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愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)」(2011/12/06 (火) 15:42:43) の最新版変更点

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*愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)◆MiRaiTlHUI  あきらと冴子が立ち止まったのは、あれから十分程後の事だった。  しかし、それ程遠くへ離脱する事が出来たのかと問われれば、そういう事もない。  ただでさえ冴子は脚を怪我しているのだから、一般人同然の二人がそう上手く逃げられる訳がなかった。  そして、そこまで理解した上で、志村は自分達に、来た方向へと戻るようにと告げた。  市街地に逃げ込むよりも、今は誰も居ない事が証明されているホテル方面へ戻るのが得策だからだと言った。  あきらと冴子の二人にそう指示した志村は、野上さん一人だけを放っておく事は出来ないと、一人で引き返したのだ。  正義の仮面ライダーである彼がこの場から居なくなった時点で、自分達の身は自分で守らねばならない。  いざとなれば戦う事も辞さない覚悟であったが……今はまず、休憩が必要だと思われた。  何しろ、ここまで走りっぱなしだったのだ。体力の限界も近い。   「大丈夫ですか、冴子さん」 「ええ、何とか。悪いわね、私の為に貴女にまで迷惑を掛けてしまって」 「いえ、気にしないで下さい。冴子さんには何の罪もありません」  殺し合いに乗った者に襲われ負傷した冴子は、寧ろ被害者だと言える。  襲われ、脚を怪我し、それでも逃げ延びて、今度は味方に迫害されては堪ったものではなかろう。  今はとにかく、志村の言う通りに離脱するのが先決だ。体勢を立て直さねば、何も出来まい。  あきらは、座り込んだ冴子に手を差し伸べた。   「……借りを作ってしまうわね」 「そんな事ありません」  そう言って緩く微笑み、あきらは冴子に肩を貸した。  助けを得ながらも、何とか立ち上がった冴子と共に、あきらは歩き出す。  しかし、その足取りは重い。負傷者である冴子を連れているからか、それとも精神的なものか。  もう人は襲わせないと誓った筈なのに、村上はまた人を襲ってしまった。  あんなに人の良い志村を、その手で殺そうとしていたのだから、言い逃れのしようもない。  それを考えると、もしかしたら、東京タワーを爆破したのも村上なのかも知れない。  考えたくはないが、後から東京タワーに入って行ったのも、志村や自分達を殺す為の――。  いいや、そんな事は今考えた所で意味の無い事だ。今はまず、生き残る事を考えねばなるまい。  そう思いながらも、一歩ずつ確実に前進してゆくが――不意に、後方から足音が聞こえて来た。  ザッ、ザッ、と。平原の草むらを踏み締め、歩いて来る何者かの足音だ。  あきらが咄嗟に振り返ると、 「貴方は……仮面ライダー――?」  そこには、漆黒の仮面ライダーが居た。  頭まで爪先まで、殆どが漆黒だが、全身に金のラインが奔っている。  右手に握り締めた巨大な大剣を引き摺る事で、その切先は地面を抉り、緑の平原に茶色の傷跡を残していた。  漆黒の仮面ライダーはあきらの問いには決して応える事無く、ゆっくりと歩を進めて来る。  奴は敵だ。直感があきらにそう訴えかけて来る。敵が放つ殺気は、友好的な人間に放てるものではない。 「逃げて下さい、冴子さん……私が時間を稼ぎます」  そう言って、冴子の肩に回していた手を、冴子から離した。  冴子はこくりと頷くと、あきらを信頼してくれたのか、脚を引き摺りながらも、後方へと走り出した。  脚を怪我した彼女が完全に離脱するまでには時間がかかるだろう。  何としてでも、自分がここで時間を稼がねばならない。  デイバッグから音笛を取り出し、口元へ運ぶ。    ――ACCEL VENT――    鬼の音色が高らかに響くのと同時だった。  漆黒のライダーが、右腕のガントレットに一枚のカードを通す。  あきらが、青い炎と共に燃え尽きてゆくカードを認識した次の瞬間には、既に漆黒のライダーはそこには居なかった。  ほんの一瞬だった。