kk13_114-119

前回のおさらい!

僕の妹が霧切さんに懐いて、家族候補生として強引に苗木家へ招待した。
いったい、どうなってしまうのか!?

―――――

勝手知ったる我が家の扉を開けると、玄関には母さんがいた。


「たっだいまー!」
「ただいまー」
「おかえりなさい二人共。……あら、そちらの女の子は誠君のお友達かしら?」
「はじめまして、おばさま」
「あらあら、誠君もこんなかわいいお嫁さんを連れてくるなんて隅に置けないわ……」
「ちょっと母さん……! クラスメイトの霧切さんだよ」
「はじめまして、霧切響子です」
「ふふっ、何もないところだけどゆっくりしていってね」
「はい、お邪魔します」

靴を脱ぎ、妹が履き捨てるように脱いだスニーカーもついでに揃えておく。
霧切さんのローファーが僕のスニーカーの隣に並ぶと目配せで階段の左隣にあるリビングに案内する。
リビングに入ると三人掛けのソファに一人座ってテレビを見ている父さんがいた。

「おかえり誠……っと、お客さんもいたか。お見苦しい所を見せてすまない」
「いいえ、お気になさらずに」
「ただいま父さん。こちら、クラスメイトの霧切さん」
「はじめまして、おじさま」
「こちらこそ、誠がお世話になっています」

ペコペコ頭を下げながら父さんは左隣の一人掛けソファに移動して僕らに席を譲る。
僕らがソファに腰掛けると同時に母さんがトレーに二人分の紅茶とお茶請けを載せ、僕らの前に置く。
父さんの隣にあるもう一つの一人掛けのソファに腰掛けると頬に手を添えてニコニコと僕らを眺める。
――正確には霧切さんを眺めていた。

「……おば様、私の顔に何か付いているのでしょうか?」
「あっ、違うの。あの響子ちゃんの成長した姿を見られて嬉しくて」
「えっ……?」
「でも、こうしてまた響子ちゃんがお家に来る日が訪れるなんて。……これも運命かしら?」
「えっ、それどういうことなの……?」

僕らの困惑を余所に母さんは席を離れて、リビングの隅にあるダイヤル式の金庫へ移動した。
暗証番号を入力し開錠して中から保管していたモノを持ち出して席に戻る。


「忘れたの? 小さい頃一度だけ遊んだことがあったじゃない?」

そう言って母さんは一枚の写真を持ってきて僕らに見せてくる。
そこには――


僕の癖っ毛を鷲掴みにして頬っぺたにキスをしている薄紫色の髪をした少女が写っていた。
とても嬉しそうな顔の少女が果たして隣に座る霧切さんと同一人物なのだろうか――?


「……どう見ても幼い頃の私ね。今の今まですっかり忘れていたわ」
「それだけじゃないのよ? ほら、これも見て?」
「なになに、誓約書……?」

差し出された一枚の紙にはこんなことが記されていた。

―――――

誓約書


ぼく、まことはきょうこちゃんをしょーらいおよめさんにします
わたし、きょうこはまこちゃんをしょうらいおむこさんにします


○○年 □□月 △△日


なえぎ まこと
きりぎり きょうこ


―――――

「な、なななななんだべ!?」

文字を書くことを覚えたばかりなのか、平仮名書きで少し読みにくかったけど意味はわかった。
意味がわかった途端、あまりの衝撃に葉隠君の口調になってしまった!
霧切さんに至っては顔が真っ赤になっている!

「それにあなた達、別れ際になると離れ離れになるのが嫌でずっとチュッチュってキスしてばかり。見ているこっちが恥ずかしかったわ……」
「もうやめて! 僕らのライフはゼロよ!」
「なになに~? 何を見ているの……って、懐かしー」
「っ!? お前はこの写真覚えているのか?」

部屋着に着替えた妹が横から覗いていると、どうやら心当たりがあるようなので聞いてみる。

「もっちろん! あの後お姉ちゃんと別れたらお兄ちゃんしばらくショックで塞ぎ込んじゃったじゃん?」
「そんなことがあったんだ……」
「で、お姉ちゃんの代わりにキスしようとしたら"きょうこちゃんじゃないからヤダ"って拗ねるし」
「もういい。お前はそれ以上しゃべるな……」

覚えてないのは当人ばかりほど恐ろしい話なんだとよくわかった。


~ お姉ちゃんだけど、愛さえあれば関係ないよねっ ~


記録・証文・証言という三つの証拠で塗り固められた当時の僕と霧切さんの関係。
その後も出会いのきっかけが霧切さんの母方の実家に里帰り中に偶然出会ったという経緯や、僕の手を引っ張って元気に遊ぶ霧切さんの様子などなど。
そんな思い出話に花を咲かせていたらいつの間にか夕方となり、我が家で晩御飯を食べていくことになった。


「それじゃ、いただきます」
『いただきます』

父さんの号令と共にカセットコンロの上にある鍋の蓋が開かれる。
甘い醤油ダレの香りが食卓を囲む。ちょっと豪勢な食事の定番、すき焼きだ。

「ん……?」

ふと隣に座る霧切さんが小鉢の上にある殻付きの生卵を睨めっこしている。
ひょっとしてすき焼きって初めて食べるのかな――?

