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二人のジョーカー」(2011/03/26 (土) 20:05:58) の最新版変更点

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*二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI  相川始の心は、揺れ動いていた。  どんなに振り解こうとしても、罪悪感は消えない。  自分は奪ってしまったのだ。罪も無い、守るべき人の命を。  間違いなくこの殺し合いを打倒しようとしていた男の命を、この手で。  他の世界を消滅させてでも自分の世界を守らなければならない。  その気持ちに嘘は無いし、その行動方針を変えるつもりもない。  だけれど、それでも吹きつのる罪悪感は消えはしない。  (剣崎……)  始にとって唯一「友」と呼べる相手を、心中で思い描く。  彼ならば、この殺し合いの場で、一体どんな行動を取るだろう。  考え始めて一秒と経たず、考える必要も無いという事実に気付く。  言い切ってもいい。あの男ならば、絶対に殺し合いには乗らない。  何が何でも他者を救い、大ショッカーを打倒しようとするだろう。  そんな剣崎を責めるつもりは無いし、寧ろ誇らしいとも思う。  そしてそんな立派な友を持てた事を、自分の誇りだとも思う。 (剣崎とは一緒に戦えないな)  だが、だからこそ。  一緒に戦う事は絶対に出来ないのだろう。  自分の存在は間違いなく剣崎にとって重荷となる。  目的は同じ世界を守る事であっても、やり方は真逆なのだから、当然だ。  剣崎は他者と手を取り合い、共に大ショッカーを倒す事で世界を守る。  自分は他者の命を奪い、大ショッカーに従う事で世界を守る。  人の心が芽生え始めていた始にとって、それは苦渋の選択ではあるが、仕方がない。  これも守る為。人として、守りたい世界を守る為に、相川始は他者の命を奪うのだ。  求めるモノは、守りたいという気持ちは、剣崎にだって負けるつもりはなかった  気持ちは同じであるのに、そこに至る為の過程は全くの逆。  故にこそ、一抹の憂いが過る。 (どうせ辛い思いをする事になるんだろうな、剣崎は)  御人好しの剣崎一真は、確かに強い。  人としても、仮面ライダーとしても、だ。  だけれど、それでも奴はこの戦いでは不利だ。  剣崎の事だ。きっと奴はどんな人間でも救おうとする。  例え自分の身が危険に晒されようと、何度裏切られようと。  相手がどんなクズ人間であっても、絶対に見捨てはしないだろう。  それが剣崎にとっての一番の弱点にして、死に繋がる一番の要因。 (なら、汚れ仕事は俺が買ってやる)  だけど、なればこそだ。  なればこそ、汚れ仕事は自分が買おう。  殺し合いに乗ったクズの様な相手は、率先してこの手で殺す。  そうする事で、剣崎の目指そうとする道のりを少しでも楽にしてやるのだ。 (そうだ……俺は俺のやり方で世界を守る。だから剣崎……お前はお前の道を行け)  最終的に剣崎が大ショッカーを打倒し、世界を救えるならそれで善し。  だが、そうでないなら自分が他の世界の参加者を皆殺しにする。  剣崎と違い、こんなやり方でしか世界を救えない自分を呪う。  だけど、それでいい。それで十分だ。  自分は所詮、死神なのだから。  世界を救うための二つの道のり。  そのもう一つの道を剣崎は任せて、自分は狩りに没頭する。  今はただ、自分に出来る、自分の道を突き進むだけだ。  だから始は敵を求めて、ただ前へ歩く。  そして見付けた。  次の獲物を。   ◆  二人の間に、言葉などは必要なかった。  否、正確には二言三言交わしたのだろうが、それは大きな問題では無い。  重要なのは、目の前の相手が殺し合いに乗っている、という事実。  お互いの命を賭けて、始まったのはやるかやられるかの殺し合い。  黒の装甲に身を包んで、駆けるカリス。  黒の外骨格に身を包んで、駆けるガドル。  幾度かの激突の後で、二人はお互いの間合いを計り合っていた。  そんな二人に訪れるチャンスは刹那的。踏み込み、飛び込むのもまた刹那。  一瞬の隙を見付けた二人の剣は、甲高い金属音を打ち鳴らして激突した。  歴戦の闘士二人の戦いに、舌舐めずりなんてものは存在しない。  お互いの実力が分かっているからこそ、最初から全力で激突する。 「トゥッ!」  掛け声を一声。  弓とも剣ともつかない両刃の刃を、力一杯に振り上げる。  対するガドルの動きは、まるでその軌道を読んでいたかのようで。  巨大な大剣を、信じられない程に軽々しく持ち上げて、カリスの動きに対応した。  きぃん! と、鋭い金属音が辺りに響いて、手応えが無い事を悟る。  醒弓を翻し、もう一方の刃で切りかかるが、結果は同じ。  ガドルの大剣はそれにも難なく対応して見せた。 「フンッ!」  反撃に出たのは、ガドル。  カリスの装甲を斬らんと、その大剣を一気に振り下ろす。  相手の武器は、見るからに重量を持っているであろう大剣。  当然、そんな武器を正面から受け止めようとする程、カリスは馬鹿ではなかった。  ハートの複眼にガドルの大剣を捉えた瞬間には、後方へと飛び退り、離脱。  ゴウッ! と重苦しい音を立てて、大剣が大気を、風を切り裂いた。  寸断された空気を漆黒の肌で感じて、大剣の威力を計り知る。  あの大剣をまともに受けるのは拙い、と改めて判断。  カリスは矢継ぎ早に弓を引き絞り、光弾を放った。 「……………?」  放たれた数発の光弾はガドルの胸部で爆ぜた。  白い煙を立ち昇らせ、派手に火花を撒き散らすガドルの装甲。  だけれど、それがさしたる意味を持たない事などは、考えるまでも無かった。  ガドルは痛みを感じて居ないのだ。全弾胸部に喰らおうとも、呻き一つ漏らさない。  ならばとばかりにアスファルトを蹴って、間合いを詰める。 「トゥァッ!」 「ッ!」  駆け出したカリスの速力たるや、まさに韋駄天の如く。  一瞬のうちにガドルの懐に飛び込んで、俊敏な動きで醒弓を振り抜いた。  この怪人の振るう大剣や、その動きから鑑みるに、こいつ俊敏なタイプでは無い。  ならばやり様はある。一瞬で飛び込み攻撃を加え、すぐに離脱。後はそれの繰り返しだ。  