超高校級の不運が絶望学園を卒業するまで超高校級の探偵と何があったのか問い詰めても口を噤む理由

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"超高校級の絶望的おしおき"を見届けた僕らは一言も声を発さずエレベーターに乗り、学級裁判場を後にした。
制服の右ポケットに入れた脱出スイッチの感触を確かめながらエレベーターの壁に寄り掛かる。

疲れた。
兎に角、疲れた。

超高校級の絶望に勝ったことで勝利の雄たけびを吼える気もなかった。
死んでしまった僕らの仲間達が戻ってくるわけもない。
それでも前に進むと誓ったけれど、今は少しでも休みたくて仕方なかった。

「ほら、苗木。一階に着いたよ」
「あ、ごめん……」

ボーっとしていたらいつの間にかロビーに到着していた。
朝日奈さんに急かされて出ると同時にエレベーターの扉が閉まる。
もう二度とここに足を踏み入れることはないとわかると、どこか後ろ髪を引かれるような気分になる。
何度も潜り抜けた命がけの学級裁判を僕は記憶に留め続けることは出来るだろうか――。

―――――

夜も遅いということで、昼12時頃を目安に食堂に集合して脱出の準備をするという十神君の提案に同意して解散となった。
フラフラとした足取りでドアの鍵を開け、自室に入る。
そのままベッドに倒れ目を閉じる。

「…………………くさっ!」

この部屋、臭うよ! むしろ、僕が臭うよ!
――って、そういえばゴミ捨て場から学級裁判に至ったんだっけ。
着替える時間も惜しいからそのまま捜査して学園内を走り回ったし。
まぁ、今の今まですっかり忘れてたよ、自分の体の臭ささに。

「夜時間だしシャワーも無理だよね……」

かくなる上は大浴場しかない!
あの広い浴槽にダイブして垢という垢、全て清めたい。
鼻を突く不快な臭いを石鹸の匂いに変えたい。
そんな欲望が僕の中でマグマのように噴きあがる。

気づいたら脱衣場に立っていた。
服を脱ぎ、備品の手ぬぐいを肩にかける。

そしてお風呂に入った後は服をランドリーで洗濯させよう。
乾燥させるまでの間は自販機の飲み物で火照ったお風呂上りの体に爽快感をもたらそう。
自販機に僕の好きなアンパサ・いちご味がないのが悔やまれるけど、今はこの際だから何でもいいや。
最後はふかふかベッドにダイ「ぶるぅあぁぁぁぁっ!!!」

浴室のドアノブに手を掛けたのはいいけど、僕が引くよりも早くドアが押し出され直撃し吹っ飛んでしまった。
受身なんてとれるわけもなく、頭と背中を床にぶつける。
頭がチクチクするけど、コブになってないだろうか――?

「あいたたたた……「苗木君? ……っ!?」って、霧切さんっ!?」

見上げる形になってしまったが、扉の前にはバスタオルを巻いた霧切さんの姿。
ホコホコと湯気が舞うのだから僕より先にお風呂に入っていたのだろう。

「どうしたのさ、霧切さん。さっきからボーッと固まっちゃって?」
「……苗木君、出来れば隠して欲しいのだけど……」
「へ? 隠す?」
「あなたの……股間を」

入浴したことで火照った肌の霧切さんが茹蛸になるくらい真っ赤な顔で指摘したのだった。
指を差された先の場所は本来、肩にかけた手ぬぐいがカバーするはずだった。
それがないのだから――

「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

その事実に気づいた僕の脳は悲鳴をあげることしかできなかった。
年頃の女の子の前で"パカー"と、恥ずかしい姿を僕は晒してしまったのだから――。


~ 超高校級の不運が絶望学園を卒業するまで超高校級の探偵と何があったのか問い詰めても口を噤む理由 ~


「うぅ、あんな姿を中継されたからもうお婿にいけない……」

カポーン、と洗面器に水滴が落ちる音と共に僕のつぶやきが漏れる。
父さん、母さん、それに妹。ついでに苗木家のご先祖様――。
長男である僕があるまじき醜態を世間に晒してしまったせいで一族の系譜が絶たれそうです。