黒のライダーが、一瞬であきらの眼前に現れたかと思えば、あきらの身体は既に自由を失っていた。  激痛が走ったように思うが、もうそれが痛みと呼べるものであるのかどうかも、あきらには分からない。  ゆっくりと視線を降ろせば、漆黒のライダーの大剣が、自分の腹部へと突き刺さっていた。   「お前達のお陰で、本当に動きにくかったよ」  これはその礼だ、とでも言わんばかりに。  漆黒のライダーは、寒気が走る程に気味の悪い声で囁いた。  何処かで聞いた声のような気がするが、それが誰の声なのかはもう分からない。  勢いよく大剣を引き抜かれれば、そこから大量の血が噴き出して、いよいよあきらは自立すらも不可能となった。      平原を鮮血で染めながら崩れ落ちたあきらの姿を、冴子は見た。  あきらを殺した漆黒の仮面ライダーは、ゆっくりと、しかし確実に歩を進める。  地に引き摺られる大剣が、ガリガリと不気味な音を立てながら、地面を緩く抉る。  冴子は必死になって逃げようとするが、脚は自由に動かない。  必死になればなる程にこの脚はもつれ、逃走を困難とする。  逃走は不可能だ。聡明な冴子が、その結論に至るまでにそれ程時間は掛からなかった。  デイバッグからガイアドライバーを取り出した冴子は、それを自らの腰に押し当てる。  一瞬でベルトとなったそれに、冴子は最も信頼のおける金のメモリを挿入した。    ――TABOO――    変化は一瞬だ。  メモリによって冴子の身体は作り変えられ、人を越えた存在へと進化した。  タブードーパントとなった冴子の身体は、脚の不自由さなど気にする事もなく、宙へと浮かび上がった。  漆黒の仮面ライダーはしかし、別段気にする様子もなく、対処をする素振りすら見せようとはしない。  ミュージアムの幹部ともあろう者が、随分と舐められたものだ。  タブードーパントは、掌の中で火球を生成すると、それをライダー目掛けて放り投げた。  ちらと顔を上げ、迫る火球を認識したライダーは、大剣を振るい上げ、火球を防ぐ。  大剣の腹で軽い爆発が起こるのを確認しながら、次の火球、またその次の火球を撃ち出した。  隙を与えてはならない。一気に責め立て、隙を見てこの戦域から離脱し、体勢を立て直す。  運が良ければ、また野上や志村のような御人好しを見付け、利用すればいいだけだ。  その為にも、今は生きる。生き残って、何としても生還して見せるのだ。  火球攻撃の連続に、次第に漆黒のライダーは防戦一方となって行った。  ライダーの周囲は既に火の海で、冴子の必死の攻撃が窺える。  これならば、すぐに追い付かれる事もあるまい。  タブードーパントは、宙空をフラフラとよろめきながらも、撤退を開始した。      変身制限の時間が訪れるまで、冴子は逃げ続けた。  だけれども、蓄積された疲労の為か、最早真っ直ぐに空を飛ぶ事は不可能だった。  何度も高度を下げて、何度も地面に落ちそうになって、それでも逃げ続けたのだ。  全ては今後の為に。今はまず、ホテルで休んで、体力を回復してから体勢を立て直す。  それさえ出来れば、些か極論だけども、漆黒のライダーとの戦いに於いては勝ったも同然。  どもかく、今はキバへの変身と、サガから受けたダメージ、それからここまで走り続け飛び続けた事で、体力も限界に近かった。  恐らく、冴子が思う程遠くへ離脱する事は敵わなかったのだろうと、悔しいながらも実感する。  それでも、脚を引き摺って歩き続けた所で――冴子は、見付けた。    「貴方は……」    それは、数時間前に見付けた一人の男の遺体。  頭から割られ、何者かによって惨殺された自分の世界の男のなれの果て。  どうしてだろうか、冴子はこの男を見てしまうと、どうしようもなく不快な気持ちになってしまう。  それは何処か、この男を慈しんでいるかのような……ある訳のない、不思議な情。  この男の前では、自分が自分の知らない自分になってしまう気がしてしまう。 「どうして、こんなに……」  これは何の根拠も無い、下らない運命論なのだろうが。  もしかしたら、別の時間軸、別の世界線では、自分はこの男と何らかの関係を持っていたのかもしれない。  起こり得るかも知れなかった、別の未来の可能性。全く別の世界線での因果が、自分にそんな幻影を見せるのか。  