ヒット&アウェイの連続で体力を削ぎ落としてから、トドメに必殺技を叩き込む。  敵の情報をろくに知らぬカリスにとっては、それが正しい判断かと思えた。  だけど、現実はそう甘くは行かず。  横一閃に振り抜いた醒弓は、アスファルトに突き立てた剣によって阻まれていた。  仮面の下で舌打ち一つ。すぐに体勢を立て直そうとしたカリスはしかし、目の前の変化に目を奪われてしまった。  そして、それが間違いであった事に気付くのは、その直後の事だ。  振り上げられた漆黒の槍が、カリスの胸部を強かに打ち付けた。   「ぐぁっ……!」  火花を舞い散らし、宙に舞うカリスの身体。  アスファルトに打ち付けられる前に受身を取って、体勢を立て直す。  見れば先程まで握って居た大剣は、禍々しい槍へとその姿を変えていた。  先程懐に飛び込んだ瞬間に驚愕したのは、大剣が槍に変わった、この変化だ。  どうやらあの敵はあらゆる状況に応じて武器を変える事が出来るらかった。 「技量だけはクウガよりも上、といった所か」  ガドルが、何事かをのたまった。  当然、カリスに敵の言葉の意味を考えてやる義理は無い。  醒弓を引き絞り、再び光の弓を無数に発射。単なる牽制攻撃だ。  これで弾幕を張り、その隙に懐に飛び込み、一撃を叩き込むのだ。  今更そんな小細工が通じるとは思えないが、それならそれでやり様はある。  ――CHOP――  一枚のカードをラウズして、アンデッドの力を輝きと共に吸収した。  ガドルの表面で光の弓が爆ぜて、真っ白の煙がその視界を覆う。  狙いはこれだ。この一瞬で接近して、攻撃力を上げたチョップを叩き込む。  輝きを放つ手刀を振り上げて、真っ直ぐに駆け出した。  しかし、再び二人が肉薄するよりも早く、行動を起こしたのはガドルだ。  未だ白い煙の晴れぬ視界の中、手に持った槍をカリスに向けて真っ直ぐに突き出した。  同時、槍は奇妙な形状変化を伴って、漆黒のボウガンへと変化。  次いで飛び出したのは、圧縮されたエネルギーの矢。 「何っ!」  咄嗟の判断であった。  目前まで迫り来る矢に向けて、手刀を振り下ろした。  圧縮されたエネルギーはチョップの一撃に撃ち落とされ、掻き消える。  だけど、それで終わらせてくれる訳がない。仮面を上げれば、次々と迫る矢が見えた。  怯みはしない。まだ対処は出来る。チョップのカードの輝きは消え去ってはいないのだから。  ガドルとの間合いを詰めながら、一発、また一発と矢を叩き落してゆく。  だけれど、その度にチョップの輝きは薄れ、その光を弱らせ――。 「ハッ!」  ガドルに肉薄し、その手刀を振り下ろした時には、輝きは殆ど残っては居なかった。  申し訳程度の輝きが現すのは、カードの効果を既に十分使い切った事による消耗。  振り下ろした手刀はガドルの分厚い腕に阻まれて――次に感じたのは、衝撃。   「グッ――!?」  カリスの胸元に押し付けられたボウガン。光を放つ発射口。  当然反応するだけの余裕など与えられる筈も無く、カリスの身体は吹き飛んでいた。  一発、二発、三発、四発。止まる事の無い矢の嵐が、カリスの胸部を捉える。  一撃命中する度、感じるのは装甲の上から身体を突き破る様な激痛。  胸部から背中まで突き抜ける様な鋭い痛みが、カリスのあらゆる行動を封じる。  やがて、黒の身体は後方のビルディングの壁に叩き付けられ、それ以上の後退を封じられた。  最後の一撃はカリスの胸部で弾けて、衝撃がコンクリートで出来た壁へと突き抜ける。  みしっ、と音を立て、亀裂を作ったのはカリスの身体……では無く、コンクリート。  同時に、崩れ落ちたのは瓦礫となったコンクリートと、カリスの身体。  変身を保つ事すら出来なくなり、その身体が人間の物へと変わってゆく。  どうやら、過度のダメージを受ければ変身は解除され、自動的にこの姿に戻ってしまうらしい。  これではまるで仮面ライダーに変身する人間と同じだな、と始は思う。  だけれども、今がそんな事を考えている場合では無い。  このままでは、殺される。  何も成す事無く、殺される。  あの家族を守る事すら出来ないまま――。  そう考えた瞬間、始は自分の身体を、何かが突き破る様な錯覚を感じた。  言うなれば、衝動。偽りの人の皮を突き破って、表に出ようとしている破壊の衝動だ。  全身の血が沸き立ち、毛穴が開く。内に秘める闘争本能が、飛び出しそうになる。  だけれど、すぐに理性が働いて、その衝動を抑えようとした。  それは芽生え始めた人間としての理性。  本来の“あの姿”を忌み嫌う、始としての心。  だけど、戦わない訳には行かない。何もしない訳には行かない。  目の前に迫るあの怪人は間違いなく、情け容赦なく自分を殺すだろう。  一歩、また一歩と迫り来るは、死を招く漆黒の異形。  ここで戦わなければ、殺される。  嗚呼、もう、あの姿になって戦うしかないのだろうか。  目の前の敵を叩き潰し、全てを破壊するあの悪魔の姿に。  何もかもを終焉へと導く、あの死神――  ――ジョォォカァァァッ!!!――  始の耳朶を叩いたのは、自分の中の“ジョーカー”では無かった。  野太く、だけど良く響き渡るその音声は、彼方から聞こえてくる。  先程自分がこの目に焼き付けたばかりの男。  あの時出会った、ジョーカーの男。  名前すら知らない男が、真っ直ぐに走って来る。  赤のベルトは紫の光を輝かせて、漆黒の欠片が男に集まってゆく。  いくつもの黒い欠片は男の身を完全に覆い隠し、その姿をジョーカーへと変えていた。  自分が忌み嫌う名前を持つ男が。あの時自分を相手に手も足も出なかった男が。  赤の複眼を煌めかせて、目の前の怪人へと殴り掛ったのだ。   「っらぁ!!」 「フンッ」  漆黒の拳は、しかしその分厚い装甲へは届かない。  ジョーカーの男の右のパンチは、ガドルの左の掌に収まった。  ならばとばかりに左足を振り上げ、ガドルの顔面を打ち据える。  だけど悲しいかな、威力が足りない。蹴りはガドルの首を多少傾けさせるだけに留まった。 「硬ぇ!?」 「お前はクウガよりも、今戦ったリントよりも弱い」 「……んだと!?」  ジョーカーがそれ以上言葉を発する事は無かった。  言葉にしろ、行動にしろ、次に何らかのアクションを起こす前に、届いたのはガドルのパンチだ。  同じ漆黒の拳と言えど、敵のパンチとジョーカーのパンチの威力の差は段違い。  