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「愚者のF/幕間劇」(2011/07/18 (月) 15:13:01) の最新版変更点
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*愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE
【5:35】
「ちっ……」
蛇革のジャケットを纏った男浅倉威が舌打ちをした。
約10分程前、東京タワー展望台での戦いを済ませ、一旦身を休めるべく東京タワーから離れようとしていた。
無論、このまま待っていれば新たな参加者が現れ更なる戦いとなる。それ自体は戦いを望む浅倉としては全く問題はない。
しかし先の戦いでの疲労やダメージは思ったよりも大きい、向こうが戦いを挑むなら戦うつもりではあったが、少々休みたいと考えていた。
故に東京タワーから離れるという判断を下したという事だ。
だが、物事はそこまで都合良くいかない。いざ離れようと自身が乗ってきたバイクの所に向かったものの、誰かが持ち去っていったらしくそれは無かった。
先程の舌打ちは折角の移動手段を奪われたが故のものであった。
とはいえ何時までも苛立っていても仕方がない。浅倉は足早に移動を開始した。
この後も戦いが繰り広げられるであろう東京タワーから離れるという選択、それは戦いを求め続けた浅倉にしてみれば意外な選択と感じる者も多いだろう。
確かに人によっては浅倉を人間ではなくモンスターと断じる者もいる。しかし浅倉は知性のないモンスターではなくそれを有する人間だ。
そもそも知性のないモンスターであるならばこれまでの仮面ライダーの戦いを戦い抜けるわけがない。特に戦いにおいては意外と知恵が回るのが浅倉威という人物なのだ。
故に消耗した状況に陥った事を踏まえタワーからの退避を選んだという事も決して不思議では無いという事だ。
更にもう1つ退避を選んだ決め手が存在する。それは先程手に入れたある道具だ。
それは大ショッカー製の拡声器、先程のある女性の呼びかけに使われた物だ。つまり、適当なタイミングで拡声器を使い参加者を誘き寄せ戦うという事だ。
絶対に来るという確証はない。だが放送が届きさえすればある程度の参加者……バカでお人好しの城戸真司辺りはほぼ確実にやって来るだろうし、少なくても自分の世界の仮面ライダーは来るだろう。
だからこそ今というタイミングで退避という選択を選べたのである。
どの道当分は自身のデッキである王蛇は使えない。先の戦いで使ったヘラクスの力は絶大でそれなりに気には入っているが、使い慣れた王蛇の方が合っている。
故に王蛇を使えない今というタイミングは敢えて休む事にしたのだ。
何処に行こうか? 別に深く考えているわけではない。しかしその進む方向は巨大な川へと向かっていた――
【5:03】
『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』
――東京タワーから響いた亜樹子の呼びかけ、だがそれは危険人物を招き寄せる両刃の剣だ。俺達は亜樹子や集まった人々を守る為に東京タワーへと向かった――
F-5のマンションからD-5にある東京タワーまでは距離がそれなりにある。
無論、左翔太郎と相川始がマンションで手に入れたサイドカーサイドバッシャーの機動力ならばそこまで時間はかからないだろう。
翔太郎達はある程度距離を短縮し他の参加者よりも早く迅速にタワーに辿り着く為に、大きな道路を通らず敢えて平原を突っ切るルートを選んで走り続けた。
その最中――
「ジョーカーの男……」
「ああ、解っている」
E-5を差し掛かった辺りにて1人の男が歩いているのが見えた。
進行方向から見て目的地がタワーなのは明白、十中八九鳴海亜樹子の呼びかけを聞いた上で向かっているのだろう。
問題は亜樹子の言葉に従い集おうとする善良な参加者なのか、呼びかけを利用して集った参加者を蹂躙する危険人物なのかだ。
出来うるならばいち早くタワーに向かいたい。しかしこのまま放置するというわけにもいかないだろう。
そう考えている中、バイクの音を聞きつけたのか男が此方を振り向いてきた。
「相川さん」
「わかっている」
その男の思惑は不明、だが危険人物なら足止めすべきだろうし、善良な参加者ならば退避して貰う様話を付けておくべきだろう。
タワーでの混戦を利用し参加者を減らそうと考えている始としても不確定要素は極力排除したいと考えている。故に翔太郎の考えに従う意を示した。
そして男の近くまで来てサイドバッシャーを停止させる。
「アンタ、もしかしてタワーに向かっているのか?」
「ああ、お前等もそうなんだろう?」
わかっていた事とは言え男の目的地もタワーだった。だが、戦場となるタワーにみすみす向かわせるわけにはいかない。
「これからタワーは戦いになる、だから……」
「レディー達を助けに向かわなければならないんだろう?」
タワーに向かうな――そう言い切る前に男が答えた。
真偽は不明だ。しかし男の言葉が真実であるならば恐らく亜樹子(をレディーと呼んで良いのかは正直微妙だが)を助ける為に向かうのだろう。
無論、それをそのまま鵜呑みにするつもりは無いわけだが、
「お前は……」
「俺様は紅音也、千年に一度の天才だ。そういうお前達は何者だ?」
「……相川始」
「俺は左翔太郎、探偵だ」
男が紅音也と名乗った事で2人も互いの名前を音也に伝える。すると、
「左……もしかして霧彦の野郎が言っていた仮面ライダーがアンタか?」
「!? アンタ霧彦に会ったのか?」
「ああ、女に捨てられた事を嘆いていたな」
「女に捨てられ……ああ、そういや……」
翔太郎がミュージアムの幹部園咲霧彦と最後に会った時、彼はミュージアムの危険性を警告していた。
その直後、霧彦は表向き事故死した――が、実際は彼の妻にしてミュージアムの幹部にしてフィリップこと園咲来人の姉である園崎冴子に始末されている。
「まぁそれでもアイツは冴子を取り戻そうと必死だったみたいだがな。その点は褒めてやっても良い」
何にせよ、翔太郎の知り合いである霧彦がそこまで話していた事から敵対はしていなかったという事だろう。
とはいえ裏切られても冴子を愛していたであろう霧彦にその後の彼女の動向は流石に伝えられないと思ったが。
「……霧彦は殺し合いに乗っていたのか?」
「いいや、アイツも大ショッカー打倒を考えていた」
「そうか……ん、ちょっと待て、霧彦の奴今何処にいるんだ?」
一時期行動を共にしその後別行動を取ったのは明白、故に霧彦が何処に向かったのかを問う。
「アイツは……」
音也は霧彦が先の戦いで致命傷を負い命を落とした事を話した。
「世界に良い風を吹かせるために――そう言って俺達を行かせた、人類の味方・仮面ライダーに後を託してな」
「霧彦……また、託されちまったな……」
何故か生きていた霧彦が死亡した事に対しショックが無いわけではない。
それでも変わらず風都のみならず多くの世界を守る為に戦った霧彦の遺志に応えなければならない。
「俺『達』?」
そう聞き返したのは始だ。言われてみればその言葉から考えて他に同行者がいた事になる。
「ああ、言っていなかったな。アイツの持っていたメモリとスカーフは天道と乾の奴等が持っている筈だ。そういえば乾の奴がアイツのスカーフを洗濯するって約束していたな」
「乾……確か木場さんの知り合いだったな……」
乾といえば今は亡き木場勇治が話していた乾巧だ。
木場は彼の世界における仮面ライダーであるファイズに気を付けろと話していた。
木場の世界に存在するドーパントの様な存在オルフェノク、その中でも人間の心を失った悪のオルフェノクが大企業スマートブレインと共に人間達や人間との共存を望むオルフェノクを襲っているらしい。
