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光と影」(2011/11/17 (木) 10:17:41) の最新版変更点

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*光と影 ◆MiRaiTlHUI  門矢士は、見知らぬ病院の天井へとその手を伸ばした。  伸ばした右腕は何を掴む訳でもないが、しかし身体が軽くなった実感は得られた。  先程までは少し身体を動かす度に受けた傷が疼く思いだったが、今ではそうでもない。  もうこれ以上の休息も必要ないと判断し、士は何も言わず、今まで自分が横たわっていた寝台から脚を降ろした。  それに気付いたのか、矢車想は医者の為に用意された筈のデスクチェアに力無く座ったまま、緩い口調で尋ねて来た。 「なんだ、もういいのか?」 「これくらいどうって事ない。もっと酷い傷を負った事もある」 「ほう、人間にしちゃ随分と早い回復だな……まるでワームだ」 「あんな奴らと一緒にするな。全てに於いて俺はワーム以上だ」  人差し指を立てて不遜に語る士だが、矢車はふっと鼻で笑うだけだった。  何処か見透かされているような気がして、矢車のこういう態度はどうにも気に食わない。  生け好かない相手だが、それでもこの病院で士の傷を手当てしてくれたのは、他でもない矢車だった。  恩を感じていない訳ではないが、借りを作ってしまった気がして、士はそれも気に入らないのだ。  要は、反抗期の素直になれない子供と同じようなものなのだった。  そんな士の心に火を点けるように、矢車は涼しげな顔で続ける。 「なるほどな……ゴキブリ並の生命力って奴か」 「テメエ、それじゃどっちにしろ虫けらじゃねえか!」 「ならゴキブリワームはどうだ……?」 「おい、喧嘩売ってんのなら買うぜ」 「手当てしてやったばかりの相手を痛ぶる趣味はない」 「……チッ」  それを言われると何も言い返せなくなって、士は不機嫌そうに舌打ちした。  だが、矢車が士の回復力をワーム並だと揶揄した事自体は、あながち間違いではない。  事実として、矢車に本格的な手当てを施されてからというもの、士の回復力は異常だった。  以前、剣崎一真が変身した金色のブレイドの攻撃を受けた時も尋常ならざる傷を負ったが、回復は早かった。  そもそもの話、十三体のアンデッドと同時融合したブレイドの攻撃を受けて、あの程度で済む事自体が異常なのだが。  果たしてそれは世界の破壊者だからなのか、その理由を士は知らないが、回復力が強い事に越した事はない。 「だが、この分なら殺し合いに乗った奴らとも戦えそうだ」  自分の右手を眺めながら、握り、開きを幾度か繰り返し、士は最後にぐっと拳を握った。  キングとか云う奴の定時放送なら見た。北條は死んだ。もうここで合流する事はない。  それどころか、たったの六時間のつもりが、殺された人数は多く、事は存外に深刻だった。  夏海のような犠牲者をこれ以上出さない為にも、士はディケイドとして、これからも戦わねばならないのだ。  そう思って、一刻も早く動き出そうと立ち上がるが、しかしそんな士を呼び止めたのは、矢車だった。 「おい……ちょっと待てよ、士」 「今度は何だ、俺は急いでるんだ」 「急ぐのはいいが、俺はまだ行く気は無いんでね」 「何だ、まだ休んでいたいのか? 見掛けによらず“もやし”だな」  苛立ちも半分に、士は挑発するように鼻で笑って見せる。さっきの仕返しのつもりだった。  だが、それに反して矢車の面持ちは暗く重く、そこに先程までのような軽薄さは無い。  闇に沈み切った、過去の自分とも似た矢車の瞳は、何処か気味悪ささえも感じる。 「あの放送を聞いて、お前はこれからどうするつもりだ?」 「そんなもん、決まってる。殺し合いに乗った奴らをブッ潰すんだよ」 「正義のヒーローのつもりか?」 「お前、何が言いたい」 「いいよなぁ……お前は」  ぼそりと呟いた矢車は、くつくつと笑い始めた。 「まだ正義の心の燃え滓が残っててよ……そんなもん、俺はとっくに失くしちまった」 「ならお前は何の為に戦う、大ショッカーを潰すんじゃなかったのか」 「潰すさ。弟を笑った大ショッカーは、俺がこの手で、叩き潰す」 「なら――」 「お前、何か勘違いしてないか?」  士の言葉を遮って、矢車は立ち上がった。  拍車付きの左ブーツがカチャリと金属音を鳴らす。  嫌な威圧感を肌で感じて軽く身構える士に、矢車は歩み寄った。  士の胸ぐらを掴み上げると、矢車は士の瞳を覗き込むように顔を寄せる。 「俺はお前の中の“闇”に興味を持っただけだ。仲間になるなんて言った覚えはない」 「そいつは悪いな、俺はいつまでも自分の闇を引き摺る程センチメンタルじゃないんでね」 「……違うよなぁ? お前は闇を捨てた訳じゃない、捨て切れる訳がない……そうだろ士?」  また見透かされたような気がして、士は言葉を詰まらせた。  確かに矢車の云う通りだ。夏海が死んだと聞かされた時、士は再び闇に沈みかけた。  世界の全てに拒絶され、たった一人で足掻き、戦っていたあの頃に戻りそうになった。  それは矢車の云う通り、士が未だ闇を捨て切れていないからなのだろう。  そういう意味でなら、士だって矢車と同じだと言えるのかも知れない。 「ああ、確かにお前の言う通り、俺はまだ闇を背負ってるのかも知れないな」  だが、と続けて、士は矢車の手を払い除けた。 「それでも俺は通りすがりの仮面ライダーとして旅を続ける。仲間を作り続ける」 「信じた仲間に裏切られる痛みを知っていても……か?」 「ああ、それが俺が見付けた、ディケイド(俺)だけの物語だからな」 「それがお前にとっての、闇の中で掴んだ光……って奴か」 「……そんな事は知らん。考えた事もないからな。ただ、俺から言える事は一つだ。  欲しいなら自力で探してみろよ、お前だけに掴める、お前だけの光って奴を」  それは、過去の自分へ言った言葉なのかも知れない。  世界を旅すれば、いつか自分を許容してくれる世界が現れる、そんな風に思っていた自分へ。  他者に世界に許容を求め、それで確立される自分自身の存在などは、所詮受け身の、仮初の幸福でしかない。  