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想いと願いと」(2011/10/31 (月) 11:10:28) の最新版変更点

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*想いと願いと ◆MiRaiTlHUI  もしかしたら、自分の仲間達はもう死んでしまっているのかもしれない。  そんな予測は元来能天気な城戸真司にだって容易に出来ていた筈だった。  だけども、起こり得るかもしれない予測と、実際に起こった事実とでは、全くの別物だ。  非情な現実を素直に受け入れる事が出来るのかどうかは、また別の心構えが必要なのだ。  実際、飛行船からの放送を聞いてから暫くの間、真司は何も考える事が出来なかった。  というよりも、考える事があり過ぎて思考が停止していた、と言った方が正しいか。  北岡の事。美穂の事。東條の事。それぞれ色んな出来事が思い浮かんで、辛くなる。  例え彼らが、元々は敵とされた仲であったとしても、だ。  人が死ぬのが嫌だから仮面ライダーになったのに、自分に出来た事は、余りにも少なすぎる。  悪い奴だろうと、良い奴だろうと、人が死ぬ姿なんて見たくない。だから戦っていた筈なのに。  無力に打ちひしがれて、後悔の念に押し潰されそうになるが、そんな真司を連れ出してくれたのは、津上翔一だった。  津上は、決して多くは語ろうとせずに、ただ一言「行きましょう」と言った。強い目をしていたように思う。  これからどうしようかとか、確かな考えがあった訳ではないけれど、真司は翔一と一緒に歩き出した。  その時はとにかく、その場でじっとしているのが、余計に無力感を思い知らされるような気がして嫌だったのだ。  それからやや歩いて、二人が訪れた場所は、少しばかり築年数の古そうな二階建てのアパートだった。  曰く、このアパートの一室が津上の仲間の自宅だから、遠慮はいらないとの事らしい。  二階の角部屋にある玄関ドアの表札には「葦原」と書かれていた。どういう訳か、ドアに鍵は掛かっていない。  津上はまるで自分の家であるかのようにその部屋へ上がり込み、そして、今に至る。 「で、お前はさっきから何してんだよ」 「見ての通り、冷蔵庫の中身のチェックです」  津上は、まるでそれが自分の物であるかのように、冷蔵庫の中身を漁っていた。  居心地悪そうにそれを眺めていると、津上はさも不満そうに、それでいて心配するようにごちた。 「ああもう、葦原さんってば、やっぱりロクなもの食べてないんだから……」 「他所の家の冷蔵庫漁って何失礼な事言ってんだよ……っていうかいいのかよ、勝手に冷蔵庫漁ったりして」 「うーん、まあいいんじゃないですかね。俺と葦原さんの仲ですから、たぶん大丈夫です」 「本当かよ……」    能天気な津上の様子を見ていると、その言葉も怪しいものである。  どうにも真司には、津上が勝手な言い分で勝手に冷蔵庫を漁っているようにしか見えなかった。  これを見ている限り、真司も馬鹿だとよく言われるが、津上はその上を行く馬鹿なのだろうと思う。  自分には、死者が二十人も出たと知らされた直後に、こうも能天気に冷蔵庫を物色するのは不可能だからだ。 「ってか、それより城戸さん、晩御飯に何か食べたいものとかあります? ロクな食材ないですけど」 「晩御飯って……! お前なぁ、今がどんな時だかホントにわかってんのかよ!?」 「そりゃあ、分かってますけど……でもホラ、よく言うじゃないですか、腹が減っては戦は出来ぬって」 「そういう事じゃなくて! 二十人も人が死んだっていうのに、晩御飯なんか食べる気になれるかよ!」  そう言われた津上が、悲しそうな、今にも泣き出しそうな子供のような目をした。  ほんの一瞬だけ垣間見えたその表情に、真司は何か拙い事を言ったかと思うが、だとしたら一体何が。  津上はすぐに何食わぬ表情に戻るが、続きを話す声のトーンは、先程よりもやや低かった。 「……だって嫌じゃないですか。お腹がすいて、いざという時に力が出なくて、それで悪い奴にやられたりしたら。  俺、城戸さんがそんな風にやられちゃう姿なんて見たくないです。だからやっぱり、ここはしっかり食べておかないと」 「まあ、それは確かにそうだけど……ってお前、ふざけてるように見えて、そこまでちゃんと考えてたのかよ」 「いやあ、何となく」  そう言って、津上は子供みたいにへへへと笑った。  怒るのも馬鹿馬鹿しく思えて来て、真司は小さく嘆息する。   「だから、何か食べたいものがあるなら言って下さい。俺、何でも作っちゃいますよ」 「何でもって……ホントに何でも作れるのかよ。この偏った食材だけで」 「うーん、そうですね。じゃああんまり無茶なものは注文しないで下さい。いくら俺でも、ない食材はどうにも出来ません」 「お前なぁ……それは何でもとは言わないんだよ! ったく、期待して損したっつーの……」 「へへへ、それもそうですね、すみません。あっ、でも何だかんだ言いながら期待してくれてたんですね、嬉しいなあ」 「いや、それは、津上が何でも作るなんて言うから、ちょっと期待しただけで」 「まあまあ、そんな照れなくてもいいじゃないですか。俺も期待に応えられるように頑張りますから」 「照れてないっつーの……」  何だかんだ言いながらも、気付いたら津上のペースに徐々に慣れつつある自分がいる事に気付く。  人間の環境適応能力は大したものだなと肌で感じながらも、真司もまたうーんと唸る。  確かに津上の言った通り、この家にはロクな食材がない。  あるとしたら、いくつかのインスタント食品と惣菜、それから基本的な調味料くらいだ。  生活をする分には問題はないのだろうが、栄養管理は優れているとは言い難い品揃えだった。  何かないものかと、真司も冷蔵庫の中を見て――すぐに見付けた。真司の唯一の得意料理を。 「あっ、餃子あるじゃん、餃子!」 「……ニンニクは嫌いだ」  嬉々として取り出した餃子のパックを見るや、今まで黙っていたキバットがぽつりと呟いた。  何か思う事があったのだろうか。放送を聞いてからというもの、キバットもずっと黙っていたように思う。  もしかすると、キバットの仲間も先の放送で呼ばれたのかも知れないが、その辺の事は真司には良く解らない。 「キバット、お前からも話を聞きたいからさ、とりあえず今は飯にしようぜ」 「俺はいい。キバット族はお前達人間のように、必ずしも食事を必要とはしないんだ」 「えっ、それってなんか寂しくないですか? ご飯って、美味しくてとても楽しいのに」  津上が驚いた様子で、きょとんとして言った。 「楽しい? 食事を摂るという行為そのものが楽しいのか、人間は?」 「はい、美味しいものを食べていると、とても楽しい気持ちになります」  言われたキバットはちらと真司を見た。  津上翔一とは、こういう人間なのだ。何を言ったところで、もう仕方のないことなのだろう。  最早諦めたような真司の表情に気付くや、キバットは「そうか」と言って、それ以上は何も言わなくなった。  津上翔一から言わせれば、きっと何だって楽しいのだろう。こいつはこういう、子供みたいな人間なのだ。  でも、そんな津上の事を、嫌いではない自分がいるのも確かで、真司は無意識のうちに津上に心を開いていた。 「じゃあ、とりあえず餃子でも作るか。インスタントだけどスタミナもつくだろ」 「おっ、いいですね餃子。料理らしい料理じゃないのが残念ですけど、無いよりはマシです」 「いや、俺も本当は中身の具から餃子作りたかったんだけどさ、この家何もないし」 「ってことは何です、もしかして城戸さん、餃子作るの得意なんですか?」 「おう、他に作れるものはあんまりないんだけど、餃子だけは負けたくないっていうか」  これだけは、人に誇れる特徴の一つだった。  あまり披露する事はないが、餃子の腕前だけはプロ“以上”であると自負している。 