そしてスマートブレインで開発されたファイズが木場達善なるオルフェノクを狩っているという話だ。
音也が木場の知り合いである巧と行動を共にしていたならファイズについてもう少し詳しい話が聞けるかも知れない。そう考えたものの、
「……情報交換するのは勝手だがタワーに行かなくて良いのか?」
始が口を挟んだ事で止められた。
とはいえ始の言い分はもっともだ。音也から話を聞く事自体が無駄とはいわないが、こうしている間にも刻一刻と亜樹子に危機が迫っている。
それを踏まえるならば必要最低限だけ話を聞いて落ち着いた際に今一度情報交換すべきだろう。
「そうだった、悠長に話している場合じゃねぇ……」
「そうだ、というわけで俺にそのバイクを貸してもらおうか」
と、音也がサイドバッシャーを貸せと言いだしてきた。
「ちょっと待て、なんでそうなる!?」
「言ったはずだ、レディー達を助けに行くと。だからお前達は歩いて来い」
「それは俺も同じだ、乗せる分には構わねぇから後ろに……」
「巫山戯るな、何が悲しくて男の後ろに抱きつかなければならん」
「気持ち悪い事言うんじゃねぇ!!」
「……どっちでも良いから早くしろ」
無駄な事で言い争う2人に対し呆れ気味な始であった。
結局、男の後ろに乗りたくない音也がサイドカーに乗り、始が翔太郎の後ろに乗る形となり移動を再開した。
「……なるほど、あの呼びかけを行ったのは左の事務所の所長なんだな」
「ああ、亜樹子の奴無茶しやがって……」
「着いてくるなとは言ったが士や矢車の野郎が来るかも知れん。特に士の野郎は通りすがりの仮面ライダーとか抜かす変な奴だったからな」
その道中、翔太郎が呼びかけを行ったのが亜樹子である事を説明すると共に、音也は病院で門屋士と矢車想の2人に会った事を話す。
「通りすがりの仮面ライダー……か」
「ん? 知り合いか?」
「ああ、ちょっとな」
敢えて語らなかったが、翔太郎は士こと通りすがりの仮面ライダーディケイドと面識がある。
特に『死人還り』事件の犯人であるダミードーパントを追跡した際にディケイドと共闘した時には印象深い出来事があった。
戦いを終えた後、ディケイドは翔太郎に1枚のカードを渡した。それは翔太郎の師匠であり亜樹子の父でもある鳴海荘吉の変身する仮面ライダースカルのカード、
そのカードの力で別世界の仮面ライダースカルが現れた。無論それに変身しているのは翔太郎の世界の荘吉とは別の存在のソウキチではある。
だが、そのソウキチは翔太郎の事を認めてくれた。別世界の荘吉とはいえ翔太郎にとってそれは非情に嬉しかった。
「(そうだ……別世界とはいえおやっさんが俺を認めてくれたんだ……認められる程出来ているとは思ってねぇが……それでも、おやっさんの遺志は俺が……いや俺『達』が受け継いでいるんだ、それには応えねぇとな……)」
そして程なくして3人を乗せたサイドバッシャーは東京タワー一帯へと入っていった。
【5:18】
逃走した危険人物からの奪取を避ける為サイドバッシャーを東京タワー下部の建物の裏に止め、3人は内部に突入した。
すぐさま3人は建物内部を探索し亜樹子他集った参加者を捜した。
それから約10分、建物内を探索したものの他の参加者は誰も見つける事が出来なかった。
実の所、亜樹子は彼等が建物の裏に回っている間に建物から離脱していた。だが、その際に潜んでいたアポロガイストの襲撃に遭遇。
その後アポロガイストは亜樹子を連れそのままタワーより離脱――
結論から言えば翔太郎達と亜樹子達は行き違いという形となったということだ。
3人がすぐさま展望台に向かわず下部建物を探索したのは展望台は退路が限定される為いる可能性が低いと考えていたからだ。
だが実際はこの時、展望台にて戦いが繰り広げられていた。いや、それどころかその前は鉄塔を上りながら戦っていた。
仮の話だが、3人がその様子を目の当たりにしたのであればすぐさま展望台に向かうという選択をしただろう。
しかし結論から言えばその様子を見る事は無かった。
死角に入っていたのか、周囲に警戒を回しつつ移動していたが為にそこまで把握しきれなかったか、また別の理由があったか、それは不明ではあるが事実として確認はしていない。
更に展望台は下部建物から上方100メートル強の高い場所にある。それ故、激闘の音は3人に届かなかった。
もし3人が早々に展望台に向かっていたならば展望台での戦いの敗者が命を落とす事も無かったかもしれない。
彼等の選択が多少なりとも違ったものであったならば、この祭典の行方も幾らか変わったものになっただろう。
亜樹子と合流を果たす事も出来たであろうし、消えゆく命を1つ守る事も出来たかもしれない。
結果的に彼等は舞台の一幕に上がる事が出来なかったというわけだ。
今現在繰り広げられているのはいうなれば幕間劇(インテルメディオ)――
だが、彼等の選択が間違っていたのかと断ずる事は出来ない。そう、彼等が下部建物を探索した事により――
【5:29】
下部建物3階で3人は一旦集い互いの成果を話す。
「紅、亜樹子の奴は?」
「いや、俺は見ていない。それどころか人っ子1人見あたらないな、それに……」
「くっ、何処行きやがった……」
未だ他の参加者を見つけられず翔太郎は焦りを感じる。そんな中、
「もうタワーから離れたのかも知れないな」
始がそう口にする。
「ちょっと待ってくれ相川さん、確かにここにいるのは危険だ。だが、亜樹子自身が呼び出しておいて離れるとは……」
勿論、早々に退避しているならばそれに越した事はない。だが亜樹子が他の参加者を危険にさらしたまま離れるとも思えない。
「少々厄介なものが見つかった。もしあの女がそれを見つけたならば……」
そう言って始はその場所に案内した。そこにはある物が仕掛けられていた。
「こいつは……」
「爆弾だな」
それは爆弾、それも大ショッカー製の爆弾だ。
少し調べた程度だが時限爆弾ではなくリモコンの電波を受信して遠隔爆破するタイプである事まで把握出来た。詳細の火力までは把握し切れていないがそれなりの威力を持つ事だけは確実だろう。
「実は俺も同じ様な物を見つけた。もっとも俺のは大ショッカー製じゃないがな」
と音也が別の場所に2人を案内する。そこには、
「ZECT……」
そこにもリモコン製の爆弾が仕掛けられていた。但し始が呟いた通り、大ショッカー製ではなくZECT製ではあるが。
「天道の世界の組織で作られた奴だな」
「そういやあのバックルとアレにも同じ様なロゴがあったな……」
翔太郎と音也がそれぞれ口にする中、
「他にも仕掛けられているかもしれない……」
始が爆弾が大量に仕掛けられている可能性を指摘する。
「ちょっと待て、もしそれが一斉に爆発したら……」
「最悪この周囲一帯が消し飛ばされる、最低でも東京タワー倒壊は避けられないだろうな」
その場合、ここに集おうとする参加者の命が一斉に奪われる事になる。
「解除する……そんな時間はねぇか」
起爆装置の解除という手段は使えない。1つ解除出来た所で1つでも爆弾が爆発した時点で全てに誘爆してしまい同じ結果になる。
全て解除するという手段も爆弾の総数が不明瞭であり、東京タワー一帯を全て調べるのは非現実的だ。その前に起爆装置のスイッチを入れられた時点で終わりである。
「それどころか戦いに巻き込まれて爆発するかも知れんな」
「……ん、アレは?」
そんな中、窓ガラスの奥に何かの怪物が数匹映っているのが見える。
「アンデッド……いや違うな」
「もしや、コイツ絡みか?」
と音也がカードデッキを取り出す。説明書によるとミラーモンスターの力を借りた仮面ライダーに変身出来るとあった。
恐らく、映っている怪物はミラーモンスター絡みの存在だろう。
「……つまりこの近くにあの怪物を使う奴がいるって事か? だが、それなら何故仕掛けて来ねぇんだ?」