士はそれを理解し、ディケイドの世界など存在しないという事を受け入れ、その上で旅を自分の物語だと悟った。  それはきっと士にしか掴み得ぬ「光」で、他の誰に語った所で、その誰かを救う事など出来はしないのだろう。  矢車が本気で光を掴みたいと思うのならば、それは矢車が自分自身の意思で何かを掴まなければならないのだ。 「クックククククク……アッハッハッハッハッハッハ!」 「何だ、気でも狂ったか……いや、悪い、元々狂ってたな、お前は」 「クック……面白い奴だ、お前は……俺にそんな事を言った人間はお前が初めてだ」 「どうかな。お前が人の話を聞こうとしなかっただけじゃないのか」 「聞く気にもならなかったからな……闇に堕ちた事もない奴らの綺麗事なんざ」 「ああそうかよ……面倒臭い奴だな」  呆れたように嘆息し、士は再び踵を返した。 「で、どうする。お前も来るのか、来ないのか。無理強いする気はないぜ」 「もう暫く、お前の中の闇を見極めるのも悪くはないだろう」 「……勝手にしろ」  気味の悪い男だと思うが、士は矢車の事はそれ程嫌いでは無かった。  過去の自分と似ている所があって、それで居て、生け好かない態度で、気に入らない奴ではあるが。  それでも仲間として、信頼は出来る。気掛かりなのは、この男がどうやって光を取り戻すか、だ。  この男が光を見付ける為の手助けくらいはしてやってもいい。そう思いながら、士は病室を後にした。  病院の廊下は仄暗く、ずっと遠くで輝く非常口の緑だけがぼんやりと浮かんで見える。  先も不安になるような暗闇でも、士の足音の後には、確かに矢車の足音が響いていた。 ◆  身体に感じる揺れを感じながら、葦原涼は少しずつ意識が戻って行くのを感じていた。  薄らと瞼を上げると、自分の身体を背負って、ゆっくりと、しかし一歩ずつ前へと進んで行く少女の頭が見えた。  それは、涼がここで出会い、そして守った少女――鳴海亜樹子の背中だった。  そこで漸く理解する。自分は今、亜樹子に背負われて歩いているのだと。 「亜樹、子……」 「……ごめんね、涼君」  その謝罪の意味を深く考える事もなく、逆に涼は罪悪感すら感じた。  自分のように力を持った者は、亜樹子のような力を持たぬ者を守らねばならないのだ。  それなのに、涼はまたしても気を失って、あまつさえ自分よりも小さな少女に背負われている。  きっと彼女は、自分を病院か何処かへと運び込み、手当てをしてくれるつもりなのだろう。  そこまでさせてやる事もない、涼は自分の脚で立とうとするが、意識に反して身体は重たかった。  疲労困憊した身体は亜樹子の背から降りようとはしてくれない。気付いた時には、また気を失っていた。  それは、水の中へと沈んで行くのにも似た感覚だった。  見慣れた大学のプールで、身動きも取れずに水底へと沈んで行くヴィジョンだ。  自分一人だけが水の底へ、暗い闇の底へ沈んで行くのに、周囲の人間は誰も助けてはくれない。  誰の手も届かない所へ落ちて行くような気がして、それが怖くて涼は抗うが、結局いつだって助かりはしない。  この心は誰かに助けを求めているのに、その声は誰の心にも届いてはくれないのだった。  結局、何処へ行っても、いつまで経っても、それは変わらなかった。  冷たい。水のように冷たい、ひんやりとした感覚を、首筋に感じた。  冷え切った鉄の寝台にでも横たわっているのだろうか、もう誰かにおぶさられている感触はない。  あれからどれ程の時間が経っただろうか、身体は幾分か楽になったように思われた。  先程よりも瞼は軽かった。徐々に覚醒しつつある視界に移ったのは、見知らぬ天井だ。  何処かの病院の手術室だろうか。涼を照らすライトがやけに眩しくて、思わず眉根を寄せる。  そんな眩しさもすぐに遮られた。自分を覗き込む亜樹子の顔だった。 「亜樹子……」  そして、気付いた。  亜樹子がその手に握り構えているのは、手術用のメスで。  その切先は、涼の喉元に確かに突き付けられて居る事に。  過去に殺されかけた、或いは殺された記憶がフラッシュバックする。  走馬灯のように巡って行く記憶は、一気に涼の意識を現実へと引き戻した。 「うわあああああああああああああああああああああっ!!?」 「きゃっ……!?」  乱暴に振るわれた涼の腕が、亜樹子の身体を突き飛ばした。  亜樹子は一瞬悲鳴を上げて、すぐに周囲の医療器具に激突して崩れ落ちた。  急いで起き上がった涼は、亜樹子を一瞥したあと、自分の身体を確認する。  問題はない。目立った外傷もない。まだ、自分は殺されてはいない。  睨み付ける様に亜樹子を見れば、その手には未だにメスが握られていた。 「もう、やめてくれ……」  まただ。また涼は、信じようとした者に裏切られた。  守ったつもりの少女はしかし、涼に恩義などは感じては居なかったのだ。  過去のトラウマを呼び起されて、涼は軽い恐慌状態にありながら、絶叫した。 「もう、うんざりだっ!!」  自分のデイバッグを引っ掴んで、涼は振り返りもせずに走り出した。  何処まで逃げたって、今は嘘になんてならない、そんな事は自分でもわかっている。  だけれども、今はここに居たくはない。こんな所で殺されてはたまったものではない。  手術室のドアを蹴破って、廊下へと飛び出た所で、眼前に二人組の男が居た。  邪魔だ。「どけ!」と叫ぶと、片方の男の肩を押し退けて、涼は一目散に病院を後にした。  それから、どれくらい走っただろう。  それ程時間は経過していないように思うが、結構な距離を走ったと思う。  景色が変わって、住宅街へと入ったところで、ようやく涼は脚を止め、後ろを振り返った。  もう、亜樹子の姿は何処にも見えない。後方には誰も居なくて、その事実に胸を撫で下ろす。 「何をやってるんだ、俺は……」  また孤独になって、それなのに胸を撫で下ろす自分が居た事に嫌悪する。  この身体が人間でなくなってからというもの、結局涼はいつだって孤独だった。  ここでだってそうだ。誰も助けてはくれない。誰の声も届きはしない。  この気持ちをぶつける先も分からず、涼は傍らの電柱を殴り付けた。 ◆ 「おい、どうした、何があった!?」  病院の手術室でへたり込む少女の肩を揺さぶり、士は叫ぶ。  大きな物音が聞こえたかと思って来てみれば、既にこの状況だった。  