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「みんなは悪くない。悪いのは全部黒幕だ。」

モノクマからの不正のお仕置きにより地下へと追いやられた苗木誠は、霧切響子の救出によって生き残りメンバーである他の4人との再開を果たし、
改めて黒幕と、真実を向き合う意志を固めていた。そんな矢先の一言だった。
「待て・・・何か匂うぞ・・・」
「苗木から洗ってない犬の匂いがする!」
「マジだな・・・臭いべ・・・」
「あ、あっち行きなさい・・・しっ、しっ!」
十神白夜、朝日奈葵、葉隠康比呂、腐川冬子ら4人全員から苗木は異臭を指摘されたあげくに、距離を置かれた。無理もない。彼は今までゴミだらけの地下室に居たのだから。
「ひ、酷いよみんな!せっかくまた会えて感動してたのに!」
臭い臭いと連呼されては感動どころではない。先ほどまで瞳を潤ませていた苗木は4人を非難した。しかし、戻ってきたんだと実感を得ることが出来嬉しくもあった。
「と、とりあえず捜査の前に僕はシャワー浴びてくるよ・・・」
苗木は少し残念そうに肩を落としながら4人の居る食堂に背を向けてとぼとぼと自室へ向って足を進めた。
「はぁ。自分でも臭いんだからそりゃあ臭うのはわかってはいるんだけれど、みんなからあんなにハッキリと言われると流石にヘコむなぁ。」
息を吐きながら、”ナエギ”と書かれたプレートがかかったドアを開けようと彼が手を伸ばしたときだった。
「苗木君。」
後ろから聞き慣れた落ち着いた声が彼を呼ぶ。霧切だ。
「霧切さん。ごめんね、自分でも分かってたんだけど僕すごく臭ってたよね。」
「どうして、謝るの?」
「えっ?」
「あなたはあのゴミだらけの地下に追いやられてしまったのだから、それは仕方のないことでしょう?あなたが謝ることではないわ。それに―」
彼女はいつものように事実を挙げて苗木に非がないことを言葉にしていくが、急に口ごもり目をそらした。雪のように白い頬を染めているように見える。
「私も、頭にゴミを付けて格好悪い姿を見せたわけだし・・・その、お互い様じゃないかしら?」
冷静でいつもどおりに見えていただけで、かなり気にしていたのか―
苗木は彼女の心情を少し知ることが出来たと嬉しく思うと同時に、可愛いとさえ思えた。初めて会ったばかりの時だったら気づかなかったかもしれないが
、霧切は少し目を泳がせながら俯き、相当恥ずかしがっているようだった。そんな彼女に苗木はすぐに反論した。
「それは違うよ。」
「えっ?」
「僕は一度も霧切さんを格好悪いだなんて思ったことはないよ。そりゃあ頭にカップ麺をかぶった姿は格好いいとは言えないけれど、
むしろ僕は普段だったら絶対に見れない霧切さんの姿可愛いと思ったから」
「は?・・・か、かわ・・・?」
予想外過ぎたのだろうか。霧切は俯いていた顔をパッと上げ、大きく見開いた目で苗木を見つめた。まさに、目が点になる、といった状態だ。
「あっ、いや、別に僕がゴミを被った女の子が好きだとかそういうわけじゃなくて!その、ええっと・・・ごめん!変なコト言って!」
苗木は霧切の反応を怒ったものと考えて慌てて謝罪の言葉を述べたが、もちろん怒っているわけではなかった霧切はそんな様子の苗木に微笑み返した。
「あなたって、本当におかしな人ね。ふふっ」
口元に手をやり少し下の方を向きながら笑う。
良かった。いつもの霧切さんだ―
そう思うと、つられて苗木にも笑みがこぼれる。
「ははは。・・・とりあえず、僕はシャワーを浴び「ねぇ、苗木君。提案があるのだけれど。」えっ?提案?」
捜査に関することかな―
そんな苗木の考えはあっけなく崩れ去る
私はあなたに許してもらえるなんて思ってないし、許してもらおうとも思っていないのだけれど・・・お詫び、って言ったらいいかしら?
その・・・あなたの背中を流してあげたいのだけれど。」
苗木は自分の耳がおかしくなったのではないかと、咄嗟に耳に手をやる。背中を流す、そう言った?彼女が?いやきっと聞きまちg―
言っておくけれど、あなたの聞き間違いとかではないわよ。私はあなたの背中を流したいと言ったの。・・・これからお風呂に入るのでしょう?」
聞き間違いじゃなかった。霧切のその言葉を聞いた途端苗木の顔は真っ赤に染まり、じわりと大量の汗が吹き出していた。

