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「防人(中編)」(2011/12/11 (日) 19:00:12) の最新版変更点
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*防人(中編)◆/kFsAq0Yi2
「……バシグラ ドバ ギグバジョ デ ギズン(自分でカリスマとか言うなよ)」
突然現れた、破壊のカリスマを自称する軍服の男が姿を変えたカブトムシの怪人の正体を特定するのに、ディケイド――門矢士にはほんの少しだけ時間が必要だった。
腰にした金のバックルと、固有名詞の前後に並ぶ一文字。リントという単語。
これらを統合すれば、クウガとアギトの世界に存在する未確認生命体・グロンギしか、士は該当する怪人を知らない。
だが、士は人の姿を持ったグロンギなど知らなかった。究極の闇、ン・ガミオ・ゼダによって多くの人間がグロンギに変えられたことはあった。だがそうして生まれたグロンギには、グロンギ族であることを示すバックルがなかったのである。
それ故に迷ったが、だからこそカマを掛ける意味で、士はグロンギの言葉でそう応じた。
「ゾグ……パセサン ボドザゾ ガジャヅセスボバ(ほう……我らの言葉を操れるのか)」
果たして相手は、グロンギの言葉で応じた。
「こいつ……未確認!?」
やはりアギトの世界出身なのだろう、ブレイドが驚愕したような声を上げるが、ガドルと名乗ったグロンギは彼を無視し、士の変身したディケイドを見やる。
「ドボデ ゴゾゲダ(どこで覚えた?)」
「パスギ、ザグセダ(悪い、忘れた)」
そう間髪空けず答えるも、士はライドブッカーを握る手が汗ばむのを感じていた。
ガドルの放つ威圧感は異常だ。旅の中で出会って来た数々の強敵達の中でも、最上位に位置するほどの力を持っていることが感じ取れる。各世界のライダーの持ち力を失った、今の士が相手をするには危険過ぎるほどに。
「おい、おまえ……どうして奴らの言葉を……?」
「良いから構えろ」
故にブレイドの疑問に答える余裕はなかった。
「言ったはずだ、奴は俺達の敵だと……」
それも、とびっきり凶悪な。
その言葉を待っていたかのように、ガドルは胸元の装飾品を一つ千切った。
同時に小さい勾玉状のそれが、巨大なボウガンへと形状を変える。
「来るぞっ!」
そのボウガンから矢が放たれる時には、ディケイドは地を蹴りブレイドと反対方向へと跳んでいた。
直後、ディケイドの背を叩く衝撃と、轟音。
当たったわけではない。掠めたわけでもない。それでも後方の家屋を一撃で消し飛ばしたボウガンは、衝撃波だけでディケイドの体勢を崩すほどの威力だった。
まともに当たれば、致命傷になりかねないほどの威力。それに対して反射的に生じた恐怖を捩じ伏せ、ディケイドは一枚のカードをディケイドライバーに投げ込む。
――ATTACKRIDE BLAST――
ライドブッカーをガンモードに変形し、トリガーを引く。瞬間、ライドブッカーの周囲に四つの虚像が現れ、それらを含めた五つの銃口から、無数のエネルギー弾が射出される。
無数の弾丸がガドルの胸元で弾けるが、ダメージの入った様子はない。怯みすらせずに、銃口をディケイドに向け、再び矢が放たれる。
「――っ!!」
さらに二射、三射。背中のほんの少し後ろを射抜いて行く矢を振り返らず、ディケイドはライドブッカーで応戦しながら走る。
振り返ったら――足を止めたら、やられる。その直感があった。
当たっても、まるで巨大な岩に豆鉄砲で挑んでいるかのように、ガドルは小揺るぎもしない。必殺の威力を秘めた反撃の矢が、ディケイドの直ぐ後ろを駆けて行く。
知っている限りでは、クウガのペガサスボウガンによく似ていた。だが威力はそれ以上で、単発式のあちらと違いガドルのボウガンは連射が効く。
だがディケイドの攻撃はダメージにならずとも、ガドルの注意を向けさせることには成功していた。
その間に疾走し、距離を詰めた男が一人。
「ウォオオオオオオオッ!」
絶叫と共に、反対側からガドルに接近していたブレイドが剣を振り下ろした。
「――何っ!?」
だが夜の市街地に響いたのはブレイラウザーがガドルの装甲を切り裂く音ではなく、ブレイドの驚愕に染まった声だった。
