乱舞の島

船が港に到着し、高らかに汽笛の音が鳴ると、デッキのあちこちから拍手と歓声が上がった。
ここは日が高く、潮風も暖かい……本当に、着いたんだ。南の島に。

青空の下、船のデッキには到着を待ちわびた多くの乗客が集まってきていて、その中にボクもいる。
そして、もちろんボクをここに連れてきたセレスさんと……ボクらを尾行してきたらしい霧切さんも。
セレスさんと霧切さんは、ボクから数メートル離れた場所に立ち、時折何か小声で話して楽しそうに笑っていた。
……ボクの知らない間に随分、仲良くなったんだな。
霧切さんと船の中で会った時は、ちょっと険悪な感じがしたのに……。


3人揃って手続きを済ませ、船を降りる。
ボクらが降り立ったこのジャバウォック島は、現在も開発中の人工島で、通称『中央の島』を5つの島が取り囲んでいる。
正確には、今ボクらがいるのは『5番目の島』で、この港は軍港を兼ねているらしい。

「……さて。まずはホテルに行って腰を落ち着けましょうか。
 わたくしと苗木君の泊まるリゾートホテルは、この『5番目の島』ではなく『1番目の島』にありますわ」
セレスさんがゴスロリ服と同じ、真っ黒い日傘を開きながら言った。
……ここまで来たら、ボクは黙って従うだけだ。頷きを返す。
──そういえば、霧切さんはこれからどうするんだろう?

「私は、『3番目の島』のホテルに泊まる予定よ。……残念だけど、ここでお別れね」
ほんの少し、寂しげに霧切さんが微笑む。
「まあ、せっかく南の島に来たんだから、一人でのんびり過ごすのも悪くないわね。……それじゃあ、また……」
セレスさんと一瞬意味ありげな視線を交わし、彼女は軽く手を振ってこちらに背を向けた。
ボクらは無言のまま、その背中が徐々に小さくなるのを見送る。


「……ねえ、船に乗った最初の夜……霧切さんと何を話したの?」
ボクは、ずっと気になっていた事をセレスさんに尋ねた。
あの日……事件があって、セレスさんが霧切さんの部屋で寝て……それ以降、船の中ではほとんど3人で行動していた。
結局、ボクとセレスさんの間には初日以上の事は何も無く、代わりに女子二人が仲良くなっている。
……いや、それはもちろん良い事なんだけど……どうにも、腑に落ちない。
そんなボクに、セレスさんはにっこり微笑んで見せる。

「……それはもう、色々な事を。最近の学園の出来事に始まり、
 霧切さんが関わった奇妙な事件の話……わたくしが挑んだ過酷なギャンブル勝負の話……
 ……あとは、ある方の噂話など。じっくり話したおかげで、すっかり打ち解けましたわ」
「あ、ある方って……?」
「うふふ。……さあ、どなたでしょうね?」
──結局、はぐらかされてしまった。
嘘とポーカーフェイスの達人であるセレスさんから、無理に話を聞きだすのは不可能に近い。
……ボクはそれ以上の追求は諦める事にした。

公園の真ん中に立派な銅像が設置された『中央の島』を通り抜け、『1番目の島』へ。
大通りを歩いていると観光客で賑わうビーチやスーパーマケットなども目に入ったが、
とにかく、ジャバウォック島での行動の拠点になるホテルを目指して進む。
やがて『Hotel Mirai』の看板が掲げられた建物を見つけ、そちらに向かおうとするとセレスさんに止められた。
ビーチの手前にコテージがいくつも並んだ、いかにも南国らしいホテルなのだが……どうやら違ったようだ。
セレスさん曰く、そこは団体客や学生旅行向けの『安っぽい』ホテルなんだとか……。
──気を取り直して、歩き続ける。


大通りから少し外れた丘の上に、目的のホテルはあった。真っ白い外壁の、いかにも立派で高級そうな建物だ。
入り口で客を迎えるホテルマン達に軽く会釈をし、慣れた様子ですたすた歩いていくセレスさん。
ボクは些か恐縮しながら、彼女の後をついていく。
チェックインの応対はさすがに一流のホテルらしく、全てが流れるようにスムーズで──とはいかなかった。
セレスさんが手続きをする間、ボクは後ろで待っていたのだが……何か揉めている?
係の人と上司らしい人が何やら英語で話しつつ、彼女に向かって何度も頭を下げている。
数分して、セレスさんがボクを手招きして呼んだ。

「苗木君、少々問題が起こりました……」
「どうしたの?」
「こちらでもダブルのお部屋に泊まる予定だったのですが、どこかで手違いがあったようですわ。
 そちらは既に、別のお客で埋まってしまっているそうです。
 代わりにワンランク上の、シングルのお部屋を2部屋空けて下さるというのですが……それでよろしいですか?」
──よろしいも何も、納得するしかないんじゃないだろうか。
少し戸惑いつつも「セレスさんがいいなら、それでいいよ」と返した。
……セレスさんには直接言えないが、ホッとした部分もある。
この旅行に出てようやくソファじゃなく、ベッドでゆっくり眠れそうだから……。
「では、それで了承しますわね。他にも色々とサービスを付けてくださるそうですし。
 …………さあ、早速お部屋に行きましょうか」
セレスさんの号令に従って、案内してくれるボーイの後についていく。