「おおー、凄いじゃないですか! いやぁ、こんな所で出会わなければ、俺も一緒に餃子作りたかったなぁ」 「そりゃ……大ショッカーを倒してからなら、またいつでも出来るだろ」 「でも俺達、別の世界の住人なんですよね……」  数瞬、沈黙が流れる。  仮に大ショッカーを打倒出来たとしても、そもそも二人は異世界の住人だ。  世界が元通りになれば、もう会う事もないだろうし、もしかしたら、世界が消える可能性だってあるのだ。  せっかくこうやって出会えて、一緒に戦って、一緒に話をしたのに、またすぐに離れ離れと考えると、少し寂しい。  美穂や北岡との辛い別れもあったが、同時にここでの出会いも、真司にとってはどうでもいい事ではなかった。   「まあ、その時はその時だろ。今はそれよりも世界を守る事を考えないとさ」 「そうですね。やっぱり、こんな戦い間違ってると思います。それに、ここはみんなの居るべき場所じゃないし」 「居るべき場所……?」 「ええ、そうです。みんな“そこに居たら安心出来る”っていう、自分自身の居場所を持ってるんです。  でも、ここには俺の居場所はありません。城戸さんの居場所も、小沢さんの居場所も、他のみんなの居場所もです。  ここに連れて来られた誰も、自分の居るべき場所にいないから……だから俺、戦わなきゃって、さっき、もっと強く思いました」 「……さっき、って」  キッチンを整理していた津上の手が止まった。  さっきというのはやはり、放送の時、だろうか。 「ここで、俺の仲間が、二人も死にました」  それから津上は、酷く不器用に、言葉を紡ぎ出した。 「木野さんっていうんですけど、俺と同じアギト仲間で、俺の事、何度も助けてくれて、とても、良い人でした。  北条さんは、ちょっとつっけんどんですけど、警察官として、いつも真面目に働いていた、正義感の強い人でした。  誰も、こんなところで死ぬ事なんてなかったんです。みんないい人で、殺される理由なんか、何にもなかったんです」  表情は硬く、その目はやはり、今にも泣き出してしまいそうで。  だけども、涙は流さない。ただ苦しそうに、言葉を続けるだけだった。 「今まで木野さんや北条さんが居た場所には、もう、誰も居なくて、誰も居ない席がぽっかり空いてるみたいで、  でも、誰もその席には座れないんです。誰にも、二人の代わりになる事なんか、出来やしないんです、だから、俺……」 「お前……」  絞り出す様に続ける津上は何処か痛々しくて、どんな言葉を掛ければいいのかも分からない。  今まで津上の事を能天気で馬鹿な男だと思っていたけれど、それはどうやら違ったらしい。  津上は津上で、この殺し合いに、仲間の死に、こんなにも憤懣を抱えていたのだ。 「……そう、だよな。お前も、辛いに決まってるよな。なのに俺、お前の事、ちょっと誤解してたよ」 「えっ、何です、誤解って、どういう事です?」 「いや、こんな時に晩御飯作ろうなんて言うから、何考えてんのかと思ってさ」 「何も特別な事なんて考えてませんよ。ただ、生きているとお腹が空くじゃないですか。俺達は、こうやって生きてるんです。  まだ生きていて、美味しいものを、美味しいって思えるんです。だから、食べないと、俺達が、これからも頑張っていかないと」  津上は消え入りそうな声でそう言った。その気持ちも、痛いくらいに良く分かった。  馬鹿で、空気が読めない御人好しな真司だけれど、こんな津上を見ていると、胸が苦しくなる。  きっと津上も辛くて、だけど落ち込むだけでは何も出来ないから、今の自分に出来る事をしようとしているのだろう。  二人の仲間が死んだ事で哀しみながらも、それを自分自身の責任として背負って、これからも生きていこうとしているのだろう。  今だって、美味しいご飯を作って、それを食べて体力をつけると同時に、落ち込んでいた真司にも元気を与えようとしていたに違いない。  おめでたい考えではあるが、そうであると疑いなく信じてしまう御人好しなところは、ある意味真司にとっての長所の一つだった。 「そっか……うん、そうだよな。よし、ここは飯でも食べて、スタミナつけないとな!  ここでしっかり食べて、体力付けて、俺達で悪い奴らからみんなを守ってやろうぜ!」  元気よく津上の背中を叩くと、津上は嬉しそうに、やんわりと微笑んだ。  それからややあって、食事の準備を終えた二人は食卓に着いていた。  メニューは餃子に白いご飯、それから、簡単なサラダに冷たいお茶。  あるもので作るしかなかったが故、組み合わせはそんなに宜しくはない。  だけれども、白いご飯は炊きたてで、とても美味しそうだった。  傷つき疲れた身体には、上等過ぎる晩御飯だと真司も思う。  それぞれの情報交換は、食事と同時進行で行われていた。 「いやあ、それにしても困りましたね。俺、ヒビキさんって人とE-4の病院で夜の12時に会うって約束してたんですけど」 「ああ、その人なら俺もさっき会ったよ。けど、それがどうして困ったって事になるんだよ?」 「そのエリアは23時から禁止エリアだ」  説明してくれたのは、キバットだった。  キバット曰く、放送直後は真司も津上も、冷静に物事を考えるどころではなかったらしい。  そんな二人に代わって、禁止エリアを暗記していてくれたというのだから有り難い。   「恐らく奴らは、こちらの動きを読んでその場所を禁止エリアに指定したんだろうな」 「そっか、大ショッカーの奴らにしてみりゃ、殺し合いに乗らない俺達が組むのは都合悪いもんな」 「そういう訳です。だから約束の場所でヒビキさんと合流するのは無理そうなんですよね」 「どうすりゃいいってんだよ……じゃあアレは、代わりの待ち合わせ場所とかは?」 「うーん、そういうのはないです、すみません」 「なら、ヒビキさんが他に行きそうな場所とかは?」 「そういうのも分かんないです……だからもういいです」 「もういいって、お前なあ……!」  キッパリと言いきった津上には、流石に呆れるしかなかった。 「だって禁止エリアなんだから仕方ないじゃないですか。ヒビキさんだって自分で何とかするでしょ」 「そりゃそうだけどさ、もうちょっとこう……悩むとか、考えるとか、そういうのはないのかよ?」 「悩んだって一緒じゃないですか。会えないものは会えないんです。だから、俺達は俺達に出来る事をしましょう」 「ま、まぁ、それは確かに、その通りだけどさ……」  津上の言い分は、一応は的を射ていた。  出来ない物は出来ないのだ。無い物ねだりをしたところでどうしようもない。  なれば、今の自分達に出来る事をした方がいいという考え方は、前向きでわかりやすい。  考えてみれば、真司としてもそっちの方が考える事が少なくて楽で良いなと後から思った。 「じゃあ、これからどうする?」 「そうですね、とりあえず、小沢さんを助けましょう」 「そうだな。今の小沢さんは蜘蛛のモンスターに操られてる。何としても俺達で助け出さないと」 「……でも、あの蜘蛛のモンスターって一体何なんです? 俺の世界にはあんな奴居ませんでしたけど」 「俺の世界にだって居なかった。多分、別の世界のモンスター……お前の世界じゃアンノウン、だっけ? なんだろうな」 「なるほど、要するに悪い奴って事ですね。それなら俺も遠慮なくやっつける事が出来ます」  津上の言い分には、迷いが感じられなかった。  きっと津上は、人間同士、本気で殺し合った事がないのだろう。  龍騎の世界の仮面ライダーの在り方は、先程津上にも語ったが、実感は沸かないのだろうと思う。  悪い化け物がいるなら、そいつだけを倒せばいいと、そう思っているに違いない。 「お前ってそういうとこ前向きで分かり易くていいよな……俺達の世界は人間同士の殺し合いだからさ」 「俺の世界でも、色んな誤解や擦れ違いがあって、同じアギト同士で戦う事とかはありました。それでも、今ではみんな仲間です」 「そうやってみんなで仲間って言って、一つになって、悪い奴と戦うって世界ならどれだけ良かった事か」  真司だって一度は夢見た事がある。  