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*愚者の祭典 狂える蛇の牙 ◆LuuKRM2PEg  現在時刻、17時20分。  D-5エリアの中央に高くそびえ立つ、東京タワー大展望台一階にて甲高い金属音が響いていた。  霧島美穂が変身する仮面ライダーランスと、浅倉威が変身する仮面ライダーインペラーが、それぞれ振るう獲物の激突によって。  ランスは異様な長さを誇る醒槍ランスラウザーを振るうが、インペラーは右腕に装着したガゼルスタッブで受け止める。そこから、一気にはね除けて体勢を崩させた。  足元がふらついたランスの胸部に、インペラーはガゼルスタッブを叩き付けた。神速の勢いで激突した事により、ランスは勢いよく床に叩き付けられる。 「ハッ、どうしたッ! その程度かァ!?」 「黙れぇっ!」  嘲笑を吐くインペラーに怒りを覚え、ランスは起きあがりながらランスラウザーを横薙ぎに振るった。  しかし、インペラーは背後に跳躍して軽々と避ける。ランスは力任せに振るい続けるが、どれも結果は同じ。  むしろ回避される度に、インペラーの反撃を受けていた。ガゼルスタッブによって、ランスの鎧に傷が刻まれていく。  インペラーが振るう攻撃の速度は、確実に増していた。ランスはそう確信する。  いくらお互い、使い慣れてない代物を使っているとはいえ、戦闘の経験は浅倉の方に分があった。同じ世界に生まれた仮面ライダー達とはいえ、美穂は詐欺師。多くの殺人を犯してきた浅倉に、戦いで追いつく訳がない。 (一体何なんだ……こいつから感じる嫌な物は!?)  そしてもう一つ。戦いの優劣を決している要素があった。  先程からインペラー――否、浅倉より感じられる、何か。色で例えるならば、それは黒以外に表現など出来ない。  生物全てを震え上がらせるような威圧感が、浅倉を見つけたときから肌に突き刺さっている。  それによって、無意識の内にランスの動きも鈍くなっていた。どれだけ拭おうとしても、決して拭えない。それどころか、逆に強くなっていた。  払拭に集中しようとしても、その隙を付かれて攻撃されてしまう。かといって、このまま戦っても威圧感が身体に浸食するだけ。  完全なる悪循環となっていた。 「ああああぁぁぁっ!」  それでもランスは、何とかランスラウザーを振るって、ガゼルスタッブを弾く。  ここで負けたら、何の為に自分は生き返ったのか。お姉ちゃんを殺した憎い敵は、誰が討つのか。  それに、ここで倒れたら自分達の世界は。そしてあのとんでもない馬鹿で、とんでもないお人好しは誰が支えるのか。  霧島美穂の脳裏に浮かぶ、一人の男。詐欺師である自分の事をひたすら信じて、ライダーバトルを何としてでも止めようとしたあいつ。  城戸真司。  恐らくあいつは、この世界でも殺し合いを止めようと動くに違いない。そして、全ての人間を救おうとするだろう。  でも、それでは駄目なんだ。そんな事をしたら世界を守る事なんて出来はしない。第一、ここには浅倉を死刑に追い込まなかった、北岡修一のような汚い奴だっている。  そんな奴らと出会ったら、真司は間違いなく騙されるに違いない。だからそんなクズ達は、一人残らず殺す!  思いを乗せた一撃は、インペラーに突き刺さった。この時、彼女自身は知らないが一瞬だけ、威圧感を振り払う事に成功する。 「ぐっ……!」  仮面の下から呻き声が漏れ、インペラーは体勢を崩した。それを好機と見て、ランスは槍を握る力を更に込める。  そして、同じ場所を狙うかのようにランスラウザーを横薙ぎに振るった。飛び散る火花を視界に捉えながら、鎧を切り裂こうとする。  だがインペラーも、負けじとガゼルスタッブで槍を弾いた。衝撃が両腕に走り、それにつられてランスの足元がふらついてしまう。  そこに先程のお返しとでも言うかのように、ガゼルスタッブが迫った。しかしランスは瞬時に体制を立て直し、背後に跳躍する。結果、ガゼルスタッブの先端は空振りに終わった。  ランスとインペラーは距離を取り、互いに睨み合う。そんな中、インペラーはカードデッキから一枚のカードを取り出した。 「ククッ……行くぜぇ?」 「それはっ……!?」  インペラーが不敵に笑うのを感じる中、ランスは仮面の下で目を見開く。  相手がカードデッキより取り出したカードには『FINAL VENT』と書かれていたため。それが意味するのは、ミラーワールドで戦う仮面ライダー達が必殺技を使用するために必要なカード。  それを手にしたインペラーは、右膝を掲げる。インナースーツの上に装着されている羚召膝甲ガゼルバイザーに、差し込んだ。 『FINAL VENT』  そして響き渡る、電子音声。次の瞬間、部屋に張り巡らされている鏡の中から、ミラーモンスターが大量に現れた。  レイヨウを模したような五種のモンスター。メガゼール、ギガゼール、マガゼール、ネガゼール、オメガゼールと、次々に部屋を埋め尽くしていく。  その数は、三十を優に超えていた。皆ランスを睨み付けながら、突進する。  一体のメガゼールは、その手に持つノコギリ状の刃を振るった。しかしランスラウザーによって弾かれ、逆に腹部を貫かれてしまう。  そしてランスはメガゼールの身体を蹴り、槍を引き抜いた。そこから矢継ぎ早に、ゼール達の攻撃が迫る。  だがランスはそれらを回避しながら、攻撃を弾いていた。 