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*愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)◆MiRaiTlHUI  放送が終わってから、既に数十分程の時間が経過していた。  死者の名を告げる放送を聞いて、最も衝撃を受けたのは野上良太郎だった。  ライトアップも眩しい東京タワーの麓で、水浸しになったアスファルトを踏み締めながら、良太郎は項垂れる。  その様子を見た他の皆は、そんな良太郎の気持ちを汲んでか、今は何も言葉を掛ける事はしなかった。  いや、良太郎以外の一同もまた、良太郎と同じように仲間が死んだのだ。きっと皆、気持ちは同じなのだろう。  あきらは悲しそうに眼を伏せていたし、冴子や村上は、考え込むように何処か遠くを眺めていた。  志村は先程までは良太郎と同じように悲しそうにしていたが、こうしては居られないと、一人で東京タワーの中へ入って行った。  今は動けないであろう良太郎達に気を遣って、志村が先行して東京タワーの内部を探索してきてくれると言い出したのだ。  この時ばかりは誰も動ける状況では無かったし、ウラタロスも何の口出しもしようとはしなかった。  いや、良太郎の中に居るウラタロスやキンタロスも、きっとこの場の皆と同じ気持ちなのだろう。  今は何も言う気にならないし、ウラタロスも志村の行動一つ一つに気を配っている精神的余裕も無かった。  大切な仲間が死んだのだから、仕方のない事だ。  だけども、志村はこの哀しみからも立ち上がって、今、皆の為にたった一人でも行動している。  そう考えると、自分は何をしているんだと思えてきて、良太郎はゆっくりと顔を上げた。 「あの……」 「どうかしましたか、野上さん」  村上の視線が、射抜くように良太郎を見詰める。  思わずたじろいでしまいそうになるが、しかし良太郎は続ける。 「皆、辛いのは分かります。僕も辛いから……でも、僕の仲間は、きっと最期まで戦ってたんだと思います」  良太郎にとって最大の仲間であり、最高の親友でもあったイマジンを、心に思い浮かべる。  喧嘩っ早くて、何をやっても大雑把で、だけど本当は誰よりも優しくて、強かった最高の相棒。  彼が、何もせずにただ殺されたなんて、良太郎にはとても考えられなかった。  きっと最期まで勇敢に戦い、それでも敗れたのだろう。どんな想いで彼が散ったのかは、想像に難くない。  生き残った良太郎は、どんなに辛くとも、悲しくとも、彼の想いを蔑ろにするような事だけはしてはいけないのだ。  そう思って、言葉は酷く不器用でも、それでも良太郎は一生懸命に三人に向かい合った。   「僕、戦います。今はこんなに辛いけど、でも……やらなきゃいけない事だけは、分かった気がするから」 「野上さん……」  良太郎の言葉に、真っ先に反応を示したのはあきらだった。 「やっぱり、強いですね。大切な仲間が亡くなったっていうのに」 「ううん、そんな事ないよ……本当は不安でたまらなくて、何処までやれるかもわかんないから……」 「それでもです」  たった一言だけども、そう告げるあきらは、何処か嬉しそうだった。  その表情に陰りはなく、良太郎の立ち直りを素直に祝福してくれているようだった。  あきらも仲間が死んだようで、つい先程までは辛そうにしていたのに。いやきっと今でも辛いに違いない。  それでもあきらは、良太郎に負けじと、前を向いて歩き出そうとしているのだ。良太郎だけ弱音を吐くなんて事は許されない。  そんな二人を眺めていた村上が、冷淡な態度を崩す事もなく、しかし関心した様子で呟いた。 「これは意外ですね。まさか真っ先に立ち直るのが野上さんとは」 「そう、ですか……? 僕なんか、何も凄い事ないです……いつも一人じゃ何も出来なくて……  でも、こんな僕でも、少しでも心が強くなれたんだとしたら、それはきっと友達のお陰なんだと思います」 「……不躾な事をお訊きしますが。そのご友人というのは、先程の放送で名前を呼ばれた方、ですか」  良太郎は、緩く頷いた。  村上は一言「そうですか」と告げると、それ以上は何も訊こうとはしなかった。  それはつまり、これ以上落ち込んでいる場合でもないという事なのだろう。きっと、この三十分を村上はずっと我慢していたのだ。  彼が冷たい男だという事は、既に周知の事実だ。誰が死んでも特別哀しむという事もしないのだろうが、それでも殺し合いに乗る気はないらしい。  だからこそ良太郎達とも行動を共にしているのだろうが。 「貴方は立ち直ってくれたようだけど……あっちは遅いわね」  そんな中、不意に呟いたのは冴子だった。   「東京タワーに一人で入って行った彼の事よ。もう二十分近く経つんじゃないかしら」 「えっと、東京タワーって広いし……たった一人ですから、きっと時間が掛かってるんじゃ……」 「本当にそうかしらね」 「何なら、私が様子を見に行きましょうか」  名乗りを上げたのは村上だった。  きょとんとする三人の返事も待たずに、村上は東京タワーの入り口に向かって歩き出した。   「私が行くのが最も安全でしょう」  良太郎には、その言葉の意味がさっぱり分からなかった。  その時の良太郎は、新たな決意を抱いた反面、未だ危機感には疎かったのだ。  というよりも、それは危機感云々の、それどころか、常識すらも逸脱した現実だった。  悲劇の始まりは、村上が東京タワーの内部へと消えてからほんの十数分後。  良太郎の耳を劈いたのは、聞いたことも無い程に巨大な爆音。  良太郎の身体を薙ぎ払ったのは、体感した事も無いような暴力的な爆風。  長く続く爆発の後に、日本のシンボル・東京タワーは崩落した。 ◆  東京タワーの内部は大体調べた。  展望台も含めて、その内装は元の世界に存在する東京タワーと相違ない。  全長三百三十三メートルを誇る日本のシンボルを、奴ら大ショッカーはそのままこの会場へとコピーしたのだ。  その技術力と労力に舌を巻きながらも、志村純一はようやく奴らから離脱し一人になる事が出来たと、一人不敵に微笑んで居た。  そもそも純一が良太郎達と別行動を取ったのは、タワーの散策をしたかったからでもあるが、最も大きな理由は別にある。  いつ襲われても可笑しくないこの殺し合いの場で、あんな無防備を晒し、時間を無駄にする奴らと一緒に居たくなかったからだ。  落ち込んだり悲しんだり、そんな事をしている時間があるなら、東京タワーの散策でもしていた方がよっぽど時間を無駄にせずに済む。  それに、あまりここで時間を無駄にしたくない理由もあった。  焦げたアスファルトと、大量に出来た不自然な水溜りを純一は見た。  この東京タワーに向かって歩いている途中、不自然に轟く雷鳴を、純一は聞いた。  恐らくは最初に純一が戦い、殺した男が持っていた銀のメモリを使って、誰かがここで戦っていたのだ。  見た所、メモリは戦いの跡地には見当たらなかった。何処へ行ったかは分からないが、もしかしたら東京タワーの中に何かがあるかもしれない。  もしもまだ東京タワーの中にそいつがいるのなら、誰も見ていない間に殺してでも銀のメモリを奪い取る。  それ以外の誰かが居たとしても、無条件に殺害だ。そう思って純一は東京タワーに入って行ったのだが。   「まさか、あんな物が仕掛けられているとはなぁ」  不敵に、そして他者からすれば、不気味に。  純一はにたぁっと頬を吊り上げ、笑ってみせた。  場所は展望台よりも数十メートル下方の非常階段だ。  ここから東京タワーの赤と白の支柱を見渡すが、視界に移る色は赤と白だけではない。  黒い何かが、見る限り、爆弾としか思えない装置が、至る所に取り付けられていた。  数はざっと二十程であろうか。誰が仕掛けたのかは知らないが、粋な事をしてくれる。  きっと、夕方ここで放送を行った女は、これを使って参加者を一網打尽にするのが目的だったのだろう。  