漆黒の胸部装甲にガドルの拳は減り込んで、その身体を一気に後方へと吹っ飛ばした。  始の眼前をごろごろと転がって、ジョーカーが再び起き上がる。 「ここは俺に任せて、アンタはとっとと逃げな」 「ジョーカーの男……奴と戦えば死ぬぞ」 「さあ、そいつはやってみないと分からねえぜ」 「……その自身は何処から来る」 「俺は仮面ライダーだからな」  ジョーカーの男の言い分は、良く解る。  仮面ライダーは、その命を賭してでも、人々を守らねばならない。  逃げる事など許されないし、人を見捨てて逃げる奴は最早仮面ライダーでは無い。  長い時間を剣崎達と共に過ごしてきた始だからこそ、その心理は分かる。  だから、ジョーカーの男の言い分を否定する気にはなれなかった。  それを否定してしまう事は、剣崎を否定する事に繋がるから。  だけど、それでも今のこいつでは、死にに行く様なものだ。 「無謀と勇気は違うぞ、仮面ライダー」 「ああ、分かってるぜそんな事。けどな、俺はもう、あんな犠牲は誰一人出したくねえんだ」  刹那。始は、何処か心が締め付けられる様な感覚を覚えた。  もしも目の前に居るのが剣崎であったなら、どんな行動をとって居ただろう。  きっと間違いなく、誰かの命を守る為、目の前のこの男と同じ選択を選んだだろう。  勝てるかどうか分からなくとも、どんな強敵が相手だろうと、立ち向かっていく。  それが仮面ライダーなのだ。剣崎と目の前の男が、始の中で重なる様な気がした。  だけどそれよりも、今最も問題なのは――  目の前の男の行動理念となった“あの男の死”についてだ。  剣崎と似た仮面ライダーの戦う理由を作ったのは、自分でもある。  自分があの木場という男を殺したから、この男はこうも必死になったのだ。  しかもタチが悪い事に、この男はその下手人が自分である事に気付いて居ない。  だからこそ、殺人鬼である自分を助けようとなんてするのだろう。  御人好しの馬鹿だ。こんな奴はきっと、生き残れない。  だけど始はやっぱり、この男を嫌いにはなれなかった。  だから、やりたいと言うのなら、無理に止めはしない。 「……なら、勝手にしろ」 「ああ、そうするさ」  言うが早いか、ジョーカーが駆け出した。  それに伴い、始も立ち上がろうと腰に力を言える。  瞬間、身体を突き刺す様な痛みが始の身体を襲った。  先程連続で受け続けたあの矢によるダメージだ。  不覚を取った、と。口惜しさに奥歯を噛み締める。 「さあ、行くぜマッチョメン!」  今度は飛び蹴りだった。  加速を付け、飛び上がったジョーカーは右の脚を真っ直ぐに突き出す。  太陽の光を背に、ガドルに向かって真っ直ぐに飛び退るが、結果は同じだ。  ジョーカーの脚の裏がガドルを捉える前に、ガドルが振り上げた右脚に叩き落される。  ジョーカーの飛び蹴りも決して未熟だった訳ではない。  ただ、ガドルの回し蹴りがそれ以上だったのだ。 「チッ……!」  脚と脚の激突の末に、アスファルトを転がったのはジョーカーだ。  始は改めて思う。今のジョーカーに、あの敵を倒す術は皆無だと。  どう頑張った所で、能力的に勝てる見込みが全く無いのだ。  だけれど、あの男は絶対に諦めようとはしなかった。  何度張り倒されようと、その度に起き上がる。 (あれが、仮面ライダーか……)  目の前で立ち上がったジョーカーが、また殴られた。  大仰な動きでその身を後退させて、それでも立ち向かう。  そうなれば、待って居るのはガドルによる強かな打撃攻撃だ。  一撃受ける度に後退して、ボロボロになって、それでも立ち向かう事を止めはしない。  あの男がそこまでする理由……それは、自分が仮面ライダーだから。  人を守る仮面ライダーだからこそ、どんな強敵にも背を向けはしない。  考えは立派だが、それでは殺されてしまう。殺し合いともなれば、尚更だ。  いい加減苛立ちさえ覚え始めた時、変わった行動を起こしたのはジョーカーの方だった。 「……お前には、コイツで勝負だ」  ――ジョォォカァァッ!!!――  ――マキシマムドライブッ!!!――  再び鳴り響いたのは、甲高い、だけど野太い男の声。  ベルトの横に装着されたスロットに黒い箱を叩き込んで、両腕で構えを作る。  ぐぐぐ、と。拳に力を込めて、限界まで引き絞り――やがてその拳を覆ったのは、漆黒の輝き。  そのまま走り出した黒の仮面ライダーは、疾風の如く速度でガドルの間合いまで踏み込み。  その拳を、ストレートパンチの要領で、真っ直ぐに振り抜いた。 「ライダーパンチッ……!」 「グッ……」  対するガドルも拳を振り抜くが、しかしジョーカーには当たらない。  ジョーカーが膝を落とし、上体を屈め、ガドルが振り抜いた拳を回避したのだ。  結果、ガドルの顔面に一方的にカウンターのライダーパンチを叩き込む事に成功。  それが単なるまぐれなのか。それとも、この、ここ一番の勝負強さこそ、彼の才能なのか。  それは始には分からなかったが、ジョーカーの拳が、ガドルの顔面を捉えた事だけは揺るがぬ事実。  その攻撃が効いたのか、効いていないのか、それを判断するよりも先に、変化が訪れる。  ガドルの身体を包んで居た外骨格が、突如として消え失せたのだ。  ジョーカー相手に、生身を晒すは軍服の男。 「変身が……!」 「っらぁぁっ!!」 「――ッ!?」  チャンスは一瞬。  変身が解けた軍服に向けて放たれたのは、回し蹴り。  見ていて心地が良い程に見事な軌道を描いて、漆黒の脛はガドルに叩き付けられた。  当然ガドルはガドルで、受身に両腕を構えるが、生身の人間が仮面ライダーを止められる訳がない。  軍服の腕はジョーカーの回し蹴りを受け止めきれずに、その身体が後方へと吹っ飛んだ。  その身体をアスファルトへと強かに打ち付けて、それでもゆらりと立ち上がる。 「どうだ! マキシマムを受けたんだ、もう戦えねえだろ!?」  それは、実質的な勝利宣言。  高らかに宣言したジョーカーは、軍服の男を見据えて言った。  だけどその問いに対する返事は無い。軍服は、何も言わずに駆け出した。  今回は自分の敗北を悟ったのだろう。入り組む町並みの中へと消えて行った。 「あっ、待て!」  咄嗟に追いかけようとするが、すぐにその脚を止める。  ジョーカーの男は、その変身を解除し、始の眼前まで歩み寄った。  