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*防人(前篇)◆/kFsAq0Yi2  橘朔也とヒビキの二人は、E-5エリアの道路を南下していた。  元々は、大ショッカーが仕掛けたこのふざけた殺し合いを止めるために仲間や協力者を探そうと行動していた。変身手段を持つ参加者が五人も集まり、二手に分かれたとはいえこれだけの仲間が居るのだ、その行き先は決して暗いものではなかったはずだった。  はずだった、のに――  あまりにも危険な参加者、ン・ダグバ・ゼバとの出会いにより、全ては急変した。彼により自分達は酷く傷つき、他にも危険人物だったとはいえ二人の参加者が命を奪われた。  その光景を目にした小野寺ユウスケは、ダグバと等しい力を持つクウガとなった。だがそれは、人々を護る自分達にあってはならない、憎悪に支配された存在。  もしも、その力が自分達に振るわれたら――橘はその恐怖のまま、黒きクウガの危険性をヒビキに説いた。  光夏海という仲間を失い、ダグバと戦い、心身ともにボロボロなユウスケが、その言葉を耳にしている可能性を考慮せずに――  結果、ユウスケは自分達の元を去って行ってしまった。きっと、彼を恐怖した自分達を、巻き込んで傷つけてしまわないように。  そんな事態を招いてしまった原因は自分にあると考える橘の足取りは、重い。  そして彼、いや彼らの足取りを重くさせる理由は、もう一つあった。  それは、殺し合いの進行状況を告げる、大ショッカーによる放送。  そこで読み上げられたのは、全参加者の三分の一にもなる二十人の死者の名だった。  橘は、覚悟していたとはいえ大切な仲間である剣崎一真の死を突き付けられた。  だが、それだけで終わりではなかった。ヒビキも彼の頼れる先輩である財津原蔵王丸の死を告げられた。さらにこの会場にて出会った同志、海堂直也までも命を落としていた。  さらにその海堂の仲間だと言う木場勇治と園田真理の訃報まで読み上げられた。  特に、戦う力を持たず、早急に保護しなければならなかった園田真理の死は、守るべき人を護れなかったという罪悪感となって二人を締め付ける。  また、ヒビキ達には黙っていた人物だが、橘のかつての先輩であり、レンゲルの持つ闇により絶命したはずだった桐生豪の名が死者の中に含まれていたことも、橘の精神を責め立てていた。  さらに二人に絶望を与えたのは、大ショッカーの発表した世界ごとの殺害人数だった。  それによれば、クウガの世界が他を大きく引き離して一位。そこはあのダグバと、他に二体の未確認が所属する世界。  予想はしていたが、未確認生命体の脅威はこれで証明されたようなものだった。ダグバだけでなく、他の未確認も相応の力を持っていると考えられる。  自分達仮面ライダーが束になって、ようやく戦いになるかどうかというほどの力を誇る悪魔。そんな奴らが野放しになって、今もこの会場のどこかで暴虐の限りを尽くしているのかもしれない。  だが、それでも二人は止まるわけには行かなかった。  恐るべき未確認だが、その内の一体ズ・ゴオマ・グは既に倒されたと放送で告げられた。  また、多くの者達を取り零してしまったとはいえ、彼らが仮面ライダーである以上、まだ護るべき者達がこの会場には大勢いるのだ。  ダグバから橘を庇い散った、名も知らぬ参加者より言伝を預かった相手、小沢澄子。  彼女と共にいるところにヒビキが出会った、人を護る仮面ライダーとして戦う城戸真司。  他にも、やはりヒビキが別れた津上翔一や、あの時集まった五人がそれぞれ信頼できると名前を挙げた乾巧や紅渡を始めとする多くの者達は未だ名前を呼ばれずに済んでいる。  海堂は残念だったが、彼と共に別行動を取っていた名護啓介は生き残っている。  橘は信用していないが、アンデッドである相川始は剣崎の友だった。その始も無事だ。  そして自分達が知らない、護らねばならない人々がまだいるはずなのだ。  連続する絶望に、それでも彼らが屈せずに立ち向かうことができたのは、彼らの正義の心によるもの――  だがそれでも放送直後という短時間で立ち直れたのは、皮肉にも大ショッカーのおかげだと言えるかもしれない。  放送を行ったキングは、かつて剣崎が封印したはずのアンデッド、カテゴリーキングだ。奴の言う御人好しの仮面ライダーとは、十中八九剣崎のことだろう。  そんな彼の死を指して、奴は言った。  口先だけの正義の味方など、何の役にも立ちはしないと。  ならば自分達が、ここで悲しみに沈んでばかりいて良いわけがない――ヒビキがそう、放送を行う飛行船を睨んでいた橘に告げた。  剣崎は、病院にいた他の参加者を護るために単身危険人物に立ち向かい、死んだという。  確かにその場で剣崎が救った者達は――光夏海はその内の一人である、東條悟によって殺められた。その東條もまた、ダグバによって無惨に殺された。  だがそれでも、剣崎の死は無意味だったわけではないと、そうヒビキは言う。  何故なら自分達に、その正義の意思を遺してくれたのだから、と。  最期まで仮面ライダーだった彼は、自分達に勇気を与えてくれたのだと。  