苗木君は時々、ひどく私を責める。
乱暴とも、強引とも違う、彼の人の良さからくる熾烈さだ。
けっして暴力をふるわれるとか、罵詈雑言を浴びせられるとかはない。
いつも通りに優しいまま、スイッチが入ったように厳しくなるのだ。
「無理はしないで、って言ったじゃないか」
力強く手を引かれ、押し倒すようにしてベッドに寝転がされる。
声音で、怒っているのが分かった。
感情任せに怒鳴り散らすことはないし、私のように冷たく無機質な声で責めることもない。
ほんの少し、いつもよりも声が低くなるだけ。
ただ、彼の怒り方には、そう―――
「……ごめんなさい」
「僕に謝っても仕方ないだろ、霧切さんの体なんだから」
「……、…」
「上着脱いで。薬と飲み物取ってくるから、その間にちゃんと熱測ってね」
手際良く私をベッドに抑えつけるようにして寝かせると、手元に体温計を置き、コートをハンガーにかける。
この世話焼きも、やはり生来のものだろうか。
或いは、妹がいたらしいから、それの延長線だろうか。
それとも、……
いや、それ以上を考えてしまうのは、なんというか。
別に、大病というわけじゃない。
ただ連日徹夜続きで、ちょうど気が抜けて意識が朦朧としていたところを、彼に見咎められてしまったのだ。
大袈裟すぎる、と体を起こし、職場に戻ろうとしたところで、
「霧切さん」
とても静かな、声。
此方を見ていたわけではなく、それ以上何かを言ってくることもないのに。
とても優しい人だから、情の深い人だから、その怒りの底が恐ろしいのだ。
―――どうしてか、逆らえない。
大人しくベッドに戻りつつ、その背中に恨み事をぶつける。
「……束縛する男の人は嫌われるのよ、苗木君」
「嫌われたくはないけど……それよりも、霧切さんの体の方が大事だから」
「……、……あなたって、本当に」
その先の言葉は、言えず、顔を埋めた布団の中に呟いた。
誰にでも、きっと朝日奈さんや腐川さん、いや男同士でも同じことを言うのだろう、分かっている。
みんなに優しいというのは、美点であると同時に、欠点でもあるのだ。
(……、でも、誤解されるかもしれないけれど)
彼に怒られるのは、嫌いではない。
最終更新:2014年02月02日 09:52