「恐らく監視カメラの方は機能が止まっている筈よ」
「えっ、それ本当なの?」
「撮影している時に点灯する赤いランプが今は点いてないわ」
「あ、本当だ……」

視線を湯船から天井に設置している監視カメラに移す。
どうやら生命維持に関わるような箇所以外の電力供給は断たれているようだ。
となると、目撃者は隣にいる霧切さんだけになる。

「霧切さん……。素朴な疑問なんだけど、なんでまたお風呂に入っているのさ?」
「それは……。そう、苗木君の監視よ」
「監視? 僕の?」
「あなたがショックのあまり入水自殺しないかを監視するためにもう一度入っているの」
「そんな大袈裟な……」

確かに恥ずかしい姿を見られて涙目で放心状態だった僕だけど。
そんな僕を霧切さんは露出狂の変態として罵倒やオシオキするわけもなく、ただ僕の肩にかけていた手ぬぐいを腰に巻いてくれたのだった。
そして僕の手を取り、先導するように大浴場の湯船に浸からせて自分も隣に腰掛けたのだった。
湯船に浸かる前に掛け湯をしなきゃならないとか、タオルを巻いたまま浸かっちゃいけないっていうマナーもあるけど、この際目を瞑ることにする。

「あんな危うい状態の苗木君をほっとくと何を仕出かすか予想できないわ」
「それはわかったけれど……湯当たりとかしない? 大丈夫?」
「そんな気遣い不要よ、苗木君の癖に生意気ね」
「わぷっ」

そういって僕の頭を掴み、首まで湯船に浸からせてくる霧切さんだった。

「それに……家族の候補先なら私の家があるじゃない」
「えっ!?」

今その話題を再び持ち出すの!?
事件が起きる前に霧切さんと一緒に過ごす時間があったけど、その時に手袋の中を見せる云々で家族以外には見せないって話をしていたっけ。
でも最後の学級裁判で惜しげもなく手袋の中身を晒した霧切さんだったけど――。

「でもごめん。霧切さん……」
「えっ……?」
「手袋の中身を見せる人は家族のような人にしか見せないって誓っているのに、全国中継で見せる羽目にさせちゃって……」
「あぁ、そのことね。いいの……気にしてないから」
「きっと中継を見ていた人の中に霧切さんの火傷を見ても怖がらなかった人がいると思うんだ。その中から霧切さんの家族候補が見つかるといいガボボボボボボ!!」
「苗木君、全身くまなく浸からないと臭いが取れないから手伝ってあげるわ」

そう言って今度は頭の方まで湯船に沈めてくるじゃないか!
ひぐぅ! 僕、逝っちゃうよぉ!

「ぶはぁ! ……ゲホッゲホッ!」

霧切さんの拘束が緩み、すかさず湯船から顔を浮かばせる。
湯気に混じった酸素を吸い、苦しかった肺の機能が戻ってきた。

そのまま霧切さんから逃げるように湯船から洗面台に移動する。
洗面椅子に腰掛けて頭と体を洗うためだ。
鏡越しに霧切さんの様子を見ると一瞬目が合ったけど、すぐに後ろを向いてじっと湯船に浸かる姿を確認した。

軽くシャワーで髪をすすぎ、備え付けのシャンプーを手に取り髪を洗うことにする。
最初は泡立ちが悪かったけど、次第に髪の毛にはシャンプーの泡が占めるようになった。
そして洗面器に溜めたお湯を頭から被るようにして洗い流した。
次は身体を洗おうと垢すりに手を伸ばそうとした矢先のことだった。

「背中の方は私が洗ってあげるわ」
「き、霧切さん!?」

いつの間にか僕の背後にいた霧切さんが垢すりを手にボディーソープを垂らし泡立てた後、僕の背中をこするのだった。

「言葉だけでは説得力が足りないから行動でも感謝を示すわ。ありがとう……苗木君」
「霧切さん……」

何について"ありがとう"を指すのか断定するのが難しい。
けれど、僕も同じように言わないと駄目な気がする。

「こちらこそ、ありがとう。霧切さん……」

鏡越しに見つめていることに気づいたのか、霧切さんも鏡を見てやわらかに微笑んでくれた。
こんな僕を励ましてくれてありがとう――。
ゴミ捨て場から僕を助けに来てくれてありがとう――。
僕を"超高校級の希望"と呼んでくれてありがとう――。
他にも色んな気持ちが含まれているけど、シンプルに5文字の言葉で霧切さんに伝えることにした。