だからこそ――ここで自分達が立ち止まっていてはいけない。彼の遺志を継いで、仮面ライダーとして人々を護らなければならない。  そして剣崎達、散って行った仮面ライダーを嘲笑った大ショッカーを倒して殺し合いを止め、彼らへの侮辱を撤回させなければならないと。  その言葉を受け、橘はヒビキと今後のプランを考えた。  今の自分達がユウスケを追いかけることはできない。今のユウスケの精神状態には不安があるが、乗り越えてくれることを信じるしかない。  ユウスケこそいないが、当初の予定通りに病院に向かうべきだという結論に至るのに、そう時間は掛からなかった。  E-4エリアは――おそらく、そこで津上と合流する予定だったことを大ショッカーに察知されたのだろう、23時より禁止エリアに指定されていた。  だが、だからこそ――立ち寄れる内に、治療に使える道具を手にするために、参加者が集まる可能性も高い。協力を望める相手ならば是非もなく、もし危険人物がいるのなら、他の参加者を護るために戦うべきだと、そういう考えになったのだ。  夜の闇が足元を隠し、歩行するだけで体力を奪われる草原を歩くだけの余裕も二人にはなかった。市街地以上に人が集まる可能性があり、参加者と出会えなくても今後のために身体を癒すことができる病院は、そういう意味でもやはり目指すべき場所だった。  またダグバなどと遭遇したら今の自分達では絶望的だが、何も行動しないわけにはいかなかった。  何故なら、仮面ライダーなのだから。 (カテゴリーキング……)  放送を行ったアンデッドを思い出す。剣崎の死を愚弄した、あの青年を。 (貴様は剣崎が封印したはずだ。それでもまた俺達の前に立ち塞がり、人々を傷つけるというのなら……もう戦えない剣崎の代わりに、俺がおまえを封印する!)  その決意を胸に、橘は歩を進めた。  歩き始めた時、遥か前方だった街灯の煌めきの群れは、目の前まで近づいて来ていた。  きぃん、という剣戟の音と共に、夜の街に火花が散る。  光芒が切り取ったのは、それぞれ剣を手にした白銀の甲冑に身を包む騎士と、マゼンタの装甲を持つ異形の戦士。  仮面ライダーブレイドと仮面ライダーディケイド。二人の仮面ライダーが刃を交わしていた。 「ウォォォオォォォッ!」  剣の名を冠する戦士でありながら、獣のような雄叫びを上げるブレイドの太刀筋は洗練されているとは言い難い。とはいえ、その甲冑を纏う葦原涼はこれまで武器を用いた戦闘などしたことがなかったのだから無理もない。  対するディケイドはその力任せな斬撃を受け流す。一合、二合と醒剣ブレイラウザーとソードモードのライドブッカーが互いに噛み合い、今またブレイラウザーが襲い掛かるが、その切っ先からライドブッカーは逃れる。  いくつかの虚像を背に連れて一閃したライドブッカーの刀身が、攻撃をかわされ隙を晒したブレイドの甲冑に盛大な火花を散らせる。 「どーした! 俺をブッ潰すんじゃなかったのか!?」  尊大な青年――門矢士の声で、ディケイドは転がりながらも何とか膝を立てたブレイドにそう尋ねる。 「――っ、ヴァァァァアアアッ!」  舌打ちして飛び出すブレイドだが、大振りな一撃をディケイドは呆気なくかわす。反撃として逆袈裟に切り裂かれ、一回転しながら再び地に叩き伏せられる。先程からこの繰り返しで、傍から見ればディケイドがブレイドを嬲っているようにしか見えないだろう。  うつ伏せに倒れ、ダメージの蓄積から直ぐに起き上れないブレイドに、ライドブッカーの刀身を撫でながらディケイドが一歩近づく。 「どうした。そんな調子で殺し合いに乗った奴らを一人残らずブッ潰せるのか? 本当におまえがおまえである意義など、そんな調子で見付けられるのか?」  立ち上がれずにもがいているように見えたブレイドが、静かにブレイラウザーを持ち直したのをディケイドは見逃さなかった。 「黙れ!」  下からまっすぐに伸びた突きは、ディケイドの胸へと最短距離を疾っていた。しかし、ライドブッカーの剣腹を左手で押さえ、楯としたディケイドに防がれる。  今の一撃は合格点だ、などと言いながら、ディケイドは両腕を跳ね上げる。それで体勢が崩れたブレイドに、ディケイドからの蹴りが突き刺さる。  二歩、三歩と後退するものの、ブレイドは今度は倒れ込みなどせず、両の足でしっかりと大地を踏みしめ立っていた。  ディケイドの仮面の下で、それを見た士は笑みを漏らす。  侮辱と受け取ったのか、ブレイドは咆哮しながら剣を叩きつけて来た。  ディケイドがライドブッカーでその一撃を受け止め、二人のライダーによる鍔迫り合いの格好となる。 「――あの女に殺されそうになったから、か? 殺し合いに乗った奴は全員潰す、なんて言っているのは」 「違うっ!」  ディケイドの言葉によってブレイドは憤慨し、力ずくでライドブッカーを払い除ける。再びディケイドに切っ先を振り下ろすも、事もなげに戻って来たライドブッカーがそれを受け止める。  違う、とブレイドはもう一度、まるで自分に言い聞かせるように首を振り、やがて赤い瞳でディケイドを睨みつける。 「俺は――俺は、俺の力で誰かを護りたい、それだけだ! 