「くっ!」  モンスター達の間を縫うように、体勢を低くしながら駆ける。  このまま真っ正面から戦ったところで、自滅するだけ。例え全て倒したとしても、浅倉が姑息な手段を使って何かを仕掛けてくるかもしれない。  それに、どうやらミラーモンスターはこの世界では長くいられないようだ。ブランウイングを召喚してから、すぐに消えたのがその証拠。  ならばこのモンスター達も、時間が経てば消滅するかもしれない。だったら倒すのは必要最低限だけで、インペラーが現れるのを待つ。 (何処だ……浅倉は、何処だ!?)  ランスラウザーで頭上から来るマガゼールの剣を弾きながら、ランスは辺りを見渡す。  インペラーはモンスター達の中に隠れて、不意打ちを仕掛けるに違いない。だが、そうはさせるか。  出来る限り、鏡のない壁や柱を背にして動きながら、インペラーを探す。そしてゼール達が振るう得物を弾いて、反撃を与えた。 「アアアアアアアァァァァァァッ!」  ギガゼールの腹部を貫いた瞬間、モンスター達の声を掻き消すような咆吼が聞こえる。  それは、憎きあの男の声である事を、ランスは一瞬で察した。左を振り向くと、案の定見つける。姿勢を低くしながら、ゼール達の間を駆け抜けるインペラーの姿を。  その姿に、ランスは覚えがあった。あの地下駐車場で三体のミラーモンスターを融合させた後、放った蹴りに入るまでの体勢。  それをまた、再現しようとしているのだ。 (同じ手を、何度も食わない……!)  走るインペラーを睨みながら、ランスは脇腹のカードケースから一枚のラウズカードを取り出す。  こちらの世界で戦うライダーで例えるなら、ファイナルベントに位置するカード。マイティインパクトのラウズカードを、ランスラウザーに読み込ませた。 『MIGHTY』  電子音声が発せられると同時に、ラウズカードの力がランスに流れ込む。モンスター達の攻撃を避けながら、ランスラウザーを強く握って走り出した。  ランスとインペラーの距離が、徐々に詰まっていく。ダイヤの形をしたバイザーから、美穂は憎悪の視線を向けていた。  黒い龍騎の襲撃によって力を失った浅倉を、この手で確かに仕留めたがこうして今生きている。そして、死んだはずの自分も生きていた。  だったら、何度でも殺す! 例え全てを失おうとも! 「ハァッ、ハッハッハッハッハッ!」 「浅倉ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」  狂気と激情の声と共に、距離は近づいていく。やがてインペラーは、飛び膝蹴りを放つように右膝を振り上げた。  恐らく奴は、必殺技を自分に叩き込もうとしている。しかし、そうはさせない。  あと一歩の距離までに迫った瞬間、ランスは足を止める。そのまま、高く跳躍した。 「何ッ!?」  足元から驚いたような声が聞こえる中、ランスはインペラーの背後に着地する。  そして、振り向きながらランスラウザーを振るった。インペラーも同時にこちらを向くが、もう遅い。  その手に握るランスラウザーは、眩い光を放っていた。 「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!」  お姉ちゃんの仇を取るために――  全ての因縁に決着を付けるために――  そして、真司を守るために――  仮面ライダーランスの想いを乗せた一撃必殺の衝撃波、インパクトスタッブをインペラーに叩き込んだ。  3400ものAPが、憎き仇に襲いかかる。その威力は凄まじく、インペラーの装甲を容赦なく砕く。やがて、勢いよく壁に激突して、身体が轟音と共に爆発した。  それと同時に、時間が訪れたのか辺りを埋めていたミラーモンスター達が、ようやく消滅。辺りに残っていたのは、舞い上がる大量の粉塵だけだった。 ◆ (これで……また勝ったんだ)  思わずランスは緊張を解いてしまい、一息ついてしまう。もっとも、まだ油断する事は出来ないが。  それでも、今だけは勝利の余韻に浸りたい。お姉ちゃんの仇を、再び取れたんだから。  仮に浅倉が生きていたとしても、必殺技を受けたのだからそう簡単に動けないはず。そう思いながら、ランスは浅倉の生死を確認しようと歩き出した。  しかしその直後、軽い呻き声を漏らしながら足を止めてしまう。ランスもまた、膨大なダメージを戦いの中で負っていた。  今すぐにでも休憩しなければならないが、そんな暇はない。何よりも、自分の作戦に付き合ってくれた鳴海亜樹子の事だって心配だ。無事に逃げ切れたなら良いが、危険人物に襲われる可能性だってある。  頼りないが、この場では利用出来る貴重な存在だ。だからまだ、死なせるわけにはいかない。  そんな事を考えながら、ランスは再び進もうとする。 「ハハッ……やっぱり戦いってのは、最高だなぁ?」  直後、不気味な笑い声と共に、煙の中から一つの影が現れた。  それを見た瞬間、ランスは思わず立ち止まる。仮面の下で、驚愕の表情を浮かべながら。 「浅倉……ッ!?」 「なぁ、もっと続けようぜ?」  粉塵より、浅倉威が狂った笑顔を浮かべたまま、立ち上がったため。奴の瞳は未だ、血に飢えた猛獣のように獰猛で、それでいて迫力を増している。  その左手首には、いつの間にか奇妙な黒いブレスレットが巻かれていた。そして反対側の手には、銀と黒に彩られたヘラクレスオオカブトのような機械が握られている。  