苗木の頭の中ではいつの日かの”男のロマン”の光景がよぎった。しかし、それを瞬時に振り払った。
「ちょ、ちょっと霧切さん!僕は別に君が悪いなんて全然思ってないし、お詫びだなんて気にしなくても!」
「・・・私が気にするのよ。でも、あんなことをしておいて背中を流すくらいじゃお詫びにもならないわね―」
「それは違うよ!むしろお詫び以上っていうか、すごく嬉しいけど困るっていうか・・・!」
あ、しまった―
「嬉しいの?そう。なら決まりね。・・・大浴場で待ってるわ。捜査もあるから出来るだけ早くしてちょうだいね。」
「えっ!ちがっ、待ってよ霧切さん!」
苗木の必死の声も虚しく、霧切はスタスタとその場を後にしてしまった。
「え・・・・どどどどどうしよう!早くしてって言われても行けるわけないよ!」
そう言いながらも頭に浮かぶのは以前見た彼女の白くきれいなうなじに、スラリと伸びた四肢。その太ももは
程よい肉付きで、理性を失えばすぐに触りたくなってしまう程の魅力があった。苗木はゴクリと喉を鳴らす。
「行くしか、ないかな―」

「遅かったわね。何をしていたの?」
覚悟を決めた苗木が大浴場の脱衣所に入ると、心臓が跳ね上がる光景がそこにはあった。椅子に腰掛けて手袋をしている
手で髪を耳にかけながら、しれっといつも通りの反応を示す霧切だがその姿はいつも通りではない。
ポニーテールに結った髪の下にはうなじが覗き、白磁器のような白く肌理細かい肌を露出させ、想像に違わぬスラリと
した身体に苗木の目は釘付けになる。しかし一点だけ想像とは異なる点があった。
「ご、ごめん遅くなって。あの・・・えっと、霧切さん水着、なんだね」
霧切は黒のビキニを身に付けていたのだ。
「苗木君?ひどく落胆しているようだけれど、私は何かあなたの気を悪くするようなことをしてしまったのかしら?
それならば、謝りたいのだけれど。」
―これはあなたへのお詫びなのだから
霧切はスッと立ち上がり苗木に近づきながら尋ねる。立ち上がった彼女の身体が余計強調され、苗木はつい、上から下を
舐める見てしまう。
「苗木君?」
彼の反応に不審に思ったのか、小首を傾げながら霧切は苗木の顔を覗き込むように自分の顔を近づけた。当然苗木は霧切
のその行為にドキリとし、焦ってしまう。
「あっ、いやっ!な、なんでもないよ!全然大丈夫!霧切さんは何も悪く無いからっ!」
僕はなんてことを考えていたんだ。そりゃあ異性の身体を流すのに、裸なわけがないじゃないか―
苗木は少しでもやましい想像をした自分を叱咤せずにはいられなかった。罪悪感から目をそらしてしまうが、相手が悪かった。観察眼に長けた超高校級の探偵を前にして、あからさまに動揺したままの言い訳は通用しなかった。
「・・・これ、脱いだほうがいいのかしら?」
「はいっ!?」
苗木は素っ頓狂な声を出して彼女を見る。霧切はビキニの紐にそっと手をかけようとしていた。


