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不意に、俺は目を覚ました。
昨日はウサミ先生の課題を達成するために少々張り切りすぎてしまい、帰ってくるなりそのままベッドで眠りこけてしまった。
時計を見ると、真夜中の12時。
…早く寝すぎてしまって、変な時間に起きてしまったみたいだ。
とりあえず重い身体を起こしてシャワーを浴びると、空腹感が湧き上がってきた。
「そういえば…昨日は晩飯食べてなかったっけ…」
そんな事を考えながら、食事を求めて俺はレストランに向かおうとして。

「はふぅ!?ひ、日向さぁん?」
「あ、日向くん…こんな時間に何してるのかな?」

ロビーで超高校級のゲーマー七海と、超高校級の俺の天使…じゃなくて保険委員の罪木に遭遇した。

「ちょっと腹減ったから飯食いにさ…そういうお前らは何してたんだ?」
「うん、ちょっとね…罪木さんと…やりすぎて………ぐぅ」

七海はそんな事を口にしながら、器用に鼻ちょうちんを膨らませ始めた。
いつ見ても美少女が台無しの姿である。

「な、七海さぁん!こんな所で寝ちゃったらカゼ引いちゃいますぅ!!」

罪木が声を掛けながら七海を揺すっても、もう半分以上夢の中へ旅立ってしまったようなので、仕方なく俺達は二人で七海を支えながらコテージへ向かった。
幸いにも距離はほとんど離れていないので、楽に部屋の前に辿りつく事ができた。

「おーい!七海ー!起きろー!!」
「七海さーん!!寝たら死んじゃいますよぅ!!」
「いや、死なないだろたぶん…」

そんな俺達の必死の呼びかけのせいか、七海はようやく目を覚ました。

「むにゃ…大丈夫、寝てないよ…」
「寝てる奴はみんなそう言うよな…。とにかく、ほら、鍵開けて…」

涎を垂らして船を漕ぎながら、それでもなんとか鍵を開き、扉を開ける。
七海が部屋に入ったとき、罪木が口を開いた。

「き、今日は、その、ありがとうございました…。
 でも、その…私、ほとんど経験が無くて…ヘタッピで、ごめんなさい」
「罪木さん、大丈夫だよ。最初はみんな上手くないから。
 それに、私は楽しかったよ。今日のこと。
 テクニックとかじゃなくてさ、一緒にやって楽しくなるのが大事…だと、思うよ?」
「そ、そんな…その、わ、私、うれしいですぅ!!」
「うん…。また、しようね。…おやすみ。罪木さん。あと日向くん」

七海を部屋に送り届けた途端に肩の荷が下りたような安堵感と、猛烈な空腹感に襲われる。
まだ晩飯にありついてない事を思い出し、今度こそレストランに向かおうとすると、罪木に話しかけられた。

「あの…日向さん?も、もうお休みの時間ですよ…?」
「え?いや、ちょっと小腹が空いて…。
 晩飯でも食べようかと思ってたら、途中でお前らに会ってさ」
「そ、そうなんですか…」
「ああ。ちょっと腹ごしらえするだけだから…」
「………」

罪木はじっと俺を見つめている。
祈るように手を合わせて、捨てられた子犬のような目で俺を見ている。

「えっと…一緒に行く?」
「はいっ!!」

途端に罪木は笑顔になる。
ああもう、可愛いなぁ本当に。

「ところでさ。ちょっと聞きたいんだけど」
「は、はいっ!何でも聞いてくださいっ!
 …わ、わたしどんな恥ずかしいことでも言いますから!」
「いや、そんな恥ずかしいことなんて聞かないから…。
 罪木はさ、あそこで七海と何やってたの?」

本当にちょっとした興味だった。
こんな夜遅くにロビーで女の子が二人、何してたんだろう?
というか、誰よりも早く就寝する筈の七海がこんな夜中まで起きてること自体珍しいし。
そんな単純な疑問。
ただ、それだけの筈だった。のに。