それが異世界の仮面ライダーに変身する道具であると、ランスは瞬時に察した。故に、浅倉が行おうとしている事はただ一つ。  奴の行動を防がなければならない。ランスは痛む身体に鞭を打って、浅倉の行動を阻止しようとする。  しかし、その動きにはキレと速度が欠けていた。  一方で浅倉は、そんなランスを嘲笑うかのようにブレスレットの窪んでいる部分に、昆虫形の機械を填め込んだ。 「変身……!」 『HENSIN』  そして、浅倉の口と機械から、変身を知らせる異なる声が発せられる。刹那、手首に巻くブレスレットから、眩い光と共に装甲が噴出した。  腕から胴体、上半身と下半身を覆っていき、最後に顔面へと到達。変身の課程が一瞬で、全て終わった。 『CHANGE BEETLE』  浅倉が変身したのは、地球へ衝突した巨大隕石によって、死の世界となった『カブトの世界』に存在する仮面ライダー。  ヘラクレスオオカブトのように力強い角、角に仕切られた赤い輝きを帯びる瞳、眩い程の銀色に輝く装甲、左肩に付けられた三本角の突起。  元々は、自由を求めるためにZECTへ反旗を翻した組織、NEO ZECTのリーダーである織田秀成が資格者として選ばれた戦士、仮面ライダーヘラクスへと浅倉威は変身した。  ランスはランスラウザーを構え直して、ヘラクスを睨み付ける。しかしヘラクスはランスの事など、まるで意に介さないように脇腹に腰を伸ばし、叩いた。 『CLOCK UP』  続いて聞こえるのは、機械音声。するとヘラクスの姿は一瞬で消えて、立っていた地面に粉塵を舞い上がらせる。  何が起こったのか。そう思って身構えようとした瞬間、ランスは右肩に凄まじい衝撃を感じて、体勢が崩れた。続くように、胴体や背中に斬りつけられたような痛みが走る。  前のめりに倒れようとした瞬間、ランスの胸部が鋭い衝撃に襲い掛かった。海老のように背中が曲がった所に、蹴りつけられた様な重い痛みが脇腹に走る。 「くっ……!」  ランスは何とか全身に力を込めて、落ちそうになる意識を保っていた。  視界に映っている銀色の影。暴風雨のように襲い掛かる膨大な痛みは、浅倉が引き起こしている。分かりきったことだが、どうしようもなかった。  圧倒的な優劣が決している速度に加えて、そこから繰り出される猛攻。そして、これまでに蓄積されたダメージがヘラクスへの対抗を許さなかった。 『CLOCK OVER』  激痛で視界が歪む中、電子音声がまた聞こえる。同時にランスは、崩れ落ちそうになる体をランスラウザーで支えた。  そんな中、目の前にはヘラクスが姿を現す。奴の右手には手斧が握られていて、それで自分は切り裂かれた。ランスはそう認識するが、最早それに意味などない。  銀色のライダーへと変身した仇は、一歩一歩と迫ってきた。 「浅、倉……ッ!」 「消えろ……そろそろ」 『RIDER BEAT』  そして、ヘラクスはブレスレットに装着された機械を、右手で器用に180度回転させる。すると電子音声と共に、そこから膨大な電流が迸った。  一瞬で右腕にまで流れ、手斧に到達する。直後、ヘラクスは走り出した。  直後、ようやくランスは立ち上がり、ランスラウザーを振るう。だがヘラクスはそれを呆気なく弾いて、刃を一気に胸板へ叩きつけた。  ライダービートの一撃は、ランスの装甲を容赦なく砕いて、中にいる美穂にまで到達してしまう。流れる電流はバリバリと豪音を鳴らしながら、彼女の体に流れ込む。 「アッ…………ガ、アッ!」 「ウラアアァァッ!」  そのままヘラクスは、力任せに手斧を用いてランスの鎧を両断した。異常な程の衝撃によって、ランスは悲鳴と共に床に吹き飛んでいく。  勢いよく叩きつけられた瞬間、ついに限界を迎えてしまったのか変身が解除された。生身を晒した美穂の胸部は、ライダービートの影響によって凄まじい傷が刻まれている。  そこからは勿論のこと、全身のあらゆる所から大量の血液が流れていた。もはや重傷と呼ぶにも生温く、ただ死を待つだけの有様。  それでも美穂は、何とかヘラクスを睨みつける。奴は、自分のことを見下ろしていた。 「ハハッ、今度は俺の勝ちみたいだなぁ……?」  そして、あいつは手斧を振り上げる。このままでは、自分は殺されてしまう。  こんな所で、死ぬわけにはいかない。ようやく見つけたお姉ちゃんの仇、浅倉を殺すまでは。  でも、動かなかった。体は氷のように冷たくなっていくし、言うことを聞いてくれない。  死にたくない。生きて、真司と一緒に元の世界に帰りたい。  でも、もう無理なんだ。そんな思いが、彼女の仲で湧き上がっていく。  そう思った瞬間、彼女は今も何処かで誰かを助けているはずの男を、思い浮かべた。  あいつは靴紐がほどけてるのにも気づかないほど鈍臭いのに、誰かを守るために戦っている。しかも、一度騙した自分の事すらも信じた。 「お姉ちゃん……真司……」  美穂の脳裏に浮かぶのは、最愛の姉とそんな馬鹿な真司の顔。今の自分の行動原理とも呼べる、大切な人達。  二人の名前を呼んだ後、霧島美穂はかつて息を引き取る直前に残した言葉を、心の中で再び告げた。 (バカ真司……靴の紐くらい、ちゃんと結べよな……)  不意に、彼女の視界は滲んでいく。瞳から、微かな涙が流れたため。  次の瞬間、ヘラクスが霧島美穂の身体に手斧を叩き付けた事によって、大量の鮮血が吹き出す。  そして、彼女はこの世界で二度目の死を迎えた。 ◆ 「ハハハッ……呆気ねえなぁ? おい」  もう二度と動く事のない霧島美穂を、浅倉威は嘲笑うように見下す。その身体には、既に仮面ライダーヘラクスの鎧は存在していなかった。  ヘラクスのカブティックゼクターが彼を選んだ理由。元の世界で資格者である織田秀成の破天荒な戦い方と、浅倉の戦い方に既視感を感じたからなのか。 しかし、それを誰かに知られる事はない。ここにある事実は、カブティックゼクターが浅倉威を新しい資格者として認める。それだけだった。 「面白えじゃねえか、こいつも」  浅倉は手首に巻いたライダープレスを、満足げに眺める。  先程、あの女から必殺技を受けた事によって、インペラーのカードデッキが壊れたのは痛かった。しかしその直後に、あのカブト虫もどきが現れて変身を果たす。  説明書を読んだ時からクロックアップとか言う能力に興味はあったが、まさかこれほどとは。 「ククッ……行くか」  そして浅倉は疲れがある程度癒えたのを感じて、立ち上がる。美穂との戦いで、マイティインパクトをその身に受けた状態で戦えば、休息を余儀なくされていた。  無論、途中で誰かが現れたのなら戦うつもりだったが、幸か不幸か誰もこの場に現れる事はない。もっとも、何よりも戦う事を好む浅倉にとっては、不運かもしれないが。  何にせよ、これ以上ここに留まるつもりはない。彼は美穂の支給品も手に取り、大展望台を後にした。  彼が手に入れた支給品の一つ。『SUVIVE』と書かれた仮面ライダー龍騎を、サバイブ形態へと進化させる為のカード。  もしも彼が、本来の持ち主である城戸真司と出会ったら、どうなるか。そしてもしも、浅倉が霧島美穂を殺したという事実を、城戸真司が知ったらどうなるか。  この戦いの行く末は、数多もの謎で包まれている。  浅倉威が去っていった頃、鏡の世界で魔獣達が咆吼している。仮面ライダーインペラーが使役していた、ゼールの名を持つミラーモンスター達が。  この場で命を奪われた霧島美穂が、カードデッキを破壊した結果。それは数時間前、今は亡き東條悟の持つ仮面ライダータイガに変身するためのカードデッキが、砕け散ったときと同じ現象。  デストワイルダーが契約から開放された事で心なき獣へと成り下がったように、彼らもまた血に飢えた魔獣と化していた。しかも、今度は一体だけで無い以上、状態は更に悪化しているかもしれない。  三体のメガゼール、二体のマガゼール、一体のネガゼール、三体のギガゼール、一体のオメガゼール。霧島美穂が変身した仮面ライダーランスによって、ある程度は減らされたものの多い事に変わりはない。  彼らも、ミラーワールドで咆吼していた。 &color(red){【霧島美穂@劇場版仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL 死亡】}  &color(red){残り40人} 【1日目 夕方】 【D-5 東京タワー大展望台1階】 【浅倉威@仮面ライダー龍騎】 【時間軸】劇場版 死亡後 【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、興奮状態、テラー・ドーパントに1時間5分変身不可、仮面ライダー王蛇に1時間50分変身不可、仮面ライダーインペラー、ヘラクスに2時間変身不可 【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE、カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE 【道具】支給品一式×3、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実 【思考・状況】 0:次の獲物を探す。 1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。 2:特に黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。 3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。 【備考】 ※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。 ※それによる疲労はありません。 ※ヘラクスゼクターに認められました。 ※ブランウイングは再召喚するのにあと1時間35分必要です。 ※カードデッキ(インペラー)が破壊されたため、ゼール軍団が暴走状態になりました。 ※メガゼール三体、マガゼール二体、ネガゼール一体、ギガゼール三体、オメガゼール一体、合計十体が残っています。 ※ゼール軍団はあと1時間45分現実世界に出現できません。 |069:[[究極の路線へのチケット]]|投下順|| |069:[[究極の路線へのチケット]]|時系列順|| |068:[[愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)]]|[[霧島美穂]]|&color(red){GAME OVER}| |068:[[愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)]]|[[浅倉威]]|| ----