非現実的で、有り得る訳がないと思いながらも、気付いた時には、冴子は再び男の遺体に見入ってしまっていた。  そんな時だった。   「冴子さん」  何者かに、その名を呼ばれたのは。  慌てて振り返ると、そこに居たのは一人の男だ。  まだ若く、爽やか過ぎる程に爽やかな笑顔を振り撒く御人好し。  人の為に戦いたいと言って憚らなかった正義の仮面ライダー、志村純一。  志村の登場に、冴子は些か驚きながらも、質問を投げかけた。 「どうして貴方がここに居るの……?」  しかし志村は答えない。  ただいつも通りに微笑んで見せるだけだった。  志村の笑顔は、場の薄暗さの所為か、酷く歪んで見えた。  気味の悪い笑顔だ。まるで化け物が微笑んでいるかのような錯覚すら覚える。  そして、そこでようやくこの男の異常性に、狂気に気が付いて、冴子は寒気を感じた。 「その男の人、冴子さんのお知り合いなんですか」 「……知り合いだったら、何だというの?」 「とても運命的だなぁと思って」  とても嬉しそうに、志村はそう言った。  口調は柔らかく、相手を安心させるように優しい。  それなのに、この男が喋る度、どうしようもなく悪寒が走る。  志村は穏やかに歩を進め、冴子と、男の遺体の眼前で立ち止まった。  夜空に輝く月は、俯く志村を淡く照らしていて、その狂気性を引き立てているようだった。 「その人を殺したのはね」  緩い風に吹かれてやってきた厚い雲が、月明かりを覆い隠す。  月の光の届かない世界では、何者を見る事すらも適わない。  冴子の眼には、俯く志村の表情は見えはしなかった。  だけども、きっと笑っているのだろうと思う。  志村は、狂気に満ちた薄笑いと共に告げた。 「僕なんですよ」  月明かりを閉ざしていた雲が、ゆっくりと流れて行く。  雲間から差し込んだ月明かりは、再び志村の顔をぼんやりと照らした。  だけれども、志村は既に、冴子の知る御人好しの顔ではなくなっていた。  そいつは、血塗られたような赤のフェイスカバーの奥で笑う。  それは狂気すら孕んだ、死神の笑顔だった。  随分と時間が立ったような気がする。  結局、冴子はあれから何もする事は出来なかった。  最悪の鬼札(ジョーカー)の存在に気付くのが、あまりに遅かった。  冴子が死神の嘲笑の次に見たのは、月明かりの下で振り上げられた、白と赤の鎌だ。  それは成程死神の如く、弧を描きながら冴子へと到来し、この身を引き裂いた。  かろうじてまだ意識はあるが、もうこれ以上は動くことも出来まい。  力無く伸ばした手は、誰にも届かず、地面へと吸い込まれてゆく。  だけれども、その手を受け止めてくれる人は居た。  冴子の手が落ちた先にあったのは、名も知らぬ男の冷たい手だった。  彼が、最期にこの手を受け止めてくれた気がして。  冴子は力無く、自嘲した。  成る程――。   (――私はあなたを……愛していたのね)  根拠も、理由も、何処にもないけれど。  冴子はそれでも、走馬灯のように流れてゆく記憶の中で、息を引き取った。  それはもしかしたら、別の時間軸で起こり得た、幸せな未来だったのかもしれない。     ◆  狂気の死神は笑う。ただ冷淡に、冷徹に、それでいて、楽しそうに。  異世界の人間が、また二人死んだ。これで剣の世界が勝ち残る確率は更に上がった。  放送を行ったキングとか言う奴は言った。これはゲームだ。重要なのは、どう攻略するかだと。  それならば、これこそが死神ジョーカーのプレイングスタイルだと言わせて貰おう。  まともに戦う気などは更々ない。ただ、隙を見て参加者を間引いて行く。  それが最も賢く、それでいて最も合理的なゲームのスタイルである。 「しかし」  野上と村上を放置して来たのは、ミスだったかと思う。  奴らは自分が殺し合いに乗っている事を知ってしまったのだ。  出来る事なら確実に葬り去りたかったが、生憎その隙はなかった。  ジョーカーとしての姿を見られる事がなかった事だけがせめてもの救いか。  何にせよ、ここまで純一がジョーカーの姿を見せた相手は、全員殺している。  ジョーカーとは即ち死神。その姿を見た者は、決して生きては帰れない。  これからもずっと、ジョーカーとはそういう存在であり続けるべきなのだ。  その為には、数多くの変身手段が必要になるだろう。 「出来るだけ変身道具を集めて、ジョーカーは温存しないとな」  ゲームの攻略への道筋を、少しずつ明確にしてゆく。  