「えへへぇ…実はですねぇ…。
 七海さんと一緒に、遊んでましたぁ!」

頬を少し紅潮させながら、本当に嬉しそうに罪木は言った。

「そっか…良かったな。罪木」
「はいっ!わっ私、今日の事は忘れませんっ!」

強い口調でそんな事を言う罪木を見て、自然と笑顔が零れる。
考えてみたら、罪木が俺以外の誰かと遊ぶのは珍しい。
罪木は悪い子では無いし、むしろ他人のために頑張ろうとする天使だと俺は勝手に思っている。
だけど、常にビクビクしているし、話しかけるだけでなぜか脱ぎだそうとしたり、
挙句に超高校級のドジっ子でもあるため、他の大半の仲間には『悪い奴ではないけど付き合いにくい人間』だと思われている。
簡単に言えば、弱気どころか挙動不審の域に余裕で足を突っ込んでいるのだ。彼女は。
現に、俺だって最初はそう思っていた。だけど話を続けるうちに…って、それは長くなるからいいか。
…とにかく。
七海と一緒に遊んでた、と罪木は言った。
そっか。俺以外の子とも、ちゃんと遊べてたんだな。

「…俺もなんか嬉しいよ。ところで、七海と何してたの?」

何の気なしにした質問だった。
十中八九ゲームだろうと思っていたけど、本当に自然と出た言葉だった。
そして。
罪木は言った。

「うふぅ…それはですねぇ…」

その言葉を。


「七海さんと、セクロスしてましたぁ!!」


セクロスしてましたぁ。

セ ク ロ ス してましたぁ。

セ ク ロ ス。

セ  ク  ロ  ス。

そうか。
罪木と七海はセクロスしてたのか。
あの場所でセクロスやってたのか。
一緒に楽しくセクロスしてはしゃいでたのか。
ずっとセクロスしてたのか。
そうかそうか。はははは…は…。
………。

「ちょッ、おま!!ええええええぇぇっぇぇええええええ!!!!!
 なッ!!なニいいいいいいいィィィィィイイイイイイイイイイ!!!!!」

俺はさながら殺人現場を発見してしまった人間のように絶叫していた。
白目を剥いて顔を真っ青にしながら、この周囲どころか島全体まで響くような大声で、人生最大級の驚愕を発していた。

「ひいいっ!!ごめんなさいいっ!!
 私、なんか悪いことしましたかぁぁっ!?」

罪木が驚いているが、俺はたぶんもっと驚いている。
何だって?
セクロスって言ったよな!?
セクロスって、当然アレだよな!?国際的で競技人口がもっとも多くて、プロ選手も多数いるあのスポーツだよな!?

「い、いや…!ツミキハナニモワルクナイヨ…」
「なんか片言になってますよぅ!」
「で、でもっ、あれって、男と女でやるもんじゃ、なかったのか!?」

七海と?
女の子同士でやったのか!?

「えっ、えっと…性別は関係ないと、思いますけど…」

それが最近のトレンドか!!
女同士か!!ゆりゆり…いや、がちゆりか!!

「い、一応聞くけどさ…。無理矢理とか…脅されて仕方なくとかじゃなく…
 その、自分の意思で、一緒に…それを…やったんだよな?」
「は、はい…。そう、ですけど…。あの…日向さん?」
「い、いや…大丈夫だ…。罪木…よ、よかったね…」

そうか…。
いや、あの七海が罪木を脅して無理矢理…なんて事やるはずないってわかってたけどさ。
でも、そういう事だよな…。
アレをやるって事はそういう関係って事だよな…?

「………」

そうだ。
俺は、罪木に幸せになって欲しかったんじゃないか。
ならば祝え。彼女は晴れて彼女になったんだからな!七海の!
性別なんて何も問題ないって花村だって言ってたじゃないか。
祝え!祝福しろ!

「ツミキサン、ヨカッタデスネ!ケッコンシキニハヨンデクレ!」
「ひっ、日向さん!本当にどうしちゃったんですかぁ!?お注射必要ですかぁ!?」

いや、むしろ俺が罪木に注射したかったよ…。
待てよ?そもそも女同士って注射できるのか!?必要なモノがついてないはずだぞ?
別の道具を使うのか?それともしないでもOKなのか!?
って、そんな比喩的表現な事はどうでもいい!!

「だっ、大丈夫だよ、俺は…。
 どんな形であれ、罪木が幸せなら、それでいいからさ…!
 祝福するよ!おめでとう!!ずっと幸せならいいな!!うおおお…ん!」
「ふゆぅ!?えっ?えっと…ありがとう…ございます?
 でも日向さん…なんでそんな泣いてるんですかぁ…?」

これでいいのだ。
全てはこれでいいのだ…。
俺は、罪木の恋人になれなかったけど…。
七海ならきっと、お前を幸せにできるからさ…。
………。
だけど…涙が…止まらないや。はは…。

俺はひたすら泣き続けていた。
罪木がいつもの3倍以上うろたえていたけど、それでも俺は泣くことしかできなかった。
そんな時。

「ひっ、日向さん…ひょっとして…」
「…え?」
「私と一緒に…やりたかったんですか?」

罪木の口から、そんな言葉が発せられた。

やりたかった?
愚問だ。俺は男だ。
普通に考えてやりたくない訳がない。
しかも罪木は凄い可愛いし、肉付きが良いむちむちの身体だし、胸も大きいし、よく転んで見えるし。
正直に言えば、色々ともてあます。
こんな可愛い子が目の前にいるのに持て余さないとか人間じゃねぇ!