*愚者の祭典 狂える蛇の牙 ◆LuuKRM2PEg  現在時刻、17時20分。  D-5エリアの中央に高くそびえ立つ、東京タワー大展望台一階にて甲高い金属音が響いていた。  霧島美穂が変身する仮面ライダーランスと、浅倉威が変身する仮面ライダーインペラーが、それぞれ振るう獲物の激突によって。  ランスは異様な長さを誇る醒槍ランスラウザーを振るうが、インペラーは右腕に装着したガゼルスタッブで受け止める。そこから、一気にはね除けて体勢を崩させた。  足元がふらついたランスの胸部に、インペラーはガゼルスタッブを叩き付けた。神速の勢いで激突した事により、ランスは勢いよく床に叩き付けられる。 「ハッ、どうしたッ! その程度かァ!?」 「黙れぇっ!」  嘲笑を吐くインペラーに怒りを覚え、ランスは起きあがりながらランスラウザーを横薙ぎに振るった。  しかし、インペラーは背後に跳躍して軽々と避ける。ランスは力任せに振るい続けるが、どれも結果は同じ。  むしろ回避される度に、インペラーの反撃を受けていた。ガゼルスタッブによって、ランスの鎧に傷が刻まれていく。  インペラーが振るう攻撃の速度は、確実に増していた。ランスはそう確信する。  いくらお互い、使い慣れてない代物を使っているとはいえ、戦闘の経験は浅倉の方に分があった。同じ世界に生まれた仮面ライダー達とはいえ、美穂は詐欺師。多くの殺人を犯してきた浅倉に、戦いで追いつく訳がない。 (一体何なんだ……こいつから感じる嫌な物は!?)  そしてもう一つ。戦いの優劣を決している要素があった。  先程からインペラー――否、浅倉より感じられる、何か。色で例えるならば、それは黒以外に表現など出来ない。  生物全てを震え上がらせるような威圧感が、浅倉を見つけたときから肌に突き刺さっている。  それによって、無意識の内にランスの動きも鈍くなっていた。どれだけ拭おうとしても、決して拭えない。それどころか、逆に強くなっていた。  払拭に集中しようとしても、その隙を付かれて攻撃されてしまう。かといって、このまま戦っても威圧感が身体に浸食するだけ。  完全なる悪循環となっていた。 「ああああぁぁぁっ!」  それでもランスは、何とかランスラウザーを振るって、ガゼルスタッブを弾く。  ここで負けたら、何の為に自分は生き返ったのか。お姉ちゃんを殺した憎い敵は、誰が討つのか。  それに、ここで倒れたら自分達の世界は。そしてあのとんでもない馬鹿で、とんでもないお人好しは誰が支えるのか。  霧島美穂の脳裏に浮かぶ、一人の男。詐欺師である自分の事をひたすら信じて、ライダーバトルを何としてでも止めようとしたあいつ。  城戸真司。  恐らくあいつは、この世界でも殺し合いを止めようと動くに違いない。そして、全ての人間を救おうとするだろう。  でも、それでは駄目なんだ。そんな事をしたら世界を守る事なんて出来はしない。第一、ここには浅倉を死刑に追い込まなかった、北岡修一のような汚い奴だっている。  そんな奴らと出会ったら、真司は間違いなく騙されるに違いない。だからそんなクズ達は、一人残らず殺す!  思いを乗せた一撃は、インペラーに突き刺さった。この時、彼女自身は知らないが一瞬だけ、威圧感を振り払う事に成功する。 「ぐっ……!」  仮面の下から呻き声が漏れ、インペラーは体勢を崩した。それを好機と見て、ランスは槍を握る力を更に込める。  そして、同じ場所を狙うかのようにランスラウザーを横薙ぎに振るった。飛び散る火花を視界に捉えながら、鎧を切り裂こうとする。  だがインペラーも、負けじとガゼルスタッブで槍を弾いた。衝撃が両腕に走り、それにつられてランスの足元がふらついてしまう。  そこに先程のお返しとでも言うかのように、ガゼルスタッブが迫った。しかしランスは瞬時に体制を立て直し、背後に跳躍する。結果、ガゼルスタッブの先端は空振りに終わった。  ランスとインペラーは距離を取り、互いに睨み合う。そんな中、インペラーはカードデッキから一枚のカードを取り出した。 「ククッ……行くぜぇ?」 「それはっ……!?」  インペラーが不敵に笑うのを感じる中、ランスは仮面の下で目を見開く。  相手がカードデッキより取り出したカードには『FINAL VENT』と書かれていたため。それが意味するのは、ミラーワールドで戦う仮面ライダー達が必殺技を使用するために必要なカード。  それを手にしたインペラーは、右膝を掲げる。インナースーツの上に装着されている羚召膝甲ガゼルバイザーに、差し込んだ。 『FINAL VENT』  そして響き渡る、電子音声。次の瞬間、部屋に張り巡らされている鏡の中から、ミラーモンスターが大量に現れた。  レイヨウを模したような五種のモンスター。メガゼール、ギガゼール、マガゼール、ネガゼール、オメガゼールと、次々に部屋を埋め尽くしていく。  その数は、三十を優に超えていた。皆ランスを睨み付けながら、突進する。  一体のメガゼールは、その手に持つノコギリ状の刃を振るった。しかしランスラウザーによって弾かれ、逆に腹部を貫かれてしまう。  そしてランスはメガゼールの身体を蹴り、槍を引き抜いた。そこから矢継ぎ早に、ゼール達の攻撃が迫る。  だがランスはそれらを回避しながら、攻撃を弾いていた。 「くっ!」  モンスター達の間を縫うように、体勢を低くしながら駆ける。  このまま真っ正面から戦ったところで、自滅するだけ。