残されたのは、必死の形相で逃げて行く男と、物言わずメスを握り締める少女のみ。  状況はまるで分からないが、穏やかではないという事だけは分かる。 「おい、矢車」 「あ?」  興味なさげに腕を組んで立っていた矢車が、ちらと士を一瞥した。 「俺はあいつを追う。お前はここでこいつを見てろ」 「……黙って従うとでも思ってるのか?」 「ああ、思うぜ。お前はこいつを見捨てたりしない」  それは、根拠のない断言だった。 「言った筈だ……そんな正義感なんて、もう捨てちまったってな」 「だが俺の事は助けた。それはお前にまだ正義感が残ってるからだ、違うか」 「違うな……俺はただ、お前の中の闇が見たかったからだ」 「ならそれでもいい。そいつの目を見てみろ」  やれやれとばかりに、矢車は少女の顔を見て……その表情が、変わった。  まるで何かに気付いたように。矢車の目が見開かれてゆく。  乗った。後は上手く言いくるめるだけだ。 「そいつは今、明らかに動揺している。それはお前の言う闇じゃないのか」 「こいつは今、深い闇の底に沈もうとしている……いい目だ、悪くない」 「……悪趣味な事だ」  士の予想に反して、矢車は少女に見とれている様子だった。  気味の悪い何かを感じて、士は急いで話を切り上げる事にした。 「またここへ戻って来る。それまでその子の事は任せた」 「……仕方のない奴だ、いいぜ。行って来いよ」  矢車という人間は、意外と扱い易い部類なのではないかと士は思った。  ともあれ、ここは矢車に任せておけば、戻って来る頃には少女も口を聞けるようになっているだろう。  仮に少女が殺し合いに乗っていたとしても、あんな少女一人に矢車がどうこうされる事もあるまい。  見た所目立った武器も持って居ないようだったし、矢車とて歴戦の仮面ライダーだ。  その点では矢車を信頼し、士はこの場を矢車に任せたのである。 【1日目 夜】 【E-5 病院 手術室】 【矢車想@仮面ライダーカブト】 【時間軸】48話終了後 【状態】全身に傷(手当て済)、亜樹子に対し妙な感情 【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト 【道具】支給品一式、キバーラ@仮面ライダーディケイド 基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。 0:亜樹子の瞳の闇に強い興味。 1:士の中の闇を見極めたいが、今は士を待つか……? 2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。 3:天道や加賀美と出会ったら……? 4:音也の言葉が、少しだけ気がかり。 5:自分にだけ掴める光を探してみるか……? 【備考】 ※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。 ※10分間の変身制限を把握しました。 ※仮面ライダーキバーラへの変身は夏海以外は出来ないようです。 ※黒いカブト(ダークカブト)の正体は、天道に擬態したワームだと思っています。 【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】 【時間軸】番組後半(少なくても第38話終了後以降) 【状態】放心状態、ダメージ(大)、疲労(小)、恐怖(中)、精神的ショック(極大)、ファムに変身不可55分変身不可 【装備】無し 【道具】無し 【思考・状況】 基本行動方針:風都を護るため、殺し合いに乗る。 0:どうすれば……? 1:極度の混乱。 2:涼への罪悪感。 【備考】 ※良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。 ※放送で照井竜の死を知ってしまいました。 「ったく、手間かけさせやがって、ようやく追い付いたぜ」  住宅街のど真ん中で、何をするでもなく電柱にもたれ掛かっている男に、士は言った。  態度は極めて不敵だ。結構な距離を走ったように思うが、士の声に息切れは感じられない。  だがそれは目の前の金髪の男も同じだ。奴も今し方走って来たばかりの筈だが、それ程疲れているようにも見えない。  恐らくは、奴も仮面ライダーだ。それも、素の身体能力まで強化される、クウガか、アギトか……恐らくそれ系だろう。  金髪の男は電柱を殴りつけて姿勢を立て直すと、鋭い眼光で士を睨み付けた。 「何だお前、俺に何の用だ」 「聞きたいのはこっちだ、お前、なんで逃げた」 「逃げた訳じゃない、お前には関係ないだろう」 「そうは行かない、お前、あの女に何をした」 「何もしてないさ……俺はな」 「なるほどな、大体分かった」  言葉の通り、大体わかった。  恐らく、目の前の男は殺し合いには乗って居ない。  あの女、鳴海亜樹子が手に持っていたメスの事を考えると、恐らく涼は殺され掛けたのだろう。  それが辛くて、怖くて、だから涼はあんなに必死の形相であの場から逃げ出したのだ。  この状態の男が嘘を吐くとも思えなかった。 「信じようとしたのに、裏切られた。だから怖い、そんな顔をしてるな」 「黙れ、お前に何が分かる、俺の気持ちなんて誰にも分かりやしないさ」 「ああ、分からないね、俺はお前みたいな臆病者じゃないんだ」 「うるさい、黙れ、もう俺に構うな! 放っておいてくれ!」  やれやれ、と小さく呟くと、士は呆れにも似た溜息を落とした。  知っている。士は、こいつとよく似た男を知っている。そいつの影が、どうしてもチラつくのだ。  自分の中の力を恐れ、人を傷つけるのを恐れ、人に裏切られるのを恐れ、誰も寄せつけよとしなかったあの男の影が。 「まるで子供だな、知ってるぜ、お前みたいな男」 「何の話をしている、おせっかいならやめてくれ!」 「いいややめられないね。俺は全ての仮面ライダーを破壊する男だ、お前も破壊してやる」  男の表情が、変わった。 「お前、この殺し合いに乗ってるのか?」 「そうだと言ったらどうする」 「殺し合いに乗った奴は、一人残らずブッ潰す!」 「何故だ」 「俺が俺である意味を、必ず見付けなければならないからだ!」  言うが早いか、男は量の手を眼前で交差させた。 「変身!」  獣のように開いた指で、量の腕を一気に腰まで振り抜くが。  