「君はあの人に似ている (前篇)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

君はあの人に似ている (前篇)」(2011/12/16 (金) 22:50:21) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

*君はあの人に似ている (前篇)◆/kFsAq0Yi2  ――揺れを感じて、小野寺ユウスケは意識を取り戻した。  この地に連れて来られてからの戦いで積み重なった疲れを身体の節々で感じつつ、自分が誰かに背負われていることに気づいた。 「あっ――ごめんなさい!」 「――気がついたのかい?」  慌てて飛び降りようとするユウスケをがっちり掴んだまま、そう男の声が返って来た。  何とか相手の拘束を振り払って脱出したユウスケは、その声をどこで聞いたか思い返す。  先程、レンゲルに襲われていた深紅の仮面ライダーの声だと気づいた時には、ユウスケは周囲を見渡した。 「レンゲルは!?」 「――あの仮面ライダーですか? 今さっき、あなたが追い払ってくれましたよ」  そう後ろから、婦人警官を背負った少年がユウスケに答えた。 「あなたが来てくれていなかったら、多分、俺達は殺されていました……本当にありがとうございます」  人を背負ったまま器用なことに、そう丁寧に頭を下げて来た少年の浮かべた笑顔に、ユウスケは素直に安心と喜びを覚え――すぐにそれを振り払った。 「……無事なら、良かったです。それじゃあ」  デイパックも持たず、踵を返してユウスケは彼らと別れようとした。  こんな自分でも、また誰かの笑顔を護ることができた。それは純粋に――本当に本当に、嬉しい。  だけど、誰かと一緒に居てはもう、ダメなのだ。  だって、自分は―― 「――待ってくれ!」  そう自分を背負っていた、茶色のロングコートの男が呼び止めて来た。 「俺には、恥ずかしいことに力が足りない。ここに連れて来られた人々を保護して殺し合いを止めるには、君の力が必要なんだ。何より君も、こんな場所に一人だけでは危険だ。我々と一緒に行動してくれないか?」  助力を求める男の言葉に、しかしユウスケは歩みを止めなかった。  ただ無視しては彼らも納得しないだろう。だから、理由だけは残しておくことにした。 「無理……ですよ。俺はもう、誰かの傍にいちゃいけないんです。  俺がその人達を傷つけて、笑顔を奪ってしまうから……」  だって自分はもう、未確認―― 「――それは君が、第四号だからか?」  思わぬ言葉に、ユウスケの足が止まった。  この人は、俺を――第四号を――クウガを、知っている? 「――戦うためだけの生物兵器に、なってしまうかもしれないからか?」  ユウスケの反応を慮ってか、先程の驚きと焦燥を含んでいた声が、今度は穏やかに、ただ確認をするような、そんな声色に変わった。  ただ、ユウスケの方はそうはいかない。 (戦うためだけの……生物兵器)  それはまさに、あの黒きクウガを的確に表した言葉だった。  ただ憎しみに駆られ、ただ怒りのままに、究極の暴力を行使し、他者を傷つけるだけの存在。  それはまさに、他者を殺傷することだけが存在意義の、兵器と呼ぶに相応しいモノだ。  それが今の、ユウスケ自身。 (だったらやっぱり、俺はここに居てはいけない――っ!)  ――その力が、俺達に向けられたらどうする?  脳裏に蘇るのは、橘朔也の恐怖を孕んだ声。  人を傷つけるだけの兵器が、人と一緒にいて、その人を笑顔になんてできるわけがない。  ただの兵器となった自分は、その存在意義を果たし、そして消えるべきなのだ。 (この命と引き換えに、ダグバを討つ!)  その決意を胸に、ユウスケは疲労困憊した身体に鞭打ち、走り出す―― 「それでも君は、誰かの笑顔のために戦った……俺の知っている、四号と同じように」  ――その言葉が届いていなければ、そうなるはずだったのだ。 「……もう一人の、クウガ?」  ユウスケは止まり、思い出す。  