例え全て倒したとしても、浅倉が姑息な手段を使って何かを仕掛けてくるかもしれない。  それに、どうやらミラーモンスターはこの世界では長くいられないようだ。ブランウイングを召喚してから、すぐに消えたのがその証拠。  ならばこのモンスター達も、時間が経てば消滅するかもしれない。だったら倒すのは必要最低限だけで、インペラーが現れるのを待つ。 (何処だ……浅倉は、何処だ!?)  ランスラウザーで頭上から来るマガゼールの剣を弾きながら、ランスは辺りを見渡す。  インペラーはモンスター達の中に隠れて、不意打ちを仕掛けるに違いない。だが、そうはさせるか。  出来る限り、鏡のない壁や柱を背にして動きながら、インペラーを探す。そしてゼール達が振るう得物を弾いて、反撃を与えた。 「アアアアアアアァァァァァァッ!」  ギガゼールの腹部を貫いた瞬間、モンスター達の声を掻き消すような咆吼が聞こえる。  それは、憎きあの男の声である事を、ランスは一瞬で察した。左を振り向くと、案の定見つける。姿勢を低くしながら、ゼール達の間を駆け抜けるインペラーの姿を。  その姿に、ランスは覚えがあった。あの地下駐車場で三体のミラーモンスターを融合させた後、放った蹴りに入るまでの体勢。  それをまた、再現しようとしているのだ。 (同じ手を、何度も食わない……!)  走るインペラーを睨みながら、ランスは脇腹のカードケースから一枚のラウズカードを取り出す。  こちらの世界で戦うライダーで例えるなら、ファイナルベントに位置するカード。マイティインパクトのラウズカードを、ランスラウザーに読み込ませた。 『MIGHTY』  電子音声が発せられると同時に、ラウズカードの力がランスに流れ込む。モンスター達の攻撃を避けながら、ランスラウザーを強く握って走り出した。  ランスとインペラーの距離が、徐々に詰まっていく。ダイヤの形をしたバイザーから、美穂は憎悪の視線を向けていた。  黒い龍騎の襲撃によって力を失った浅倉を、この手で確かに仕留めたがこうして今生きている。そして、死んだはずの自分も生きていた。  だったら、何度でも殺す! 例え全てを失おうとも! 「ハァッ、ハッハッハッハッハッ!」 「浅倉ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」  狂気と激情の声と共に、距離は近づいていく。やがてインペラーは、飛び膝蹴りを放つように右膝を振り上げた。  恐らく奴は、必殺技を自分に叩き込もうとしている。しかし、そうはさせない。  あと一歩の距離までに迫った瞬間、ランスは足を止める。そのまま、高く跳躍した。 「何ッ!?」  足元から驚いたような声が聞こえる中、ランスはインペラーの背後に着地する。  そして、振り向きながらランスラウザーを振るった。インペラーも同時にこちらを向くが、もう遅い。  その手に握るランスラウザーは、眩い光を放っていた。 「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!」  お姉ちゃんの仇を取るために――  全ての因縁に決着を付けるために――  そして、真司を守るために――  仮面ライダーランスの想いを乗せた一撃必殺の衝撃波、インパクトスタッブをインペラーに叩き込んだ。  3400ものAPが、憎き仇に襲いかかる。その威力は凄まじく、インペラーの装甲を容赦なく砕く。やがて、勢いよく壁に激突して、身体が轟音と共に爆発した。  それと同時に、時間が訪れたのか辺りを埋めていたミラーモンスター達が、ようやく消滅。辺りに残っていたのは、舞い上がる大量の粉塵だけだった。 ◆ (これで……また勝ったんだ)  思わずランスは緊張を解いてしまい、一息ついてしまう。もっとも、まだ油断する事は出来ないが。  それでも、今だけは勝利の余韻に浸りたい。お姉ちゃんの仇を、再び取れたんだから。  仮に浅倉が生きていたとしても、必殺技を受けたのだからそう簡単に動けないはず。そう思いながら、ランスは浅倉の生死を確認しようと歩き出した。  しかしその直後、軽い呻き声を漏らしながら足を止めてしまう。ランスもまた、膨大なダメージを戦いの中で負っていた。  今すぐにでも休憩しなければならないが、そんな暇はない。何よりも、自分の作戦に付き合ってくれた鳴海亜樹子の事だって心配だ。無事に逃げ切れたなら良いが、危険人物に襲われる可能性だってある。  頼りないが、この場では利用出来る貴重な存在だ。だからまだ、死なせるわけにはいかない。  そんな事を考えながら、ランスは再び進もうとする。 「ハハッ……やっぱり戦いってのは、最高だなぁ?」  直後、不気味な笑い声と共に、煙の中から一つの影が現れた。  それを見た瞬間、ランスは思わず立ち止まる。仮面の下で、驚愕の表情を浮かべながら。 「浅倉……ッ!?」 「なぁ、もっと続けようぜ?」  粉塵より、浅倉威が狂った笑顔を浮かべたまま、立ち上がったため。奴の瞳は未だ、血に飢えた猛獣のように獰猛で、それでいて迫力を増している。  その左手首には、いつの間にか奇妙な黒いブレスレットが巻かれていた。そして反対側の手には、銀と黒に彩られたヘラクレスオオカブトのような機械が握られている。  それが異世界の仮面ライダーに変身する道具であると、ランスは瞬時に察した。故に、浅倉が行おうとしている事はただ一つ。  奴の行動を防がなければならない。