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*Round ZERO ~ WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE
TURN-01 金居の場合
「あれが異世界の仮面ライダーか」
眼鏡の青年がそう呟く中、少し離れた場所では4人の参加者が戦っているのが見える。
呟いた青年は名簿上では金居と呼ばれている。しかし、彼は人間ではなくある世界においての生物の始祖たる不死の生命体アンデッド、その中でも上級であるカテゴリーK、ギラファノコギリクワガタの祖ギラファアンデッドだ。
金居は他の参加者との接触を求めていた。潰し合いをさせるにせよ情報を得るにせよその対象がいなければやりようがない。
金居のスタート地点である病院は治療施設という特性上人を集めやすい。だが、金居はそこに留まる事を良しとしなかった。
その理由は単純明快、人が集まるという事は危険人物も集まってくる事を意味するからだ。
誤解無き様言っておくが金居は自身が早々他の参加者に遅れを取るとは思っていない。相手が向かってくるならば返り討ちにするつもりではある。
だが、無駄な消耗を良しとするわけもない。故に金居は早々に病院を後にして移動を始めたのだ。
さて、移動するにしても市街地を散策するか市街地から離れるかを考えねばならない。
人と接触するならば市街地を散策した方が都合が良いだろうが前述の通り戦いに遭遇しやすく、それに惹かれて新たな戦いを強いられるリスクもある。
市街地から離れれば前述のリスクはある程度回避出来るものの、その場合は人と接触がしにくくなる。
要するに一長一短、どちらが良いという話でも無いという事だ。
その状況の中で金居が選択したのは市街地から離れるというものだ。だが、そんな彼がわざわざB-4に向かった理由は何故か?
それはほんの気紛れによるものなのか?
もしかすると、橋を越えたB-7辺りにある森を本能的に目的地として定めていたのかも知れない。
さながらクワガタムシが樹の樹液に惹かれるが如く――
閑話休題、そうして移動をしていたがその途中で遭遇したのは同じ世界からの参加者らしい桐生豪だけだった。
が、面倒な事に桐生は自らの世界の参加者すらも無差別に殺そうとしており金居と戦いになった。
桐生との戦闘自体は本来の姿に戻り戦う事で何事も無く対処出来たが2つの問題に気が付いた。
何時もよりも力を発揮出来ない事と、直後の再変身が不可能だった点だ。
以上の制限はパワーバランスを取り弱者であっても強者である自分を倒せる様にする為の仕掛けなのは容易に想像が付く。
制限のかけられたアンデッドの力と拳銃を含めた手持ちの道具だけでは少々心許ない。そこから導き出した方針は――
「人が集まっている所に向かうか――」
今までは割と成り行きに任せていたがここに来て能動的に他の参加者との接触を試みる事にした。
好都合な事に金居のいる場所B-5からすこし近くのC-5にはホテルがある。ホテルもまた人が集まりやすい場所、当面の目的地としては適当と言えよう。
だが、先の桐生同様危険人物と遭遇する可能性もある。この時点ではまだ変身出来ない事を踏まえるならば今はまだ待つべきかも知れないが――
「人間共の言葉にこんなのがあったな、『虎穴に入らずんば虎児を得ず』」
その意味は危険を冒さなければ大きな成果は得られないというものだ。故に金居はホテルへと向かおうとした。
「何故『虎』なのかは知らんがな」
金居の脳裏に虎の始祖のアンデッド、女性の人間体の姿を持つ彼女の姿が浮かび上がった。
自身の眷属がネタにされた言葉が存在する事にあまり良い気はしないだろう。そんなどうでも良い事を考えていた。
そして、ホテルの近くに来た所で遠目に見えたのが先の戦いが起ころうとした現場だった
金居が確認した所、弱々しい青年の傍にロックミュージシャン風の服装をした青年が近付いていた。その後、ロック風の青年が青眼の仮面ライダーに変身し弱々しい青年に襲いかかった。
詳しい事は解らないものの断片的に『キバ』、『サガ』、『キング』という単語が聞き取れ認識する事が出来た。
「そういえば参加者の中にキングという奴がいたな。そいつとは限らないだろうが……どちらにしても実力は相当なものだろうな」
その言葉は自身もまたカテゴリーKであるが故の自信によるものなのかもしれない。その近くでは、
『キバっていくぜぇぇぇぇぇ!!』
と、遠くにいる筈の金居にも認識出来る程の声が響くと共に1人の女性が赤い仮面ライダーに変身し、銃を装備してその色を緑色に変化しさせ青眼の仮面ライダーの所に向かうとしていた。
が、それと同時に背後では壮年の男性が全身に牙があしらわれた仮面ライダーに変身し緑色の仮面ライダーを襲撃していた。
ここまで見ていた金居ではあったが、それ以上は確認せず早々にこの場から離れホテルと距離を置こうとした。
金居が介入しなかった理由の1つは前述の通り現時点ではまだ本来の姿に戻る事が出来なかったからだ。拳銃1つで仮面ライダーとやり合えると考える程自惚れてはいない。
幾らリスク無しに何も得られないと言ってもあまりにもリスクが高すぎる、リスクが低いに越した事はないだろう。
それ以前に金居の見たところ戦っている4人は何れも異世界の連中、連中が勝手に潰し合ってくれるのはむしろ金居の望む所だ。わざわざ無駄に力を振るう必要はない。
ホテルから離れたのは位置関係から見て、ホテルにいる連中が戦いに巻き込まれる、あるいは介入する可能性が高かったからだ。前述の通りこの戦いを避けるのであれば現段階ではホテルに向かわない方が良いだろう。
無論、ホテルには自分の世界からの参加者がいてこの戦いで退場する可能性も否定出来ない。だが、金居自身すら退場する可能性がある以上可能性程度の段階でそこまで面倒を見るつもりはない。
そもそも、自分の知らぬ所で自分の世界の参加者が退場する可能性を想定できないほど金居も愚者ではない。今もこうして戦いが起こっている以上既に誰かが退場していても不思議ではないということだ。
だが全く介入するつもりが無いわけではない。今は介入しないものの後々となれば話は違う。
1~2時間経つ頃には恐らく金居自身変身可能になる、その時に戻って疲弊した連中に仕掛ければよい。
一方の相手側は戦いによって疲弊し、制限により恐らくは変身不能であろう。一転して金居が有利となる可能性が高い。
話し合いをするにしても金居の方が圧倒的優位に進められるはずだ。
何にせよ当面は少し離れた場所で周囲の様子を伺いつつ身を休めれば良いだろう。
「ま、俺の存在に気付かず戦ったお前達が悪いという事だ」
そう呟く金居の視線は東京タワーに向いていた――
TURN-02 葦原涼の場合
葦原涼は野上良太郎、天美あきら達の元から去っていった鳴海亜樹子を追跡していた。
亜樹子の移動した方向はC-5方面、故に涼はその周囲を探索したものの彼女の足取りを掴む事は出来なかった。
『彼女はきっと……死ぬ、でしょうね』
脳裏に浮かぶのは最悪の可能性。だが、そうそう都合良く、いや悪くというべきだろうが危険人物に――
「いや……」
涼は足を止めて考える。あの時あの場所にいたのは自分達だけだったのかを。
涼が良太郎達と合流した経緯は以下の通りだ。
ダム近くからアテもなく移動していた所何かの戦いの音が響いてきた。少し離れていたものの涼はすぐさまその場所へと向かった。
そして一瞬白い鎧を纏った戦士を見た様な気もしたが思考する余裕など無く、
『そこまでよ、ドーパント!』
その声が響いた方向に振り向くと鳥の怪物が亜樹子、良太郎、あきらといった3人の男女に襲いかかろうとするのが見えた。
詳しい事はわからない、だがこのまま放置すれば鳥の怪物が3人を殺す事は明白だった。
涼にそれを享受出来るわけがない。すぐさま何時もの様にあの姿、アギトと呼ばれるものになろうとした。
しかしどういうわけか姿は変わらなかった。今までその姿になる事で多くのものを失ってきたのに何故こういう時に変身出来ないのかと苛立ちを隠せない。
が、そんな事はこの際どうでもよい、重要なのは目の前の怪物から3人を守る事だ。最悪3人が逃げるだけの時間を稼げれば良い、そう考えてデイパックの中から武器を取り出そうとした。
そして取り出したのは何かの黒い箱、詳しい事は不明だがそれを使えば仮面ライダーなるものに変身出来るらしい。
仮面ライダーが何かは知らない、アギトの様なものなのかそれとは別の何かなのか。だが細かい考察などする気は無い、重要なのはその力で何を成すかだ。
故にすぐさま涼は近くの水溜まりにかざしベルトを出現させ仮面ライダーガイへと変身した。
涼はガイの力を知らない、それでも何時も変身した時の様な戦い方で鳥の怪物を圧倒、一気に無力化する事ができた。
その後鳥の怪物に変身した男性を説得したもののその直後、亜樹子が良太郎の元から去っていった。
詳しい事は不明だが彼女は自分の街を守る為に殺し合いに乗ったのだろう。それ故に良太郎達の元から去っていったと――
その彼女を連れ戻す為に涼が向かったというわけだ。
かくして思い出す。今まで鳥の怪物に変身した男性村上峡児や亜樹子への対処に追われ失念していたある事項を、ほんの一瞬だったが故に殆ど記憶に残らなかった事を。
そう、近くにはもう1人、白い鎧を纏った戦士がいたのだ。また、自身が最初に戦った鉛色と深緑の怪人も近くに来ていた可能性も否定出来ない。
もし彼等に襲われたらどうなる? 考えるまでもない。
しかしそれならそれで死体すら見つからないのはおかしい、ならば遭遇してはいないのだろうか? それなら亜樹子は何処へ行ったのだ?