蓮や北岡、浅倉が一丸となって、悪のモンスターに立ち向かっていく夢物語を。  もしもそんな風にみんなで協力して助け合えたら、きっともっと素晴らしい世界だった筈だ。  何処か遠い目で、ふっと窓の外を見遣った真司の様子に気付いたのか、津上は申し訳なさそうに言った。 「なんか、すみません。俺、また何か気に障ること言っちゃいました?」 「いや、いいんだよ……俺の世界とお前の世界は違うんだから、仕方ないしさ」 「そうですか……何はともあれ、今はまず、蜘蛛のモンスターをどうにかしなくちゃですね。  罪のない人の心を操って殺し合いをさせようなんて、そういうの、やっぱり許せませんもん……まったくもう」  ……それから、やや間を置いて、津上がぷぷぷと笑った。  まるで笑いを堪えるように片手で口元を塞ぐが、笑った目は誤魔化せない。  こんな状況下で、一体何処に笑う要素があったのか。真司は津上に問うた。 「お、おい、何だよこんな時に……何笑ってんだよ」 「あれっ、わかりませんでした? ほら、まったくもう……まったクモう、って。蜘蛛だけに」 「………………」    笑っているのは、津上ただ一人だった。  津上には悪いが、真司は全く笑う気にはなれない。  周囲の冷ややかな視線もまるで気に留める様子もなく、津上は一人で笑っていた。  これは本気で自分の洒落が面白いと思っているパターンだ。しかもまるで空気が読めていない。  この真剣な場面でダジャレを言う津上の精神の図太さを疑うが、津上は一通り笑えばすぐに元通りになった。 「……すみません。なんか、しんみりしちゃったんで思わず。  俺、どうにもこういうしんみりした空気って苦手なんですよね」 「いや、いいよ。いいよもう、わかったから、今は話を先に進めよう」 「そうですね……あっ、そうだ。そういえば一つ気になってたんですけど」 「何だよ。言っとくけど、次下らないダジャレとか言ったら無視するからな」 「ははははは、やだなぁ城戸さん、流石の俺でもそんなぽんぽん面白いネタは思い付きませんよ」 「ちっとも面白くねえよ! ってか自信あったのかよさっきの親父ギャグ!」 「ええっ!? 親父ギャグって……っ、ちょっと酷いんじゃないですか、それ。  もう、城戸さんったら、落ち込んでるかと思ったらいきなり怒鳴ったり、喜怒哀楽が激しいんだから」 「お前っ……!」  喜怒哀楽……城戸哀楽。  これは最早挑発と捉えて良いのだろうか。  もしかしたら真司の考え過ぎと言う可能性もあるが―― 「えっ、どうかしました? 俺、何も言ってないじゃないですか……ぷぷっ」 「お前今笑っただろ!? 今のは絶対俺の勘違いとかじゃないよな!?」 「やだなあ城戸さん、訳のわからない事言わないで下さいよ。そういうの、“言いがかり”っていうんですよ」  津上の笑顔は、まるで悪戯をした子供のようだった。  本気で腹が立つという訳ではないが、やはりイラッと来るものはある。  小学生にからかわれた大人は、きっとこういう気持ちになるのだろう。  子供染みた言い争いを繰り広げる二人の間に、キバットがふわりと割って入った。 「いい加減にしないか。このままでは埒が明かん、そろそろ話を進めてくれ」  よほど呆れ果てたのか、キバットの声はいつにも増して低く感じた。  こんな小さな蝙蝠にまで注意される時点で、二人揃って十分に子供っぽかったのかもしれない。  急に馬鹿馬鹿しくなってきて、真司は嘆息一つ落として、大人しく食べかけの餃子に箸を伸ばした。 「……で、気になってた事って、何だよ?」 「いや、あの未確認と戦ってる時、どうしていきなり変身が解けちゃったのかなって。  さっきの蜘蛛みたいな奴と戦ってる時も変身出来なかったし……今までそんな事なかったのに、おかしいなあ」 「ああ、それは……詳しい事は俺にもわかんないけど、何か変身にも制限が掛けられてるらしい。  この世界に居る限り、多分、十分くらいで変身は解けるんだと思う。で、それから暫くの間は変身が出来なくなるんだよ」 「何ですかそれ、何だってそんな訳のわからない制限を掛けたんです、奴ら。それじゃいざという時に困るじゃないですか」 「ゲームバランスを取る為だろうな。この制限があれば、力を持たない参加者でも、強者を仕留め得る可能性がある」  果たして、キバットの言う通りなのだろう。  大ショッカーの思惑など知らないし知りたくもないが、その理由なら納得出来る。  変身制限で変身不可になった未確認を、小沢が仕留めた実績があるのだから、説得力もあるというものだ。 「でも、だったらおかしいですよ。俺、アギトに変身してから十分も戦ってませんよ」 「それに関して一つ訊くが……さっきの戦いで翔一が変身した、あの炎を纏った姿は何だ?」 「えっ、アレですか? さあ、何なんでしょう、俺にもわかりません」 「分からずに力を使っているのか……?」 「はい。なんか、何となく」 「何となく?」  キバットは訝しげに問うた。 「ええ、何となくです。気付いたらなれるようになってたんで、なりました」 「……翔一自身もアギトの力の全容は把握出来ていないと言う事か」 「えへへ、そういう事になっちゃいますね、なんかすみません」  申し訳なさそうに苦笑しながら、津上は軽く頭を下げた。  神崎が作った龍騎と違って、津上のアギトは人が直接進化した姿なのだという。  人が進化して行く無限の可能性、とか言ったか。津上自身も誰かの受け売りでそう言っているらしいが。  アギトには、設計図も説明書もない。全く未知の力なのだから、分からないのも無理はないのだろう。   「……これは仮説だが、翔一がアギトの“より強い力”を使った事で、変身制限が通常より早く消費されたのではないか?」 「なんか分かんないですけど、そういうのってありそうですね。自慢じゃないですけど、あのアギト滅茶苦茶強いですもん」 「そういう事、自分で言うかよ……」 「いやあ、だって。あの時言ったじゃないですか、まだ見せてない“とっておき”があるって」 「そういやそんな事言ってたっけ……あれ、あの赤い姿の事だったんだな」  虎の化け物になった未確認との戦いの時、そういえばそんな事を言っていた気がする。  あの時はそれが一体どんな能力であるのかなど皆目見当が付かなかったが、どうやらあの炎の姿の事を言うらしい。  言われてみれば、確かにあの炎のアギトが纏った気迫は相当なものだったと思う。  最後に放った拳の一撃も、かなりの威力を秘めていた事は想像に難くない。  だとすれば、津上は何気にとんでもない強者と言う事になる、が。 「ちなみにあれよりまだ上にもう一つ強いのがあります」 「って、お前あれ以上まだ変われるってのかよ……!」 「はい。銀ピカの、とてもかっこいい姿になります」 「マジかよ!」 「マジです」  そう言って、津上は自慢げに胸を張った。  自分でかっこいいとか言うのはどうかと思ったが、もう慣れた。  元から真司は楽天的な性格なのだ。だんだん津上の感覚が普通に思えてくる自分が居て怖い。 「でも、それってつまり、俺もサバイブになったら変身出来る時間が短くなるって事だよな」 「サバイブ? 何です、それ。なんか、何となくかっこよさそうな雰囲気の名前じゃないですか」 「ああそうだよ。俺だってな、サバイブになったらあのアギトに負けないくらいかっこいいんだよ」 「おっと、これは大きく出ましたね城戸さん。じゃあどうです、どっちの方がかっこいいか、一つ勝負でも」 「望むところだっつーの! サバイブの方が絶対かっこい――」 「いい加減にしろ」  キバットの冷ややかな声だった。  流石に二度目ともなると申し訳なくて、面目次第もなく感じる。  それは津上も同じようで、ここへ来て漸く、真司と津上が二人揃って静かになった。  何はともあれ、強化変身は制限が強化されるという仮説を立てる事は出来たのだから、この話し合いだって無駄ではない。  