探偵風のハットに、黒のベストと、カッターシャツ。  何処からどう見ても「探偵です」と言っている様な外見であった。  始の眼前へと突き出された掌を掴んで、ゆっくりと起き上がる。 「無事で良かった。あんた、名前は何て言うんだ?」 「……相川、始」 「相川始、か。俺の名前は左翔太郎。探偵だ」  ここに再び、二人の“ジョーカーの男”が邂逅した。  ジョーカーとは切り札であり、同時に鬼札でもある。  出会ってしまったのは、切り札と鬼札。似て非なる二人の存在。  それが、どんな未来を招く事になるのかは、誰も知らない。   【1日目 午後】 【G-5 市街地】 【相川始@仮面ライダー剣】 【時間軸】本編後半あたり 【状態】疲労(大)、カリスに二時間変身不能、罪悪感 【装備】ラウズカード(ハートのA~6)@仮面ライダー剣 【道具】支給品一式、不明支給品(0~2) 【思考・状況】 1:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。 2:左翔太郎を殺すか? それとも…… 【備考】 ※ ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。 ※ 時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。 ※ 左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。 【左翔太郎@仮面ライダーW】 【時間軸】本編終了後 【状態】疲労(中)、悲しみと罪悪感、それ以上の決意、仮面ライダージョーカーに二時間変身不能 【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW 【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、翔太郎の不明支給品(0~2)、木場の不明支給品(0~2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場) 【思考・状況】 1:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。 2:出来れば相川始と協力したい。 2:カリス(名前を知らない)を絶対に倒す。 3:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。 4:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒) 5:ミュージアムの幹部達を警戒。 【備考】 ※ 木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。 ※ 555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。 ※ オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。 ※ ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。 ※ また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。 ※ ホッパーゼクターにはまだ認められていません。    ガドルにとっては、不運としか言えなかった。  この市街地内で、ガドルが探し歩いたのは他の参加者。  だけれど、ここは元の世界と違って、そこら中にリントが歩いている訳ではない。  探せども探せども一向に見つからず、苛立ちを覚え始めて来た所で、出会ったのは一人の男。  トレンチコートを羽織ったその男を、ガドルは標的として見なし、戦闘を開始した。  だけど、男の正体は只のリントではなく、何処かクウガにも似た漆黒の戦士。  あれが、最初に言って居た仮面ライダーと呼ばれる存在なのだろうか。  その実力、技量だけならガドルの敵・クウガ以上と言える。  そんな戦闘に慣れた男との勝負は、ガドルの勝ちに終わった。  しかし、いざトドメを刺そうと男に迫れば、突然現れたのは黒の仮面ライダー。  男の実力はクウガどころか先程戦ったライダーにも及ばないものだった。  だけどタフさはクウガと同等か、それ以上。そう簡単にはへたばらない。  やがて奴が振り抜いた最後のパンチは、ガドルにも響いた。 「面白いな、仮面ライダー」  僅かに腫れた頬を軽く触れて、ぽつりと呟いた。  この会場には、まだまだ強い仮面ライダーが沢山居る。  先程は原因不明の変身解除で撤退せざるを得なかったが、次からはそうはいかない。  恐らくこの会場では、10分も戦えば強制的に変身が解除されるのだろう。  先程の仮面ライダーとの戦いだって、あれは変身制限による変身解除だ。  決してライダーパンチとやらを受けた事で変身状態を保って居られなくなった訳ではない。  だけど、変身制限さえ知って居れば、やり様はいくらでもある。  ガドルは決めた。  この場に居る仮面ライダーを全て倒すと。  そうして、いずれはダグバをも倒し――自分はグロンギの王となるのだ。  その為に求めるのは、更なる戦い。更なる力を持った参加者。  激闘を求めて、ガドルは歩き出した。 【1日目 日中】 【G-5 市街地】 【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】 【時間軸】第45話 クウガに勝利後 【状態】疲労(中)、怪人体に二時間変身不可 【装備】無し 【道具】支給品一式、不明支給品×3 【思考・状況】 1:ゲゲルを続行する 2:強い「仮面ライダー」に興味。 【備考】 ※デイバッグの中はまだきちんと調べていません。 ※変身制限がだいたい10分であると気付きました。 |035:[[仮面ライダーになりたくない男]]|投下順|037:[[敵か味方か?]]| |035:[[仮面ライダーになりたくない男]]|時系列順|037:[[敵か味方か?]]| |030:[[Xの可能性/悲しみを背負い]]|[[左翔太郎]]|| |009:[[ゆれるH/守りたい世界]]|[[相川始]]|| |011:[[その力、誰の為に]]|[[ゴ・ガドル・バ]]|042:[[三様]]| --------