東京タワーが健在である事を考えれば、作戦は失敗に終わったのだろうが……それならば、その意思は自分が継ごう。  純一の見立てが正しければ、これだけの量の爆弾を一つでも起爆させれば、一気に他の全てが誘爆し、東京タワーは崩壊する。  そうなれば、無防備を晒し続けている真下の四人を、一気に葬り去る事だって可能だろう。  その為の起爆装置をさっきからずっと探しているのだが、どういう訳かその類の物は何処にも見当たらなかった。  誰かが持ち去ったか、或いはこの計画を看破され、既に何者かに破壊されてしまったか。  純一は軽く舌打ちをするが、すぐにデイバッグからグレイブのバックルを取り出した。  それを腰に押し当て、ベルトとして装着すると、    ――OPEN UP――    誰に何を言う事もなく、純一はバックルの扉を開いた。  カシャンと音を立てて、バックル中心部の「A」が姿を現す。  同時に放出された金色のゲートは、ゆっくりと純一の身体を通過し、その身体に鎧を着せる。  それは、全てのエースを超越する最強のエース――ケルベロスの力を疑似的に再現する為の鎧。  仮面ライダーグレイブへと変じた純一は、デイバッグからペン型のZECTGUNを取り出し組み立てる。  銃となったそれを右手に握り締め、その銃口をグレイブから見て出来るだけ遠くの爆弾へと向けた。  起爆させるのは一つでいい。必要なのは、自分が逃げるだけの時間だ、それもほんの一瞬あればいい。  出来るだけ遠くの爆弾を爆発させ、それが全ての爆弾に誘爆する前に、ここから飛び降りて離脱するのだ。  高さはざっと百メートル程か。少し高いが、何、アンデッドである自分が高所から飛び降りた程度でどうにかなる事もあるまい。  念には念を入れて、グレイブの装甲も身に着けているのだ。万に一つも、自分がここで自滅する可能性はない。  狙い定め、東京タワーの支柱に備え付けられた爆弾を銃撃しようと、その引き金に指を掛けるが。   「成程、そういう事でしたか」  カツン、カツン、と。鉄骨を踏み締め、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。  サイレンのような―純一の知識で言うならば、ライダーの変身待機音だろうか―音が聞こえた。  咄嗟に銃を降ろそうとするが……もう遅い。変身までしてるのだから、言い逃れのしようはないだろう。  グレイブの仮面の下で舌打ちをしながらも、こちらに向かって歩いて来た男をその視界に捉える。  それは、耳障りなサイレンを鳴らす金色の携帯電話を携えた村上峡児であった。  村上が腰に巻いている金色のベルトを見るに、奴は既に戦う気なのだろう。  諦めたように、グレイブは問うた。   「貴様、何をしにここへ来た」 「貴方が遅いから様子を見に来たのですが……よもや貴方が東京タワーを爆破する腹積もりだったとは」 「気付かれたからには、もう演技を続ける必要もないな。東京タワーよりも先に、貴様の最期を拝めそうだ」 「……下の下、以下ですね」  言いながら、村上はふん、と鼻で笑った。 「しかし、まあ善しとしましょう。貴方のお陰で、このベルトの性能も確かめられる」  金色の携帯電話をわざとらしくちらつかせ、村上はのたまう。  純一がその真意を理解するよりも早く、村上は携帯をベルトに収めた。  ――Complete――  電子音声に伴い、ベルトから金色に輝く帯が放出された。  やがて金の帯の周りには漆黒の装甲が形成されて、村上の姿は見えなくなる。  グレイブと同じ、仮面ライダーの装甲だった。地の帝王と呼ばれるその装甲を身に着け、村上は軽く両手を揉んだ。  それは村上の癖だろうか。思いの他身体に馴染んでいる様子で、村上が変じたライダーは満足げにグレイブを眇め見た。 「成程。これがオーガですか、デルタよりもよほど私に馴染んでいるようだ」 「オーガ……仮面ライダーオーガか。だが残念だったな、貴様はここで潰される!」    握り締めた右手を軽く掲げ、挑発的にグレイブは告げた。  オーガとグレイブ。同じく黄金の装甲を持つ仮面ライダーが、ここに相対した。  各世界の代表ライダーを原点として開発された新世代ライダーという点では、条件は同じなのかも知れない。  新世代を担う仮面ライダーとして開発された二者は、互いに黄金の剣を構え、距離を計り合い。  高度百メートルの冷たい風に吹かれると同時、東京タワーの非常階段の上を、二人は駆け出した。  カン、カン、カン、と。鉄骨を踏む度にけたたましい金属音を掻き立てながら、一瞬で間合いは煮詰められた。  グレイブの剣と、オーガの剣が激突する。眩い火花は夜の闇へと吸い込まれ、消えて行った。  そのまま鍔迫り合い、純一は気付く。オーガの剣は重たい。グレイブの剣よりも、ずっとだ。  その点スピードではグレイブが僅かに押しているのかも知れないが、自信は持たない方がいい。  この敵との戦いは、持久戦に持ち込めば押し負ける。たったの一合でそこまで理解したのは、純一の類稀なる戦闘力の賜物か。  一瞬の思考で攻撃のパターンを切り替え、グレイブは身を低く落とし、オーガの喉元目掛けて剣を突き立てた。  当然その一撃はオーガが振り上げた剣によって弾かれるが、構う事は無い。剣を振り上げがら空きになった胴に、グレイブは蹴りを叩き込んだ。  体勢を崩したオーガは数歩よろめき、非常階段から転げ落ちるが、構わずグレイブはそれを追撃せんと駆け下りる。  階段の踊り場でようやく止まったオーガに、上方から剣を突き立ててやろうと飛び込むが、切先はオーガの左手に掴み取られた。   「オーガと同じ金のライダー……グレイブ、でしたか。どれ程の実力かと期待したが、大したこともない」  今度はオーガからの挑発だ。仮面の下の村上がどんな表情でそうのたまったのかと考えれば、酷く不愉快だった。  軽く舌を打つ純一など意にも介さず、オーガはグレイブの剣を掴んだまま、右の大剣を振り上げた。  回避は出来なかった。グレイブの装甲から派手な火花が舞い散って、この身体に痛みが奔る。  拙い、と思うが、剣が掴まれたままなのだ、身動きなど取れよう筈もない。  そんなグレイブの脇腹を、今度はオーガの脚が鋭く蹴り上げた。  たまらず剣を手放し横へと転がったグレイブを後目に、オーガは立ち上がる。  グライブラウザーを奪い取ったオーガは、それを一瞬眇めると、よろめくグレイブに向き直った。   「中々に造り込まれた武器だ。だが、もう必要もないでしょう」  オーガの声には、余裕すら感じられた。  手に取ったグレイブラウザーを、高度百メートルから地上へと投げ捨てる。  数秒遅れて、東京タワーの真下で金属が落ちる音が聞こえた。これで実質、グレイブの武装は無くなった。  拙い。徒手空拳では大剣を使いこなすオーガに勝つ事など敵わない。グレイブとしての勝利の道は、潰えた。  だが、まだ策はある。純一の頭に、この場を切り抜ける為のプランが幾つかのパターンとなって浮かび上がる。  行ける。まだ戦える。志村純一は、こんな所で終わりはしない。   「ククク……武器を失った程度で、このグレイブが終わるとでも思っているのか?」  わざとらしく、仰々しく、グレイブは告げる。  仮面の下では不敵な笑みを崩さずに、一歩、一歩と後退して行く。  掛かれ。俺の罠に掛かれ。そう思いながら後退するグレイブとの距離を詰めるように、オーガが前進する。  やがて、グレイブの退路は断たれた。東京タワーの非常階段の手すりに、グレイブの背部装甲が当たったのだ。  もう行き止まりだ。これ以上の逃げ場はない。そう実感しながらも、グレイブはちらと後方を見遣り、確認する。   「もう逃げ場はありません、これで終わりです」  ――Exceed Charge――  オーガがベルトの携帯電話を開き、ボタンを一つ押し込んだ。  ベルトで生成されたのであろう金色のエネルギーは、瞬きながらオーガの身体を伝い、その大剣へと充填されてゆく。  