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白の鬼札」(2011/03/18 (金) 19:13:09) の最新版変更点

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*白の鬼札◆MiRaiTlHUI  ジョーカーとは、切り札である。  どんな状況をも覆す、一発逆転のカード。  運命を変えるだけの力を持った、最高のワイルドカード。  だけれど、それはジョーカーが力を貸してくれた場合の話だ。  ジョーカーが手札に残る事こそが最大の悪手とされる事もある。  そう。時にその存在が敗北へと繋がってしまう事もあり得るのだ。  例えばババ抜き。例えば七ならべ。  これらのゲームに共通して存在する、二つの表情。  一つは勝利に繋がる切り札。一つは最悪の悪手たる鬼札。  引くタイミングを違えれば、手放す事すら出来なくなる。  そして、その結果が齎すのは後者――  ジョーカーによる敗北である。 ◆  園田真理は、何の力も持たない少女である。  仮面ライダーに変身する事も出来ないし、戦う事も出来ない。  望むと望まないとに関わらず、彼女はいつも「守られる側」の人間であった。 「はぁ……ホンット、どうしよう」  そんな彼女が巻き込まれたのは、殺し合い。  力もない。特別賢い頭脳の持ち主という訳でもない。  言うなれば、只の一般人。非力でか弱い只の少女であった。  当然、力を持たない者がこの殺し合いに勝ち残る確率は低い。  生きて元の世界に帰り着ける可能性なんて、皆無とも思えた。  だけど、それは“誰一人味方が居なかった場合”だ。 「大丈夫、俺が居る限り、誰にも君を傷つけさせない」  優しい笑顔であった。  真理が出会った男は、心優しい青年。  こんな殺し合いの場で、異世界の自分を守ると言ってくれた。  自分の世界が勝ち残る事よりも、他者の事を案じる事が出来る男。  それは絶望しかけた真理を安心させるには、十分過ぎる要素であった。 「それにしても、最初に会えた人が志村さんみたいな人で本当に良かった……  もしいきなり殺し合いに乗った奴に会っちゃったら、どうしようかと思ってたのよね」 「……君みたいな女の子は真っ先に狙われるだろうからね。最初に出会えた人間が俺で、本当に良かったと思うよ」  俺に君を傷つける気はない。俺なら君を守り抜けるから。  志村純一と名乗った男の言葉は、まるでそう言っている様にさえ聞こえた。  それは事実なのだろう。この男は自分を犠牲にしてでも誰かの為に動くタイプだ。  元の世界で言うなら、菊池啓太郎や木場勇治の様な――  いや、この男は啓太郎よりも圧倒的に頼りになる。  そう考えれば、どちらかというと木場の様な人間に近いかと思う。  その優しさに甘え、守られるばかりで、一方的に世話になるのは正直気に食わない。  だけれど、今の真理には志村純一の力に頼るしか生き残る術が無いのであった。    俺に君を傷つける気はない。俺なら君を守り抜けるから。  志村純一と名乗った男の言葉は、まるでそう言っている様にさえ聞こえた。  それは事実なのだろう。この男は自分を犠牲にしてでも誰かの為に動くタイプだ。  元の世界で言うなら、菊池啓太郎や木場勇治の様な――  いや、この男は啓太郎よりも圧倒的に頼りになる。  そう考えれば、どちらかというと木場の様な人間に近いかと思う。  その優しさに甘え、守られるばかりで、一方的に世話になるのは正直気に食わない。  だけれど、今の真理には志村純一の力に頼るしか生き残る術が無いのであった。 「それで、志村さんも仮面ライダーに変身して戦うの?」 「ああ、人々を守る為にね。俺のは仮面ライダーグレイブっていうんだ」  そう言って取り出して見せてくれたのは、赤のバックルであった。  これを使って、志村は仮面ライダーグレイブへと変身し、人を守る。  それが仮面ライダーの使命であり、志村自身の意思でもあるのだ。 「守る為に、かぁ……いいなぁ、そういうの。こっちにはそういうの居ないから」 「……そんな筈はない。君の世界にも仮面ライダーと呼ばれる存在は居た筈だ」  でなければ、この殺し合いに参加させられる理由がない。  それがルールだ。仮面ライダーと関係の無い世界を参加させる意味もない。  真理だって馬鹿ではないのだから、志村が言わんとしている事は十分に伝わっている。  だけれど、返答には困る。真理としても心当たりはあるのだが、イメージが違う。  多分志村の言う仮面ライダーというのは、ベルトで変身する戦士の事だろう。  真理も良く知る、あの「赤と銀」やら「紫と黄色」やらのアレの事だろう。  最初に見たスクリーンにも映っていたのだから、それは間違いない。 「いや……居るには居るけど、アレはそんないいものじゃないっていうか」 「アレ……?」  志村の世界の仮面ライダーの話は、先程志村自身から聞いた。  四年前の戦いで、戦えない全ての人々を守る為に戦った仮面の戦士達。  戦うべき敵は、一万年の眠りから目覚めた不死生物――アンデッドと呼ばれる化け物。  彼らはいつだって誰かを守る為に戦い続け、その戦いの甲斐あって全てのアンデッドは封印された。  人の良い志村の話し方の所為もあってか、仮面ライダーは絶対的なヒーローなのだという印象が離れない。  ……それに比べてアレはどうだろう。  誰かの為なんて、そんな立派なものじゃない。  それぞれがそれぞれの思惑に従って変身し、戦う。  装着した人間によっては、人間の敵にさえなり得るのだ。  そんな危険なベルトの力を、仮面ライダーと呼んでいいのだろうか。 「私の世界にはファイズやカイザって言うのがいるんだけど、多分それの事だと思う」 「ファイズにカイザか……それはどんなライダーだったんだ?」 「そうね……とりあえず、ベルトで変身するライダーで……――」  それから真理は、自分の世界の説明をした。  真理の世界では一度死んだ人間が怪人になって蘇る。  オルフェノクと呼ばれるそれは、本能に任せて人を襲う。  襲われた人間は、運が悪ければ――もしくは良ければ――オルフェノクとして覚醒する。  こうして増え続けるオルフェノクを撃退するのがスマートブレインのベルトの力なのだが……  当然の様に只の道具であるベルトに意思は無い。よって正義も悪もあり得ない。  だからこそ、装着する人間によって常にその立ち位置を変える。  それがファイズとカイザと呼ばれるライダーズギアである。 「なるほど……つまり君は、『555の世界』の住人なんだね」 「うん。それで、志村さんが『剣の世界』の住人、か……本当なのかな、異世界って」 「俺の世界では仮面ライダーやアンデッドは誰でも知ってる事なんだ。本が出版されたからね。  それを全く知らないと言うのは不自然だし、俺はスマートブレインやオルフェノクなんて聞いた事も無い」 「じゃあ、やっぱり本当なのね……はぁ、夢なら覚めてよね、もう!」 「気持ちは分かるが、こうなった以上は何とか皆で協力し合って、大ショッカーを倒すしかないよ」 「でも、そんな事どうやって……仮に倒せたとしても、世界が滅びちゃったら意味ないじゃん!」 「世界を救う方法もこれから探すんだ。諦めなければ、絶対に何か方法があるさ。誰も死なせずに解決する方法が」  真理を元気づける為であろう。志村は態とらしい位の笑顔を作って言う。  皆で助け合って、皆が笑顔で迎えられるハッピーエンドを目指そうと言うのだ。  世界の命運をかけた殺し合いと言う極限状態の中で、尚もそんな綺麗事を唱え続ける。  何処まで行っても優しくあろうとするその心が、志村の笑顔からは伝わって来た。  ああ、思えば木場さんもいつも、こんな優しい笑顔をしていた気がする。  真理が志村相手に最初から安心したのは、木場と似ている所があったから……  というのも、理由の一つとしてはあるかも知れない。 「そうだ……いつか出会った時の為に、555の世界の皆の事を教えてくれるかな?」 「あ、うん。それもそうだよね。こんな殺し合いだし、情報交換は大切だもんね」  この男ならば信用出来る。  そう思ったからこそ、真理は説明を始めた。  乾巧――ファイズに変身し、人間の為に戦ってくれる無愛想で猫舌な男。  草加雅人――カイザに変身する幼馴染で、頼れるがあまり信用は出来ない相手。  三原修二――デルタに変身する幼馴染で、弱虫。戦ベルトが無ければほぼ戦力外。  木場勇治――オルフェノクでありながら人の心を持った、誰よりも優しい青年。  村上峡児――スマートブレイン社の社長。オルフェノクを裏で操る黒幕……?  