*二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI  相川始の心は、揺れ動いていた。  どんなに振り解こうとしても、罪悪感は消えない。  自分は奪ってしまったのだ。罪も無い、守るべき人の命を。  間違いなくこの殺し合いを打倒しようとしていた男の命を、この手で。  他の世界を消滅させてでも自分の世界を守らなければならない。  その気持ちに嘘は無いし、その行動方針を変えるつもりもない。  だけれど、それでも吹きつのる罪悪感は消えはしない。  (剣崎……)  始にとって唯一「友」と呼べる相手を、心中で思い描く。  彼ならば、この殺し合いの場で、一体どんな行動を取るだろう。  考え始めて一秒と経たず、考える必要も無いという事実に気付く。  言い切ってもいい。あの男ならば、絶対に殺し合いには乗らない。  何が何でも他者を救い、大ショッカーを打倒しようとするだろう。  そんな剣崎を責めるつもりは無いし、寧ろ誇らしいとも思う。  そしてそんな立派な友を持てた事を、自分の誇りだとも思う。 (剣崎とは一緒に戦えないな)  だが、だからこそ。  一緒に戦う事は絶対に出来ないのだろう。  自分の存在は間違いなく剣崎にとって重荷となる。  目的は同じ世界を守る事であっても、やり方は真逆なのだから、当然だ。  剣崎は他者と手を取り合い、共に大ショッカーを倒す事で世界を守る。  自分は他者の命を奪い、大ショッカーに従う事で世界を守る。  人の心が芽生え始めていた始にとって、それは苦渋の選択ではあるが、仕方がない。  これも守る為。人として、守りたい世界を守る為に、相川始は他者の命を奪うのだ。  求めるモノは、守りたいという気持ちは、剣崎にだって負けるつもりはなかった  気持ちは同じであるのに、そこに至る為の過程は全くの逆。  故にこそ、一抹の憂いが過る。 (どうせ辛い思いをする事になるんだろうな、剣崎は)  御人好しの剣崎一真は、確かに強い。  人としても、仮面ライダーとしても、だ。  だけれど、それでも奴はこの戦いでは不利だ。  剣崎の事だ。きっと奴はどんな人間でも救おうとする。  例え自分の身が危険に晒されようと、何度裏切られようと。  相手がどんなクズ人間であっても、絶対に見捨てはしないだろう。  それが剣崎にとっての一番の弱点にして、死に繋がる一番の要因。 (なら、汚れ仕事は俺が買ってやる)  だけど、なればこそだ。  なればこそ、汚れ仕事は自分が買おう。  殺し合いに乗ったクズの様な相手は、率先してこの手で殺す。  そうする事で、剣崎の目指そうとする道のりを少しでも楽にしてやるのだ。 (そうだ……俺は俺のやり方で世界を守る。だから剣崎……お前はお前の道を行け)  最終的に剣崎が大ショッカーを打倒し、世界を救えるならそれで善し。  だが、そうでないなら自分が他の世界の参加者を皆殺しにする。  剣崎と違い、こんなやり方でしか世界を救えない自分を呪う。  だけど、それでいい。それで十分だ。  自分は所詮、死神なのだから。  世界を救うための二つの道のり。  そのもう一つの道を剣崎は任せて、自分は狩りに没頭する。  今はただ、自分に出来る、自分の道を突き進むだけだ。  だから始は敵を求めて、ただ前へ歩く。  そして見付けた。  次の獲物を。   ◆  二人の間に、言葉などは必要なかった。  否、正確には二言三言交わしたのだろうが、それは大きな問題では無い。  重要なのは、目の前の相手が殺し合いに乗っている、という事実。  お互いの命を賭けて、始まったのはやるかやられるかの殺し合い。  黒の装甲に身を包んで、駆けるカリス。  黒の外骨格に身を包んで、駆けるガドル。  幾度かの激突の後で、二人はお互いの間合いを計り合っていた。  そんな二人に訪れるチャンスは刹那的。踏み込み、飛び込むのもまた刹那。  一瞬の隙を見付けた二人の剣は、甲高い金属音を打ち鳴らして激突した。  歴戦の闘士二人の戦いに、舌舐めずりなんてものは存在しない。  お互いの実力が分かっているからこそ、最初から全力で激突する。 「トゥッ!」  掛け声を一声。  弓とも剣ともつかない両刃の刃を、力一杯に振り上げる。  対するガドルの動きは、まるでその軌道を読んでいたかのようで。  巨大な大剣を、信じられない程に軽々しく持ち上げて、カリスの動きに対応した。  きぃん! と、鋭い金属音が辺りに響いて、手応えが無い事を悟る。  醒弓を翻し、もう一方の刃で切りかかるが、結果は同じ。  ガドルの大剣はそれにも難なく対応して見せた。 「フンッ!」  反撃に出たのは、ガドル。  カリスの装甲を斬らんと、その大剣を一気に振り下ろす。  相手の武器は、見るからに重量を持っているであろう大剣。  当然、そんな武器を正面から受け止めようとする程、カリスは馬鹿ではなかった。  ハートの複眼にガドルの大剣を捉えた瞬間には、後方へと飛び退り、離脱。  ゴウッ! と重苦しい音を立てて、大剣が大気を、風を切り裂いた。  寸断された空気を漆黒の肌で感じて、大剣の威力を計り知る。  あの大剣をまともに受けるのは拙い、と改めて判断。  カリスは矢継ぎ早に弓を引き絞り、光弾を放った。 「……………?」  放たれた数発の光弾はガドルの胸部で爆ぜた。  白い煙を立ち昇らせ、派手に火花を撒き散らすガドルの装甲。  だけれど、それがさしたる意味を持たない事などは、考えるまでも無かった。  ガドルは痛みを感じて居ないのだ。全弾胸部に喰らおうとも、呻き一つ漏らさない。  ならばとばかりにアスファルトを蹴って、間合いを詰める。 「トゥァッ!」 「ッ!」  駆け出したカリスの速力たるや、まさに韋駄天の如く。  一瞬のうちにガドルの懐に飛び込んで、俊敏な動きで醒弓を振り抜いた。  この怪人の振るう大剣や、その動きから鑑みるに、こいつ俊敏なタイプでは無い。  ならばやり様はある。一瞬で飛び込み攻撃を加え、すぐに離脱。後はそれの繰り返しだ。  ヒット&アウェイの連続で体力を削ぎ落としてから、トドメに必殺技を叩き込む。  敵の情報をろくに知らぬカリスにとっては、それが正しい判断かと思えた。  だけど、現実はそう甘くは行かず。  横一閃に振り抜いた醒弓は、アスファルトに突き立てた剣によって阻まれていた。  