既にスラッシュリザードの効果は消えている。それでも優れた切れ味を誇る醒剣ブレイラウザーが、ガドルの装甲に傷一つ付けることなく止められていた。
ガドルがブレイドへと視線を移す。その過程で、眼の色が緑から紫へと変わる。
「まずい!」
効かない弾を撃ち続けながら、ディケイドは思わず叫んでいた。
ガドルの手にしたボウガンが、黒く巨大な剣へと姿を変える。
まるでクウガと同じだとディケイドが思った時、その大剣はブレイドへと振り下ろされていた。
「ウァアアアアアアアッ!?」
先程まで、ライドブッカーに何度切り付けられても耐えて来たブレイドの甲冑が、その一撃でぱっくりと割れていた。
幸いにもその下の紺のスーツにまでは届いておらず、装着者は無事だ。だが、オリハルコンプラチナで形成された鎧でさえ、身の安全を保障してはくれないのだと、この一撃が示していた。
斬撃により倒れ伏し、痺れてまだ立ち上がれないブレイドに、再びガドルが大剣を掲げる。
「やらせるかぁっ!」
だがディケイドは、それをただ見ているわけではない。
――FINAL ATTACKRIDE DEDEDE DECADE――
ディケイドの構えたガンモードのライドブッカーとガドルの間にホログラムのような10枚の巨大なカードが展開される。気づいたガドルがこちらを見た時には、もうディケイドは銃爪を引き絞っていた。
放たれた光弾はカード型エネルギーを潜り抜け、その力を得て光線へと強化される。10のゲートを通過し、極太いビームと化した一撃がガドルを強襲した。
ガドルの巨体が、闇を切り裂き殺到する光の束へと呑まれて行く。
苦鳴を漏らしながら、必殺技により爆散する怪人に巻き込まれまいと、ブレイドが立ち上がりディケイドの方へ向かって来た。
「な……っ!?」
光が収束したというのに、爆発音が聞こえなかったことに背後を振り返ったブレイドと同時に、ディケイドも驚愕と畏怖の声を漏らしていた。
ビームの着弾時より数歩下がった程度の位置で、ガドルは健在していた。
鍛えられた巨躯を誇示するように胸を張るその姿は、先刻と一切の変わりなく。
絶大な威力を秘めた必殺技の一撃でも、奴はダメージすら受けていなかった。
「その程度か……そんな力では、俺には勝てないぞ」
そうして、淡々とした声色で二人に告げて来た。
いや――先程と変わったところがある。
「ブレイド! スペードの5と6と9のカードをラウズしろ!」
それに気づいたディケイドは、そう指示を飛ばした。
目立ったダメージは入っていないようだが、さすがにディメンションブラストの直撃で奴はその手から大剣を取り零していた。武器がない今というチャンスを逃す手はない。
ライドブッカーから取り出した次のカードをディケイドライバーに投げると同時に、隣のブレイドも三枚のカードを立て続けにラウズする。
――Kick――
――Thunder――
――Mach――
三体のアンデッドの力が束ねられ、新たな力が呼び醒まされる――
――それは数多の敵を打ち破って来た、仮面ライダーブレイドの必殺技。
――Lightning Sonic――
――FINAL ATTACKRIDE DEDEDE DECADE――
コンボ成立の知らせに被せるように、別の電子音が鳴る。
ブレイドの両足に稲妻が走り、ライドブッカーを腰に戻したディケイドとガドルの間に、再び10枚のカード型エネルギーが展開される。
「はぁああああああああ……はぁっ!」
二人の仮面ライダーは力を込めるように一度姿勢を低くした後、跳躍する。
黄金のエネルギーゲートはディケイドを追うように動き、彼とガドルを繋ぐ一本の道となっていた。カードを突き破るようにして宙を進んで行くディケイドに、稲妻を纏ったブレイドが並んでいた。
「うぅりゃぁぁぁぁぁあああああああああああああぁっ!」
二人の叫びは唱和され、武器を持たないガドルの胸板に、ディメンションキックとライトニングソニック――ダブルライダーキックが炸裂した。
先の攻撃を耐えた油断からか。ガドルはほぼ防御せず、無防備に二人の蹴りを受けた。
結果、勢い良くその身体は後方に撃ち出され、その勢いのまま家を一軒吹き飛ばした。