亜樹子のことは関係ない……本当にあいつが殺し合いに乗っていると言うなら……」  ブレイラウザーに込められた力が再び強くなり、鍔迫り合いをする二人の戦士の身体の震えを強くする。  その中で、ブレイド――葦原涼は、叫んでいた。 「俺が、あいつを止める!」 「潰す、じゃないのか? あの女は、助けてくれたおまえを殺そうとしたみたいだぞ?」  ディケイド――士には、ブレイドに変身した男の大体の事情がわかって来ていた。  名前を知っていることから、自分達が来る前から二人には面識がある。武器もなく戦う力も持ち合わせていないように見えたあの少女を、涼が護って来たのだろう。  だから涼は裏切られ殺されかけたことからあんな辛そうな顔になり、亜樹子も矢車に見出されるような闇を心に背負ったのだろう。  助けた相手に、殺されかけた。だがそこで復讐に走るような男には、ブレイドの資格は託せない。  一真の願いは、ブレイド……仮面ライダーの力で皆を護ること。涼を傷つけようとして心に傷を負うような奴は、人を狂わすこの異常な空間ならまだ護るべき対象なのだと士は考えていた。紅音也が止めてくれていなければ、自分もマーダーキラーとして殺し合いに乗っていたことだろう。夏海がそんなことを望まぬことなど、わかり切っているのに。  音也が自分にしたように、闇に堕ちかけている者をも救う。それが仮面ライダーの役目だ。  故に待つ。目の前の男の答えを。  そして葦原涼は――ブレイドは、答える。 「あいつは……このふざけた殺し合いの恐怖に呑まれた、ただの女だ。殺し合いに乗っていようと、力を持つ俺が護らなきゃならない、力のない人間に変わりはない。  だから俺が護る。そしてあいつが人を襲うというなら、俺が亜樹子を止める! あいつらとも、そう約束したからな……」 「だが、あいつはおまえを裏切ったんじゃないのか?」 「それでもだっ!」  ブレイラウザーが押し込まれ、ライドブッカーが押し返すと鍔迫り合いが解除される。棒立ちしながらライドブッカーを持っただけのディケイドに対し、ブレイドは腰を低くし、刀身に左手を添えて構える。 「別に俺は……裏切られるのには、慣れてるからな」  その言葉を境に、一瞬の静寂が夜の街を覆った。 「――くっ、ふっ、あはははははははははははははははっ!」  それを破ったのは、ディケイドの腹の底からの哄笑だった。 「貴様ぁっ!」  剣を振り上げ襲い掛かって来るブレイドの胴にライドブッカーを走らせ、火花を散らせて後退させる。  慣れない姿での攻防に疲労したのか、肩で息をするブレイドを見るディケイドの仮面に隠れた笑みはしかし、嘲笑などではなかった。  先程の様子から、こんな言葉を引き出すのはもっと手強いものかと思っていたが――  このまっすぐな男は、士の想像を超えて愚直過ぎるようだ。  最期の瞬間まで仮面ライダーであり続けた、あの男のように。 「おい、スラッシュのカードをラウズしてみろ」 「なんだと!?」 「スペードの2をその剣に読み込ませてみろって言っているんだよ」  敵対する自分の言葉に当惑した様子ながらも、ブレイドはそれに従う。  ――Slash―― 「これは……!」  電子音の後にカードから召喚されたエネルギーに、ブレイドが驚いたような声を漏らす。  その力をわかり易く教えてやるために、ディケイドは自分から仕掛けた。 「はぁあっ!」  疾走するディケイドの振り下ろしたライドブッカーは、迎撃に動いたブレイラウザーと再び拮抗すると思われた。  だが―― 「ヴェェェェェイッ!」  アンデッドの力を得た横薙ぎの斬撃は、ライドブッカーを弾いてディケイドの胸元に一閃していた。  ディケイドからの攻撃に対処して、ブレイドがダメージを通したのはこの戦闘において初めてのことだった。  ダメージを受けて吹き飛ぶディケイド。とはいえこの攻撃を受けることはわかっていたことだから、膝を着くような無様は晒さない。  思っていた以上に痛みを覚えた胸板のことを意識の隅に追いやって、ディケイドは追撃を仕掛けて来ないブレイドに伝える。 「――BOADのライダーシステムは、そう言う風にしてカードに封印されたアンデッドの力を引き出して自己強化することができる。覚えておけ」 「何故だ? おまえは……殺し合いに乗っていないな?」  ブレイドの問いかけに、ディケイドは肯定も否定もしない。 「俺にこのベルトを渡し、戦い方を教えて……おまえは俺に何をさせたいんだ!?」 「俺が知るか!」  ディケイドの返答に、ブレイドは驚いたように頭の位置を少し落とした。 「知るか、って……」 「おまえは愚かな人間だ。殺し合いに乗った奴をそいつが無力だからと助けて、自分が殺されそうになったのに、まだそいつが闇に堕ちるのを止めようとしている。この次は無傷で済まないかもしれないのにな」  だが、とディケイドは息継ぎする。 「愚かでもおまえは人間だ。自分で自分の道を決める人間だ。愚かだから、転んで怪我をしてみないとわからないこともある。