「もしかすると……あそこか?」
視線の先にはそびえ立つ東京タワー、亜樹子がそこに向かった可能性は否定出来ない。
しかしそれはあくまで可能性に過ぎず向かったという確証はない。
また、東京タワーに向かったとしても、亜樹子が去ってから数時間経過した現状を踏まえれば東京タワーに向かった所で既にそこを離れている可能性は多分にある。
その一方、あきらが村上を抑える事になっており、あの場には良太もがいた事から村上が暴走しようとしてもある程度は大丈夫と考えて良い。
しかし、何者かの襲撃等不測の事態が起こればどうなるかは解らない。村上が暴走する可能性もあり、それ以前に襲撃者によって皆殺しにされている可能性だってある。
既に数時間も経過している事を踏まえ彼等が待機しているであろうホテルに戻る事も視野に入れた方が良いだろう。
だが結論は出ない。涼はホテルとタワーの両方を交互に見る。
「どうする……どっちに向かうべきだ?」
そう考えていると、
「そこの君、何かお探しかい? 良ければ私と情報交換でもしないか?」
TURN-03 乃木怜治の場合
唐突だがここで読者諸兄に乃木怜治参加者の解説付きルールブックについて説明しておこう。
その言葉通りそのルールブックには名簿のページの後ろに全参加者の顔写真、性別、年齢、変身する仮面ライダーあるいは怪人の名前が記載されている。
と、簡単に述べたが具体的にどのように書かれているかは実際に見てもらった方が早いだろう。まず2例ほど見てみようか、
名前:天道総司
性別:男
年齢:21歳
能力:仮面ライダーカブトに変身できる
名前:間宮玲奈
性別:女
年齢:25歳
能力:ウカワームに変身できる
この両名は乃木の世界からの参加者、故に乃木は当然この両名の事を把握している。
さて、一見するとこの情報は正しい様に見える。少なくとも天道についての情報は正しいし大半の参加者については正しい情報が書かれていると考えて良い。
だが、玲奈に関してはどうだろうか? 少なくてもこれをそのまま鵜呑みにして良いものではない。
そもそもワームというものは7年前に宇宙外から隕石と共に飛来した異界生物であり、姿形のみならず記憶までも写し取り人間に擬態し人間を脅かす存在だ。
そして解説にもある通り玲奈はワームである。となればこの解説の何処がおかしいかも容易に理解出来るだろう。
そう、厳密に言えばこの間宮玲奈は『間宮玲奈』本人ではなく、ウカワームが『間宮玲奈』に擬態した存在でしかないという事だ。
故にこの間宮玲奈が本当に25歳とは限らないし、女性ですらないのかも知れないという事だ。
もう1点、別段間違いとは言えないものの注意すべき点がある為、こちらにも触れておこう。次の例を見てもらいたい。
名前:乾巧
性別:男
年齢:18歳
能力:仮面ライダーファイズに変身できる
此方で注目すべきはその能力だ。実際、巧はファイズにに変身する。だが、これだけでは巧の情報を的確に描き切れたとは言えない。
実際、巧は他にウルフオルフェノクに変身する能力を有している。だが、その事はこの解説には一切触れられていないのだ。
つまり参加者の中には仮面ライダーとしての姿の他に怪人の姿を持つ者、複数の変身体を持つ者がいてもその内の片方しか書かれていないという事だ。
また、他にも注意点として変身出来るとはあってもその変身方法には一切触れられていない。
『仮面ライダーアギトに変身できる』、『仮面ライダー電王に変身できる』、『ローズオルフェノクに変身できる』、『ナスカドーパントに変身できる』etc...
どれが誰の情報かについては此処では触れないが、これらの中には変身にツールを必要とするものあるいは必要としないものそれぞれ存在する。
しかしそれらについての情報は一切描かれていない。
少なくても乃木にとっての常識では仮面ライダーに変身するにはツールが必要で、ワームなど怪人に変身するのにツールは必要としないがそれをそのまま当て嵌めて良いものではないという事だ。
長々と説明したものの纏めるとこういう事だ、参加者の解説は非常に有用なものではあるが、それに依存しすぎると手痛いミスを犯しかねないという事だ。
では何故不完全な解説として渡したのだろうか?
結論から言えば、違和感を覚える情報を極力削除し最低限必要な情報だけを提示したからだ。
これは一体どういう事なのだろうか?
実は参加者の中には厄介な参加者が存在する。相川始等の様な参加者の事だ。
結論だけ先に述べるが始の正体はアンデッドの1人ジョーカーである。しかし彼は仮面ライダーカリスにも変身する都合上能力欄には『仮面ライダーカリスに変身できる』とある。
しかし、アンデッドは元来1万年前に行われた種の繁栄を懸けたバトルファイトで戦った存在だ。つまり極端な話であればその年齢は10000歳という非常識的な数字となる。
折角、ジョーカーに変身するという情報は伏せられているというのにこの年齢情報だけで台無しになったといっても過言ではない。
空欄にしても良かっただろうがそれならそれで何故空欄なんだという問題が生じる。
故に、始など年齢だけで正体が看破されかねない参加者については差し障りの無い年齢が記載されている。
何? 嘘を表記した時点で情報の意味が無いのではないか? 確かにその通りだが、年齢や性別に関する情報がこの場でそこまで重要だと思うか?