海堂直也――バカ。 「うん、だいたいこんな感じね。私の世界からの参加者は。  仮面ライダーとオルフェノクと一般人とバカで構成されてるみたい」 「……分かった。なら、一刻も早く555と剣の世界の信用出来る人間と合流して、一緒に戦おう」 「ありがとう、志村さん」  前向きな考え方であった。  この男が一緒に居てくれるなら、不可能では無いかもしれない。  555の世界の皆とは比べ物にならないくらい、光を見続けているこの男なら。  仮面ライダーと言う名の仮面を被り、正義の為に命を賭して戦うこの男なら。 「そうだよね……うん! 私たちならきっと出来る! じゃあ志村さん、早速仲間を集めて――」 「いい心意気だ」  こんな殺し合いを止めて見せよう。  そう言おうと思って振り返ったその時には、既に状況は変わっていた。 「感動的だな」 「――え?」  何が何だが、訳が分からなかった。  そこに志村はもう居ない。代わりに居るのは一人の異形。  まるで死神のような……そんな印象を抱かせる、化け物だ。  オルフェノクとは違う。となれば、これが話に聞くアンデッドか。  そしてこの瞬間、真理はようやっと気付いた。 「だが、無意味だ」    自分は既に、最も引いてはいけないジョーカーを引いていた事に。  叫ぶとか、逃げるとか。そういう行動を取るだけの隙は、もう無い。  瞬いた次の瞬間には、白い死神がその鎌を振り抜いていた。  死神の鎌が、骨を断ち、肉を引き裂き――  すぐに、何も考える事が出来なくなった。 &color(red){【園田真理@仮面ライダー555 死亡】}  &color(red){残り58人}  草加雅人には、守るべき者が居る。  幼い頃から想い続けた、たった一人の初恋の人。  彼女を守る為ならば、例え他の何を敵に回したって構わない。  例えそれが国内有数の大企業であろうと。幼き日を共に過ごした友人であっても。  そして、彼女が殺し合いに参加させられて居たとするなら、何があろうと守り抜く。  例え自分の命を投げ出してでも―― 「真理……お前だけは絶対に死なせない」  だから、まずは真理を見付けだす。  何としても合流して、一時たりとも目を離しはしたくはない。  そうしなければ、何の力も持たない彼女は危険過ぎる。  殺し合いなんて力の無い者から殺されて行くのだ。 「何処だ……何処にいるんだ、真理!」  焦燥に駆られる思いで、その名を呼ぶ。  それは自分の生きる意味。それは自分の戦う意味。  だけれど、草加の願いは以外にも早く叶う事になる。 「真理っ……! 真理っ!?」  森林の中を歩き続けて、その姿を発見した。  まだ殺し合いは始まったばかりだと言う事を考えれば、幸運か。  だけど、草加の表情は喜んでなどは居ない。喜べる訳も無い。  それは最も認めたくない現実。血まみれになって横たわる真理の身体。 「そんな……真理が……何故……」  戦うべき理由である少女の、死。  昨日まではあんなに元気に笑って居た真理が。  オルフェノクとも健気に戦い続けていた真理が。  こうも簡単に死んでしまった。それも、あんな無惨な死に方で。  こうして草加雅人が戦う一番の理由は無くなった。  草加の中で、何もかもが崩れ去って行く様な気がした。  だけど、そんな時に思い出したのは、あの老人の言葉。    ――巨万の富、無限の命、敵対勢力の根絶など望みは何でも構わん。何となれば過去の改変や死者の蘇生も可能である   ああ、そうか。そういう事か。  このゲームはそういうルールだったな、と。  もう一度草加の中で、戦う意思が固められてゆく。  守るべき者の居る世界の為に。失ってしまったものを取り返す為に。  だけれど、草加雅人と言う人間はそれ程意思の強い人間では無い。  こうして何かに縋っていなければ草加自身が耐えられなかったから。  今回はその“何か”が、“戦う理由”であったというだけだ。  だから殺す。例えどんな手段を使ってでも、他の世界の参加者を。  戦う意思が再燃して行く中、草加が視線を送ったのは、一人の男であった。 「あいつ……!」  血まみれになった真理の遺体を見下ろす若い男だ。  何やら黒い道具をその手に持って、真理を冷たく見下ろしていた。  555の世界の各ツールにも似た黒の機械は、草加には凶器にしか見えなかったのだ。  何せこれは10もの世界が混同された殺し合い。自分の知らない世界の武器があっても可笑しくはない。  真理を殺したのは、アイツだ。  そんな決断が、草加の闘志に火を付ける。  仮に犯人がアイツでなくとも、構う事は無い。  どうせ参加者全員皆殺しだ。何も考える必要はない。  何よりも、今は一刻も早く真理からあの男を遠ざけたかった。  真理を殺し、その傍に居続けるあの男がどうしても許せなかったから。   だから――例え一秒たりとも、あの男をこれ以上真理の傍には居させない! 「変身っ……!!!」  ――Standing By――  ――Complete――  携帯電話型トランスジェネレーターデバイスをベルトに叩き込んで、駆け出した。  草加の身体を駆け巡る黄色のフォトンストリーム。構成される鋼の装甲。  その頭部で黄色のΧが輝いた時、仮面ライダーカイザへの変身は完了していた。 ◆  誰も居なくなった後で、一人の少年が物言わぬ真理の亡骸を見下ろしていた。  黄色のボーダーシャツに、緑のロングパーカー。髪の毛をクリップで止めた若者だ。  こんなに無惨な死に方をした人間を、彼は……フィリップは初めて目撃した。  肩口から何らかの刃物で引き裂かれ。肉も骨も、心臓さえも貫いて。  背の筋肉だけで繋がった女の遺体を見下ろして、フィリップは告げる。 「酷いな……心臓ごと、一太刀で切り裂かれている」  この遺体の傷口には、一度でも刃を止めた後は見られない。  圧倒的な力を持って、人間の肉を、骨を、内臓器官を、一太刀で両断している。  当然、それをする為には人間離れした超常的な怪力が必要となる。  人間では不可能。となれば、犯人は自ずと人間以外の何者かという事になる。 「恐らくは、ドーパントか仮面ライダー、もしくはそれに準ずる怪人か」  この殺し合いは、複数の世界から参加者が募られている。  つまりは、ドーパントとは異なる、異世界の超人による犯行である可能性は高い。  それも最後に残る一つの世界を選別する為、らしいが……そんな話は信用しない。  そもそも何故大ショッカーの取り仕切りで殺し合いを行わねばならないのか。  一体どういう原理で、この殺し合いで生き残れば世界が救われるのか。  また、何故こんなちっぽけな殺し合いで負ける事が、世界の消滅に繋がるのか。  どうしても不合理。どう考えた所で、納得など出来る訳が無かった。  故に、絶対にある筈なのだ。他の世界の者と結託し、全ての世界を救う方法が。 「その為にも、危険人物とそうでない人物との判断は的確に行わなければならない」  殺し合いに乗ってすぐに殺人を犯す様な者を放っておく事は出来ない。  故にフィリップは、最初に支給されていた道具を早速使用した。  Wの世界において、自分自身が組み上げたガジェットの一つ。  バットショットと呼ばれるデジタルカメラ型メモリガジェットだ。  すぐにフィリップの元へと帰って来たコウモリを掴み取ると、その形を変型させた。  高性能カメラへと形を変えたバットショットの液晶を覗き込む。 「彼女を殺した犯人は恐らく、この白いドーパント……ではなくて、何らかの超人、か」  カメラに鮮明に映し出されて居たのは、白い化け物であった。  一瞬ドーパントかとも思ったが、この場には様々な世界の怪人が居る事を思い出す。  白の身体に、赤のフェイスカバー。巨大な鎌を持って歩く姿は、まるで死神のようであった。  バットショットの画面を操作し、撮影された化け物が持つ鎌を拡大して矯めつ眇めつする。  フィリップの目に飛び込んで来たのは、未だ赤い血が滴り落ちる白のデスサイズ。 「……間違いない。この傷……犯人はコイツだ」  女性の遺体を見遣り、バットショットの画像と見比べる。  バットショットがこれを撮影して戻って来るまでの時間を考えると、距離はそう離れてはいない。  すぐ近くに潜んだ死神。血液の滴る鎌。そして、この少女の傷口と一致する刃の形。  最早この白い化け物が犯人で、ほぼ間違いないと言える状況であった。  となれば、一刻も早く殺し合いに反発する者にこの情報を与えなければならない。  フィリップが動き出そうとした、その時であった。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 「……ッ!」  