「仕掛けて来ない……いや、仕掛けられないのか?」
怪物の正体は仮面ライダーインペラーの使役モンスターメガゼール等に代表されるゼール軍団だ。
この直前の展望台での戦闘においてカードデッキが破壊された事で契約から解放され、東京タワー一帯で蠢いていたのだ。やって来た参加者を仕留めるべく――
とはいえ、デッキの契約から解放されてもこの場における制限が存在する以上、今暫くの間は襲いたくても襲う事は出来ない。もっとも、今暫くである以上何れ解放される瞬間が訪れる事に違いはない。
「襲ってきた所で後れを取るつもりはない……が」
「下手に戦えば……いやそれどころか、あの怪物が下手に暴れた時点で……」
もし、この場所が戦場になった場合、攻撃の余波に爆弾が巻き込まれる可能性は否定出来ない。
その時点で爆弾が爆発しタワーが倒壊あるいは消滅する事はおわかり頂けるだろう。
故に、この場所で戦う――それどころか駐留する事だけでも非情に危険だという事だ。
「冗談じゃねぇ! 早く亜樹子達を見つけねぇと……」
「……ジョーカーの男、お前は気付いていないのか?」
焦る翔太郎に対し始が口を挟む。
「何だ相川さん、無駄話している時間は……」
「この爆弾は一体誰が何の目的で仕掛けたものだ?」
始が指摘するは、爆弾を仕掛けた人物と目的だ。
「そりゃ東京タワーに集まった参加者を……ん、ちょっと待て……」
爆弾を仕掛けた目的は十中八九、東京タワーに集った参加者を一網打尽にする為だ。
だがこの仕込み具合から考えて準備には少々手間がかかるのは容易に予想が付く。
しかし、そうそう都合良く東京タワーに参加者が集うとは限らない。
タワー1つを犠牲にして1人か2人では少々お粗末な成果と言えよう。
が、ここで都合良く亜樹子が参加者を集めるべく周囲数エリアに届くぐらいの呼びかけがあった。
良くも悪くもこれで参加者が集うという条件はクリアされる。爆弾を爆発させる最良のタイミングが出来上がるというわけだ。
では、爆弾を仕掛けた者は亜樹子の呼びかけを利用したという事なのだろうか?
その可能性は確かにある。だが、亜樹子の呼びかけを耳にした後、この策を思いつき東京タワー一帯に仕掛けるには少々時間が足りない。
そもそも仕掛けている間に他の参加者がやって来た時点で御破算となるだろう。
つまり、爆弾を仕掛けるタイミングは亜樹子の声を耳にした直後の僅かな時間、約10数分程度という事になる。
だが、その時間を拡張する方法が存在する。
それは至極単純、亜樹子の呼びかけの前だ。
しかし、呼びかけ前に爆弾を仕掛けた所で都合良く東京タワーに集める呼びかけが行われるとはならない筈だ。
が、1人だけ事前に呼びかけが行われる事を把握している人物がいる。
「いや、そんな筈はねぇ……」
その結論に思い至るものの翔太郎はそれを否定する。
「相川、お前が言いたい事はこういうことだな。
呼びかけを行った亜樹子自身が爆弾をしかけたと――」
だが、音也がその答えを明言する。
「そうだ。下手に呼びかけを行った所で殺し合いに乗った奴等に殺されるのがオチだ。
だが、これを逆に利用して連中を仕留める機会を作る事が出来る」
口にはしないが始自身この機会を利用して一網打尽にする事を考えていた。
亜樹子が頭の回る女ならば同じ事を考えても不思議ではない。
「ちょっと待ってくれ、殺し合いに乗った連中だけが集まるわけじゃねぇ。亜樹子の言葉を信じた奴等だって来る筈だ……」
「あの女は自分の世界を救う為に他の世界の連中を倒そうとしているんだろう……(そう、俺と同じ様に……)」
始は亜樹子が自分同様自身の世界を救うべく他の世界の参加者を倒そうとしていると指摘した。
「冗談でもそんな事口にするんじゃねぇ! 亜樹子が人を泣かせる事をする筈が……!」
翔太郎は始の指摘を否定する。
かつて風都と其処に住む人々を守ってきた荘吉の遺志を継ぎ翔太郎達と共に戦ってきた荘吉の娘である亜樹子が人々を泣かせる真似をする事など決して無い筈だと。
しかし、内心では否定しきれないでいた。
単純に他人を傷付ける訳ではない、自分の住む風都を守る為にやむなく他の世界の人々を倒すという事なのだ。
翔太郎自身それを全く考えなかったわけではない。だからこそ仮に始の指摘通りだったとしても一方的に非難する事など出来はしない。
指摘している始にしても彼女の言葉が嘘だとは思いたくはない。だが、自分と同じ結論に至り非情な選択を取る彼女の心中を理解出来なくはない。
それでもここで倒れるわけにはいかない、故に危険性を指摘したという事だ。
三者の間に緊張が奔る――
「――それで?」
その緊張を破ったのは音也だった。
「紅……」
「左、お前言ったよな。亜樹子が人を泣かせる筈がないと、だったらお前がそれを信じないでどうする?」
「あ、あぁ……」
「紅音也、だが状況から見て……」
「だからどうした? 亜樹子にしても自分の仲間を守る為にやっているんだろう? 男だったらそれぐらい笑って許してやれ、まぁ後でデートを2回か3回ぐらいさせてもらうがな」
「いや、デートって……」
「それに、相川の仮説通りなら俺や左がいる状況で爆破する事も無いだろう」
確かに亜樹子自身が爆弾のスイッチを握っているのであれば翔太郎を巻き込む事など有り得ない。それをする事は本末転倒でしかないからだ。
「ちょっと待て、ジョーカーの男はともかく紅は関係……」
「大ありだ、何しろ俺様が死ねば世界中の女が悲しむからな」
「亜樹子お前と面識ねぇ筈だろ……」
「大体だ、亜樹子1人でそれを行ったとは限らないだろうし、別の奴がスイッチを握っているかもしれないだろう」
「確かに亜樹子1人でそこまで出来るわけもねぇしな……」
「別の奴か……」
一連の事を成す為には最低でも声を届かせる為の道具と爆弾が必要だ。しかし1人の参加者の手元にそれらが都合良く揃うとは限らない。
また翔太郎から見ても亜樹子1人だけでここまで行う事は少々不自然だ。協力者の可能性は考えておくべきだろう。
それに、事を成した直後に誰かに襲われスイッチを奪われた可能性も否定出来ない。
「真相はどうあれ急いで亜樹子を探し出してここから離れた方が良いだろう」
「そうだな、後探していないのは展望台か……ん?」
そんな中、窓の外から1人の男がタワーから離れる様に足早に移動しているのが見えた。
この状況でわざわざタワーから離れる所から見て、既にタワーで事を成し翔太郎達とは行き違う形で退避しようとしているのだろう。
あの男が爆弾のスイッチを握っている可能性もある。仮にそうだとするならば早々に確保すべきだろう。
いや、それだけではない。あの男を見た所一目見ただけでも異様な何かを感じたのだ。特に翔太郎と音也にとっては何処かで感じた何かを。
その危険性から見ても殺し合いに乗っている可能性が高い。どちらにしても放置して良い存在ではない。
だが、タワー内にいる可能性のある参加者の探索も急務だ。とはいえ、其方を優先するあまり退避している男を放置するわけにもいかない。
どうすべきかと考える中、
「ジョーカーの男、紅音也、お前達はあの男を追え。あのバイクを使えばすぐに追いつけるはずだ」
始がそう提案してきた。同時にそれはタワーにいるであろう参加者は自分が探す事を意味している。
「相川さん……」
亜樹子の事も心配だが危険人物を放置するわけにはいかない。故に始の提案自体は悪いものではない。
だが、翔太郎には懸念があった。始が自身の世界を守る為にタワーにいる参加者を殺すのではないかと。
故に始の提案をそのまま受け入れられないでいる。
「俺が信用出来ないならさっさとあの男を止めて戻ってくればいいだけだろう?」
躊躇する翔太郎にそう言い放つ始、その一方。
「相川、お前俺達をタワーから遠ざけるつもりか?」
音也が口を挟む。