今後戦う事があれば、サバイブにしろ、アギトの炎の姿にしろ、使いどころは考え無ければならないのだ。  では、次に問題になるのは、これから何処へ向かうかである。 「で、どうする。小沢さんがどっちに向かったかなんてわかんないけど」 「うーん、それも適当でいいんじゃないですかね。なるようになりますよ」 「お前は相変わらずだな……そういうのも嫌いじゃないけどさ。キバットはどう思う?」 「どうせ何処へ行っても殺し合いだ。行くべき場所もないのなら、何処へ行っても同じだろうな」  確かにキバットの言う通りだと思って、真司はうんうんと頷いた。  誰がどっちの方向に向かって行ったかなんて、考えたってどうせ分かりはしない。  それならば、何処へでもいいからとにかく進んで、手当たり次第に戦いを止めさせる。  作戦も何もない行き当たりばったりな考えであるが、単純な性格をした二人には調度いいと思われた。  米粒一つ残さず完食した真司と津上は、食器をキッチンのシンクに纏めて置いて、簡単な片付けを済ませた。  その間も、津上との間には常に子供みたいな他愛もないやり取りが続いていて、退屈はしなかった。  こういうタイプの男と話す事はあまりないが、存外相性はいいのかもしれないな、と思う。   「じゃ、そろそろ行きますか。城戸さん、キバット」  津上が壁に掛けられた時計をちらと見た。  時刻は七時を回る少し前だった。結構な時間休んでいたなと、ここで初めて認識する。  そう考えて、身体をぐっと伸ばしてみると、先程よりは随分と体調も良くなったように思う。  受けた傷の痛みは癒えぬものの、溜まった疲労はほぼない。これならば、戦闘行為も問題はない筈だ。  自分よりも津上の方が元気そうに動き回っているのは、恐らくアギト故に回復も早いのだろう。  仲間の死による心の痛みも相当なものだけれど、それでも津上のお陰で幾分か楽にはなった。  それに、津上だって表には出さないが、木野や北条の死に心を痛めているのだろう。  なれば、自分だけが弱音を吐く事などは許されない。  津上のように強く。仮面ライダーとして、誰かを守る為に戦い抜いてやろうと、先程よりも強く思う。  新たな決意を胸に、先にアパートを出ようとしていた津上を呼び止めた。 「なあ……やっぱ俺、絶対こんな殺し合い止めさせたいって、改めて思ったよ。  世界がどうなるのか何て分からないけど、それでも、目の前で人が死んで行くのは、止めたい。  俺、こんなだからさ、もしかしたら無茶な事もするかも知れないけど……それでも、一緒に戦って欲しい」  同じ志を持つ仲間として。守る為に戦う仮面ライダーとして。  関わった時間は短いけれど、ここで繋いだ絆は、きっと深いものだと思うから。  真司は、少しだけ気恥ずかしい気もしたけれど、強い目で以てそう告げた。  津上はやや考えるような素振りを見せたが、すぐにニッと笑った。 「やだなあ城戸さん。今更何言ってるんです。俺達、もう仲間じゃないですか。  俺も城戸さんも、同じアギト……じゃなくって、何ていうんでしたっけ」 「仮面ライダーの事か?」 「そうそう、それです。じゃあ、俺が仮面ライダーアギトで、城戸さんが仮面ライダー龍騎ですね。  かっこいいじゃないですか、人を守る為に戦う仮面ライダーって。なんかヒーローみたいでいいなあ、こういうの」 「……ああ、そうだな、お前の言う通りだよ。誰かを守る為に戦う、かっこいい仮面ライダーなんだよな、俺達」  津上の笑顔を見ていると、思わず微笑ましくなってしまう。  子供が憧れるような本物のヒーローを、津上は自分達で体現しようというのだ。  ずっと人間の汚い面だけを見て来た気がするが故、真司は久々に心が温かくなる気がした。  こいつが一緒なら、こいつと力を合わせれば、こんな殺し合いだって今度こそ止められる。  そう信じさせるだけの何かが、津上にはあった。 「ありがとな、翔一。お前のお陰で、俺はまた迷わずに済んだよ」 「何言ってるんです、俺は何もしてません。迷わずに済んだなら、それは城戸さんが強いからです」  そう言ってくれるだけで、何処か激励されているような気がして、気が楽になる。  自分よりも翔一の方がずっと強いと思うが、これ以上照れ臭い話をするのも気恥ずかしかった。  それに、自分達はもう仲間だ。本当に伝えたい事は、もうお互い十分に伝わっているのだから問題ない。  同時に、いつの間にか呼び方が「津上」から「翔一」へと変わっていた事に、自分自身、果たして気付いているのか。  何はともあれ、仮面ライダーとしての使命を改めて認識した二人の心は、これまでよりもずっと強い。  月の淡い光は、そんな二人を激励するように優しく降り注いでいた。   【1日目 夜】 【E-2 住宅街 葦原涼のアパート前】 【城戸真司@仮面ライダー龍騎】 【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後 【状態】ダメージ(小)、満腹、強い決意、仮面ライダー龍騎に50分変身不可 【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎 【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎 【思考・状況】 基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。 1:翔一と共に誰かを守る為に戦う。 2:モンスターから小沢を助け出す。 3:ヒビキが心配。 4:蓮にアビスのことを伝える。 【備考】 ※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。 ※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。 ※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。 ※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。 【津上翔一@仮面ライダーアギト】 【時間軸】本編終了後 【状態】満腹、強い決意、仮面ライダーアギトに50分変身不可 【装備】なし 【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、     ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実 【思考・状況】 基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。 1:城戸さんと一緒に誰かを守る為に戦う。 2:モンスターから小沢さんを助け出す。 3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。 4:木野さんと北条さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。 【備考】 ※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。 ※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。 ※龍騎の世界についての基本的な情報を得ました。 ※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。 ※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。 |076:[[橋上の戦い]]|投下順|078:[[決意の名探偵]]| |076:[[橋上の戦い]]|時系列順|078:[[決意の名探偵]]| |064:[[いつも心に太陽を(後編)]]|[[津上翔一]]|| |064:[[いつも心に太陽を(後編)]]|[[城戸真司]]|| ----