ぶぉん、と音を立てて、振り抜かれたのは黄色の刃。  光子で形成された光輝くその刃が、フィリップの首を取ろうと横一閃。  間一髪のところで上体を屈めたお陰で回避する事には成功した。  フィリップの頭上を掠めて行った刃。振り抜かれるその速度。  どういう原理の武器なのかは分からないが、当たれば確実に死んでいた。  こいつは、今の一撃でフィリップを殺すつもりだったのだ。 「待ってろよ真理……俺がすぐに、助けてやるからな」 「何を言ってるんだ……!?」  女性の亡骸の傍に立ち、その紫の視線をちらと向ける。  まるで死んでしまった女性に言い聞かせる様に、黄色の仮面ライダーが告げた。  フィリップからすれば、死んでしまった人間にそんな風に話し掛ける男が、正気の沙汰とは思えなかったのだ。  例えどんな手段を使おうと、もう死んだ人間は還って来ない。それがフィリップの考える常識だ。  ともすれば、あの男は大ショッカーの言った言葉を信じているのかも知れない。  ならばあの少女の死を知り、突然襲い掛かって来たのにも合点がいく。  何にせよ自分は現在、ろくな戦闘手段を持って居ないのだ。  下手をすれば殺されてしまう。ここは何とか説得を試みなければならない。 「待ってくれ、異世界の仮面ライダー! 少し落ち着いて、僕の話を聞いてくれないか!」 「煩い、黙れぇっ!」   『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』 「何だコイツは……!」 「ファングッ!」  フィリップを護衛する為に開発された、小型恐竜型ガイアメモリ。  ライブモードとなったファングメモリが、黄色のライダーの剣を受け止め、弾き返したのだ。  当然、ガイアグラスで作られたファングの身体には、傷一つ付きはしない。  こいつは今まで幾度となくフィリップの窮地を救ってくれた。  だからこそ、この恐竜には絶大な信用が置ける。  もう一度体勢を立て直したフィリップが、今度は不敵に告げた。 「無駄さ。ファングが居る限り、君は僕には攻撃出来ない」  その言葉も無視して、黄色のライダーは剣を振るう。  横から、上から、下方から。あらゆる方向からの攻撃は恐竜に弾かれる。  フィリップを傷つける敵は何人たりとも寄せ付けはしない。  それがファングの使命であり、ファングの意志でもある。 「だから攻撃を止めてくれ、仮面ライダー。君と戦うつもりは無い!」 「何をぬけぬけと……! 真理を殺しておきながらぁっ!」 「なっ……彼女を殺したのは僕じゃない! 本当だ!」 「最早誰が殺したんだろうと関係無い! 俺は真理を救う!」 「馬鹿な……! 大ショッカーの話を信じているのか……!?」  それ以上、黄色の仮面ライダーはフィリップの問いには答えなかった。  手に持った十字の剣も、そこから発射する黄色の光弾も、全て撃ち落とされる。  ここまで執拗に攻撃を仕掛けて来る事を考えれば、彼女は男にとってとても大切な人間だったのだろう。  目の前で大切な人間が死んでしまえば、頭に血が昇ってしまうのも無理はない。  何にせよ、このままでは駄目だ。今の状況が長続きすれば、不利になるのはこちら側。  ファングだって最低限の防御はしてくれるが、仮面ライダーに勝てる程の実力は無いのだ。  相手が仮面ライダーならば、そう時間を掛けずにファングの突破方を思い付くだろう。  だけれど、この男はフィリップの話にまるで聞く耳を持ってはくれない。  話が出来ない以上、戦力を持たないフィリップに勝ち目は無い。  そんな時であった。  ――バァンッ!  どうしたものかと考えあぐねるフィリップの耳朶を打つ銃声。  何事かと周囲を見渡せば、すこし離れた距離からこちらに銃を向ける男が居た。  銃口から白い煙を上げるシアンの銃。それを持つ男は、面長のパーマの男。  何が起こったのかと、男と黄色のライダーを交互に見遣る。  そして、すぐに状況に察しがついた。 「仮面ライダーカイザ。かつてとある世界の大企業が開発したライダーズギア、か。  残念だけど、僕はもう帝王のベルトを持ってるんでね。君のに興味はないかな」  不敵な薄ら笑みを浮かべながら、男は言う。  見れば相対する黄色のライダーが、右手のグローブから白い煙を挙げていた。  取り落としてしまった十字の剣を拾い上げながら、さも苛立たしげに言葉を紡ぐ。 「一体、何のつもりなのかなぁ?」 「言っておくけど、僕が最も嫌うのは、自由を奪われる事だ。  だから僕はこの殺し合いをとことん邪魔する。それだけさ」  殺し合いを強制する大ショッカーに従うつもりは無い。  あくまで彼は彼自身の意思で、行動を続けるつもりだという。  となれば、彼はフィリップの味方だ。……信用出来るのであれば、だが。  銃を構える男の顔を矯めつ眇めつしていたら、少し後方からもう一人の男がやって来るのに気がついた。   「海東さん、これは一体……」 「あの仮面ライダーからあそこの少年君を助けたのさ」 「海東さんの言う、お宝を守る為に、ですか……?」 「気まぐれさ」  ふん、と鼻を鳴らしながら、海東と呼ばれた男が言った。  自由を奪われるのが嫌だから、殺し合いを邪魔するとか。気まぐれだとか。  先程から言って居る事が妙に安定しないな、などと思いながらも、フィリップは安堵する。  この状況、どう考えたって黄色のライダーに味方する者は居ない。  ともすれば、彼も少しは冷静に物事を考えてくれるかもしれない、と。  そんな事を考えていると、海東の背後に居た男が一歩を踏み出して、声を張り上げた。 「とにかく、こんな事止めて下さい。こんな事をしても、誰も喜ばないと思いますから」 「黙れっ! お前に何が分かる! 真理を殺された俺の気持ちが分かるのか!」  黄色のライダーが指差すのは、物言わぬ真理の亡骸。  その現実を突き付けられた男の表情が変わった。  悲しみを押し殺した様な――泣き顔にも似た表情。  一瞬悲しげに眼を伏せて、もう一度その顔を上げた。  それはまるで、悲しみを押し殺す事に慣れてしまった男の顔に見えた。 「悲しいのは、分かりますよ。だけど、他の誰かを大勢殺してその人を生き返らせても、  その人は絶対に喜ばないと思うんです。俺はその人の事知りませんけど、きっと……」  フィリップも、同意見だった。  彼女がどんな人生を送って、どうやって殺されたのかは知らない。  だけども、他の世界を滅ぼしてその人を生き返らせた所で、その人が幸せになれるとは限らない。  結局の所、そんな方法で生き返らされた少女は、何千億という命の犠牲の上に成り立った命だから。  そんな重圧を背負わされたら、まともな人格を持った人間ならばきっと押し潰されてしまう。 「ま、そういう事だね……で、どうするんだい?  いくらカイザと言えど、僕ら二人が相手じゃ勝ち目は薄いと思うけど」  海東の言葉から見てとれる自信。  カイザと呼ばれるライダーでは、自分達二人には敵わないと。  そうハッキリ言って居るのだ。となれば、彼らも何らかの力を持っているのだろう。  カイザが突然暴れ出したとしても、それを鎮静化させるだけの力を。だからこその自信。  後の問題は、カイザだ。カイザがどんな行動を取るかによって、状況は変わる。  さて。  この状況で、カイザが下した判断とは――。   ◆  状況は絶望的であった。  草加雅人は、殺し合いに乗った。  そうでなければ、草加雅人の戦う理由が無くなってしまうから。  大ショッカーに縋りでもしなければ、草加雅人は耐えられなかったから。  だから目の前に居る男から確実に間引いて行こうと思ったのだが……  突然現れたのは、二人の男。恐らくは仮面ライダーとやらだ。 (状況は圧倒的に不利か……)  悔しいが、まともに戦って勝てる確証が無い。  自分は555の世界を救い、真理の命を助けなければならないのだ。  こいつら全員を殺したい気持ちに駆られるが、ここで焦ってはならない。  そうだ。これは勝ち残る為。生き残る為に、必要な行為なのだ。 (済まない……真理。お前は俺が必ず生き返らせてやる)  だから今は、暫しのお別れだ。  なんて事は無い。甘っちょろいこいつらを、隙を見付けて殺せばいいのだ。  そうして一人一人確実に減らし、何としてでも555の世界を優勝させる。  最早失敗は許されない。真理が死んでしまった今、草加にミスは許されないのだ。  慎重に行動を選び、草加はカイザの変身を解いた。 「済まない……君達の言う通りだ。確かに真理は……そんな事をしても喜ばないだろう」 「じゃあ、分かってくれたんですか!?」 