「スイッチ云々関係無しにタワーが危険である事に変わりはない。俺達を守る為に遠ざける……聞こえは良いがお前はどうするつもりだ? 死ぬつもりか?」
「死ぬつもりはない」
音也の指摘に対し始はそう応えた。
「左、行くぞ。もしかしたらあの男が亜樹子達の行方を知っているかも知れん」
「わかった。相川さん、もし亜樹子や他の参加者を見つけても……」
「させたく無いのならば早く行け、ジョーカーの男」
始の言葉が終わらない内に音也と翔太郎は走り出した。
始が手を出さないでいてくれるだろうと完全に信じたわけではない。
それでも始の言動を見る限り、他者を傷付ける為ではなく大切なものを守る為に戦っている事だけは確実だ。
無論、その為に誰かを傷付けて良いという話ではないわけだが――
だが翔太郎も音也も知っている。
人々を脅かす側にいる者ではあっても、彼等の中にはそれぞれに守るべきものがありそれを守る為に戦っている者がいると――
翔太郎の友であった霧彦はガイアメモリを流通させるミュージアムにいたが彼は彼なりに風都の未来の為に戦っていた。
音也の仲間であった次狼、ラモン、力達はそれぞれ人間のライフエナジーを糧にするモンスターの一族であったが彼等もまた自分達の種族の存続の為に戦っていた。
恐らくは始も同じなのだろう。彼にも彼なりに守るものがあるという事だ。少なくてもそれだけは信じられる。
もし、害を為す存在ならばその時止めれば良い。故に今は守る為に行動を起こすべきだろう――
2人は足早にサイドバッシャーの所まで戻り騎乗し、男の向かった方向へと走り出した――
【5:41】
一方で残された始は展望台に続くエレベーターの中にいた。
「剣崎……」
1人となった始が口にするのは今は亡き友剣崎一真の名だ。
音也と士は病院で遭遇した矢車とキバット族のキバーラから彼等と同行していた光夏海の死を聞かされていた。
士はその事で強いショックを受けていたが、その間音也はキバーラ達からもう少し話を聞いていた。
詳しい事までは不明ではあったが、病院で黒いカブトの襲撃に遭い、変身不能状態に陥った矢車達4人(と1匹)は危機に陥ったらしい。
その際に彼等と行動を共にしていた剣崎が命を懸けて矢車達を病院から退避させたという事だった。恐らくは最早死亡していると考えて良い。
その直後、矢車達が連れていた男が凶行に及び夏海が殺されたという話である。
音也はタワーまで移動する間に、何れ来るであろう士達の事を話す際にその事も翔太郎と始に話していた。
表向き始は何事も無い様に振る舞っていたが内心では唯一『友』と呼べる人物である剣崎の死にショックを受けていた。
とはいえ全くその可能性を考えていなかったわけではない。
自分同様ラウズカードが揃っておらず全力の出せない状況、更にカリスに変身した自身を凌駕する参加者が存在する以上、敗北し命を落とす可能性は大いにある。
聞けば変身不能という状況で襲撃されたというではないか。自分だってその状況に追い込まれれば同じ結果になるだろう。
ショックを受けた以上に感じていた事はある。
やはり剣崎は誰かを守る為に戦い、そして死んでいった――剣崎らしいと感じた。
剣崎が剣崎らしく戦って散った事は自分としても非情に誇らしく思う。
剣崎の戦いを侮辱する事は誰にもさせたくはない。
だが――
「やはり俺はお前と同じ道は行けない――」
本来ならば自分が剣崎の遺志を継ぐべきなのかもしれないし、きっとそれは剣崎自身も望んでいる事だろう。
それでも、自分にとっては自分の世界、いやその世界に住む栗原親子を守りたいという想いが何よりも強い。
だからこそ、殺し合いに乗り、そうして既に1人仕留めた。今更引き下がるつもりはない。
理解を求めるつもりはない。それでも世界を滅ぼす存在であるジョーカーではなく、人の心を持った相川始として考えた末の結論だ。
それは例え相手が剣崎であっても簡単に譲るつもりはない。
「それに、お前の遺志を継ぐ人間は他にいる」
言うまでもなくそれはジョーカーの男こと翔太郎、そして音也達といった人々を守る為に戦う仮面ライダー達だ。
異なる世界の仮面ライダーである翔太郎達が剣崎の遺志を受け継ぎ大ショッカーを打倒せんと動く筈だ。
翔太郎達が大ショッカーを打倒出来るならばそれに越した事はない。自身の優勝はそれが困難だった時の話だ。
だからこそ、翔太郎達を爆破及び倒壊の恐れのあるタワーから退避させたという事だ。
剣崎達の遺志を継ぐ者達をそう簡単に死なせるわけにはいかない。それ故の提案だったのだ。死んだ時はそれだけの存在ではあるが死なせて良いという事にはならない。
無論、タワーに残った自分自身死ぬつもりは全く無い。アンデッドである自身が爆破程度で死ぬとは思わないし、なるつもりは全く無いが最悪の場合は本来の姿に戻れば対処は可能。
そういう意味で考えても自身が残り2人を行かせるという案は非情に理に適っていた。
亜樹子達を見つけた時の対処については正直決めかねている。
本来ならば殺すべきだろうが、自身の提案を受け入れてくれた翔太郎達の事を考えると多少なりとも思う所はある。
どちらにしても殺し合いに乗っている危険人物ならば殺すつもりだ、そこを譲るつもりはない。
仮に自分の世界を守る為という理由があったとしてもそれは始にとっても同じ事、それを理由に命を見逃すという話にはなり得ない。
何にせよ、実際に遭遇しない事にはわからないだろう。
そして何時しか展望台に辿り着く。
結論から言えばそこには女性の死体が1つ残っていただけだった。それが誰のものかまでは不明、亜樹子のものかも知れないしそうでないかも知れない。
恐らく下手人はタワーから出て行った男。恐らく今頃翔太郎達が戦っている筈だ。
同時にそれは自分にとっても敵である。打倒しなければならない存在だ。
「負けるなよ、お前がジョーカーであるならばな――」
そう呟いた――
そして、始は死体から視線を逸らし足を進める――
愚者達の踊る祭典劇、次なる幕へと――
【1日目 夕方】
【D-5 東京タワー大展望台1階】
【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり
【状態】罪悪感、若干の迷いと悲しみ
【装備】ラウズカード(ハートのA~6)@仮面ライダー剣、ラルクのバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1
【思考・状況】
1:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
2:タワー内の探索を続ける。発見した参加者については……
3:当面は左翔太郎の前では、カリスに変身しない。
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
|070:[[愚者の祭典 狂える蛇の牙]]|投下順|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|070:[[愚者の祭典 狂える蛇の牙]]|時系列順|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|058:[[Jの男達/世界を守るために]]|[[左翔太郎]]|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|060:[[不屈の魂は、この胸に]]|[[紅音也]]|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|070:[[愚者の祭典 狂える蛇の牙]]|[[浅倉威]]|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|058:[[Jの男達/世界を守るために]]|[[相川始]]|071:[[愚者のF/野外劇]]|