**************************

「だ、駄目だよっ、霧切さん!!いいから!脱がなくていいから!」
慌てて制止する苗木に対し、霧切はふっと笑みを浮かべて手を降ろした。
「脱がないわよ。相変わらず騙されやすいのね。」
「ええっ!?またからかってたの!?もう、心臓に悪いからやめてよ!」
「ごめんなさい。バカ正直なあなたの反応が面白くてついやってしまったわ。」
「つい、じゃないよもう!水着姿ってだけでもこんなにドキドキしてるんだから!」
上から落ちてきたり、背中を流すと言ったり、そして今度はこれなんだから。今日は霧切さんに驚かされてばかりだ―
苗木は軽く息を吐くと、自分は水着なんて用意してないことに気づいた。ハッと霧切の顔を見ると彼女と目が合う。霧切は
そんな苗木の思考を把握したのだろう。
「別にタオルを巻いてくれれば十分よ。それにこれは・・・お詫びなのだからあなたはそんなに気を遣わなくていいわ。
―わたしの希望とする所が多いかもしれないけれど・・・」
「えっ?ごめん最後のほうがよく聞こえなかったんだけど、なんて言ったの?」
「なんでもないわ。それより早く入りましょう。」
「あ、そうだね」
苗木の気のせいだろうか。そっぽを向いてしまった霧切の顔は紅潮しているように見えた。
「服脱ぐから霧切さん先に入っててよ。あとでちゃんと行くから。」
「・・・わかったわ。それじゃあとで。」
霧切が浴場へ入っていく姿を見届けると、苗木はフーッっと息を深く吐いた。ずっと緊張しっぱなしだったのだろう。
いつも冷静沈着で頼もしい美少女が普段は見せない姿で自分の目の前に居たのだ。その姿を見ているのは自分だけ。
そう思ってしまった途端下腹部の熱を感じて更に後悔するのだった。
「分厚い大きめのタオルを持ってきて良かったな・・・ははっ・・・。」
力なく笑ってひとりごちる。霧切がを待たせている上にハッキリと「行く」と言ってしまった手前、苗木には進む以外の
選択肢はなかった。再び息を吐きながら、彼はようやく衣服を脱いだ。もちろん腰には分厚い大きめのタオルを巻いて。
「よしっ!」
何故か気合を入れて苗木は霧切が待つ浴場へ足を踏み入れた。
浴場は湯気が立ち込めていて気にならない程度ではあるが少々視界が悪い。広い浴場のあたりを見回して霧切の姿を探すと
彼女は湯船に浸かっているところだった。
「霧切さん。待たせちゃったよね、ごめん。」
苗木は頭を掻きながら申し訳なさそうに言う。霧切は湯船から立ち上がると苗木の元へ近寄る。浴場なのだから身体は濡れるし、
体温の上昇により頬が赤みを帯びるのも当たり前だが、苗木は霧切の姿にドキリとせざるを得なかった。
「かまわないわ。自分の体を洗ったりしていたから、そんなに待ってないわ」
霧切はそういうと苗木の手をとった。
「き、霧切さん・・・?」
「背中を流すといったでしょう?ほら、こっちへ来て」
苗木は霧切に促されるままにカランの前へ来た。湯気で鏡がくもって後ろが見えないのは苗木にとって幸か不幸か。
どぎまぎしながら彼が俯いて座っている間、霧切はてきぱきとタオルで石鹸を泡立てる。用意ができると霧切は彼の背中に目を
やった。
苗木君も男の子なのね。意外と背中が広い―
そんなことを考えながら苗木の背中にタオルを当てる。
「っ―!」
苗木はとうとう来た感覚に息を呑んだ。弱すぎず強すぎず程よい加減で、それでいて優しい感覚を背中から得ることが出来た。
「どう?痛くないかしら。自分で言っておきながらだけれど、他人の背中を流すなんてことは初めてなのよ。勝手がわからない
から不快に感じたらすぐに言って。」
「ううん。僕も人に背中を流してもらうのは初めてだけど、丁度いい加減ですごく気持ちいいよ。」
「そう。それならよかったわ」
苗木は霧切が安心したのが分かったし、霧切は苗木が本心から気持いと言ってくれているのが分かった。お互いにお互いの顔が
見えない分、余計な緊張が生じていたのだろう。