この解説で重要な事はどの参加者がどのような仮面ライダーあるいは怪人に変身する、または能力を持たない一般人かどうかだ。
少々乱暴な言い方になるが年齢や性別の情報など蛇足といっても過言ではない。そこまで目くじらを立てる様な事ではない。
更に言えば結局の所情報というのはツールの一種でしかない。それが毒になるのか薬になるのか、あるいは無色透明な水になるのかどうかは使う者次第という事だ。
それを生かすも殺すも呑むも呑まれるのもそれを持つ乃木自身次第だという事だ。
乃木は考える。自身の持つ解説付きルールブックの持つ情報がどれだけ有用かどうかを。そして乃木自身は気付いた、ルールブックの解説だけでは不完全だという事を。
玲奈に関する表記もそうだったが見逃す事が決して出来ない参加者が1人いた。
その参加者の名前はこの際重要ではない。重要なのはその能力と顔写真だ。
能力は『仮面ライダーダークカブトに変身できる』、その顔写真は天道に酷似――いや、同じものであった。
天道に似た男が何者なのかはここでは余り重要ではない。重要な事は天道に酷似している事からその男がワーム、正確に言えばワームよりも先に飛来したワームの亜種ネイティブだという事だ。なお、この事は既に乃木は把握している。
つまり、この男は他にもネイティブワームに変身する能力を有している筈だがそれについては一切触れられていない。
そのダークカブトの資格者と同じ様にライダーと怪人、複数の姿を有する参加者がいても不思議ではないという事だ。
「だからこそ見極めは重要という事だ」
勿論、相手が何者であってもワームの中でも最強のワームと言っても過言ではない乃木が負けるつもりは全く無い。
今の乃木のワームとしての姿であるカッシスワームグラディウスは相手のエネルギーを吸収しそれをコピーして返すという強力な特殊能力を有している。
その能力の強大さを踏まえるならばいかに強力な仮面ライダーが相手であっても負ける事はないだろう。
が――それではそもそもこの殺し合い自体が乃木の一人勝ちで終わってしまう。
大体、超高速移動が使え同じ能力を使わなければ基本的に対処不可能なクロックアップを有する自身の世界の仮面ライダーやワームが他の世界よりも圧倒的に有利なのは明白だ。それでは勝負にすらならない。
つまり――何かしらの方法でそれらの能力に制限がかけられている可能性は非常に高いという事だ。
今のグラディウスの状態で使えるかは別にして、一度倒される前の形態としてディミディウスの時にはクロックアップ状態すらも止められるフリーズの能力があった。
仮にその能力が使えたとしてもやはり無制限に使えるなんて都合の良い事は無いだろう。
「何れ確かめる必要があるか……」
そう考えながら乃木は周辺にいた残る参加者2人に接触しようと考え周囲を探した。
1人は革ジャケットの男、もう1人は白スーツの男だ。
その2人から乃木が選んだのは――白スーツの男だ。その理由は単純明快、白スーツの男は乃木自身がいた東京タワーに向かっていた事から比較的簡単に接触出来ると考えたからだ。
が、結論から言えばその白スーツの男は何処かで身を潜めたせいか見つける事は出来ず無駄に時間を浪費する結果に終わった。
放送前には東京タワーを発つ事になっている霧島美穂達の所にこのまま戻っても良かったが何も成果を得られないまま戻るのは少々癪に障る。
「ならばもう1人の方か」
乃木はオートバジンを走らせ革ジャケットの男がいたC-5方面へと急いだ。姿を確認してから大分時間が経過した事を考えると遭遇出来る可能性は低いと思ってはいたが、
「やってみるものだな、まさかまだこの辺を彷徨いていたとはな」
革ジャケットの男を見つける事が出来た。密かにルールブックを確認した所、
「(仮面ライダーギルス葦原涼か……何かを探している様だが……)」
革ジャケットの男こと涼が何かを探しているのは遠目からでも把握出来た。
涼が何を探しているかは不明瞭、敵対するか利用出来るかどうかも不明、それでも接触してみる価値はあるだろう。故に、
「そこの君、何かお探しかい? 良ければ私と情報交換でもしないか?」
そう高らかに声を挙げ涼に話しかけた。
「誰だ?」
乃木に対し涼は警戒する。
「俺は乃木怜治だ、さっきも言ったが君は今何かを探しているのだろう? 俺としても情報が欲しいのでね、だからこそ……」
そう明朗に語る中、
「ならば俺も混ぜてもらおうか?」
そういって眼鏡の男性が現れた。
「何者だ?」
「金居とでも呼んでくれれば良い。情報が欲しいのは俺も一緒なんでね、情報交換に参加させて貰おうか。それでお前はどうなんだ?」
「……葦原涼だ」
それは涼自身も情報交換に応じるという意思表示でもあった。
TURN-04 WORM INVASIVE
「(乃木に葦原か、少なくとも俺の世界の仮面ライダー共とは毛色が違うのは確かだな)」
実の所、金居が2人と接触したのは乃木がいたからだ。
金居はC-5に潜みその時を待っていたが、その最中涼が近くまで来たのを確認していたのだ。涼が何かを探しているのは明白だったものの金居は接触すべきかどうか決めかねていた。
戦闘になる事自体は問題ではない。問題はむしろ、戦闘を行った事で最低でも2時間変身不能になる事だ、本来の姿に戻る事は慎重に行いたい所だ。
が、ここで乃木が意気揚々と涼に接触を試みた事で状況は一転する。涼は多少は警戒していたものの、すぐさま戦う様には見えなかった。
つまり、ここで戦闘になる可能性は大幅に低くなったという事になる。それならば接触してみる意義はあるだろう。
よしんば戦闘になりそうになっても乃木と涼を潰し合う形にすれば上手くいけば変身しないで済む。
以上の目算が金居にあったという事だ。
「(金居……ギラファアンデッドらしいが不用意に戦う様な愚者ではないらしいな)」
乃木の手元にある参加者の解説ではアンデッドは金居しかいなかった(実際には他にアンデッドは2人いるものの、両名とも能力欄には仮面ライダーに関する事しか書かれていない)。
それ故に乃木は金居の情報が頭に入っていたのだ。
とはいえアンデッドが何かは全く不明瞭、その名通りならば不死の存在でギラファノコギリクワガタの怪人という事になるだろう。
本当に不死ならば面倒な存在だろうが、この場においては流石に死なないという事は無いだろう。
「(つくづくカブトやクワガタに縁が深いものだな)」
カブトやガタックとの戦いを繰り広げる現状を踏まえると因縁を感じずにはいられない。
情報交換という事だったが乃木と金居はまだ自らの有する情報を明かしていない。
涼としては最優先で亜樹子の行方を掴みたかった、故に先に涼は自分が知るホテル近くでの村上との戦闘、そして亜樹子の離脱についての情報を話した。
その際、金居と乃木は名簿を取り出して確認している。
「悪いが俺は亜樹子って奴には会っていないな。それにその白い鎧を着た……仮面ライダーもな」
「緑色の奴は?」
「緑色の仮面ライダーなら会った……が、お前が言っているのはそういう仮面ライダーじゃ無く怪物の事なんだろう? それなら会っていない」
「そうか……」
涼の問いにそう答える金居であった。実際、金居の語った事に嘘はない。この場でわざわざ嘘を吐く理由は皆無だからだ。
「それより葦原、名簿ぐらい見ろよ」
そう金居に言われようやく涼は自身のデイパックから名簿を取り出した。ちなみに中には食料品等の共通した支給品以外に2つの道具が入っている。
さて、名簿を確認した所、涼の知り合いは2人だけいた。
「(津上……アイツもいたか……)」
1人は津上翔一、アギトの1人だ。奴の性格上殺し合いに乗るという事はまずないだろう、実力などを考えても別段気にかける必要はない。
「(それに木野……)」
もう1人は木野薫、涼の父親が乗っていたあかつき号の乗客の1人で彼もまたアギトとなりその力を以て人々の為に戦おうとしていた。
木野の言葉があったからこそ涼は自身の持つアギトの力で人を助けたいと考える様になったのだ。
だが――
「(何故アイツは真島……それに俺を……)」
木野は木野同様あかつき号の乗客でアギトの力に覚醒しようとしていた真島浩二、更には涼へと襲いかかってきたのだ。
木野の口振りでは自分以外のアギトを排除しようとしていた。人間の為に戦おうとしていた奴が何故その様な凶行に及んだのかは不明だ。
仮に木野が仮面ライダー全てをアギトだと考えたらどうだろうか? 誰が仮面ライダーあるいはアギトか解らない以上、無差別に人々を襲撃しかねないだろう。
とはいえ、今はそれを考えても仕方がないだろう。木野と遭遇した時にでも考えれば良い。それよりも重要なのは――
「鳴海亜樹子だったら1時間半ぐらい前に会ったな。霧島美穂と行動を共にしていた」
亜樹子の動向だ。乃木によると1時間半前――大体3時ぐらいに会ったという事らしい。
乃木の話では2人は東京タワーでゲームに対抗する為の仲間を集めるべく待っているらしく、乃木に仲間集めを頼んだそうだ。
「葦原の話と違うな、その鳴海って奴は殺し合いに乗ったからこそお前達の元を去ったんじゃなかったのか?」
そう金居が口を挟む。
「詳しい事は俺も知らないな、普通に考えれば霧島美穂に説得されたのだろうが……女心と秋の空という言葉もある」
「ならいいが……」
「あるいは2人で組んで他の参加者を抹殺しようと目論んでいる可能性もある。わざわざ自分が殺し合いに乗った事を宣伝する必要も無いだろう」
そう口にする乃木の言葉を否定出来ないでいる。しかし、
「乃木……2人は東京タワーで待っているんだな?」
亜樹子達の真意は不明、だが東京タワーで待っているという事だけは確実だ。実際に会って確かめれば良いだろう。