キックの反動で軽く宙を舞い、着地した二人の視界に映るのは、だらんと手足を伸ばして仰向けに倒れているガドル。
その右手がぴくんと動き、立ち上がろうとする姿だった。
「なん……だと……っ!?」
信じられない思いで、ディケイドはそう呻く。
あり得ない。一撃でも、それなりの実力者を倒せる攻撃を三連続で浴びせたのに――それで立ち上がった奴には、大きなダメージを受けた様子が見受けられなかった。
立ち上がる過程で手に取っていた装飾品を再びボウガンに変化させたガドルが、竦んだように動けなかったブレイドを狙い撃つ。
「ウォォォオオオオオオオオッ!?」
「――おいっ!」
直撃し、弾け飛んで行くブレイドを思わずディケイドは振り返る。だがそんな場合ではないとガドルを振り返った時、奴はボウガンを大剣に変えながら接近して来ていた。
振り下ろされる大剣を、咄嗟に抜き放ったライドブッカーの刀身で受ける。
完全に防御したのに、その上から叩き潰されるような斬撃だった。
ガドルの剛力に耐え切れず、鍔迫り合いの状況でディケイドは膝を着く。そのじりじりと押される鍔迫り合いを保つだけでも、両腕の痺れたディケイドには必死のことだった。
「――弱いな。悲しいぞ、仮面ライダーよ」
「――悪かったなっ!」
叫びに怒りを乗せて、何とかガドルの大剣を押し返し、その隙に彼の下から抜け出す。側転して逃れたディケイドは、悠然と構えるガドルに向けてライドブッカーを構える。
「究極の闇とやらより強いグロンギがいるなんて、聞いてないぜ……」
かつて小野寺ユウスケの世界を存亡の危機に陥れたグロンギの王、ン・ガミオ・ゼダ。
キバーラによってユウスケが強制的に変身させられ、全てのライダーを破壊するための戦いをしていたディケイドに最後に立ち塞がった仮面ライダー、アルティメットクウガ。
究極の闇と呼ばれた彼らも強かったが、目の前に立つ破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バはそれらを超越しかねないほどの力を発揮していた。
「――バビゾ ギデデギス(何を言っている)?」
だがそのディケイドの嘆きを本気でいぶかしむような声を、ガドルが発する。
「ギランゴレゼザ ギラザ ゾゾドゴギ ビパ キュグキョブンジャリ(今の俺では、未だ究極の闇には遠い)。ザバサボゾ ボグギデ、ビガラサド ダダバッデギスド ギグボビ 仮面ライダー(だからこそこうして、貴様ら仮面ライダーと戦っているというのに)?」
仮面ライダーだけをリントの言葉のままにして、ガドルはディケイドに尋ねていた。
「ゴロゴロビガラグ バゲギデデギス ゾ ダグバ(そもそも貴様が、何故ダグバを知っている?)」
「ダグバ……?」
その名前を聞いた時、ディケイド――士は、妙に強い引っ掛かりを覚えた気がした。
まるで、行き別れた家族の名を聞いたような、そんな感覚。
だが、参加者名簿で見たかもしれないが、初めて聞く名前だったのもまた事実。
そんなディケイドの戸惑いを察知したのか、ガドルは再び剣を構えた。
「――ギブゾ(行くぞ)」
宣告と共に間合いが詰められる。振り下ろされた大剣を、ディケイドは何とかライドブッカーを使って受け流した。だが受け流しても、その両腕が痺れる重い一撃。
受けるだけで消耗する斬撃が、一度ではなく何度も迫る。何とか凌いでいたディケイドはしかし、攻防が十にも満たぬ内に限界を迎える。
ライドブッカーごと斬撃に捕えられ、胸部の装甲を裂かれながらディケイドは宙を舞う。
「――がはっ!」
受け身も取れず地に叩きつけられ、肺から空気が吐き出された。衝撃で脳が揺れたのか、立ち上がることができない。
歪む視界の端には、大剣を片手に迫るガドルの姿。
――こんなところで……すまない、夏海。どうやら俺も、今からそっちへ行くみたいだ……
そう士が、ディケイドの仮面の下で瞼を閉じた瞬間。
金属同士の激突する、甲高い音が彼の鼓膜を叩いた。
「――おい、起きろっ!」
耳に入ったのは、ブレイドに変身したあの男の声だった。
意識をはっきりさせたディケイドが顔を上げれば、ブレイドが両手でブレイラウザーを支え、ガドルの大剣を受け止めていた。
力に押され、潰されそうになりながらも、ブレイドはディケイドに呼び掛けてくる。