一瞬の後には、オーガの大剣は巨大な光の刃に覆われ、眩く黄金に輝いていた。言うなれば、巨大な光の剣、と言ったところか。  何のためらいもなく、それはグレイブへと振り下ろされる。光の刃はグレイブの上方の鉄骨をも斬り裂きながら、その速度を上げる。  光の粒子が、触れるもの全てを光子レベルで分解し、あたかも対象を綺麗に斬り裂いているように見えるのだろう。  東京タワーを斬り崩しながらも、グレイブの仮面へと真っ直ぐに振り下ろされる大剣を見ながら、純一は笑った。   「馬鹿め、掛かったな!」 「何……?」  オーガストラッシュがグレイブの仮面を叩き斬る寸前、グレイブは身を翻した。  ほんの一瞬、人間レベルでは見抜けぬ間合いを、それでも純一は見極め、その一撃を回避したのだ。  驚く村上の声を聞きながら、一瞬前までグレイブが居た場所を、黄金の刃が寸断して行くのを見た。  そして、その刃の先にあるのは――東京タワーの支柱に備え付けられた爆弾だった。  オーガの剣は、仕掛けられた爆弾の一つ毎、支柱を斬り裂いたのだ。 ◆  最初に爆発したのは、たった一つの爆弾だった。  一つ目の爆弾は、東京タワーの支柱を吹き飛ばし、広範囲を焼き尽くそうと炎を撒き散らす。  それは二つ目、三つめ、四つ目と連鎖してゆき、爆発が起こる度に、支柱は確実に吹き飛ばされて行った。  爆発は爆音を伴いながらも、一つ、また一つと断続的に続き、暫くの間爆発音と爆風が止む事はなかった。  東京タワー自体が相当な強度を誇る建築物ではあるが、零距離で、それも連続で爆発を引き起こされればたまったものではない。  やがて吹き飛ばされた支柱の数が、東京タワーを支えるのに必要な数を越えた時、東京タワーが傾き始めた。  これは拙い。何が何だか分からないが、とにかく拙い。爆風に身を嬲られながらも、良太郎は思った。  そんな時、良太郎の内部から、良太郎に声を掛けてくれたのは、キンタロスだった。 (良太郎、ここは俺に任せるんや!)  キンタロスが、良太郎に有無を言わさずにこの身体の所有権を握ろうとする。  だが、良太郎はそれを善しとはしなかった。自分の意識を決して手放そうとはせずに、キンタロスを拒絶した。 (何してるんや良太郎!?)  驚愕したキンタロスが怒鳴る。  だけれども、良太郎はまるで意に介さずに、走り出した。  頭上では、絶え間なく爆発が続き、大量の鉄骨が降り注ぐ。  それでも良太郎は、呆気に取られるあきらと冴子の元まで駆け寄ると、二人の方を強く掴んだ。   「ここにいちゃ、拙いよ! 早く、逃げなきゃ!」  誰よりも早く、俊敏に行動したのは良太郎だった。  キンタロスの助けをも拒絶して、良太郎は二人の肩を掴んだまま、一生懸命に走る。  もうこれ以上は、ウラタロスとキンタロスに頼りっぱなしの自分は止めにするつもりだった。  必ず二人の力が必要になる時も来るだろうが、今はまだその時ではない。それを理解したからこそだった。  そして何よりも、死んだ友の想いを受け継ぐと、良太郎はこの心に誓ったのだ。  だから良太郎は、何があろうと絶対に折れはしない。  ここで皆で一緒に生き残ってみせるのだと、強く念じた。   (良太郎、お前一人じゃ……) (無駄だよキンちゃん。こうなった良太郎は、誰よりも意思が強いって知ってるでしょ。  きっと僕やキンちゃんどころか、先輩の言う事だってもう聞かないよ。なら僕達は大人しく待つしかないでしょ) (そ、それはそうかも知らんけどやなぁ……) (大丈夫だから、今は良太郎に任せようよ)  頭の中で慌てるキンタロスを制したのは、ウラタロスだった。  流石はウラタロスと言ったところか。人の心を読むのは彼の最も得意とする分野。  良太郎の強い想いを汲み取って、ウラタロスは今、レディ二人を良太郎に任せてくれたのだ。  ならば良太郎は、その想いにも応える必要がある。この場の誰よりも強い意志を持った男は、誰の助けをも求めず、立ち上がったのだった。     ◆ 「ガハァッ!」  純一にしては無様な呻き声だった。  固いアスファルトとの激突で、グレイブの装甲は限界を迎えた。  生身を晒した純一は、目立った外傷こそないものの、苦しげに天を仰ぎ、笑う。  爆発の颶風に身を嬲られ、落下してゆく鉄骨に激突し、終いにはアスファルトとの激突だ。  いくら人ならざる存在とはいえ、これが堪えない筈は無かった。  症状で言うなら、恐らくは全身打撲、程度だろうか。何にせよ後を引く程の怪我ではない。  罠にしては些か無謀過ぎたかとも思うが、これであの村上を仕留められたのなら文句は無い。  真下に居た三人も、無事に済んだとは思い難い。仮に逃げ延られたとしても、あの集団からは抜ける事には成功した。  純一が何か行動を起こそうとしても、野上は逐一邪魔をして来るし、村上は油断も隙も無かったのだ。  正直言って、あの厄介な集団に入ってしまったのは、純一にとって痛恨のミスであった。  しかし、その不自由ともこれでおさらばだ。これでようやく純一は自由になれる。  そう思った矢先。純一から少し離れた場所で、バラバラになった鉄骨がごと、と音を立てて崩れ去った。 「まさかこんな方法で東京タワーを爆発させるとは……恐れ入りましたよ」 「貴様……その声は……!!」  何事かと思って、声の主を見遣る。  そこに居たのは、頭からつま先まで、純白の怪人だった。  最早人のものですら無くなった鋭い眼光は、殺意を以て純一へと向けられる。  しかし、純白の怪人が発する声は、つい先程まで戦っていた村上の声そのものだった。  園田真理から聞いた話を思い出す。確か、オルフェノク、とか言ったか。  誤算だった。自分は人間ではないのだから死ぬ筈もないと踏んだが、相手も人外である事は、盲点だったのだ。  つくづく上手くいかないものだ。軽く舌打ちをしながら、いよいよ次の変身手段を使う時が来たかと思う。  オルフェノクとなった村上が放つ威圧感は相当だ。ジョーカーにするか、オルタナティブにするか、考える。  恐らく、確実に敵を仕留めたいのであればジョーカーになるべきなのだろうが、あまりあの姿を多様したくはない。  ジョーカーは切り札なのだ。他の選択肢があるなら、それよりも優先して使われるべきカードではない。  オルフェノクを睨みつけながらも、純一はよろよろと後退する。二人の距離が詰まるのは、ほんの一瞬だった。  純一の喉元を掴み上げた純白のオルフェノクは、この身体をギリギリと持ち上げる。  息苦しさを感じるが、自分は人外だ。窒息で死ぬ事はない。  いよいよ変身する時が来たか。そう思うが。   「志村さん!」 「――!?」  突如響いてきた声に、純一は聞き覚えがあった。  オルフェノクに喉元を締め上げられながらも、ゆっくりとそちらを見遣る。  そこに居るのは、若干へっぴり腰だけども、しっかりと地を踏み締め仁王立ちする野上だった。  野上の後方には、あきらと冴子も無事健在しているのが見えて、純一は心中で思いきり舌打ちした。  これだけ苦労しながらも、仕留めた相手は零。ふざけるなよ、何の為に俺は――。  しかし、今のこの状況を利用しない手は無い。   「た、助けて下さい……野上さん! 村上さんが、突然襲い掛かって来たんだ……!」 「そんな……もう人は襲わないって言ったのに、どうして……」  野上は一瞬悲しげに眼を伏せるが、次の瞬間には、意を決したように顔を上げた。  デイバッグから紫色の刀を取り出すと、お世辞にも慣れているとは言えぬ手つきで、それを構えた。  さながら、刀の使い方をまるで知らないド素人のようだった。  だけれども、その瞳だけは強く、剣呑であった。   「し、志村さんを離して下さい……村上さん!」  野上が声を張るが、オルフェノクは動じない。  ちらと野上を見るだけで、それ以上の仕種は何も返さなかった。  そうしている間にも、純一の喉元に加えられる圧力は徐々に強まって行く。  このままでは、例え人前であろうともジョーカーに変身せねばならなくなる。  