「ああ、だが急いだ方が良い。連中も同じ世界の仲間を捜す都合があるらしく放送……6時前には東京タワーを発つと言っていた」
「あと1時間半か……」
涼は時計を確認しながら口にする。行方がわかったならば出来るだけ早く情報交換を切り上げタワーに向かった方が良いだろう。
「言っておくがバイクは貸さんぞ」
そう乃木にした時、
『みんなぁーーーー! あたしの話を聞いてーーーーーー!』
突如として声が響き渡ってきた。
『こんな戦いはもうやめて! 自分の世界を守りたいからって、他の人達を殺すなんておかしいよ!』
「まさか……亜樹子……!」
涼がそう呟く。その声は亜樹子のものであった。
『仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローでしょ! 少なくとも、あたしの世界ではそうだった!』
「そうだな、俺の世界でもそうだ」
金居の口調は至って冷静だ。
『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』
「あの女……!」
乃木が忌々しそうに零す。
『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』
その叫びを最後に声は途絶えた。
そして周囲に再び静寂が訪れる。その中で最初に動いたのは涼、しかし。
「何処に行くつもりだ葦原涼、君は今の放送が言葉通りの意味だと思っているのか?」
乃木がそんな涼を呼び止める。
「どういう意味だ?」
「君の考えている事などわかる。ここまで響いた放送だ、恐らく相当広い範囲に届いたと考えて良いだろう。彼女の狙い通り人は集まる筈だ……殺し合いに乗った危険人物も含めてな」
「ああ、だから……」
「彼女達を危険から救う為、一刻も早く向かわなければならない――だが、果たして本当にそうだろうか?」
「何が言いたい?」
「それ自体が連中の狙いという事だろう」
それに答えたのは金居だった。
「あいつらだって、今の放送で危険人物を呼び込む事は解っている筈だ。生き残る為ならばやるべきじゃない。だが――それは逆にチャンスでもある。危険人物同士潰し合う可能性もおおいに高まるからな」
「だが、それだと亜樹子達が……」
「その通りだ。しかし……鳴海達に連中を倒す算段があるとしたらどうだ?」
「!?」
「恐らく真の狙いは東京タワーに集まった連中を一網打尽にする事だろう。大方……爆弾か何かを仕掛け爆発させるんじゃないのか?」
そう金居が語る。
「待て、放送を聞いた奴の中には……」
「その言葉を信じた馬鹿もいるだろうな。そいつらも含めて消し飛ばすつもりだろう」
涼の言葉に応えたのは乃木だ。
「少なくても俺が正義のヒーローを連れてくる算段になっていた。俺やそいつらも諸々殺すつもりだろう。これでハッキリした、2人は主催を打倒するつもりなど無い、俺達を出し抜き優勝を目論む悪女だという事だ」
「乃木……お前……」
「言っておくが俺はあいつらを信用していたわけじゃない。それに葦原だって言っていただろう、亜樹子は殺し合いに乗っていたと」
乃木の言葉を返せない涼を余所に金居が言葉を続ける。
「ま、これはあくまでも状況からの推測、正しいとは言えないだろう。しかし、本当に馬鹿正直に参加者を集めるだけが目的ならば只の自殺行為だ、俺達が助けに行った所で無駄死にするだけだろうな。助けに向かうのは止めた方が良い」
「巫山戯るな!」
金居の言葉に激しく反論する涼、
「おいおい、キレる相手が違うんじゃないのか? 悪いが俺もこんな所で死ぬつもりはないんでね、それに俺としてはそろそろホテルに向かいたいんでね」
「良太郎達に何か用があるのか?」
「ああ、そこには葦原の仲間がいるんだったな。それなら早く戻った方が良い、ついさっきその近くで殺し合いに乗った連中が戦っていたのを遠目で見た」
「何だと!?」
「もう戦いは終わっただろうが、そいつらがホテルに向かったかも知れないな」
飄々と語る金居の襟首を涼が掴む。
「……それを黙って見ていたというのか!?」
「言った筈だ、こんな所で死ぬつもりはないと。大体、掴みかかる相手が違うんじゃないのか?」
更に乃木が口を挟む、
「この規模だ、ホテル辺りに届いている可能性もあるだろう」
が、実際の所ホテルまでは届いてはいない。
幾ら効果範囲の広い大ショッカー製の拡声器とはいえど、確実に届く範囲は周囲1エリア程度、それより遠くに関しては周辺の状況などで大幅に変わってくる。
D-5から発せられた声は2つ程エリアを越えたF-5にも大きな声で届いたという事実はある。だが、届いた人物は亜樹子の関係者及び人間ではない参加者、それ故に実際に聞こえた以上に大きな声で響いたと感じたのだろう。
エリアを2つ越えるとなると状況次第で届かなくなり、更に離れた場所にはまず届かないと考えた方が良いだろう。幾ら通常よりも広範囲とはいえものには限度があるという事だ。
もっとも、実際に聞こえている当事者にはそれは知り得ない話だ。故にホテルに届いた可能性は考えなければならない。
「ホテルあるいはその周辺にいた連中が向かう可能性もある。危険人物ならタワーに向かわれない様に俺達が止めるという事も考えた方が良いだろう」
「くっ……」
「それでもタワーに向かうならば勝手に行きたまえ。但し、君1人でだ」
「乃木は行かないのか? 連中と約束していたんじゃないのか?」
「罠だとわかっている場所にノコノコ向かう馬鹿もいないだろう、大体金居もそうじゃないのか?」
「ああ、その通りだ」
その2人を余所に涼は悩む。
「(くっ……俺はどうすれば良い……あいつらの言葉はもっともだが……)」
亜樹子の言葉は高確率で罠なのは涼にも理解出来る。だが、仮にそうでなければ彼女達を危険にさらすわけにはいかない。
また、仮に罠だとしても無力な人々がやってくる可能性は高い、そういう人達を守る為には向かう必要があるだろう。
「(だが今タワーに向かえば……良太郎達は……)」
しかし、タワーに向かった場合、ホテルにいるであろう良太郎達がすぐ近くの危険人物達の脅威にさらされる事になる。彼等との合流も考えねばならない。
また、ホテル周辺の危険人物がタワーに向かわないとも限らない。それを阻止する選択もあるだろう。
「(俺は……)」
カミキリムシを彷彿とする姿を持つアギト――いやギルスに変身する力を持つ涼は自身の力を向ける先を定められずにいた。
その一方、乃木と金居は互いに視線を合わせていた。
「(思った以上に喰えない奴か……敵には回したくないものだ)」
「(この乃木という奴……人間とは思えない立ち回りだな……油断ならないな)」
少なくとも2人にはタワーに向かう選択肢はない。今向かった所で亜樹子達の罠で仕留められる可能性が高く、仮にそれがなくとも危険人物との乱戦は避けられない。
本来の力が発揮出来ない状況ではそれは避けるべきだろう。
「(ならば奴の言う様にホテルに向かうべきか?)」
「(奴が口にした様にホテルからタワーに向かう奴と接触してみるか?)」
奇しくも2人は虫あるいはワームの王とも言うべき存在、その思考は大いに似ていた。
「(さぁ金居……)」
「(乃木怜治……)」
虫(ワーム)の王による世界を懸けた殺し合いにおける侵略――
「「(貴様はどう動く?)」」
その矛先は何処に――?
【1日目 夕方】
【C-5 平原】
【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康
【装備】デザートイーグル@現実
【道具】支給品一式、地の石@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー、ファイズアクセル@仮面ライダー555
【思考・状況】
0:亜樹子達の言葉に乗り東京タワーに向かうつもりはない。ホテルに向かうか? 乃木はどう動く?
1:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
2:他の世界、及び大ショッカーの情報を集める。
3:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています
※首輪が自身の力に制限をかけていることに気づきました
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
【乃木怜司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康
【装備】オートバジン+ファイズエッジ@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実
【思考・状況】
0:亜樹子達の言葉に乗り東京タワーに戻るつもりはない。ホテルから来る参加者を待ち受けるか? 金居はどう動く?
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:美穂には注意する。
【備考】
※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュの二つです。
※現時点では、解説付きルールブックを他人と共有する気はありません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(小)、胸元にダメージ
【装備】カードデッキ(ガイ)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済)
【思考・状況】
0:東京タワーに向かう? ホテルに戻る? それとも此処でホテルからタワーに向かう参加者を待ち受ける?