*想いと願いと ◆MiRaiTlHUI  もしかしたら、自分の仲間達はもう死んでしまっているのかもしれない。  そんな予測は元来能天気な城戸真司にだって容易に出来ていた筈だった。  だけども、起こり得るかもしれない予測と、実際に起こった事実とでは、全くの別物だ。  非情な現実を素直に受け入れる事が出来るのかどうかは、また別の心構えが必要なのだ。  実際、飛行船からの放送を聞いてから暫くの間、真司は何も考える事が出来なかった。  というよりも、考える事があり過ぎて思考が停止していた、と言った方が正しいか。  北岡の事。美穂の事。東條の事。それぞれ色んな出来事が思い浮かんで、辛くなる。  例え彼らが、元々は敵とされた仲であったとしても、だ。  人が死ぬのが嫌だから仮面ライダーになったのに、自分に出来た事は、余りにも少なすぎる。  悪い奴だろうと、良い奴だろうと、人が死ぬ姿なんて見たくない。だから戦っていた筈なのに。  無力に打ちひしがれて、後悔の念に押し潰されそうになるが、そんな真司を連れ出してくれたのは、津上翔一だった。  津上は、決して多くは語ろうとせずに、ただ一言「行きましょう」と言った。強い目をしていたように思う。  これからどうしようかとか、確かな考えがあった訳ではないけれど、真司は翔一と一緒に歩き出した。  その時はとにかく、その場でじっとしているのが、余計に無力感を思い知らされるような気がして嫌だったのだ。  それからやや歩いて、二人が訪れた場所は、少しばかり築年数の古そうな二階建てのアパートだった。  曰く、このアパートの一室が津上の仲間の自宅だから、遠慮はいらないとの事らしい。  二階の角部屋にある玄関ドアの表札には「葦原」と書かれていた。どういう訳か、ドアに鍵は掛かっていない。  津上はまるで自分の家であるかのようにその部屋へ上がり込み、そして、今に至る。 「で、お前はさっきから何してんだよ」 「見ての通り、冷蔵庫の中身のチェックです」  津上は、まるでそれが自分の物であるかのように、冷蔵庫の中身を漁っていた。  居心地悪そうにそれを眺めていると、津上はさも不満そうに、それでいて心配するようにごちた。 「ああもう、葦原さんってば、やっぱりロクなもの食べてないんだから……」 「他所の家の冷蔵庫漁って何失礼な事言ってんだよ……っていうかいいのかよ、勝手に冷蔵庫漁ったりして」 「うーん、まあいいんじゃないですかね。俺と葦原さんの仲ですから、たぶん大丈夫です」 「本当かよ……」    能天気な津上の様子を見ていると、その言葉も怪しいものである。  どうにも真司には、津上が勝手な言い分で勝手に冷蔵庫を漁っているようにしか見えなかった。  これを見ている限り、真司も馬鹿だとよく言われるが、津上はその上を行く馬鹿なのだろうと思う。  自分には、死者が二十人も出たと知らされた直後に、こうも能天気に冷蔵庫を物色するのは不可能だからだ。 「ってか、それより城戸さん、晩御飯に何か食べたいものとかあります? ロクな食材ないですけど」 「晩御飯って……! お前なぁ、今がどんな時だかホントにわかってんのかよ!?」 「そりゃあ、分かってますけど……でもホラ、よく言うじゃないですか、腹が減っては戦は出来ぬって」 「そういう事じゃなくて! 二十人も人が死んだっていうのに、晩御飯なんか食べる気になれるかよ!」  そう言われた津上が、悲しそうな、今にも泣き出しそうな子供のような目をした。  ほんの一瞬だけ垣間見えたその表情に、真司は何か拙い事を言ったかと思うが、だとしたら一体何が。  津上はすぐに何食わぬ表情に戻るが、続きを話す声のトーンは、先程よりもやや低かった。 「……だって嫌じゃないですか。お腹がすいて、いざという時に力が出なくて、それで悪い奴にやられたりしたら。  俺、城戸さんがそんな風にやられちゃう姿なんて見たくないです。だからやっぱり、ここはしっかり食べておかないと」 「まあ、それは確かにそうだけど……ってお前、ふざけてるように見えて、そこまでちゃんと考えてたのかよ」 「いやあ、何となく」  そう言って、津上は子供みたいにへへへと笑った。  怒るのも馬鹿馬鹿しく思えて来て、真司は小さく嘆息する。   「だから、何か食べたいものがあるなら言って下さい。俺、何でも作っちゃいますよ」 「何でもって……ホントに何でも作れるのかよ。この偏った食材だけで」 「うーん、そうですね。じゃああんまり無茶なものは注文しないで下さい。いくら俺でも、ない食材はどうにも出来ません」 「お前なぁ……それは何でもとは言わないんだよ! ったく、期待して損したっつーの……」 「へへへ、それもそうですね、すみません。あっ、でも何だかんだ言いながら期待してくれてたんですね、嬉しいなあ」 「いや、それは、津上が何でも作るなんて言うから、ちょっと期待しただけで」 「まあまあ、そんな照れなくてもいいじゃないですか。俺も期待に応えられるように頑張りますから」 「照れてないっつーの……」  何だかんだ言いながらも、気付いたら津上のペースに徐々に慣れつつある自分がいる事に気付く。  人間の環境適応能力は大したものだなと肌で感じながらも、真司もまたうーんと唸る。  確かに津上の言った通り、この家にはロクな食材がない。  あるとしたら、いくつかのインスタント食品と惣菜、それから基本的な調味料くらいだ。  生活をする分には問題はないのだろうが、栄養管理は優れているとは言い難い品揃えだった。  何かないものかと、真司も冷蔵庫の中を見て――すぐに見付けた。真司の唯一の得意料理を。 「あっ、餃子あるじゃん、餃子!」 「……ニンニクは嫌いだ」  嬉々として取り出した餃子のパックを見るや、今まで黙っていたキバットがぽつりと呟いた。  何か思う事があったのだろうか。放送を聞いてからというもの、キバットもずっと黙っていたように思う。  もしかすると、キバットの仲間も先の放送で呼ばれたのかも知れないが、その辺の事は真司には良く解らない。 「キバット、お前からも話を聞きたいからさ、とりあえず今は飯にしようぜ」 「俺はいい。キバット族はお前達人間のように、必ずしも食事を必要とはしないんだ」 「えっ、それってなんか寂しくないですか? ご飯って、美味しくてとても楽しいのに」  津上が驚いた様子で、きょとんとして言った。 「楽しい? 食事を摂るという行為そのものが楽しいのか、人間は?」 「はい、美味しいものを食べていると、とても楽しい気持ちになります」  言われたキバットはちらと真司を見た。  津上翔一とは、こういう人間なのだ。何を言ったところで、もう仕方のないことなのだろう。  最早諦めたような真司の表情に気付くや、キバットは「そうか」と言って、それ以上は何も言わなくなった。  津上翔一から言わせれば、きっと何だって楽しいのだろう。こいつはこういう、子供みたいな人間なのだ。  でも、そんな津上の事を、嫌いではない自分がいるのも確かで、真司は無意識のうちに津上に心を開いていた。 「じゃあ、とりあえず餃子でも作るか。インスタントだけどスタミナもつくだろ」 「おっ、いいですね餃子。料理らしい料理じゃないのが残念ですけど、無いよりはマシです」 「いや、俺も本当は中身の具から餃子作りたかったんだけどさ、この家何もないし」 「ってことは何です、もしかして城戸さん、餃子作るの得意なんですか?」 「おう、他に作れるものはあんまりないんだけど、餃子だけは負けたくないっていうか」  これだけは、人に誇れる特徴の一つだった。  あまり披露する事はないが、餃子の腕前だけはプロ“以上”であると自負している。 「おおー、凄いじゃないですか! いやぁ、こんな所で出会わなければ、俺も一緒に餃子作りたかったなぁ」 「そりゃ……大ショッカーを倒してからなら、またいつでも出来るだろ」 「でも俺達、別の世界の住人なんですよね……」  数瞬、沈黙が流れる。  