橘達に見せて貰った、もう一人のクウガの戦いの記録を。  半径数kmにも渡る爆発を伴う、凄まじい戦いを繰り広げてきた、もう一人のクウガ。その力はまさに、兵器と呼ぶに相応しい物。  一体彼が、どんな気持ちで戦っているのか――それを知りたいと、ユウスケは思っていた。  振り返った先にいる、強い眼差しで頷いたロングコートの男――自分ともう一人のクウガを同じだと言う、彼はいったい、何者なのか。 「あいつは強い男だが、暴力を好しとする奴じゃなかった。いつも、心の中で泣きながら、それでも皆の笑顔のために戦った」 「皆の、笑顔のために……」  ――私一人の笑顔のために、こんなに強いなら……世界中の皆のためなら、あなたはもっと強くなれる。  ――私に見せて、ユウスケ?  姐さんと慕った、八代藍刑事の最期の頼み――ユウスケの原動力たるその願いを思い出しながら、ユウスケは男の言葉を繰り返す。 「それでも――あいつがどんなに辛くても戦えたのは、一人じゃなかったからだ。  あいつの家族も、友人も、同僚も、仲間も――未確認との戦いを押し付けてしまった俺さえも、五代は自分を支えてくれていると言っていた。無力な俺達が、あいつを支えていると」  五代――それがもう一人の、第四号……仮面ライダークウガの名前。  そう静かに認識するユウスケに、目の前の男はさらに語りかける。 「あいつも、何度も戦うための生物兵器になりかけた。それでも、あいつは皆の笑顔のために戦う、戦士クウガであり続けている……。  君は俺や五代よりも若い。そんな運命を背負わされて、どんなに辛いか――俺は、それをずっと傍で見て来たつもりだ。  だから、言わせてくれ。そんな辛い想いを、たった一人で背負い込もうとするな……と」  ひょっとするとそれは、ユウスケだけに向けた言葉ではなかったのかもしれない。  彼の知るクウガへの罪悪感が言わせた言葉だったのかもしれない。  ただその熱い意志を感じさせる瞳には、ここにはいない男への想いだけでなく――殺し合いの中で戦力を欲する保身でもなく、純粋にユウスケ自身を案じる想いが、確かに見て取れたから。  ユウスケが紡いだ否定の言葉は、とても弱々しいものだった。 「ダメなんです……俺は、俺だけが危険なわけじゃない。俺を怒らせるために、ダグバが他の人達を殺して行く……」  門矢士や、海東大樹や、橘やヒビキ、名護啓介が紅蓮の炎に焼かれて悲鳴と共に落命し、それを見て邪気もなく笑う、白い怪人の姿が頭に浮かぶ。  その幻想を振り払い、ユウスケは語気を強めて叫ぶ。 「俺は、その前にあいつを倒さないといけない! その時誰かが俺の傍にいたら、究極の闇に巻き込んでしまうっ!」 「ダグバ、それに究極の闇……第零号かっ!?」  そう驚愕を漏らした男から視線を逸らして、ユウスケは再び走り去ろうとする。  だがその前に、男に捕まえられる。 「奴は危険だ! 一人で戦おうなんてするな!」 「危険だから! 他の人は巻き込めないって言っているんじゃないですか!?」  そう叫び返し、掴まれた腕を振りほどいたユウスケに、男はさらに大きな声で叫んだ。 「――それがわかっているのなら! どうして君は、自分の身は顧みない!? 君が傷つくことで悲しむ人がいるということが、どうしてわからないっ!?」 「――っ!」  そう声を張り上げる男の剣幕に、思わずユウスケは黙ってしまう。  ――私はただ、あなたを心配して――  生前の姐さんの、そんな言葉が蘇る。  あの時の自分は、他に未確認と戦う戦士が現れて、自分は姐さんに捨てられてしまうんじゃないかと――彼女の気持ちも考えず、その心配をまるで気に留めようとしなかった。  そして、今の自分には――仲間がいる。  ――こいつが皆の笑顔を護るなら! こいつの笑顔は、俺が護る!  ――知っているか。こいつの笑顔、悪くない。  そう言ってくれた士は今、光夏海を喪って、何より辛いはずだ。  そんな彼を、さらに自分は傷つけようとしていた、ということなのか?  