仮面の下で舌打ち一つ。すぐに体勢を立て直そうとしたカリスはしかし、目の前の変化に目を奪われてしまった。  そして、それが間違いであった事に気付くのは、その直後の事だ。  振り上げられた漆黒の槍が、カリスの胸部を強かに打ち付けた。   「ぐぁっ……!」  火花を舞い散らし、宙に舞うカリスの身体。  アスファルトに打ち付けられる前に受身を取って、体勢を立て直す。  見れば先程まで握って居た大剣は、禍々しい槍へとその姿を変えていた。  先程懐に飛び込んだ瞬間に驚愕したのは、大剣が槍に変わった、この変化だ。  どうやらあの敵はあらゆる状況に応じて武器を変える事が出来るらかった。 「技量だけはクウガよりも上、といった所か」  ガドルが、何事かをのたまった。  当然、カリスに敵の言葉の意味を考えてやる義理は無い。  醒弓を引き絞り、再び光の弓を無数に発射。単なる牽制攻撃だ。  これで弾幕を張り、その隙に懐に飛び込み、一撃を叩き込むのだ。  今更そんな小細工が通じるとは思えないが、それならそれでやり様はある。  ――CHOP――  一枚のカードをラウズして、アンデッドの力を輝きと共に吸収した。  ガドルの表面で光の弓が爆ぜて、真っ白の煙がその視界を覆う。  狙いはこれだ。この一瞬で接近して、攻撃力を上げたチョップを叩き込む。  輝きを放つ手刀を振り上げて、真っ直ぐに駆け出した。  しかし、再び二人が肉薄するよりも早く、行動を起こしたのはガドルだ。  未だ白い煙の晴れぬ視界の中、手に持った槍をカリスに向けて真っ直ぐに突き出した。  同時、槍は奇妙な形状変化を伴って、漆黒のボウガンへと変化。  次いで飛び出したのは、圧縮されたエネルギーの矢。 「何っ!」  咄嗟の判断であった。  目前まで迫り来る矢に向けて、手刀を振り下ろした。  圧縮されたエネルギーはチョップの一撃に撃ち落とされ、掻き消える。  だけど、それで終わらせてくれる訳がない。仮面を上げれば、次々と迫る矢が見えた。  怯みはしない。まだ対処は出来る。チョップのカードの輝きは消え去ってはいないのだから。  ガドルとの間合いを詰めながら、一発、また一発と矢を叩き落してゆく。  だけれど、その度にチョップの輝きは薄れ、その光を弱らせ――。 「ハッ!」  ガドルに肉薄し、その手刀を振り下ろした時には、輝きは殆ど残っては居なかった。  申し訳程度の輝きが現すのは、カードの効果を既に十分使い切った事による消耗。  振り下ろした手刀はガドルの分厚い腕に阻まれて――次に感じたのは、衝撃。   「グッ――!?」  カリスの胸元に押し付けられたボウガン。光を放つ発射口。  当然反応するだけの余裕など与えられる筈も無く、カリスの身体は吹き飛んでいた。  一発、二発、三発、四発。止まる事の無い矢の嵐が、カリスの胸部を捉える。  一撃命中する度、感じるのは装甲の上から身体を突き破る様な激痛。  胸部から背中まで突き抜ける様な鋭い痛みが、カリスのあらゆる行動を封じる。  やがて、黒の身体は後方のビルディングの壁に叩き付けられ、それ以上の後退を封じられた。  最後の一撃はカリスの胸部で弾けて、衝撃がコンクリートで出来た壁へと突き抜ける。  みしっ、と音を立て、亀裂を作ったのはカリスの身体……では無く、コンクリート。  同時に、崩れ落ちたのは瓦礫となったコンクリートと、カリスの身体。  変身を保つ事すら出来なくなり、その身体が人間の物へと変わってゆく。  どうやら、過度のダメージを受ければ変身は解除され、自動的にこの姿に戻ってしまうらしい。  これではまるで仮面ライダーに変身する人間と同じだな、と始は思う。  だけれども、今がそんな事を考えている場合では無い。  このままでは、殺される。  何も成す事無く、殺される。  あの家族を守る事すら出来ないまま――。  そう考えた瞬間、始は自分の身体を、何かが突き破る様な錯覚を感じた。  言うなれば、衝動。偽りの人の皮を突き破って、表に出ようとしている破壊の衝動だ。  全身の血が沸き立ち、毛穴が開く。内に秘める闘争本能が、飛び出しそうになる。  だけれど、すぐに理性が働いて、その衝動を抑えようとした。  それは芽生え始めた人間としての理性。  本来の“あの姿”を忌み嫌う、始としての心。  だけど、戦わない訳には行かない。何もしない訳には行かない。  目の前に迫るあの怪人は間違いなく、情け容赦なく自分を殺すだろう。  一歩、また一歩と迫り来るは、死を招く漆黒の異形。  ここで戦わなければ、殺される。  嗚呼、もう、あの姿になって戦うしかないのだろうか。  目の前の敵を叩き潰し、全てを破壊するあの悪魔の姿に。  何もかもを終焉へと導く、あの死神――  ――ジョォォカァァァッ!!!――  始の耳朶を叩いたのは、自分の中の“ジョーカー”では無かった。  野太く、だけど良く響き渡るその音声は、彼方から聞こえてくる。  先程自分がこの目に焼き付けたばかりの男。  あの時出会った、ジョーカーの男。  名前すら知らない男が、真っ直ぐに走って来る。  赤のベルトは紫の光を輝かせて、漆黒の欠片が男に集まってゆく。  いくつもの黒い欠片は男の身を完全に覆い隠し、その姿をジョーカーへと変えていた。  自分が忌み嫌う名前を持つ男が。あの時自分を相手に手も足も出なかった男が。  赤の複眼を煌めかせて、目の前の怪人へと殴り掛ったのだ。   「っらぁ!!」 「フンッ」  漆黒の拳は、しかしその分厚い装甲へは届かない。  ジョーカーの男の右のパンチは、ガドルの左の掌に収まった。  ならばとばかりに左足を振り上げ、ガドルの顔面を打ち据える。  だけど悲しいかな、威力が足りない。蹴りはガドルの首を多少傾けさせるだけに留まった。 「硬ぇ!?」 「お前はクウガよりも、今戦ったリントよりも弱い」 「……んだと!?」  ジョーカーがそれ以上言葉を発する事は無かった。  言葉にしろ、行動にしろ、次に何らかのアクションを起こす前に、届いたのはガドルのパンチだ。  同じ漆黒の拳と言えど、敵のパンチとジョーカーのパンチの威力の差は段違い。  漆黒の胸部装甲にガドルの拳は減り込んで、その身体を一気に後方へと吹っ飛ばした。  始の眼前をごろごろと転がって、ジョーカーが再び起き上がる。 