仮に大ショッカーを打倒出来たとしても、そもそも二人は異世界の住人だ。  世界が元通りになれば、もう会う事もないだろうし、もしかしたら、世界が消える可能性だってあるのだ。  せっかくこうやって出会えて、一緒に戦って、一緒に話をしたのに、またすぐに離れ離れと考えると、少し寂しい。  美穂や北岡との辛い別れもあったが、同時にここでの出会いも、真司にとってはどうでもいい事ではなかった。   「まあ、その時はその時だろ。今はそれよりも世界を守る事を考えないとさ」 「そうですね。やっぱり、こんな戦い間違ってると思います。それに、ここはみんなの居るべき場所じゃないし」 「居るべき場所……?」 「ええ、そうです。みんな“そこに居たら安心出来る”っていう、自分自身の居場所を持ってるんです。  でも、ここには俺の居場所はありません。城戸さんの居場所も、小沢さんの居場所も、他のみんなの居場所もです。  ここに連れて来られた誰も、自分の居るべき場所にいないから……だから俺、戦わなきゃって、さっき、もっと強く思いました」 「……さっき、って」  キッチンを整理していた津上の手が止まった。  さっきというのはやはり、放送の時、だろうか。 「ここで、俺の仲間が、二人も死にました」  それから津上は、酷く不器用に、言葉を紡ぎ出した。 「木野さんっていうんですけど、俺と同じアギト仲間で、俺の事、何度も助けてくれて、とても、良い人でした。  北条さんは、ちょっとつっけんどんですけど、警察官として、いつも真面目に働いていた、正義感の強い人でした。  誰も、こんなところで死ぬ事なんてなかったんです。みんないい人で、殺される理由なんか、何にもなかったんです」  表情は硬く、その目はやはり、今にも泣き出してしまいそうで。  だけども、涙は流さない。ただ苦しそうに、言葉を続けるだけだった。 「今まで木野さんや北条さんが居た場所には、もう、誰も居なくて、誰も居ない席がぽっかり空いてるみたいで、  でも、誰もその席には座れないんです。誰にも、二人の代わりになる事なんか、出来やしないんです、だから、俺……」 「お前……」  絞り出す様に続ける津上は何処か痛々しくて、どんな言葉を掛ければいいのかも分からない。  今まで津上の事を能天気で馬鹿な男だと思っていたけれど、それはどうやら違ったらしい。  津上は津上で、この殺し合いに、仲間の死に、こんなにも憤懣を抱えていたのだ。 「……そう、だよな。お前も、辛いに決まってるよな。なのに俺、お前の事、ちょっと誤解してたよ」 「えっ、何です、誤解って、どういう事です?」 「いや、こんな時に晩御飯作ろうなんて言うから、何考えてんのかと思ってさ」 「何も特別な事なんて考えてませんよ。ただ、生きているとお腹が空くじゃないですか。俺達は、こうやって生きてるんです。  まだ生きていて、美味しいものを、美味しいって思えるんです。だから、食べないと、俺達が、これからも頑張っていかないと」  津上は消え入りそうな声でそう言った。その気持ちも、痛いくらいに良く分かった。  馬鹿で、空気が読めない御人好しな真司だけれど、こんな津上を見ていると、胸が苦しくなる。  きっと津上も辛くて、だけど落ち込むだけでは何も出来ないから、今の自分に出来る事をしようとしているのだろう。  二人の仲間が死んだ事で哀しみながらも、それを自分自身の責任として背負って、これからも生きていこうとしているのだろう。  今だって、美味しいご飯を作って、それを食べて体力をつけると同時に、落ち込んでいた真司にも元気を与えようとしていたに違いない。  おめでたい考えではあるが、そうであると疑いなく信じてしまう御人好しなところは、ある意味真司にとっての長所の一つだった。 「そっか……うん、そうだよな。よし、ここは飯でも食べて、スタミナつけないとな!  ここでしっかり食べて、体力付けて、俺達で悪い奴らからみんなを守ってやろうぜ!」  元気よく津上の背中を叩くと、津上は嬉しそうに、やんわりと微笑んだ。  それからややあって、食事の準備を終えた二人は食卓に着いていた。  メニューは餃子に白いご飯、それから、簡単なサラダに冷たいお茶。  あるもので作るしかなかったが故、組み合わせはそんなに宜しくはない。  だけれども、白いご飯は炊きたてで、とても美味しそうだった。  傷つき疲れた身体には、上等過ぎる晩御飯だと真司も思う。  それぞれの情報交換は、食事と同時進行で行われていた。 「いやあ、それにしても困りましたね。俺、ヒビキさんって人とE-4の病院で夜の12時に会うって約束してたんですけど」 「ああ、その人なら俺もさっき会ったよ。けど、それがどうして困ったって事になるんだよ?」 「そのエリアは23時から禁止エリアだ」  説明してくれたのは、キバットだった。  キバット曰く、放送直後は真司も津上も、冷静に物事を考えるどころではなかったらしい。  そんな二人に代わって、禁止エリアを暗記していてくれたというのだから有り難い。   「恐らく奴らは、こちらの動きを読んでその場所を禁止エリアに指定したんだろうな」 「そっか、大ショッカーの奴らにしてみりゃ、殺し合いに乗らない俺達が組むのは都合悪いもんな」 「そういう訳です。だから約束の場所でヒビキさんと合流するのは無理そうなんですよね」 「どうすりゃいいってんだよ……じゃあアレは、代わりの待ち合わせ場所とかは?」 「うーん、そういうのはないです、すみません」 「なら、ヒビキさんが他に行きそうな場所とかは?」 「そういうのも分かんないです……だからもういいです」 「もういいって、お前なあ……!」  キッパリと言いきった津上には、流石に呆れるしかなかった。 「だって禁止エリアなんだから仕方ないじゃないですか。ヒビキさんだって自分で何とかするでしょ」 「そりゃそうだけどさ、もうちょっとこう……悩むとか、考えるとか、そういうのはないのかよ?」 「悩んだって一緒じゃないですか。会えないものは会えないんです。だから、俺達は俺達に出来る事をしましょう」 「ま、まぁ、それは確かに、その通りだけどさ……」  津上の言い分は、一応は的を射ていた。  出来ない物は出来ないのだ。無い物ねだりをしたところでどうしようもない。  なれば、今の自分達に出来る事をした方がいいという考え方は、前向きでわかりやすい。  考えてみれば、真司としてもそっちの方が考える事が少なくて楽で良いなと後から思った。 「じゃあ、これからどうする?」 「そうですね、とりあえず、小沢さんを助けましょう」 「そうだな。今の小沢さんは蜘蛛のモンスターに操られてる。何としても俺達で助け出さないと」 「……でも、あの蜘蛛のモンスターって一体何なんです? 俺の世界にはあんな奴居ませんでしたけど」 「俺の世界にだって居なかった。多分、別の世界のモンスター……お前の世界じゃアンノウン、だっけ? なんだろうな」 「なるほど、要するに悪い奴って事ですね。それなら俺も遠慮なくやっつける事が出来ます」  津上の言い分には、迷いが感じられなかった。  きっと津上は、人間同士、本気で殺し合った事がないのだろう。  龍騎の世界の仮面ライダーの在り方は、先程津上にも語ったが、実感は沸かないのだろうと思う。  悪い化け物がいるなら、そいつだけを倒せばいいと、そう思っているに違いない。 「お前ってそういうとこ前向きで分かり易くていいよな……俺達の世界は人間同士の殺し合いだからさ」 「俺の世界でも、色んな誤解や擦れ違いがあって、同じアギト同士で戦う事とかはありました。それでも、今ではみんな仲間です」 「そうやってみんなで仲間って言って、一つになって、悪い奴と戦うって世界ならどれだけ良かった事か」  真司だって一度は夢見た事がある。  蓮や北岡、浅倉が一丸となって、悪のモンスターに立ち向かっていく夢物語を。  もしもそんな風にみんなで協力して助け合えたら、きっともっと素晴らしい世界だった筈だ。  