ロビーの奥の扉を開けると、そこは広い中庭になっていた。
テニスコートが4面は軽く収まりそうなくらいの土地を、華やかな南国の植物が所狭しと覆っている。
さらに、お客が日陰で休めるように東屋があちこちに点在していて、隅には物置小屋らしい建物も。
……ここまでくると、ちょっとした植物園みたいだ。
ボーイがにこやかな表情で、ボクらに向かって何か英語で言った。
──多分、『こちらが当ホテル自慢の庭園でございます』といったところだろう。
なるほど、これを見せる為にわざわざ中庭を通ったのか。セレスさんに倣い、ボクも曖昧に微笑みながら会釈を返した。


案内された部屋は3階。セレスさんの部屋とは、すぐ隣同士だ。
セレスさんが一旦、自室で化粧直しをするそうなので、窓の外の景色を眺めて時間を潰す。
この次は、外を歩いている間に喉が渇いたので、ロビーにある喫茶スペースに行きたいらしい。
30分ほど待って部屋を出ると、ちょうどいいタイミングで合流できた。

「……そういえば、さっき言ってた色々なサービスって?」
「滞在中は、このホテルでのエステやマッサージの料金をタダにしてくださるそうですわ。
 ……困りましたわね。今でさえ怖いぐらいのわたくしの魅力に、益々磨きがかかってしまいますわ」
歩きながら、楽しげに微笑む。……ちっとも困っているようには見えない。
エステか……。残念だけど、男のボクにはあまり関係ないな。セレスさんが嬉しそうだからいいけど。
「それに、島内観光の際に、これも無料でガイドを付けてくださるそうです。
 ですが、これは考えものですわね。だって、せっかく──」
セレスさんが言いかけて、言葉を飲み込む。
「──せっかく?」
「──いえ、別に。……そう、後は……今夜のショーにも特別に招待してくださるとか」
セレスさんの態度が少し引っかかったが、もっと気になる単語が飛び出した。ショーって、マジシャンでも来るのか?
「今夜、このホテルに高名な舞踊家を招いて、日本舞踊のショーを開くそうです。
 南国のリゾートと日本舞踊……何とも妙な組み合わせですが、外国人にはウケがいいのでしょうね。
 地元の名士や、海外のVIPがこぞっていらっしゃるとか。……そう聞いては、わたくし達も行くしかありませんわ」
セレスさんの趣味からすると、重要なのは後半の部分だけだろうと苦笑する。
ボクも日本舞踊なんて、ちゃんと観た事すらないけど……これもいい機会かもしれない。
そう思うと、そのショーが少し楽しみになってきた。


セレスさんと二人、再び中庭に戻ってきた。
背の高い熱帯性の植物や、色とりどりの花達にはさっきと変わらず、強い日差しが降り注いでいる。
眩しさに目を細めながら、石畳の遊歩道を歩いていたその時──
曲がり角の向こうの大きな葉っぱの陰から、何かが飛び出してきた。
ボクはとっさの事に身をかわしきれず、それに突き飛ばされて思い切り尻餅をついてしまう。
「痛っ……」
思わずうめき声を上げて、もう一度前を見る。するとそこには、一人の女の子がいた。

南国らしからぬ着物姿の、ボクよりもかなり小柄な女の子──中学生か? ……この子がボクにぶつかってきたようだ。
彼女の方も、ボクと同じように尻餅をついた格好のまま、痛そうに顔をしかめている。
「ご、ごめん。大丈夫?」
慌てて立ち上がり、手についた砂を払って、その子に向かって手を差し伸べた。
オレンジ色の着物を着た女の子は、まだ何が起こったか理解できないといった表情で、大きな丸い目をぱちくりさせる。
リスやウサギのような小動物を連想させる、愛らしい表情だ。……が──
「どこ見て歩いてんだッ! このアンテナ頭ッ!」
──彼女は一瞬にして眉を吊り上げ、ボクに怒声を投げつけてきた。
……ア、アンテナ……?
予想外の展開に、こちらはとっさに声が出ない。

「……ちょっと、何を言ってますの?」
振り返ると、セレスさんがボクのすぐ後ろに立っていた。
静かな口調、冷たい表情ながら、瞳の中では怒りの炎が燃えている。
これには気の強そうな女の子も怯んだらしく、喉を詰まらせた。
「ぶつかってきたのはそちらの方──」
「う、うるさい! わたし、急いでるんだから!」
セレスさんの言葉を遮って、女の子は素早く立ち上がり、逃げるように駆け出した。
そして数メートル先の木の陰に一旦身を隠し──すぐに顔を出して、こちらに向かって舌を出して見せる。
それからまた木の陰にさっと身を翻し、今度は完全に姿を消してしまった。