その姿に変化はない。男の姿に変化が訪れる事もなければ、周囲の何かが変わった訳でもない。  士は全てのライダーを知る男だ。今の変身ポーズで、目の前のライダーが何に変わるのかも大体分かった。  やはりあの男に、葦河ショウイチに似ていると思ったのは、士の勘違いなどではなかったらしい。  自分の存在意義を見付ける為に、自分の中の力と、殺し合いに乗った奴らと戦う為に。  その為に男は、仮面ライダーとしてこの戦いに挑むのだろう。  ならば。 「いいぜ、来いよ。お前も俺が破壊してやる」  自分のデイバッグから取り出したブレイバックルを、男の足元に放り投げた。  男は混乱した様子でありながらも、放り投げられたブレイバックルを拾い、逡巡する。 「何してる、俺をブッ潰すんだろ。腰に当てて、レバーを引けば変身出来る」 「分からないな、何故そんな物を俺に渡す」 「制限で変身出来ないんだろ」  ディケイドライバーを眼前でチラつかせ、士はニヤリと笑った。  すぐにそれを腰に当てると、ディケイドライバーは士の腰へとベルトを伸ばし、この身に纏わりついた。  左腰のホルダーから、一枚のカードを見せ付けるように掲げ、 「変身」  それをディケイドライバーに装填し、バックルを回転させた。  ――KAMEN RIDE DECADE――  九つの世界の力を司る虚像が士の周囲に展開される。  それは一瞬で士の身体と一体化し、この身体を破壊者のスーツが包んだ。  最後に顔面に、数枚のカード状の虚像が突き刺さって、変身は完了した。  仮面ライダーディケイド。全ての世界を破壊し、全ての世界を繋ぐ戦士だ。  左腰から引き抜いた剣がシャキンと音を立てて、ディケイドは悠然と構える。 「……お前、本当に殺し合いに乗ってるのか」 「さあな、だが、ここで戦わなきゃお前は俺に潰される」  男もまた、スペードのカードが装填されたブレイバックルを腰に当てた。  カード状の帯が男の腰を取り巻き、それは一瞬で赤いベルトへと変じた。  言われた通りにレバーを引くと、  ――Turn Up――  オリハルコンで出来た青いゲートが、ベルトから放出された。  それはゆっくりと男の身体へと迫り、男の身体を通過する頃には、その姿を変えていた。  もうそこに先程までの男の姿はない。紫紺のスーツに銀の鎧。守る為に戦い、散った男の仮面。  仮面ライダーブレイドの仮面を纏い、男もまた、右腰の剣を引き抜いた。 「確かめさせて貰うぜ、お前がブレイドを受け継ぐに相応しいかどうかをな」  全ての人々を守る為に戦った、正義の仮面ライダー――剣崎一真。  あの男のベルトは、これ以上士が持って居たところで意味などない。  誰かが彼の想いを受け継ぎ、誰かがブレイドとして戦わなければならないのだ。  ここで確かめよう。目の前の真っ直ぐ過ぎる男が、果たして剣崎を受け継ぐ事が出来るのかを。  もしも目の前の男がブレイドに受け入れられたなら、きっと剣崎が目の前の男を救ってくれる。  自分に出来るのは、その後押しだ。通りすがりの仮面ライダーらしく、戦うくらいしか出来まい。  だが、それでいい。剣を振り上げて、ディケイドは駆け出した。 【1日目 夜】 【F-6 住宅街】 【門矢士@仮面ライダーディケイド】 【時間軸】MOVIE大戦終了後 【状態】ダメージ(中)、決意、ディケイドに変身中 【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド 【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド 【思考・状況】 基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す! 1:目の前の男(葦原涼)を救い、ブレイドを受け継ぐ事が出来るか確かめる。 2:仲間との合流。 3:友好的な仮面ライダーと協力する。 4:これが終わったら病院で待つ矢車の元へ戻る。 【備考】 ※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。 ※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。 ※ライダーカード(G3)はディエンド用です。 ※葦原涼がギルスである事は、大体わかりました。 【葦原涼@仮面ライダーアギト】 【時間軸】本編36話終了後 【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、背中に火傷、胸元にダメージ、ギルスに1時間変身不可、ブレイドに変身中 【装備】ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA~6.9)@仮面ライダー剣 【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済) 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す! 0:俺が俺である意味を見付けたい。 1:ディケイドを倒す。 2:ディケイドは本当に殺し合いに乗っているのか……? 3:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する 4:鉛色と深緑の怪人、白い鎧の戦士を警戒 5:亜樹子…… 6:制限とは何だ……? 【備考】 ※ディケイドの不可解な行動に若干困惑しています。 |080:[[チューニング♯俺を利用しろ!(後編)]]|投下順|082:[[世界の真実]]| |080:[[チューニング♯俺を利用しろ!(後編)]]|時系列順|082:[[世界の真実]]| |072:[[愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 (後編)]]|[[葦原涼]]|087:[[防人(前篇)]]| |060:[[不屈の魂は、この胸に]]|[[門矢士]]|087:[[防人(前篇)]]| |072:[[愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 (後編)]]|[[鳴海亜樹子]]|| |060:[[不屈の魂は、この胸に]]|[[矢車想]]|| ----
