kk11_115-117

結果論から言えば、無事に依頼を成し遂げました。
その代償に僕が怪我をしました。


~ 看病争奪戦 ~


目を開けると照明の明るさで眩しく感じた。

「うゆぅ……意識が戻ってよかったですぅ」

その声のする方向に顔を向けると白いエプロンドレスを着た女の子が心配そうな顔で僕を見ていた。
姿から察するにここは病室で、目の前の人は看護士さんってところだろうか?

「えっと、ここって病院かな……?」
「いいえ。ここは学園の保健室よ」
「霧切さん……」

僕の問いに看護士さんとは反対側の方から聞き慣れた凛々しい声が聞こえた。
顔を向けると僕の左手をそっと握り続けていて、顔には安堵の表情が浮かんでいた。
ポーカーフェイスで何を考えているかわからない普段の姿とは異なり、どこか新鮮に感じる。

「あれ、どうして僕は保健室で横になっていたんだっけ?」
「それは依頼で留学生のソニア王女が誘拐されて救出した後に「お腹を銃弾で撃ち抜かれて重傷を負ったんですぅ」……そういうわけよ」

今にも泣きそうな顔の金髪の女性。
そして困惑顔の霧切さんが駆け寄ってくる光景がフラッシュバックする。

そうだ。学園長の依頼で交換留学生として来日したノヴォセリック王国の王女様が誘拐され、事件が表沙汰になる前に救出してほしいという依頼を受けたんだった。
霧切さんの推理のおかげで迅速に監禁場所を割り出し、王女様を救出したのはいいけど後ろの方から大きな音が聞こえて。
そしたらお腹の中が急に熱くなるような痛みを訴え、そのまま意識を手放したんだっけ――。

「ソニア王女ってあれからどうなったの……?」
「彼女は無事よ。今は学園の寄宿舎に入寮しているわ」
「依頼の方は……「事件は大事になる前に解決したわ。あなたが心配することはないの」……そう、よかった」

安心した途端、眠気が襲ってきたのだった。
しかし、お腹を撃たれて重症か。全治何ヶ月なんだろう――?

「あ、あの苗木さん……? え、えっと今日は一晩ここで安静にしてもらって明日の朝には自分のお部屋に戻っても大丈夫ですよぉ?」
「えっ! それ本当なの!?」
「ひぅう! ごめんなさい、大声を出させるくらい二人の邪魔をしちゃってぇ……!」
「いや、そうじゃなくて……。僕は重傷な筈なのに明日の朝には退院とかにわかに信じられなくてさ」
「はいぃ本当ですぅ。苗木さんは先ほどまで学園最新の医療カプセルに入ってコポコポ治療されていたんですよぉ……? だから私のいうことを信じられないからってぶたないでくださぁい!」
「いや、流石にぶたないよ……」

苦笑いをしながら掛け布団をめくり、撃たれたというお腹周りを見てみる。
銃創どころか傷一つなく、本当に僕が撃たれたのか怪しくなるくらい無傷の体がそこにあった。
何だか希望ヶ峰学園の医療設備は漫画の戦闘民族を短時間で治療できるくらいの技術があるのかな――?

「それとよく眠れるように痛み止めのおくしゅりを飲んでくださいね……?」
「あ、はい。わかりました」
「ふゆぅ? おくしゅり、苦手でしゅか?」
「いや、そういうわけでは……」
「そうですかぁ……良かったぁ……」

そういって看護士さん、左胸のネームプレートに書かれた"保健委員・罪木 蜜柑"もとい罪木さんが水差しからコップに水を移す。
そして錠剤の薬を僕に渡すのではなく自分の口に入れた。
何をしているんだろう、と頭の中で"?"を浮かべていたら罪木さんは一息でコップの水をあおった。
すると口元を手のひらで押さえて、ほっぺたを膨らませた罪木さんが僕の顔に手を添える。

「っ!?」
「な「んむ」……!?」

にするんですか、という続きの言葉が罪木さんの柔らかな唇によって遮られた。
ふうう、と水が口の中に流し込まれ、自然にそれを飲み込んでしまう。

「……んぐ、んぐっ」

味覚だけで考えればただの水と苦い薬であることは分かるけど、やけに美味しく感じられるのは何故だろう――?
ちゅぽん、という擬音が聞こえるように僕らの唇は銀の糸を垂らしながら離れた。