「ああ、君達のお陰で落ち着く事が出来た……本当に済まなかった」  海東と呼ばれた男と一緒に居た男が、嬉々として一歩を踏み出した。  純粋だ。この男は、至って純粋。騙しやすいタイプだなと、直感的に思う。  なればこそ、草加はそういった相手への対処法は心得ている。  先程自分が襲ったロングパーカーの少年に歩み寄り、手を差し出す。  握手を求める右手だ。 「君にも、悪い事をした」 「分かってくれたのなら、いいけど……」  訝る様に自分を見詰めながら、少年は草加の手を掴んだ。  だけども、その瞳はまるで草加を信用してくれてはいない様子。  流石に命を奪おうとしておいて、すぐに信用してくれないのは当たり前か。  だけど、それが普通の反応だ。この男の様に自分を疑うのが、普通の人間なのだ。  人間皆が互いを信じ合うなんて絶対に不可能なのだから。 「ところで君……海東君とか言ったか。  どうしてカイザのベルトの事を知っていたのか、教えてくれないかな?」 「僕はトレジャーハンターだからね」  答えになって居なかった。  先程からずっとだが、この男には苛立たずには居られない。  この人を馬鹿にしたような態度が、どうにも気に食わないのだ。  それに何より、この海東と言う男は何を考えて行動しているのか読めない。  この場の全員を騙す上で、一番の難関はコイツかも知れない、と草加は思うのであった。   【1日目 日中】 【A-8 森林】 【草加雅人@仮面ライダー555】 【時間軸】原作中盤以降 【状態】健康、仮面ライダーカイザに二時間変身不可 【装備】カイザドライバー@仮面ライダー555、カイザブレイガン@仮面ライダー555 【道具】支給品一式、不明支給品1~2 【思考・状況】 1:真理の居る世界を守る為に、555の世界を優勝させる。 2:勝ち残る為にも今は演技を続けるが、隙があれば異世界の参加者は殺す。 3:真理を殺した奴を見付け出し、この手で殺す。 【備考】 ※カイザドライバーに何処までツールが付属しているかは後続の書き手さんに任せます。 【五代雄介@仮面ライダークウガ】 【時間軸】第46話終了後 【状態】健康 【装備】アマダム@仮面ライダークウガ 【道具】支給品一式、不明支給品1~3 【思考・状況】 0:人々の笑顔を守る。 1:今は皆と情報交換をしたい。 2:海東さんと共に行動する。 3:一条さんと合流したい。 4:仮面ライダーとは何だろう? 【備考】 ※支給品はまだ確認していません 【海東大樹@仮面ライダーディケイド】 【時間軸】最終話終了後 【状態】健康 【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド 【道具】支給品一式、不明支給品1~3(確認済み) 【思考・状況】 0:お宝を守る。 1:殺し合いに乗った奴の邪魔をする。 2:五代雄介と共に行動 3:五代雄介の知り合いと合流 4:知らない世界はまだあるようだ 【備考】 ※クウガの世界が別にあることを知りました。   【フィリップ@仮面ライダーW】 【時間軸】原作中盤以降 【状態】健康 【装備】無し 【道具】支給品一式、ファングメモリ@仮面ライダーW、バットショット@仮面ライダーW、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW 【思考・状況】 1:大ショッカーは信用しない。 2:出来ればここに居る皆と情報を交換したい。 3:草加雅人は完全に信用しない方が良い。 4:真理を殺したのは白い化け物。 【備考】 ※支給品の最後の一つはダブルドライバーでした。 ※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。 「ここまで来れば、もう大丈夫か」  誰も居なくなった草原で、志村純一は一人ごちる。  その表情に浮かぶは、不気味なまでに不敵な薄ら笑い。  早速有利に事を運ぶ事が出来て、すこぶる気分が良いのであった。  彼は殺し合いが始まってすぐに、園田真理と名乗る少女と出会った。  『555の世界』の住人と名乗った彼女は、どうやら何の力も持って居ない一般人らしかった。  仮面ライダーに変身する力も持たなければ、何らかの怪人に変身する力も持たない。  それを聞いた時点で、志村の中で真理に対する確かな殺意が芽生えていた。  園田真理は何の力も持たない、言わば全くの戦力外。  よって利用したところで何らかの形で有益になるとも思えない。  誰も見て居ないという状況で、そんな女が一人で居た時点で、殺して下さいと言って居る様にしか思えなかった。  『剣の世界』を優勝させねばならない志村としては、真理など最初から只の獲物でしか無かったのだ。  だけれど、そんな真理にも死ぬ前に、最後に一つだけ利用価値があった。  それは、『555の世界』の情報である。 (俺の事を信用して、良くもまあぺらぺらと……お陰でいい話を聞けたよ)  三本のベルトの力で変身する仮面ライダーの話。  オルフェノクを巡る運命に巻き込まれた者達の話。  スマートブレインと呼ばれる大企業の話から、『555の世界』で起こった出来事まで。  あらゆる情報を志村は聞き出したのだ。この戦いに於いて、情報はそのまま力になる。  これで555の世界の誰かと出会っても、混乱する事無くすぐに対処に移れるというもの。  そして、聞きたい情報を大体聞き終えた志村は、アルビノジョーカーに変身。  手にしたデスサイズで、真理の身体を一刀の元に両断した。   (この調子で、確実に参加者を間引いて行けば、やがては勝利に繋がる筈だ!)  それが、志村の狙い。  真理を殺した事で、『555の世界』の頭数は確実に一人減った。  参加者の人数だけで話をすれば、それだけで『555の世界』が勝ち残る確率は減ったのだ。  その分上昇するのは、『剣の世界』を始めとした、他の世界が勝ち残る可能性。  やがては自分が支配する世界を守る為にも、こんな下らないゲームで負ける訳には行かないのだ。  故にこれからも、チャンスさえあれば確実に他の世界の参加者の頭数を減らして行く。  集団に当たった時は、いつも通り「仮面ライダーグレイブ」としての自分で接する。  アンデッドである本性を偽り、人々を守る仮面ライダーの皮を被って。  今回の結論から言うと、園田真理が引いたカードは、ジョーカーであった。  ゲーム終了までにジョーカーを手札から捨てる事が出来なければ、敗北は確定。  ジョーカーと言うたった一枚のカードによって、ゲームに敗北してしまうのだ。  だけどあの状況下、真理に手札を捨てると言う選択肢は存在しなかった。  手札を、ひいてはジョーカーを捨てる事が出来ぬまま、迫り来るのはタイムリミット。  自分の世界の情報を全て話してしまったその瞬間、真理に訪れたのは時間切れ。  それはそのまま、“園田真理の人生”という名のゲームが終了する合図でもあった。  最後までジョーカーを手放せず、また、ジョーカー以外の手札も呼び込む事も出来なかった。  それ故の敗北。それ故の死亡。だけど、真理が手放したジョーカーは止まる事をしない。  死神ジョーカーは戦場を行く。次の獲物を見付け、その命を摘み取る為に。   【1日目 日中】 【A-7 草原】 【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】 【時間軸】不明 【状態】健康、アルビノジョーカーに二時間変身不可 【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE 【道具】支給品一式、不明支給品2~6 【思考・状況】 1:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。 2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。 3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。 【備考】 ※園田真理のデイバッグを奪いました。 ※555の世界の大まかな情報を得ました。 |017:[[カテゴリーK]]|投下順|019:[[near miss]]| |017:[[カテゴリーK]]|時系列順|019:[[near miss]]| |&color(cyan){GAME START}|[[志村純一]]|027:[[Iは流れる/朽ち果てる]]| |&color(cyan){GAME START}|[[草加雅人]]|039:[[究極の幕開け]]| |&color(cyan){GAME START}|[[フィリップ]]|039:[[究極の幕開け]]| |012:[[笑顔とお宝]]|[[海東大樹]]|039:[[究極の幕開け]]| |012:[[笑顔とお宝]]|[[五代雄介]]|039:[[究極の幕開け]]| |&color(cyan){GAME START}|[[園田真理]]|&color(red){GAME OVER}| ----