ランスは痛む身体に鞭を打って、浅倉の行動を阻止しようとする。  しかし、その動きにはキレと速度が欠けていた。  一方で浅倉は、そんなランスを嘲笑うかのようにブレスレットの窪んでいる部分に、昆虫形の機械を填め込んだ。 「変身……!」 『HENSIN』  そして、浅倉の口と機械から、変身を知らせる異なる声が発せられる。刹那、手首に巻くブレスレットから、眩い光と共に装甲が噴出した。  腕から胴体、上半身と下半身を覆っていき、最後に顔面へと到達。変身の課程が一瞬で、全て終わった。 『CHANGE BEETLE』  浅倉が変身したのは、地球へ衝突した巨大隕石によって、死の世界となった『カブトの世界』に存在する仮面ライダー。  ヘラクレスオオカブトのように力強い角、角に仕切られた赤い輝きを帯びる瞳、眩い程の銀色に輝く装甲、左肩に付けられた三本角の突起。  元々は、自由を求めるためにZECTへ反旗を翻した組織、NEO ZECTのリーダーである織田秀成が資格者として選ばれた戦士、仮面ライダーヘラクスへと浅倉威は変身した。  ランスはランスラウザーを構え直して、ヘラクスを睨み付ける。しかしヘラクスはランスの事など、まるで意に介さないように脇腹に腰を伸ばし、叩いた。 『CLOCK UP』  続いて聞こえるのは、機械音声。するとヘラクスの姿は一瞬で消えて、立っていた地面に粉塵を舞い上がらせる。  何が起こったのか。そう思って身構えようとした瞬間、ランスは右肩に凄まじい衝撃を感じて、体勢が崩れた。続くように、胴体や背中に斬りつけられたような痛みが走る。  前のめりに倒れようとした瞬間、ランスの胸部が鋭い衝撃に襲い掛かった。海老のように背中が曲がった所に、蹴りつけられた様な重い痛みが脇腹に走る。 「くっ……!」  ランスは何とか全身に力を込めて、落ちそうになる意識を保っていた。  視界に映っている銀色の影。暴風雨のように襲い掛かる膨大な痛みは、浅倉が引き起こしている。分かりきったことだが、どうしようもなかった。  圧倒的な優劣が決している速度に加えて、そこから繰り出される猛攻。そして、これまでに蓄積されたダメージがヘラクスへの対抗を許さなかった。 『CLOCK OVER』  激痛で視界が歪む中、電子音声がまた聞こえる。同時にランスは、崩れ落ちそうになる体をランスラウザーで支えた。  そんな中、目の前にはヘラクスが姿を現す。奴の右手には手斧が握られていて、それで自分は切り裂かれた。ランスはそう認識するが、最早それに意味などない。  銀色のライダーへと変身した仇は、一歩一歩と迫ってきた。 「浅、倉……ッ!」 「消えろ……そろそろ」 『RIDER BEAT』  そして、ヘラクスはブレスレットに装着された機械を、右手で器用に180度回転させる。すると電子音声と共に、そこから膨大な電流が迸った。  一瞬で右腕にまで流れ、手斧に到達する。直後、ヘラクスは走り出した。  直後、ようやくランスは立ち上がり、ランスラウザーを振るう。だがヘラクスはそれを呆気なく弾いて、刃を一気に胸板へ叩きつけた。  ライダービートの一撃は、ランスの装甲を容赦なく砕いて、中にいる美穂にまで到達してしまう。流れる電流はバリバリと豪音を鳴らしながら、彼女の体に流れ込む。 「アッ…………ガ、アッ!」 「ウラアアァァッ!」  そのままヘラクスは、力任せに手斧を用いてランスの鎧を両断した。異常な程の衝撃によって、ランスは悲鳴と共に床に吹き飛んでいく。  勢いよく叩きつけられた瞬間、ついに限界を迎えてしまったのか変身が解除された。生身を晒した美穂の胸部は、ライダービートの影響によって凄まじい傷が刻まれている。  そこからは勿論のこと、全身のあらゆる所から大量の血液が流れていた。もはや重傷と呼ぶにも生温く、ただ死を待つだけの有様。  それでも美穂は、何とかヘラクスを睨みつける。奴は、自分のことを見下ろしていた。 「ハハッ、今度は俺の勝ちみたいだなぁ……?」  そして、あいつは手斧を振り上げる。このままでは、自分は殺されてしまう。  こんな所で、死ぬわけにはいかない。ようやく見つけたお姉ちゃんの仇、浅倉を殺すまでは。  でも、動かなかった。体は氷のように冷たくなっていくし、言うことを聞いてくれない。  死にたくない。生きて、真司と一緒に元の世界に帰りたい。  でも、もう無理なんだ。そんな思いが、彼女の仲で湧き上がっていく。  そう思った瞬間、彼女は今も何処かで誰かを助けているはずの男を、思い浮かべた。  あいつは靴紐がほどけてるのにも気づかないほど鈍臭いのに、誰かを守るために戦っている。しかも、一度騙した自分の事すらも信じた。 「お姉ちゃん……真司……」  美穂の脳裏に浮かぶのは、最愛の姉とそんな馬鹿な真司の顔。今の自分の行動原理とも呼べる、大切な人達。  二人の名前を呼んだ後、霧島美穂はかつて息を引き取る直前に残した言葉を、心の中で再び告げた。 (バカ真司……靴の紐くらい、ちゃんと結べよな……)  不意に、彼女の視界は滲んでいく。瞳から、微かな涙が流れたため。  次の瞬間、ヘラクスが霧島美穂の身体に手斧を叩き付けた事によって、大量の鮮血が吹き出す。  そして、彼女はこの世界で二度目の死を迎えた。 ◆ 「ハハハッ……呆気ねえなぁ? おい」  もう二度と動く事のない霧島美穂を、浅倉威は嘲笑うように見下す。