……な、何だ、あの子……?
やけに生意気というか、お転婆な子だな。こんな南の島で着物姿だし、ちょっと変わってる。
「おかしな子ですわね。何ですの、この暑いのに着物なんか着て……」
セレスさんが呆れたようにため息をついた。
……いや、変わってるといえばセレスさんの格好も十分変わってると思うけど……。
言おうとして、言葉を飲み込む。──そういえば、ボクもほぼ学生服なんだった。人の事は言えない。


ちょっとしたトラブルはあったが、中庭を抜けてロビーに戻ってきた。ここは冷房が効いていて心地いい。
ほっと息をついたが……すぐにまた驚かされた。そこで意外な人物と遭遇したからだ。

「──き、霧切さん!」
少し前に『3番目の島』に行く、と言って別れたはずなのに。ここは『1番目の島』なのに。
目の前に立っているのは間違いなく霧切さんだった。
この再会が意外だったのはボクだけではなかったようで、霧切さんも、セレスさんも一様に目を丸くしている。
「……まさか、また尾行してきましたの!? 話が違いますわ。
 お互いにフェアプレーをしましょうと、あれほど……!」
……フェアプレー……? 珍しく、セレスさんが声を荒げ、霧切さんは慌てた様子で答えた。
「ち、違うのよ。まさか、あなたたちがここにいるなんて、私も思わなかったのに……!」
「白々しい言い訳を……! 何が違うのか、はっきりおっしゃって下さいな」
セレスさんの方は白い頬を紅潮させ、怒りを隠そうともしないが、霧切さんは人目を憚るように辺りを見渡す。
「……わかったわ。理由はあっちで話すから。……ついて来て」
ボクたちは訳のわからないまま、霧切さんに連れられて喫茶スペースに入った。


「……本当に、偶然なのよ。私がここに来たのは仕事なの」
注文したコーヒーを一口飲んでから、霧切さんが静かに言った。
「仕事、ね……。港で別れた時は、のんびり過ごすとおっしゃっていたと思うのですが?」
セレスさんは大好きなロイヤルミルクティーに口も付けず、刺々しい口調で返す。
ボクはその隣で、コーラを飲みながら黙って二人のやりとりに耳を傾けていた。
「ええ、その通りよ。だけど『3番目の島』に行く途中で、偶然、知り合いに出会って……。
 その人は以前、私が仕事を請けた依頼人なのだけれど……また、トラブルに巻き込まれたらしいの。
 それで、相談を受けてこのホテルに一緒に来たのよ」
「では、その依頼人とわたくし達……二度も偶然が重なって出会ってしまったと?
 ……にわかには信じられませんわね」
セレスさんが射るような視線を、まともに霧切さんの顔に注ぐ。
普段は冷静な霧切さんも、さすがに居心地が悪そうだ。……ボクは助け舟を出したくなった。
「ねえ、その依頼の話……もう少しだけ詳しく話してくれないかな?
 いや、探偵の守秘義務があるとは思うけど……絶対に、ここだけの秘密にするから」
ボクの提案に、霧切さんは口を噤み……重苦しい沈黙の後、ようやく口を開いた。
「……わかったわ。あなた達の人柄はよく知ってるし……話せる範囲でなら」

「日本からこの島に来た女の子が一人、いなくなってしまったの。
 ……今のところ、誘拐事件の可能性が高いわ」
「!? ゆ、誘か──」
思わず声を上げてしまったボクの口を、素早く霧切さんの手──黒皮の手袋が塞いだ。……すぐに謝り、先を促す。
「その女の子はこのホテルに泊まっていて……別の部屋で脅迫状めいた物も見つかっているの。
 それで、その子の保護者のような立場の人から依頼を請けて……」
「脅迫状ですか……。それは、どのような内容ですの? 出来れば現物を見たいものですわ」
セレスさんは、まだ霧切さんの話を信じていないようだ。冷めた目で、ようやくカップを口に運ぶ。
それは流石に無理だろうと思ったが……霧切さんは思い切りよく、懐から取り出した紙をテーブルに広げて見せた。

   『 こんやのショーを中止しろ 警さつに知らせなければ 安全は保障する 』

……日本語だ。雑誌か新聞の切り抜きらしい文字をいびつにツギハギして、文章が作られている。
これは、どう見ても脅迫状じゃないか……! それにしても、“今夜のショー”……?
「……なるほど、わかりましたわ。確かに、こんな物を事前に用意しているはずがありませんものね。
 あなたの話を信用しますわ、霧切さん」
セレスさんが大きく頷くのを見て、霧切さんは安堵のため息をついた。
何が二人の関係を緊張させていたのかわからないが……これで一安心だ。
ボクもほっとしたついでに……気になる事を霧切さんに尋ねてみた。
「あの……ところで“今夜のショー”って、もしかして日本舞踊の?」
「……知っているの?」
「知っているも何も、わたくし達が今夜招待されているショーですわ。
 主役は日本舞踊の若き天才。確か名前は……ヒヨコ──」
「“西園寺 日寄子”……この子よ」
霧切さんが言いながら、ポケットから一枚の写真を取り出した。
写真は、何かのパーティーの時に撮られた物のようだ。
グラスを持った和装の大人たちの真ん中で、花柄の着物を着た女の子が楽しげに笑っている。
……ボクは、また思わず声を上げてしまった。
「この子、さっきの……!」
間違いない。写真には、さっき中庭でボクにぶつかってきた、あの生意気な女の子が写っていた。