1:殺し合いに乗ってる奴らはぶっつぶす
2:人を護る
3:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する
4:鉛色と深緑の怪人、白い鎧の戦士を警戒
【備考】
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
【全体備考】
※少なくてもB-6のホテルに亜樹子の放送が届く事はありません。
|058:[[Jの男達/世界を守るために]]|投下順|060:[[不屈の魂は、この胸に]]|
|058:[[Jの男達/世界を守るために]]|時系列順|060:[[不屈の魂は、この胸に]]|
|037:[[Round ZERO ~KING AND JOKER]]|[[金居]]||
|045:[[亜樹子オン・ザ・ライ]]|[[乃木怜治]]||
|033:[[そして、Xする思考]]|[[葦原涼]]||
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*Round ZERO ~ WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE
TURN-01 金居の場合
「あれが異世界の仮面ライダーか」
眼鏡の青年がそう呟く中、少し離れた場所では4人の参加者が戦っているのが見える。
呟いた青年は名簿上では金居と呼ばれている。しかし、彼は人間ではなくある世界においての生物の始祖たる不死の生命体アンデッド、その中でも上級であるカテゴリーK、ギラファノコギリクワガタの祖ギラファアンデッドだ。
金居は他の参加者との接触を求めていた。潰し合いをさせるにせよ情報を得るにせよその対象がいなければやりようがない。
金居のスタート地点である病院は治療施設という特性上人を集めやすい。だが、金居はそこに留まる事を良しとしなかった。
その理由は単純明快、人が集まるという事は危険人物も集まってくる事を意味するからだ。
誤解無き様言っておくが金居は自身が早々他の参加者に遅れを取るとは思っていない。相手が向かってくるならば返り討ちにするつもりではある。
だが、無駄な消耗を良しとするわけもない。故に金居は早々に病院を後にして移動を始めたのだ。
さて、移動するにしても市街地を散策するか市街地から離れるかを考えねばならない。
人と接触するならば市街地を散策した方が都合が良いだろうが前述の通り戦いに遭遇しやすく、それに惹かれて新たな戦いを強いられるリスクもある。
市街地から離れれば前述のリスクはある程度回避出来るものの、その場合は人と接触がしにくくなる。
要するに一長一短、どちらが良いという話でも無いという事だ。
その状況の中で金居が選択したのは市街地から離れるというものだ。だが、そんな彼がわざわざB-4に向かった理由は何故か?
それはほんの気紛れによるものなのか?
もしかすると、橋を越えたB-7辺りにある森を本能的に目的地として定めていたのかも知れない。
さながらクワガタムシが樹の樹液に惹かれるが如く――
閑話休題、そうして移動をしていたがその途中で遭遇したのは同じ世界からの参加者らしい桐生豪だけだった。
が、面倒な事に桐生は自らの世界の参加者すらも無差別に殺そうとしており金居と戦いになった。
桐生との戦闘自体は本来の姿に戻り戦う事で何事も無く対処出来たが2つの問題に気が付いた。
何時もよりも力を発揮出来ない事と、直後の再変身が不可能だった点だ。
以上の制限はパワーバランスを取り弱者であっても強者である自分を倒せる様にする為の仕掛けなのは容易に想像が付く。
制限のかけられたアンデッドの力と拳銃を含めた手持ちの道具だけでは少々心許ない。そこから導き出した方針は――
「人が集まっている所に向かうか――」
今までは割と成り行きに任せていたがここに来て能動的に他の参加者との接触を試みる事にした。
好都合な事に金居のいる場所B-5からすこし近くのC-5にはホテルがある。ホテルもまた人が集まりやすい場所、当面の目的地としては適当と言えよう。
だが、先の桐生同様危険人物と遭遇する可能性もある。この時点ではまだ変身出来ない事を踏まえるならば今はまだ待つべきかも知れないが――
「人間共の言葉にこんなのがあったな、『虎穴に入らずんば虎児を得ず』」
その意味は危険を冒さなければ大きな成果は得られないというものだ。故に金居はホテルへと向かおうとした。
「何故『虎』なのかは知らんがな」
金居の脳裏に虎の始祖のアンデッド、女性の人間体の姿を持つ彼女の姿が浮かび上がった。
自身の眷属がネタにされた言葉が存在する事にあまり良い気はしないだろう。そんなどうでも良い事を考えていた。
そして、ホテルの近くに来た所で遠目に見えたのが先の戦いが起ころうとした現場だった
金居が確認した所、弱々しい青年の傍にロックミュージシャン風の服装をした青年が近付いていた。その後、ロック風の青年が青眼の仮面ライダーに変身し弱々しい青年に襲いかかった。
詳しい事は解らないものの断片的に『キバ』、『サガ』、『キング』という単語が聞き取れ認識する事が出来た。
「そういえば参加者の中にキングという奴がいたな。そいつとは限らないだろうが……どちらにしても実力は相当なものだろうな」
その言葉は自身もまたカテゴリーKであるが故の自信によるものなのかもしれない。その近くでは、
『キバっていくぜぇぇぇぇぇ!!』
と、遠くにいる筈の金居にも認識出来る程の声が響くと共に1人の女性が赤い仮面ライダーに変身し、銃を装備してその色を緑色に変化しさせ青眼の仮面ライダーの所に向かうとしていた。
が、それと同時に背後では壮年の男性が全身に牙があしらわれた仮面ライダーに変身し緑色の仮面ライダーを襲撃していた。
ここまで見ていた金居ではあったが、それ以上は確認せず早々にこの場から離れホテルと距離を置こうとした。
金居が介入しなかった理由の1つは前述の通り現時点ではまだ本来の姿に戻る事が出来なかったからだ。拳銃1つで仮面ライダーとやり合えると考える程自惚れてはいない。
幾らリスク無しに何も得られないと言ってもあまりにもリスクが高すぎる、リスクが低いに越した事はないだろう。
それ以前に金居の見たところ戦っている4人は何れも異世界の連中、連中が勝手に潰し合ってくれるのはむしろ金居の望む所だ。わざわざ無駄に力を振るう必要はない。
ホテルから離れたのは位置関係から見て、ホテルにいる連中が戦いに巻き込まれる、あるいは介入する可能性が高かったからだ。前述の通りこの戦いを避けるのであれば現段階ではホテルに向かわない方が良いだろう。
無論、ホテルには自分の世界からの参加者がいてこの戦いで退場する可能性も否定出来ない。だが、金居自身すら退場する可能性がある以上可能性程度の段階でそこまで面倒を見るつもりはない。
そもそも、自分の知らぬ所で自分の世界の参加者が退場する可能性を想定できないほど金居も愚者ではない。今もこうして戦いが起こっている以上既に誰かが退場していても不思議ではないということだ。
だが全く介入するつもりが無いわけではない。今は介入しないものの後々となれば話は違う。
1~2時間経つ頃には恐らく金居自身変身可能になる、その時に戻って疲弊した連中に仕掛ければよい。
一方の相手側は戦いによって疲弊し、制限により恐らくは変身不能であろう。一転して金居が有利となる可能性が高い。
話し合いをするにしても金居の方が圧倒的優位に進められるはずだ。
何にせよ当面は少し離れた場所で周囲の様子を伺いつつ身を休めれば良いだろう。
「ま、俺の存在に気付かず戦ったお前達が悪いという事だ」
そう呟く金居の視線は東京タワーに向いていた――
TURN-02 葦原涼の場合
葦原涼は野上良太郎、天美あきら達の元から去っていった鳴海亜樹子を追跡していた。
亜樹子の移動した方向はC-5方面、故に涼はその周囲を探索したものの彼女の足取りを掴む事は出来なかった。
『彼女はきっと……死ぬ、でしょうね』
脳裏に浮かぶのは最悪の可能性。だが、そうそう都合良く、いや悪くというべきだろうが危険人物に――
「いや……」
涼は足を止めて考える。あの時あの場所にいたのは自分達だけだったのかを。
涼が良太郎達と合流した経緯は以下の通りだ。
ダム近くからアテもなく移動していた所何かの戦いの音が響いてきた。少し離れていたものの涼はすぐさまその場所へと向かった。
そして一瞬白い鎧を纏った戦士を見た様な気もしたが思考する余裕など無く、
『そこまでよ、ドーパント!』
その声が響いた方向に振り向くと鳥の怪物が亜樹子、良太郎、あきらといった3人の男女に襲いかかろうとするのが見えた。
詳しい事はわからない、だがこのまま放置すれば鳥の怪物が3人を殺す事は明白だった。
涼にそれを享受出来るわけがない。すぐさま何時もの様にあの姿、アギトと呼ばれるものになろうとした。
しかしどういうわけか姿は変わらなかった。今までその姿になる事で多くのものを失ってきたのに何故こういう時に変身出来ないのかと苛立ちを隠せない。
が、そんな事はこの際どうでもよい、重要なのは目の前の怪物から3人を守る事だ。最悪3人が逃げるだけの時間を稼げれば良い、そう考えてデイパックの中から武器を取り出そうとした。
そして取り出したのは何かの黒い箱、詳しい事は不明だがそれを使えば仮面ライダーなるものに変身出来るらしい。
仮面ライダーが何かは知らない、アギトの様なものなのかそれとは別の何かなのか。だが細かい考察などする気は無い、重要なのはその力で何を成すかだ。
故にすぐさま涼は近くの水溜まりにかざしベルトを出現させ仮面ライダーガイへと変身した。
涼はガイの力を知らない、それでも何時も変身した時の様な戦い方で鳥の怪物を圧倒、一気に無力化する事ができた。
その後鳥の怪物に変身した男性を説得したもののその直後、亜樹子が良太郎の元から去っていった。
詳しい事は不明だが彼女は自分の街を守る為に殺し合いに乗ったのだろう。それ故に良太郎達の元から去っていったと――
その彼女を連れ戻す為に涼が向かったというわけだ。
かくして思い出す。今まで鳥の怪物に変身した男性村上峡児や亜樹子への対処に追われ失念していたある事項を、ほんの一瞬だったが故に殆ど記憶に残らなかった事を。
そう、近くにはもう1人、白い鎧を纏った戦士がいたのだ。また、自身が最初に戦った鉛色と深緑の怪人も近くに来ていた可能性も否定出来ない。
もし彼等に襲われたらどうなる? 考えるまでもない。
しかしそれならそれで死体すら見つからないのはおかしい、ならば遭遇してはいないのだろうか? それなら亜樹子は何処へ行ったのだ?