「どうしたっ!? おまえが俺の道の邪魔をする、俺を壊すんじゃなかったのか!? そんなところで寝てるから、俺が……人を護ることに迷う自分を、もう壊しちまったぞっ!」
「……そうか」
ディケイドはゆっくりと、しかし脚に力を込めて立ち上がる。
同時、ガドルの蹴りが胸部の装甲を大きく損壊したブレイドに突き刺さる。悲鳴と共に撃ち出されて来たブレイドの身体を受け止め、ディケイドはガドルから一旦距離を取る。
「それなら、勝つぞ。ブレイド」
痛みを訴える身体を強い意志でねじ伏せて、満身創痍の二人の仮面ライダーが並び立った。
「……俺は、葦原涼だ。だが何か策があるのか? 俺の力も、おまえの力も、奴には通用しなかったぞ」
葦原涼と名乗ったブレイドに、ディケイドは頷く。
「確かに、俺の力もおまえの力も、こいつには通じなかった……だが!」
ディケイドは、ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。
この圧倒的不利な戦いを覆す最後の希望である、切り札を。
「――俺達には、まだ俺とおまえの力が残されているっ!」
そしてディケイドは、運命のカードをライドした。
――FINAL FORM RIDE B B B BLADE――
「ちょっとくすぐったいぞ」
「え……、おいっ!?」
ブレイドの抗議を無視して、ディケイドは相手の背中に手を突っ込む。
内側から何かを引っ張り出すように動かすと、ブレイドの背にブレイラウザーのそれを巨大にしたようなカードトレイが現れる。
突如として再生した胸部装甲と共にそれが回転し、上へ向く。
同時にブレイドが浮かび上がって反転し、両腕が頭部と共に装甲とトレイの間に収納され、両足が巨大な刃へと超絶変形する。
ディケイドの手に掴まれたのは、彼の身長の倍ほどもある、ブレイラウザーを模した巨大な剣。
ブレイドブレード。
――これは……
ブレイドが変形したブレイドブレードから、葦原涼の声が響く。
「これが俺とおまえの力だ、涼っ!」
叫んだディケイドは、ファイナルフォームライドが完了するや否や接近して来ていたガドルへと、この超巨大剣を薙いだ。
ここまで巨大な得物ならば、懐に潜り込めば満足に戦えまい――ガドルはそう予想していたのだろう。これほど巨大な剣ならば、接近中に振るわれようと遅く、充分対処できると。
だが実際はどうか。まるで滑るように移動したブレイドブレードは、ガドルの左半身へと襲い掛かっていた。
「――ぬぅっ……!?」
ブレイドブレードを手にした大剣で防ぐガドルだが、先程までのディケイド達のように斬撃の威力に耐え切れず、間合いの外へ投げ出されていた。
それは破壊のカリスマがこの戦いにおいて見せた初めての、本当の意味での隙。その時を作り得たディケイドは、ついに切り札を切った。
――FINAL ATTACKRIDE B B B BLADE――
巨大なブレイドブレードの刀身に、青白い稲妻が迸る。
それが放つ絶大な力の波動は、ガドルに本能的に剣を構えさせていた。
だがそれは、大きな判断ミスだと言わざるを得ないだろう。
「――ウェアッ!」
ディケイドとブレイドブレードの気合いが唱和され、必殺の一撃が叩き落とされた。
それは掲げられたガドルの剣をへし折り、彼の身体を切り裂いて、そして射線上に存在した家屋を巻き込んだ強烈な爆発を巻き起こした。
|087:[[防人(前篇)]]|投下順|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|時系列順|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[ゴ・ガドル・バ]]|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[葦原涼]]|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[橘朔也]]|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[日高仁志]]|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[門矢士]]|087:[[防人(後篇)]]|