自分が犠牲になることで、士や、海東さんや、橘さんやヒビキさんと言ったこの会場で出会った仲間達が――死んでしまった夏海ちゃんや海堂が、そして姐さんが、何にも悲しく想うことなく、笑顔になれるだろうか? 彼らはそんな、冷たい者達だったか?  答えは否だ。彼らはきっと、誰よりも優しい心を持っている。だからこそ、人を護るために皆が戦っている。そんな彼らが、自分のような存在だろうと、誰かが傷ついて心痛めないわけがない。  俯くユウスケに、さらに男が言葉を掛ける。 「――皆の笑顔を護ると言うのなら、中途半端な真似はするな。皆の中に、どうして自分を想ってくれる人を、どうして自分自身を入れないんだ」  本気で怒ったような男の声に、ユウスケは何も言い返せなかった。 「そうですよ」  それまで黙って見ているだけだった少年も、男の言葉に後押しされたように、そこで口を開く。 「自分を助けてくれた人が苦しんでいて、そのまま誰かのために犠牲になってしまったら……俺は、本当に立派だと思いますけど、それでも――残された者として、とても、悲しいです」  少年の言葉には――それを体験した者だけが持ち得る本物の感情が込められているように、ユウスケには感じられた。 「だから、あなたも自分のことをもっと大事にしてください。俺も鍛えてますけど、あなたの力は俺なんかよりずっとずっと凄いです。その力で守れる人が、俺達以外にももっとたくさんいるはずなんです。あなたが無事で居てくれるだけでも、救われる人がいるはずなんです。……だから、お願いします」  そう少年に頼まれては、その想いを無下にできるはずもなく。 (中途半端、か――)  誰も巻き込まずにダグバを倒すために単独行動を、などと言っているはいるが、自分はただ――橘の言葉が、その後に続く拒絶が怖くて、あの場から逃げ出しただけではなかったのだろうか。  彼がダグバやそれに等しい究極のクウガに恐怖はしても、ユウスケ自身を拒絶する理由などどこにもないというのに。  そう考えてしまえば、もう――ユウスケには、彼らの申し出に抗うことなどできなかった。 「あなた達の、名前は……?」  ユウスケの問いに、ロングコートの男が懐から警部補の階級が記された警察手帳を取り出す。 「俺は、警視庁未確認生命体合同捜査本部所属、一条薫だ」 「俺は桐谷京介って言います。この人のことは、わかりませんけど……」  一条に続いて名乗った後、背負った女性をそう振り返った少年の名に、ユウスケは強く反応する。 「桐谷京介、って……ヒビキさんの弟子の、京介くんかっ!?」 「!? ヒビキさんを知って――」 「――ようやく、追い付いたか」  京介の問いかけは、その男の声によって遮られた。  ――どうして、その声を聞くまで気づけなかったのだろう。  いつの間にか自分達の背後に立っていたその壮年の男からは、強烈な威圧感が放たれている。  それが男の隠そうともしていない闘気と、そして殺気というべき感情による物であることは、既に何度もその類の感情に晒された三人には、一瞬で理解できていた。 「――どいつが、小野寺だ?」  鰐の皮を思わせる衣服に身を包んだ男の問いに答えることなく、ユウスケと一条が女性を背負った京介と男の間に立ち、それぞれ戦うための覚悟を決めた戦士の言葉を紡ぐ。 「――変身っ!」  されど――何も、変わらない。  アークルは現れない。アクセルドライバーに押し込んだアクセルメモリも、内包する地球の記憶を解放することはない。 「!? どうしてっ!?」 「――やはり、か……!」  変身の叶わなかったことにユウスケは動揺した声を上げ、一条は無力を噛み締める。 「ああ、なるほどな……おまえが、小野寺か」  一方でそう一人呟いた男は苛立たしげに舌打ちし、気だるげに息を吐いた。 「やっぱりクウガとやらになって戦えねえのかよ……おまえのせいだぞ」  そう誰もいないのに何者かに語りかけるように言葉を発する男に、ユウスケは問い詰める。 「おまえ、誰だ? どうして俺のことを知っている!?」 「俺は牙王だ。――まあ、戦えないならそれはそれで、仕込みぐらいはしておくとするか」  言い終えると同時に、何もない空間から恐竜や鰐の顎を模したようなバックルが現れ、一人でにベルトが男の腰に巻かれる。  