一つ。ジョーカーは、確実に参加者を殺せる時にしか使わない。  一つ。ジョーカーの姿を見た者は確実に殺し、自分の正体は隠蔽する。  一つ。ジョーカーを使う為にも、まずは善人を装い、集団に入り込む。  それらを実行する為には……とりあえず、野上と村上の存在は邪魔だ。  これから出会う参加者には、野上と村上は実は殺し合いに乗っていると悪評を広めよう。  信頼さえ得てしまえば、きっと皆は自分の言う事を信じる。後はどさくさに紛れて奴らを始末出来れば、完璧だ。  月夜の闇に紛れて、死神ジョーカーは殺戮の饗宴に身を投じてゆくのだった。       【1日目 夜】 【D-6 平原】   【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】 【時間軸】不明 【状態】全身の各所に火傷と凍傷と打撲、疲労(小)、グレイブに1時間35分変身不可、オルタナティブに1時間45分変身不可、ジョーカーに1時間55分変身不可 【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト 【道具】支給品一式×3(ただし必要な物のみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、トライアクセラー@仮面ライダークウガ     あきらの不明支給品0~1、加賀美の不明支給品0~1、ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ 【思考・状況】 基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。 1:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。 2:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。 3:野上と村上の悪評を広め、いずれは二人を確実に潰したい。 【備考】 ※555の世界の大まかな情報を得ました。 ※電王世界の大まかな情報を得ました。 ※ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。 ※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。 ※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。 ※名簿に書かれた金居の事を、ギラファアンデッドであると推測しています。 ※放送を行ったキングがアンデッドである事に気付いているのかどうかは不明です。 &color(red){【天美あきら@仮面ライダー響鬼 死亡確認】} &color(red){【園咲冴子@仮面ライダーW 死亡確認】}  &color(red){残り36人} 【全体の備考】 ※C-6西南寄りにあきらの遺体が、C-6北寄りに冴子と井坂の遺体が放置されています。 ※ニビイロヘビ@仮面ライダー響鬼、着替えの服(三着)@現実はあきらのデイバッグに放置されています。 |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|投下順|086:[[This Love Never Ends♪音也の決意(前編)]]| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|時系列順|087:[[防人(前篇)]]| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[園咲冴子]]|&color(red){GAME OVER}| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[志村純一]]|095:[[志村運送(株)]]| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[天美あきら]]|&color(red){GAME OVER}| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[野上良太郎]]|| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[村上峡児]]|| ----
*愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)◆MiRaiTlHUI  あきらと冴子が立ち止まったのは、あれから十分程後の事だった。  しかし、それ程遠くへ離脱する事が出来たのかと問われれば、そういう事もない。  ただでさえ冴子は脚を怪我しているのだから、一般人同然の二人がそう上手く逃げられる訳がなかった。  そして、そこまで理解した上で、志村は自分達に、来た方向へと戻るようにと告げた。  市街地に逃げ込むよりも、今は誰も居ない事が証明されているホテル方面へ戻るのが得策だからだと言った。  あきらと冴子の二人にそう指示した志村は、野上さん一人だけを放っておく事は出来ないと、一人で引き返したのだ。  正義の仮面ライダーである彼がこの場から居なくなった時点で、自分達の身は自分で守らねばならない。  いざとなれば戦う事も辞さない覚悟であったが……今はまず、休憩が必要だと思われた。  何しろ、ここまで走りっぱなしだったのだ。体力の限界も近い。   「大丈夫ですか、冴子さん」 「ええ、何とか。悪いわね、私の為に貴女にまで迷惑を掛けてしまって」 「いえ、気にしないで下さい。冴子さんには何の罪もありません」  殺し合いに乗った者に襲われ負傷した冴子は、寧ろ被害者だと言える。  襲われ、脚を怪我し、それでも逃げ延びて、今度は味方に迫害されては堪ったものではなかろう。  今はとにかく、志村の言う通りに離脱するのが先決だ。体勢を立て直さねば、何も出来まい。  あきらは、座り込んだ冴子に手を差し伸べた。   「……借りを作ってしまうわね」 「そんな事ありません」  そう言って緩く微笑み、あきらは冴子に肩を貸した。  助けを得ながらも、何とか立ち上がった冴子と共に、あきらは歩き出す。  しかし、その足取りは重い。負傷者である冴子を連れているからか、それとも精神的なものか。  もう人は襲わせないと誓った筈なのに、村上はまた人を襲ってしまった。  あんなに人の良い志村を、その手で殺そうとしていたのだから、言い逃れのしようもない。  それを考えると、もしかしたら、東京タワーを爆破したのも村上なのかも知れない。  考えたくはないが、後から東京タワーに入って行ったのも、志村や自分達を殺す為の――。  いいや、そんな事は今考えた所で意味の無い事だ。今はまず、生き残る事を考えねばなるまい。  そう思いながらも、一歩ずつ確実に前進してゆくが――不意に、後方から足音が聞こえて来た。  ザッ、ザッ、と。平原の草むらを踏み締め、歩いて来る何者かの足音だ。  あきらが咄嗟に振り返ると、 「貴方は……仮面ライダー――?」  そこには、漆黒の仮面ライダーが居た。  頭まで爪先まで、殆どが漆黒だが、全身に金のラインが奔っている。  右手に握り締めた巨大な大剣を引き摺る事で、その切先は地面を抉り、緑の平原に茶色の傷跡を残していた。  漆黒の仮面ライダーはあきらの問いには決して応える事無く、ゆっくりと歩を進めて来る。  奴は敵だ。直感があきらにそう訴えかけて来る。敵が放つ殺気は、友好的な人間に放てるものではない。 「逃げて下さい、冴子さん……私が時間を稼ぎます」  そう言って、冴子の肩に回していた手を、冴子から離した。  冴子はこくりと頷くと、あきらを信頼してくれたのか、脚を引き摺りながらも、後方へと走り出した。  脚を怪我した彼女が完全に離脱するまでには時間がかかるだろう。  何としてでも、自分がここで時間を稼がねばならない。  デイバッグから音笛を取り出し、口元へ運ぶ。    ――ACCEL VENT――    鬼の音色が高らかに響くのと同時だった。  漆黒のライダーが、右腕のガントレットに一枚のカードを通す。  あきらが、青い炎と共に燃え尽きてゆくカードを認識した次の瞬間には、既に漆黒のライダーはそこには居なかった。  ほんの一瞬だった。黒のライダーが、一瞬であきらの眼前に現れたかと思えば、あきらの身体は既に自由を失っていた。  激痛が走ったように思うが、もうそれが痛みと呼べるものであるのかどうかも、あきらには分からない。  ゆっくりと視線を降ろせば、漆黒のライダーの大剣が、自分の腹部へと突き刺さっていた。   