「もしかすると……あそこか?」
視線の先にはそびえ立つ東京タワー、亜樹子がそこに向かった可能性は否定出来ない。
しかしそれはあくまで可能性に過ぎず向かったという確証はない。
また、東京タワーに向かったとしても、亜樹子が去ってから数時間経過した現状を踏まえれば東京タワーに向かった所で既にそこを離れている可能性は多分にある。
その一方、あきらが村上を抑える事になっており、あの場には良太もがいた事から村上が暴走しようとしてもある程度は大丈夫と考えて良い。
しかし、何者かの襲撃等不測の事態が起こればどうなるかは解らない。村上が暴走する可能性もあり、それ以前に襲撃者によって皆殺しにされている可能性だってある。
既に数時間も経過している事を踏まえ彼等が待機しているであろうホテルに戻る事も視野に入れた方が良いだろう。
だが結論は出ない。涼はホテルとタワーの両方を交互に見る。
「どうする……どっちに向かうべきだ?」
そう考えていると、
「そこの君、何かお探しかい? 良ければ私と情報交換でもしないか?」
TURN-03 乃木怜治の場合
唐突だがここで読者諸兄に乃木怜治参加者の解説付きルールブックについて説明しておこう。
その言葉通りそのルールブックには名簿のページの後ろに全参加者の顔写真、性別、年齢、変身する仮面ライダーあるいは怪人の名前が記載されている。
と、簡単に述べたが具体的にどのように書かれているかは実際に見てもらった方が早いだろう。まず2例ほど見てみようか、
名前:天道総司
性別:男
年齢:21歳
能力:仮面ライダーカブトに変身できる
名前:間宮玲奈
性別:女
年齢:25歳
能力:ウカワームに変身できる
この両名は乃木の世界からの参加者、故に乃木は当然この両名の事を把握している。
さて、一見するとこの情報は正しい様に見える。少なくとも天道についての情報は正しいし大半の参加者については正しい情報が書かれていると考えて良い。
だが、玲奈に関してはどうだろうか? 少なくてもこれをそのまま鵜呑みにして良いものではない。
そもそもワームというものは7年前に宇宙外から隕石と共に飛来した異界生物であり、姿形のみならず記憶までも写し取り人間に擬態し人間を脅かす存在だ。
そして解説にもある通り玲奈はワームである。となればこの解説の何処がおかしいかも容易に理解出来るだろう。
そう、厳密に言えばこの間宮玲奈は『間宮玲奈』本人ではなく、ウカワームが『間宮玲奈』に擬態した存在でしかないという事だ。
故にこの間宮玲奈が本当に25歳とは限らないし、女性ですらないのかも知れないという事だ。
もう1点、別段間違いとは言えないものの注意すべき点がある為、こちらにも触れておこう。次の例を見てもらいたい。
名前:乾巧
性別:男
年齢:18歳
能力:仮面ライダーファイズに変身できる
此方で注目すべきはその能力だ。実際、巧はファイズにに変身する。だが、これだけでは巧の情報を的確に描き切れたとは言えない。
実際、巧は他にウルフオルフェノクに変身する能力を有している。だが、その事はこの解説には一切触れられていないのだ。
つまり参加者の中には仮面ライダーとしての姿の他に怪人の姿を持つ者、複数の変身体を持つ者がいてもその内の片方しか書かれていないという事だ。
また、他にも注意点として変身出来るとはあってもその変身方法には一切触れられていない。
『仮面ライダーアギトに変身できる』、『仮面ライダー電王に変身できる』、『ローズオルフェノクに変身できる』、『ナスカドーパントに変身できる』etc...
どれが誰の情報かについては此処では触れないが、これらの中には変身にツールを必要とするものあるいは必要としないものそれぞれ存在する。
しかしそれらについての情報は一切描かれていない。
少なくても乃木にとっての常識では仮面ライダーに変身するにはツールが必要で、ワームなど怪人に変身するのにツールは必要としないがそれをそのまま当て嵌めて良いものではないという事だ。
長々と説明したものの纏めるとこういう事だ、参加者の解説は非常に有用なものではあるが、それに依存しすぎると手痛いミスを犯しかねないという事だ。
では何故不完全な解説として渡したのだろうか?
結論から言えば、違和感を覚える情報を極力削除し最低限必要な情報だけを提示したからだ。
これは一体どういう事なのだろうか?
実は参加者の中には厄介な参加者が存在する。相川始等の様な参加者の事だ。
結論だけ先に述べるが始の正体はアンデッドの1人ジョーカーである。しかし彼は仮面ライダーカリスにも変身する都合上能力欄には『仮面ライダーカリスに変身できる』とある。
しかし、アンデッドは元来1万年前に行われた種の繁栄を懸けたバトルファイトで戦った存在だ。つまり極端な話であればその年齢は10000歳という非常識的な数字となる。
折角、ジョーカーに変身するという情報は伏せられているというのにこの年齢情報だけで台無しになったといっても過言ではない。
空欄にしても良かっただろうがそれならそれで何故空欄なんだという問題が生じる。
故に、始など年齢だけで正体が看破されかねない参加者については差し障りの無い年齢が記載されている。
何? 嘘を表記した時点で情報の意味が無いのではないか? 確かにその通りだが、年齢や性別に関する情報がこの場でそこまで重要だと思うか?