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*愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE
【5:35】
「ちっ……」
蛇革のジャケットを纏った男浅倉威が舌打ちをした。
約10分程前、東京タワー展望台での戦いを済ませ、一旦身を休めるべく東京タワーから離れようとしていた。
無論、このまま待っていれば新たな参加者が現れ更なる戦いとなる。それ自体は戦いを望む浅倉としては全く問題はない。
しかし先の戦いでの疲労やダメージは思ったよりも大きい、向こうが戦いを挑むなら戦うつもりではあったが、少々休みたいと考えていた。
故に東京タワーから離れるという判断を下したという事だ。
だが、物事はそこまで都合良くいかない。いざ離れようと自身が乗ってきたバイクの所に向かったものの、誰かが持ち去っていったらしくそれは無かった。
先程の舌打ちは折角の移動手段を奪われたが故のものであった。
とはいえ何時までも苛立っていても仕方がない。浅倉は足早に移動を開始した。
この後も戦いが繰り広げられるであろう東京タワーから離れるという選択、それは戦いを求め続けた浅倉にしてみれば意外な選択と感じる者も多いだろう。
確かに人によっては浅倉を人間ではなくモンスターと断じる者もいる。しかし浅倉は知性のないモンスターではなくそれを有する人間だ。
そもそも知性のないモンスターであるならばこれまでの仮面ライダーの戦いを戦い抜けるわけがない。特に戦いにおいては意外と知恵が回るのが浅倉威という人物なのだ。
故に消耗した状況に陥った事を踏まえタワーからの退避を選んだという事も決して不思議では無いという事だ。
更にもう1つ退避を選んだ決め手が存在する。それは先程手に入れたある道具だ。
それは大ショッカー製の拡声器、先程のある女性の呼びかけに使われた物だ。つまり、適当なタイミングで拡声器を使い参加者を誘き寄せ戦うという事だ。
絶対に来るという確証はない。だが放送が届きさえすればある程度の参加者……バカでお人好しの城戸真司辺りはほぼ確実にやって来るだろうし、少なくても自分の世界の仮面ライダーは来るだろう。
だからこそ今というタイミングで退避という選択を選べたのである。
どの道当分は自身のデッキである王蛇は使えない。先の戦いで使ったヘラクスの力は絶大でそれなりに気には入っているが、使い慣れた王蛇の方が合っている。
故に王蛇を使えない今というタイミングは敢えて休む事にしたのだ。
何処に行こうか? 別に深く考えているわけではない。しかしその進む方向は巨大な川へと向かっていた――
【5:03】
『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』
――東京タワーから響いた亜樹子の呼びかけ、だがそれは危険人物を招き寄せる両刃の剣だ。俺達は亜樹子や集まった人々を守る為に東京タワーへと向かった――
F-5のマンションからD-5にある東京タワーまでは距離がそれなりにある。
無論、左翔太郎と相川始がマンションで手に入れたサイドカーサイドバッシャーの機動力ならばそこまで時間はかからないだろう。
翔太郎達はある程度距離を短縮し他の参加者よりも早く迅速にタワーに辿り着く為に、大きな道路を通らず敢えて平原を突っ切るルートを選んで走り続けた。
その最中――
「ジョーカーの男……」
「ああ、解っている」
E-5を差し掛かった辺りにて1人の男が歩いているのが見えた。
進行方向から見て目的地がタワーなのは明白、十中八九鳴海亜樹子の呼びかけを聞いた上で向かっているのだろう。
問題は亜樹子の言葉に従い集おうとする善良な参加者なのか、呼びかけを利用して集った参加者を蹂躙する危険人物なのかだ。
出来うるならばいち早くタワーに向かいたい。しかしこのまま放置するというわけにもいかないだろう。
そう考えている中、バイクの音を聞きつけたのか男が此方を振り向いてきた。
「相川さん」
「わかっている」
その男の思惑は不明、だが危険人物なら足止めすべきだろうし、善良な参加者ならば退避して貰う様話を付けておくべきだろう。
タワーでの混戦を利用し参加者を減らそうと考えている始としても不確定要素は極力排除したいと考えている。故に翔太郎の考えに従う意を示した。
そして男の近くまで来てサイドバッシャーを停止させる。
「アンタ、もしかしてタワーに向かっているのか?」
「ああ、お前等もそうなんだろう?」
わかっていた事とは言え男の目的地もタワーだった。だが、戦場となるタワーにみすみす向かわせるわけにはいかない。
「これからタワーは戦いになる、だから……」
「レディー達を助けに向かわなければならないんだろう?」
タワーに向かうな――そう言い切る前に男が答えた。
真偽は不明だ。しかし男の言葉が真実であるならば恐らく亜樹子(をレディーと呼んで良いのかは正直微妙だが)を助ける為に向かうのだろう。
無論、それをそのまま鵜呑みにするつもりは無いわけだが、
「お前は……」
「俺様は紅音也、千年に一度の天才だ。そういうお前達は何者だ?」
「……相川始」
「俺は左翔太郎、探偵だ」
男が紅音也と名乗った事で2人も互いの名前を音也に伝える。すると、
「左……もしかして霧彦の野郎が言っていた仮面ライダーがアンタか?」
「!? アンタ霧彦に会ったのか?」
「ああ、女に捨てられた事を嘆いていたな」
「女に捨てられ……ああ、そういや……」
翔太郎がミュージアムの幹部園咲霧彦と最後に会った時、彼はミュージアムの危険性を警告していた。
その直後、霧彦は表向き事故死した――が、実際は彼の妻にしてミュージアムの幹部にしてフィリップこと園咲来人の姉である園崎冴子に始末されている。
「まぁそれでもアイツは冴子を取り戻そうと必死だったみたいだがな。その点は褒めてやっても良い」
何にせよ、翔太郎の知り合いである霧彦がそこまで話していた事から敵対はしていなかったという事だろう。
とはいえ裏切られても冴子を愛していたであろう霧彦にその後の彼女の動向は流石に伝えられないと思ったが。
「……霧彦は殺し合いに乗っていたのか?」
「いいや、アイツも大ショッカー打倒を考えていた」
「そうか……ん、ちょっと待て、霧彦の奴今何処にいるんだ?」
一時期行動を共にしその後別行動を取ったのは明白、故に霧彦が何処に向かったのかを問う。
「アイツは……」
音也は霧彦が先の戦いで致命傷を負い命を落とした事を話した。
「世界に良い風を吹かせるために――そう言って俺達を行かせた、人類の味方・仮面ライダーに後を託してな」
「霧彦……また、託されちまったな……」
何故か生きていた霧彦が死亡した事に対しショックが無いわけではない。
それでも変わらず風都のみならず多くの世界を守る為に戦った霧彦の遺志に応えなければならない。
「俺『達』?」
そう聞き返したのは始だ。言われてみればその言葉から考えて他に同行者がいた事になる。
「ああ、言っていなかったな。アイツの持っていたメモリとスカーフは天道と乾の奴等が持っている筈だ。そういえば乾の奴がアイツのスカーフを洗濯するって約束していたな」
「乾……確か木場さんの知り合いだったな……」
乾といえば今は亡き木場勇治が話していた乾巧だ。
木場は彼の世界における仮面ライダーであるファイズに気を付けろと話していた。
木場の世界に存在するドーパントの様な存在オルフェノク、その中でも人間の心を失った悪のオルフェノクが大企業スマートブレインと共に人間達や人間との共存を望むオルフェノクを襲っているらしい。
そしてスマートブレインで開発されたファイズが木場達善なるオルフェノクを狩っているという話だ。