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*防人(中編)◆/kFsAq0Yi2
「……バシグラ ドバ ギグバジョ デ ギズン(自分でカリスマとか言うなよ)」
突然現れた、破壊のカリスマを自称する軍服の男が姿を変えたカブトムシの怪人の正体を特定するのに、ディケイド――門矢士にはほんの少しだけ時間が必要だった。
腰にした金のバックルと、固有名詞の前後に並ぶ一文字。リントという単語。
これらを統合すれば、クウガとアギトの世界に存在する未確認生命体・グロンギしか、士は該当する怪人を知らない。
だが、士は人の姿を持ったグロンギなど知らなかった。究極の闇、ン・ガミオ・ゼダによって多くの人間がグロンギに変えられたことはあった。だがそうして生まれたグロンギには、グロンギ族であることを示すバックルがなかったのである。
それ故に迷ったが、だからこそカマを掛ける意味で、士はグロンギの言葉でそう応じた。
「ゾグ……パセサン ボドザゾ ガジャヅセスボバ(ほう……我らの言葉を操れるのか)」
果たして相手は、グロンギの言葉で応えた。
「こいつ……未確認!?」
やはりアギトの世界出身なのだろう、ブレイドが驚愕したような声を上げるが、ガドルと名乗ったグロンギは彼を無視し、士の変身したディケイドを見やる。
「ドボデ ゴゾゲダ(どこで覚えた?)」
「パスギ、ザグセダ(悪い、忘れた)」
そう間髪空けず答えるも、士はライドブッカーを握る手が汗ばむのを感じていた。
ガドルの放つ威圧感は異常だ。旅の中で出会って来た数々の強敵達の中でも、最上位に位置するほどの力を持っていることが感じ取れる。各世界のライダーの持ち力を失った、今の士が相手をするには危険過ぎるほどに。
「おい、おまえ……どうして奴らの言葉を……?」
「良いから構えろ」
故にブレイドの疑問に答える余裕はなかった。
「言ったはずだ、奴は俺達の敵だと……」
それも、とびっきり凶悪な。
その言葉を待っていたかのように、ガドルは胸元の装飾品を一つ千切った。
同時に小さい勾玉状のそれが、巨大なボウガンへと形状を変える。
「来るぞっ!」
そのボウガンから矢が放たれる時には、ディケイドは地を蹴りブレイドと反対方向へと跳んでいた。
直後、ディケイドの背を叩く衝撃と、轟音。
当たったわけではない。掠めたわけでもない。それでも後方の家屋を一撃で消し飛ばしたボウガンは、衝撃波だけでディケイドの体勢を崩すほどの威力だった。
まともに当たれば、致命傷になりかねないほどの威力。それに対して反射的に生じた恐怖を捩じ伏せ、ディケイドは一枚のカードをディケイドライバーに投げ込む。
――ATTACKRIDE BLAST――
ライドブッカーをガンモードに変形し、トリガーを引く。瞬間、ライドブッカーの周囲に四つの虚像が現れ、それらを含めた五つの銃口から、無数のエネルギー弾が射出される。
無数の弾丸がガドルの胸元で弾けるが、ダメージの入った様子はない。怯みすらせずに、銃口をディケイドに向け、再び矢が放たれる。
「――っ!!」
さらに二射、三射。背中のほんの少し後ろを射抜いて行く矢を振り返らず、ディケイドはライドブッカーで応戦しながら走る。
振り返ったら――足を止めたら、やられる。その直感があった。
当たっても、まるで巨大な岩に豆鉄砲で挑んでいるかのように、ガドルは小揺るぎもしない。必殺の威力を秘めた反撃の矢が、ディケイドの直ぐ後ろを駆けて行く。
知っている限りでは、クウガのペガサスボウガンによく似ていた。だが威力はそれ以上で、単発式のあちらと違いガドルのボウガンは連射が効く。
だがディケイドの攻撃はダメージにならずとも、ガドルの注意を向けさせることには成功していた。
その間に疾走し、距離を詰めた男が一人。
「ウォオオオオオオオッ!」
絶叫と共に、反対側からガドルに接近していたブレイドが剣を振り下ろした。
「――何っ!?」
だが夜の市街地に響いたのはブレイラウザーがガドルの装甲を切り裂く音ではなく、ブレイドの驚愕に染まった声だった。
既にスラッシュリザードの効果は消えている。それでも優れた切れ味を誇る醒剣ブレイラウザーが、ガドルの装甲に傷一つ付けることなく止められていた。