男がバックルのボタンを押すのを見て、突然の事態に戸惑うことなく一条はデイバックへと手を伸ばす。ユウスケは京介に振り返り、避難を促す。 「その人を連れて逃げるんだ、京介くん!」 「変身」  ――GAOH FORM――  ユウスケが視線を戻せば、バックルの前に翳されていた黄金のカードケース――電王のライダーパスに似ているそれが、同じように分解され、破片が牙王に纏わりつき、装甲して行く。 「――そっちに装甲車がある! それで逃げろ!」  少年相手に無茶なことをユウスケの叫ぶ間に、胸板へと天に伸びた牙のような一対の白い角が、両肩へと恐竜の頭を思わせるショルダーアーマーが、金と黒で構成されたスーツに装着される。  破片は最後に、顔面で恐竜の顔によく似た形を作り――それが展開して、異形の仮面となった。  全ての過程を終え、その仮面ライダー――ガオウは、全身から赤黒い波動を放った。  それに怯まず、生身でユウスケはタックルを仕掛けた。  だがガオウは、事もなく片手を払い、ユウスケの身体を路上に転がらせる。  ダメージも疲労も蓄積された身に、軽くとはいえ仮面ライダーの打撃を受けたユウスケは思わず悲鳴を発し、激痛に行動を縛られる。 「くだらねえ真似すんじゃねえよ――おまえは、メインディッシュって奴だ」  そうユウスケに告げるガオウの胸板で、金属音が鳴る。  AK-47 カラシニコフから一条の放った、対オルフェノク用スパイラル弾は、しかし仮面ライダーの装甲に傷一つ着けることができずに弾かれていた。 「おまえは、オードブルって奴だな」  一条が続けて放つ弾丸を気にも留めず、ガオウは一気に距離を詰める。  咄嗟にデイパックを掲げたが、ユウスケの時とは違って全力のライダーの拳が一条を襲っていた。  まるで大型トラックに撥ねられたように、一条の身体が宙を舞い、家屋の壁に激突しそれを突き破る。 「――っ! 一条さんっ!!」  路地を一つ挟んだ大型車線上に停車してあった装甲車の方に向かっていた京介が思わず振り返り、崩れ落ちる瓦礫と立ち込めた粉塵に向けて、叫び声を発する。  その悲痛な声はユウスケの耳にも届いていた。  生身であんな目に遭っては、助かりっこない――理不尽な暴力で人々の笑顔を奪う悪のライダーに、ユウスケの中にドス黒い憎しみが生まれる。  もしも変身できていれば、あの黒いクウガになってしまっていたかもしれない。 (一条さん――っ!)  もう一人のクウガを知る刑事。会って間もない自分を心配してくれた人。そんな彼が、あっさりと殺された。  だがそのことを嘆き、立ち止まっている暇など、今はない。 「どうやら、効果覿面って奴みてえだな」  二人の敵意の籠った視線を受けながら、そうユウスケを見て嗤ったガオウは腰に付いていた二つのパーツを連結させ、デンガッシャーのように組み立てる。  そして黄金のライダーパスを腰に翳すと、電子音が生じる。  ――FULL CHRAGE―― 「――京介くん、逃げろっ!」  ユウスケが叫ぶと同時に、ガオウの持つ大剣の先端が高速回転を始め、電流のようなエネルギーを纏う。 「――らぁああっ!」  ガオウの叫びと共に、その先端が放たれた。  文字通りの飛ぶ斬撃と化したその一撃は、背負った女性を放さないまま何とか横に逃げた京介の脇を通り過ぎて――その先にあった装甲車を、まるでバターのように引き裂いた。  エンジンを貫き、刀身に宿っていたエネルギーが引火させたのか――巨大な鉄の箱は、呆気なく爆発四散する。 「うわああああああっ!?」  降り注ぐ鉄の欠片から意識の無い女性を護りながら、京介が悲鳴を上げる。  そのすぐ隣のいくつかの家屋を貫き、崩壊を引き起こしながら、ガオウの構えた大剣の柄にその刃がブーメランのように舞い戻り、装着された。 「はっ――さて、トドメと行くか」 「やめろ――っ!」  何とか立ち上がったユウスケは、ガオウに必死に組みつく。が、身動ぎだけで払われてしまう。  