家庭の味Ver

 「家庭の味、というのも不思議よね。定義などはあるのかしら」
 「いや、そこまで厳密に定めるものではないと思うよ、うん……」

僕だってそこまで考えていったわけじゃない。
先ほどの会話でたまたま話題になっていただけのこと。
ただ、自分の中での定義とすれば

 「そうだね……実家や地元でしか食べられない味、とかじゃないかな?」
 「……実家でしか食べられない味?」
 「うん。お正月やお盆とかに帰ったとして、そこで食べたときに
 『ああ、実家に帰ってきたんだ』って思うような味。そんな味じゃないかな」

あくまで僕の考えだけど、とは付け加えておく。

 「あとさ、やっぱり初めて食べたもの、繰り返し食べたもの味や、好きな料理の味って記憶に残ると思うんだ。
  大人になってもさ。
  そんな風に記憶に残ってるのもたぶん家庭の味になると思うんだよ」
 「そう……。なるほどね」
 「僕もたまに母さんが作ってくれた筑前煮とか食べたくなるんだよね。
  みりんが多めに入っていてちょっと甘いようなやつ」
 「ふふっ。苗木君は甘めの味付けが好きだものね」

コーヒーもブラックは飲めないし。と、僕が気にしていることを言う。

 「…………」
 「あら、いいじゃない。苗木君の作る料理はとてもおいしいっていっているでしょう?」
 「いや、それフォローになっていないから……」 

まあでもいいか。好き嫌いがあるわけじゃない。ちょっと苦手なだけだし。
そうやって無理矢理納得する。
このやり取りも何回かした気がするけど、結局負けるのは僕なのだ。

 「そうね……その考えからすると、私の家庭の味はサンドイッチかしら」
 「……そうなの?」
 「ええ。といっても海外のだけどね。ほら、こっちのサンドイッチと具は違うし、
  なりより厚さが違うもの」

ああそうか。彼女は海外に行っていたんだっけ。
確かにこちらでは向こうのようなサンドイッチにはなかなか巡り会えないだろう。
まして、彼女の記憶の中の具で、ともなるとなおさらだ。
……うん、決めた。

 「そうだ。暖かくなってきたらさ、外にピクニックでもいかない?
  霧切さんが昔食べてた様なサンドイッチつくって、ね」
 「まだ寒くなってきたばかりじゃない」

霧切さんが苦笑いしながら言う。

 「そうだけど……。そんな話聞いてたら食べてみたくなったし、
  霧切さんの家庭の味も気になるしね」
 「……そっくりの味になるかわからないのよ?」
 「そこは二人で協力してさ。
  それに、僕はそっくりにならなくてもいいと思うんだ」
 「……主旨がずれていないかしら」

霧切さんが不思議そうにする。
だけど、僕にとってはそうなのだ。

 「もちろん、味の再現は頑張るよ。
  でも、そうじゃなくて霧切さんが好きな味にできたらいいなとも思ってる」

やっぱり僕にとって大切なのは、食べてくれる人、霧切さんが笑顔になってくれるということで。
もともと思いつきで言っている企画。どちらとも成功すれば万々歳だ。
それに

 「もし気に入った味が作れたらさ、そっちは僕たちの家庭の味にすればいいしね」
 「…………え?」
 「覚えている家庭の味じゃなくてさ、僕たちが作った僕たちの家庭の味。
  何も家庭の味ってひとつだけ、ってわけじゃないでしょ?」
 「そ、それはそうだけど……」
 「いい考えだと思うんだけど、どうかな?」

なんだろう、霧切さんの表情が落ち着かない。
急にそわそわしだしてしまった。
そんなに変なことを言っているだろうか?

 「……苗木君、今言っている言葉の意味……わかってる?」
 「……え?二人の家庭の味を作ろうって話だよ……」

ね?と言おうとして。
あれ、この言い方って、ひょっとしなくても……

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

二つの林檎の出来上がり。

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