「お前達のお陰で、本当に動きにくかったよ」  これはその礼だ、とでも言わんばかりに。  漆黒のライダーは、寒気が走る程に気味の悪い声で囁いた。  何処かで聞いた声のような気がするが、それが誰の声なのかはもう分からない。  勢いよく大剣を引き抜かれれば、そこから大量の血が噴き出して、いよいよあきらは自立すらも不可能となった。      平原を鮮血で染めながら崩れ落ちたあきらの姿を、冴子は見た。  あきらを殺した漆黒の仮面ライダーは、ゆっくりと、しかし確実に歩を進める。  地に引き摺られる大剣が、ガリガリと不気味な音を立てながら、地面を緩く抉る。  冴子は必死になって逃げようとするが、脚は自由に動かない。  必死になればなる程にこの脚はもつれ、逃走を困難とする。  逃走は不可能だ。聡明な冴子が、その結論に至るまでにそれ程時間は掛からなかった。  デイバッグからガイアドライバーを取り出した冴子は、それを自らの腰に押し当てる。  一瞬でベルトとなったそれに、冴子は最も信頼のおける金のメモリを挿入した。    ――TABOO――    変化は一瞬だ。  メモリによって冴子の身体は作り変えられ、人を越えた存在へと進化した。  タブードーパントとなった冴子の身体は、脚の不自由さなど気にする事もなく、宙へと浮かび上がった。  漆黒の仮面ライダーはしかし、別段気にする様子もなく、対処をする素振りすら見せようとはしない。  ミュージアムの幹部ともあろう者が、随分と舐められたものだ。  タブードーパントは、掌の中で火球を生成すると、それをライダー目掛けて放り投げた。  ちらと顔を上げ、迫る火球を認識したライダーは、大剣を振るい上げ、火球を防ぐ。  大剣の腹で軽い爆発が起こるのを確認しながら、次の火球、またその次の火球を撃ち出した。  隙を与えてはならない。一気に責め立て、隙を見てこの戦域から離脱し、体勢を立て直す。  運が良ければ、また野上や志村のような御人好しを見付け、利用すればいいだけだ。  その為にも、今は生きる。生き残って、何としても生還して見せるのだ。  火球攻撃の連続に、次第に漆黒のライダーは防戦一方となって行った。  ライダーの周囲は既に火の海で、冴子の必死の攻撃が窺える。  これならば、すぐに追い付かれる事もあるまい。  タブードーパントは、宙空をフラフラとよろめきながらも、撤退を開始した。      変身制限の時間が訪れるまで、冴子は逃げ続けた。  だけれども、蓄積された疲労の為か、最早真っ直ぐに空を飛ぶ事は不可能だった。  何度も高度を下げて、何度も地面に落ちそうになって、それでも逃げ続けたのだ。  全ては今後の為に。今はまず、ホテルで休んで、体力を回復してから体勢を立て直す。  それさえ出来れば、些か極論だけども、漆黒のライダーとの戦いに於いては勝ったも同然。  どもかく、今はキバへの変身と、サガから受けたダメージ、それからここまで走り続け飛び続けた事で、体力も限界に近かった。  恐らく、冴子が思う程遠くへ離脱する事は敵わなかったのだろうと、悔しいながらも実感する。  それでも、脚を引き摺って歩き続けた所で――冴子は、見付けた。    「貴方は……」    それは、数時間前に見付けた一人の男の遺体。  頭から割られ、何者かによって惨殺された自分の世界の男のなれの果て。  どうしてだろうか、冴子はこの男を見てしまうと、どうしようもなく不快な気持ちになってしまう。  それは何処か、この男を慈しんでいるかのような……ある訳のない、不思議な情。  この男の前では、自分が自分の知らない自分になってしまう気がしてしまう。 「どうして、こんなに……」  これは何の根拠も無い、下らない運命論なのだろうが。  もしかしたら、別の時間軸、別の世界線では、自分はこの男と何らかの関係を持っていたのかもしれない。  起こり得るかも知れなかった、別の未来の可能性。全く別の世界線での因果が、自分にそんな幻影を見せるのか。  非現実的で、有り得る訳がないと思いながらも、気付いた時には、冴子は再び男の遺体に見入ってしまっていた。  そんな時だった。   「冴子さん」  何者かに、その名を呼ばれたのは。  慌てて振り返ると、そこに居たのは一人の男だ。  まだ若く、爽やか過ぎる程に爽やかな笑顔を振り撒く御人好し。  人の為に戦いたいと言って憚らなかった正義の仮面ライダー、志村純一。  