「さっきって……苗木君、彼女に会ったの? どこで?」
霧切さんの声が、一気に熱を帯びる。
どこでも何も、ここの中庭で──答えようとした時、今度はセレスさんの手がボクの口を塞いだ。
──ぱちんっ、と鋭い音が鳴る。……これじゃ、ほとんど平手打ちだ。
セレスさんは「あら、失礼」とだけボクに言って、霧切さんの方に向き直った。
「……その前に。誘拐されたというのは、その西園寺日寄子さんですの?」
「それは言えないわ」
霧切さんは即座に言い返す。この先は探偵の領分で、話せないという事だろう。
ボクは納得したが……セレスさんはそう思わなかったようだ。にやりと不敵な笑みを浮かべる。
「でしたら、わたくし達もこれ以上は話せませんわ。……依頼の件、どうぞ頑張って下さいな」
「そんな……セレスさん……!」
霧切さんが抗議の声を上げる。ボクはどういう意図か測りかねて、もごもごと口を動かすだけだ。
「わかっていますわ、探偵に守秘義務があるというのは。そこで一つ、提案がありますの。
 わたくし達を、霧切さんの指揮下にある捜査員という事にして下さい。
 ……それなら、話せますわよね? もちろん、ちゃんと捜査にも協力しますから──」

霧切さんは黙り、考え込んでしまった。その隙に、声をひそめてセレスさんに問い質す。
「ど、どういうつもり? そりゃ、友達の役に立てるのは嬉しいけど……」
「だって、先程、霧切さんにあらぬ疑いをかけてしまいましたからね。せめてもの罪滅ぼしですわ。
 それでこそのフェアプレー……。それに──もっと役に立てば、彼女に“貸し”を作れますでしょう?」
にっこりと──可愛らしい、無邪気な笑み。なのに、何故かぞくりとした。

「──わかったわ。じゃあ、全部話すから。その代わり、全面的に捜査に協力して貰うわよ」
霧切さんは決断したようだ。果たして、彼女はセレスさんの思惑に気づいているのか……。
「うふふ……交渉成立ですわね。では苗木君、話して差し上げなさい」
……何はともあれ、許可は出た。ボクは軽く咳払いをして口を開いた。
「さっき……霧切さんと会う少し前だから、10分ぐらい前かな。
 ここの中庭で、どこかから走ってきた西園寺さんとぶつかったんだ。
 やけに慌ててたみたいで、すぐにどこかに行っちゃったんだけど」
ボクの証言をセレスさんが補足する。
「そう、確か『急いでいる』ような事を言っていた気がしますわ。“逃げるように”いなくなってしまいました」
この証言を聞いて霧切さんは目を見張り、すぐに考え込むように俯いた。
「行方不明になった後に……一人で? まさか、誘拐犯から逃げてきたのかしら……?
 ロビーに助けを求めるはずが、10分経っても現れない……という事は──」
場に緊張が走る。……こうなると、一刻の猶予も無い。ボクらはすぐに捜査を始める事にした。


「時間が惜しいから、移動しながら事件の概要を話すわね。……こっちよ」
喫茶スペースを出て、足早にロビーの隅の方へと向かう霧切さんの後を追う。
私も、まだ捜査を始めた所なのだけれど──と前置きしてから、霧切さんは話し始めた。
「まず、行方不明の女の子。察しの通り、日本舞踊家の西園寺日寄子さんよ。
 依頼人は日本舞踊の名門である、西園寺家で働く女性で……まあ、専属のマネージャーという所かしら。
 基本は裏方として日本舞踊の興行を支える一方、西園寺さんの身の回りの世話も任されているらしいわ」
「……なるほど。今夜のショーに出演する西園寺さんに同行していらしたのですね?」
セレスさんが歩きながら相槌を打つ。ボクもその隣で一人頷いた。
「ええ。もちろん、マネージャー一人だけではなくて、他にも大勢スタッフを連れて……昨日からね。
 それで、西園寺さんは一人でこのホテルに泊まっていたそうなの。……ここ、結構グレードが高いでしょう?
 主役はともかく、スタッフまでここに泊まると、かなりお金がかかっちゃうから」
……一瞬、一泊いくらなのか聞きたくなったが、やめておいた。
値段を聞いたら、ここに連れてきてくれたセレスさんに、益々頭が上がらなくなりそうだ。
「マネージャーさん達スタッフは、西園寺家の初めての海外公演という事で、
 この島に着いてからずっと、準備に追われていたらしいわ。必然的に西園寺さんは一人になる時間が多くなって──」
──そこを誘拐犯に狙われた、か……。
「こっちよ。このまま入って」
霧切さんは、ロビーの一角にある廊下に近づき、通路を塞ぐようにしてポールの間に張られたロープ──
──映画館の入り口なんかでよく見るやつだ──をくぐった。
「……あれ、中庭に行くんじゃないの?」
「10分も経っているようでは、西園寺さん──と犯人は、とっくに移動しているはずよ。
 もちろん後で調べるけど……まずは事件の流れを追いましょう」
廊下の先はすぐ、下り階段になっていて、目の前に立派な両開きの扉が見えた。
この感じだと、この先にあるのは──劇場か?