これ以上野上に頼るのは止めた方がいいか……そう思った時だった。 「僕は……決めたんだ。もう、これ以上、誰にも悲しい思いはして欲しくないって」  静かにそう告げた野上は、一拍の間を置いて――一気に走り出した。 「やああーっ!」などと声を張り上げて、野上は純白のオルフェノクへと斬り掛かる。  オルフェノクは純一の身体を放り投げると、容易く野上が振り下ろした一太刀を受け止めた。  一瞬でも純一を離してくれたのなら、もうそれで十分だ。野上とてそれを理解しているのだろう。  解放された純一をちらと一瞥し、野上は叫んだ。   「ここは僕に任せて、逃げて、志村さん!」 「わかりました、ありがとうございます、野上さん!」  本当なら、「でも、野上さんを置いて行く事なんて出来ない!」とか、そういう事を言っておくべきだったのだろう。  だけれども、村上が変じたオルフェノクは、既に志村の正体を知っているのだ。そう考えれば、一刻の猶予もない。  変に演技を続けてネタばらしをされる前に、多少不自然でも、今はこの状況を離脱するのが先決かと思われた。  そう判断してからの行動は早い。純一は一目散に駆け出し、冴子とあきらの肩を掴むと、急いで退避を開始した。    志村があきらと冴子の二人を連れて離脱したのを確認して、良太郎は安心した。  少なくとも良太郎は、志村の事を信頼している。自分の代わりに、三人の命は救われたのだ。  後は、何とかして村上を止め、考え直して欲しい所だが……今の良太郎に変身が可能なのかどうかは些か疑問だ。  それに良太郎は、心の何処かでまだ村上を信じているのだ。変身して戦って倒してやりたいという事もない。  第一、自分に出来る事をやると決めたのに、変身すればまたウラタロス達に頼りっぱなしになる。良太郎はそれが嫌だった。  良太郎の友は、きっと最期まで戦ったのだ。ならば良太郎がここで諦めていい道理などはない。  決意を胸に、全力を込めて踏ん張る。ローズオルフェノクが掴んだままの刀に、無理矢理にでも力を込める。  ローズオルフェノクは、呆れたように良太郎の刀から手を離した。 「えっ……?」 「やれやれ……下の下、ですね」  そう言って、ローズオルフェノクは一歩身を引くと、その姿を変えた。  目を丸くする良太郎など意にも介さずに、その姿は元のスーツ姿へと戻ってゆく。  一体どういう事だろう。てっきり、先の放送を聞いた村上が、殺し合いに乗ってしまったのかと思ったのだが。  しかし変身を解除し、良太郎を見詰める村上の視線には、軽蔑はあっても、殺気というものは感じられなかった。  良太郎の頭の中に、酷くトーンを落としたウラタロスの声が聞こえて来たのは、それから一瞬後の事だった。 (やられたよ、良太郎……あの志村って奴にね) 「え……どういう……」  状況がまるで分からない。  村上は呆れたように嘆息し、言った。 「貴方は騙されたんですよ、志村純一にね」 「え……?」  この場で理解出来ていないのは、良太郎ただ一人だった。  周囲を見渡すが、そこに志村の姿はもうない。ただ、崩れ去った鉄骨が積み重なって、燃えているだけだった。  最早完全に崩れ去った東京タワーの跡地で、瓦礫と鉄骨の山に囲まれながら、良太郎はようやく彼らの真意を理解した。  それに気付いた瞬間、良太郎の中で積み上げられていた「信頼」は、東京タワーと同じように崩れ去っていった。   【1日目 夜】 【D-5 東京タワー跡地】 【野上良太郎@仮面ライダー電王】 【時間軸】第38話終了後 【状態】強い決意、疲労(中)、ダメージ(中) 【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト 【道具】支給品一式 【思考・状況】 基本行動方針:モモタロスの分まで、皆を守る為に戦いたい。 0:極力自分の力で、自分に出来る事、やるべき事をやる。 1:志村純一に騙された……? 2:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう… 3:リュウタロスを捜す。 4:殺し合いに乗っている人物に警戒 5:電王に変身できなかったのは何故…? 6:橘朔也との合流を目指したい。相川始を警戒。 7:あのゼロノスは一体…? 【備考】 ※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。 ※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。 ※ウラタロスは志村と冴子に警戒を抱いています。 ※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。 ※ドッガハンマーは紅渡の元へと召喚されました。本人は気付いていません。 ※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。 ※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。 ※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。 【村上峡児@仮面ライダー555】 【時間軸】不明 少なくとも死亡前 【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、バードメモリに溺れ気味、オーガに二時間変身不可、オルフェノクに二時間変身不可 【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト 【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み) 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。 1:今すぐに良太郎を殺す気は無いが、今後の同行についてはもう少し見極めが必要。 2:志村は敵。次に会った時には確実に仕留めるべき。 3:亜樹子の逃走や、それを追った涼にはあまり感心が沸かない。 4:冴子とガイアメモリに若干の警戒。 【備考】 ※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。 ※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。 ※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。 【全体の備考】 ※18時50分頃、東京タワーは爆発・崩落しました。 ※広い範囲でこの様子は確認されたものと思われます。 |084:[[Round Zero ~Killing time]]|投下順|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |084:[[Round Zero ~Killing time]]|時系列順|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[園咲冴子]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[志村純一]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[天美あきら]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[野上良太郎]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[村上峡児]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| ----
*愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)◆MiRaiTlHUI  放送が終わってから、既に数十分程の時間が経過していた。  死者の名を告げる放送を聞いて、最も衝撃を受けたのは野上良太郎だった。  ライトアップも眩しい東京タワーの麓で、水浸しになったアスファルトを踏み締めながら、良太郎は項垂れる。  その様子を見た他の皆は、そんな良太郎の気持ちを汲んでか、今は何も言葉を掛ける事はしなかった。  いや、良太郎以外の一同もまた、良太郎と同じように仲間が死んだのだ。きっと皆、気持ちは同じなのだろう。  あきらは悲しそうに眼を伏せていたし、冴子や村上は、考え込むように何処か遠くを眺めていた。  志村は先程までは良太郎と同じように悲しそうにしていたが、こうしては居られないと、一人で東京タワーの中へ入って行った。  今は動けないであろう良太郎達に気を遣って、志村が先行して東京タワーの内部を探索してきてくれると言い出したのだ。  この時ばかりは誰も動ける状況では無かったし、ウラタロスも何の口出しもしようとはしなかった。  いや、良太郎の中に居るウラタロスやキンタロスも、きっとこの場の皆と同じ気持ちなのだろう。  今は何も言う気にならないし、ウラタロスも志村の行動一つ一つに気を配っている精神的余裕も無かった。  大切な仲間が死んだのだから、仕方のない事だ。  だけども、志村はこの哀しみからも立ち上がって、今、皆の為にたった一人でも行動している。  そう考えると、自分は何をしているんだと思えてきて、良太郎はゆっくりと顔を上げた。 「あの……」 「どうかしましたか、野上さん」  村上の視線が、射抜くように良太郎を見詰める。  思わずたじろいでしまいそうになるが、しかし良太郎は続ける。 「皆、辛いのは分かります。僕も辛いから……でも、僕の仲間は、きっと最期まで戦ってたんだと思います」  良太郎にとって最大の仲間であり、最高の親友でもあったイマジンを、心に思い浮かべる。  喧嘩っ早くて、何をやっても大雑把で、だけど本当は誰よりも優しくて、強かった最高の相棒。  彼が、何もせずにただ殺されたなんて、良太郎にはとても考えられなかった。  きっと最期まで勇敢に戦い、それでも敗れたのだろう。どんな想いで彼が散ったのかは、想像に難くない。  生き残った良太郎は、どんなに辛くとも、悲しくとも、彼の想いを蔑ろにするような事だけはしてはいけないのだ。  そう思って、言葉は酷く不器用でも、それでも良太郎は一生懸命に三人に向かい合った。   「僕、戦います。今はこんなに辛いけど、でも……やらなきゃいけない事だけは、分かった気がするから」 「野上さん……」  良太郎の言葉に、真っ先に反応を示したのはあきらだった。 「やっぱり、強いですね。大切な仲間が亡くなったっていうのに」 「ううん、そんな事ないよ……本当は不安でたまらなくて、何処までやれるかもわかんないから……」 「それでもです」  たった一言だけども、そう告げるあきらは、何処か嬉しそうだった。  その表情に陰りはなく、良太郎の立ち直りを素直に祝福してくれているようだった。  あきらも仲間が死んだようで、つい先程までは辛そうにしていたのに。いやきっと今でも辛いに違いない。  それでもあきらは、良太郎に負けじと、前を向いて歩き出そうとしているのだ。良太郎だけが弱音を吐く事は許されない。  そんな二人を眺めていた村上が、冷淡な態度を崩す事もなく、しかし関心した様子で呟いた。 「これは意外ですね。まさか真っ先に立ち直るのが野上さんとは」 「そう、ですか……? 僕なんか、何も凄い事ないです……いつも一人じゃ何も出来なくて……  でも、こんな僕でも、少しでも心が強くなれたんだとしたら、それはきっと友達のお陰なんだと思います」 「……不躾な事をお訊きしますが。そのご友人というのは、先程の放送で名前を呼ばれた方、ですか」  良太郎は、緩く頷いた。  村上は一言「そうですか」と告げると、それ以上は何も訊こうとはしなかった。  それはつまり、これ以上落ち込んでいる場合でもないという事なのだろう。きっと、この三十分を村上はずっと我慢していたのだ。  彼が冷たい男だという事は、既に周知の事実だ。誰が死んでも特別哀しむという事もないだろうが、殺し合いに乗る気はないらしい。  だからこそ良太郎達とも行動を共にしているのだろうが。 「貴方は立ち直ってくれたようだけど……あっちは遅いわね」  そんな中、不意に呟いたのは冴子だった。   「東京タワーに一人で入って行った彼の事よ。もう二十分近く経つんじゃないかしら」 「えっと、東京タワーって広いし……たった一人ですから、きっと時間が掛かってるんじゃ……」 「本当にそうかしらね」 「何なら、私が様子を見に行きましょうか」  名乗りを上げたのは村上だった。  きょとんとする三人の返事も待たずに、村上は東京タワーの入り口に向かって歩き出した。   「私が行くのが最も安全でしょう」  良太郎には、その言葉の意味がさっぱり分からなかった。  その時の良太郎は、新たな決意を抱いた反面、未だ危機感には疎かったのだ。  というよりも、それは危機感云々の、それどころか、常識すらも逸脱した現実だった。  悲劇の始まりは、村上が東京タワーの内部へと消えてからほんの十数分後。  良太郎の耳を劈いたのは、聞いたことも無い程に巨大な爆音。  良太郎の身体を薙ぎ払ったのは、体感した事も無いような暴力的な爆風。  長く続く爆発の後に、日本のシンボル・東京タワーは崩落した。 ◆  東京タワーの内部は大体調べた。  展望台も含めて、その内装は元の世界に存在する東京タワーと相違ない。  全長三百三十三メートルを誇る日本のシンボルを、奴ら大ショッカーはそのままこの会場へとコピーしたのだ。  その技術力と労力に舌を巻きながらも、志村純一はようやく奴らから離脱し一人になる事が出来たと、一人不敵に微笑んで居た。  そもそも純一が良太郎達と別行動を取ったのは、タワーの散策をしたかったからでもあるが、最も大きな理由は別にある。  いつ襲われても可笑しくないこの殺し合いの場で、あんな無防備を晒し、時間を無駄にする奴らと一緒に居たくなかったからだ。  落ち込んだり悲しんだり、そんな事をしている時間があるなら、東京タワーの散策でもしていた方がよっぽど時間を無駄にせずに済む。  それに、あまりここで時間を無駄にしたくない理由もあった。  焦げたアスファルトと、大量に出来た不自然な水溜りを純一は見た。  この東京タワーに向かって歩いている途中、不自然に轟く雷鳴を、純一は聞いた。  恐らくは最初に純一が戦い、殺した男が持っていた銀のメモリを使って、誰かがここで戦っていたのだ。  見た所、メモリは戦いの跡地には見当たらなかった。何処へ行ったかは分からないが、もしかしたら東京タワーの中にあるかもしれない。  もしもまだ東京タワーの中にそいつがいるのなら、誰も見ていない間に殺してでも銀のメモリを奪い取る。  それ以外の誰かが居たとしても、無条件に殺害だ。そう思って純一は東京タワーに入って行ったのだが。   「まさか、あんな物が仕掛けられているとはなぁ」  不敵に、そして他者からすれば、不気味に。  純一はにたぁっと頬を吊り上げ、笑ってみせた。  場所は展望台よりも数十メートル下方の非常階段だ。  ここから東京タワーの赤と白の支柱を見渡すが、視界に移る色は赤と白だけではない。  黒い何かが、見る限り、爆弾としか思えない装置が、至る所に取り付けられていた。  数はざっと二十程であろうか。誰が仕掛けたのかは知らないが、粋な事をしてくれる。  きっと、夕方ここで放送を行った女は、これを使って参加者を一網打尽にするのが目的だったのだろう。  東京タワーが健在である事を考えれば、作戦は失敗に終わったのだろうが……それならば、その意思は自分が継ごう。  