「……もしかして霧切さん。生卵の使い方に困っていたりする?」
「え、えぇ……」
「だったら妹の動き見ていてよ」

ちょうど右隣に座る妹が小鉢の縁で卵にヒビを入れる。
パカリと割ってかき混ぜて、肉を掴み溶き卵に絡めてから口に運ぶ――って、お前、肉取り過ぎだろ!?

「……まぁ、あんな感じ」
「へぇ、中々興味深いわ……」

霧切さんも妹の動きを真似るように卵を割って箸でかき混ぜる。
次に一切れの肉を摘み、卵と絡めてから口に運んだ。

「美味しい……」
「ありがとう。いっぱい食べてね」

母さんが鍋を挟んで僕らのやり取りを見ていたのか妙に嬉しそうだ。
僕も肉と豆腐を摘み、舌鼓を打っていると父さんが話しかけてきた。

「ところで誠……。お正月家に帰ってこなかったけど、やっぱり勉強が難しいから帰るのが難しかったのか?」
「あ、いや、そうじゃないよ父さん……。学園の方で新年会が催されてそのお手伝いをしていたんだ」
「お手伝いだって?」
「うん。学園長が帰省しない生徒達を集めてパーッと騒ごうって話になって」
「そうだったのか」
「出席できそうな生徒を一人一人確認したり、会場のセッティングをしていたら連絡入れる暇もなくて。ゴメン……」
「気にするな。それで、新年会は盛り上がったのか?」
「うん。大盛況だったよ」

あのマージャン大会はハードだったなぁと思い出す。
特に狛枝先輩が九蓮宝燈で和了った時は大変だったなぁ――。
滅多に見られない役満というだけに、一説によればそれで和了ったら死ぬっていう迷信があるし。
そしたらその直後に狛枝先輩、心臓麻痺を起こしちゃったのは衝撃だった。
すぐ近くにいた"超高校級の保健委員"の懸命な措置で事なきを得たけど。

「私も参加したけど中々の余興だったわ。……新年早々、あの男を打ち負かすこともできたし」
「……あの男? 誰なんだい?」
「僕と霧切さんで学園長の身包みを剥がすようにすってんてんにさせたんだ。……ほとんど霧切さんがやったけど」
「苗木君、お年玉というものは与えるものではなく奪い取るものと聞いたのだけど?」
「それは違うよっ!」
「なに……?」

いつの間にか聞き役に徹した父さんの様子が一変する。
ニコニコと僕らの話を聞いていた顔が今や仁王像のような迫力がある。

「誠……。学園長は確か、響子君のお父さんなんだよな……?」
「う、うん。そうだけど……?」
「よーし、みんな箸を置けーーーっ!!!」

父さんの一喝と共に食事が強制シャットダウンされたのだった。
霧切さんは何が何だかわからないようで呆然としている。
こっそり耳元で"父さんが言ったことを復唱してね――"と耳打ちする。

「ひとーつ! 苗木家、家訓!」
『苗木家、家訓!』
「義理のお父さんをカモにしちゃう奴は、苗木家失格であります!」
『義理のお父さんをカモにしちゃう奴は、苗木家失格であります』

全員椅子から立ち上がり、食事が中断される。

「うっし! 父さん、久しぶりに回しちゃうぞぉ!」
「あ、響子ちゃん。反対側の方を持ってくれる? 重いから気をつけてね」

霧切さんは母さんと一緒にテーブルを担いで隅っこに寄せる。
妹は妹で椅子を持ち出して部屋を広くさせている。

「たぃあぁっ!」
「うわっ!」

ボーっと立っていたら父さんがタックルを仕掛けてくる。
仰向けに倒れた僕の両足をすかさず掴み脇に固定する。

「いくぞぉー! うおおおぉぉぉっ!」
「ぬわぁぁあああああっ!!! ………ぁ痛っ!」

広々とした空間で繰り出されるジャイアントスイング。
回される方も巻き込まれる方も地獄を見る脅威の一撃だ。
不幸中の幸いなのか父さんの計らいなのか、放り投げられた先はソファの上だった。


「ぁ、ありがとうございます……」
「ゼェ、ゼェ……それじゃ、再開しよっか」

投げた方も投げられた方も虫の息の男性陣を尻目に、女性陣3人は何事もなくテーブルと椅子を元の位置に戻していた。
そして後は何事もなく僕らの学園での出来事を話せる範囲で話して食事は終了した。