時には道に迷い、間違えたとしても……それでも、自分が選んだ道を歩むことができる、人間だ」  きっと、葦河ショウイチのように――裏切られるのに慣れたと言う、人ならざるアギトの力で傷ついて来たのだろう彼に、士ははっきりと言ってやる。 「そんなおまえに、道案内なんて必要ない。おまえはもう、自分の道を見つけているはずだ。破壊者である俺ができるのは、その道を邪魔するおまえ自身を破壊することだ」 「おまえ……何者だ?」 「通りすがりの仮面ライダーだ。……別に、覚えなくて良い」  そう告げたディケイドが、ブレイドの力を託せると信じた相手に、さらにその力のことを教えるべく戦いを再開ようとした、まさにその時だった。  巨大な威圧感を放つ第三者が、その場に現れたのは。  今回のゲゲルを進行する大ショッカーは、ご丁寧に途中経過を放送してくれるらしい。  だがグロンギの同じゲゲルを司るラの者達に比べると、奴らは気に食わないと言うのが、ゴ・ガドル・バの抱いた印象だった。  いや、気に食わないなどという生温いものではない。ゲゲルが終われば、あのキングと名乗ったリントには制裁を下さねばならないとガドルは心に決めていた。  理由は簡単だった。  奴は、『仮面ライダー』の正義を愚弄したのだ。  放送の直前、ガドルはある参加者と戦った。その参加者はその前にも一度戦った、取るに足らぬ弱者のはずだった。  だが彼は、その戦いで真の仮面ライダーとなり、遥かに強大だったはずのガドルを打ち破ったのだ。  そう、ガドルは正義の味方・仮面ライダーに敗れた。彼が正義のために燃やした命が尽きるのがほんの一瞬でも遅れていれば、先の放送の中にガドルの名も含まれていただろう。  リントである彼らの言う正義が何なのか、グロンギであるガドルには理解できない。  だがその正義とは、脆弱なはずの彼にこの破壊のカリスマを凌駕するほどの力を与える戦士の心なのだということは、何となくわかった。それを持つ戦士と敵として相対できることに、誇りすら抱かせてくれるものだと。  その敬意を払うべき戦士の誇りを、奴は愚かだと侮辱したのだ。  放送に呼ばれたゴオマのように、神聖なゲゲルのルールを破った不届き者でもあるまいに。きっと最期の瞬間まで正義を胸に、勇敢に戦った真の戦士達を嘲笑った。  ――許せぬ、と。そんな怒りを胸に秘めながら、ガドルは夜闇に包まれたF-6エリアの市街地を歩んでいた。  仮面ライダーとの戦いで受けたダメージは小さくはなかったが、グロンギの中でも最強に近いガドルの身体は、万全には遠くともある程度それを癒していた。 「ん……?」  興味深いある物を見つけたその時、ガドルの強化された聴力がある音を捉えた。  それは剣戟の音。この近くで戦闘が行われていることを示していた。  おそらくだが、既に本来の姿への変身制限は解除されているはずだ。そう考えたガドルは戦場へと足を向けた。  そうして見たのは、仮面ライダー同士が互いに争う姿。  この地に連れて来られてより、クウガを含む仮面ライダーと言った戦士達が手を組んだことはあれ、争う姿など目にしなかったため、ガドルの内には驚きがあった。  驚愕だけではなく、嫌悪感まで抱いている自分に気づき、ガドルは足を止めていた。  思い出されるのは、あの蛇の男と共に戦っていた黒い仮面ライダー。だがガドルはあれを仮面ライダーと認めない。正義の心で戦っていたようには到底思えなかったからだ。  この二人もそう言った手合いなのか――そう落胆しそうなガドルだったが、事の顛末を見続ければ、考えは変わった。  目の前の二人は、共に正義のために戦う仮面ライダーだ。愚かなリントにより己の正義を見失いかけた白銀のライダーをマゼンタのライダーが導く、そのための戦いだったようだ。 「通りすがりの仮面ライダーだ。……別に、覚えなくて良い」  マゼンタの仮面ライダーがそう呟き、戦いが再開されそうになった時に、ガドルは静観するのをやめた。  全身から闘志を解放し、一歩近づく。  その気配に気づいた二人の仮面ライダーが自分を振り返ったのを見て、ガドルは名乗りを上げた。 「俺は破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バ」  いつもの口上に、怪人態への変身を終えたガドルはさらに自らを表す言葉を付け足した。 「仮面ライダーよ、リントを護らんとする、貴様らの敵だ」 |086:[[This Love Never Ends♪音也の決意(後編)]]|投下順|087:[[防人(中編)]]| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]|時系列順|087:[[防人(中編)]]| |081:[[暁に起つ(後編)]]|[[ゴ・ガドル・バ]]|087:[[防人(中編)]]| |072:[[光と影]]|[[葦原涼]]|087:[[防人(中編)]]| |064:[[いつも心に太陽を(後編)]]|[[橘朔也]]|087:[[防人(中編)]]| |064:[[いつも心に太陽を(後編)]]|[[日高仁志]]|087:[[防人(中編)]]| |081:[[光と影]]|[[門矢士]]|087:[[防人(中編)]]| ----