純一の見立てが正しければ、これだけの量の爆弾を一つでも起爆させれば、一気に他の全てが誘爆し、東京タワーは崩壊する。  そうなれば、無防備を晒し続けている真下の四人を、一気に葬り去る事だって可能だろう。  その為の起爆装置をさっきからずっと探しているのだが、どういう訳かその類の物は何処にも見当たらなかった。  誰かが持ち去ったか、或いはこの計画を看破され、既に何者かに破壊されてしまったか。  純一は軽く舌打ちをするが、すぐにデイバッグからグレイブのバックルを取り出した。  それを腰に押し当て、ベルトとして装着すると、    ――OPEN UP――    誰に何を言う事もなく、純一はバックルの扉を開いた。  カシャンと音を立てて、バックル中心部の「A」が姿を現す。  同時に放出された金色のゲートは、ゆっくりと純一の身体を通過し、その身体に鎧を着せる。  それは、全てのエースを超越する最強のエース――ケルベロスの力を疑似的に再現する為の鎧。  仮面ライダーグレイブへと変じた純一は、デイバッグからペン型のZECTGUNを取り出し組み立てる。  銃となったそれを右手に握り締め、その銃口をグレイブから見て出来るだけ遠くの爆弾へと向けた。  起爆させるのは一つでいい。必要なのは、自分が逃げるだけの時間だ、それもほんの一瞬あればいい。  出来るだけ遠くの爆弾を爆発させ、それが全ての爆弾に誘爆する前に、ここから飛び降りて離脱するのだ。  高さはざっと百メートル程か。少し高いが、アンデッドである自分が高所から飛び降りた程度でどうにかなる事もあるまい。  念には念を入れて、グレイブの装甲も身に着けているのだ。万に一つも、自分がここで自滅する可能性はない。  狙い定め、東京タワーの支柱に備え付けられた爆弾を銃撃しようと、その引き金に指を掛けるが。   「成程、そういう事でしたか」  カツン、カツン、と。鉄骨を踏み締め、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。  サイレンのような―純一の知識で言うならば、ライダーの変身待機音だろうか―音が聞こえた。  咄嗟に銃を降ろそうとするが……もう遅い。変身までしてるのだから、言い逃れのしようはないだろう。  グレイブの仮面の下で舌打ちをしながらも、こちらに向かって歩いて来た男をその視界に捉える。  それは、耳障りなサイレンを鳴らす金色の携帯電話を携えた村上峡児であった。  村上が腰に巻いている金色のベルトを見るに、奴は既に戦う気なのだろう。  諦めたように、グレイブは問うた。   「貴様、何をしにここへ来た」 「貴方が遅いから様子を見に来たのですが……よもや貴方が東京タワーを爆破する腹積もりだったとは」 「気付かれたからには、もう演技を続ける必要もないな。東京タワーよりも先に、貴様の最期を拝めそうだ」 「……下の下、以下ですね」  言いながら、村上はふん、と鼻で笑った。 「しかし、まあ善しとしましょう。貴方のお陰で、このベルトの性能も確かめられる」  金色の携帯電話をわざとらしくちらつかせ、村上はのたまう。  純一がその真意を理解するよりも早く、村上は携帯をベルトに収めた。  ――Complete――  電子音声に伴い、ベルトから金色に輝く帯が放出された。  やがて金の帯の周りには漆黒の装甲が形成されて、村上の姿は見えなくなる。  グレイブと同じ、仮面ライダーの装甲だった。地の帝王と呼ばれるその装甲を身に着け、村上は軽く両手を揉んだ。  それは村上の癖だろうか。思いの他身体に馴染んでいる様子で、村上が変じたライダーは満足げにグレイブを眇め見た。 「成程。これがオーガですか、デルタよりもよほど私に馴染んでいるようだ」 「オーガ……仮面ライダーオーガか。だが残念だったな、貴様はここで潰される!」    握り締めた右手を軽く掲げ、挑発的にグレイブは告げた。  オーガとグレイブ。同じく黄金の装甲を持つ仮面ライダーが、ここに相対した。  各世界の代表ライダーを原点として開発された新世代ライダーという点では、条件は同じなのかも知れない。  新世代を担う仮面ライダーとして開発された二者は、互いに黄金の剣を構え、距離を計り合い。  高度百メートルの冷たい風に吹かれると同時、東京タワーの非常階段の上を、二人は駆け出した。  カン、カン、カン、と。鉄骨を踏む度にけたたましい金属音を掻き立てながら、一瞬で間合いは煮詰められた。  グレイブの剣と、オーガの剣が激突する。眩い火花は夜の闇へと吸い込まれ、消えて行った。  そのまま鍔迫り合い、純一は気付く。オーガの剣は重たい。グレイブの剣よりも、ずっとだ。  その点スピードではグレイブが僅かに押しているのかも知れないが、自信は持たない方がいい。  この敵との戦いは、持久戦に持ち込めば押し負ける。たったの一合でそこまで理解したのは、純一の類稀なる戦闘力の賜物か。  一瞬の思考で攻撃のパターンを切り替え、グレイブは身を低く落とし、オーガの喉元目掛けて剣を突き立てた。  当然その一撃はオーガが振り上げた剣によって弾かれるが、構う事は無い。がら空きになったオーガの胴に蹴りを叩き込んだ。  体勢を崩したオーガは数歩よろめき、非常階段から転げ落ちるが、構わずグレイブはそれを追撃せんと駆け下りる。  階段の踊り場でようやく止まったオーガに、上方から剣を突き立ててやろうと飛び込むが、切先はオーガの左手に掴み取られた。   「オーガと同じ金のライダー……グレイブ、でしたか。どれ程の実力かと期待したが、大したこともない」  今度はオーガからの挑発だ。仮面の下の村上がどんな表情でそうのたまったのかと考えれば、酷く不愉快だった。  軽く舌を打つ純一など意にも介さず、オーガはグレイブの剣を掴んだまま、右の大剣を振り上げた。  回避は出来なかった。グレイブの装甲から派手な火花が舞い散って、この身体に痛みが奔る。  拙い、と思うが、剣が掴まれたままなのだ、身動きなど取れよう筈もない。  そんなグレイブの脇腹を、今度はオーガの脚が鋭く蹴り上げた。  たまらず剣を手放し横へと転がったグレイブを後目に、オーガは立ち上がる。  グライブラウザーを奪い取ったオーガは、それを一瞬眇めると、よろめくグレイブに向き直った。   「中々に造り込まれた武器だ。だが、もう必要もないでしょう」  オーガの声には、余裕すら感じられた。  手に取ったグレイブラウザーを、高度百メートルから地上へと投げ捨てる。  数秒遅れて、東京タワーの真下で金属が落ちる音が聞こえた。これで実質、グレイブの武装は無くなった。  拙い。徒手空拳では大剣を使いこなすオーガに勝つ事など敵わない。グレイブとしての勝利の道は、潰えた。  だが、まだ策はある。純一の頭に、この場を切り抜ける為のプランが幾つかのパターンとなって浮かび上がる。  行ける。まだ戦える。志村純一は、こんな所で終わりはしない。   「ククク……武器を失った程度で、このグレイブが終わるとでも思っているのか?」  わざとらしく、仰々しく、グレイブは告げる。  仮面の下では不敵な笑みを崩さずに、一歩、一歩と後退して行く。  掛かれ。俺の罠に掛かれ。そう思いながら後退するグレイブとの距離を詰めるように、オーガが前進する。  やがて、グレイブの退路は断たれた。東京タワーの非常階段の手すりに、グレイブの背部装甲が当たったのだ。  もう行き止まりだ。これ以上の逃げ場はない。そう実感しながらも、グレイブはちらと後方を見遣り、確認する。   「もう逃げ場はありません、これで終わりです」  ――Exceed Charge――  オーガがベルトの携帯電話を開き、ボタンを一つ押し込んだ。  ベルトで生成されたのであろう金色のエネルギーは、瞬きながらオーガの身体を伝い、その大剣へと充填されてゆく。  一瞬の後には、オーガの大剣は巨大な光の刃に覆われ、眩く黄金に輝いていた。言うなれば、巨大な光の剣、と言ったところか。  何のためらいもなく、それはグレイブへと振り下ろされる。