扉を開けると、その向こうにはまた廊下が伸びていた。思ったよりかなり広い。
「この奥に、今夜のショーの会場と、西園寺さんが使っていた楽屋があるわ。
 ……最後に西園寺さんが目撃されたのは今日、その楽屋に入った所までよ」
「つまり、こちらの楽屋で誘拐された可能性が高いという事ですわね……」
セレスさんが頷く。……その横で聞きながら、ボクは妙な違和感に襲われていた。この廊下、何かおかしい……?
真っ直ぐに伸びる廊下は広く、とても明るい。それは、天井近くに窓がずらりと並んでいるからで、
そこから南国特有の強い日の光が降り注いで──
「……ここ、地下だよね……?」
──違和感の正体は、日光だ。霧切さんに向かって尋ねると、彼女は事も無げに答えた。
「半地下の構造になっているみたいね。……方向と距離からして、ここの上は中庭じゃないかしら」
……そうか、半地下……。謎が解けてみれば、大した事はない。窓は採光と換気の為に、付けられているのだろう。
窓の一つの真下には、大きな観葉植物の鉢植えまで置かれている。確かに、ここなら枯れる心配もない。

廊下の突き当たりにはまた立派な扉があって、その先のホールがショーの会場になる予定らしい。
手前でT字に分かれた廊下はそれぞれトイレと楽屋に続いているそうだ。
「ホールでは、今朝からずっと複数人のスタッフがショーの準備をしていたそうだから、事件との関連は考えられないわ。
 トイレにも不審な点はなし。……この点からも、楽屋が重要なポイントになりそうよ」
霧切さんはそう言って、迷う事無くT字路を右へと曲がる。

──そして、問題の楽屋の前に着いた。
「依頼人の話によると、今朝、西園寺さんをこの楽屋に連れてきて、衣装を合わせたり打ち合わせをしたそうなの。
 それで、自分は別の仕事の為に西園寺さん一人を残して出て行った。
 それからお昼になって、様子を見に来たら西園寺さんがいなくなっていて、
 テーブルの上にさっきの“脅迫状”が置いてあった……要点をまとめると、こんな所かしら」
「ちなみに依頼人──マネージャーさんは今、どうしてるの?」
「警察に知らせて西園寺さんの身に万一の事があってはいけないけれど、
 本当にショーが中止になれば西園寺の名前に傷がついてしまう。
 どう対応すべきか、日本の西園寺家と電話で相談しているらしいわ。
 ──西園寺さんのご家族は、事情があって今回の公演には同行出来なかったそうなの」
それは……さぞ心細い事だろう。家業とはいえ、あのぐらいの年齢で、家族と離れて単身海外に──
おまけに卑劣な犯人に誘拐されて……今頃、どこかに監禁されて、一人で震えているに違いない……。


楽屋のドアを開けるなり、霧切さんから指示が飛ぶ。
「そこ、踏まないように気をつけて。重要な証拠になるかもしれないわ」
見れば床に張られたカーペットに、何か硬くて重い物を引きずったような線が一筋、ついていた。
──これは……誘拐犯が西園寺さんを引きずった跡か? それにしては──
線は部屋の隅からドアの方向に続いている。そして元を辿ると、直径30cmくらいの丸い形の痕。
犯人がこの部屋から持ち出した? “硬くて重くて底が丸い物”か……。

