそ猟犬が獲物に飛び掛るように彼女を押し倒した。

目は驚きに見開かれてはいるが、同時にその目は僅かな怒りと悦びの色を有しており。
僕はこれ以上抵抗されないように、両手で彼女の両手首を押さえ、口内を舌で蹂躙した。

寝起きだからか、それとも緊張からか、口の中は予想外に渇いていて、僕は必死で水脈を探った。


最初は驚きで固まっていた舌も、僕の無遠慮な猛攻に次第に反撃を始め、湧き水のように少しずつ唾液が溢れてきた。
僕はそれを舌で掬って、あるいは絡めながら飲み干していく。時折彼女の舌が僕に運んでくれたりもする。

ふと焦点のあっていなかった目を凝らしてみると、彼女の目には既に怒りはなく、悦びとほんの少しの諦めが見て取れた。
僕が手首を解放してあげると、彼女の手が僕の背中に回り、強く抱きしめてきた。
だから僕もお返しに、手を彼女とベッドの間に潜り込ませ強く抱きしめた。

抱きしめながらも僕は失われた水分を求め、さらに唇を押し付けた。同時にどうしようもないほど彼女が欲しくて腰をすり寄せた。
すると、彼女もオズオズと僕に身体をすり寄せてきた。

もう我慢する必要はない――そう結論付けて強く唇を吸った。

その時、僕の高等部に何かが当たった。それは跳ね返って僕らのすぐ脇に落ちた。
一体何がと思ったが、顔はそのまま目だけをそちらにやると、ピシッという音が聞こえそうなくらい驚きで固まってしまった。
僕に当たったモノ――それは僕らがよく使うゴム製の、その、いわゆるコンドームだ。
そして飛んできた方を慌てて振り返ると……つい先ほど顔を合わせた養護教諭が、あきれた顔で立っていた。

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最終更新:2012年08月10日 18:40
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