この解説で重要な事はどの参加者がどのような仮面ライダーあるいは怪人に変身する、または能力を持たない一般人かどうかだ。
少々乱暴な言い方になるが年齢や性別の情報など蛇足といっても過言ではない。そこまで目くじらを立てる様な事ではない。
更に言えば結局の所情報というのはツールの一種でしかない。それが毒になるのか薬になるのか、あるいは無色透明な水になるのかどうかは使う者次第という事だ。
それを生かすも殺すも呑むも呑まれるのもそれを持つ乃木自身次第だという事だ。
乃木は考える。自身の持つ解説付きルールブックの持つ情報がどれだけ有用かどうかを。そして乃木自身は気付いた、ルールブックの解説だけでは不完全だという事を。
玲奈に関する表記もそうだったが見逃す事が決して出来ない参加者が1人いた。
その参加者の名前はこの際重要ではない。重要なのはその能力と顔写真だ。
能力は『仮面ライダーダークカブトに変身できる』、その顔写真は天道に酷似――いや、同じものであった。
天道に似た男が何者なのかはここでは余り重要ではない。重要な事は天道に酷似している事からその男がワーム、正確に言えばワームよりも先に飛来したワームの亜種ネイティブだという事だ。なお、この事は既に乃木は把握している。
つまり、この男は他にもネイティブワームに変身する能力を有している筈だがそれについては一切触れられていない。
そのダークカブトの資格者と同じ様にライダーと怪人、複数の姿を有する参加者がいても不思議ではないという事だ。
「だからこそ見極めは重要という事だ」
勿論、相手が何者であってもワームの中でも最強のワームと言っても過言ではない乃木が負けるつもりは全く無い。
今の乃木のワームとしての姿であるカッシスワームグラディウスは相手のエネルギーを吸収しそれをコピーして返すという強力な特殊能力を有している。
その能力の強大さを踏まえるならばいかに強力な仮面ライダーが相手であっても負ける事はないだろう。
が――それではそもそもこの殺し合い自体が乃木の一人勝ちで終わってしまう。
大体、超高速移動が使え同じ能力を使わなければ基本的に対処不可能なクロックアップを有する自身の世界の仮面ライダーやワームが他の世界よりも圧倒的に有利なのは明白だ。それでは勝負にすらならない。
つまり――何かしらの方法でそれらの能力に制限がかけられている可能性は非常に高いという事だ。
今のグラディウスの状態で使えるかは別にして、一度倒される前の形態としてディミディウスの時にはクロックアップ状態すらも止められるフリーズの能力があった。
仮にその能力が使えたとしてもやはり無制限に使えるなんて都合の良い事は無いだろう。
「何れ確かめる必要があるか……」
そう考えながら乃木は周辺にいた残る参加者2人に接触しようと考え周囲を探した。
1人は革ジャケットの男、もう1人は白スーツの男だ。
その2人から乃木が選んだのは――白スーツの男だ。その理由は単純明快、白スーツの男は乃木自身がいた東京タワーに向かっていた事から比較的簡単に接触出来ると考えたからだ。
が、結論から言えばその白スーツの男は何処かで身を潜めたせいか見つける事は出来ず無駄に時間を浪費する結果に終わった。
放送前には東京タワーを発つ事になっている霧島美穂達の所にこのまま戻っても良かったが何も成果を得られないまま戻るのは少々癪に障る。
「ならばもう1人の方か」
乃木はオートバジンを走らせ革ジャケットの男がいたC-5方面へと急いだ。姿を確認してから大分時間が経過した事を考えると遭遇出来る可能性は低いと思ってはいたが、
「やってみるものだな、まさかまだこの辺を彷徨いていたとはな」
革ジャケットの男を見つける事が出来た。密かにルールブックを確認した所、
「(仮面ライダーギルス葦原涼か……何かを探している様だが……)」
革ジャケットの男こと涼が何かを探しているのは遠目からでも把握出来た。
涼が何を探しているかは不明瞭、敵対するか利用出来るかどうかも不明、それでも接触してみる価値はあるだろう。故に、
「そこの君、何かお探しかい? 良ければ私と情報交換でもしないか?」
そう高らかに声を挙げ涼に話しかけた。
「誰だ?」
乃木に対し涼は警戒する。
「俺は乃木怜治だ、さっきも言ったが君は今何かを探しているのだろう? 俺としても情報が欲しいのでね、だからこそ……」
そう明朗に語る中、
「ならば俺も混ぜてもらおうか?」
そういって眼鏡の男性が現れた。
「何者だ?」
「金居とでも呼んでくれれば良い。情報が欲しいのは俺も一緒なんでね、情報交換に参加させて貰おうか。それでお前はどうなんだ?」
「……葦原涼だ」
それは涼自身も情報交換に応じるという意思表示でもあった。
TURN-04 WORM INVASIVE
「(乃木に葦原か、少なくとも俺の世界の仮面ライダー共とは毛色が違うのは確かだな)」
実の所、金居が2人と接触したのは乃木がいたからだ。
金居はC-5に潜みその時を待っていたが、その最中涼が近くまで来たのを確認していたのだ。涼が何かを探しているのは明白だったものの金居は接触すべきかどうか決めかねていた。
戦闘になる事自体は問題ではない。問題はむしろ、戦闘を行った事で最低でも2時間変身不能になる事だ、本来の姿に戻る事は慎重に行いたい所だ。
が、ここで乃木が意気揚々と涼に接触を試みた事で状況は一転する。涼は多少は警戒していたものの、すぐさま戦う様には見えなかった。
つまり、ここで戦闘になる可能性は大幅に低くなったという事になる。それならば接触してみる意義はあるだろう。
よしんば戦闘になりそうになっても乃木と涼を潰し合う形にすれば上手くいけば変身しないで済む。
以上の目算が金居にあったという事だ。
「(金居……ギラファアンデッドらしいが不用意に戦う様な愚者ではないらしいな)」
乃木の手元にある参加者の解説ではアンデッドは金居しかいなかった(実際には他にアンデッドは2人いるものの、両名とも能力欄には仮面ライダーに関する事しか書かれていない)。
それ故に乃木は金居の情報が頭に入っていたのだ。
とはいえアンデッドが何かは全く不明瞭、その名通りならば不死の存在でギラファノコギリクワガタの怪人という事になるだろう。
本当に不死ならば面倒な存在だろうが、この場においては流石に死なないという事は無いだろう。
「(つくづくカブトやクワガタに縁が深いものだな)」
カブトやガタックとの戦いを繰り広げる現状を踏まえると因縁を感じずにはいられない。
情報交換という事だったが乃木と金居はまだ自らの有する情報を明かしていない。
涼としては最優先で亜樹子の行方を掴みたかった、故に先に涼は自分が知るホテル近くでの村上との戦闘、そして亜樹子の離脱についての情報を話した。
その際、金居と乃木は名簿を取り出して確認している。
「悪いが俺は亜樹子って奴には会っていないな。それにその白い鎧を着た……仮面ライダーもな」
「緑色の奴は?」
「緑色の仮面ライダーなら会った……が、お前が言っているのはそういう仮面ライダーじゃ無く怪物の事なんだろう? それなら会っていない」
「そうか……」
涼の問いにそう答える金居であった。実際、金居の語った事に嘘はない。この場でわざわざ嘘を吐く理由は皆無だからだ。
「それより葦原、名簿ぐらい見ろよ」
そう金居に言われようやく涼は自身のデイパックから名簿を取り出した。ちなみに中には食料品等の共通した支給品以外に2つの道具が入っている。
さて、名簿を確認した所、涼の知り合いは2人だけいた。
「(津上……アイツもいたか……)」
1人は津上翔一、アギトの1人だ。奴の性格上殺し合いに乗るという事はまずないだろう、実力などを考えても別段気にかける必要はない。
「(それに木野……)」
もう1人は木野薫、涼の父親が乗っていたあかつき号の乗客の1人で彼もまたアギトとなりその力を以て人々の為に戦おうとしていた。
木野の言葉があったからこそ涼は自身の持つアギトの力で人を助けたいと考える様になったのだ。
だが――
「(何故アイツは真島……それに俺を……)」
木野は木野同様あかつき号の乗客でアギトの力に覚醒しようとしていた真島浩二、更には涼へと襲いかかってきたのだ。
木野の口振りでは自分以外のアギトを排除しようとしていた。人間の為に戦おうとしていた奴が何故その様な凶行に及んだのかは不明だ。
仮に木野が仮面ライダー全てをアギトだと考えたらどうだろうか? 誰が仮面ライダーあるいはアギトか解らない以上、無差別に人々を襲撃しかねないだろう。
とはいえ、今はそれを考えても仕方がないだろう。木野と遭遇した時にでも考えれば良い。それよりも重要なのは――
「鳴海亜樹子だったら1時間半ぐらい前に会ったな。霧島美穂と行動を共にしていた」
亜樹子の動向だ。乃木によると1時間半前――大体3時ぐらいに会ったという事らしい。
乃木の話では2人は東京タワーでゲームに対抗する為の仲間を集めるべく待っているらしく、乃木に仲間集めを頼んだそうだ。
「葦原の話と違うな、その鳴海って奴は殺し合いに乗ったからこそお前達の元を去ったんじゃなかったのか?」
そう金居が口を挟む。
「詳しい事は俺も知らないな、普通に考えれば霧島美穂に説得されたのだろうが……女心と秋の空という言葉もある」
「ならいいが……」
「あるいは2人で組んで他の参加者を抹殺しようと目論んでいる可能性もある。わざわざ自分が殺し合いに乗った事を宣伝する必要も無いだろう」
そう口にする乃木の言葉を否定出来ないでいる。しかし、
「乃木……2人は東京タワーで待っているんだな?」
亜樹子達の真意は不明、だが東京タワーで待っているという事だけは確実だ。実際に会って確かめれば良いだろう。
「ああ、だが急いだ方が良い。連中も同じ世界の仲間を捜す都合があるらしく放送……6時前には東京タワーを発つと言っていた」
「あと1時間半か……」
涼は時計を確認しながら口にする。行方がわかったならば出来るだけ早く情報交換を切り上げタワーに向かった方が良いだろう。
「言っておくがバイクは貸さんぞ」
そう乃木にした時、
『みんなぁーーーー! あたしの話を聞いてーーーーーー!』
突如として声が響き渡ってきた。
『こんな戦いはもうやめて! 自分の世界を守りたいからって、他の人達を殺すなんておかしいよ!』
「まさか……亜樹子……!」
涼がそう呟く。その声は亜樹子のものであった。
『仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローでしょ! 少なくとも、あたしの世界ではそうだった!』
「そうだな、俺の世界でもそうだ」
金居の口調は至って冷静だ。
『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』
「あの女……!」
乃木が忌々しそうに零す。
『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』
その叫びを最後に声は途絶えた。
そして周囲に再び静寂が訪れる。その中で最初に動いたのは涼、しかし。
「何処に行くつもりだ葦原涼、君は今の放送が言葉通りの意味だと思っているのか?」
乃木がそんな涼を呼び止める。
「どういう意味だ?」
「君の考えている事などわかる。ここまで響いた放送だ、恐らく相当広い範囲に届いたと考えて良いだろう。彼女の狙い通り人は集まる筈だ……殺し合いに乗った危険人物も含めてな」
「ああ、だから……」
「彼女達を危険から救う為、一刻も早く向かわなければならない――だが、果たして本当にそうだろうか?」
「何が言いたい?」
「それ自体が連中の狙いという事だろう」
それに答えたのは金居だった。
「あいつらだって、今の放送で危険人物を呼び込む事は解っている筈だ。生き残る為ならばやるべきじゃない。だが――それは逆にチャンスでもある。危険人物同士潰し合う可能性もおおいに高まるからな」
「だが、それだと亜樹子達が……」
「その通りだ。しかし……鳴海達に連中を倒す算段があるとしたらどうだ?」
「!?」
「恐らく真の狙いは東京タワーに集まった連中を一網打尽にする事だろう。大方……爆弾か何かを仕掛け爆発させるんじゃないのか?」
そう金居が語る。
「待て、放送を聞いた奴の中には……」
「その言葉を信じた馬鹿もいるだろうな。そいつらも含めて消し飛ばすつもりだろう」
涼の言葉に応えたのは乃木だ。
「少なくても俺が正義のヒーローを連れてくる算段になっていた。俺やそいつらも諸々殺すつもりだろう。これでハッキリした、2人は主催を打倒するつもりなど無い、俺達を出し抜き優勝を目論む悪女だという事だ」
「乃木……お前……」
「言っておくが俺はあいつらを信用していたわけじゃない。それに葦原だって言っていただろう、亜樹子は殺し合いに乗っていたと」
乃木の言葉を返せない涼を余所に金居が言葉を続ける。
「ま、これはあくまでも状況からの推測、正しいとは言えないだろう。しかし、本当に馬鹿正直に参加者を集めるだけが目的ならば只の自殺行為だ、俺達が助けに行った所で無駄死にするだけだろうな。助けに向かうのは止めた方が良い」
「巫山戯るな!」
金居の言葉に激しく反論する涼、
「おいおい、キレる相手が違うんじゃないのか? 悪いが俺もこんな所で死ぬつもりはないんでね、それに俺としてはそろそろホテルに向かいたいんでね」
「良太郎達に何か用があるのか?」
「ああ、そこには葦原の仲間がいるんだったな。それなら早く戻った方が良い、ついさっきその近くで殺し合いに乗った連中が戦っていたのを遠目で見た」
「何だと!?」
「もう戦いは終わっただろうが、そいつらがホテルに向かったかも知れないな」
飄々と語る金居の襟首を涼が掴む。
「……それを黙って見ていたというのか!?」
「言った筈だ、こんな所で死ぬつもりはないと。大体、掴みかかる相手が違うんじゃないのか?」
更に乃木が口を挟む、
「この規模だ、ホテル辺りに届いている可能性もあるだろう」
が、実際の所ホテルまでは届いてはいない。
幾ら効果範囲の広い大ショッカー製の拡声器とはいえど、確実に届く範囲は周囲1エリア程度、それより遠くに関しては周辺の状況などで大幅に変わってくる。
D-5から発せられた声は2つ程エリアを越えたF-5にも大きな声で届いたという事実はある。だが、届いた人物は亜樹子の関係者及び人間ではない参加者、それ故に実際に聞こえた以上に大きな声で響いたと感じたのだろう。
エリアを2つ越えるとなると状況次第で届かなくなり、更に離れた場所にはまず届かないと考えた方が良いだろう。幾ら通常よりも広範囲とはいえものには限度があるという事だ。
もっとも、実際に聞こえている当事者にはそれは知り得ない話だ。故にホテルに届いた可能性は考えなければならない。
「ホテルあるいはその周辺にいた連中が向かう可能性もある。危険人物ならタワーに向かわれない様に俺達が止めるという事も考えた方が良いだろう」
「くっ……」
「それでもタワーに向かうならば勝手に行きたまえ。但し、君1人でだ」
「乃木は行かないのか? 連中と約束していたんじゃないのか?」
「罠だとわかっている場所にノコノコ向かう馬鹿もいないだろう、大体金居もそうじゃないのか?」
「ああ、その通りだ」
その2人を余所に涼は悩む。
「(くっ……俺はどうすれば良い……あいつらの言葉はもっともだが……)」
亜樹子の言葉は高確率で罠なのは涼にも理解出来る。だが、仮にそうでなければ彼女達を危険にさらすわけにはいかない。
また、仮に罠だとしても無力な人々がやってくる可能性は高い、そういう人達を守る為には向かう必要があるだろう。
「(だが今タワーに向かえば……良太郎達は……)」
しかし、タワーに向かった場合、ホテルにいるであろう良太郎達がすぐ近くの危険人物達の脅威にさらされる事になる。彼等との合流も考えねばならない。
また、ホテル周辺の危険人物がタワーに向かわないとも限らない。それを阻止する選択もあるだろう。
「(俺は……)」
カミキリムシを彷彿とする姿を持つアギト――いやギルスに変身する力を持つ涼は自身の力を向ける先を定められずにいた。
その一方、乃木と金居は互いに視線を合わせていた。
「(思った以上に喰えない奴か……敵には回したくないものだ)」
「(この乃木という奴……人間とは思えない立ち回りだな……油断ならないな)」
少なくとも2人にはタワーに向かう選択肢はない。今向かった所で亜樹子達の罠で仕留められる可能性が高く、仮にそれがなくとも危険人物との乱戦は避けられない。
本来の力が発揮出来ない状況ではそれは避けるべきだろう。
「(ならば奴の言う様にホテルに向かうべきか?)」
「(奴が口にした様にホテルからタワーに向かう奴と接触してみるか?)」
奇しくも2人は虫あるいはワームの王とも言うべき存在、その思考は大いに似ていた。
「(さぁ金居……)」
「(乃木怜治……)」
虫(ワーム)の王による世界を懸けた殺し合いにおける侵略――
「「(貴様はどう動く?)」」
その矛先は何処に――?
【1日目 夕方】
【C-5 平原】
【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康
【装備】デザートイーグル@現実
【道具】支給品一式、地の石@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー、ファイズアクセル@仮面ライダー555
【思考・状況】
0:亜樹子達の言葉に乗り東京タワーに向かうつもりはない。ホテルに向かうか? 乃木はどう動く?
1:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
2:他の世界、及び大ショッカーの情報を集める。
3:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています
※首輪が自身の力に制限をかけていることに気づきました
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
【乃木怜司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康
【装備】オートバジン+ファイズエッジ@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実
【思考・状況】
0:亜樹子達の言葉に乗り東京タワーに戻るつもりはない。ホテルから来る参加者を待ち受けるか? 金居はどう動く?
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:美穂には注意する。
【備考】
※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュの二つです。
※現時点では、解説付きルールブックを他人と共有する気はありません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(小)、胸元にダメージ
【装備】カードデッキ(ガイ)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済)
【思考・状況】
0:東京タワーに向かう? ホテルに戻る? それとも此処でホテルからタワーに向かう参加者を待ち受ける?
1:殺し合いに乗ってる奴らはぶっつぶす
2:人を護る
3:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する
4:鉛色と深緑の怪人、白い鎧の戦士を警戒
【備考】
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
【全体備考】
※少なくてもB-6のホテルに亜樹子の放送が届く事はありません。
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|037:[[Round ZERO ~KING AND JOKER]]|[[金居]]|072:[[愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙(前編)]]|
|045:[[亜樹子オン・ザ・ライ]]|[[乃木怜治]]|072:[[愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙(前編)]]|
|033:[[そして、Xする思考]]|[[葦原涼]]|072:[[愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙(前編)]]|
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