*白の鬼札◆MiRaiTlHUI  ジョーカーとは、切り札である。  どんな状況をも覆す、一発逆転のカード。  運命を変えるだけの力を持った、最高のワイルドカード。  だけれど、それはジョーカーが力を貸してくれた場合の話だ。  ジョーカーが手札に残る事こそが最大の悪手とされる事もある。  そう。時にその存在が敗北へと繋がってしまう事もあり得るのだ。  例えばババ抜き。例えば七ならべ。  これらのゲームに共通して存在する、二つの表情。  一つは勝利に繋がる切り札。一つは最悪の悪手たる鬼札。  引くタイミングを違えれば、手放す事すら出来なくなる。  そして、その結果が齎すのは後者――  ジョーカーによる敗北である。 ◆  園田真理は、何の力も持たない少女である。  仮面ライダーに変身する事も出来ないし、戦う事も出来ない。  望むと望まないとに関わらず、彼女はいつも「守られる側」の人間であった。 「はぁ……ホンット、どうしよう」  そんな彼女が巻き込まれたのは、殺し合い。  力もない。特別賢い頭脳の持ち主という訳でもない。  言うなれば、只の一般人。非力でか弱い只の少女であった。  当然、力を持たない者がこの殺し合いに勝ち残る確率は低い。  生きて元の世界に帰り着ける可能性なんて、皆無とも思えた。  だけど、それは“誰一人味方が居なかった場合”だ。 「大丈夫、俺が居る限り、誰にも君を傷つけさせない」  優しい笑顔であった。  真理が出会った男は、心優しい青年。  こんな殺し合いの場で、異世界の自分を守ると言ってくれた。  自分の世界が勝ち残る事よりも、他者の事を案じる事が出来る男。  それは絶望しかけた真理を安心させるには、十分過ぎる要素であった。 「それにしても、最初に会えた人が志村さんみたいな人で本当に良かった……  もしいきなり殺し合いに乗った奴に会っちゃったら、どうしようかと思ってたのよね」 「……君みたいな女の子は真っ先に狙われるだろうからね。最初に出会えた人間が俺で、本当に良かったと思うよ」    俺に君を傷つける気はない。俺なら君を守り抜けるから。  志村純一と名乗った男の言葉は、まるでそう言っている様にさえ聞こえた。  それは事実なのだろう。この男は自分を犠牲にしてでも誰かの為に動くタイプだ。  元の世界で言うなら、菊池啓太郎や木場勇治の様な――  いや、この男は啓太郎よりも圧倒的に頼りになる。  そう考えれば、どちらかというと木場の様な人間に近いかと思う。  その優しさに甘え、守られるばかりで、一方的に世話になるのは正直気に食わない。  だけれど、今の真理には志村純一の力に頼るしか生き残る術が無いのであった。 「それで、志村さんも仮面ライダーに変身して戦うの?」 「ああ、人々を守る為にね。俺のは仮面ライダーグレイブっていうんだ」  そう言って取り出して見せてくれたのは、赤のバックルであった。  これを使って、志村は仮面ライダーグレイブへと変身し、人を守る。  それが仮面ライダーの使命であり、志村自身の意思でもあるのだ。 「守る為に、かぁ……いいなぁ、そういうの。こっちにはそういうの居ないから」 「……そんな筈はない。君の世界にも仮面ライダーと呼ばれる存在は居た筈だ」  でなければ、この殺し合いに参加させられる理由がない。  それがルールだ。仮面ライダーと関係の無い世界を参加させる意味もない。  真理だって馬鹿ではないのだから、志村が言わんとしている事は十分に伝わっている。  だけれど、返答には困る。真理としても心当たりはあるのだが、イメージが違う。  多分志村の言う仮面ライダーというのは、ベルトで変身する戦士の事だろう。  真理も良く知る、あの「赤と銀」やら「紫と黄色」やらのアレの事だろう。  最初に見たスクリーンにも映っていたのだから、それは間違いない。 「いや……居るには居るけど、アレはそんないいものじゃないっていうか」 「アレ……?」  志村の世界の仮面ライダーの話は、先程志村自身から聞いた。  四年前の戦いで、戦えない全ての人々を守る為に戦った仮面の戦士達。  戦うべき敵は、一万年の眠りから目覚めた不死生物――アンデッドと呼ばれる化け物。  彼らはいつだって誰かを守る為に戦い続け、その戦いの甲斐あって全てのアンデッドは封印された。  人の良い志村の話し方の所為もあってか、仮面ライダーは絶対的なヒーローなのだという印象が離れない。  ……それに比べてアレはどうだろう。  誰かの為なんて、そんな立派なものじゃない。  それぞれがそれぞれの思惑に従って変身し、戦う。  装着した人間によっては、人間の敵にさえなり得るのだ。  そんな危険なベルトの力を、仮面ライダーと呼んでいいのだろうか。 「私の世界にはファイズやカイザって言うのがいるんだけど、多分それの事だと思う」 「ファイズにカイザか……それはどんなライダーだったんだ?」 「そうね……とりあえず、ベルトで変身するライダーで……――」  それから真理は、自分の世界の説明をした。  真理の世界では一度死んだ人間が怪人になって蘇る。  オルフェノクと呼ばれるそれは、本能に任せて人を襲う。  襲われた人間は、運が悪ければ――もしくは良ければ――オルフェノクとして覚醒する。  こうして増え続けるオルフェノクを撃退するのがスマートブレインのベルトの力なのだが……  当然の様に只の道具であるベルトに意思は無い。よって正義も悪もあり得ない。  だからこそ、装着する人間によって常にその立ち位置を変える。  それがファイズとカイザと呼ばれるライダーズギアである。 「なるほど……つまり君は、『555の世界』の住人なんだね」 「うん。それで、志村さんが『剣の世界』の住人、か……本当なのかな、異世界って」 「俺の世界では仮面ライダーやアンデッドは誰でも知ってる事なんだ。本が出版されたからね。  それを全く知らないと言うのは不自然だし、俺はスマートブレインやオルフェノクなんて聞いた事も無い」 「じゃあ、やっぱり本当なのね……はぁ、夢なら覚めてよね、もう!」 「気持ちは分かるが、こうなった以上は何とか皆で協力し合って、大ショッカーを倒すしかないよ」 「でも、そんな事どうやって……仮に倒せたとしても、世界が滅びちゃったら意味ないじゃん!」 「世界を救う方法もこれから探すんだ。諦めなければ、絶対に何か方法があるさ。誰も死なせずに解決する方法が」  真理を元気づける為であろう。志村は態とらしい位の笑顔を作って言う。  皆で助け合って、皆が笑顔で迎えられるハッピーエンドを目指そうと言うのだ。  世界の命運をかけた殺し合いと言う極限状態の中で、尚もそんな綺麗事を唱え続ける。  何処まで行っても優しくあろうとするその心が、志村の笑顔からは伝わって来た。  ああ、思えば木場さんもいつも、こんな優しい笑顔をしていた気がする。  真理が志村相手に最初から安心したのは、木場と似ている所があったから……  というのも、理由の一つとしてはあるかも知れない。 「そうだ……いつか出会った時の為に、555の世界の皆の事を教えてくれるかな?」 「あ、うん。それもそうだよね。こんな殺し合いだし、情報交換は大切だもんね」  この男ならば信用出来る。  そう思ったからこそ、真理は説明を始めた。  乾巧――ファイズに変身し、人間の為に戦ってくれる無愛想で猫舌な男。  草加雅人――カイザに変身する幼馴染で、頼れるがあまり信用は出来ない相手。  三原修二――デルタに変身する幼馴染で、弱虫。戦ベルトが無ければほぼ戦力外。  木場勇治――オルフェノクでありながら人の心を持った、誰よりも優しい青年。  村上峡児――スマートブレイン社の社長。オルフェノクを裏で操る黒幕……?  海堂直也――バカ。 「うん、だいたいこんな感じね。私の世界からの参加者は。  仮面ライダーとオルフェノクと一般人とバカで構成されてるみたい」 「……分かった。なら、一刻も早く555と剣の世界の信用出来る人間と合流して、一緒に戦おう」 「ありがとう、志村さん」  前向きな考え方であった。  この男が一緒に居てくれるなら、不可能では無いかもしれない。  555の世界の皆とは比べ物にならないくらい、光を見続けているこの男なら。  