音也が木場の知り合いである巧と行動を共にしていたならファイズについてもう少し詳しい話が聞けるかも知れない。そう考えたものの、
「……情報交換するのは勝手だがタワーに行かなくて良いのか?」
始が口を挟んだ事で止められた。
とはいえ始の言い分はもっともだ。音也から話を聞く事自体が無駄とはいわないが、こうしている間にも刻一刻と亜樹子に危機が迫っている。
それを踏まえるならば必要最低限だけ話を聞いて落ち着いた際に今一度情報交換すべきだろう。
「そうだった、悠長に話している場合じゃねぇ……」
「そうだ、というわけで俺にそのバイクを貸してもらおうか」
と、音也がサイドバッシャーを貸せと言いだしてきた。
「ちょっと待て、なんでそうなる!?」
「言ったはずだ、レディー達を助けに行くと。だからお前達は歩いて来い」
「それは俺も同じだ、乗せる分には構わねぇから後ろに……」
「巫山戯るな、何が悲しくて男の後ろに抱きつかなければならん」
「気持ち悪い事言うんじゃねぇ!!」
「……どっちでも良いから早くしろ」
無駄な事で言い争う2人に対し呆れ気味な始であった。
結局、男の後ろに乗りたくない音也がサイドカーに乗り、始が翔太郎の後ろに乗る形となり移動を再開した。
「……なるほど、あの呼びかけを行ったのは左の事務所の所長なんだな」
「ああ、亜樹子の奴無茶しやがって……」
「着いてくるなとは言ったが士や矢車の野郎が来るかも知れん。特に士の野郎は通りすがりの仮面ライダーとか抜かす変な奴だったからな」
その道中、翔太郎が呼びかけを行ったのが亜樹子である事を説明すると共に、音也は病院で門屋士と矢車想の2人に会った事を話す。
「通りすがりの仮面ライダー……か」
「ん? 知り合いか?」
「ああ、ちょっとな」
敢えて語らなかったが、翔太郎は士こと通りすがりの仮面ライダーディケイドと面識がある。
特に『死人還り』事件の犯人であるダミードーパントを追跡した際にディケイドと共闘した時には印象深い出来事があった。
戦いを終えた後、ディケイドは翔太郎に1枚のカードを渡した。それは翔太郎の師匠であり亜樹子の父でもある鳴海荘吉の変身する仮面ライダースカルのカード、
そのカードの力で別世界の仮面ライダースカルが現れた。無論それに変身しているのは翔太郎の世界の荘吉とは別の存在のソウキチではある。
だが、そのソウキチは翔太郎の事を認めてくれた。別世界の荘吉とはいえ翔太郎にとってそれは非情に嬉しかった。
「(そうだ……別世界とはいえおやっさんが俺を認めてくれたんだ……認められる程出来ているとは思ってねぇが……それでも、おやっさんの遺志は俺が……いや俺『達』が受け継いでいるんだ、それには応えねぇとな……)」
そして程なくして3人を乗せたサイドバッシャーは東京タワー一帯へと入っていった。
【5:18】
逃走した危険人物からの奪取を避ける為サイドバッシャーを東京タワー下部の建物の裏に止め、3人は内部に突入した。
すぐさま3人は建物内部を探索し亜樹子他集った参加者を捜した。
それから約10分、建物内を探索したものの他の参加者は誰も見つける事が出来なかった。
実の所、亜樹子は彼等が建物の裏に回っている間に建物から離脱していた。だが、その際に潜んでいたアポロガイストの襲撃に遭遇。
その後アポロガイストは亜樹子を連れそのままタワーより離脱――
結論から言えば翔太郎達と亜樹子達は行き違いという形となったということだ。
3人がすぐさま展望台に向かわず下部建物を探索したのは展望台は退路が限定される為いる可能性が低いと考えていたからだ。
だが実際はこの時、展望台にて戦いが繰り広げられていた。いや、それどころかその前は鉄塔を上りながら戦っていた。
仮の話だが、3人がその様子を目の当たりにしたのであればすぐさま展望台に向かうという選択をしただろう。
しかし結論から言えばその様子を見る事は無かった。
死角に入っていたのか、周囲に警戒を回しつつ移動していたが為にそこまで把握しきれなかったか、また別の理由があったか、それは不明ではあるが事実として確認はしていない。
更に展望台は下部建物から上方100メートル強の高い場所にある。それ故、激闘の音は3人に届かなかった。
もし3人が早々に展望台に向かっていたならば展望台での戦いの敗者が命を落とす事も無かったかもしれない。
彼等の選択が多少なりとも違ったものであったならば、この祭典の行方も幾らか変わったものになっただろう。
亜樹子と合流を果たす事も出来たであろうし、消えゆく命を1つ守る事も出来たかもしれない。
結果的に彼等は舞台の一幕に上がる事が出来なかったというわけだ。
今現在繰り広げられているのはいうなれば幕間劇(インテルメディオ)――
だが、彼等の選択が間違っていたのかと断ずる事は出来ない。そう、彼等が下部建物を探索した事により――
【5:29】
下部建物3階で3人は一旦集い互いの成果を話す。
「紅、亜樹子の奴は?」
「いや、俺は見ていない。それどころか人っ子1人見あたらないな、それに……」
「くっ、何処行きやがった……」
未だ他の参加者を見つけられず翔太郎は焦りを感じる。そんな中、
「もうタワーから離れたのかも知れないな」
始がそう口にする。
「ちょっと待ってくれ相川さん、確かにここにいるのは危険だ。だが、亜樹子自身が呼び出しておいて離れるとは……」
勿論、早々に退避しているならばそれに越した事はない。だが亜樹子が他の参加者を危険にさらしたまま離れるとも思えない。
「少々厄介なものが見つかった。もしあの女がそれを見つけたならば……」
そう言って始はその場所に案内した。そこにはある物が仕掛けられていた。
「こいつは……」
「爆弾だな」
それは爆弾、それも大ショッカー製の爆弾だ。
少し調べた程度だが時限爆弾ではなくリモコンの電波を受信して遠隔爆破するタイプである事まで把握出来た。詳細の火力までは把握し切れていないがそれなりの威力を持つ事だけは確実だろう。
「実は俺も同じ様な物を見つけた。もっとも俺のは大ショッカー製じゃないがな」
と音也が別の場所に2人を案内する。そこには、
「ZECT……」
そこにもリモコン製の爆弾が仕掛けられていた。但し始が呟いた通り、大ショッカー製ではなくZECT製ではあるが。
「天道の世界の組織で作られた奴だな」
「そういやあのバックルとアレにも同じ様なロゴがあったな……」
翔太郎と音也がそれぞれ口にする中、
「他にも仕掛けられているかもしれない……」
始が爆弾が大量に仕掛けられている可能性を指摘する。
「ちょっと待て、もしそれが一斉に爆発したら……」
「最悪この周囲一帯が消し飛ばされる、最低でも東京タワー倒壊は避けられないだろうな」
その場合、ここに集おうとする参加者の命が一斉に奪われる事になる。
「解除する……そんな時間はねぇか」
起爆装置の解除という手段は使えない。1つ解除出来た所で1つでも爆弾が爆発した時点で全てに誘爆してしまい同じ結果になる。
全て解除するという手段も爆弾の総数が不明瞭であり、東京タワー一帯を全て調べるのは非現実的だ。その前に起爆装置のスイッチを入れられた時点で終わりである。
「それどころか戦いに巻き込まれて爆発するかも知れんな」
「……ん、アレは?」
そんな中、窓ガラスの奥に何かの怪物が数匹映っているのが見える。
「アンデッド……いや違うな」
「もしや、コイツ絡みか?」
と音也がカードデッキを取り出す。説明書によるとミラーモンスターの力を借りた仮面ライダーに変身出来るとあった。
恐らく、映っている怪物はミラーモンスター絡みの存在だろう。
「……つまりこの近くにあの怪物を使う奴がいるって事か? だが、それなら何故仕掛けて来ねぇんだ?」
「仕掛けて来ない……いや、仕掛けられないのか?」