*防人(前篇)◆/kFsAq0Yi2  橘朔也とヒビキの二人は、E-5エリアの道路を南下していた。  元々は、大ショッカーが仕掛けたこのふざけた殺し合いを止めるために仲間や協力者を探そうと行動していた。変身手段を持つ参加者が五人も集まり、二手に分かれたとはいえこれだけの仲間が居るのだ、その行き先は決して暗いものではなかったはずだった。  はずだった、のに――  あまりにも危険な参加者、ン・ダグバ・ゼバとの出会いにより、全ては急変した。彼により自分達は酷く傷つき、他にも危険人物だったとはいえ二人の参加者が命を奪われた。  その光景を目にした小野寺ユウスケは、ダグバと等しい力を持つクウガとなった。だがそれは、人々を護る自分達にあってはならない、憎悪に支配された存在。  もしも、その力が自分達に振るわれたら――橘はその恐怖のまま、黒きクウガの危険性をヒビキに説いた。  光夏海という仲間を失い、ダグバと戦い、心身ともにボロボロなユウスケが、その言葉を耳にしている可能性を考慮せずに――  結果、ユウスケは自分達の元を去って行ってしまった。きっと、彼を恐怖した自分達を、巻き込んで傷つけてしまわないように。  そんな事態を招いてしまった原因は自分にあると考える橘の足取りは、重い。  そして彼、いや彼らの足取りを重くさせる理由は、もう一つあった。  それは、殺し合いの進行状況を告げる、大ショッカーによる放送。  そこで読み上げられたのは、全参加者の三分の一にもなる二十人の死者の名だった。  橘は、覚悟していたとはいえ大切な仲間である剣崎一真の死を突き付けられた。  だが、それだけで終わりではなかった。ヒビキも彼の頼れる先輩である財津原蔵王丸の死を告げられた。さらにこの会場にて出会った同志、海堂直也までも命を落としていた。  さらにその海堂の仲間だと言う木場勇治と園田真理の訃報まで読み上げられた。  特に、戦う力を持たず、早急に保護しなければならなかった園田真理の死は、守るべき人を護れなかったという罪悪感となって二人を締め付ける。  また、ヒビキ達には黙っていた人物だが、橘のかつての先輩であり、レンゲルの持つ闇により絶命したはずだった桐生豪の名が死者の中に含まれていたことも、橘の精神を責め立てていた。  さらに二人に絶望を与えたのは、大ショッカーの発表した世界ごとの殺害人数だった。  それによれば、クウガの世界が他を大きく引き離して一位。そこはあのダグバと、他に二体の未確認が所属する世界。  予想はしていたが、未確認生命体の脅威はこれで証明されたようなものだった。ダグバだけでなく、他の未確認も相応の力を持っていると考えられる。  自分達仮面ライダーが束になって、ようやく戦いになるかどうかというほどの力を誇る悪魔。そんな奴らが野放しになって、今もこの会場のどこかで暴虐の限りを尽くしているのかもしれない。  だが、それでも二人は止まるわけには行かなかった。  恐るべき未確認だが、その内の一体ズ・ゴオマ・グは既に倒されたと放送で告げられた。  また、多くの者達を取り零してしまったとはいえ、彼らが仮面ライダーである以上、まだ護るべき者達がこの会場には大勢いるのだ。  ダグバから橘を庇い散った、名も知らぬ参加者より言伝を預かった相手、小沢澄子。  彼女と共にいるところにヒビキが出会った、人を護る仮面ライダーとして戦う城戸真司。  他にも、やはりヒビキが別れた津上翔一や、あの時集まった五人がそれぞれ信頼できると名前を挙げた乾巧や紅渡を始めとする多くの者達は未だ名前を呼ばれずに済んでいる。  海堂は残念だったが、彼と共に別行動を取っていた名護啓介は生き残っている。  橘は信用していないが、アンデッドである相川始は剣崎の友だった。その始も無事だ。  そして自分達が知らない、護らねばならない人々がまだいるはずなのだ。  連続する絶望に、それでも彼らが屈せずに立ち向かうことができたのは、彼らの正義の心によるもの――  だがそれでも放送直後という短時間で立ち直れたのは、皮肉にも大ショッカーのおかげだと言えるかもしれない。  放送を行ったキングは、かつて剣崎が封印したはずのアンデッド、カテゴリーキングだ。奴の言う御人好しの仮面ライダーとは、十中八九剣崎のことだろう。  そんな彼の死を指して、奴は言った。  口先だけの正義の味方など、何の役にも立ちはしないと。  ならば自分達が、ここで悲しみに沈んでばかりいて良いわけがない――ヒビキがそう、放送を行う飛行船を睨んでいた橘に告げた。  剣崎は、病院にいた他の参加者を護るために単身危険人物に立ち向かい、死んだという。  確かにその場で剣崎が救った者達は――光夏海はその内の一人である、東條悟によって殺められた。その東條もまた、ダグバによって無惨に殺された。  だがそれでも、剣崎の死は無意味だったわけではないと、そうヒビキは言う。  何故なら自分達に、その正義の意思を遺してくれたのだから、と。  最期まで仮面ライダーだった彼は、自分達に勇気を与えてくれたのだと。  だからこそ――ここで自分達が立ち止まっていてはいけない。彼の遺志を継いで、仮面ライダーとして人々を護らなければならない。  