仮面ライダーと言う名の仮面を被り、正義の為に命を賭して戦うこの男なら。 「そうだよね……うん! 私たちならきっと出来る! じゃあ志村さん、早速仲間を集めて――」 「いい心意気だ」  こんな殺し合いを止めて見せよう。  そう言おうと思って振り返ったその時には、既に状況は変わっていた。 「感動的だな」 「――え?」  何が何だが、訳が分からなかった。  そこに志村はもう居ない。代わりに居るのは一人の異形。  まるで死神のような……そんな印象を抱かせる、化け物だ。  オルフェノクとは違う。となれば、これが話に聞くアンデッドか。  そしてこの瞬間、真理はようやっと気付いた。 「だが、無意味だ」    自分は既に、最も引いてはいけないジョーカーを引いていた事に。  叫ぶとか、逃げるとか。そういう行動を取るだけの隙は、もう無い。  瞬いた次の瞬間には、白い死神がその鎌を振り抜いていた。  死神の鎌が、骨を断ち、肉を引き裂き――  すぐに、何も考える事が出来なくなった。 &color(red){【園田真理@仮面ライダー555 死亡】}  &color(red){残り58人}  草加雅人には、守るべき者が居る。  幼い頃から想い続けた、たった一人の初恋の人。  彼女を守る為ならば、例え他の何を敵に回したって構わない。  例えそれが国内有数の大企業であろうと。幼き日を共に過ごした友人であっても。  そして、彼女が殺し合いに参加させられて居たとするなら、何があろうと守り抜く。  例え自分の命を投げ出してでも―― 「真理……お前だけは絶対に死なせない」  だから、まずは真理を見付けだす。  何としても合流して、一時たりとも目を離しはしたくはない。  そうしなければ、何の力も持たない彼女は危険過ぎる。  殺し合いなんて力の無い者から殺されて行くのだ。 「何処だ……何処にいるんだ、真理!」  焦燥に駆られる思いで、その名を呼ぶ。  それは自分の生きる意味。それは自分の戦う意味。  だけれど、草加の願いは以外にも早く叶う事になる。 「真理っ……! 真理っ!?」  森林の中を歩き続けて、その姿を発見した。  まだ殺し合いは始まったばかりだと言う事を考えれば、幸運か。  だけど、草加の表情は喜んでなどは居ない。喜べる訳も無い。  それは最も認めたくない現実。血まみれになって横たわる真理の身体。 「そんな……真理が……何故……」  戦うべき理由である少女の、死。  昨日まではあんなに元気に笑って居た真理が。  オルフェノクとも健気に戦い続けていた真理が。  こうも簡単に死んでしまった。それも、あんな無惨な死に方で。  こうして草加雅人が戦う一番の理由は無くなった。  草加の中で、何もかもが崩れ去って行く様な気がした。  だけど、そんな時に思い出したのは、あの老人の言葉。    ――巨万の富、無限の命、敵対勢力の根絶など望みは何でも構わん。何となれば過去の改変や死者の蘇生も可能である   ああ、そうか。そういう事か。  このゲームはそういうルールだったな、と。  もう一度草加の中で、戦う意思が固められてゆく。  守るべき者の居る世界の為に。失ってしまったものを取り返す為に。  だけれど、草加雅人と言う人間はそれ程意思の強い人間では無い。  こうして何かに縋っていなければ草加自身が耐えられなかったから。  今回はその“何か”が、“戦う理由”であったというだけだ。  だから殺す。例えどんな手段を使ってでも、他の世界の参加者を。  戦う意思が再燃して行く中、草加が視線を送ったのは、一人の男であった。 「あいつ……!」  血まみれになった真理の遺体を見下ろす若い男だ。  何やら黒い道具をその手に持って、真理を冷たく見下ろしていた。  555の世界の各ツールにも似た黒の機械は、草加には凶器にしか見えなかったのだ。  何せこれは10もの世界が混同された殺し合い。自分の知らない世界の武器があっても可笑しくはない。  真理を殺したのは、アイツだ。  そんな決断が、草加の闘志に火を付ける。  仮に犯人がアイツでなくとも、構う事は無い。  どうせ参加者全員皆殺しだ。何も考える必要はない。  何よりも、今は一刻も早く真理からあの男を遠ざけたかった。  真理を殺し、その傍に居続けるあの男がどうしても許せなかったから。   だから――例え一秒たりとも、あの男をこれ以上真理の傍には居させない! 「変身っ……!!!」  ――Standing By――  ――Complete――  携帯電話型トランスジェネレーターデバイスをベルトに叩き込んで、駆け出した。  草加の身体を駆け巡る黄色のフォトンストリーム。構成される鋼の装甲。  その頭部で黄色のΧが輝いた時、仮面ライダーカイザへの変身は完了していた。 ◆  誰も居なくなった後で、一人の少年が物言わぬ真理の亡骸を見下ろしていた。  黄色のボーダーシャツに、緑のロングパーカー。髪の毛をクリップで止めた若者だ。  こんなに無惨な死に方をした人間を、彼は……フィリップは初めて目撃した。  肩口から何らかの刃物で引き裂かれ。肉も骨も、心臓さえも貫いて。  背の筋肉だけで繋がった女の遺体を見下ろして、フィリップは告げる。 「酷いな……心臓ごと、一太刀で切り裂かれている」  この遺体の傷口には、一度でも刃を止めた後は見られない。  圧倒的な力を持って、人間の肉を、骨を、内臓器官を、一太刀で両断している。  当然、それをする為には人間離れした超常的な怪力が必要となる。  人間では不可能。となれば、犯人は自ずと人間以外の何者かという事になる。 「恐らくは、ドーパントか仮面ライダー、もしくはそれに準ずる怪人か」  この殺し合いは、複数の世界から参加者が募られている。  つまりは、ドーパントとは異なる、異世界の超人による犯行である可能性は高い。  それも最後に残る一つの世界を選別する為、らしいが……そんな話は信用しない。  そもそも何故大ショッカーの取り仕切りで殺し合いを行わねばならないのか。  一体どういう原理で、この殺し合いで生き残れば世界が救われるのか。  また、何故こんなちっぽけな殺し合いで負ける事が、世界の消滅に繋がるのか。  どうしても不合理。どう考えた所で、納得など出来る訳が無かった。  故に、絶対にある筈なのだ。他の世界の者と結託し、全ての世界を救う方法が。 「その為にも、危険人物とそうでない人物との判断は的確に行わなければならない」  殺し合いに乗ってすぐに殺人を犯す様な者を放っておく事は出来ない。  故にフィリップは、最初に支給されていた道具を早速使用した。  Wの世界において、自分自身が組み上げたガジェットの一つ。  バットショットと呼ばれるデジタルカメラ型メモリガジェットだ。  すぐにフィリップの元へと帰って来たコウモリを掴み取ると、その形を変型させた。  高性能カメラへと形を変えたバットショットの液晶を覗き込む。 「彼女を殺した犯人は恐らく、この白いドーパント……ではなくて、何らかの超人、か」  カメラに鮮明に映し出されて居たのは、白い化け物であった。  一瞬ドーパントかとも思ったが、この場には様々な世界の怪人が居る事を思い出す。  白の身体に、赤のフェイスカバー。巨大な鎌を持って歩く姿は、まるで死神のようであった。  バットショットの画面を操作し、撮影された化け物が持つ鎌を拡大して矯めつ眇めつする。  フィリップの目に飛び込んで来たのは、未だ赤い血が滴り落ちる白のデスサイズ。 「……間違いない。この傷……犯人はコイツだ」  女性の遺体を見遣り、バットショットの画像と見比べる。  バットショットがこれを撮影して戻って来るまでの時間を考えると、距離はそう離れてはいない。  すぐ近くに潜んだ死神。血液の滴る鎌。そして、この少女の傷口と一致する刃の形。  最早この白い化け物が犯人で、ほぼ間違いないと言える状況であった。  となれば、一刻も早く殺し合いに反発する者にこの情報を与えなければならない。  フィリップが動き出そうとした、その時であった。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 「……ッ!」  ぶぉん、と音を立てて、振り抜かれたのは黄色の刃。  光子で形成された光輝くその刃が、フィリップの首を取ろうと横一閃。  間一髪のところで上体を屈めたお陰で回避する事には成功した。  フィリップの頭上を掠めて行った刃。振り抜かれるその速度。  どういう原理の武器なのかは分からないが、当たれば確実に死んでいた。  こいつは、今の一撃でフィリップを殺すつもりだったのだ。 「待ってろよ真理……俺がすぐに、助けてやるからな」 「何を言ってるんだ……!?」  