怪物の正体は仮面ライダーインペラーの使役モンスターメガゼール等に代表されるゼール軍団だ。
この直前の展望台での戦闘においてカードデッキが破壊された事で契約から解放され、東京タワー一帯で蠢いていたのだ。やって来た参加者を仕留めるべく――
とはいえ、デッキの契約から解放されてもこの場における制限が存在する以上、今暫くの間は襲いたくても襲う事は出来ない。もっとも、今暫くである以上何れ解放される瞬間が訪れる事に違いはない。
「襲ってきた所で後れを取るつもりはない……が」
「下手に戦えば……いやそれどころか、あの怪物が下手に暴れた時点で……」
もし、この場所が戦場になった場合、攻撃の余波に爆弾が巻き込まれる可能性は否定出来ない。
その時点で爆弾が爆発しタワーが倒壊あるいは消滅する事はおわかり頂けるだろう。
故に、この場所で戦う――それどころか駐留する事だけでも非情に危険だという事だ。
「冗談じゃねぇ! 早く亜樹子達を見つけねぇと……」
「……ジョーカーの男、お前は気付いていないのか?」
焦る翔太郎に対し始が口を挟む。
「何だ相川さん、無駄話している時間は……」
「この爆弾は一体誰が何の目的で仕掛けたものだ?」
始が指摘するは、爆弾を仕掛けた人物と目的だ。
「そりゃ東京タワーに集まった参加者を……ん、ちょっと待て……」
爆弾を仕掛けた目的は十中八九、東京タワーに集った参加者を一網打尽にする為だ。
だがこの仕込み具合から考えて準備には少々手間がかかるのは容易に予想が付く。
しかし、そうそう都合良く東京タワーに参加者が集うとは限らない。
タワー1つを犠牲にして1人か2人では少々お粗末な成果と言えよう。
が、ここで都合良く亜樹子が参加者を集めるべく周囲数エリアに届くぐらいの呼びかけがあった。
良くも悪くもこれで参加者が集うという条件はクリアされる。爆弾を爆発させる最良のタイミングが出来上がるというわけだ。
では、爆弾を仕掛けた者は亜樹子の呼びかけを利用したという事なのだろうか?
その可能性は確かにある。だが、亜樹子の呼びかけを耳にした後、この策を思いつき東京タワー一帯に仕掛けるには少々時間が足りない。
そもそも仕掛けている間に他の参加者がやって来た時点で御破算となるだろう。
つまり、爆弾を仕掛けるタイミングは亜樹子の声を耳にした直後の僅かな時間、約10数分程度という事になる。
だが、その時間を拡張する方法が存在する。
それは至極単純、亜樹子の呼びかけの前だ。
しかし、呼びかけ前に爆弾を仕掛けた所で都合良く東京タワーに集める呼びかけが行われるとはならない筈だ。
が、1人だけ事前に呼びかけが行われる事を把握している人物がいる。
「いや、そんな筈はねぇ……」
その結論に思い至るものの翔太郎はそれを否定する。
「相川、お前が言いたい事はこういうことだな。
呼びかけを行った亜樹子自身が爆弾をしかけたと――」
だが、音也がその答えを明言する。
「そうだ。下手に呼びかけを行った所で殺し合いに乗った奴等に殺されるのがオチだ。
だが、これを逆に利用して連中を仕留める機会を作る事が出来る」
口にはしないが始自身この機会を利用して一網打尽にする事を考えていた。
亜樹子が頭の回る女ならば同じ事を考えても不思議ではない。
「ちょっと待ってくれ、殺し合いに乗った連中だけが集まるわけじゃねぇ。亜樹子の言葉を信じた奴等だって来る筈だ……」
「あの女は自分の世界を救う為に他の世界の連中を倒そうとしているんだろう……(そう、俺と同じ様に……)」
始は亜樹子が自分同様自身の世界を救うべく他の世界の参加者を倒そうとしていると指摘した。
「冗談でもそんな事口にするんじゃねぇ! 亜樹子が人を泣かせる事をする筈が……!」
翔太郎は始の指摘を否定する。
かつて風都と其処に住む人々を守ってきた荘吉の遺志を継ぎ翔太郎達と共に戦ってきた荘吉の娘である亜樹子が人々を泣かせる真似をする事など決して無い筈だと。
しかし、内心では否定しきれないでいた。
単純に他人を傷付ける訳ではない、自分の住む風都を守る為にやむなく他の世界の人々を倒すという事なのだ。
翔太郎自身それを全く考えなかったわけではない。だからこそ仮に始の指摘通りだったとしても一方的に非難する事など出来はしない。
指摘している始にしても彼女の言葉が嘘だとは思いたくはない。だが、自分と同じ結論に至り非情な選択を取る彼女の心中を理解出来なくはない。
それでもここで倒れるわけにはいかない、故に危険性を指摘したという事だ。
三者の間に緊張が奔る――
「――それで?」
その緊張を破ったのは音也だった。
「紅……」
「左、お前言ったよな。亜樹子が人を泣かせる筈がないと、だったらお前がそれを信じないでどうする?」
「あ、あぁ……」
「紅音也、だが状況から見て……」
「だからどうした? 亜樹子にしても自分の仲間を守る為にやっているんだろう? 男だったらそれぐらい笑って許してやれ、まぁ後でデートを2回か3回ぐらいさせてもらうがな」
「いや、デートって……」
「それに、相川の仮説通りなら俺や左がいる状況で爆破する事も無いだろう」
確かに亜樹子自身が爆弾のスイッチを握っているのであれば翔太郎を巻き込む事など有り得ない。それをする事は本末転倒でしかないからだ。
「ちょっと待て、ジョーカーの男はともかく紅は関係……」
「大ありだ、何しろ俺様が死ねば世界中の女が悲しむからな」
「亜樹子お前と面識ねぇ筈だろ……」
「大体だ、亜樹子1人でそれを行ったとは限らないだろうし、別の奴がスイッチを握っているかもしれないだろう」
「確かに亜樹子1人でそこまで出来るわけもねぇしな……」
「別の奴か……」
一連の事を成す為には最低でも声を届かせる為の道具と爆弾が必要だ。しかし1人の参加者の手元にそれらが都合良く揃うとは限らない。
また翔太郎から見ても亜樹子1人だけでここまで行う事は少々不自然だ。協力者の可能性は考えておくべきだろう。
それに、事を成した直後に誰かに襲われスイッチを奪われた可能性も否定出来ない。
「真相はどうあれ急いで亜樹子を探し出してここから離れた方が良いだろう」
「そうだな、後探していないのは展望台か……ん?」
そんな中、窓の外から1人の男がタワーから離れる様に足早に移動しているのが見えた。
この状況でわざわざタワーから離れる所から見て、既にタワーで事を成し翔太郎達とは行き違う形で退避しようとしているのだろう。
あの男が爆弾のスイッチを握っている可能性もある。仮にそうだとするならば早々に確保すべきだろう。
いや、それだけではない。あの男を見た所一目見ただけでも異様な何かを感じたのだ。特に翔太郎と音也にとっては何処かで感じた何かを。
その危険性から見ても殺し合いに乗っている可能性が高い。どちらにしても放置して良い存在ではない。
だが、タワー内にいる可能性のある参加者の探索も急務だ。とはいえ、其方を優先するあまり退避している男を放置するわけにもいかない。
どうすべきかと考える中、
「ジョーカーの男、紅音也、お前達はあの男を追え。あのバイクを使えばすぐに追いつけるはずだ」
始がそう提案してきた。同時にそれはタワーにいるであろう参加者は自分が探す事を意味している。
「相川さん……」
亜樹子の事も心配だが危険人物を放置するわけにはいかない。故に始の提案自体は悪いものではない。
だが、翔太郎には懸念があった。始が自身の世界を守る為にタワーにいる参加者を殺すのではないかと。
故に始の提案をそのまま受け入れられないでいる。
「俺が信用出来ないならさっさとあの男を止めて戻ってくればいいだけだろう?」
躊躇する翔太郎にそう言い放つ始、その一方。
「相川、お前俺達をタワーから遠ざけるつもりか?」
音也が口を挟む。
「スイッチ云々関係無しにタワーが危険である事に変わりはない。俺達を守る為に遠ざける……聞こえは良いがお前はどうするつもりだ? 死ぬつもりか?」
