「お待たせ!アイスティーしかなかったけど、いいかな?」
「良くないだろ、色々と!」
今日の探索作業を終えた俺は、花村と食事を取っていた。
森で取れた植物をふんだんに使った野菜炒めが今日のメニューだ。
「う、うまい…!」
「僕を誰だと思ってるんだい?
『超高校級のシェフ』花村輝々だよ?」
こんな有り合わせのもので作った野菜炒めが、
箸を持つ手が止まらないくらいの至高の味になる。
まさに『超高校級の料理人』の実力だ…!
「お代は、君の身体で結構だよ?」
…これで性癖がアレじゃなければな。
そんな事を考えていると。
「あれ?罪木?」
「ひ、日向さん?どうしてここに…?」
牧場の探索に向かったはずの罪木が現れた。
「えっと、その…道に迷ってしまって…」
「道に迷って森まで来るのか…」
ドジっ子の本領発揮…というやつか。
「森で遭難し、雨に打たれた3人。
暖を取るために、互いの身体を寄せ合って…」
「花村、トンカツの作り方ってどうすんだっけ」
「冗談だから日向くん!
全く、彼女の事になると本気になるんだから…」
何か言い返そうと思ったけど、罪木が嬉しそうに笑っているので止めた。
可愛いは正義!というのは真理だよな。
「あの…それは…?」
「ん?ああ、花村の作った野菜炒めだけど」
皿に盛られた料理を、じっと見つめる。
ヨダレ垂れてるよ罪木。
「…食べる?」
「えっ?で、でもぉ…!」
「大丈夫だよ。俺はもう食べたし。それに…」
「それに、超高校級のシェフである僕にかかれば、
この程度の料理ならすぐに作れるからね!遠慮する必要はないよ?」
「そ、そうですか…それじゃあ、ちょっとだけ…」
そう言うと、罪木は俺の箸を取って、ぱくりと料理を口に運んだ。
「お、おいしいれすぅぅ!!
と、とっても、おいしいですぅぅ!!」
罪木は満面の笑顔になった。
それを見るだけで、俺達も笑顔が零れる。
…やっぱり、可愛いって正義だよな。
大事なことだから2回言っちゃったけど。
「お代は結構だよ?
あ、でもその箸は洗わないで渡してくれるかな?」
「花村、ここの火山でトンカツってできるのかな」
「ひ、日向くん…さっきから冗談が怖いよ…?」
罪木は、せっせと料理を口に運んでいる。
「しかし、冗談抜きでさ」
「ん?」
「こんなに美味しそうに食べてくれたらさ、
料理人として、こんなに嬉しい事もないね」
「…確かに。少し解る気がするよ。それ」
こんなに美味しそうに食べてくれるなら。
…こっちだって嬉しくもなるよな。
罪木があんまりにも美味しそうに料理を頬張るから。
つい俺は。
「ははっ、あんまり食べ過ぎて、太らないようにな?」
その言葉を口にした。
その瞬間。
目の前が真っ暗になって、意識を失った。
「ははっ、あんまり食べ過ぎて、太らないようにな?」
日向くんがそう言った、その瞬間。
僕は見た。
罪木さんが神速で懐から注射器を取り出し、日向の首筋にブスリ。
同時に、逆の手でハンカチを取り出し、日向くんの口を塞ぐ。
この間、僅か2秒!!
…チャプター3での犯行も納得の早業で、日向くんは意識を失った。
「あれ?あれあれあれぇ?
困ったなー。日向さんが寝ちゃいました」
「……」
言葉が出ない。
つ、罪木さんは…正直、攻略難度は低めだと思ってたけど…。
前言撤回。選択肢を間違えたら、どうなるか解らないね…。
「で、でも…」
「は?」
「い、いや、その、何でいきなり、
日向くんは寝ちゃったのかなー、なんて…」
「さぁ?何ででしょうねー?」
一体、あの発言のどこに地雷が…。
「あ」
ひょっとして。
『ははっ、あんまり食べ過ぎて、太らないようにな?』
まさか、罪木さんは、ちょっとポッチャリしてる事を、気にしてたり…。
「私、とんかつって、すごく美味しいと思うんですよぉ」
「い、いやいやいや!何も考えてませんよ!
そうだ!採集行かないと!あ、罪木ちゃんは日向くんが
起きるまで傍にいてあげてね!そ、それじゃあ!!」
僕は猛ダッシュでこの場から逃走した。
しかし、何と言うか…。
「……大変だね、日向くん」
そんな事を呟きつつ、僕は一目散に駆けていった。
おわれ。
最終更新:2013年04月09日 17:45