そして剣崎達、散って行った仮面ライダーを嘲笑った大ショッカーを倒して殺し合いを止め、彼らへの侮辱を撤回させなければならないと。  その言葉を受け、橘はヒビキと今後のプランを考えた。  今の自分達がユウスケを追いかけることはできない。今のユウスケの精神状態には不安があるが、乗り越えてくれることを信じるしかない。  ユウスケこそいないが、当初の予定通りに病院に向かうべきだという結論に至るのに、そう時間は掛からなかった。  E-4エリアは――おそらく、そこで津上と合流する予定だったことを大ショッカーに察知されたのだろう、23時より禁止エリアに指定されていた。  だが、だからこそ――立ち寄れる内に、治療に使える道具を手にするために、参加者が集まる可能性も高い。協力を望める相手ならば是非もなく、もし危険人物がいるのなら、他の参加者を護るために戦うべきだと、そういう考えになったのだ。  夜の闇が足元を隠し、歩行するだけで体力を奪われる草原を歩くだけの余裕も二人にはなかった。市街地以上に人が集まる可能性があり、参加者と出会えなくても今後のために身体を癒すことができる病院は、そういう意味でもやはり目指すべき場所だった。  またダグバなどと遭遇したら今の自分達では絶望的だが、何も行動しないわけにはいかなかった。  何故なら、仮面ライダーなのだから。 (カテゴリーキング……)  放送を行ったアンデッドを思い出す。剣崎の死を愚弄した、あの青年を。 (貴様は剣崎が封印したはずだ。それでもまた俺達の前に立ち塞がり、人々を傷つけるというのなら……もう戦えない剣崎の代わりに、俺がおまえを封印する!)  その決意を胸に、橘は歩を進めた。  歩き始めた時、遥か前方だった街灯の煌めきの群れは、目の前まで近づいて来ていた。  きぃん、という剣戟の音と共に、夜の街に火花が散る。  光芒が切り取ったのは、それぞれ剣を手にした白銀の甲冑に身を包む騎士と、マゼンタの装甲を持つ異形の戦士。  仮面ライダーブレイドと仮面ライダーディケイド。二人の仮面ライダーが刃を交わしていた。 「ウォォォオォォォッ!」  剣の名を冠する戦士でありながら、獣のような雄叫びを上げるブレイドの太刀筋は洗練されているとは言い難い。とはいえ、その甲冑を纏う葦原涼はこれまで武器を用いた戦闘などしたことがなかったのだから無理もない。  対するディケイドはその力任せな斬撃を受け流す。一合、二合と醒剣ブレイラウザーとソードモードのライドブッカーが互いに噛み合い、今またブレイラウザーが襲い掛かるが、その切っ先からライドブッカーは逃れる。  いくつかの虚像を背に連れて一閃したライドブッカーの刀身が、攻撃をかわされ隙を晒したブレイドの甲冑に盛大な火花を散らせる。 「どーした! 俺をブッ潰すんじゃなかったのか!?」  尊大な青年――門矢士の声で、ディケイドは転がりながらも何とか膝を立てたブレイドにそう尋ねる。 「――っ、ヴァァァァアアアッ!」  舌打ちして飛び出すブレイドだが、大振りな一撃をディケイドは呆気なくかわす。反撃として逆袈裟に切り裂かれ、一回転しながら再び地に叩き伏せられる。先程からこの繰り返しで、傍から見ればディケイドがブレイドを嬲っているようにしか見えないだろう。  うつ伏せに倒れ、ダメージの蓄積から直ぐに起き上れないブレイドに、ライドブッカーの刀身を撫でながらディケイドが一歩近づく。 「どうした。そんな調子で殺し合いに乗った奴らを一人残らずブッ潰せるのか? 本当におまえがおまえである意義など、そんな調子で見付けられるのか?」  立ち上がれずにもがいているように見えたブレイドが、静かにブレイラウザーを持ち直したのをディケイドは見逃さなかった。 「黙れ!」  下からまっすぐに伸びた突きは、ディケイドの胸へと最短距離を疾っていた。しかし、ライドブッカーの剣腹を左手で押さえ、楯としたディケイドに防がれる。  今の一撃は合格点だ、などと言いながら、ディケイドは両腕を跳ね上げる。それで体勢が崩れたブレイドに、ディケイドからの蹴りが突き刺さる。  二歩、三歩と後退するものの、ブレイドは今度は倒れ込みなどせず、両の足でしっかりと大地を踏みしめ立っていた。  ディケイドの仮面の下で、それを見た士は笑みを漏らす。  侮辱と受け取ったのか、ブレイドは咆哮しながら剣を叩きつけて来た。  ディケイドがライドブッカーでその一撃を受け止め、二人のライダーによる鍔迫り合いの格好となる。 「――あの女に殺されそうになったから、か? 殺し合いに乗った奴は全員潰す、なんて言っているのは」 「違うっ!」  ディケイドの言葉によってブレイドは憤慨し、力ずくでライドブッカーを払い除ける。再びディケイドに切っ先を振り下ろすも、事もなげに戻って来たライドブッカーがそれを受け止める。  違う、とブレイドはもう一度、まるで自分に言い聞かせるように首を振り、やがて赤い瞳でディケイドを睨みつける。 「俺は――俺は、俺の力で誰かを護りたい、それだけだ! 亜樹子のことは関係ない……本当にあいつが殺し合いに乗っていると言うなら……」  ブレイラウザーに込められた力が再び強くなり、鍔迫り合いをする二人の戦士の身体の震えを強くする。  