他に手がかりは、と見渡してみる。
立派なソファの上にゴチャゴチャと散らかった荷物の中には……いくつもの華やかな着物に帯、かんざし。
これはどう見ても、西園寺さんの荷物だ。犯人が荒らしたのか……。
「あ、それは西園寺さんが自分で散らかしたみたいね。
 依頼人によると周りの人が片付けるのがいつもの事で、特に盗まれた物もないようだし」
霧切さんの言葉で、ガックリと気が抜けた。……日本舞踊の天才少女と言っても、やはり子供っぽい所もあるみたいだ。
「あらあら、こちらにはお菓子の包み紙が落ちていますわ。……全く、困った子ですわね」
セレスさんが床から拾い上げた紙を見せてもらう。──和紙のような材質で出来た、上等な包み紙。
どんなお菓子だったのか妙に気になってソファの上を探してみると、案の定、空の木箱が見つかった。
白木の箱の蓋にはボクでも知っている、老舗の高級和菓子店の焼印が押してある。
「西園寺さんはお菓子にはうるさい方で、本当にいいお店の和菓子しか食べないそうよ。
 それ、東京の有名なお店の箱よね。私も一度買った事があるけど、確かに美味しかったわ」
うっとりとした表情を浮かべる霧切さんだが……ボクとセレスさんの視線に気づいて我に返り、頬を赤らめて咳払いをする。
女の子は、やっぱり甘い物に目が無いんだな、と微笑ましく思う。セレスさんの方を見ると、彼女は冷めた目で答えた。
「わたくしは、洋菓子の方が好きですわ。そちらの方が紅茶には合いますもの」
そういえば、こっちの女の子もかなり“うるさい方”だった。前にもミルクティーを淹れたら──
──って、今はそれどころじゃない。苦笑して、意識を捜査に戻す。
……この箱と包み紙の大きさからして、入っていたお菓子が一つという事はなさそうだ。
そのわりに包み紙は一枚しか見当たらない。まさか、犯人が誘拐のついでに盗んだのか……?

「この机の上に、脅迫状が置いてあったそうよ」
霧切さんが指差す先のテーブル上には、今は不審な点は見当たらない。
「あの脅迫状……日本語でしたわね? という事は、“犯人は日本人、もしくは日本語に堪能な人物”……。
 霧切さん。もしかして、犯人に心当たりがあるのはありませんか?
 ほら、先程おっしゃていたでしょう。依頼人は『“また”トラブルに巻き込まれた』、と」
セレスさんの問いに、霧切さんは微かに笑う。
「鋭いわね、セレスさん。……そう。以前にも悪質な嫌がらせを受けた事があるのよ、西園寺さんは……」
霧切さんが語った所によると──日本舞踊の世界にも、色々な派閥、複雑な人間関係があって……
華やかな舞台の裏で、ドロドロとした争いが日夜繰り返されているらしい。
若くして才能を認められた西園寺さんは特に苛烈な妬み、嫉みの嵐に晒される事になり……
警察沙汰とまではいかなくても、探偵の霧切さんが捜査に乗り出すほどの嫌がらせを受け続けてきたんだとか──
「……なるほど。西園寺さんの活躍を疎ましく思った日本舞踊界の人間が、海外公演を潰しにかかっている……と。
 いかにもありそうな話ですわね……」
セレスさんが何度も、大きく頷く。
「ここのロビーのマガジンラックから、日本語の雑誌や新聞がごっそり消えているのを確認しているわ。
 いつ、誰が持ち出したのかは不明だけど、あの脅迫状はホテル内で作られた可能性が高そうね」
“脅迫状はホテル内で作られた”……この情報も、頭に刻み込んでおく。


楽屋の捜査はこんな所だろうか。今の時点では犯人の正体は見えないが、重要な情報をいくつも得たように思う。
「……後は、密室状況の問題ね」
霧切さんが独り言のように呟いた。……それは初耳だ。どういう事か聞き返す。
「実は、この地下のエリアからの出口は、私達が通ってきた扉しかないのよ。
 犯人が西園寺さんを連れ出せば必ず、ロビーのホテルマン達の視界に入るはず……。
 でも、彼らは『女の子が扉に入ったのは見たが、出たのは見ていない』と証言しているわ」

……!! それは、おかしい。ボクとセレスさんは確かに、中庭で西園寺さんと会ったんだから。
「何だかお話が推理小説じみてきましたわね……。ちなみに、推理小説ではどのような手を使うのですか? 霧切さん」
セレスさんの質問に、何故か霧切さんは目を輝かせて答える。
「それは、色々なバリエーションがあるわね。例えば、“荷物に被害者を詰めて持ち出す”……
 ──これは今回の事件には当てはまらないわ。人が入れる大きさの荷物は持ち出されていないそうだから」
推理小説か……。そう言えば、ボクも古い作品を一度読んだ事がある。……漫画で。
「“ホテルマンが全員グルだった”──っていうのは?」
「ああ、あの“あまりにも有名なトリック”ね。だけど、ここではあまりに現実離れしているわ。
 やたらに共犯者を増やしては危険だし、ホテルマンは全員外国人で、日本舞踊界との利害関係は考えにくい。
 ……何より、そんなのは反則よ。あのトリックは、あの作品だから許されるのであって──」
……話が横に逸れてしまったようだ。軌道修正していくつかのトリックを聞いたが、どれもピンとこない。
正面突破は、やはり難しいようだ。と、いう事は残る可能性は──
「窓から出た、としか考えられませんわね」