今度は倒れ込まず、膝を着きながらも、ガオウと京介達の間にユウスケは立ち塞がった。 「おまえ……! どうしてこんなことをするんだっ!?」  理不尽な暴力への純粋な怒りを込めて、ユウスケはガオウに問う。  それに対して、ガオウは可笑しそうに鼻を鳴らす。 「そりゃ、おまえを強くしてやるためだよ」 「な――に……?」  思わぬ言葉に、ユウスケは衝撃を受ける。 「聞けばおまえ、ダグバに他の参加者を喰われたら、奴に対抗できるだけの究極の力を出したしたそうじゃねえか。おまえは雑魚ばっかの中でやっと見つけた極上の獲物だ。豚は太らせてから喰え、って奴だな」  ガオウがどうしてそんなことを知っているのか、どうしてそんなことを言うのか、どうしてこんな酷いことができるのか、ユウスケにはわからない。  だが――  ――こうまでしてあげたのに、何で怖くならないのかな? 早くしてよ。  そう言って、二人の参加者を屠ったダグバの姿が憎しみと共に蘇る。  この仮面ライダーは未確認と同じだ。理解できない自身の快楽のために、他者に理不尽な暴力を振るい、皆の笑顔を奪って行く。  ここで止めなければ。倒さなければ、一条だけでなく、もっとたくさんの人の笑顔が犠牲になる――っ! 「邪魔だ」  そうガオウに払い除けられ、再び地に倒れるユウスケ。視界の端には、迫り来る凶手から女性を庇い、変身音叉を構えるも――自分や一条と同じく、それが叶わない京介の姿が映った。 「やめ……ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」  二人ににじり寄りながら大剣を構えるガオウに、ユウスケは絶叫する。  そして、心から欲する。  あの二人を助ける力を。  この状況を打破するための、力を。  皆の笑顔を護るための、本当の力を!  全てを闇に覆い尽くす究極の力を手にしながら、そんなものではなく、たとえちっぽけでも誰かの笑顔を護るための切実な力を欲するユウスケの叫びに――  ――天は、応えた。 「――やらせるかよぉおおおおおおおっ!」  そう、聞き覚えのある声がしたかと思うと――空から舞い降りて来た金と青の影が、ガオウを目掛けて突撃した。  周回する軌道を描いた二つの影は、ライフル銃による狙撃も受け付けなかった仮面ライダーの装甲に火花を散らせ、ガオウを苦鳴と共に後退させる。 「これ以上の悪事は、この俺様が見過ごさねえぜ!」 「――キバットっ!?」  器用なことに、飛びながら片方の翼をまるで指差すようにガオウに突きつけた、顔だけの蝙蝠のような小さい金色のモンスター――かつての同僚とまったく同じ声と姿をした存在に、ユウスケは思わず叫んでいた。 「えぇっ!? 何で兄ちゃんが俺の名前を知ってるんだよぉ!?」 「……おまえ、あの時の蝙蝠か」  首を振りながら、そうガオウが立ち上がる。 「おまえがここにいるってことは、あいつも近くに来てやがるのか?」 「渡は……今は、いねえ」  そうガオウの言葉を否定するキバット。ユウスケは彼らの口から出た名前に気を取られていた。 (ワタル……)  かつて訪れたキバの世界で、友達となった幼い少年――ワタル王子。  彼もまた、ライダー大戦の世界で自らの世界の存亡を賭けて戦っていた。  そこで再会した直後に自分はここに連れて来られたが――彼は今、どうしているのか。  ……などと、感傷に浸っている場合ではなかった。 「そうか。じゃあ、とっとと失せろ。おまえは特別に見逃してやる」 「そうはいかねえ! この兄ちゃんに、渡の大馬鹿野郎を救って貰うんだからな!」  突然そう言われ、ユウスケは顔を上げる。  ワタルを、救う? 「あー……兄ちゃん、承諾も得ないで勝手に口走っちまったけどよぅ……」  ユウスケの方に寄って来るキバットの代わりに、青いクワガタムシ型のメカ――ガタックゼクターが、ガオウを牽制している。 「兄ちゃんに、頼みがあるんだ。だからその前に、兄ちゃんに死なれちまったら困るんだよ。勝手だけどよぉ、助太刀させて貰うぜぇ」 「いや……助かる!」  