セレステ(ryの詰問

「苗木君、ちょっとよろしいですか?」

食堂で夕食を終えたボクにセレスさんがそっと近づき、話しかけてきた。

「何か用?セレスさん」

「大切なお話がありますの。…ここでは他の方の耳がありますので別の場所に移動しましょうか」

彼女は有無を言わさぬ調子で歩き出した。ボクは慌てて後を追う。
食堂を出たボクたちは大浴場の脱衣所にやってきた。夕食時ということもあり、周囲に人気は無い。
…この場所に、ボクは嫌な予感がした。
おもむろにセレスさんが身を乗り出して、あの射るような視線を投げかけてくる。

「さあ、苗木君。正直に言いなさい。あなた…覗きましたわね?」

嫌な予感は的中した。
数時間前…セレスさんをはじめ、女子たちがモノクマの目を誤魔化すために大浴場に入った。
ボクは欲望…好奇心…様々な感情を抑えきれず…“男のロマン”に従って、葉隠クンたちと一緒に浴室を覗いたのだった。
しかし、それがセレスさんに気づかれていた…。

「の…覗いたって、な、何を」

背中に冷や汗が流れるのを感じながら、ボクは震える声で言った。
当然、セレスさんは追及の手を緩めてはくれない。

「この期に及んで白を切るおつもりですか?わたくしの目は誤魔化せませんわよ」

うう…セレスさんの視線が痛い…。
彼女は腕を組み、口をつぐんでボクの答えを待っている。あまりにも重い沈黙のあと、ボクは覚悟を決めた。

「ご、ごめん…!ボクは…お風呂を…覗き…ました…」

「初めから正直に言えばいいものを…。残念ですわ、あなたはもっと紳士な方だと思っていましたのに」

セレスさんがため息をつく。ボクには返す言葉もなく、うなだれることしか出来なかった。

「それで、どこまで見ましたの?」

「えっ?」

思わぬセレスさんの言葉に、ボクは顔を上げて聞き返していた。
彼女はボクから視線をそらし、少しうつむいている。

「だから、どこまで見たのかと聞いているのです」

その声は、先程までとは打って変わって弱々しい。
セレスさんだって女の子なんだから、男に裸を見られて平気なわけがないよな…。
ボクは辛そうな彼女の姿を直視することができず、再び頭を垂れた。
そして記憶を辿りながら、湯煙に覆われた視界の中にうっすらと見たものを正直に答える。

「えっと…(大神さんの)無駄な肉のついてない背中…(朝日奈さんの)横から見た胸…」

「まあ…」

呆れたようなセレスさんの声が聞こえる。下を向いたまま、額を流れる汗をぬぐってボクは続けた。

「それに…(霧切さんの)形のいいお尻…(腐川さんの)すらりとした脚…」

ボクはさらに思い出す。
それから、セレスさんの…セレスさんの色っぽい……えーっと……色っぽい………?
…そういえば、ボクがお風呂を覗いた時、セレスさんは湯船に浸かっていた。
ボクが見たのは、せいぜいお湯から出ていた華奢な肩ぐらいだ。

「…そうだ、色が白くて…綺麗な肩を」

お風呂の中でのセレスさんについては、こう言う他なかった。
ボクは告白を終えたが、セレスさんは何も答えない。
沈黙に耐え切れなくなり、ボクは恐る恐る顔を上げてセレスさんの方を見た。
彼女の瞳には、涙の粒が光っていた。

「…全く。普段からそんないやらしい目でわたくしを見ていたのですか。
男性は皆けだものだとよく聞きますが、あなただけは違うものと信じていましたのに…。
どうしましょう。わたくし、もうお嫁に行けませんわ…」

セレスさんはそう言うと、制服のポケットからレースのついた黒いハンカチを取り出して目尻を拭った。
ああ…泣かせてしまった…。
ボクはひどい罪悪感に襲われた。

「そ、それは…いや…ごめん…」

普段から…そこだけは否定したかったけど、この状況でそんな事が言えるわけがない。
許して貰えるかは別として、とにかく謝らなくては…。
ボクが謝罪の言葉を探して頭脳をフル回転させていると、ふいにセレスさんが場違いな声をあげた。

「…でも、そう褒められると悪い気はしませんわね」

いつの間にか、セレスさんは普段通りの微笑を浮かべた表情に戻っている。
あ、あれ…?さっきまで泣いてたのに…?
あまりに急激すぎる変化に、ボクは目の前で何が起こったのか理解できない。
そんなボクに構うことなく、彼女は言った。

「いいでしょう。他の方々には、あなたがわたくしの裸を覗き見たこと…黙っておいて差し上げます。
あなたが自制心を失うほどに、わたくしが魅力的なのは仕方のないことですものね」

いや、セレスさんの裸は見てないんだけど…。
喉から出そうになった言葉を、ボクは飲み込んだ。
何が何だかわからないけど、ここでセレスさんに逆らうのは得策じゃない。そう直感がボクに告げる。
しかし、彼女が続けて言った言葉は、ボクの想像を遥かに超えるものだった。

「…ですが、あなたには責任を取って頂きますわ。これまで以上にわたくしを敬い、力の限り尽くしなさい。
そうすれば、いずれはランクが上がり、わたくしの伴侶となる資格を得ることが出来るかもしれません」

は…?はんりょ…?伴侶って何だ…??肩しか見てないのに??

「ちょ、ちょっと待ってよ、セレスさん!ボクは…」

ボクは思わず大声を出していたが、セレスさんは片手を上げてそれを制する。

「何か文句がありますの?わたくしをお嫁に行けなくなるような目に遭わせておいて?
一人前の男性なら、相応の責任を果たすのが筋というものでしょう」

かつてない程、きっぱりとした口調だった。
何も言えなくなったボクに、彼女は容赦なく追い討ちをかける。

「よろしいですか?」

「………うう…」

ボクは言葉にならないうめき声を出すことしかできずにいた。

「 よ ろ し い で す わ ね ? 」

セレスさんの鋭い視線がボクの胸を貫く。
ボクは観念した。

「……はい」

もう彼女には頭が上がりそうにない…。


*               *



その後…セレスの部屋。
部屋の主は、一人微笑み、呟いた。

「うふふ…。一時はどうなることかと思いましたが、上手くいきましたわ。これで苗木君はわたくしのもの…」

ポケットから取り出したその手には、黒いハンカチと目薬が握られていた。


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