少しこの現状に慣れた苗木が切り出した。
「ねぇ、霧切さん。」
「何?」
「いつも助けてくれてありがとう」
苗木の言葉に一瞬だが霧切の手が止まる。
「・・・私はあなたを―」
「言ったでしょ?霧切さんは悪くない。悪いのは全部黒幕だ。あの裁判は不公平でアリバイのない僕も霧切さんも同じ立場だったし、
それこそ仕方のない事だよ。それにこうして僕は生きてるし、霧切さんが自分を責めることはないよ。」
苗木が少し振り向くと、彼女は悲痛な面持ちでこちらの気づいていないようだった。
「霧切さん」
「何?」
「その、背中流してくれるのもすごく嬉しいけど、もう一つ僕のお願いを聞いてくれる?」
「あなたのお願いなら聞くわ。」
「その罪の意識、自分を責める気持ちを全部捨てて。信頼する仲間なんだから迷惑だってかけていいんだ。
信頼ってそういうことでしょ?まぁ、霧切さんのかけられるなら迷惑なんて全然迷惑じゃないんだけどね。」
少し照れながらいつもの無邪気な笑顔で苗木が言うと霧切の瞳が大きく揺れたと同時に、彼女は少し右下に俯いた。
「あなたって本当に・・・甘いわね。・・・私は人に頼ることを知らなかったし、あなたを殺していたかもしれない。
なのにそんなことをそんな顔で言うのね。ありがとう―」
「えっ!?うわぁあああ!!きっ、霧切さん!?」
苗木は何が起きたのか一瞬で把握することが出来なかった。首には霧切の白い両腕が絡ませられ、背中には何やら二つの柔らかい
感触があった。自分の感覚神経は全て背中にあるのではないかと錯覚するほどに、背中の感覚が衝撃的だった。それをさらに霧切は
ぎゅっと強め、苗木の背中の感覚もそれに伴い強まる。
「きっ、霧切さん!あの、離れて!離れて!背中がっ!!」
混乱する頭で必死に苗木は霧切に離れてもらおうとする。もともと、水着を着用しているとはいえ異性と風呂に入り背中を流してもらう
というのは平凡な高校生の彼には異常だというのにあまつさえ背中に押し付けられる膨らみ。もはや彼には耐え切れるものではなかった。
「あっ・・・。ごめんなさい、嫌だったかしら?」
霧切が離れると苗木はホッとする気持と残念に思う気持ちの両方に複雑さを感じずにいられなかった。
「嫌だなんてそんなことはありえないよ!けど色々と問題というか!き、霧切さんも察してよ!超高校級の探偵なんでしょ!?」
「問題?いったい何が問題・・・ふぅん。男の子って単純なのね。」
霧切の視線は苗木の身体の一部に注がれていた。それに気づき苗木は尚更顔を真赤にする。
「ちょ、霧切さん!お願いだから見ないでよ!」
彼の分厚目のタオルは意味を成さなかったらしい。
これ以上ない恥ずかしさに、霧切のわざとなのか天然なのか分からない行動こそ自分を精神的に殺してしまいそうだと思ってしまう。
苗木は慌てて脚を閉じて隠すとそのまま俯いた。そんな様子の苗木を可愛いと思ってしまう自分に少し驚きを感じながら、霧切は彼の耳
に口を近づけた。
「あなただから安心しているのかも。自分が思っている以上に信頼しているってことかしらね。だから少しくらい困らせたっていいのでしょう?」
「僕の言ったことの揚げ足とってからかうのやめてよ!」
苗木の困ったような笑顔が霧切にも笑みをこぼさせる。
「苗木君。一緒にここから出ましょうね。」
「うん。もちろんだよ!」
困ったような笑顔から強い意志を目に宿した笑顔に変わる。本当に彼は見ていて飽きないし、自分には持っていないものをたくさん持っていて
頼もしい―そんなことを考えながら霧切は立ち上がるとシャワーを手に取り、彼に抱きついた時についた泡を流した。
「苗木君、残念だけど背中を流す約束はしていたけれど前を流す約束はしていないから、後は自分で―「そもそも前を流すなんて約束しないよ!」」
再び困ったような笑顔で反論する彼に霧切はやはりつられて笑ってしまう。
「ふふっ、そうね。とりあえず背中は流したから、私は先に出ているわね。」
「うん。ありがとう!それじゃあ、またあとで」
「ええ。またあとで。」
短い時間の確かな安らぎを得た二人は、真実と希望を求めて歩き出すのだった。

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