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「これはいらないな。これは……うーん、持っておこう」

目の前に『いるもの』『いらないもの』と書かれた二つのダンボールに並べて選別作業をすること1時間。
思うように作業は捗らなかった。
そんな中、玄関のドアが開く音が聞こえ人の足音が近づいてくる。

「……ただいま。あら、まだ引越しの準備が終わらないの?」
「あっ、響子さん。おかえり」
「明日の朝には業者が来るのよ、大丈夫なの?」
「うん、そうだけどさ……。やっぱり思い出深いモノだから捨てるか捨てないかで迷うんだ」
「これは……」

響子さんと一緒に箱の中を覗き込む。
そこには希望ヶ峰学園の購買部で手に入れたモノモノマシーンの景品の数々が入っていた。


~ いまから ここから ~


明日、僕はこの単身者用マンションから新居のマンションに引っ越す。
しかも2LDKとグレードアップした物件に。
もっとも、僕一人で住むわけではなく目の前の響子さんと一緒の共同生活になるわけで。

思えばプロポーズ紛いの言葉をした時からトントン拍子で転居の話が進んでいたなぁ――。
手続きや段取りとかは響子さんに任せっきりで、気づけば僕の荷物をまとめるだけに至っていたし。
因みに響子さんの方は既に引越しを済ませており、こうして必要最低限の手荷物だけを持って明日の引越し作業を手伝いに来てくれたのだ。


「やっぱり、何だかんだで思い出のある品だから捨てるに捨てられないかなぁ……なんて思ったり」
「仕方ないわね……。明日の引越しに影響を及ぼすと悪いから私も手伝うわ」
「ありがとう。じゃあ早速、緑と赤の着ぐるみとかどうかな? 僕らの部屋着に「いらないわね、コレは」……バッサリ!?」
「夏場はとても着られたものじゃないでしょう?」
「そうだけどさ……」

個人的には奇抜なデザインで有効利用できそうだと思ったのに――と、ションボリしていると響子さんがバッグの中をゴソゴソと漁り何かを取り出す。
すると僕の目の前に一着の服を取り出した。
右側が白い生地、左側が薄ピンクの生地のデザイン。
うさ耳フードにオムツの部分がポケットって、凝っているな――!

「私の方でモノミの姿を模したパーカーが2着あるからそれを使いましょう」
「ええっ!? そんなもの製品にしたの!?」
「私も十神君のアドバイスの元、サイドビジネスを展開したの……」

そう言ってドヤ顔で親指と一指し指でアルファベットの"O"の字を作る響子さんだった。

「山田君が参加していたイベントに出展したら予想以上の売れ行きで。確か……ゴミケって言ったかしら?」
「コミケね、コミケ。産業廃棄物みたいな呼び方したら山田君も草葉の陰から泣いちゃうから」

しかしモノミのパーカーか。
こんな格好でゴミを捨てたり、近所のコンビニへ買い物に行ったりしたら――。

"ちょっと奥さん見て! ご近所の苗木さん、いい大人がちょっぴりスイートでミルキーな格好しているわ!"
"やーね、田中さん。そんな大声を出しちゃ本人に聞こえちゃうじゃない、オホホホホホ……"

うーん、結構度胸のいる行動だったりするんじゃないかな、コレ――?


「じゃ、じゃあさ! インテリアの小物としてこれらを持ってっていいよね?」
「水晶のドクロ、黄金のスペースシャトル、スカラベのブローチ……却下よ」
「えっ、どうして!? 十神君には受けが好かったのにな……」
「彼の嗜好品を真似たところで部屋のインテリアが豪華になるとは限らないの。それにお金では買えない価値が世の中にはあるわ。誠君、ここまで言えばわかるわね?」
「あー……なるほど」

響子さんの方で持っている品々をインテリアにするってわけだね。
その辺は響子さんに任せておこう。

その後も響子さん主導の下、いるものといらないものの選別が進む。
そして、箱の底に封印されるようにソレはあった――。

「……あら? これは何かしら?」
「げっ!?」

まさかの"動くこけし"だった。
過去、マッサージ機だと思って朝日奈さんにプレゼントしたらドン引きしてつき返された黒歴史の逸品だ。

「これは……要るわね」
「うっそーん!?」
「こけしは日本の民芸品の一つじゃない、リビングに飾りましょう? ……でも、このコードが何だか無粋ね」
「いや、その、これって別の用途に使う道具であってさ……」
「あら、そうなの? どんな目的で使うのかしら?」
「それは、その……ねぇ?」
「はっきり言いなさい、私はエスパーじゃないんだから」

察してもらえない辺り、まだ「ツー」と「カー」で通じ合える僕らではなかった――。


―――――


代金を店員に渡し、受け取った2つの丼をお盆に載せる。

「はーい、お待たせ」
「ありがとう。……でも、さすがに疲れたわね」
「うんうん。さぁ、伸びないうちに食べよう! いただきまーす」
「いただきます」

丼の上に包まれたラップを剥がすと勢いよく立つ湯気。
香ばしいつゆの香りが食欲をそそらせ、僕らは割り箸を割る。
そして二人して黙々と天ぷら蕎麦を啜り、重労働で空腹になった胃袋を満たすのだった。

新居に無事荷物を運び終え、明日の仕事に必要なスーツなどの衣類と寝具類を取り出したところで一区切り。
明日以降は響子さんが当直勤務までの間に、僕は仕事が終わった後にそれぞれ荷物の収納行うことにした。