「……んふ、ん……はぁ、おくしゅり、飲めましたね……?」
「お、おいしかったでしゅ」

気づいたら口調まで移っていた。
顔どころか体中が熱く感じるのは薬の効果だろうか――。
そんな風にボーッとしていたら右頬をバチーン!と張られた。

「痛っ! なにするのさ霧切さんっ!?」
「たかが口移しっていう医療行為じゃない。何よ、デレデレして」

僕をぶった霧切さんはまるで学園長を見るかのように絶対零度の眼差しで見つめていた。
その態度で体中の温度が急激に冷えていくような感覚に襲われた。
女の子と口移しするという出来事は、霧切さんに嫌われたという恐怖感によって悪い思い出に上書きされた。

「……ごめん」
「兎に角、明日の朝には苗木君の着替えを用意しているからここで安静にしてなさい。いいわね?」
「わかった……」

母親に悪戯がバレて罰が悪くなった子供のようにシュンとして、霧切さんの言うことに従う。
保健室から出ていく霧切さんの後ろ姿を見送っていると何故か掛け布団がめくられる。

「ちょ、ちょっと罪木さん!? 何やってるんですか!」

そして罪木さんが僕の布団の中に潜りこんでくるじゃないか!

「苗木さんは血液を消耗したことで基礎体温も低下しているからこうして体を温かくしているんですぅ。さぁ、私を肉布団のように扱って体を温めてくだしゃいね……」
「ぐ、ぐるじぃ……!」

僕の冷え切った体を温めるというより締め落とすくらい強い力で罪木さんは僕を抱きしめてくる。
腹上死って言葉はこういう場面でも当てはまるのかな? ――じゃなくて! 助けて、霧切さん!!

「ダメですよぅ動いちゃあ、くすぐったいですってばぁ……きゃあ!!」

拘束された体が一瞬で解かれるけど、すぐさま別の力で体中を拘束されたのであった。
視界を覆うジャケットとブラウス、髪を触る皮手袋の感触が霧切さんのものだと認識すると途端に顔中が熱くなった。

「苗木君は"私の"助手です。なので助手の看病は私が診ます。罪木さんは他のクランケでも診ていてください」
「でも私、苗木さんの「い・い・わ・ね?」ふえぇん……ごめんなさぁいぃ!」

そう言って涙を浮かべながら罪木さんは保健室から去っていった。
そして訪れる静寂。
さっきビンタをされたら今度は抱きしめられるというアメとムチに僕は混乱してしまう。

「霧切さん……その、ごめ「ごめんなさい、苗木君……」……えっ?」
「あなたを危険な目に遭わせてしまって……」

その言葉で幾分か冷静さを取り戻せた。

「それは……違うよ」
「えっ?」
「霧切さんは以前忠告したじゃないか。探偵の助手である限り、いつか僕の身にも危険が及ぶって……」
「そうね、確かに言ったわ」
「それでも僕は僕の意志で霧切さんの助手として行動したんだ、後悔はしてないよ。それに……」
「それに?」
「やっぱり"超高校級の幸運"って呼ばれる由縁が僕にもやっぱりあるのかな。一命を取り留めることができたし」
「苗木君……」
「僕の方こそ只の医療行為だっていうのに鼻の下伸ばしてデレデレしちゃって……。みっともないよね」
「もういいのよ……。私もついカッとなって頭に血が上ったせいで短絡的になってしまったわけだし」

霧切さんはそっと僕から離れて、保健室の入り口付近にある照明のスイッチを押して消灯する。
ジャケットをハンガーに掛けて再び布団の中に潜り僕を抱き締める。 
僕もおずおずと腰から背中に腕を回し、抱き締めて霧切さんの体温を感じる。

――って、霧切さん? ちょっと強く抱き締め過ぎじゃありませんか?
これが山田君の言っていた"だいしゅきホールド"っていうヤツなのかな?
むしろこれはさば折りじゃないかと――?

大好きなぬいぐるみを抱き締めて眠るように、霧切さんは割りと全力で僕を締め上げていったのだった――。


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