Sent to Hope

「これは私達"未来機関"からのメッセージよ」

白で統一された室内。
その中央に一人佇む女性。

「あなた達は人が築いた歴史を淘汰し、人々の暮らしを蹂躙し、希望を持った人達を絶望させてくれたわね……」

"超高校級の探偵"と呼ばれた彼女の目の前には一台のビデオカメラ。
緊張の"き"の字もなく、霧切さんは淡々と語る。

「けれど、"超高校級の絶望"を敬愛するあなた達がいつまでもマジョリティでいられる保障はないわ。そう、私達には"彼"がいるのですもの」

その一言と共に僕の立っている位置にスポットライトが射される。
そして僕の目の前にも霧切さんと同じように一台のビデオカメラ。

「は、はじめまして、苗木誠です」

霧切さんとは全く異なり、僕はガチガチに緊張しているのだった。
自分の名前を噛まなかっただけでも上出来な方だ。

「"超高校級の希望"って呼ばれた僕で「カットだ」……す」

僕の声を割り込む一言と共にスポットライトは消え、スタジオの照明が点灯される。
そのスタジオの隅でメガホンを持った十神君が忌々しそうに舌打ちをした音を聞いた。


~ Sent to Hope ~


江ノ島盾子亡き今も、モノクマ暴徒のように"超高校級の絶望"の残党を名乗る連中は絶えない。
今日も今日とて、テレビには僕らのコロシアイ学園生活の映像を延々と流している。
それを見兼ねた未来機関は彼らに宣戦布告するように電波ジャック返しをしてビデオメッセージを送ろうという指令を出してきた。

「苗木、これは絶望の連中に対する宣戦布告であって、親交を目的としたメッセージじゃないんだぞ?」
「それはわかっているんだけどさ……。啖呵って僕にはやっぱり切れないよ」
「いいから宣戦布告だ!」

総合監督の十神君は僕の反論に聞く耳を持たず、言いたいことだけを言ってロッキングチェアに腰掛けたのだった。
メイク係として同行した朝日奈さんと小休止していた霧切さんに啖呵を切るにはどうすればいいか相談することにした。

「ねぇ、霧切さん……」
「どうしたの、苗木君?」
「どうかした苗木?」
「やっぱり僕、啖呵を切るのって苦手みたいでさ。霧切さん、何かコツとかないかな?」

モノクマ相手に堂々と啖呵を切れた霧切さんのことだ。
何かアドバイスの一つや二つ貰えるはず。

「あの時のように交渉するわけでもないのだし、言いたいことを堂々と言え、としかアドバイスはあげられないわ」
「だったら僕じゃなくて十神君が宣言すればいい話じゃないのかな?」
「十神じゃダメダメ。あいつじゃ"かませメガネ"って扱われて小物臭がするから却下されたみたいだよ?」
「だから監督役なんだ……」
「聞こえているぞ、お前達っ!」
「「すいませんでしたー!」」

しかし堂々と言え、か――。
学級裁判のように真実を追究するわけでもないのに、一人で堂々とするのは少々心細いな。

「二人して別々に撮影するより、隣に霧切さんがいてくれた方が心強いんだけどなぁ……」
「演出の変更なら私じゃなく監督の十神君に相談しなさい」
「そうだけどさ、学級裁判の時だって僕ら二人で真実を追求していた感じで言えばインパクトがあると思うんだよね」
「私は構わないけど苗木君はきちんと言えるの?」
「うん……。見ている人に希望を与えるつもりでメッセージを贈るよ」
「テレビを視聴しているのは絶望している人達なのに?」
「それでもやっぱり、僕は絶望している人達すべてが悪い人って一括りには出来ないよ」
「お人好しの苗木君らしい答えね……。いいわ、私もその話に乗らせて」
「ありがとう、霧切さん」
「やるからには完璧にしましょう、いいわね?」

そして二人で十神君に演出の変更を打診した。
渋々ながらも聞き入れてもらい、"やるからには一回で決めろ"とGoサインをもらったのだった。

―――――

「これは私達"未来機関"からのメッセージよ」

白で統一された室内。
その中央に一人佇む女性。
その隣に僕も立ち、精神を集中させる。

「全ては希望溢れる未来のために……。僕らはこの言弾を贈ります」

霧切さんが隣にいるだけで、不思議と緊張しない自分がいた。

「これを見ている皆さん、目の前の絶望から目を背けないで」
「そして、その絶望を克服してほしいんだ」

僕と霧切さん、二人で言弾を紡いでいく。
螺旋を描いて真っ直ぐに貫く弾丸のように――!

「僕達だけが希望を持っているとは限らない。みんなの中にだって希望の種はあるんだ」
「だから私達は諦めない。あなた達が何度絶望させようと私達は屈しないわ」
「何度だって立ち上がってみせる。……っ!」

気づけば右手を握られる感触。
隣を見ると霧切さんが不敵に微笑んでいた。
僕も釣られて微笑み、カメラを真正面から睨んだ。


「「希望は前に進むから!」」


レンズを江ノ島盾子に見立てて、もう片方の手で追及するように指を差したのだった。
そのすぐ後に小気味よく響くカチンコの音。


「カット。出来るなら一度で決めろ、愚民め……」
「二人共、息ピッタリだったね!」

十神君と朝日奈さんも納得の出来だったようだ――。

「ほら、苗木君。いつまで手を握っているの?」
「あ、ごめん……」

申し訳なさそうに繋いでいた手が離れる。

「すぐに映像を編集しないと後の工程に響くわ」
「編集の次は新生アルターエゴの試運転も兼ねた電波ジャックもあるしね」


そうだ、僕たちの戦いはこれからなんだ――!
足早に僕らは撮影スタジオを後にするのだった。

―――――

『希望は前に進むから!』


テレビの点灯が照明代わりの荒れ果てた部屋で幽鬼のように佇む青年がいた。
おもむろに左手を前に突き出し、左人差し指の赤い付け爪はテレビの中の少年を捉える。
その少年を凝視しながらこう言った。


「それは違うよ」


同じ言葉でありながら、"超高校級の希望"の少年が言うような矛盾を撃ち抜く弾丸とは異なり、テレビの前にいる青年からは異質の言弾を発射していた。
どこまでも執拗に絡みつく蛇蝎(だかつ)のように――。
それでいて、死ぬまで蝕む猛毒のように――。





元ネタ

ttp://www.youtube.com/watch?v=zc6-BC9V6Po

流れているBGMの曲名が「Sent To Destroy」と妹様っぽいけど。


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