光の刃はグレイブの上方の鉄骨をも斬り裂きながら、その速度を上げる。  光の粒子が、触れるもの全てを光子レベルで分解し、あたかも対象を綺麗に斬り裂いているように見えるのだろう。  東京タワーを斬り崩しながらも、グレイブの仮面へと真っ直ぐに振り下ろされる大剣を見ながら、純一は笑った。   「馬鹿め、掛かったな!」 「何……?」  オーガストラッシュがグレイブの仮面を叩き斬る寸前、グレイブは身を翻した。  ほんの一瞬、人間レベルでは見抜けぬ間合いを、それでも純一は見極め、その一撃を回避したのだ。  驚く村上の声を聞きながら、一瞬前までグレイブが居た場所を、黄金の刃が寸断して行くのを見た。  そして、その刃の先にあるのは――東京タワーの支柱に備え付けられた爆弾だった。  オーガの剣は、仕掛けられた爆弾の一つ毎、支柱を斬り裂いたのだ。 ◆  最初に爆発したのは、たった一つの爆弾だった。  一つ目の爆弾は、東京タワーの支柱を吹き飛ばし、広範囲を焼き尽くそうと炎を撒き散らす。  それは二つ目、三つめ、四つ目と連鎖してゆき、爆発が起こる度に、支柱は確実に吹き飛ばされて行った。  爆発は爆音を伴いながらも、一つ、また一つと断続的に続き、暫くの間爆発音と爆風が止む事はなかった。  東京タワー自体が相当な強度を誇る建築物ではあるが、零距離で、それも連続で爆発を引き起こされればたまったものではない。  やがて吹き飛ばされた支柱の数が、東京タワーを支えるのに必要な数を越えた時、東京タワーが傾き始めた。  これは拙い。何が何だか分からないが、とにかく拙い。爆風に身を嬲られながらも、良太郎は思った。  そんな時、良太郎の内部から、良太郎に声を掛けてくれたのは、キンタロスだった。 (良太郎、ここは俺に任せるんや!)  キンタロスが、良太郎に有無を言わさずにこの身体の所有権を握ろうとする。  だが、良太郎はそれを善しとはしなかった。自分の意識を決して手放そうとはせずに、キンタロスを拒絶した。 (何してるんや良太郎!?)  驚愕したキンタロスが怒鳴る。  だけれども、良太郎はまるで意に介さずに、走り出した。  頭上では、絶え間なく爆発が続き、大量の鉄骨が降り注ぐ。  それでも良太郎は、呆気に取られるあきらと冴子の元まで駆け寄ると、二人の方を強く掴んだ。   「ここにいちゃ、拙いよ! 早く、逃げなきゃ!」  誰よりも早く、俊敏に行動したのは良太郎だった。  キンタロスの助けをも拒絶して、良太郎は二人の肩を掴んだまま、一生懸命に走る。  もうこれ以上は、ウラタロスとキンタロスに頼りっぱなしの自分は止めにするつもりだった。  必ず二人の力が必要になる時も来るだろうが、今はまだその時ではない。それを理解したからこそだった。  そして何よりも、死んだ友の想いを受け継ぐと、良太郎はこの心に誓ったのだ。  だから良太郎は、何があろうと絶対に折れはしない。  ここで皆で一緒に生き残ってみせるのだと、強く念じた。   (良太郎、お前一人じゃ……) (無駄だよキンちゃん。こうなった良太郎は、誰よりも意思が強いって知ってるでしょ。  きっと僕やキンちゃんどころか、先輩の言う事だってもう聞かないよ。なら僕達は大人しく待つしかないでしょ) (そ、それはそうかも知らんけどやなぁ……) (大丈夫だから、今は良太郎に任せようよ)  頭の中で慌てるキンタロスを制したのは、ウラタロスだった。  流石はウラタロスと言ったところか。人の心を読むのは彼の最も得意とする分野。  良太郎の強い想いを汲み取って、ウラタロスは今、レディ二人を良太郎に任せてくれたのだ。  ならば良太郎は、その想いにも応える必要がある。この場の誰よりも強い意志を持った男は、誰の助けをも求めず、立ち上がったのだった。     ◆ 「ガハァッ!」  純一にしては無様な呻き声だった。  固いアスファルトとの激突で、グレイブの装甲は限界を迎えた。  生身を晒した純一は、目立った外傷こそないものの、苦しげに天を仰ぎ、笑う。  爆発の颶風に身を嬲られ、落下してゆく鉄骨に激突し、終いにはアスファルトとの激突だ。  いくら人ならざる存在とはいえ、これが堪えない筈は無かった。  症状で言うなら、恐らくは全身打撲、程度だろうか。何にせよ後を引く程の怪我ではない。  罠にしては些か無謀過ぎたかとも思うが、これであの村上を仕留められたのなら文句は無い。  真下に居た三人も、無事に済んだとは思い難い。仮に逃げ延られたとしても、あの集団からは抜ける事には成功した。  純一が何か行動を起こそうとしても、野上は逐一邪魔をして来るし、村上は油断も隙も無かったのだ。  正直言って、あの厄介な集団に入ってしまったのは、純一にとって痛恨のミスであった。  しかし、その不自由ともこれでおさらばだ。これでようやく純一は自由になれる。  そう思った矢先。純一から少し離れた場所で、バラバラになった鉄骨がごと、と音を立てて崩れ去った。 「まさかこんな方法で東京タワーを爆発させるとは……恐れ入りましたよ」 「貴様……その声は……!!」  何事かと思って、声の主を見遣る。  そこに居たのは、頭からつま先まで、純白の怪人だった。  最早人のものですら無くなった鋭い眼光は、殺意を以て純一へと向けられる。  しかし、純白の怪人が発する声は、つい先程まで戦っていた村上の声そのものだった。  園田真理から聞いた話を思い出す。確か、オルフェノク、とか言ったか。  誤算だった。自分は人間ではないのだから死ぬ筈もないと踏んだが、相手も人外である事は、盲点だったのだ。  つくづく上手くいかないものだ。軽く舌打ちをしながら、いよいよ次の変身手段を使う時が来たかと思う。  オルフェノクとなった村上が放つ威圧感は相当だ。ジョーカーにするか、オルタナティブにするか、考える。  恐らく、確実に敵を仕留めたいのであればジョーカーになるべきなのだろうが、あまりあの姿を多様したくはない。  ジョーカーは切り札なのだ。他の選択肢があるなら、それよりも優先して使われるべきカードではない。  オルフェノクを睨みつけながらも、純一はよろよろと後退する。二人の距離が詰まるのは、ほんの一瞬だった。  純一の喉元を掴み上げた純白のオルフェノクは、この身体をギリギリと持ち上げる。  息苦しさを感じるが、自分は人外だ。窒息で死ぬ事はない。  いよいよ変身する時が来たか。そう思うが。   「志村さん!」 「――!?」  突如響いてきた声に、純一は聞き覚えがあった。  オルフェノクに喉元を締め上げられながらも、ゆっくりとそちらを見遣る。  そこに居るのは、若干へっぴり腰だけども、しっかりと地を踏み締め仁王立ちする野上だった。  野上の後方には、あきらと冴子も無事健在しているのが見えて、純一は心中で思いきり舌打ちした。  これだけ苦労しながらも、仕留めた相手は零。ふざけるなよ、何の為に俺は――。  しかし、今のこの状況を利用しない手は無い。   「た、助けて下さい……野上さん! 村上さんが、突然襲い掛かって来たんだ……!」 「そんな……もう人は襲わないって言ったのに、どうして……」  野上は一瞬悲しげに眼を伏せるが、次の瞬間には、意を決したように顔を上げた。  デイバッグから紫色の刀を取り出すと、お世辞にも慣れているとは言えぬ手つきで、それを構えた。  さながら、刀の使い方をまるで知らないド素人のようだった。  だけれども、その瞳だけは強く、剣呑であった。   「し、志村さんを離して下さい……村上さん!」  野上が声を張るが、オルフェノクは動じない。  ちらと野上を見るだけで、それ以上の仕種は何も返さなかった。  そうしている間にも、純一の喉元に加えられる圧力は徐々に強まって行く。  このままでは、例え人前であろうともジョーカーに変身せねばならなくなる。  これ以上野上に頼るのは止めた方がいいか……そう思った時だった。 「僕は……決めたんだ。