ある探偵の個人的悩みからくる憂鬱

あの狂気の学園から脱出して早1日目が終わろうとしている。
冷たく重い扉を開けた先に私達を待っていたのは、数々の事実であり
そのことは私たち皆に少なからずショックを与えていた。
しかし、だからといって私達は立ち止まるわけには行かない。
私たちは希望であり、前に進むことが死んでいった仲間たちに報いることになるのだから。
そうして日が暮れるまで外の有様をひと通り把握した後、私達は今や出迎える人がいなくなってしまった
無人のビジネスホテルにて今日の疲れを癒している。
設備自体は学園に比べてひどく劣化しているものの、監視カメラがないというだけで、
ここまで気分が違ってくるものかと驚いた。
やはりモノクマの姿を連想せずに済むというのは、ひと際の開放感を与えてくれているらしい。
だが、そんな気分も先程の夕食での会話を思い出すと吹き飛んでしまう。
あの忌々しい殺人ゲームを退けたというのに、どうしてこんな気分になってしまうのか。
別に誰が悪いというわけでもないのに。


「けど驚いたよね、まさか2年間も記憶が消されてたなんて」

夕食のため、1Fにあるダイニングに集まり今後をどうするかと話ながら食事をとっていた時
朝比奈さんがそう新たな話題を切り出した。

「そうだよね、学園での2年間だけ消すなんてどうやってたんだろう」
「んなの決まってる、キャトルミューティレーションだべ。きっと寝てた俺っちたちの頭の中をかき回したんだ。
 絶望の正体は地球外からきたグレイ型宇宙人の陰謀なんだべ!」
「馬鹿馬鹿しい、直接俺達の頭を弄れるならあんな催しをわざわざする必要がない。……いや、奴ならやりかねんか。
 とにかく奴も言っていたが方法などどうでもいい、俺達は記憶を失っているその事実だけで十分だ。
 それよりも話すことは山とある、くだらないことで時間を使うな。」

男性陣たちが口々に反応していく。ちなみに腐川さんは先ほどホテルに入った時に

「白夜樣と同じホテルなんて!」

とナニを想像したのか、鼻血を垂らしながら気絶してそのまま眠っている。
下手に起こしてジェノサイダー翔が目覚められても厄介なので、当然のように放置している

「まあ方法は置いとくとしても、学生時代なにがあったのかというのは気にはなるわね。」

実際のとこは、入学前までの記憶と同じようにそのうち思い出していくのであろうと
推測を立てているのでさほど気にはしてない。
まあ、議論を交わすことで記憶を呼び覚ますきっかけになるかもしれないし、
朝比奈さんの話に私も乗っかることにした。

「いやあ、なにがあったのかも気になるんだけど、2年経ってたという事実がさ、重要なんだよね」

と意外な答えが帰ってきた。記憶より年月の経過が気になるというの?
朝比奈さんはタイプ的に過ぎた時そのものより、思い出のほうを大事にすると思ってたのだけど。。

「へえ、意外だな朝比奈さんがそういう事を言うのって。あ、オリンピックとか大会の関係?」

苗木君もそう思ったのか、推論を交えながら答える。
けど、世の中がこの状況で水泳の競技会が悠長に開かれてるとは思えない。
朝比奈さんがそのことに気づいてないとも思えないのだけれど。

「いやいや、さすがに頭の悪いあたしでも大会どころじゃないてわかってるよ!
 苗木て、実は私のこと馬鹿にしてない?」

と案の定、朝比奈さんが苗木君を責める。
それは馬鹿にしてるんじゃなくて、天然なのよ朝比奈さん。
苗木くんはお人好しで、人一倍気を遣うのだけど時折今のように抜けているところがある。
まあそれは悪いとこではあるけれど、同時に良いとこでもある、と私は密かに思っている。
…………本人には決して言わないけど。



「まあいいや、苗木に悪気ないのはわかってるしね。実は理由があるんだよね。
 ちょっと男子の前で言うのも恥ずかしいんだけどさ」
「え、何だべ?エッチな事か!?そうなんだな!!それなら十神っちと苗木っちは耳を塞ぐべ。
 それなら恥ずかしくないべ」
「ほう、で貴様はどうするんだ?」
「もちろん、俺っちは心清らかで邪な気なんてとうに解脱してるから、聞いても大丈夫だべ」
「アンタが一番聞いてほしくないよ!というか、勝手にエッチなことって決め付けるな!!」

今日何度目かわからない、朝比奈さんのツッコミが綺麗に葉隠君に決まる。
えーと、たしかこれを夫婦漫才というのよね?良く飽きないものね。
そんなに楽しいなら、今度苗木君にやってみようかしら。