「そ、それは…その、やっぱりさ…やりたかった、けど…」
「そうですか…だったら」

そう言って、罪木は俺を見上げて。

「私と一緒に、セクロスしましょうよぉ!」

衝撃的な言弾を、俺に向かってぶっ放した。

罪木と俺が――セクロスだと!?

「な…何て…言った…?」
「ですから…ひ、日向さんも私とセクロス…しませんか?」

俺の理性は、そこで崩壊しそうになって。
…ギリギリで、踏みとどまった。

「い、いや…!駄目だ…!こういう事はさ!何人もとやるもんじゃないと思うんだ!」

まして罪木には、七海という…。

「え?でも七海さん、言ってましたよ?
『一人でも面白いけど、私はたくさんの人とするほうがいいから』って…」
「なああぁあぁあなぁぁぁぁぁぁあああみぃぃいいいいぃぃぃぃ!!!???」

嘘だろ!?オイ!!
七海だぞ!?あの七海だぞ!?
たくさんの人としてたのか!?そっちのほうがいいのか!?

「チクショウ!!何て乱れた時代なんだぁぁっ!!」
「で、でも!私も…ほとんどやった事なかったですけどぉ…その、やるときは一人でしたし…」
「一人?ま、まぁ、相手がいないならそれが普通…」
「ですけど!わっ私、ここの皆さんとなら全員大丈夫ですよぅ!!」
「全員っ!?は、花村とか、十神でもかっ!?」
「勿論ですぅ!」
「ウヌゥゥゥゥオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!」

頭を抱えながら、地獄の亡者のような声を上げる。
そんな…!そんな…!

「で、でも!私は!日向さんと、一番したいです!」
「えっ、あっ…ありが、とう…?」

嬉しいこと言われた気がするけど、なんかあんまり嬉しくない…。

「大丈夫ですよぅ!私が手取り足取りナニ取り教えますからぁ!!」
「教えてくれるのか!?いや、いいのかそれ!?」
「コツはですねぇ…えっと、後ろから突かれるとすぐイッちゃいますから…。逆に後ろから突けば安定しますぅ!」
「突くのか!?罪木が突くのか!?」

しかも後ろからがいいんだ!
俺は前からが…って、そもそもやったことねーよ!

「でも…一度に複数の人を相手にしちゃうと、さすがに駄目ですけど…」
「複数って!?ええええっ!!ちょっと、ええええっ!?」
「あ!でも、七海さんなら、余裕で倒しちゃうんですよぉ?」

な、ななな七海が…複数の相手を…余裕で…!?
人は見かけによらないんだな…。
なんか絶望に落ちてしまいそうだ…。

「七海さんのテクニック…とってもスゴくて…私も興奮しちゃいましたぁ!」
「チクショウ!俺にはテクなんてないよ!!」
「だからぁ。手取り足取り、教えてあげますからぁ…」
「い、いや…でも、それは、ありがたいけど…!」
「だから、私とやりましょうよ!セクロス!」

私とやりましょうよ!セ ク ロ ス!
その言葉を受けて、心の中で悪魔がささやく。

「い、いや!だけどさ!」

駄目だ!それじゃ駄目なんだよ!
俺は七海×罪木を応援すると決めたんだ!
もう俺の出る膜は無いんだ!膜ってその字じゃねーよ!

「と!とにかく!罪木!
 そういう事はさ…大事な人とやる事だからさ…」
「日向さんは、私の大切な人ですよ?」

その一言で、理性がベルリンの壁のごとく崩壊する。
壁を壊しているのは、本能という名の住人だ。

「日向さん…ひょっとして…その、
 わ、私の事…どうでもいい…ですか?」
「えっ?」

ちょ、ちょっと待て。何でそうなる!?