*光と影 ◆MiRaiTlHUI  門矢士は、見知らぬ病院の天井へとその手を伸ばした。  伸ばした右腕は何を掴む訳でもないが、しかし身体が軽くなった実感は得られた。  先程までは少し身体を動かす度に受けた傷が疼く思いだったが、今ではそうでもない。  もうこれ以上の休息も必要ないと判断し、士は何も言わず、今まで自分が横たわっていた寝台から脚を降ろした。  それに気付いたのか、矢車想は医者の為に用意された筈のデスクチェアに力無く座ったまま、緩い口調で尋ねて来た。 「なんだ、もういいのか?」 「これくらいどうって事ない。もっと酷い傷を負った事もある」 「ほう、人間にしちゃ随分と早い回復だな……まるでワームだ」 「あんな奴らと一緒にするな。全てに於いて俺はワーム以上だ」  人差し指を立てて不遜に語る士だが、矢車はふっと鼻で笑うだけだった。  何処か見透かされているような気がして、矢車のこういう態度はどうにも気に食わない。  生け好かない相手だが、それでもこの病院で士の傷を手当てしてくれたのは、他でもない矢車だった。  恩を感じていない訳ではないが、借りを作ってしまった気がして、士はそれも気に入らないのだ。  要は、反抗期の素直になれない子供と同じようなものなのだった。  そんな士の心に火を点けるように、矢車は涼しげな顔で続ける。 「なるほどな……ゴキブリ並の生命力って奴か」 「テメエ、それじゃどっちにしろ虫けらじゃねえか!」 「ならゴキブリワームはどうだ……?」 「おい、喧嘩売ってんのなら買うぜ」 「手当てしてやったばかりの相手を痛ぶる趣味はない」 「……チッ」  それを言われると何も言い返せなくなって、士は不機嫌そうに舌打ちした。  だが、矢車が士の回復力をワーム並だと揶揄した事自体は、あながち間違いではない。  事実として、矢車に本格的な手当てを施されてからというもの、士の回復力は異常だった。  以前、剣崎一真が変身した金色のブレイドの攻撃を受けた時も尋常ならざる傷を負ったが、回復は早かった。  そもそもの話、十三体のアンデッドと同時融合したブレイドの攻撃を受けて、あの程度で済む事自体が異常なのだが。  果たしてそれは世界の破壊者だからなのか、その理由を士は知らないが、回復力が強い事に越した事はない。 「だが、この分なら殺し合いに乗った奴らとも戦えそうだ」  自分の右手を眺めながら、握り、開きを幾度か繰り返し、士は最後にぐっと拳を握った。  キングとか云う奴の定時放送なら見た。北條は死んだ。もうここで合流する事はない。  それどころか、たったの六時間のつもりが、殺された人数は多く、事は存外に深刻だった。  夏海のような犠牲者をこれ以上出さない為にも、士はディケイドとして、これからも戦わねばならないのだ。  そう思って、一刻も早く動き出そうと立ち上がるが、しかしそんな士を呼び止めたのは、矢車だった。 「おい……ちょっと待てよ、士」 「今度は何だ、俺は急いでるんだ」 「急ぐのはいいが、俺はまだ行く気は無いんでね」 「何だ、まだ休んでいたいのか? 見掛けによらず“もやし”だな」  苛立ちも半分に、士は挑発するように鼻で笑って見せる。さっきの仕返しのつもりだった。  だが、それに反して矢車の面持ちは暗く重く、そこに先程までのような軽薄さは無い。  闇に沈み切った、過去の自分とも似た矢車の瞳は、何処か気味悪ささえも感じる。 「あの放送を聞いて、お前はこれからどうするつもりだ?」 「そんなもん、決まってる。殺し合いに乗った奴らをブッ潰すんだよ」 「正義のヒーローのつもりか?」 「お前、何が言いたい」 「いいよなぁ……お前は」  ぼそりと呟いた矢車は、くつくつと笑い始めた。 「まだ正義の心の燃え滓が残っててよ……そんなもん、俺はとっくに失くしちまった」 「ならお前は何の為に戦う、大ショッカーを潰すんじゃなかったのか」 「潰すさ。弟を笑った大ショッカーは、俺がこの手で、叩き潰す」 「なら――」 「お前、何か勘違いしてないか?」  士の言葉を遮って、矢車は立ち上がった。  拍車付きの左ブーツがカチャリと金属音を鳴らす。  嫌な威圧感を肌で感じて軽く身構える士に、矢車は歩み寄った。  士の胸ぐらを掴み上げると、矢車は士の瞳を覗き込むように顔を寄せる。 「俺はお前の中の“闇”に興味を持っただけだ。仲間になるなんて言った覚えはない」 「そいつは悪いな、俺はいつまでも自分の闇を引き摺る程センチメンタルじゃないんでね」 「……違うよなぁ? お前は闇を捨てた訳じゃない、捨て切れる訳がない……そうだろ士?」  また見透かされたような気がして、士は言葉を詰まらせた。  確かに矢車の云う通りだ。夏海が死んだと聞かされた時、士は再び闇に沈みかけた。  世界の全てに拒絶され、たった一人で足掻き、戦っていたあの頃に戻りそうになった。  それは矢車の云う通り、士が未だ闇を捨て切れていないからなのだろう。  そういう意味でなら、士だって矢車と同じだと言えるのかも知れない。 「ああ、確かにお前の言う通り、俺はまだ闇を背負ってるのかも知れないな」  だが、と続けて、士は矢車の手を払い除けた。 「それでも俺は通りすがりの仮面ライダーとして旅を続ける。仲間を作り続ける」 「信じた仲間に裏切られる痛みを知っていても……か?」 「ああ、それが俺が見付けた、ディケイド(俺)だけの物語だからな」 「それがお前にとっての、闇の中で掴んだ光……って奴か」 「……そんな事は知らん。考えた事もないからな。ただ、俺から言える事は一つだ。  欲しいなら自力で探してみろよ、お前だけに掴める、お前だけの光って奴を」  それは、過去の自分へ言った言葉なのかも知れない。  世界を旅すれば、いつか自分を許容してくれる世界が現れる、そんな風に思っていた自分へ。  他者に世界に許容を求め、それで確立される自分自身の存在などは、所詮受け身の、仮初の幸福でしかない。  士はそれを理解し、ディケイドの世界など存在しないという事を受け入れ、その上で旅を自分の物語だと悟った。  それはきっと士にしか掴み得ぬ「光」で、他の誰に語った所で、その誰かを救う事など出来はしないのだろう。  矢車が本気で光を掴みたいと思うのならば、それは矢車が自分自身の意思で何かを掴まなければならないのだ。 