志村の登場に、冴子は些か驚きながらも、質問を投げかけた。 「どうして貴方がここに居るの……?」  しかし志村は答えない。  ただいつも通りに微笑んで見せるだけだった。  志村の笑顔は、場の薄暗さの所為か、酷く歪んで見えた。  気味の悪い笑顔だ。まるで化け物が微笑んでいるかのような錯覚すら覚える。  そして、そこでようやくこの男の異常性に、狂気に気が付いて、冴子は寒気を感じた。 「その男の人、冴子さんのお知り合いなんですか」 「……知り合いだったら、何だというの?」 「とても運命的だなぁと思って」  とても嬉しそうに、志村はそう言った。  口調は柔らかく、相手を安心させるように優しい。  それなのに、この男が喋る度、どうしようもなく悪寒が走る。  志村は穏やかに歩を進め、冴子と、男の遺体の眼前で立ち止まった。  夜空に輝く月は、俯く志村を淡く照らしていて、その狂気性を引き立てているようだった。 「その人を殺したのはね」  緩い風に吹かれてやってきた厚い雲が、月明かりを覆い隠す。  月の光の届かない世界では、何者を見る事すらも適わない。  冴子の眼には、俯く志村の表情は見えはしなかった。  だけども、きっと笑っているのだろうと思う。  志村は、狂気に満ちた薄笑いと共に告げた。 「僕なんですよ」  月明かりを閉ざしていた雲が、ゆっくりと流れて行く。  雲間から差し込んだ月明かりは、再び志村の顔をぼんやりと照らした。  だけれども、志村は既に、冴子の知る御人好しの顔ではなくなっていた。  そいつは、血塗られたような赤のフェイスカバーの奥で笑う。  それは狂気すら孕んだ、死神の笑顔だった。  随分と時間が立ったような気がする。  結局、冴子はあれから何もする事は出来なかった。  最悪の鬼札(ジョーカー)の存在に気付くのが、あまりに遅かった。  冴子が死神の嘲笑の次に見たのは、月明かりの下で振り上げられた、白と赤の鎌だ。  それは成程死神の如く、弧を描きながら冴子へと到来し、この身を引き裂いた。  かろうじてまだ意識はあるが、もうこれ以上は動くことも出来まい。  力無く伸ばした手は、誰にも届かず、地面へと吸い込まれてゆく。  だけれども、その手を受け止めてくれる人は居た。  冴子の手が落ちた先にあったのは、名も知らぬ男の冷たい手だった。  彼が、最期にこの手を受け止めてくれた気がして。  冴子は力無く、自嘲した。  成る程――。   (――私はあなたを……愛していたのね)  根拠も、理由も、何処にもないけれど。  冴子はそれでも、走馬灯のように流れてゆく記憶の中で、息を引き取った。  それはもしかしたら、別の時間軸で起こり得た、幸せな未来だったのかもしれない。     ◆  狂気の死神は笑う。ただ冷淡に、冷徹に、それでいて、楽しそうに。  異世界の人間が、また二人死んだ。これで剣の世界が勝ち残る確率は更に上がった。  放送を行ったキングとか言う奴は言った。これはゲームだ。重要なのは、どう攻略するかだと。  それならば、これこそが死神ジョーカーのプレイングスタイルだと言わせて貰おう。  まともに戦う気などは更々ない。ただ、隙を見て参加者を間引いて行く。  それが最も賢く、それでいて最も合理的なゲームのスタイルである。 「しかし」  野上と村上を放置して来たのは、ミスだったかと思う。  奴らは自分が殺し合いに乗っている事を知ってしまったのだ。  出来る事なら確実に葬り去りたかったが、生憎その隙はなかった。  ジョーカーとしての姿を見られる事がなかった事だけがせめてもの救いか。  何にせよ、ここまで純一がジョーカーの姿を見せた相手は、全員殺している。  ジョーカーとは即ち死神。その姿を見た者は、決して生きては帰れない。  これからもずっと、ジョーカーとはそういう存在であり続けるべきなのだ。  その為には、数多くの変身手段が必要になるだろう。 「出来るだけ変身道具を集めて、ジョーカーは温存しないとな」  ゲームの攻略への道筋を、少しずつ明確にしてゆく。  一つ。ジョーカーは、確実に参加者を殺せる時にしか使わない。  一つ。ジョーカーの姿を見た者は確実に殺し、自分の正体は隠蔽する。  一つ。ジョーカーを使う為にも、まずは善人を装い、集団に入り込む。  それらを実行する為には……とりあえず、野上と村上の存在は邪魔だ。  