ユウスケはそう本心から礼を述べつつ立ち上がり、また気だるげな溜息を漏らすガオウを睨む。 「何にしても、まずはこいつをどうにかしないと……」 「あぁ。俺だって、このままじゃ仮面ライダーと戦うなんてできねぇ。本当はあいつが力を貸してくれたら良いんだが……何考えてんのかわかんねぇし」  そうキバットは、ガオウを牽制するように飛び回るガタックゼクターを見、それからユウスケに真剣な表情で振り返る。 「だから、兄ちゃん――!」  するりとキバットが、ユウスケの左手の方に飛んで来た。 「普通の人間にゃちょっとしんどいだろーけど、俺の力、使ってくれ!」 「えっ……?」 「キバって、いくぜぇぇぇぇぇっ!!」  ガブリ、っと。  キバットが、ユウスケの手の甲に噛み付いた。  魔皇力が注がれた瞬間、ユウスケは思わず身を捩った。  既に疲労が蓄積されていたその身に、人間にとっては毒である魔皇力を体内に取り込んだのだ。もはや疲労は、直接痛覚に訴えて来るほどの物。  だが、それでもユウスケはもう、膝を屈しなかった。  その腰に鎖が巻かれると、それが銀のベルトへと姿を変える。  ユウスケに余計な手間を掛けさせないためか、ユウスケの手からその牙を抜いたキバットは自分からバックルへと頭を下にして収まった。 「変……身……っ!」  言葉を発するのも億劫なほどだったが、ユウスケはそう叫んだ。  キバットの身体から湖面が波打つような波動が放たれ、ユウスケの輪郭が変化して行く。  そうして夜の市街地に現れたのは、頭上に輝く月のように黄色い瞳と、血の色をした体色の異形。  それはファンガイアの王たる証の鎧を纏った戦士――仮面ライダーキバ。 「変身……した?」  再び女性を背負った京介が、そう驚愕の声を漏らした。 「おまえがそれになるのかよ」  少し呆れたように、ガオウは吐き捨てた。 「俺が……キバに」  そしてキバ――ユウスケは、かつて自らが仕えた友にして王たる者のそれと同じ鎧を纏ったことに、わずかばかりの感嘆を漏らしていた。  自然と、変身する前に感じていた魔皇力による苦痛はある程度軽減していた。それでも長時間の戦闘ができるほどの体力が今のユウスケに残っているのかは怪しいが。 (――これなら、戦える!) 「気をつけろよ、兄ちゃん。こいつ認めたかねぇが、強いぜ!」  そうキバットが警告を飛ばし、ユウスケもそれを感じ取っていたからこそ、油断なく構える。 「……まあ、良い。邪魔するってんのなら味見ぐらいしてやるとするか」  そう言ってガオウは、大剣を片手にキバへと距離を詰め始めた―― |092:[[Sを受け入れて/地獄の兄妹]]|投下順|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |091:[[献上]]|時系列順|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |075:[[交錯]]|[[一条薫]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |075:[[交錯]]|[[小沢澄子]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |075:[[交錯]]|[[桐矢京介]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |083:[[会食参加希望者達(後編)]]|[[牙王]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |075:[[交錯]]|[[小野寺ユウスケ]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| ----