その中で、ブレイド――葦原涼は、叫んでいた。 「俺が、あいつを止める!」 「潰す、じゃないのか? あの女は、助けてくれたおまえを殺そうとしたみたいだぞ?」  ディケイド――士には、ブレイドに変身した男の大体の事情がわかって来ていた。  名前を知っていることから、自分達が来る前から二人には面識がある。武器もなく戦う力も持ち合わせていないように見えたあの少女を、涼が護って来たのだろう。  だから涼は裏切られ殺されかけたことからあんな辛そうな顔になり、亜樹子も矢車に見出されるような闇を心に背負ったのだろう。  助けた相手に、殺されかけた。だがそこで復讐に走るような男には、ブレイドの資格は託せない。  一真の願いは、ブレイド……仮面ライダーの力で皆を護ること。涼を傷つけようとして心に傷を負うような奴は、人を狂わすこの異常な空間ならまだ護るべき対象なのだと士は考えていた。紅音也が止めてくれていなければ、自分もマーダーキラーとして殺し合いに乗っていたことだろう。夏海がそんなことを望まぬことなど、わかり切っているのに。  音也が自分にしたように、闇に堕ちかけている者をも救う。それが仮面ライダーの役目だ。  故に待つ。目の前の男の答えを。  そして葦原涼は――ブレイドは、答える。 「あいつは……このふざけた殺し合いの恐怖に呑まれた、ただの女だ。殺し合いに乗っていようと、力を持つ俺が護らなきゃならない、力のない人間に変わりはない。  だから俺が護る。そしてあいつが人を襲うというなら、俺が亜樹子を止める! あいつらとも、そう約束したからな……」 「だが、あいつはおまえを裏切ったんじゃないのか?」 「それでもだっ!」  ブレイラウザーが押し込まれ、ライドブッカーが押し返すと鍔迫り合いが解除される。棒立ちしながらライドブッカーを持っただけのディケイドに対し、ブレイドは腰を低くし、刀身に左手を添えて構える。 「別に俺は……裏切られるのには、慣れてるからな」  その言葉を境に、一瞬の静寂が夜の街を覆った。 「――くっ、ふっ、あはははははははははははははははっ!」  それを破ったのは、ディケイドの腹の底からの哄笑だった。 「貴様ぁっ!」  剣を振り上げ襲い掛かって来るブレイドの胴にライドブッカーを走らせ、火花を散らせて後退させる。  慣れない姿での攻防に疲労したのか、肩で息をするブレイドを見るディケイドの仮面に隠れた笑みはしかし、嘲笑などではなかった。  先程の様子から、こんな言葉を引き出すのはもっと手強いものかと思っていたが――  このまっすぐな男は、士の想像を超えて愚直過ぎるようだ。  最期の瞬間まで仮面ライダーであり続けた、あの男のように。 「おい、スラッシュのカードをラウズしてみろ」 「なんだと!?」 「スペードの2をその剣に読み込ませてみろって言っているんだよ」  敵対する自分の言葉に当惑した様子ながらも、ブレイドはそれに従う。  ――Slash―― 「これは……!」  電子音の後にカードから召喚されたエネルギーに、ブレイドが驚いたような声を漏らす。  その力をわかり易く教えてやるために、ディケイドは自分から仕掛けた。 「はぁあっ!」  疾走するディケイドの振り下ろしたライドブッカーは、迎撃に動いたブレイラウザーと再び拮抗すると思われた。  だが―― 「ヴェェェェェイッ!」  アンデッドの力を得た横薙ぎの斬撃は、ライドブッカーを弾いてディケイドの胸元に一閃していた。  ディケイドからの攻撃に対処して、ブレイドがダメージを通したのはこの戦闘において初めてのことだった。  ダメージを受けて吹き飛ぶディケイド。とはいえこの攻撃を受けることはわかっていたことだから、膝を着くような無様は晒さない。  思っていた以上に痛みを覚えた胸板のことを意識の隅に追いやって、ディケイドは追撃を仕掛けて来ないブレイドに伝える。 「――BOARDのライダーシステムは、そう言う風にしてカードに封印されたアンデッドの力を引き出して自己強化することができる。覚えておけ」 「何故だ? おまえは……殺し合いに乗っていないな?」  ブレイドの問いかけに、ディケイドは肯定も否定もしない。 「俺にこのベルトを渡し、戦い方を教えて……おまえは俺に何をさせたいんだ!?」 「俺が知るか!」  ディケイドの返答に、ブレイドは驚いたように頭の位置を少し落とした。 「知るか、って……」 「おまえは愚かな人間だ。殺し合いに乗った奴をそいつが無力だからと助けて、自分が殺されそうになったのに、まだそいつが闇に堕ちるのを止めようとしている。この次は無傷で済まないかもしれないのにな」  だが、とディケイドは息継ぎする。 「愚かでもおまえは人間だ。自分で自分の道を決める人間だ。愚かだから、転んで怪我をしてみないとわからないこともある。時には道に迷い、間違えたとしても……それでも、自分が選んだ道を歩むことができる、人間だ」  きっと、葦河ショウイチのように――裏切られるのに慣れたと言う、人ならざるアギトの力で傷ついて来たのだろう彼に、士ははっきりと言ってやる。 