その身体には、既に仮面ライダーヘラクスの鎧は存在していなかった。  ヘラクスのカブティックゼクターが彼を選んだ理由。元の世界で資格者である織田秀成の破天荒な戦い方と、浅倉の戦い方に既視感を感じたからなのか。 しかし、それを誰かに知られる事はない。ここにある事実は、カブティックゼクターが浅倉威を新しい資格者として認める。それだけだった。 「面白えじゃねえか、こいつも」  浅倉は手首に巻いたライダープレスを、満足げに眺める。  先程、あの女から必殺技を受けた事によって、インペラーのカードデッキが壊れたのは痛かった。しかしその直後に、あのカブト虫もどきが現れて変身を果たす。  説明書を読んだ時からクロックアップとか言う能力に興味はあったが、まさかこれほどとは。 「ククッ……行くか」  そして浅倉は疲れがある程度癒えたのを感じて、立ち上がる。美穂との戦いで、マイティインパクトをその身に受けた状態で戦えば、休息を余儀なくされていた。  無論、途中で誰かが現れたのなら戦うつもりだったが、幸か不幸か誰もこの場に現れる事はない。もっとも、何よりも戦う事を好む浅倉にとっては、不運かもしれないが。  何にせよ、これ以上ここに留まるつもりはない。彼は美穂の支給品も手に取り、大展望台を後にした。  彼が手に入れた支給品の一つ。『SUVIVE』と書かれた仮面ライダー龍騎を、サバイブ形態へと進化させる為のカード。  もしも彼が、本来の持ち主である城戸真司と出会ったら、どうなるか。そしてもしも、浅倉が霧島美穂を殺したという事実を、城戸真司が知ったらどうなるか。  この戦いの行く末は、数多もの謎で包まれている。  浅倉威が去っていった頃、鏡の世界で魔獣達が咆吼している。仮面ライダーインペラーが使役していた、ゼールの名を持つミラーモンスター達が。  この場で命を奪われた霧島美穂が、カードデッキを破壊した結果。それは数時間前、今は亡き東條悟の持つ仮面ライダータイガに変身するためのカードデッキが、砕け散ったときと同じ現象。  デストワイルダーが契約から開放された事で心なき獣へと成り下がったように、彼らもまた血に飢えた魔獣と化していた。しかも、今度は一体だけで無い以上、状態は更に悪化しているかもしれない。  三体のメガゼール、二体のマガゼール、一体のネガゼール、三体のギガゼール、一体のオメガゼール。霧島美穂が変身した仮面ライダーランスによって、ある程度は減らされたものの多い事に変わりはない。  彼らも、ミラーワールドで咆吼していた。 &color(red){【霧島美穂@劇場版仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL 死亡】}  &color(red){残り40人} 【1日目 夕方】 【D-5 東京タワー大展望台1階】 【浅倉威@仮面ライダー龍騎】 【時間軸】劇場版 死亡後 【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、興奮状態、テラー・ドーパントに1時間5分変身不可、仮面ライダー王蛇に1時間50分変身不可、仮面ライダーインペラー、ヘラクスに2時間変身不可 【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE、カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE 【道具】支給品一式×3、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実 【思考・状況】 0:次の獲物を探す。 1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。 2:特に黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。 3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。 【備考】 ※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。 ※それによる疲労はありません。 ※ヘラクスゼクターに認められました。 ※ブランウイングは再召喚するのにあと1時間35分必要です。 ※カードデッキ(インペラー)が破壊されたため、ゼール軍団が暴走状態になりました。 ※メガゼール三体、マガゼール二体、ネガゼール一体、ギガゼール三体、オメガゼール一体、合計十体が残っています。 ※ゼール軍団はあと1時間45分現実世界に出現できません。 |069:[[究極の路線へのチケット]]|投下順|071:[[愚者のF/幕間劇]]| |069:[[究極の路線へのチケット]]|時系列順|071:[[愚者のF/幕間劇]]| |068:[[愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)]]|[[霧島美穂]]|&color(red){GAME OVER}| |068:[[愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)]]|[[浅倉威]]|| ----

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