ふと、霧切さんが何かに気づいたようで僕の背中を洗っていた手が一瞬止まった。

「苗木君、それ……」
「あ、これ? いつものことだよ。気にしないで」
「気づいたらそこだけ真っ直ぐに天を衝くんですもの。驚かないわけがないわ」
「触ってみる?」
「え? いいの……?」
「気になっているみたいだから」
「じゃあお言葉に甘えて……。他に比べて異質な感触ね。すごく、硬い……」
「そうでしょう? ここだけは何か別の芯が仕込まれているんじゃないかっていうくらい硬いんだよね。……僕の癖っ毛」
「癖っ毛というよりアンテナと呼んだ方が良さそうね」
「僕もその意見に賛成だね」

二人してクスクス笑う。
あれ、もしかしてエッチな会話をしていると思った――?
そして前の方は僕自身が洗うことにして全身綺麗になった。


「私は先に上がるけど、一人で大丈夫?」
「うん、わかった。着替えが済んだら一声掛けてね」

そういってバスタオルに包まれた霧切さんの姿を見送った。
再び湯船に浸かっていると脱衣場を繋ぐ扉が開かれ、顔だけを出した霧切さんと目が合った。

脱衣場に戻ると霧切さん制服姿でスツールに腰掛け、ドライヤーで髪を乾かしていた。
髪を乾かすのに集中しているのか鏡と睨めっこしている霧切さんに気づかれないよう大判のバスタオルで身体の水気を拭いてから腰に巻く。
下着とズボンを身につけ、Tシャツだけを羽織った状態で霧切さんの隣のスツールに腰掛けた。
そして同じようにドライヤーのスイッチを入れて自分の髪を乾かす。
髪を乾かしている最中、何度も欠伸が出てしまう。

「これが終わったらお互い部屋に戻って休みましょう」
「あ、僕はこの後ランドリーで服を洗うから先に戻ってていいよ」
「……その調子じゃランドリーで寝てしまうわ。洗濯は起きてから一緒にしましょう」
「その方がいいかも……」
「明日は集合の1時間前に起きるようにしましょう」
「僕、起きられないかも……」
「だったら私が起こしに行くわ。部屋の鍵を開けておいてくれる?」
「うん、わかった。もう黒幕が押し入ることもないだろうし開けておくね」

そしてお互いの個室の前に立つ。

「おやすみ、霧切さん」
「おやすみなさい、苗木君」

挨拶をしてから部屋に入りTシャツとパンツ一丁姿で布団に潜る。
入浴で暖まった体と冷たいシーツの感触がくすぐったかったけど、すぐに眠気が押し寄せてきた。
僕はそのまま睡魔に身を委ねることにしたのだった――。


―――――


何か身体を揺らされている感じがしてボンヤリと意識を取り戻した。
すると、聞き覚えのある声が聞こえた。

「苗木君、起きて。約束の時間よ」
「うーん、あと10分だけ……」
「駄目よ。起きなさい、苗木君」

掛け布団が一瞬でめくられシーツに包まれて暖かいと感じた体がたちまち寒さで震える。
身を縮こませるようにしていると一瞬の浮遊感、すぐに堅い感触が身体を駆け巡る。

「ぁいったあぁ!」
「大丈夫、苗木君? ……ッ!?」

どうにも僕は柔らかいベッドのマットから堅い床へと転落してしまったようだ。
頭の鈍い痛みを和らげるように手を擦る。
目を開ければ見上げるような形の霧切さんと目が合った。

「どうしたのさ、霧切さん。さっきからボーッと固まっちゃって?」
「……苗木君、出来れば隠して欲しいのだけど……」
「へ? 隠す?」
「あなたの……股間を」

脱衣場での遣り取りと同じだなぁと思い出した途端、真っ赤な顔の霧切さんとは対照的に僕の顔は青褪めてしまうのだった。 


「ご、ごめん霧切さん! また晒してしまいました――ッ!!」

"パカー"再び――!
今度はパンツを履いていたけれど、男の生理現象を隠し通せる訳もなかった。




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