k21_938-940

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 2013/12/24 20:57
 【From】 響子さん
 【Sub】 誠くんへ
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  お仕事お疲れ様。
   少しでもクリスマス気分に浸れるように
  こちらの画像を送るわ。

   もちろん、誠くんの分のオードブルは
  確保しているから心配しないで。

 - END -
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そのメールと一緒にサンタ帽を被った響子さんがシャンパンを傾けている姿の添付画像が送られてきた。
隣で葉隠くんがターキーに食いついているから――撮影したのは朝日奈さんかな?
そんな風に推理しながら眠気覚ましのコーヒーを傾ける。

24時間365日、超高校級の生き残りを捜索するという名目でクリスマスだろうと元日だろうとお構いなしの未来機関。
十四支部の室内は僕のデスク周りだけに蛍光灯を入れて、ファイル整理やアルターエゴを経由しての日向君達の監視をしている。
特にこれといったトラブルもなく、平穏無事に当直勤務をこなして僕は帰宅の途に着いた――。


―――――

「ただいまーっと……」

玄関の鍵を開け、三和土を見ると靴は一足だけしかない。しかも女性用のパンプス。
他のみんなはもう帰ったのか――。
ネクタイを緩めながらリビングに入ると写真で見たテーブルの料理やグラスは綺麗に片付けられて誰もいない。
冷蔵庫を開けてみると、ラップに包まれた鶏のモモ肉などの料理の皿が入っている。
四角い箱に入っているのは恐らくケーキか。
美味しそうだな――。後で食べようっと。

その足で寝室に向かうと、ベッドの上には僕に背を向けて眠る女性の姿があった。

「……響子さん?」

小声で呼びかけても反応がない。
非番で起こすのも悪いと思ったので足音を極力立てないようにしてコートとスーツの上着をハンガーに掛ける。
着替えを抱えて一先ず僕はバスルームに向かうことにした。


―――――

軽くシャワーを浴びた後、部屋着に着替えた僕は冷蔵庫の皿を電子レンジに入れて温めることにした。
ついでに小さめ取手鍋に牛乳を注いだら火を掛けてホットミルクを作る。
それを自分のマグカップに移したら後ろから人の気配を感じた。

「……おかえりなさい」
「ただいま。ごめん、起こしちゃったかな?」
「いいの、気にしないで」

それに、私の方こそ出迎えずごめんなさい――って罰が悪そうにそっぽを向いてしまう。
僕も気にしないで、と首を横に振る。
お互い苦笑いをしていると加熱の終了を告げるアラームが鳴った。

「……響子さんも食べる?」
「私はシリアルにするからいい……。それに、誠くんの分なんだからあなたが食べて」
「ん、わかったよ」

右手に鍋掴みのミトンを装着して温めたお皿を取り出す。
テーブルの上に置き、ラップを剥がすと同時に湯気が沸きあがる。
ピザソースやミートソースに混じって漂うジューシーな肉の香り――って、朝から胃にもっさり来るかも。
あ、響子さんがそっと僕の皿から目を逸らしているぞ。

「いただきまーす」
「いただきます」

フォークで絡めたパスタを口に運ぶ。そのままフォークをピザの切れ端に刺してこれもすぐさま口に運ぶ。
二種類のトマトソースが口の中で絡む。
うん、美味しい――。お昼休憩のご飯、少なめにして正解だったね。

「……美味しい?」

ホットミルクを流し込んでいたら響子さんが手を止めて僕に尋ねてきた。
コクコクと首を縦に振ると"そう、よかった――"と安堵の溜め息を吐いた。

「ひょっとして料理のどれか、響子さんが作ったの?」
「ええ、ミートソースの方を。市販のソースじゃなく一から手作りで」

もっとも、レシピ通りにだけど――と、申し訳なさそうに一言添えて。
もう一度フォークをくるくる回して響子さんが作ったというミートソースのパスタを絡めとる。
5秒くらいそれをジッと見つめた後で口に運んで、今度はゆっくりと味わう。
う~ん、"基本に忠実"って言葉がピッタリのシンプルな味付けだけど、それを追究したような味は彼女の性格を映し出しているみたいだ。

「僕は好きだよ? この味。レシピ通りっていうけど、きちんと再現できるのって分析力があってこそじゃないかな?」
「そうね……。葉隠くんや朝日奈さんからは物足りないっていう評価だったけど、誠くんは違った見解を示したようね」
「だって、その分だけ響子さんが一生懸命作っているんだって気持ちが伝わるんだもん。もっと前向きに捉えていいよ」
「……あなたらしく?」

そうだね――って頷いたら二人してクスクス笑う。
すると響子さんが髪を軽くかき上げて頬杖をついた。ちょっと行儀が悪いけど、目を瞑ることにする。

「本当は目の前にあなたがいなくて寂しかった……」
「……僕も」

去年は二人とも仕事だったり、些細なことでケンカしてギクシャクしてクリスマスどころじゃなかったし――。
叶うのなら来年のクリスマスは僕ら二人でゆっくり過ごせるといいな。
そんな風に思っていたら響子さんがそっと微笑んでくれた。

「来年は二人で過ごせるといいわね……」

どうやら僕の考えは筒抜けだったらしい――。


僕は今夜も仕事ということで、ケーキの方は出発前に食べることにして朝食を切り上げる。
食器洗い乾燥機に食べ終わったお皿を入れてスイッチを入れたら二人して寝室に足を運ぶ。
掛け布団の中に入れて温めていたパジャマに着替えたらベッドの上で横になる。

ボア素材の冬用敷きパッドの肌触りに浸る。
さっきまで響子さんが眠っていただけにほんのりと温かい。
その温かさでぬくぬくと猫のように体を丸めていたら顎のところまで掛け布団を被せられた。
そして響子さんも布団の中に体を潜らせて僕の体を抱き寄せてくる。

「響子さんのいた布団の中、あったかーい……」
「……一言余計よ、早く寝なさい。今日の仕事に響いても知らないわよ?」
「うん、そうする……。おやすみ、響子さん」

耳元で囁くように告げたら唇にバードキスをする。
ほんのりとミルクの味が残る唇を堪能したらゆっくりと瞼を閉じる。


イエス・キリストの降誕を一緒に祝えるくらいに僕らは幸運ではなかった。
けれど、その分の埋め合わせくらいはできる。
スーツの内ポケットに忍ばせている彼女へのプレゼントだって、そう言っている筈だ――。


END

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