「で、その理由はなんなのかしら?十神君じゃないけど時間がもったいなく感じてきたわ」

そろそろ逸れ気味の話題を進めたいと思い、朝比奈さんに話を振る。

「ううごめん、手短に話すよ。あのさ、学園にいる時の私達って、
 自分じゃあ入学したばっかりだと思ってたけど、実際の体は2年経ってたわけだよね?」
「当たり前だ、まあ奴が若返りのクスリでも作ってたというなら話は別だがな。
 そんなわかりきったこと言うとは、やはり貴様は馬鹿か?」
「そうじゃなくて!あのさ、霧切さんも分かると思うけど学園で着替えた時とかにさ、違和感を感じなかった?」
「着替えた時?」

なにか感じたろうか?覚えがない。
一応着替えに盗聴器やセンサーのたぐいが付いてないかチェックはしたが、なにもなかったはず。
この私がなにか見落としてたのだろうか。

「つまり何が言いたいんだ?」
「だ、だから、自分の覚えてたサイズで服を着るときつくて、その疑問も体が2年経っていたからと思えば」
「つまり2年間で太ってたと言いたいんだべな」
「ち、ちがーう!太ってなーい!!きつくなったのは胸とお尻だけで、
 ウェストもさほど変わってないから断じて太ってなーーい!」

顔を真赤に、声を荒らげて朝比奈さんは反論する。
けどウエストも増えてるのね、そういうところはほんと正直な人。

「まったく、本当に時間の無駄だったな。そんなことで一々騒ぐな。」
「まあ、なにか体に異常が起きてたわけじゃなくてよかったじゃない。」

十神君は呆れ果てた顔をし、苗木君はそれを取り繕うと笑顔を作る

「だって、だって、自分の知ってるサイズと実際の体が違ってるんだよ!怖いでしょ!ホラーでしょ!
 ううマジでストレス太り?、とか体に何かされたの?とか心配になるじゃん!!」

と葉隠への反論で感情が高揚したせいか、軽い涙目になりながらも朝比奈さんは言葉を連ねる。
しかし、散々引っ張ってそんなオチか。2年も経てば成長期である私たちの体はいくらでも変化するし、
記憶が欠落してた事実を知った今、大して気にすることではない、と私は一気に興味が失せた。
……そう、次の朝比奈さんの言葉がなければ、失せていたはずだった。



「霧切さんも着替えた時にそう思ったよね!?」

と助け舟を求めようとしたのか、朝比奈さんは私に話を振る。
なにを馬鹿な、そんなことさっきも思ったが一切感じていない

ん?一切"感じていない"?

それは変じゃない?霧切響子。
たしかに変化した事に一々反応するのは、可笑しな事ではあろう。
が、そもそも変化した事自体に気づかないというのも変ではないか?
先程も自分で思ったではないか、高校に入ってから2年も立てば、それ相応に変化はあると。
それこそ、先ほど彼女が言っていたような"部分"は変化しているはずだ。
そして私たちは学生生活の2年間の記憶が消されていたのだ。
ならば朝比奈さん同様に変化に疑問を感じるのも当然のはずだ、それがないのは可笑しい。

いや待て、それ以上考えるな!その先はいけない!!

何かはわからないが、私の超高校級の探偵としての勘が、この思考を止めるべきと警告している。
が、そんな私の葛藤を知ってか知らずか、彼女の無自覚にて無慈悲な言葉が私を貫く。

「霧切さんも最初驚いたでしょ!特に下着っていうかブラがきつくなってるのにはさ。」
「…………ええ、そうね。とても驚いたわ。」
「でしょ!これは男子にはわかんない悩みなの」

もはや開き直ったのか、堂々とブラの話をしだす朝比奈さんにたいして
男性陣はさすがに言葉が出ずに赤くなっている。
そしてそれと対照的に、私の心は青く冷え切っていく。

あれ、私の胸、あれ?

もはや私の頭はある事実を完全に理解している、しかしそれゆえに認められない。
いや、認めてはいけない。それは敗北、そう絶望への敗北だ。
私はあの時、苗木君やみんなに誓ったはずだ、希望を抱いて生きて行くと。
ならばこんな事に負けてたまるものか!



「けれど、そこまで騒ぐほどのことだったかしら。私たちは成長期だし日々体型は変わるものでしょう。
朝比奈さんはスポーツ選手で自身の体調管理に敏感すぎただけじゃないかしら?それより話すことが他にもあるわ」

さあ、早くこの話題を終わらせよう。なんてことのない話、そうただの与太話なのだからこれ以上時間をかける必要もない。

「うう、けどさ、カップが変わってたらさすがに可笑しいと思わない?だって一日で変わる変化じゃないよね?」
「そ、そうねカップが変わってたらさすがに驚くわ。け、けどありえないとは言い切れないわ」

カップが変わってる!?
ただでさえ、どう見ても水泳選手の体つきじゃねーだろ、ていう規格外な脂肪を持っていたくせに、
それがさらに成長していただと。
なんなのこの謎は!この私がまるで推理できない。