もう、これ以上、誰にも悲しい思いはして欲しくないって」  静かにそう告げた野上は、一拍の間を置いて――一気に走り出した。 「やああーっ!」などと声を張り上げて、野上は純白のオルフェノクへと斬り掛かる。  オルフェノクは純一の身体を放り投げると、容易く野上が振り下ろした一太刀を受け止めた。  一瞬でも純一を離してくれたのなら、もうそれで十分だ。野上とてそれを理解しているのだろう。  解放された純一をちらと一瞥し、野上は叫んだ。   「ここは僕に任せて、逃げて、志村さん!」 「わかりました、ありがとうございます、野上さん!」  本当なら、「でも、野上さんを置いて行く事なんて出来ない!」とか、そういう事を言っておくべきだったのだろう。  だけれども、村上が変じたオルフェノクは、既に志村の正体を知っているのだ。そう考えれば、一刻の猶予もない。  変に演技を続けてネタばらしをされる前に、多少不自然でも、今はこの状況を離脱するのが先決かと思われた。  そう判断してからの行動は早い。純一は一目散に駆け出し、冴子とあきらの肩を掴むと、急いで退避を開始した。    志村があきらと冴子の二人を連れて離脱したのを確認して、良太郎は安心した。  少なくとも良太郎は、志村の事を信頼している。自分の代わりに、三人の命は救われたのだ。  後は、何とかして村上を止め、考え直して欲しい所だが……今の良太郎に変身が可能なのかどうかは些か疑問だ。  それに良太郎は、心の何処かでまだ村上を信じているのだ。変身して戦って倒してやりたいという事もない。  第一、自分に出来る事をやると決めたのに、変身すればまたウラタロス達に頼りっぱなしになる。良太郎はそれが嫌だった。  良太郎の友は、きっと最期まで戦ったのだ。ならば良太郎がここで諦めていい道理などはない。  決意を胸に、全力を込めて踏ん張る。ローズオルフェノクが掴んだままの刀に、無理矢理にでも力を込める。  ローズオルフェノクは、呆れたように良太郎の刀から手を離した。 「えっ……?」 「やれやれ……下の下、ですね」  そう言って、ローズオルフェノクは一歩身を引くと、その姿を変えた。  目を丸くする良太郎など意にも介さずに、その姿は元のスーツ姿へと戻ってゆく。  一体どういう事だろう。てっきり、先の放送を聞いた村上が、殺し合いに乗ってしまったのかと思ったのだが。  しかし変身を解除し、良太郎を見詰める村上の視線には、軽蔑はあっても、殺気というものは感じられなかった。  良太郎の頭の中に、酷くトーンを落としたウラタロスの声が聞こえて来たのは、それから一瞬後の事だった。 (やられたよ、良太郎……あの志村って奴にね) 「え……どういう……」  状況がまるで分からない。  村上は呆れたように嘆息し、言った。 「貴方は騙されたんですよ、志村純一にね」 「え……?」  この場で理解出来ていないのは、良太郎ただ一人だった。  周囲を見渡すが、そこに志村の姿はもうない。ただ、崩れ去った鉄骨が積み重なって、燃えているだけだった。  最早完全に崩れ去った東京タワーの跡地で、瓦礫と鉄骨の山に囲まれながら、良太郎はようやく彼らの真意を理解した。  それに気付いた瞬間、良太郎の中で積み上げられていた「信頼」は、東京タワーと同じように崩れ去っていった。   【1日目 夜】 【D-5 東京タワー跡地】 【野上良太郎@仮面ライダー電王】 【時間軸】第38話終了後 【状態】強い決意、疲労(中)、ダメージ(中) 【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト 【道具】支給品一式 【思考・状況】 基本行動方針:モモタロスの分まで、皆を守る為に戦いたい。 0:極力自分の力で、自分に出来る事、やるべき事をやる。 1:志村純一に騙された……? 2:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう… 3:リュウタロスを捜す。 4:殺し合いに乗っている人物に警戒 5:電王に変身できなかったのは何故…? 6:橘朔也との合流を目指したい。相川始を警戒。 7:あのゼロノスは一体…? 【備考】 ※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。 ※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。 ※ウラタロスは志村と冴子に警戒を抱いています。 ※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。 ※ドッガハンマーは紅渡の元へと召喚されました。本人は気付いていません。 ※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。 ※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。 ※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。 【村上峡児@仮面ライダー555】 【時間軸】不明 少なくとも死亡前 【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、バードメモリに溺れ気味、オーガに二時間変身不可、オルフェノクに二時間変身不可 【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト 【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み) 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。 1:今すぐに良太郎を殺す気は無いが、今後の同行についてはもう少し見極めが必要。 2:志村は敵。次に会った時には確実に仕留めるべき。 3:亜樹子の逃走や、それを追った涼にはあまり感心が沸かない。 4:冴子とガイアメモリに若干の警戒。 【備考】 ※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。 ※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。 ※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。 【全体の備考】 ※18時50分頃、東京タワーは爆発・崩落しました。 ※広い範囲でこの様子は確認されたものと思われます。 |084:[[Round Zero ~Killing time]]|投下順|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |084:[[Round Zero ~Killing time]]|時系列順|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[園咲冴子]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[志村純一]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[天美あきら]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[野上良太郎]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| |067:[[第二楽章♪次のステージへ]]|[[村上峡児]]|085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]| ----

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