「そ、そうです…よね。私が、どうでもいい存在だから…
 …私なんかと…セクロスしたくなかったですよねっ…!!」

違う。俺はお前の事を…。
………いや。
違うのは、俺だ。
ただ…逃げていただけだ。
罪木のためだと言い訳をして、結局怖かったのかもしれない。
俺が、罪木とそんな関係になる事が。
ならば、俺の取るべき行動は――ただ、ひとつだけだ。

「罪木。それは違うぞ」
「…え?」

満面の笑顔を浮かべながら、俺は言った。

「しようか。俺とセクロスを!」

本能が自分の住処を脱出し、欲望のままに身体中を駆け回った。
そうだ。何を迷う必要があるんだ。
罪木がしたいって言ってるじゃないか。大切な人だって言ってくれたじゃないか。
ならばヤれ!
今は悪魔が微笑む時代なんだ!

「いやぁ、正直俺もさ、やりたくて仕方なかったんだよ!罪木とセクロスをさ!」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございますぅ!!」
「さぁ!行こうか!俺もう楽しみで仕方ないよ!あ、やるのは俺の部屋でいい?」
「えっ、ロビーじゃないと…できないと…思うんですけど…」

ロビーで!?
まぁ、部屋じゃなくて野外的なものが好きなんだろう、罪木は。
ならば俺もその趣向に応えないとな!

「よし!ロビーに行こう!」
「は、はい!…そういえば、食事のほうは…」
「こまけぇことはいいんだよ!」

こうして、俺達はロビーへと向かった。
これから俺は、罪木とセクロスをする。
罪木の一番は七海だと思うけど、だけど、俺ももう後悔は無い。
罪木が俺としたいって言ってくれた。もうそれでいいじゃないか。
もう俺は迷わない。男なら据え膳食わねば何とやらだ!

そんな事を考えている内に、俺達はロビーへと辿りついたのだった。

そして――ついに、薄暗いロビーの中、俺と罪木の――セクロスが、始まった…。

「セクロスってゲームの事かよおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」
「はひぇ!?ゲーム以外に何かあったんですかぁ!?」

説明しよう。
「セクロス」とは、1984年7月から稼動した日本物産のアーケードゲーム『セクターゾーン』の
ファミリーコンピュータへの移植版(1986年発売)および北米版の名称である。分類は横スクロールシューティングゲーム。
高速スクロール面と低速スクロール面が交互に展開され、前者は敵機とのデッドヒートを初めとしたレースゲーム的要素が強い一方、
後者はシューティングゲーム的な要素が強く、ステージによってゲーム性が大きく異なる。
以上、wikipediaより。(一部改変)

「そ、そうか…ゲームか…ははは。
 まぁ、そんな事だろうと思ってましたけどね、ふふふ…」
「???」
「い、いや…何でもないよ…。さぁ、ゲームを始めようか…」
「は、はいっ!それじゃあ、わたしが…」

罪木は手元のゲーム機の電源を入れ、ソフトを選んでいく。
ズラッと並んだゲームのタイトルを見ると、世の中にはこんなにゲームがあったのかと感心する。

「このゲーム機、七海さんが言うにはですね…えっと、少し特別らしいんですよ」
「特別?」
「何でも、アーケードゲームをそのまま積んでるんじゃなくて、えみゅれいたーとかで何とかかんとか…。
 ごめんなさいっ!私にはよくわかんないですぅ!」
「気にするな。…俺もわからん」

そんなこんなで、決定ボタンらしきものを押すと、画面に「SECCROSS」の文字が表示された。
クソッ!紛らわしいタイトル付けやがって!

「…アーケード版は『セクターゾーン』ってタイトルだったんだろ?
 何でわざわざ名前変えたんだろうな…それも、こんな名前に…」
「…何ででしょうね?あ、始まりますよ!」

1P STARTの文字と共に、上部から変なバイクに乗った変なのが降りてくる。
どうやらプレイヤーキャラはコイツのようだ。
そして、画面が動き出してしばらくすると、背後からこれまた変なバイクが出現する。

「…コイツが敵なのか?」
「はい!後ろから体当たりされると、障害物に当たって逝っちゃいますぅ!なので、こうやって、後ろから…!」

器用に敵の後ろに回りこんで、背後から体当たりすると、敵はコースアウトして爆発した。

「ああ、後ろからって…なるほどね…」
「えっと、それに…後ろからなら、こうやって…えーいっ!」

可愛らしい掛け声と共にボタンを押すと、自機から弾丸が発射され、敵を撃破した。
なるほど…。背後からならショットが当たるのか。

「こうやって、これを…こうして…」

そう言いながら、後ろから来る敵と前から迫る障害物を、器用に動いて避けてゆく。
…ゲームの中の自機が動くと同時に、罪木の身体まで同じように動いているのは何故なんだろう。
自分の身体まで動かす必要は無いと思うんだけどな…。
でも可愛いから許す!