「それにズボンとかも履けなくなってたのはさ、ショックだったよね?
 あの時は世界の終りを感じたよ、ウエスト測る時なんてもう死刑台に昇る気持ちだったもん」
「そ、そうね、13階段登るというのはあういうことなのね」

え、なんで死刑台とか出てくるの?その例え変じゃない?
普段ならすくにでも論破するのに、それどころかなんで乗っかってるの私。
というか、
「私は胸だけじゃなくて尻も大きくなってるのよ、どこかの探偵と違ってね!」
なんて言ってるようにも聞こえてきた。
もちろん錯覚だ、幻聴だ、被害妄想だ。
けど可笑しい、いや可笑しいというより狂ってる。
そう、この女の体は狂ってる。でなければ説明がつかない。
だめだ、一刻も早くこの話を終わらさなければ、私の心が耐えられない。

「とにかく!今話さなければならないことは他にもいくらでもあるわ!!とりあえずその話はまた今度ね」

さっきよりもかなり強く、改めて話題の転換を求める。

「う、うんそうだよね。ごめんねみんな、馬鹿な話しちゃって。」

私の強い調子に悪いことをしたと思ったのか朝比奈さんが謝り、次の話題へと移った。
ごめんなさい朝比奈さん、貴方は悪くない。
そう悪いのは真実に耐え切れない私の心。
その後様々なことを話し、今後の大まかな方針を決めた所で夕食会はお開きになった。



割り当てられた部屋に戻ると、習慣である日誌を書いて気分を落ち着かせようとしたのだけど、
先程の事を思い出すたびに、私は不愉快な気分に襲われている。
もちろん、朝比奈さんに悪気があるわけがないし、だれが悪いという話でもない。
ただどうにもならない事実があるだけなのだ。

「そもそもあれだけあるのに、まだ大きくなる方が可笑しいのよ。
 伸び代でいうなら私のほうがまだある筈じゃないの?」

答えなど帰ってくるはずもないのに、ついつい口から愚痴がでてしまう。
けど、ほんとうにこのまま止まってしまうのかしら?
一応サイズ的には貧乳と言われるほどではなく、たぶんそこそこ有るほうだろう。
しかし、ここ止まりと思うと途端に言いようのない不安が出てくる。

「苗木君は、どう思うのかしら」

と自然に言葉が出る。な、なにを言ってるのかしら私は!
だけど、苗木くんもやっぱり大きいほうが好きかしら、好きよね、好きに決まってる。
さっきの夕食の時も、朝比奈さんの話を聞いてた苗木君の顔には
(ま、まだ大きくなってるんだ!)
なんてモノローグがでてたもの。
わかってる、男なんて単純なものだというのは探偵をしていればよく知ること。
口ではなんといっても小さいのより、大きいほうが好きなのだ。
なんだろう、苗木君もそうなのだと思ったら、俄然イライラしてきた。
別に彼が、私の胸のことをどう思うと別に構わないではないか。何をさっきから無駄に意識してるのだろう。

…………けど、苗木君のことだから、この事を知っても馬鹿になどしないのだろうな。
そしてどう反応したものか、と困ってる苗木君の姿が目に浮かんでくる。
そんな困ってる苗木君をからかってもっと困らせるのは、とても楽しそうで魅力的に思える。

「なんだ、いつも通りじゃない。」

そう思うと先程までの気分が嘘のように消えた。
残ったのは明日からどうするかと冷静に考えるいつもの私だ。
そうだ、悩むことなど何も無いのだ。
仮に2年間で成長してなかったとしても明日以降させればいいのだ。
迷信だと小馬鹿にしてた牛乳も飲もう(あるか分からないが)、効く運動があるというならすればいい。
なにもせずに諦めるなど霧切の名を持つ者が、いや霧切響子という人間にはありえない選択肢なのだから。

そうと決まれば今日は早く寝よう。体調管理は一番の基本だ。
それに、なぜか良い夢が見れそうな気がしてきた。
良い夢を見れそうなんて根拠のない、言わば希望の話だ。
当然探偵である私には、らしくない願いだ。
だが、私たちを率いるのは超高校級の希望なのだ。
だったらその仲間である私も希望を願うぐらい、いいじゃないか。

「夢に苗木君がでてきたら、……ちょっと嬉しいかな」

珍しく、気分が高揚しながら私は眠る準備を始める。
こうやって、私の学園を出ての長い一日目が終りを迎えたのだった。


後日、苗木君が見つけてくれた手帳を改めて確認してるとすでに努力していた跡が見つかり、再び私が絶望に屈しかけたり、
朝比奈さんとのやり取りから、目ざとく私の事に気づいたメガネが空気読まずにそのことを暴露して、
不名誉ながら、とある騒動が起こってしまったのはまた別の話


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