「ここは俺に任せて、アンタはとっとと逃げな」 「ジョーカーの男……奴と戦えば死ぬぞ」 「さあ、そいつはやってみないと分からねえぜ」 「……その自身は何処から来る」 「俺は仮面ライダーだからな」  ジョーカーの男の言い分は、良く解る。  仮面ライダーは、その命を賭してでも、人々を守らねばならない。  逃げる事など許されないし、人を見捨てて逃げる奴は最早仮面ライダーでは無い。  長い時間を剣崎達と共に過ごしてきた始だからこそ、その心理は分かる。  だから、ジョーカーの男の言い分を否定する気にはなれなかった。  それを否定してしまう事は、剣崎を否定する事に繋がるから。  だけど、それでも今のこいつでは、死にに行く様なものだ。 「無謀と勇気は違うぞ、仮面ライダー」 「ああ、分かってるぜそんな事。けどな、俺はもう、あんな犠牲は誰一人出したくねえんだ」  刹那。始は、何処か心が締め付けられる様な感覚を覚えた。  もしも目の前に居るのが剣崎であったなら、どんな行動をとって居ただろう。  きっと間違いなく、誰かの命を守る為、目の前のこの男と同じ選択を選んだだろう。  勝てるかどうか分からなくとも、どんな強敵が相手だろうと、立ち向かっていく。  それが仮面ライダーなのだ。剣崎と目の前の男が、始の中で重なる様な気がした。  だけどそれよりも、今最も問題なのは――  目の前の男の行動理念となった“あの男の死”についてだ。  剣崎と似た仮面ライダーの戦う理由を作ったのは、自分でもある。  自分があの木場という男を殺したから、この男はこうも必死になったのだ。  しかもタチが悪い事に、この男はその下手人が自分である事に気付いて居ない。  だからこそ、殺人鬼である自分を助けようとなんてするのだろう。  御人好しの馬鹿だ。こんな奴はきっと、生き残れない。  だけど始はやっぱり、この男を嫌いにはなれなかった。  だから、やりたいと言うのなら、無理に止めはしない。 「……なら、勝手にしろ」 「ああ、そうするさ」  言うが早いか、ジョーカーが駆け出した。  それに伴い、始も立ち上がろうと腰に力を言える。  瞬間、身体を突き刺す様な痛みが始の身体を襲った。  先程連続で受け続けたあの矢によるダメージだ。  不覚を取った、と。口惜しさに奥歯を噛み締める。 「さあ、行くぜマッチョメン!」  今度は飛び蹴りだった。  加速を付け、飛び上がったジョーカーは右の脚を真っ直ぐに突き出す。  太陽の光を背に、ガドルに向かって真っ直ぐに飛び退るが、結果は同じだ。  ジョーカーの脚の裏がガドルを捉える前に、ガドルが振り上げた右脚に叩き落される。  ジョーカーの飛び蹴りも決して未熟だった訳ではない。  ただ、ガドルの回し蹴りがそれ以上だったのだ。 「チッ……!」  脚と脚の激突の末に、アスファルトを転がったのはジョーカーだ。  始は改めて思う。今のジョーカーに、あの敵を倒す術は皆無だと。  どう頑張った所で、能力的に勝てる見込みが全く無いのだ。  だけれど、あの男は絶対に諦めようとはしなかった。  何度張り倒されようと、その度に起き上がる。 (あれが、仮面ライダーか……)  目の前で立ち上がったジョーカーが、また殴られた。  大仰な動きでその身を後退させて、それでも立ち向かう。  そうなれば、待って居るのはガドルによる強かな打撃攻撃だ。  一撃受ける度に後退して、ボロボロになって、それでも立ち向かう事を止めはしない。  あの男がそこまでする理由……それは、自分が仮面ライダーだから。  人を守る仮面ライダーだからこそ、どんな強敵にも背を向けはしない。  考えは立派だが、それでは殺されてしまう。殺し合いともなれば、尚更だ。  いい加減苛立ちさえ覚え始めた時、変わった行動を起こしたのはジョーカーの方だった。 「……お前には、コイツで勝負だ」  ――ジョォォカァァッ!!!――  ――マキシマムドライブッ!!!――  再び鳴り響いたのは、甲高い、だけど野太い男の声。  ベルトの横に装着されたスロットに黒い箱を叩き込んで、両腕で構えを作る。  ぐぐぐ、と。拳に力を込めて、限界まで引き絞り――やがてその拳を覆ったのは、漆黒の輝き。  そのまま走り出した黒の仮面ライダーは、疾風の如く速度でガドルの間合いまで踏み込み。  その拳を、ストレートパンチの要領で、真っ直ぐに振り抜いた。 「ライダーパンチッ……!」 「グッ……」  対するガドルも拳を振り抜くが、しかしジョーカーには当たらない。  ジョーカーが膝を落とし、上体を屈め、ガドルが振り抜いた拳を回避したのだ。  結果、ガドルの顔面に一方的にカウンターのライダーパンチを叩き込む事に成功。  それが単なるまぐれなのか。それとも、この、ここ一番の勝負強さこそ、彼の才能なのか。  それは始には分からなかったが、ジョーカーの拳が、ガドルの顔面を捉えた事だけは揺るがぬ事実。  その攻撃が効いたのか、効いていないのか、それを判断するよりも先に、変化が訪れる。  ガドルの身体を包んで居た外骨格が、突如として消え失せたのだ。  ジョーカー相手に、生身を晒すは軍服の男。 「変身が……!」 「っらぁぁっ!!」 「――ッ!?」  チャンスは一瞬。  変身が解けた軍服に向けて放たれたのは、回し蹴り。  見ていて心地が良い程に見事な軌道を描いて、漆黒の脛はガドルに叩き付けられた。  当然ガドルはガドルで、受身に両腕を構えるが、生身の人間が仮面ライダーを止められる訳がない。  軍服の腕はジョーカーの回し蹴りを受け止めきれずに、その身体が後方へと吹っ飛んだ。  その身体をアスファルトへと強かに打ち付けて、それでもゆらりと立ち上がる。 「どうだ! マキシマムを受けたんだ、もう戦えねえだろ!?」  それは、実質的な勝利宣言。  高らかに宣言したジョーカーは、軍服の男を見据えて言った。  だけどその問いに対する返事は無い。軍服は、何も言わずに駆け出した。  今回は自分の敗北を悟ったのだろう。入り組む町並みの中へと消えて行った。 「あっ、待て!」  咄嗟に追いかけようとするが、すぐにその脚を止める。  ジョーカーの男は、その変身を解除し、始の眼前まで歩み寄った。  探偵風のハットに、黒のベストと、カッターシャツ。  何処からどう見ても「探偵です」と言っている様な外見であった。  始の眼前へと突き出された掌を掴んで、ゆっくりと起き上がる。 「無事で良かった。あんた、名前は何て言うんだ?」 