女性の亡骸の傍に立ち、その紫の視線をちらと向ける。  まるで死んでしまった女性に言い聞かせる様に、黄色の仮面ライダーが告げた。  フィリップからすれば、死んでしまった人間にそんな風に話し掛ける男が、正気の沙汰とは思えなかったのだ。  例えどんな手段を使おうと、もう死んだ人間は還って来ない。それがフィリップの考える常識だ。  ともすれば、あの男は大ショッカーの言った言葉を信じているのかも知れない。  ならばあの少女の死を知り、突然襲い掛かって来たのにも合点がいく。  何にせよ自分は現在、ろくな戦闘手段を持って居ないのだ。  下手をすれば殺されてしまう。ここは何とか説得を試みなければならない。 「待ってくれ、異世界の仮面ライダー! 少し落ち着いて、僕の話を聞いてくれないか!」 「煩い、黙れぇっ!」   『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』 「何だコイツは……!」 「ファングッ!」  フィリップを護衛する為に開発された、小型恐竜型ガイアメモリ。  ライブモードとなったファングメモリが、黄色のライダーの剣を受け止め、弾き返したのだ。  当然、ガイアグラスで作られたファングの身体には、傷一つ付きはしない。  こいつは今まで幾度となくフィリップの窮地を救ってくれた。  だからこそ、この恐竜には絶大な信用が置ける。  もう一度体勢を立て直したフィリップが、今度は不敵に告げた。 「無駄さ。ファングが居る限り、君は僕には攻撃出来ない」  その言葉も無視して、黄色のライダーは剣を振るう。  横から、上から、下方から。あらゆる方向からの攻撃は恐竜に弾かれる。  フィリップを傷つける敵は何人たりとも寄せ付けはしない。  それがファングの使命であり、ファングの意志でもある。 「だから攻撃を止めてくれ、仮面ライダー。君と戦うつもりは無い!」 「何をぬけぬけと……! 真理を殺しておきながらぁっ!」 「なっ……彼女を殺したのは僕じゃない! 本当だ!」 「最早誰が殺したんだろうと関係無い! 俺は真理を救う!」 「馬鹿な……! 大ショッカーの話を信じているのか……!?」  それ以上、黄色の仮面ライダーはフィリップの問いには答えなかった。  手に持った十字の剣も、そこから発射する黄色の光弾も、全て撃ち落とされる。  ここまで執拗に攻撃を仕掛けて来る事を考えれば、彼女は男にとってとても大切な人間だったのだろう。  目の前で大切な人間が死んでしまえば、頭に血が昇ってしまうのも無理はない。  何にせよ、このままでは駄目だ。今の状況が長続きすれば、不利になるのはこちら側。  ファングだって最低限の防御はしてくれるが、仮面ライダーに勝てる程の実力は無いのだ。  相手が仮面ライダーならば、そう時間を掛けずにファングの突破方を思い付くだろう。  だけれど、この男はフィリップの話にまるで聞く耳を持ってはくれない。  話が出来ない以上、戦力を持たないフィリップに勝ち目は無い。  そんな時であった。  ――バァンッ!  どうしたものかと考えあぐねるフィリップの耳朶を打つ銃声。  何事かと周囲を見渡せば、すこし離れた距離からこちらに銃を向ける男が居た。  銃口から白い煙を上げるシアンの銃。それを持つ男は、面長のパーマの男。  何が起こったのかと、男と黄色のライダーを交互に見遣る。  そして、すぐに状況に察しがついた。 「仮面ライダーカイザ。かつてとある世界の大企業が開発したライダーズギア、か。  残念だけど、僕はもう帝王のベルトを持ってるんでね。君のに興味はないかな」  不敵な薄ら笑みを浮かべながら、男は言う。  見れば相対する黄色のライダーが、右手のグローブから白い煙を挙げていた。  取り落としてしまった十字の剣を拾い上げながら、さも苛立たしげに言葉を紡ぐ。 「一体、何のつもりなのかなぁ?」 「言っておくけど、僕が最も嫌うのは、自由を奪われる事だ。  だから僕はこの殺し合いをとことん邪魔する。それだけさ」  殺し合いを強制する大ショッカーに従うつもりは無い。  あくまで彼は彼自身の意思で、行動を続けるつもりだという。  となれば、彼はフィリップの味方だ。……信用出来るのであれば、だが。  銃を構える男の顔を矯めつ眇めつしていたら、少し後方からもう一人の男がやって来るのに気がついた。   「海東さん、これは一体……」 「あの仮面ライダーからあそこの少年君を助けたのさ」 「海東さんの言う、お宝を守る為に、ですか……?」 「気まぐれさ」  ふん、と鼻を鳴らしながら、海東と呼ばれた男が言った。  自由を奪われるのが嫌だから、殺し合いを邪魔するとか。気まぐれだとか。  先程から言って居る事が妙に安定しないな、などと思いながらも、フィリップは安堵する。  この状況、どう考えたって黄色のライダーに味方する者は居ない。  ともすれば、彼も少しは冷静に物事を考えてくれるかもしれない、と。  そんな事を考えていると、海東の背後に居た男が一歩を踏み出して、声を張り上げた。 「とにかく、こんな事止めて下さい。こんな事をしても、誰も喜ばないと思いますから」 「黙れっ! お前に何が分かる! 真理を殺された俺の気持ちが分かるのか!」  黄色のライダーが指差すのは、物言わぬ真理の亡骸。  その現実を突き付けられた男の表情が変わった。  悲しみを押し殺した様な――泣き顔にも似た表情。  一瞬悲しげに眼を伏せて、もう一度その顔を上げた。  それはまるで、悲しみを押し殺す事に慣れてしまった男の顔に見えた。 「悲しいのは、分かりますよ。だけど、他の誰かを大勢殺してその人を生き返らせても、  その人は絶対に喜ばないと思うんです。俺はその人の事知りませんけど、きっと……」  フィリップも、同意見だった。  彼女がどんな人生を送って、どうやって殺されたのかは知らない。  だけども、他の世界を滅ぼしてその人を生き返らせた所で、その人が幸せになれるとは限らない。  結局の所、そんな方法で生き返らされた少女は、何千億という命の犠牲の上に成り立った命だから。  そんな重圧を背負わされたら、まともな人格を持った人間ならばきっと押し潰されてしまう。 「ま、そういう事だね……で、どうするんだい?  いくらカイザと言えど、僕ら二人が相手じゃ勝ち目は薄いと思うけど」  海東の言葉から見てとれる自信。  カイザと呼ばれるライダーでは、自分達二人には敵わないと。  そうハッキリ言って居るのだ。となれば、彼らも何らかの力を持っているのだろう。  カイザが突然暴れ出したとしても、それを鎮静化させるだけの力を。だからこその自信。  後の問題は、カイザだ。カイザがどんな行動を取るかによって、状況は変わる。  さて。  この状況で、カイザが下した判断とは――。   ◆  状況は絶望的であった。  草加雅人は、殺し合いに乗った。  そうでなければ、草加雅人の戦う理由が無くなってしまうから。  大ショッカーに縋りでもしなければ、草加雅人は耐えられなかったから。  だから目の前に居る男から確実に間引いて行こうと思ったのだが……  突然現れたのは、二人の男。恐らくは仮面ライダーとやらだ。 (状況は圧倒的に不利か……)  悔しいが、まともに戦って勝てる確証が無い。  自分は555の世界を救い、真理の命を助けなければならないのだ。  こいつら全員を殺したい気持ちに駆られるが、ここで焦ってはならない。  そうだ。これは勝ち残る為。生き残る為に、必要な行為なのだ。 (済まない……真理。お前は俺が必ず生き返らせてやる)  だから今は、暫しのお別れだ。  なんて事は無い。甘っちょろいこいつらを、隙を見付けて殺せばいいのだ。  そうして一人一人確実に減らし、何としてでも555の世界を優勝させる。  最早失敗は許されない。真理が死んでしまった今、草加にミスは許されないのだ。  慎重に行動を選び、草加はカイザの変身を解いた。 「済まない……君達の言う通りだ。確かに真理は……そんな事をしても喜ばないだろう」 「じゃあ、分かってくれたんですか!?」 「ああ、君達のお陰で落ち着く事が出来た……本当に済まなかった」  海東と呼ばれた男と一緒に居た男が、嬉々として一歩を踏み出した。  純粋だ。この男は、至って純粋。騙しやすいタイプだなと、直感的に思う。  なればこそ、草加はそういった相手への対処法は心得ている。  先程自分が襲ったロングパーカーの少年に歩み寄り、手を差し出す。  握手を求める右手だ。 「君にも、悪い事をした」 「分かってくれたのなら、いいけど……」  訝る様に自分を見詰めながら、少年は草加の手を掴んだ。  