何処か遠い目で、ふっと窓の外を見遣った真司の様子に気付いたのか、津上は申し訳なさそうに言った。 「なんか、すみません。俺、また何か気に障ること言っちゃいました?」 「いや、いいんだよ……俺の世界とお前の世界は違うんだから、仕方ないしさ」 「そうですか……何はともあれ、今はまず、蜘蛛のモンスターをどうにかしなくちゃですね。  罪のない人の心を操って殺し合いをさせようなんて、そういうの、やっぱり許せませんもん……まったくもう」  ……それから、やや間を置いて、津上がぷぷぷと笑った。  まるで笑いを堪えるように片手で口元を塞ぐが、笑った目は誤魔化せない。  こんな状況下で、一体何処に笑う要素があったのか。真司は津上に問うた。 「お、おい、何だよこんな時に……何笑ってんだよ」 「あれっ、わかりませんでした? ほら、まったくもう……まったクモう、って。蜘蛛だけに」 「………………」    笑っているのは、津上ただ一人だった。  津上には悪いが、真司は全く笑う気にはなれない。  周囲の冷ややかな視線もまるで気に留める様子もなく、津上は一人で笑っていた。  これは本気で自分の洒落が面白いと思っているパターンだ。しかもまるで空気が読めていない。  この真剣な場面でダジャレを言う津上の精神の図太さを疑うが、津上は一通り笑えばすぐに元通りになった。 「……すみません。なんか、しんみりしちゃったんで思わず。  俺、どうにもこういうしんみりした空気って苦手なんですよね」 「いや、いいよ。いいよもう、わかったから、今は話を先に進めよう」 「そうですね……あっ、そうだ。そういえば一つ気になってたんですけど」 「何だよ。言っとくけど、次下らないダジャレとか言ったら無視するからな」 「ははははは、やだなぁ城戸さん、流石の俺でもそんなぽんぽん面白いネタは思い付きませんよ」 「ちっとも面白くねえよ! ってか自信あったのかよさっきの親父ギャグ!」 「ええっ!? 親父ギャグって……っ、ちょっと酷いんじゃないですか、それ。  もう、城戸さんったら、落ち込んでるかと思ったらいきなり怒鳴ったり、喜怒哀楽が激しいんだから」 「お前っ……!」  喜怒哀楽……城戸哀楽。  これは最早挑発と捉えて良いのだろうか。  もしかしたら真司の考え過ぎと言う可能性もあるが―― 「えっ、どうかしました? 俺、何も言ってないじゃないですか……ぷぷっ」 「お前今笑っただろ!? 今のは絶対俺の勘違いとかじゃないよな!?」 「やだなあ城戸さん、訳のわからない事言わないで下さいよ。そういうの、“言いがかり”っていうんですよ」  津上の笑顔は、まるで悪戯をした子供のようだった。  本気で腹が立つという訳ではないが、やはりイラッと来るものはある。  小学生にからかわれた大人は、きっとこういう気持ちになるのだろう。  子供染みた言い争いを繰り広げる二人の間に、キバットがふわりと割って入った。 「いい加減にしないか。このままでは埒が明かん、そろそろ話を進めてくれ」  よほど呆れ果てたのか、キバットの声はいつにも増して低く感じた。  こんな小さな蝙蝠にまで注意される時点で、二人揃って十分に子供っぽかったのかもしれない。  急に馬鹿馬鹿しくなってきて、真司は嘆息一つ落として、大人しく食べかけの餃子に箸を伸ばした。 「……で、気になってた事って、何だよ?」 「いや、あの未確認と戦ってる時、どうしていきなり変身が解けちゃったのかなって。  さっきの蜘蛛みたいな奴と戦ってる時も変身出来なかったし……今までそんな事なかったのに、おかしいなあ」 「ああ、それは……詳しい事は俺にもわかんないけど、何か変身にも制限が掛けられてるらしい。  この世界に居る限り、多分、十分くらいで変身は解けるんだと思う。で、それから暫くの間は変身が出来なくなるんだよ」 「何ですかそれ、何だってそんな訳のわからない制限を掛けたんです、奴ら。それじゃいざという時に困るじゃないですか」 「ゲームバランスを取る為だろうな。この制限があれば、力を持たない参加者でも、強者を仕留め得る可能性がある」  果たして、キバットの言う通りなのだろう。  大ショッカーの思惑など知らないし知りたくもないが、その理由なら納得出来る。  変身制限で変身不可になった未確認を、小沢が仕留めた実績があるのだから、説得力もあるというものだ。 「でも、だったらおかしいですよ。俺、アギトに変身してから十分も戦ってませんよ」 「それに関して一つ訊くが……さっきの戦いで翔一が変身した、あの炎を纏った姿は何だ?」 「えっ、アレですか? さあ、何なんでしょう、俺にもわかりません」 「分からずに力を使っているのか……?」 「はい。なんか、何となく」 「何となく?」  キバットは訝しげに問うた。 「ええ、何となくです。気付いたらなれるようになってたんで、なりました」 「……翔一自身もアギトの力の全容は把握出来ていないと言う事か」 「えへへ、そういう事になっちゃいますね、なんかすみません」  申し訳なさそうに苦笑しながら、津上は軽く頭を下げた。  神崎が作った龍騎と違って、津上のアギトは人が直接進化した姿なのだという。  人が進化して行く無限の可能性、とか言ったか。津上自身も誰かの受け売りでそう言っているらしいが。  アギトには、設計図も説明書もない。全く未知の力なのだから、分からないのも無理はないのだろう。   「……これは仮説だが、翔一がアギトの“より強い力”を使った事で、変身制限が通常より早く消費されたのではないか?」 「なんか分かんないですけど、そういうのってありそうですね。自慢じゃないですけど、あのアギト滅茶苦茶強いですもん」 「そういう事、自分で言うかよ……」 「いやあ、だって。あの時言ったじゃないですか、まだ見せてない“とっておき”があるって」 「そういやそんな事言ってたっけ……あれ、あの赤い姿の事だったんだな」  虎の化け物になった未確認との戦いの時、そういえばそんな事を言っていた気がする。  あの時はそれが一体どんな能力であるのかなど皆目見当が付かなかったが、どうやらあの炎の姿の事を言うらしい。  言われてみれば、確かにあの炎のアギトが纏った気迫は相当なものだったと思う。  最後に放った拳の一撃も、かなりの威力を秘めていた事は想像に難くない。  だとすれば、津上は何気にとんでもない強者と言う事になる、が。 「ちなみにあれよりまだ上にもう一つ強いのがあります」 「って、お前あれ以上まだ変われるってのかよ……!」 「はい。銀ピカの、とてもかっこいい姿になります」 「マジかよ!」 「マジです」  そう言って、津上は自慢げに胸を張った。  自分でかっこいいとか言うのはどうかと思ったが、もう慣れた。  元から真司は楽天的な性格なのだ。だんだん津上の感覚が普通に思えてくる自分が居て怖い。 「でも、それってつまり、俺もサバイブになったら変身出来る時間が短くなるって事だよな」 「サバイブ? 何です、それ。なんか、何となくかっこよさそうな雰囲気の名前じゃないですか」 「ああそうだよ。俺だってな、サバイブになったらあのアギトに負けないくらいかっこいいんだよ」 「おっと、これは大きく出ましたね城戸さん。じゃあどうです、どっちの方がかっこいいか、一つ勝負でも」 「望むところだっつーの! サバイブの方が絶対かっこい――」 「いい加減にしろ」  キバットの冷ややかな声だった。  流石に二度目ともなると申し訳なくて、面目次第もなく感じる。  それは津上も同じようで、ここへ来て漸く、真司と津上が二人揃って静かになった。  何はともあれ、強化変身は制限が強化されるという仮説を立てる事は出来たのだから、この話し合いだって無駄ではない。  今後戦う事があれば、サバイブにしろ、アギトの炎の姿にしろ、使いどころは考え無ければならないのだ。  では、次に問題になるのは、これから何処へ向かうかである。 「で、どうする。小沢さんがどっちに向かったかなんてわかんないけど」 「うーん、それも適当でいいんじゃないですかね。