セレスさんの言葉を受けて、ボクらは廊下の窓の下にやってきた。
窓の高さは床から2メートルぐらい。背が低いボクでも何とか縁に手が届くぐらいだから、ここから出る事は可能だろう。
窓の先が中庭なのも都合がいい。だが……高さはともかく、幅が狭い。並の大人が通るのはかなり苦しそうだ。
しかも西園寺さんをかついで、となるとこれは完全に不可能だろう。
「ここ以外に、窓はありませんの?」
セレスさんが霧切さんに尋ねる。
「ないわ。通気孔ならあちこちに付いているけど、通れるのはネズミぐらいでしょうね」
……すでに調査済みだったようだ。さすがは“超高校級の探偵”……彼女が『密室状況』と言っていた意味が今頃わかった。

犯人の足取りは、途絶えてしまった。
後は、中庭に犯人の痕跡が残っている事を期待するしかないのか……?
それにしても何だろう、この事件は……。犯人が謎なら、地下から出たルートも謎。
どちらかが解決したなら、一気に謎が解けそうな気もするのだが……。
ボクも霧切さんも悩み、押し黙る。一方、セレスさんはもう飽きてしまったのか、
退屈そうに窓の下の観葉植物の葉に手を伸ばした。そして次の瞬間、小さく「あっ……」と声を上げる。
「な、何か思いついたの?」
勢い込んで身を乗り出したボクに、セレスさんは小さく首を振って答えた。
「いえ……すみません。この鉢植え……造花だったのですね。意外だったので、つい……」
言われてみると、良く出来ているが確かに造花だ。
造花? ……何でわざわざ日の当たる窓の下に? 本物っぽく見せる為か? いや──
──その意味を考えるうちに、瞬時に今までのヒントが頭の中で繋がった。
ボクは思わず声を上げ、今度はセレスさんの方がこちらを覗き込む。
「造花……それがどうかしたのですか、苗木君」
「……わかったかもしれない。犯人がここから出た方法……それに──犯人の正体も」
「……確かに、この状況は……。でも、どうして? そんな事をする動機は……」
霧切さんも、気づいたようだ。驚愕と戸惑いの入り混じった表情を浮かべている。


それからボク達が移動した先は──中庭だ。その物置小屋の前に、ボク達はいる。
園芸用具が置かれた小屋は倉庫としての役割が強いらしく、案の定、無人で扉に鍵もかかっていない。
ボクは扉の外から、薄暗い小屋の中に向かって声をかけた。

「……西園寺……日寄子さん。いるんだよね? 皆、心配してるよ。もう出てきて──」
言い終わらないうちに、闇の中で小さな影がゆらめく。
それは逡巡するようにゆらりゆらりと動き続け……ようやく、影の主が奥から顔を覗かせた。
「まあ。本当に、ここに居たのですね」
セレスさんが驚きの声を上げる。
影の主──西園寺日寄子さんは、前に会った時と同じ着物姿で、どこも怪我していなければ縛られてもいない。
ただ不機嫌な表情で、不審そうにこちらを睨んでいた。
……そう。全ては西園寺さん自身が仕組んだ、狂言誘拐だった。
捜査の過程で見つけた証拠が、それを物語っている。

窓の下に置いてあった観葉植物──なぜ造花を窓の下に置く必要があったのか?
答えは、犯人が窓から出る時に“踏み台にした”から。
そして元々は楽屋に置いてあった鉢植えを、窓の下に運んで踏み台に使わざるを得ないのは、
『何とか窓の縁に手が届く』ボクよりも、『かなり小柄な』人物……西園寺さん本人に他ならない。
西園寺さんが単独で、人目を避けてわざわざ窓から脱出したとすれば、他の事にも説明がつく。
楽屋から消えたお菓子は、自分で食べる為に持ち出した。
脅迫状も、このホテルに一人でいる時間が多かった西園寺さんなら簡単に作れる。

「……何で、ここにいるってわかったの?」
搾り出すような声で、西園寺さんが言った。
「そんな目立つ格好じゃ、ロビーどころか中庭からも出られないだろうと思ったから。
 それに、ここに隠れているだけでも君の目的は果たせるだろうしね」
彼女の目的は──脅迫状に書いてあった、“今夜のショーを中止させる”事に違いない。
ショーが中止になるまで物置小屋に隠れているつもりだったはずが、
外の様子が気になって、こっそりロビーを覗きに行った時にボクとぶつかってしまったのだろう。
「……とにかく、依頼人──マネージャーさんを呼んでくるわね。
 もう、大丈夫だとは思うけど……二人は西園寺さんを見ていて頂戴」
霧切さんが颯爽と歩き出したのを見送って、ボクは西園寺さんの方に向き直った。