「あっ…もう…ちょっと…!ああっ…やっ、あああっ!!」

罪木の悲鳴と共に、自機が爆発四散した。
どうやらミスったらしい。

「ふゆぅ…ヤられちゃいましたぁ…」
「そーかそーか。やられちゃったかー…もうちょっと別の言い方考えような」
「次、日向さんの番ですね…」

罪木と交代で、台に座る。
ゲームが開始され、背後から敵が迫ってくる。

「…意外と難しいな、コレ」
「はい…私は2面で止まっちゃいますぅ…。
 あ、その青い人間に触るとボーナス点が入るらしいですよ?
 でも、あまり人を多く載せると消耗が激しくなっちゃうらしいです…」
「変な所でリアルだな…ところでさ、コイツら何やってんだろうな?
 何でバイクで走りながら敵と戦ってるんだ?というかこの障害物は何なんだよ」
「えっと、それはですね…この青い人は、捕虜らしいです。
 敵に捕まってしまった人を助けるために、このバイクに乗って救助してる…らしいですよ?」
「…そんな話だったんだ」
「ちなみにですね…プレイヤーが乗ってるバイクは…
 えっと、確か…『ギルギットペトラ』って名前らしいですぅ…」
「なんかカッコいい名前だな!」
「ゲーム中では語られないですけど…」

それって、無駄な設定なんじゃ…。

「あっ!?死んだ!!」
「はひいいっ!?な、何が死んじゃったんですかぁ!?」
「い、いや…プレイヤーが…」
「はふぅ…びっくりしちゃいましたぁ…」

…ひょっとして、死ぬって言葉が嫌いだから、イくとかヤられるとか、そんなややこしい言い方してたのか?
なんか…罪木らしくて、可愛いな。

「じゃ、じゃあ…次は、私が…」
「うん。頼んだ」
「み、見てて下さい!日向さんの仇は、私が討ちますからぁ!」
「仇って…ま、まぁ頼んだ…」
「んっ…ふっ…!あれっ!?イっちゃいましたぁ~!」
「早いよ!!」
「うううぅ…ごめんなさいぃ…!」
「だ、大丈夫だよ…次は俺の番だな…!」

罪木と席を交代する。
せっかくだし、いい所を見せてやるか!!
行くぜ!セクロス!あれ、この機体の名前ってセクロスだっけか。まぁいいや。
スタートとほぼ同時に敵が出てくる。
よくも罪木に手を出してくれたな!ぶっ倒す!
前のプレイより滑らかな動作で敵の背後に回りこむ。
オラ!喰らえ!
そんな声を心の中で上げながら体当たり。押し出された敵は障害物に当たって大破した。
同時に――

「えっ!?嘘っ!?当たってない当たってない!!」

俺の機体まで障害物に激突して大破した。

「あ、あのぅ…画面は嘘をつかないって、七海さんが言ってましたよぅ…」
「ぐぬぬ…」

た、確かに説得力のある言葉だ…!

「つ、次こそは…!」

って、その前に罪木の順番だ。
俺は席を立ち、席を譲った。
席に座った罪木は、意気込んでスタートボタンを押――さないで。
首を回して、俺の事を見た。

「あの…日向さん…」
「何?」
「…とっても、楽しいですね」

そう言った時の罪木の顔は。
今まで俺が見てきたどの顔よりも、綺麗で、可愛くて、楽しそうで、幸せそうな――本当に、素晴らしい笑顔だった。

「ああ…俺も、本当に嬉しいよ」

お前の、そんな顔が見れてさ。
…なんて事は、恥ずかしくて言えなかったけど。

「ふゆぅ!?ゲ、ゲームオーバーですぅ…」

罪木が席を立つ。
俺は席に座らずに、言った。

「罪木」
「…はい?」
「ゲームってさ…いいもんだな」
「はいっ!」

次のプレイも結局すぐにやられてしまって、俺はゲームオーバーになった。
だけど、もうそんな事はどうでも良かった。
本当に楽しくて――心の底から笑顔になれた。
俺も、罪木も。一緒に笑えた。

結局、俺が想像してたような事とは違ったけど。
この事は、この島の――いや、俺の、ずっと忘れない思い出になるだろう。

「えへへ…二人とも、やられちゃいましたね…」

そんな事を言いながら笑う罪木を見て、俺は心の中で礼を言った。

ありがとう。セクロス。
お前が見せてくれた、罪木の笑顔を、俺はきっと――ずっと忘れない。

  • 終-


ツールボックス

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