なるようになりますよ」 「お前は相変わらずだな……そういうのも嫌いじゃないけどさ。キバットはどう思う?」 「どうせ何処へ行っても殺し合いだ。行くべき場所もないのなら、何処へ行っても同じだろうな」  確かにキバットの言う通りだと思って、真司はうんうんと頷いた。  誰がどっちの方向に向かって行ったかなんて、考えたってどうせ分かりはしない。  それならば、何処へでもいいからとにかく進んで、手当たり次第に戦いを止めさせる。  作戦も何もない行き当たりばったりな考えであるが、単純な性格をした二人には調度いいと思われた。  米粒一つ残さず完食した真司と津上は、食器をキッチンのシンクに纏めて置いて、簡単な片付けを済ませた。  その間も、津上との間には常に子供みたいな他愛もないやり取りが続いていて、退屈はしなかった。  こういうタイプの男と話す事はあまりないが、存外相性はいいのかもしれないな、と思う。   「じゃ、そろそろ行きますか。城戸さん、キバット」  津上が壁に掛けられた時計をちらと見た。  時刻は七時を回る少し前だった。結構な時間休んでいたなと、ここで初めて認識する。  そう考えて、身体をぐっと伸ばしてみると、先程よりは随分と体調も良くなったように思う。  受けた傷の痛みは癒えぬものの、溜まった疲労はほぼない。これならば、戦闘行為も問題はない筈だ。  自分よりも津上の方が元気そうに動き回っているのは、恐らくアギト故に回復も早いのだろう。  仲間の死による心の痛みも相当なものだけれど、それでも津上のお陰で幾分か楽にはなった。  それに、津上だって表には出さないが、木野や北条の死に心を痛めているのだろう。  なれば、自分だけが弱音を吐く事などは許されない。  津上のように強く。仮面ライダーとして、誰かを守る為に戦い抜いてやろうと、先程よりも強く思う。  新たな決意を胸に、先にアパートを出ようとしていた津上を呼び止めた。 「なあ……やっぱ俺、絶対こんな殺し合い止めさせたいって、改めて思ったよ。  世界がどうなるのか何て分からないけど、それでも、目の前で人が死んで行くのは、止めたい。  俺、こんなだからさ、もしかしたら無茶な事もするかも知れないけど……それでも、一緒に戦って欲しい」  同じ志を持つ仲間として。守る為に戦う仮面ライダーとして。  関わった時間は短いけれど、ここで繋いだ絆は、きっと深いものだと思うから。  真司は、少しだけ気恥ずかしい気もしたけれど、強い目で以てそう告げた。  津上はやや考えるような素振りを見せたが、すぐにニッと笑った。 「やだなあ城戸さん。今更何言ってるんです。俺達、もう仲間じゃないですか。  俺も城戸さんも、同じアギト……じゃなくって、何ていうんでしたっけ」 「仮面ライダーの事か?」 「そうそう、それです。じゃあ、俺が仮面ライダーアギトで、城戸さんが仮面ライダー龍騎ですね。  かっこいいじゃないですか、人を守る為に戦う仮面ライダーって。なんかヒーローみたいでいいなあ、こういうの」 「……ああ、そうだな、お前の言う通りだよ。誰かを守る為に戦う、かっこいい仮面ライダーなんだよな、俺達」  津上の笑顔を見ていると、思わず微笑ましくなってしまう。  子供が憧れるような本物のヒーローを、津上は自分達で体現しようというのだ。  ずっと人間の汚い面だけを見て来た気がするが故、真司は久々に心が温かくなる気がした。  こいつが一緒なら、こいつと力を合わせれば、こんな殺し合いだって今度こそ止められる。  そう信じさせるだけの何かが、津上にはあった。 「ありがとな、翔一。お前のお陰で、俺はまた迷わずに済んだよ」 「何言ってるんです、俺は何もしてません。迷わずに済んだなら、それは城戸さんが強いからです」  そう言ってくれるだけで、何処か激励されているような気がして、気が楽になる。  自分よりも翔一の方がずっと強いと思うが、これ以上照れ臭い話をするのも気恥ずかしかった。  それに、自分達はもう仲間だ。本当に伝えたい事は、もうお互い十分に伝わっているのだから問題ない。  同時に、いつの間にか呼び方が「津上」から「翔一」へと変わっていた事に、自分自身、果たして気付いているのか。  何はともあれ、仮面ライダーとしての使命を改めて認識した二人の心は、これまでよりもずっと強い。  月の淡い光は、そんな二人を激励するように優しく降り注いでいた。   【1日目 夜】 【E-2 住宅街 葦原涼のアパート前】 【城戸真司@仮面ライダー龍騎】 【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後 【状態】ダメージ(小)、満腹、強い決意、仮面ライダー龍騎に50分変身不可 【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎 【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎 【思考・状況】 基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。 1:翔一と共に誰かを守る為に戦う。 2:モンスターから小沢を助け出す。 3:ヒビキが心配。 4:蓮にアビスのことを伝える。 【備考】 ※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。 ※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。 ※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。 ※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。 【津上翔一@仮面ライダーアギト】 【時間軸】本編終了後 【状態】満腹、強い決意、仮面ライダーアギトに50分変身不可 【装備】なし 【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、     ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実 【思考・状況】 基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。 1:城戸さんと一緒に誰かを守る為に戦う。 2:モンスターから小沢さんを助け出す。 3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。 4:木野さんと北条さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。 【備考】 ※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。 ※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。 ※龍騎の世界についての基本的な情報を得ました。 ※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。 ※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。 |076:[[橋上の戦い]]|投下順|078:[[決意の名探偵]]| |076:[[橋上の戦い]]|時系列順|078:[[決意の名探偵]]| |064:[[いつも心に太陽を(後編)]]|[[津上翔一]]|089:[[肩の荷は未だ降りず]]| |064:[[いつも心に太陽を(後編)]]|[[城戸真司]]|089:[[肩の荷は未だ降りず]]| ----

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