ガドルがブレイドへと視線を移す。その過程で、眼の色が緑から紫へと変わる。
「まずい!」
効かない弾を撃ち続けながら、ディケイドは思わず叫んでいた。
ガドルの手にしたボウガンが、黒く巨大な剣へと姿を変える。
まるでクウガと同じだとディケイドが思った時、その大剣はブレイドへと振り下ろされていた。
「ウァアアアアアアアッ!?」
先程まで、ライドブッカーに何度切り付けられても耐えて来たブレイドの甲冑が、その一撃でぱっくりと割れていた。
幸いにもその下の紺のスーツにまでは届いておらず、装着者は無事だ。だが、オリハルコンプラチナで形成された鎧でさえ、身の安全を保障してはくれないのだと、この一撃が示していた。
斬撃により倒れ伏し、痺れてまだ立ち上がれないブレイドに、再びガドルが大剣を掲げる。
「やらせるかぁっ!」
だがディケイドは、それをただ見ているわけではない。
――FINAL ATTACKRIDE DEDEDE DECADE――
ディケイドの構えたガンモードのライドブッカーとガドルの間にホログラムのような10枚の巨大なカードが展開される。気づいたガドルがこちらを見た時には、もうディケイドは銃爪を引き絞っていた。
放たれた光弾はカード型エネルギーを潜り抜け、その力を得て光線へと強化される。10のゲートを通過し、極太いビームと化した一撃がガドルを強襲した。
ガドルの巨体が、闇を切り裂き殺到する光の束へと呑まれて行く。
苦鳴を漏らしながら、必殺技により爆散する怪人に巻き込まれまいと、ブレイドが立ち上がりディケイドの方へ向かって来た。
「な……っ!?」
光が収束したというのに、爆発音が聞こえなかったことに背後を振り返ったブレイドと同時に、ディケイドも驚愕と畏怖の声を漏らしていた。
ビームの着弾時より数歩下がった程度の位置で、ガドルは健在していた。
鍛えられた巨躯を誇示するように胸を張るその姿は、先刻と一切の変わりなく。
絶大な威力を秘めた必殺技の一撃でも、奴はダメージすら受けていなかった。
「その程度か……そんな力では、俺には勝てないぞ」
そうして、淡々とした声色で二人に告げて来た。
いや――先程と変わったところがある。
「ブレイド! スペードの5と6と9のカードをラウズしろ!」
それに気づいたディケイドは、そう指示を飛ばした。
目立ったダメージは入っていないようだが、さすがにディメンションブラストの直撃で奴はその手から大剣を取り零していた。武器がない今というチャンスを逃す手はない。
ライドブッカーから取り出した次のカードをディケイドライバーに投げると同時に、隣のブレイドも三枚のカードを立て続けにラウズする。
――Kick――
――Thunder――
――Mach――
三体のアンデッドの力が束ねられ、新たな力が呼び醒まされる――
――それは数多の敵を打ち破って来た、仮面ライダーブレイドの必殺技。
――Lightning Sonic――
――FINAL ATTACKRIDE DEDEDE DECADE――
コンボ成立の知らせに被せるように、別の電子音が鳴る。
ブレイドの両足に稲妻が走り、ライドブッカーを腰に戻したディケイドとガドルの間に、再び10枚のカード型エネルギーが展開される。
「はぁああああああああ……はぁっ!」
二人の仮面ライダーは力を込めるように一度姿勢を低くした後、跳躍する。
黄金のエネルギーゲートはディケイドを追うように動き、彼とガドルを繋ぐ一本の道となっていた。カードを突き破るようにして宙を進んで行くディケイドに、稲妻を纏ったブレイドが並んでいた。
「うぅりゃぁぁぁぁぁあああああああああああああぁっ!」
二人の叫びは唱和され、武器を持たないガドルの胸板に、ディメンションキックとライトニングソニック――ダブルライダーキックが炸裂した。
先の攻撃を耐えた油断からか。ガドルはほぼ防御せず、無防備に二人の蹴りを受けた。
結果、勢い良くその身体は後方に撃ち出され、その勢いのまま家を一軒吹き飛ばした。
キックの反動で軽く宙を舞い、着地した二人の視界に映るのは、だらんと手足を伸ばして仰向けに倒れているガドル。
その右手がぴくんと動き、立ち上がろうとする姿だった。