「ふぅ、お腹いっぱいだぁ……。ごちそうさまー」
「ごちそうさまです。また、出来ればこうして皆さんと食卓を囲みたいですね」
「あら、遠慮する必要ないわ。時間が空いていたら気にせず足を運んでね」
「ありがとうございます。それじゃあ、私はこれで……」
「えぇー、帰っちゃうのー!? 泊まってこーよー?」
「でも着替えが……」
「着替えだったら私のを貸すからさ、お姉ちゃんも泊まっていこうよ、ね?」

霧切さんの腕にしがみ付く様に妹が懇願する。
ついには霧切さんが根負けして、一緒に宿泊する形になった。


―――――

入浴も済ませ、自分の部屋のベッドでゴロゴロしているとノックの音が聞こえた。
ドアを開けてみると白とピンクの縞々模様のパジャマを着た霧切さんがいた。

「……あれ、どうしたの? 妹の部屋で寝ないの?」
「えぇ。そのつもりだったけれど、あの娘の部屋にいると一晩中私の話を聞かされそうで退散してきたわ……」
「まぁ、いきなり会った人に根堀葉堀聞こうってのもデリカシーがないっていうか」
「それに私も自分のことを話すのは苦手な分野でもあるし……」

そう言って自分の手袋を見つめる霧切さんだった。

「わかったよ、入って」
「ありがとう。このままじゃ湯冷めするところだったわ」

霧切さんを部屋に招き入れると、すぐさまファンヒーターの近くに座り込み暖を取るのであった。
――うん、とっても猫っぽい。
妙に感心しながら押入れを開け、予備の布団を取り出す。
ベッドのすぐ隣に敷いて僕の寝床は確保された。

「ほら、霧切さんはベッドを使いなよ」
「……いいの?」
「いいっていいって。霧切さんはお客さんなんだから」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……。あっ、温かい……」
「まぁ、さっきまで僕がいたとこだし」

頬杖を付きながらうつ伏せになり、両足をパタパタさせている様子からご機嫌はよくなったようだ。
――しかし、妹のパジャマを着込む霧切さんも年相応の女の子っていうか、かわいいっていうか。
布団の上で肘枕をしながらボーッとしていると霧切さんと目が合った。


「……ねぇ、まことちゃん?」
「ふぇっ? い、いきなりどうしたのさ霧切さん?」
「連れない人ね、ここは"きょうこちゃん"って返すべきよ。まことちゃんのクセに生意気」
「そんな横暴な……」
「リピート、アフターミー。"きょうこちゃん"」
「……きょ、きょうこちゃん」
「そんな無理矢理言わされた感じじゃなく、子供のように無邪気に呼んでみなさい」
「……わかった。ねぇ、きょうこちゃん?」
「なぁに、まことちゃん?」
「やっぱり、きょうこちゃんの笑った顔はあの写真みたいにかわいい筈だよ」
「かっ、かわいいって……!」

僕の予想外の切り返しがバツグンだったのか、霧切さんは僕をからかうことすら忘れて戸惑っている。
やった――! ついに霧切さんを言い負かしたぞ!
僕が一人感動していると、霧切さんは羞恥心に耐えられなかったのか僕に背中を向けた。
それから石像のようにピクリとも動かず、気まずい雰囲気が僕の部屋に立ち込める。
ま、まずいぞ――! 何かフォローしないと!

「も、もちろん今の霧切さんもとっても魅力的でかわ……たわばっ!」
「お・や・す・み! バカ正直なま・こ・と・ちゃ・ん……!」

霧切さんの不意打ちに等しい枕の一振りをかわせることなく、一撃で沈むのであった。
そして貝のように掛け布団を頭まで被り僕との会話すら強制終了させる荒業に出た。

「それじゃ、おやすみ。霧切さん……」

蛍光灯の紐を引っ張り常夜灯に切り替える。
翌朝、目が覚めた時は少しでも彼女の機嫌が元に戻ることを信じて僕も眠ることにした――。


――――――

だけど、終わりのはじまりっていうのは突然やってくる。
後の"人類史上最大最悪の絶望的事件"と呼ばれる暴動・殺戮が世界各地で起こり始めたのであった。


"君は、これからの一生をこの学園の中だけで過ごす事になるかもしれない。……それを了承してくれるか?"


そんな中で学園長から緊急面談が開かれ僕らは"計画"に同意するかの是非が問われた。

そして数日後、僕の家に届けられた希望ヶ峰学園閉校のお知らせ――。
時を待たずして父さんから霧切さんと一緒に皆で食事をしないか、という誘いの電話が来た。
僕は二つ返事で了解したのだった。



続く
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