「それにしても日本には不思議な風習があるのね。日本人は引越しをすれば必ず蕎麦を食べるものなの?」
「必ずってわけじゃないけど、縁起を担ぐっていうのかな?」
「縁起を?」
「うん。"蕎麦"と"傍"を引っ掛けて"おそばに末長く"とか"細く長くお付き合いよろしく"って意味合いがあるんだ」
「へぇ、そうなの……」
「本当はご近所に蕎麦を振舞うのが正しい習慣だけど、僕らのところにはお隣さんがいなかったからね」

食器類も出してないことでペットボトルのお茶で喉を潤しながら雑談する。
もちろん冷蔵庫には食料も入っておらず、朝食と昼食は通勤時に購入する段取りだ。
そこへお風呂が沸いたことを告げるアラームがリビングに響いた。

「響子さんからお先にどうぞ。僕が丼とか片付けておくから」
「ありがとう、それじゃあいただくわ」

そう言って旅行用のシャンプーとリンスが入ったポーチを抱えて浴室に行く響子さんを見送る。
一緒に入りたい気持ちもあるけれど、明日は僕だけ仕事が早いだけに夜更かしは控えたほうがいいだろう。

残ったつゆを流しに捨て、水で軽く濯いだら玄関の外に丼を重ねる。
次は仕事帰りに買う物のリストを洗い出し、メモ帳に書き込んでいく。
ある程度書き終えたところでバスタオル姿の響子さんが浴室から出てきた。

「……ふぅ、気持ち良かったわ。あなたも早く入りなさい」
「うん。そうするよ」

入れ替わる形で浴室に入り、脱いだ服を洗濯籠に入れて湯船に浸かることにしたのだった――。


―――――


入浴という名の命の洗濯を終えるとリビングの電気は消されていた。
なので右隣にあるドアを開ける。6畳ほどの大きさの洋室にダブルベッドが一台鎮座された寝室だった。

「はい、着替え」
「ん。ありがとう……」

彼女から着替えを受け取り、下着を身に着ける。
次に響子さんの着ているものと色違いのパジャマに袖を通し、バスタオルを椅子の背もたれに仮置きさせる。
最後は部屋の隅にあるコンセントにドライヤーのコードを差し込み濡れた髪を乾かす。
ドライヤーのコードを引き抜き振り返ると、ベッドの上で響子さんは何と三つ指をついて頭を下げていた。

「っ!? ……何やってるの、響子さん?」
「腐川さんが"初日の夜にはこういう風に迎えた方がいい"ってアドバイスをもらったの」
「そ、そうなんだ……」
「あと"どうぞ末永く可愛がってくださいませ"って言えばいいとも言っていたわ」

何てこと吹き込んでいるんだ腐川さん!
危うく押し倒すところだったじゃないか――! 

「まぁ、その、こちらこそよろしくお願いします……」
「よろしく。さぁ、誠君。もう寝ましょう?」
「うん」

二人して三つ指をついて頭を下げ終えたら体を掛け布団の中に潜り込ませる。
枕元にあったリモコンを押して蛍光灯から常夜灯に切り替えた。

「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい……」

枕を寄せ合い、二人して見慣れない天井を眺める。
今までよりも広いベッド、異なるシーツの感触。
そんな違和感も重なってか、体は疲れているのに中々寝付けなかった――。


「……ねぇ、響子さん。まだ起きてる?」
「なに? 眠れないの?」
「うん……。やっぱり1日目の夜って何だか寝付けないなって」

希望ヶ峰学園の寄宿舎に入寮したその日の夜も、今の未来機関に所属することになった日の夜もそうだった。

「もちろん、コロシアイ学園生活の時みたいに不安なことが頭の中をグルグル回って寝付けないって意味じゃないよ」
「不思議よね……。以前のようにあなたの部屋で寝泊りした感覚とは異なる感じがするわ」
「これも慣れれば気にしなくなるんだろうな」
「そうね。仕事の都合もあるけれど、家に帰るとあなたが出迎えてくれる日々が毎日続くのね……」
「うん。でも毎日一緒にいることで、これからも些細ないざこざやすれ違いでケンカもするだろう……。けれど、ちゃんと仲直りしようね?」
「もちろんよ。誰だって殺伐とした共同生活を望まないわ」
「それで今よりもっと仲良くなろう。今以上に響子さんのことが好きになるような関係を育んでいきたいな」
「それは素敵な関係ね……」

どちらともなく手と手を繋ぎ合わせ指を絡ませる。
その合図と共にお互い顔を寄せてバードキスの応酬をする。
一通り満足したら何だかおかしく思えて、二人してクスクスと笑う声が寝室に響く。


「……フフッ。永遠の愛を誓うよりも、こうやって毎日コツコツと愛を囁く方が現実的ね」
「そうだね。積み重ねが大事なんだよ、きっと」




―――――


苗 木   誠
霧 切  響 子

そのように記された表札を一瞥してから玄関のドアを開ける。

「ただいまー」

右手に食料品、左手に生活雑貨が入ったビニール袋を玄関に下ろす。
ふー、重かったな――。

リビングを見るとある程度ダンボールから荷物を出し終えた感じがする。
その片隅にショーケースに納められた品々があった。
イン・ビトロ・ローズ、アンティークドール、蝶ネクタイの変声機――。
何れもコロシアイ学園生活で響子さんにプレゼントしたものだ。
そして――。

「げっ! これは……!」

まさかの"動くこけし"も一緒に飾られていたのであった。
ツールボックス

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