「クックククククク……アッハッハッハッハッハッハ!」 「何だ、気でも狂ったか……いや、悪い、元々狂ってたな、お前は」 「クック……面白い奴だ、お前は……俺にそんな事を言った人間はお前が初めてだ」 「どうかな。お前が人の話を聞こうとしなかっただけじゃないのか」 「聞く気にもならなかったからな……闇に堕ちた事もない奴らの綺麗事なんざ」 「ああそうかよ……面倒臭い奴だな」  呆れたように嘆息し、士は再び踵を返した。 「で、どうする。お前も来るのか、来ないのか。無理強いする気はないぜ」 「もう暫く、お前の中の闇を見極めるのも悪くはないだろう」 「……勝手にしろ」  気味の悪い男だと思うが、士は矢車の事はそれ程嫌いでは無かった。  過去の自分と似ている所があって、それで居て、生け好かない態度で、気に入らない奴ではあるが。  それでも仲間として、信頼は出来る。気掛かりなのは、この男がどうやって光を取り戻すか、だ。  この男が光を見付ける為の手助けくらいはしてやってもいい。そう思いながら、士は病室を後にした。  病院の廊下は仄暗く、ずっと遠くで輝く非常口の緑だけがぼんやりと浮かんで見える。  先も不安になるような暗闇でも、士の足音の後には、確かに矢車の足音が響いていた。 ◆  身体に感じる揺れを感じながら、葦原涼は少しずつ意識が戻って行くのを感じていた。  薄らと瞼を上げると、自分の身体を背負って、ゆっくりと、しかし一歩ずつ前へと進んで行く少女の頭が見えた。  それは、涼がここで出会い、そして守った少女――鳴海亜樹子の背中だった。  そこで漸く理解する。自分は今、亜樹子に背負われて歩いているのだと。 「亜樹、子……」 「……ごめんね、涼君」  その謝罪の意味を深く考える事もなく、逆に涼は罪悪感すら感じた。  自分のように力を持った者は、亜樹子のような力を持たぬ者を守らねばならないのだ。  それなのに、涼はまたしても気を失って、あまつさえ自分よりも小さな少女に背負われている。  きっと彼女は、自分を病院か何処かへと運び込み、手当てをしてくれるつもりなのだろう。  そこまでさせてやる事もない、涼は自分の脚で立とうとするが、意識に反して身体は重たかった。  疲労困憊した身体は亜樹子の背から降りようとはしてくれない。気付いた時には、また気を失っていた。  それは、水の中へと沈んで行くのにも似た感覚だった。  見慣れた大学のプールで、身動きも取れずに水底へと沈んで行くヴィジョンだ。  自分一人だけが水の底へ、暗い闇の底へ沈んで行くのに、周囲の人間は誰も助けてはくれない。  誰の手も届かない所へ落ちて行くような気がして、それが怖くて涼は抗うが、結局いつだって助かりはしない。  この心は誰かに助けを求めているのに、その声は誰の心にも届いてはくれないのだった。  結局、何処へ行っても、いつまで経っても、それは変わらなかった。  冷たい。水のように冷たい、ひんやりとした感覚を、首筋に感じた。  冷え切った鉄の寝台にでも横たわっているのだろうか、もう誰かにおぶさられている感触はない。  あれからどれ程の時間が経っただろうか、身体は幾分か楽になったように思われた。  先程よりも瞼は軽かった。徐々に覚醒しつつある視界に移ったのは、見知らぬ天井だ。  何処かの病院の手術室だろうか。涼を照らすライトがやけに眩しくて、思わず眉根を寄せる。  そんな眩しさもすぐに遮られた。自分を覗き込む亜樹子の顔だった。 「亜樹子……」  そして、気付いた。  亜樹子がその手に握り構えているのは、手術用のメスで。  その切先は、涼の喉元に確かに突き付けられて居る事に。  過去に殺されかけた、或いは殺された記憶がフラッシュバックする。  走馬灯のように巡って行く記憶は、一気に涼の意識を現実へと引き戻した。 「うわあああああああああああああああああああああっ!!?」 「きゃっ……!?」  乱暴に振るわれた涼の腕が、亜樹子の身体を突き飛ばした。  亜樹子は一瞬悲鳴を上げて、すぐに周囲の医療器具に激突して崩れ落ちた。  急いで起き上がった涼は、亜樹子を一瞥したあと、自分の身体を確認する。  問題はない。目立った外傷もない。まだ、自分は殺されてはいない。  睨み付ける様に亜樹子を見れば、その手には未だにメスが握られていた。 「もう、やめてくれ……」  まただ。また涼は、信じようとした者に裏切られた。  守ったつもりの少女はしかし、涼に恩義などは感じては居なかったのだ。  過去のトラウマを呼び起されて、涼は軽い恐慌状態にありながら、絶叫した。 「もう、うんざりだっ!!」  自分のデイバッグを引っ掴んで、涼は振り返りもせずに走り出した。  何処まで逃げたって、今は嘘になんてならない、そんな事は自分でもわかっている。  だけれども、今はここに居たくはない。こんな所で殺されてはたまったものではない。  手術室のドアを蹴破って、廊下へと飛び出た所で、眼前に二人組の男が居た。  邪魔だ。「どけ!」と叫ぶと、片方の男の肩を押し退けて、涼は一目散に病院を後にした。  それから、どれくらい走っただろう。  それ程時間は経過していないように思うが、結構な距離を走ったと思う。  景色が変わって、住宅街へと入ったところで、ようやく涼は脚を止め、後ろを振り返った。  もう、亜樹子の姿は何処にも見えない。後方には誰も居なくて、その事実に胸を撫で下ろす。 「何をやってるんだ、俺は……」  また孤独になって、それなのに胸を撫で下ろす自分が居た事に嫌悪する。  この身体が人間でなくなってからというもの、結局涼はいつだって孤独だった。  ここでだってそうだ。誰も助けてはくれない。誰の声も届きはしない。  この気持ちをぶつける先も分からず、涼は傍らの電柱を殴り付けた。 ◆ 「おい、どうした、何があった!?」  病院の手術室でへたり込む少女の肩を揺さぶり、士は叫ぶ。  大きな物音が聞こえたかと思って来てみれば、既にこの状況だった。  残されたのは、必死の形相で逃げて行く男と、物言わずメスを握り締める少女のみ。  状況はまるで分からないが、穏やかではないという事だけは分かる。 「おい、矢車」 「あ?」  興味なさげに腕を組んで立っていた矢車が、ちらと士を一瞥した。 「俺はあいつを追う。