「……相川、始」 「相川始、か。俺の名前は左翔太郎。探偵だ」  ここに再び、二人の“ジョーカーの男”が邂逅した。  ジョーカーとは切り札であり、同時に鬼札でもある。  出会ってしまったのは、切り札と鬼札。似て非なる二人の存在。  それが、どんな未来を招く事になるのかは、誰も知らない。   【1日目 午後】 【G-5 市街地】 【相川始@仮面ライダー剣】 【時間軸】本編後半あたり 【状態】疲労(大)、カリスに二時間変身不能、罪悪感 【装備】ラウズカード(ハートのA~6)@仮面ライダー剣 【道具】支給品一式、不明支給品(0~2) 【思考・状況】 1:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。 2:左翔太郎を殺すか? それとも…… 【備考】 ※ ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。 ※ 時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。 ※ 左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。 【左翔太郎@仮面ライダーW】 【時間軸】本編終了後 【状態】疲労(中)、悲しみと罪悪感、それ以上の決意、仮面ライダージョーカーに二時間変身不能 【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW 【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、翔太郎の不明支給品(0~2)、木場の不明支給品(0~2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場) 【思考・状況】 1:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。 2:出来れば相川始と協力したい。 2:カリス(名前を知らない)を絶対に倒す。 3:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。 4:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒) 5:ミュージアムの幹部達を警戒。 【備考】 ※ 木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。 ※ 555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。 ※ オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。 ※ ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。 ※ また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。 ※ ホッパーゼクターにはまだ認められていません。    ガドルにとっては、不運としか言えなかった。  この市街地内で、ガドルが探し歩いたのは他の参加者。  だけれど、ここは元の世界と違って、そこら中にリントが歩いている訳ではない。  探せども探せども一向に見つからず、苛立ちを覚え始めて来た所で、出会ったのは一人の男。  トレンチコートを羽織ったその男を、ガドルは標的として見なし、戦闘を開始した。  だけど、男の正体は只のリントではなく、何処かクウガにも似た漆黒の戦士。  あれが、最初に言って居た仮面ライダーと呼ばれる存在なのだろうか。  その実力、技量だけならガドルの敵・クウガ以上と言える。  そんな戦闘に慣れた男との勝負は、ガドルの勝ちに終わった。  しかし、いざトドメを刺そうと男に迫れば、突然現れたのは黒の仮面ライダー。  男の実力はクウガどころか先程戦ったライダーにも及ばないものだった。  だけどタフさはクウガと同等か、それ以上。そう簡単にはへたばらない。  やがて奴が振り抜いた最後のパンチは、ガドルにも響いた。 「面白いな、仮面ライダー」  僅かに腫れた頬を軽く触れて、ぽつりと呟いた。  この会場には、まだまだ強い仮面ライダーが沢山居る。  先程は原因不明の変身解除で撤退せざるを得なかったが、次からはそうはいかない。  恐らくこの会場では、10分も戦えば強制的に変身が解除されるのだろう。  先程の仮面ライダーとの戦いだって、あれは変身制限による変身解除だ。  決してライダーパンチとやらを受けた事で変身状態を保って居られなくなった訳ではない。  だけど、変身制限さえ知って居れば、やり様はいくらでもある。  ガドルは決めた。  この場に居る仮面ライダーを全て倒すと。  そうして、いずれはダグバをも倒し――自分はグロンギの王となるのだ。  その為に求めるのは、更なる戦い。更なる力を持った参加者。  激闘を求めて、ガドルは歩き出した。 【1日目 日中】 【G-5 市街地】 【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】 【時間軸】第45話 クウガに勝利後 【状態】疲労(中)、怪人体に二時間変身不可 【装備】無し 【道具】支給品一式、不明支給品×3 【思考・状況】 1:ゲゲルを続行する 2:強い「仮面ライダー」に興味。 【備考】 ※デイバッグの中はまだきちんと調べていません。 ※変身制限がだいたい10分であると気付きました。 |035:[[仮面ライダーになりたくない男]]|投下順|037:[[敵か味方か?]]| |035:[[仮面ライダーになりたくない男]]|時系列順|037:[[敵か味方か?]]| |030:[[Xの可能性/悲しみを背負い]]|[[左翔太郎]]|058:[[Jの男達/世界を守るために]]| |009:[[ゆれるH/守りたい世界]]|[[相川始]]|058:[[Jの男達/世界を守るために]]| |011:[[その力、誰の為に]]|[[ゴ・ガドル・バ]]|042:[[三様]]| --------

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