だけども、その瞳はまるで草加を信用してくれてはいない様子。  流石に命を奪おうとしておいて、すぐに信用してくれないのは当たり前か。  だけど、それが普通の反応だ。この男の様に自分を疑うのが、普通の人間なのだ。  人間皆が互いを信じ合うなんて絶対に不可能なのだから。 「ところで君……海東君とか言ったか。  どうしてカイザのベルトの事を知っていたのか、教えてくれないかな?」 「僕はトレジャーハンターだからね」  答えになって居なかった。  先程からずっとだが、この男には苛立たずには居られない。  この人を馬鹿にしたような態度が、どうにも気に食わないのだ。  それに何より、この海東と言う男は何を考えて行動しているのか読めない。  この場の全員を騙す上で、一番の難関はコイツかも知れない、と草加は思うのであった。   【1日目 日中】 【A-8 森林】 【草加雅人@仮面ライダー555】 【時間軸】原作中盤以降 【状態】健康、仮面ライダーカイザに二時間変身不可 【装備】カイザドライバー@仮面ライダー555、カイザブレイガン@仮面ライダー555 【道具】支給品一式、不明支給品1~2 【思考・状況】 1:真理の居る世界を守る為に、555の世界を優勝させる。 2:勝ち残る為にも今は演技を続けるが、隙があれば異世界の参加者は殺す。 3:真理を殺した奴を見付け出し、この手で殺す。 【備考】 ※カイザドライバーに何処までツールが付属しているかは後続の書き手さんに任せます。 【五代雄介@仮面ライダークウガ】 【時間軸】第46話終了後 【状態】健康 【装備】アマダム@仮面ライダークウガ 【道具】支給品一式、不明支給品1~3 【思考・状況】 0:人々の笑顔を守る。 1:今は皆と情報交換をしたい。 2:海東さんと共に行動する。 3:一条さんと合流したい。 4:仮面ライダーとは何だろう? 【備考】 ※支給品はまだ確認していません 【海東大樹@仮面ライダーディケイド】 【時間軸】最終話終了後 【状態】健康 【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド 【道具】支給品一式、不明支給品1~3(確認済み) 【思考・状況】 0:お宝を守る。 1:殺し合いに乗った奴の邪魔をする。 2:五代雄介と共に行動 3:五代雄介の知り合いと合流 4:知らない世界はまだあるようだ 【備考】 ※クウガの世界が別にあることを知りました。   【フィリップ@仮面ライダーW】 【時間軸】原作中盤以降 【状態】健康 【装備】無し 【道具】支給品一式、ファングメモリ@仮面ライダーW、バットショット@仮面ライダーW、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW 【思考・状況】 1:大ショッカーは信用しない。 2:出来ればここに居る皆と情報を交換したい。 3:草加雅人は完全に信用しない方が良い。 4:真理を殺したのは白い化け物。 【備考】 ※支給品の最後の一つはダブルドライバーでした。 ※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。 「ここまで来れば、もう大丈夫か」  誰も居なくなった草原で、志村純一は一人ごちる。  その表情に浮かぶは、不気味なまでに不敵な薄ら笑い。  早速有利に事を運ぶ事が出来て、すこぶる気分が良いのであった。  彼は殺し合いが始まってすぐに、園田真理と名乗る少女と出会った。  『555の世界』の住人と名乗った彼女は、どうやら何の力も持って居ない一般人らしかった。  仮面ライダーに変身する力も持たなければ、何らかの怪人に変身する力も持たない。  それを聞いた時点で、志村の中で真理に対する確かな殺意が芽生えていた。  園田真理は何の力も持たない、言わば全くの戦力外。  よって利用したところで何らかの形で有益になるとも思えない。  誰も見て居ないという状況で、そんな女が一人で居た時点で、殺して下さいと言って居る様にしか思えなかった。  『剣の世界』を優勝させねばならない志村としては、真理など最初から只の獲物でしか無かったのだ。  だけれど、そんな真理にも死ぬ前に、最後に一つだけ利用価値があった。  それは、『555の世界』の情報である。 (俺の事を信用して、良くもまあぺらぺらと……お陰でいい話を聞けたよ)  三本のベルトの力で変身する仮面ライダーの話。  オルフェノクを巡る運命に巻き込まれた者達の話。  スマートブレインと呼ばれる大企業の話から、『555の世界』で起こった出来事まで。  あらゆる情報を志村は聞き出したのだ。この戦いに於いて、情報はそのまま力になる。  これで555の世界の誰かと出会っても、混乱する事無くすぐに対処に移れるというもの。  そして、聞きたい情報を大体聞き終えた志村は、アルビノジョーカーに変身。  手にしたデスサイズで、真理の身体を一刀の元に両断した。   (この調子で、確実に参加者を間引いて行けば、やがては勝利に繋がる筈だ!)  それが、志村の狙い。  真理を殺した事で、『555の世界』の頭数は確実に一人減った。  参加者の人数だけで話をすれば、それだけで『555の世界』が勝ち残る確率は減ったのだ。  その分上昇するのは、『剣の世界』を始めとした、他の世界が勝ち残る可能性。  やがては自分が支配する世界を守る為にも、こんな下らないゲームで負ける訳には行かないのだ。  故にこれからも、チャンスさえあれば確実に他の世界の参加者の頭数を減らして行く。  集団に当たった時は、いつも通り「仮面ライダーグレイブ」としての自分で接する。  アンデッドである本性を偽り、人々を守る仮面ライダーの皮を被って。  今回の結論から言うと、園田真理が引いたカードは、ジョーカーであった。  ゲーム終了までにジョーカーを手札から捨てる事が出来なければ、敗北は確定。  ジョーカーと言うたった一枚のカードによって、ゲームに敗北してしまうのだ。  だけどあの状況下、真理に手札を捨てると言う選択肢は存在しなかった。  手札を、ひいてはジョーカーを捨てる事が出来ぬまま、迫り来るのはタイムリミット。  自分の世界の情報を全て話してしまったその瞬間、真理に訪れたのは時間切れ。  それはそのまま、“園田真理の人生”という名のゲームが終了する合図でもあった。  最後までジョーカーを手放せず、また、ジョーカー以外の手札も呼び込む事も出来なかった。  それ故の敗北。それ故の死亡。だけど、真理が手放したジョーカーは止まる事をしない。  死神ジョーカーは戦場を行く。次の獲物を見付け、その命を摘み取る為に。   【1日目 日中】 【A-7 草原】 【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】 【時間軸】不明 【状態】健康、アルビノジョーカーに二時間変身不可 【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE 【道具】支給品一式、不明支給品2~6 【思考・状況】 1:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。 2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。 3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。 【備考】 ※園田真理のデイバッグを奪いました。 ※555の世界の大まかな情報を得ました。 |017:[[カテゴリーK]]|投下順|019:[[near miss]]| |017:[[カテゴリーK]]|時系列順|019:[[near miss]]| |&color(cyan){GAME START}|[[志村純一]]|027:[[Iは流れる/朽ち果てる]]| |&color(cyan){GAME START}|[[草加雅人]]|039:[[究極の幕開け]]| |&color(cyan){GAME START}|[[フィリップ]]|039:[[究極の幕開け]]| |012:[[笑顔とお宝]]|[[海東大樹]]|039:[[究極の幕開け]]| |012:[[笑顔とお宝]]|[[五代雄介]]|039:[[究極の幕開け]]| |&color(cyan){GAME START}|[[園田真理]]|&color(red){GAME OVER}| ----

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