「なん……だと……っ!?」
信じられない思いで、ディケイドはそう呻く。
あり得ない。一撃でも、それなりの実力者を倒せる攻撃を三連続で浴びせたのに――それで立ち上がった奴には、大きなダメージを受けた様子が見受けられなかった。
立ち上がる過程で手に取っていた装飾品を再びボウガンに変化させたガドルが、竦んだように動けなかったブレイドを狙い撃つ。
「ウォォォオオオオオオオオッ!?」
「――おいっ!」
直撃し、弾け飛んで行くブレイドを思わずディケイドは振り返る。だがそんな場合ではないとガドルを振り返った時、奴はボウガンを大剣に変えながら接近して来ていた。
振り下ろされる大剣を、咄嗟に抜き放ったライドブッカーの刀身で受ける。
完全に防御したのに、その上から叩き潰されるような斬撃だった。
ガドルの剛力に耐え切れず、鍔迫り合いの状況でディケイドは膝を着く。そのじりじりと押される鍔迫り合いを保つだけでも、両腕の痺れたディケイドには必死のことだった。
「――弱いな。悲しいぞ、仮面ライダーよ」
「――悪かったなっ!」
叫びに怒りを乗せて、何とかガドルの大剣を押し返し、その隙に彼の下から抜け出す。側転して逃れたディケイドは、悠然と構えるガドルに向けてライドブッカーを構える。
「究極の闇とやらより強いグロンギがいるなんて、聞いてないぜ……」
かつて小野寺ユウスケの世界を存亡の危機に陥れたグロンギの王、ン・ガミオ・ゼダ。
キバーラによってユウスケが強制的に変身させられ、全てのライダーを破壊するための戦いをしていたディケイドに最後に立ち塞がった仮面ライダー、アルティメットクウガ。
究極の闇と呼ばれた彼らも強かったが、目の前に立つ破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バはそれらを超越しかねないほどの力を発揮していた。
「――バビゾ ギデデギス(何を言っている)?」
だがそのディケイドの嘆きを本気でいぶかしむような声を、ガドルが発する。
「ギランゴレゼザ ギラザ ゾゾドゴギ ビパ キュグキョブンジャリ(今の俺では、未だ究極の闇には遠い)。ザバサボゾ ボグギデ、ビガラサド ダダバッデギスド ギグボビ 仮面ライダー(だからこそこうして、貴様ら仮面ライダーと戦っているというのに)?」
仮面ライダーだけをリントの言葉のままにして、ガドルはディケイドに尋ねていた。
「ゴロゴロ ビガラグ バゲ ギデデギス ゾ ダグバ(そもそも貴様が、何故ダグバを知っている)?」
「ダグバ……?」
その名前を聞いた時、ディケイド――士は、妙に強い引っ掛かりを覚えた気がした。
まるで、行き別れた家族の名を聞いたような、そんな感覚。
だが、参加者名簿で見たかもしれないが、初めて聞く名前だったのもまた事実。
そんなディケイドの戸惑いを察知したのか、ガドルは再び剣を構えた。
「――ギブゾ(行くぞ)」
宣告と共に間合いが詰められる。振り下ろされた大剣を、ディケイドは何とかライドブッカーを使って受け流した。だが受け流しても、その両腕が痺れる重い一撃。
受けるだけで消耗する斬撃が、一度ではなく何度も迫る。何とか凌いでいたディケイドはしかし、攻防が十にも満たぬ内に限界を迎える。
ライドブッカーごと斬撃に捕えられ、胸部の装甲を裂かれながらディケイドは宙を舞う。
「――がはっ!」
受け身も取れず地に叩きつけられ、肺から空気が吐き出された。衝撃で脳が揺れたのか、立ち上がることができない。
歪む視界の端には、大剣を片手に迫るガドルの姿。
――こんなところで……すまない、夏海。どうやら俺も、今からそっちへ行くみたいだ……
そう士が、ディケイドの仮面の下で瞼を閉じた瞬間。
金属同士の激突する、甲高い音が彼の鼓膜を叩いた。
「――おい、起きろっ!」
耳に入ったのは、ブレイドに変身したあの男の声だった。
意識をはっきりさせたディケイドが顔を上げれば、ブレイドが両手でブレイラウザーを支え、ガドルの大剣を受け止めていた。
力に押され、潰されそうになりながらも、ブレイドはディケイドに呼び掛けてくる。
「どうしたっ!? おまえが俺の道の邪魔をする、俺を壊すんじゃなかったのか!? そんなところで寝てるから、俺が……人を護ることに迷う自分を、もう壊しちまったぞっ!」
