km1_385-391

「あ……あれ?アタシどうして……?」

【超高校級の写真家】小泉真昼は薄暗いコテージの中、ベッドの上で目を覚ました。
頭を両手で揺さぶられているような何ともいえないモヤモヤが意識を朦朧とさせ、どうにか目線だけを動かして辺りを見回す。

「ここって、アタシのコテージ……?なんで……」

いま自分が置かれている状況を、彼女は理解できないでいた。
トワイライトシンドローム殺人事件――
先刻、モノクマが提示した新たなコロシアイの動機、とある学園で起きたその凄惨な事件に自分が関わっていると知ったアタシは、日寄子ちゃんとビーチハウスで待ち合わせ相談するはずだった。

「あれ、あれあれあれ?」

でも、実際ビーチハウスに行ったらそこには日寄子ちゃんじゃなくて九頭竜が居て、それから、口論になって、それから。

「あれあれあれあれあれあれ?」

思い出せない思い出せない思い出せない思い出せ――

「小泉さん」

シャワールームの方から聴こえた声に、小泉はハッと我に返る。反射的に上半身を起こし、声がした方の暗がりに目を凝らす。
頭のまとわりつくようなモヤモヤは、何時の間にかすっかり収まっていた。

「小泉さん、大丈夫……?良かった、気付いて」

「……千秋ちゃん?どうしてアタシのコテージに居るの?」

「うん、ちょっとね。大事な話があってきたんだ。」

暗がりからゆっくりと現れた【超高校級のゲーマー】七海千秋。窓からの月明かりが彼女の微笑みを浮かべた横顔を淡く照らしている

「頭の方は大丈夫?痛くない?気持ち悪いとかはない?」

七海はベッドにいる小泉の横にちょこんと座り、心配そうな顔で覗き込んだ。

「うん……もう大丈夫みたい。どっかで倒れちゃったみたいだね。千秋ちゃんが運んでくれたの?」

「うーん……。運んだって言うよりは、見つけたって感じかな?」

「そう……じゃあ別の人が運んでくれたんだね。あ、でもそれって男子じゃないよね?
あーもうっ、変なトコ触られたりしてたらサイアクだよ!」

「うん……。小泉さん、あのね、そのことなんだけど」

「ええっ!まさか本当に男子が運んだの!?
誰?日向?田中?それとも左右田……はないね」

そうじゃなくて、と七海は首を横に振る。
それまで微笑みながら話していた七海の表情が少しだけ寂しげなものになり、それと同時にまた、小泉は頭の奥からモヤモヤが立ち込めてくるのを感じていた。

「ここからは少し辛い思いをさせちゃうと思うから……。
でも、小泉さんにはここから前へ進んで欲しいんだよ。
その想いだけは、分かって欲しいんだ」

「どういうこと……?前へ……進む?」

頭のモヤモヤは真夏の積乱雲のように瞬く間に広がっていき、小泉の思考を深く深く覆っていく。

「じゃあ、いくね」

七海は髪を右手で掻き揚げ、露わとなった自分の額を狼狽する小泉の額にすうっと近付ける。

「千…秋ちゃ…ん?」

朦朧とする意識の中、瞳に映った七海の心配そうな姿を最後に、小泉真昼の意識は闇の中へと落ちていった

「あのさぁ、その程度じゃ――ちゃんを笑顔にできる写真が撮れないんだよね。
もっと細かくバラせないの?」

「ふえっ!?もう許してくださいよぉ……。
これ以上続けたら死んじゃいますよぅ……」

「ゲロブタの癖に口答えしてんなッ!
――おねぇに褒めてもらいたいんでしょ!?」

「たはー!ヒヨコちゃん相変わらずキツイッすねー!
ほぅら、着物の帯がギューギューのバインバインっすよ!」

「そっちなのね……」


(なに……これ……)

何かを取り囲み、楽しそうに会話する四人の女の子、彼女達から少し離れた場所に小泉は一人立ち尽くしていた。

(あれって、唯吹ちゃんと日寄子ちゃんと蜜柑ちゃん……。
それに、アタシ?)

そこは夕暮れ時の、学校と思われる建物の廊下だった。
小泉はこの場所にどこか懐かしさを感じ、どこか懐かしんではいけないような、足場のおぼつかないふわふわとした感覚を覚え、1、2歩とフラつく。

(あれ、アタシってコテージに居たよね?
それで千秋ちゃんにおでこくっつけられて……)

夢でも見てるのかな?
そう思った矢先、向こうの「自分」が突然喋るのを止め、アタシの方にゆっくりとゆっくりと振り向いた。
「自分」と目が合う。

――絶望だった

一度心臓がドクンと高鳴り、それから早鐘のような鼓動に合わせ、
廊下の窓から見える風景が加速していく。

――絶望だった

先刻まで校庭を臨んでいた窓に映し出されていたのは、無くしていた希望々峰の記憶。

楽しい記憶も悲しい記憶も嬉しい記憶も全部、絶望に塗り替えられていく。

――アタシ、【超高校級の絶望】だったんだ

それまで屈んで何かを切りつけていた罪木がむくりと立ち上がり、隠れていたソレが露わになる。
そこには血塗れの少女が、笑顔で仰向けに倒れていた。
息も絶え絶えに、少女は目線を小泉に移し、弱々しく口を開く。

「笑顔が…撮りたかったんでしょ……。
ほら、いつもとは違う…世界でこそ輝く、人の笑顔って奴をさ……」

(え…?何、言ってんのよ……?)