「死ぬつもりはない」
音也の指摘に対し始はそう応えた。
「左、行くぞ。もしかしたらあの男が亜樹子達の行方を知っているかも知れん」
「わかった。相川さん、もし亜樹子や他の参加者を見つけても……」
「させたく無いのならば早く行け、ジョーカーの男」
始の言葉が終わらない内に音也と翔太郎は走り出した。
始が手を出さないでいてくれるだろうと完全に信じたわけではない。
それでも始の言動を見る限り、他者を傷付ける為ではなく大切なものを守る為に戦っている事だけは確実だ。
無論、その為に誰かを傷付けて良いという話ではないわけだが――
だが翔太郎も音也も知っている。
人々を脅かす側にいる者ではあっても、彼等の中にはそれぞれに守るべきものがありそれを守る為に戦っている者がいると――
翔太郎の友であった霧彦はガイアメモリを流通させるミュージアムにいたが彼は彼なりに風都の未来の為に戦っていた。
音也の仲間であった次狼、ラモン、力達はそれぞれ人間のライフエナジーを糧にするモンスターの一族であったが彼等もまた自分達の種族の存続の為に戦っていた。
恐らくは始も同じなのだろう。彼にも彼なりに守るものがあるという事だ。少なくてもそれだけは信じられる。
もし、害を為す存在ならばその時止めれば良い。故に今は守る為に行動を起こすべきだろう――
2人は足早にサイドバッシャーの所まで戻り騎乗し、男の向かった方向へと走り出した――
【5:41】
一方で残された始は展望台に続くエレベーターの中にいた。
「剣崎……」
1人となった始が口にするのは今は亡き友剣崎一真の名だ。
音也と士は病院で遭遇した矢車とキバット族のキバーラから彼等と同行していた光夏海の死を聞かされていた。
士はその事で強いショックを受けていたが、その間音也はキバーラ達からもう少し話を聞いていた。
詳しい事までは不明ではあったが、病院で黒いカブトの襲撃に遭い、変身不能状態に陥った矢車達4人(と1匹)は危機に陥ったらしい。
その際に彼等と行動を共にしていた剣崎が命を懸けて矢車達を病院から退避させたという事だった。恐らくは最早死亡していると考えて良い。
その直後、矢車達が連れていた男が凶行に及び夏海が殺されたという話である。
音也はタワーまで移動する間に、何れ来るであろう士達の事を話す際にその事も翔太郎と始に話していた。
表向き始は何事も無い様に振る舞っていたが内心では唯一『友』と呼べる人物である剣崎の死にショックを受けていた。
とはいえ全くその可能性を考えていなかったわけではない。
自分同様ラウズカードが揃っておらず全力の出せない状況、更にカリスに変身した自身を凌駕する参加者が存在する以上、敗北し命を落とす可能性は大いにある。
聞けば変身不能という状況で襲撃されたというではないか。自分だってその状況に追い込まれれば同じ結果になるだろう。
ショックを受けた以上に感じていた事はある。
やはり剣崎は誰かを守る為に戦い、そして死んでいった――剣崎らしいと感じた。
剣崎が剣崎らしく戦って散った事は自分としても非情に誇らしく思う。
剣崎の戦いを侮辱する事は誰にもさせたくはない。
だが――
「やはり俺はお前と同じ道は行けない――」
本来ならば自分が剣崎の遺志を継ぐべきなのかもしれないし、きっとそれは剣崎自身も望んでいる事だろう。
それでも、自分にとっては自分の世界、いやその世界に住む栗原親子を守りたいという想いが何よりも強い。
だからこそ、殺し合いに乗り、そうして既に1人仕留めた。今更引き下がるつもりはない。
理解を求めるつもりはない。それでも世界を滅ぼす存在であるジョーカーではなく、人の心を持った相川始として考えた末の結論だ。
それは例え相手が剣崎であっても簡単に譲るつもりはない。
「それに、お前の遺志を継ぐ人間は他にいる」
言うまでもなくそれはジョーカーの男こと翔太郎、そして音也達といった人々を守る為に戦う仮面ライダー達だ。
異なる世界の仮面ライダーである翔太郎達が剣崎の遺志を受け継ぎ大ショッカーを打倒せんと動く筈だ。
翔太郎達が大ショッカーを打倒出来るならばそれに越した事はない。自身の優勝はそれが困難だった時の話だ。
だからこそ、翔太郎達を爆破及び倒壊の恐れのあるタワーから退避させたという事だ。
剣崎達の遺志を継ぐ者達をそう簡単に死なせるわけにはいかない。それ故の提案だったのだ。死んだ時はそれだけの存在ではあるが死なせて良いという事にはならない。
無論、タワーに残った自分自身死ぬつもりは全く無い。アンデッドである自身が爆破程度で死ぬとは思わないし、なるつもりは全く無いが最悪の場合は本来の姿に戻れば対処は可能。
そういう意味で考えても自身が残り2人を行かせるという案は非情に理に適っていた。
亜樹子達を見つけた時の対処については正直決めかねている。
本来ならば殺すべきだろうが、自身の提案を受け入れてくれた翔太郎達の事を考えると多少なりとも思う所はある。
どちらにしても殺し合いに乗っている危険人物ならば殺すつもりだ、そこを譲るつもりはない。
仮に自分の世界を守る為という理由があったとしてもそれは始にとっても同じ事、それを理由に命を見逃すという話にはなり得ない。
何にせよ、実際に遭遇しない事にはわからないだろう。
そして何時しか展望台に辿り着く。
結論から言えばそこには女性の死体が1つ残っていただけだった。それが誰のものかまでは不明、亜樹子のものかも知れないしそうでないかも知れない。
恐らく下手人はタワーから出て行った男。恐らく今頃翔太郎達が戦っている筈だ。
同時にそれは自分にとっても敵である。打倒しなければならない存在だ。
「負けるなよ、お前がジョーカーであるならばな――」
そう呟いた――
そして、始は死体から視線を逸らし足を進める――
愚者達の踊る祭典劇、次なる幕へと――
【1日目 夕方】
【D-5 東京タワー大展望台1階】
【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり
【状態】罪悪感、若干の迷いと悲しみ
【装備】ラウズカード(ハートのA~6)@仮面ライダー剣、ラルクのバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1
【思考・状況】
1:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
2:タワー内の探索を続ける。発見した参加者については……
3:当面は左翔太郎の前では、カリスに変身しない。
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
|070:[[愚者の祭典 狂える蛇の牙]]|投下順|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|070:[[愚者の祭典 狂える蛇の牙]]|時系列順|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|058:[[Jの男達/世界を守るために]]|[[左翔太郎]]|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|060:[[不屈の魂は、この胸に]]|[[紅音也]]|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|070:[[愚者の祭典 狂える蛇の牙]]|[[浅倉威]]|071:[[愚者のF/野外劇]]|
|058:[[Jの男達/世界を守るために]]|[[相川始]]|071:[[愚者のF/野外劇]]|
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