「わからないのは、どうしてショーを中止させたかったのか──西園寺家にとって、大事な舞台だったんだよね……?」
……天才舞踊家は、不機嫌な顔のままむっつりと黙り込んでいる。代わって、セレスさんが口を開いた。
「大方、ホテルの部屋が気に入らない、とかつまらない事で駄々をこねただけでしょう。
 身も心もまだ幼い、コドモのワガママですわね」
トゲのある、小馬鹿にしたような口調。西園寺さんの顔がみるみる怒りで赤くなる。
「違う、そんなんじゃないッ!! こんなショーなんか、意味が無いから、無くなっちゃえばいいんだッ!!
 ……パパが、絶対来てくれるって、言ったのに……!」
お父さん……? そう言えば、霧切さんが『西園寺さんの家族は事情があって来られなかった』って──
そんな理由で、こんな騒ぎを起こしたっていうのか? いくら何でも、これは……。
半ば同情しつつも、つい反論しかけると、セレスさんがそっとボクの肩を掴んだ。
「……他人から見て、どんなにつまらない理由でも、彼女にとってはそれほど大切な事だったのでしょう。
 ……少し、わかるような気がしますわ。先程の発言は撤回しましょう」
セレスさんが初対面の女の子を庇うなんて……かなり意外だったが……言われてみると、ボクにもわかる気がした。
いつでも真剣に……絶対に譲れないものを、持っている人が……ボクのそばにもいるから……。
……だけど、今回の手段は、やっぱりいけない。
西園寺さんの譲れないものが大切な家族への想いなら、これじゃ、かえって──
──その先の事は、わざわざボクが言うまでもなかった。

後ろの方でばたばたと派手な足音がして思わず振り返ると、霧切さんと一緒に……初めて見る人達がいた。
一人は、地味な色のスーツを着た女の人。すぐ後ろに霧切さんが立っているから、
この人が依頼人のマネージャーさんか。彼女は、心底ホッとしたような顔をしている。
そして、もう一人……男の人が、この世の終わりのような真っ青な顔をして立っていた。
彼は西園寺さんの方をだけを見て……次の瞬間、駆け出して、彼女を思い切り抱きしめる。
そして、そのまま人目を憚らず、大声を上げてわんわん泣き出した。
はじめは戸惑っていた様子の西園寺さんも、ついには同じように泣き声を上げる。
……この男の人が、西園寺さんのお父さんに違いない。
ボクが何か言うまでもなく、西園寺さんも痛いほど理解しただろう。
自分の行動が、大切な人をどれだけ傷つけてしまったのか……。


「西園寺さんのお父さんは、最初は今回の公演に同行する予定だったはずが……
 義理のお母さん──西園寺さんのお祖母さんね。お祖母さんが急に体調を崩して寝込んでしまったので、
 やむを得ず日本に残ったそうよ。……けれど、愛娘が誘拐されたと聞いて、居ても立ってもいられず飛行機で──」
それで、さっきの光景に繋がるわけか。霧切さんの複雑そうな表情が少し気になるが……納得した。
当のお父さんは、ボクらに何度もお礼を言ってから、マネージャーさんと一緒にチェックインカウンターに向かった。
今夜は西園寺さんと同じ部屋に泊まろうと、その手続きをする為に。
結果的には希望が叶い、これには西園寺さんも大喜びだった。
「あの……色々、その……ごめんなさい。探偵さんも、ありがとう……」
泣き腫らした目を擦りながら、照れ臭そうに西園寺さんが言った。
ボクらの方も何だかむずがゆい思いをしながら、頷きを返す。

「それで……お父さんも来てくれたし、夜のショーにはちゃんと出るから。……おにぃ達も、良かったら観に来て」
もちろん、そうさせて貰おう。ボクの隣でセレスさんも大きく頷いている。
「ええ、そのつもりですわ。……うふふ、結構可愛らしい所もあるじゃありませんか。
 ……最初は、生意気でワガママで、どうしようもないクソガキかと思いましたのに」
さらりと飛び出す猛毒。正直な感想なのだろうが……これは正直すぎたようだ。一瞬で西園寺さんの感情に火がつく。
「はああああ!? こっちだって、最初はイタい格好した、きっつい性格の鬼ババァかと思ったもんねー!」
「……イタい格好? それは聞き捨てなりませんわね。あなたの方こそ、ご自分の姿を鏡に映してごらんなさいな」
「な、何言ってんの!? どう見たって、おねぇの方が──」
……不毛な口論は続く。ボクはそれを隣で眺めながら、思わず呟いていた。
「……二人とも、何か似てるね。姉妹みたいだ」
「ちょっと、やめてよ!!」 「全然似てませんわよ!!」
ステレオの反論をきっかけに、今度はこちらに矛先が向く。
「だいたい、何だよその格好ッ!? 何で外国に来て学生服なの!? 修学旅行気分!?」
「そうですわ、着替えるチャンスはいくらでもあったでしょうに。あなたも、たまにはセンスのいいお洋服を──」
毒舌二人によるマシンガンのような口撃。ボクは反論の隙さえ与えて貰えない。
助けを求めて霧切さんの方に視線を送るが、彼女は呆れたように肩をすくめるだけだった。
あ、あれ……? 何でこんな流れに……?
ボクは結局、二人にショーが始まる直前まで責められ続けた……。

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