「特別に撮らせてあげるからさぁ……。ほら、遠慮…しないで、早くカメラを…構えなよ……。
絶望的に…魅力的な笑顔を撮らせてあげるからぁ……」

譫言のように喋り続ける少女と不意に目が合った。
瞬間、自分の体が何か得体の知れないモノに包み込まれるような感覚に囚われ、
自分の右手が意志に反してカメラを掴み、その少女の歪な笑顔にピントを合わせ…………。

カシャッ……

「起きて、小泉さん」

その声の主を、ゆっくりと目を開けて確かめる。
窓から見えるコテージの外は微かに白んでいて、穏やかな波の音は変わらずに流れている。

「アタシ……」

「うん、何も言わないでいいよ。分かってるから」

「千秋ちゃん、あのさ、アタシ笑顔が撮りたいんだ……。
また、喜んでる盾子ちゃんの笑顔をさ……」

「………」

小泉は、自分の横に座る七海の首元にゆっくりと手を伸ばす……

「あのね、小泉さん!
日向君がね、モノクマとの最後の裁判で大活躍だったんだよ!
あの日向君の姿、小泉さんにも見せてあげたかったなあ……。
オーラとか目力とか半端なかったんだよ!
まるでスターを得たマリオみたいだったなあ」

「え……?」

「その時ね、最後お別れする時、日向君凄く良い笑顔だったんだ。
その時の写真、これなんだけど上手く撮れてるかな?」

七海はカーディガンのポケットから一枚の写真を取り出した。
差し出された写真を震える手で受け取り、恐る恐る目を落とす。

「プッ……アハハ!
これが日向なの?全くの別人じゃない!」

「えへへ……。だよね、髪真っ白になってるし」

「……でも、凄く良い笑顔だよ。今のアタシには絶対に撮れない……」

一粒、二粒と写真の上に涙が零れ落ちる。
その写真に写っていた日向が、自分の本当に撮りたかった微笑みを浮かべていたから。
もう自分にはこんな笑顔を撮ることができないことを知っているから。

どっちにしろアタシには絶望しか――

「違うよ」

「千秋ちゃん……?」

「小泉さんなら、もっと良い笑顔が撮れるよ
素人の私でも撮れたんだもん、きっと大丈夫だよ!」

「でも、もう……」

「ほらほら、みんな待ってるよ?
笑顔で迎えてくれると思うから、その時がシャッターチャンス!、だと思うよ」

そう言うと七海はコテージのドアを指差す。
ドアの隙間から光が漏れているのが見える。

「アタシ、どうすればいいのかな……。」

「うーん、まずは胸を張ってここから出て、それから考えれば良いんじゃないかな
まあ、日向君の受け売りだけどね」

「ここから出てから……」

「うん」

小泉はベッドから起き上がり、フラついた所を七海に支えられ、どうにか立ち上がる

「あとは小泉さん一人で大丈夫だね。良かった、本当に気付いて」

「ありがとう、千秋ちゃん。
あーあ、なんかアタシらしくなかったね。
アタシがしっかりしなくちゃ男共に示しがつかないしね」

「うん、やっぱりその方が小泉さんらしいよ。
……私は一緒に行けないけど、小泉さんのこと忘れないからね」

カシャッ!

「ふわっ!?」

急なフラッシュに体をピクリと震わせて、七海はカメラを構えた小泉を不思議そうに見つめる。

「アタシね、撮った写真は絶対に消さないって決めてるんだ。
アタシも、千秋ちゃんのこと忘れないよ。絶対に」

「小泉さん……」

「真昼、で良いよ
その方がほら、なんかいいでしょ?」

照れくさそうな顔をする小泉を見て、七海も思わず照れくさそうな表情になる。

「うんっ……。真昼ちゃん、きっとまたいつか会おうね!」

「もちろんだよ!
……またね千秋ちゃん、みんなのことは任せといて
アタシがビシバシ面倒見るからね!」

ドアノブを握り締め、一呼吸置いた後、ゆっくりと回していく。
徐々に開いていくドアから差し込む光は目映さを増し、部屋全体を真っ白に染め上げていく。

「ありがとね。アタシのこと、見つけてくれて」

光の中に、懐かしいみんなの姿が、笑顔が浮かび始めた。

カシャッ!

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