~あれから、そして、これから~

ある晴れた夏の日の午後。僕は霧切さんと街の喫茶店に来ていた。
今日は30度を超える猛暑日で、午後という事もあり暑さはさらに増している。
ジャバウォック島での一件以来、日向君達はどうしているだろうか。
そんなことを考えながら僕はアイスコーヒーに口を付けた。
霧切さんは窓の外を見ながら目を細めてホットコーヒーを飲んでいる。
「霧切さん、こんな日によくホットコーヒーなんて飲めるね」
「コーヒーは温かいほうが美味しいと思うわ」
「苗木君こそ、冷たいコーヒーに砂糖なんて入れて大丈夫なのかしら」
「うっ」
実はこんな年になっても未だにブラックが飲めない僕。
霧切さんと特訓はしているんだけど、いつも一口目でギブアップしてしまう。
「僕だってやるときはやるんだ!ブラックだって飲めるようになるよ!」
「そう、その日を楽しみにしているわ」
「それにしても・・・」
霧切さんの視線が再び窓の外に向かう。
「このあたりも随分変わってしまったわね」
「えっ」
突然切り出されたので驚いて反応した。
「学園を出た時の光景は頭から離れないのに、周りはみるみる変わっていく」
「うん・・・」
確かに学園を出た直後の荒廃した世界から、大分復興した。
鉄骨のみになったビル、黒焦げの車、道に飛び散った血痕。
そのすべてが無くなり、人々が笑って歩いている。
その光景はだんだんと過去が忘れ去られていくようだった。
でも・・・・・
「でも、あの事は忘れてはいけないと思うよ」
「ええ」
そうだ、忘れてはいけない。人類史上最悪の絶望的事件、コロシアイ学園生活
そして、死んでいった仲間たちのこと。
「みんなの分まで生きていかないとね」
「そうね。彼らの死を無駄にしない為にも」
「なんだか御免なさい。暗い話になってしまって」
「いや、いいよ。じゃあそろそろ行こうか」
「会計は私がしておくわ」
「いいの?じゃあお願いするよ」
一足先に外に出た僕は少し驚いた。夕日がもう沈みかけていたからだ。
「窓際のはずだったんだけどな、すっかり時間を忘れてたよ」
そんな独り言を呟く。さっきの「出ようか」も実は適当に言っていた。
「あら、もうこんな時間なのね」
どうやら彼女も同じ様だった。待てよ・・・今からなら・・・
「ちょっと行きたい所があるんだけどいいかな」
「え?ちょっと!」
僕は返事も聞かずに霧切さんの手を引いてある場所へ向かった。

それは街を少し外れた所にある丘。てっぺんからは街を見渡せる。
今はもう日が暮れていたので夜景が見えていた。
「ここからの景色、とても綺麗なんだよね」
「凄い・・わね」
初めて見た時の僕と同じリアクションを霧切さんはしていた。
目の前に広がるのは真っ白な夜景。
電灯を統一しているこの街の夜景は、一見殺風景に見えてしまうかもしれないが、
今までに見たカラフルなものよりも、また違う雰囲気を醸し出している。
でも、今日は僕にとっても初めて見た夜景になった。
隣に彼女がいるだけで何倍も綺麗に見える。まるで別物だ。
「苗木君」
「なに?」
「私、苗木君に会えて良かったわ」
「え、いきなりどうしたの?」
「苗木君のおかげで、退屈な日々も楽しいと思えるようになったし」
「霧切さん?」
「だから・・その・・これからも一緒にいていいかしら?」
「あ、当たり前だよ!僕も霧切さんと一緒がいいよ・・って霧切さん?」
「あなたがそう言ってくれて嬉しいわ」
いつの間にか彼女は僕の背中に腕をまわしていた。肩の辺りに顔をうずめている。
(温かい・・・)
僕も彼女を強く抱きしめていた。この温もりにずっと浸っていたいと言わんばかりに。

        • どの位そうしていたのだろうか。帰路についたころには道を照らす明りは月光くらいになっていた。
「それじゃ、また明日」
「ええ、また明日」
その言葉を交わした後、当たり前のようにくる明日がとても貴重なものに思えた。
明日、霧切さんと過ごす"これから"の明日を一日一日大切にしていこう。
そんな事を思いながら僕は足早に自宅へとむかった。

END
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