お前はここでこいつを見てろ」 「……黙って従うとでも思ってるのか?」 「ああ、思うぜ。お前はこいつを見捨てたりしない」  それは、根拠のない断言だった。 「言った筈だ……そんな正義感なんて、もう捨てちまったってな」 「だが俺の事は助けた。それはお前にまだ正義感が残ってるからだ、違うか」 「違うな……俺はただ、お前の中の闇が見たかったからだ」 「ならそれでもいい。そいつの目を見てみろ」  やれやれとばかりに、矢車は少女の顔を見て……その表情が、変わった。  まるで何かに気付いたように。矢車の目が見開かれてゆく。  乗った。後は上手く言いくるめるだけだ。 「そいつは今、明らかに動揺している。それはお前の言う闇じゃないのか」 「こいつは今、深い闇の底に沈もうとしている……いい目だ、悪くない」 「……悪趣味な事だ」  士の予想に反して、矢車は少女に見とれている様子だった。  気味の悪い何かを感じて、士は急いで話を切り上げる事にした。 「またここへ戻って来る。それまでその子の事は任せた」 「……仕方のない奴だ、いいぜ。行って来いよ」  矢車という人間は、意外と扱い易い部類なのではないかと士は思った。  ともあれ、ここは矢車に任せておけば、戻って来る頃には少女も口を聞けるようになっているだろう。  仮に少女が殺し合いに乗っていたとしても、あんな少女一人に矢車がどうこうされる事もあるまい。  見た所目立った武器も持って居ないようだったし、矢車とて歴戦の仮面ライダーだ。  その点では矢車を信頼し、士はこの場を矢車に任せたのである。 【1日目 夜】 【E-5 病院 手術室】 【矢車想@仮面ライダーカブト】 【時間軸】48話終了後 【状態】全身に傷(手当て済)、亜樹子に対し妙な感情 【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト 【道具】支給品一式、キバーラ@仮面ライダーディケイド 基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。 0:亜樹子の瞳の闇に強い興味。 1:士の中の闇を見極めたいが、今は士を待つか……? 2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。 3:天道や加賀美と出会ったら……? 4:音也の言葉が、少しだけ気がかり。 5:自分にだけ掴める光を探してみるか……? 【備考】 ※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。 ※10分間の変身制限を把握しました。 ※仮面ライダーキバーラへの変身は夏海以外は出来ないようです。 ※黒いカブト(ダークカブト)の正体は、天道に擬態したワームだと思っています。 【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】 【時間軸】番組後半(少なくても第38話終了後以降) 【状態】放心状態、ダメージ(大)、疲労(小)、恐怖(中)、精神的ショック(極大)、ファムに変身不可55分変身不可 【装備】無し 【道具】無し 【思考・状況】 基本行動方針:風都を護るため、殺し合いに乗る。 0:どうすれば……? 1:極度の混乱。 2:涼への罪悪感。 【備考】 ※良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。 ※放送で照井竜の死を知ってしまいました。 「ったく、手間かけさせやがって、ようやく追い付いたぜ」  住宅街のど真ん中で、何をするでもなく電柱にもたれ掛かっている男に、士は言った。  態度は極めて不敵だ。結構な距離を走ったように思うが、士の声に息切れは感じられない。  だがそれは目の前の金髪の男も同じだ。奴も今し方走って来たばかりの筈だが、それ程疲れているようにも見えない。  恐らくは、奴も仮面ライダーだ。それも、素の身体能力まで強化される、クウガか、アギトか……恐らくそれ系だろう。  金髪の男は電柱を殴りつけて姿勢を立て直すと、鋭い眼光で士を睨み付けた。 「何だお前、俺に何の用だ」 「聞きたいのはこっちだ、お前、なんで逃げた」 「逃げた訳じゃない、お前には関係ないだろう」 「そうは行かない、お前、あの女に何をした」 「何もしてないさ……俺はな」 「なるほどな、大体分かった」  言葉の通り、大体わかった。  恐らく、目の前の男は殺し合いには乗って居ない。  あの女、鳴海亜樹子が手に持っていたメスの事を考えると、恐らく涼は殺され掛けたのだろう。  それが辛くて、怖くて、だから涼はあんなに必死の形相であの場から逃げ出したのだ。  この状態の男が嘘を吐くとも思えなかった。 「信じようとしたのに、裏切られた。だから怖い、そんな顔をしてるな」 「黙れ、お前に何が分かる、俺の気持ちなんて誰にも分かりやしないさ」 「ああ、分からないね、俺はお前みたいな臆病者じゃないんだ」 「うるさい、黙れ、もう俺に構うな! 放っておいてくれ!」  やれやれ、と小さく呟くと、士は呆れにも似た溜息を落とした。  知っている。士は、こいつとよく似た男を知っている。そいつの影が、どうしてもチラつくのだ。  自分の中の力を恐れ、人を傷つけるのを恐れ、人に裏切られるのを恐れ、誰も寄せつけよとしなかったあの男の影が。 「まるで子供だな、知ってるぜ、お前みたいな男」 「何の話をしている、おせっかいならやめてくれ!」 「いいややめられないね。俺は全ての仮面ライダーを破壊する男だ、お前も破壊してやる」  男の表情が、変わった。 「お前、この殺し合いに乗ってるのか?」 「そうだと言ったらどうする」 「殺し合いに乗った奴は、一人残らずブッ潰す!」 「何故だ」 「俺が俺である意味を、必ず見付けなければならないからだ!」  言うが早いか、男は量の手を眼前で交差させた。 「変身!」  獣のように開いた指で、量の腕を一気に腰まで振り抜くが。  その姿に変化はない。男の姿に変化が訪れる事もなければ、周囲の何かが変わった訳でもない。  士は全てのライダーを知る男だ。今の変身ポーズで、目の前のライダーが何に変わるのかも大体分かった。  やはりあの男に、葦河ショウイチに似ていると思ったのは、士の勘違いなどではなかったらしい。  