これから出会う参加者には、野上と村上は実は殺し合いに乗っていると悪評を広めよう。  信頼さえ得てしまえば、きっと皆は自分の言う事を信じる。後はどさくさに紛れて奴らを始末出来れば、完璧だ。  月夜の闇に紛れて、死神ジョーカーは殺戮の饗宴に身を投じてゆくのだった。       【1日目 夜】 【D-6 平原】   【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】 【時間軸】不明 【状態】全身の各所に火傷と凍傷と打撲、疲労(小)、グレイブに1時間35分変身不可、オルタナティブに1時間45分変身不可、ジョーカーに1時間55分変身不可 【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト 【道具】支給品一式×3(ただし必要な物のみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、トライアクセラー@仮面ライダークウガ     あきらの不明支給品0~1、加賀美の不明支給品0~1、ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ 【思考・状況】 基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。 1:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。 2:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。 3:野上と村上の悪評を広め、いずれは二人を確実に潰したい。 【備考】 ※555の世界の大まかな情報を得ました。 ※電王世界の大まかな情報を得ました。 ※ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。 ※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。 ※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。 ※名簿に書かれた金居の事を、ギラファアンデッドであると推測しています。 ※放送を行ったキングがアンデッドである事に気付いているのかどうかは不明です。 &color(red){【天美あきら@仮面ライダー響鬼 死亡確認】} &color(red){【園咲冴子@仮面ライダーW 死亡確認】}  &color(red){残り36人} 【全体の備考】 ※C-6西南寄りにあきらの遺体が、C-6北寄りに冴子と井坂の遺体が放置されています。 ※ニビイロヘビ@仮面ライダー響鬼、着替えの服(三着)@現実はあきらのデイバッグに放置されています。 |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|投下順|086:[[This Love Never Ends♪音也の決意(前編)]]| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|時系列順|087:[[防人(前篇)]]| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[園咲冴子]]|&color(red){GAME OVER}| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[志村純一]]|095:[[志村運送(株)]]| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[天美あきら]]|&color(red){GAME OVER}| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[野上良太郎]]|098:[[新たなる思い]]| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(前編)]]|[[村上峡児]]|098:[[新たなる思い]]| ----

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