「そんなおまえに、道案内なんて必要ない。おまえはもう、自分の道を見つけているはずだ。破壊者である俺ができるのは、その道を邪魔するおまえ自身を破壊することだ」 「おまえ……何者だ?」 「通りすがりの仮面ライダーだ。……別に、覚えなくて良い」  そう告げたディケイドが、ブレイドの力を託せると信じた相手に、さらにその力のことを教えるべく戦いを再開ようとした、まさにその時だった。  巨大な威圧感を放つ第三者が、その場に現れたのは。  今回のゲゲルを進行する大ショッカーは、ご丁寧に途中経過を放送してくれるらしい。  だがグロンギの同じゲゲルを司るラの者達に比べると、奴らは気に食わないと言うのが、ゴ・ガドル・バの抱いた印象だった。  いや、気に食わないなどという生温いものではない。ゲゲルが終われば、あのキングと名乗ったリントには制裁を下さねばならないとガドルは心に決めていた。  理由は簡単だった。  奴は、『仮面ライダー』の正義を愚弄したのだ。  放送の直前、ガドルはある参加者と戦った。その参加者はその前にも一度戦った、取るに足らぬ弱者のはずだった。  だが彼は、その戦いで真の仮面ライダーとなり、遥かに強大だったはずのガドルを打ち破ったのだ。  そう、ガドルは正義の味方・仮面ライダーに敗れた。彼が正義のために燃やした命が尽きるのがほんの一瞬でも遅れていれば、先の放送の中にガドルの名も含まれていただろう。  リントである彼らの言う正義が何なのか、グロンギであるガドルには理解できない。  だがその正義とは、脆弱なはずの彼にこの破壊のカリスマを凌駕するほどの力を与える戦士の心なのだということは、何となくわかった。それを持つ戦士と敵として相対できることに、誇りすら抱かせてくれるものだと。  その敬意を払うべき戦士の誇りを、奴は愚かだと侮辱したのだ。  放送に呼ばれたゴオマのように、神聖なゲゲルのルールを破った不届き者でもあるまいに。きっと最期の瞬間まで正義を胸に、勇敢に戦った真の戦士達を嘲笑った。  ――許せぬ、と。そんな怒りを胸に秘めながら、ガドルは夜闇に包まれたF-6エリアの市街地を歩んでいた。  仮面ライダーとの戦いで受けたダメージは小さくはなかったが、グロンギの中でも最強に近いガドルの身体は、万全には遠くともある程度それを癒していた。 「ん……?」  興味深いある物を見つけたその時、ガドルの強化された聴力がある音を捉えた。  それは剣戟の音。この近くで戦闘が行われていることを示していた。  おそらくだが、既に本来の姿への変身制限は解除されているはずだ。そう考えたガドルは戦場へと足を向けた。  そうして見たのは、仮面ライダー同士が互いに争う姿。  この地に連れて来られてより、クウガを含む仮面ライダーと言った戦士達が手を組んだことはあれ、争う姿など目にしなかったため、ガドルの内には驚きがあった。  驚愕だけではなく、嫌悪感まで抱いている自分に気づき、ガドルは足を止めていた。  思い出されるのは、あの蛇の男と共に戦っていた黒い仮面ライダー。だがガドルはあれを仮面ライダーと認めない。正義の心で戦っていたようには到底思えなかったからだ。  この二人もそう言った手合いなのか――そう落胆しそうなガドルだったが、事の顛末を見続ければ、考えは変わった。  目の前の二人は、共に正義のために戦う仮面ライダーだ。愚かなリントにより己の正義を見失いかけた白銀のライダーをマゼンタのライダーが導く、そのための戦いだったようだ。 「通りすがりの仮面ライダーだ。……別に、覚えなくて良い」  マゼンタの仮面ライダーがそう呟き、戦いが再開されそうになった時に、ガドルは静観するのをやめた。  全身から闘志を解放し、一歩近づく。  その気配に気づいた二人の仮面ライダーが自分を振り返ったのを見て、ガドルは名乗りを上げた。 「俺は破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バ」  いつもの口上に、怪人態への変身を終えたガドルはさらに自らを表す言葉を付け足した。 「仮面ライダーよ、リントを護らんとする、貴様らの敵だ」 |086:[[This Love Never Ends♪音也の決意(後編)]]|投下順|087:[[防人(中編)]]| |085:[[愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編)]]|時系列順|087:[[防人(中編)]]| |081:[[暁に起つ(後編)]]|[[ゴ・ガドル・バ]]|087:[[防人(中編)]]| |072:[[光と影]]|[[葦原涼]]|087:[[防人(中編)]]| |064:[[いつも心に太陽を(後編)]]|[[橘朔也]]|087:[[防人(中編)]]| |064:[[いつも心に太陽を(後編)]]|[[日高仁志]]|087:[[防人(中編)]]| |081:[[光と影]]|[[門矢士]]|087:[[防人(中編)]]| ----

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