自分の存在意義を見付ける為に、自分の中の力と、殺し合いに乗った奴らと戦う為に。  その為に男は、仮面ライダーとしてこの戦いに挑むのだろう。  ならば。 「いいぜ、来いよ。お前も俺が破壊してやる」  自分のデイバッグから取り出したブレイバックルを、男の足元に放り投げた。  男は混乱した様子でありながらも、放り投げられたブレイバックルを拾い、逡巡する。 「何してる、俺をブッ潰すんだろ。腰に当てて、レバーを引けば変身出来る」 「分からないな、何故そんな物を俺に渡す」 「制限で変身出来ないんだろ」  ディケイドライバーを眼前でチラつかせ、士はニヤリと笑った。  すぐにそれを腰に当てると、ディケイドライバーは士の腰へとベルトを伸ばし、この身に纏わりついた。  左腰のホルダーから、一枚のカードを見せ付けるように掲げ、 「変身」  それをディケイドライバーに装填し、バックルを回転させた。  ――KAMEN RIDE DECADE――  九つの世界の力を司る虚像が士の周囲に展開される。  それは一瞬で士の身体と一体化し、この身体を破壊者のスーツが包んだ。  最後に顔面に、数枚のカード状の虚像が突き刺さって、変身は完了した。  仮面ライダーディケイド。全ての世界を破壊し、全ての世界を繋ぐ戦士だ。  左腰から引き抜いた剣がシャキンと音を立てて、ディケイドは悠然と構える。 「……お前、本当に殺し合いに乗ってるのか」 「さあな、だが、ここで戦わなきゃお前は俺に潰される」  男もまた、スペードのカードが装填されたブレイバックルを腰に当てた。  カード状の帯が男の腰を取り巻き、それは一瞬で赤いベルトへと変じた。  言われた通りにレバーを引くと、  ――Turn Up――  オリハルコンで出来た青いゲートが、ベルトから放出された。  それはゆっくりと男の身体へと迫り、男の身体を通過する頃には、その姿を変えていた。  もうそこに先程までの男の姿はない。紫紺のスーツに銀の鎧。守る為に戦い、散った男の仮面。  仮面ライダーブレイドの仮面を纏い、男もまた、右腰の剣を引き抜いた。 「確かめさせて貰うぜ、お前がブレイドを受け継ぐに相応しいかどうかをな」  全ての人々を守る為に戦った、正義の仮面ライダー――剣崎一真。  あの男のベルトは、これ以上士が持って居たところで意味などない。  誰かが彼の想いを受け継ぎ、誰かがブレイドとして戦わなければならないのだ。  ここで確かめよう。目の前の真っ直ぐ過ぎる男が、果たして剣崎を受け継ぐ事が出来るのかを。  もしも目の前の男がブレイドに受け入れられたなら、きっと剣崎が目の前の男を救ってくれる。  自分に出来るのは、その後押しだ。通りすがりの仮面ライダーらしく、戦うくらいしか出来まい。  だが、それでいい。剣を振り上げて、ディケイドは駆け出した。 【1日目 夜】 【F-6 住宅街】 【門矢士@仮面ライダーディケイド】 【時間軸】MOVIE大戦終了後 【状態】ダメージ(中)、決意、ディケイドに変身中 【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド 【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド 【思考・状況】 基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す! 1:目の前の男(葦原涼)を救い、ブレイドを受け継ぐ事が出来るか確かめる。 2:仲間との合流。 3:友好的な仮面ライダーと協力する。 4:これが終わったら病院で待つ矢車の元へ戻る。 【備考】 ※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。 ※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。 ※ライダーカード(G3)はディエンド用です。 ※葦原涼がギルスである事は、大体わかりました。 【葦原涼@仮面ライダーアギト】 【時間軸】本編36話終了後 【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、背中に火傷、胸元にダメージ、ギルスに1時間変身不可、ブレイドに変身中 【装備】ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA~6.9)@仮面ライダー剣 【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済) 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す! 0:俺が俺である意味を見付けたい。 1:ディケイドを倒す。 2:ディケイドは本当に殺し合いに乗っているのか……? 3:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する 4:鉛色と深緑の怪人、白い鎧の戦士を警戒 5:亜樹子…… 6:制限とは何だ……? 【備考】 ※ディケイドの不可解な行動に若干困惑しています。 |080:[[チューニング♯俺を利用しろ!(後編)]]|投下順|082:[[世界の真実]]| |080:[[チューニング♯俺を利用しろ!(後編)]]|時系列順|082:[[世界の真実]]| |072:[[愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 (後編)]]|[[葦原涼]]|087:[[防人(前篇)]]| |060:[[不屈の魂は、この胸に]]|[[門矢士]]|087:[[防人(前篇)]]| |072:[[愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 (後編)]]|[[鳴海亜樹子]]|092:[[Sを受け入れて/地獄の兄妹]]| |060:[[不屈の魂は、この胸に]]|[[矢車想]]|092:[[Sを受け入れて/地獄の兄妹]]| ----

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