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日直の仕事で授業に使う資料を図書室から取りにいく途中のことだった。


「これも因果律の運命か、死を告げる堕天使よ……!」

教室の廊下に立っている一人の生徒が僕らを、正確には霧切さんをジッと見つめていた。
――両手に水の入ったバケツを持たされながら。


~ ガンダム、廊下に立つ! ~


小声で"知り合いなの?"と聞いてみると、霧切さんは首を横に振る。

「死を告げる堕天使よ、貴様の能力が本物かどうか俺様が直々に試してやろう……。ジャッジメントだ!」

素通りしようと思ったけど僕らの前に立ちはだかるのだった。
こっちは急いでいるっていうのに――。

「……その妙な呼び名をやめてもらえないかしら?」
「フッ、何をほざくかと思いきや……。貴様ら一族のみに与えられた能力、俺様の前で隠し通せるとでも思ったか?」
「一つ確認するけど、その情報の出処はどこかしら?」
「この俺様を学園という堅牢な煉獄に招き入れた長(おさ)、これだけ言えばわかるだろう?」
「……つまり学園長ってことか」
「彼奴は俺様のブログ"わくわく飼育日誌"を設立した際に一族の秘伝を教えてくれたんでなぁ!」
「そう、あの人はどこまで一族の顔に泥を塗れば気が済むのか一度"お話"しなきゃならないようね……」

あのぅ、霧切さん――?
学園長と"お話"するつもりなのに、どうして握り拳を作って指をボキボキ鳴らすんですかぁ!?

しかし、"わくわく飼育日誌"っていうブログ――。
僕もネットで見たことあるけど、ポップでかわいいデザインのサイトだったけどこの人が運営しているの?!

「あの、つかぬことをお聞きしますが君は「この俺様こそ不滅の煉獄にして黄昏を征きし者、姓は田中、名は眼蛇夢だ!」……そうですか」

何だか山田君よりアクが濃いなぁ――。
やっぱり、希望ヶ峰学園に入学する高校生って中身の方まで規格外なのか。


そう考えていると、田中君が僕と霧切さんを交互に見てニヤリと笑みを浮かべた。

「ほぅ……。貴様も使い魔を使役しているとなると、天界ではかなりの位に付いていたらしいな」
「お生憎様。私は隣の彼のお手伝いとして同行しているの。……それより早くどいてもらえるかしら?」
「なん……だと……? 貴様のような堕天使を使役する奴がいたとは!? さてはそこの男、冴えない姿は世を忍ぶ仮の姿で実はルシファーだったわけだな!」

うわっ、今度は僕に矛先を変えてきたぞ!?

「いや、僕の場合は霧切さんの探偵助手っていうケースがほとんどだから」
「ほぅ……。そこまで主従関係が深いというなら我が四天王と勝負しようじゃないか!」

すると、田中君が巻いているストールの中からピョコリと4匹の動物が出てきた。

「あ、ハムスターだ。かわいい」
「気安く触るな、怪我だけでは済まんぞ?」
「……苗木君に撫でられてご満悦のように見えるんだけど?」
「フェイクに決まっているだろう愚か者めっ! 我が四天王は貴様の指を噛み切ろうと虎視眈々と狙っているのだ!」

その割にはいつまでたっても指を噛まれることはなかった。
鶴の件といい、動物からすれば僕には敵意が感じられないらしい。

「拍子抜けね。ただのハムスターらしく隅っこでも走ってひまわりの種でもかじってなさい」
「馬鹿者! 破壊神暗黒四天王は隅っこなど走らず堂々と道の真ん中を走るように教育しているわ!」
「それは危険ね。ついうっかり踏んでしまうところだわ」
「……って、言っている傍から踏んでるじゃん!?」
「サンDィィィィィッ!!!」

霧切さんの足元には一匹のハムスターが挟まっていたのだった。
田中君が霧切さんに跪くような光景にも見えるけど、両手で気絶しているハムスターを掬い上げていた。


「フハハハハハハッ!! 遊びは終わりだ! 悔いて、詫びろっ! 貴様の命でなっ!!」

ゆっくりと立ち上がった田中君の背後から禍々しいオーラが浮き立つ。
そしてハムスター達の目も怪しく光りだした。

「苗木君、危険よ。後ろに下がって……」
「霧切さん……。うん、わかった」

何か危険な予感を察知したのか、霧切さんが一歩前に出て僕を守るように立ちふさがる。
霧切さんの肩にそっとしがみつくように肩越しから田中君の様子を観察する。

「第666拘束機関解放、次元干渉虚数方陣展開っ! コードI・U・F<インフィニティ・アンリミテッド・フレ「ちょっと田中君!? 廊下に立っても騒ぐなんて反省の色がピンボケだよ!」……すいません」

後ろの扉から顔を出した女子生徒、もとい田中君のクラスメイトが注意したことで禍々しい空気は一瞬にして払われた。
田中君も顔半分をストールで隠し、耳まで真っ赤にしている。
羞恥心があるならあんな風に叫ばなくてもよかったのに――。


「いつまでここにいるつもりだ貴様ら……早くこの場を去れ! この俺様が力を抑えられている内に……さっさと失せろ!」

そう言って田中君は包帯で巻かれた左腕を苦しそうに押さえて僕らを一喝した。
うん、そういう設定なんだね。やっとわかった。


「予想外に時間を費やしてしまったわ。急ぎましょう、苗木君」
「わっ、ちょっと! 霧切さん!?」

霧切さんに腕を引っ張られる形で図書室まで走っていくことになった――。


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