「……そうか」
ディケイドはゆっくりと、しかし脚に力を込めて立ち上がる。
同時、ガドルの蹴りが胸部の装甲を大きく損壊したブレイドに突き刺さる。悲鳴と共に撃ち出されて来たブレイドの身体を受け止め、ディケイドはガドルから一旦距離を取る。
「それなら、勝つぞ。ブレイド」
痛みを訴える身体を強い意志でねじ伏せて、満身創痍の二人の仮面ライダーが並び立った。
「……俺は、葦原涼だ。だが何か策があるのか? 俺の力も、おまえの力も、奴には通用しなかったぞ」
葦原涼と名乗ったブレイドに、ディケイドは頷く。
「確かに、俺の力もおまえの力も、こいつには通じなかった……だが!」
ディケイドは、ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。
この圧倒的不利な戦いを覆す最後の希望である、切り札を。
「――俺達には、まだ俺とおまえの力が残されているっ!」
そしてディケイドは、運命のカードをライドした。
――FINAL FORM RIDE B B B BLADE――
「ちょっとくすぐったいぞ」
「え……、おいっ!?」
ブレイドの抗議を無視して、ディケイドは相手の背中に手を突っ込む。
内側から何かを引っ張り出すように動かすと、ブレイドの背にブレイラウザーのそれを巨大にしたようなカードトレイが現れる。
突如として再生した胸部装甲と共にそれが回転し、上へ向く。
同時にブレイドが浮かび上がって反転し、両腕が頭部と共に装甲とトレイの間に収納され、両足が巨大な刃へと超絶変形する。
ディケイドの手に掴まれたのは、彼の身長の倍ほどもある、ブレイラウザーを模した巨大な剣。
ブレイドブレード。
――これは……
ブレイドが変形したブレイドブレードから、葦原涼の声が響く。
「これが俺とおまえの力だ、涼っ!」
叫んだディケイドは、ファイナルフォームライドが完了するや否や接近して来ていたガドルへと、この超巨大剣を薙いだ。
ここまで巨大な得物ならば、懐に潜り込めば満足に戦えまい――ガドルはそう予想していたのだろう。これほど巨大な剣ならば、接近中に振るわれようと遅く、充分対処できると。
だが実際はどうか。まるで滑るように移動したブレイドブレードは、ガドルの左半身へと襲い掛かっていた。
「――ぬぅっ……!?」
ブレイドブレードを手にした大剣で防ぐガドルだが、先程までのディケイド達のように斬撃の威力に耐え切れず、間合いの外へ投げ出されていた。
それは破壊のカリスマがこの戦いにおいて見せた初めての、本当の意味での隙。その時を作り得たディケイドは、ついに切り札を切った。
――FINAL ATTACKRIDE B B B BLADE――
巨大なブレイドブレードの刀身に、青白い稲妻が迸る。
それが放つ絶大な力の波動は、ガドルに本能的に剣を構えさせていた。
だがそれは、大きな判断ミスだと言わざるを得ないだろう。
「――ウェアッ!」
ディケイドとブレイドブレードの気合いが唱和され、必殺の一撃が叩き落とされた。
それは掲げられたガドルの剣をへし折り、彼の身体を切り裂いて、そして射線上に存在した家屋を巻き込んだ強烈な爆発を巻き起こした。
|087:[[防人(前篇)]]|投下順|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|時系列順|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[ゴ・ガドル・バ]]|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[葦原涼]]|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[橘朔也]]|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[日高仁志]]|087:[[防人(後篇)]]|
|087:[[防人(前篇)]]|[[門矢士]]|087:[[防人(後篇)]]|
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