*君はあの人に似ている (前篇)◆/kFsAq0Yi2  ――揺れを感じて、小野寺ユウスケは意識を取り戻した。  この地に連れて来られてからの戦いで積み重なった疲れを身体の節々で感じつつ、自分が誰かに背負われていることに気づいた。 「あっ――ごめんなさい!」 「――気がついたのかい?」  慌てて飛び降りようとするユウスケをがっちり掴んだまま、そう男の声が返って来た。  何とか相手の拘束を振り払って脱出したユウスケは、その声をどこで聞いたか思い返す。  先程、レンゲルに襲われていた深紅の仮面ライダーの声だと気づいた時には、ユウスケは周囲を見渡した。 「レンゲルは!?」 「――あの仮面ライダーですか? 今さっき、あなたが追い払ってくれましたよ」  そう後ろから、婦人警官を背負った少年がユウスケに答えた。 「あなたが来てくれていなかったら、多分、俺達は殺されていました……本当にありがとうございます」  人を背負ったまま器用なことに、そう丁寧に頭を下げて来た少年の浮かべた笑顔に、ユウスケは素直に安心と喜びを覚え――すぐにそれを振り払った。 「……無事なら、良かったです。それじゃあ」  デイパックも持たず、踵を返してユウスケは彼らと別れようとした。  こんな自分でも、また誰かの笑顔を護ることができた。それは純粋に――本当に本当に、嬉しい。  だけど、誰かと一緒に居てはもう、ダメなのだ。  だって、自分は―― 「――待ってくれ!」  そう自分を背負っていた、茶色のロングコートの男が呼び止めて来た。 「俺には、恥ずかしいことに力が足りない。ここに連れて来られた人々を保護して殺し合いを止めるには、君の力が必要なんだ。何より君も、こんな場所に一人だけでは危険だ。我々と一緒に行動してくれないか?」  助力を求める男の言葉に、しかしユウスケは歩みを止めなかった。  ただ無視しては彼らも納得しないだろう。だから、理由だけは残しておくことにした。 「無理……ですよ。俺はもう、誰かの傍にいちゃいけないんです。  俺がその人達を傷つけて、笑顔を奪ってしまうから……」  だって自分はもう、未確認―― 「――それは君が、第四号だからか?」  思わぬ言葉に、ユウスケの足が止まった。  この人は、俺を――第四号を――クウガを、知っている? 「――戦うためだけの生物兵器に、なってしまうかもしれないからか?」  ユウスケの反応を慮ってか、先程の驚きと焦燥を含んでいた声が、今度は穏やかに、ただ確認をするような、そんな声色に変わった。  ただ、ユウスケの方はそうはいかない。 (戦うためだけの……生物兵器)  それはまさに、あの黒きクウガを的確に表した言葉だった。  ただ憎しみに駆られ、ただ怒りのままに、究極の暴力を行使し、他者を傷つけるだけの存在。  それはまさに、他者を殺傷することだけが存在意義の、兵器と呼ぶに相応しいモノだ。  それが今の、ユウスケ自身。 (だったらやっぱり、俺はここに居てはいけない――っ!)  ――その力が、俺達に向けられたらどうする?  脳裏に蘇るのは、橘朔也の恐怖を孕んだ声。  人を傷つけるだけの兵器が、人と一緒にいて、その人を笑顔になんてできるわけがない。  ただの兵器となった自分は、その存在意義を果たし、そして消えるべきなのだ。 (この命と引き換えに、ダグバを討つ!)  その決意を胸に、ユウスケは疲労困憊した身体に鞭打ち、走り出す―― 「それでも君は、誰かの笑顔のために戦った……俺の知っている、四号と同じように」  ――その言葉が届いていなければ、そうなるはずだったのだ。 「……もう一人の、クウガ?」  ユウスケは止まり、思い出す。  橘達に見せて貰った、もう一人のクウガの戦いの記録を。  半径数kmにも渡る爆発を伴う、凄まじい戦いを繰り広げてきた、もう一人のクウガ。その力はまさに、兵器と呼ぶに相応しい物。  一体彼が、どんな気持ちで戦っているのか――それを知りたいと、ユウスケは思っていた。  振り返った先にいる、強い眼差しで頷いたロングコートの男――自分ともう一人のクウガを同じだと言う、彼はいったい、何者なのか。 「あいつは強い男だが、暴力を好しとする奴じゃなかった。いつも、心の中で泣きながら、それでも皆の笑顔のために戦った」 「皆の、笑顔のために……」  ――私一人の笑顔のために、こんなに強いなら……世界中の皆のためなら、あなたはもっと強くなれる。  ――私に見せて、ユウスケ?  姐さんと慕った、八代藍刑事の最期の頼み――ユウスケの原動力たるその願いを思い出しながら、ユウスケは男の言葉を繰り返す。 「それでも――あいつがどんなに辛くても戦えたのは、一人じゃなかったからだ。  あいつの家族も、友人も、同僚も、仲間も――未確認との戦いを押し付けてしまった俺さえも、五代は自分を支えてくれていると言っていた。無力な俺達が、あいつを支えていると」  五代――それがもう一人の、第四号……仮面ライダークウガの名前。  そう静かに認識するユウスケに、目の前の男はさらに語りかける。 「あいつも、何度も戦うための生物兵器になりかけた。それでも、あいつは皆の笑顔のために戦う、戦士クウガであり続けている……。  君は俺や五代よりも若い。そんな運命を背負わされて、どんなに辛いか――俺は、それをずっと傍で見て来たつもりだ。  だから、言わせてくれ。そんな辛い想いを、たった一人で背負い込もうとするな……と」  ひょっとするとそれは、ユウスケだけに向けた言葉ではなかったのかもしれない。  彼の知るクウガへの罪悪感が言わせた言葉だったのかもしれない。  ただその熱い意志を感じさせる瞳には、ここにはいない男への想いだけでなく――殺し合いの中で戦力を欲する保身でもなく、純粋にユウスケ自身を案じる想いが、確かに見て取れたから。  ユウスケが紡いだ否定の言葉は、とても弱々しいものだった。 「ダメなんです……俺は、俺だけが危険なわけじゃない。俺を怒らせるために、ダグバが他の人達を殺して行く……」  門矢士や、海東大樹や、橘やヒビキ、名護啓介が紅蓮の炎に焼かれて悲鳴と共に落命し、それを見て邪気もなく笑う、白い怪人の姿が頭に浮かぶ。  その幻想を振り払い、ユウスケは語気を強めて叫ぶ。 「俺は、その前にあいつを倒さないといけない! その時誰かが俺の傍にいたら、究極の闇に巻き込んでしまうっ!」 「ダグバ、それに究極の闇……第零号かっ!?」  そう驚愕を漏らした男から視線を逸らして、ユウスケは再び走り去ろうとする。  だがその前に、男に捕まえられる。 「奴は危険だ! 一人で戦おうなんてするな!」 「危険だから! 他の人は巻き込めないって言っているんじゃないですか!?」  そう叫び返し、掴まれた腕を振りほどいたユウスケに、男はさらに大きな声で叫んだ。 「――それがわかっているのなら! どうして君は、自分の身は顧みない!? 君が傷つくことで悲しむ人がいるということが、どうしてわからないっ!?」 「――っ!」  そう声を張り上げる男の剣幕に、思わずユウスケは黙ってしまう。  ――私はただ、あなたを心配して――  生前の姐さんの、そんな言葉が蘇る。  あの時の自分は、他に未確認と戦う戦士が現れて、自分は姐さんに捨てられてしまうんじゃないかと――彼女の気持ちも考えず、その心配をまるで気に留めようとしなかった。  そして、今の自分には――仲間がいる。  ――こいつが皆の笑顔を護るなら! こいつの笑顔は、俺が護る!  ――知っているか。こいつの笑顔、悪くない。  そう言ってくれた士は今、光夏海を喪って、何より辛いはずだ。  そんな彼を、さらに自分は傷つけようとしていた、ということなのか?  自分が犠牲になることで、士や、海東さんや、橘さんやヒビキさんと言ったこの会場で出会った仲間達が――死んでしまった夏海ちゃんや海堂が、そして姐さんが、何にも悲しく想うことなく、笑顔になれるだろうか? 彼らはそんな、冷たい者達だったか?  答えは否だ。彼らはきっと、誰よりも優しい心を持っている。だからこそ、人を護るために皆が戦っている。そんな彼らが、自分のような存在だろうと、誰かが傷ついて心痛めないわけがない。  俯くユウスケに、さらに男が言葉を掛ける。 「――皆の笑顔を護ると言うのなら、中途半端な真似はするな。皆の中に、どうして自分を想ってくれる人を、どうして自分自身を入れないんだ」  本気で怒ったような男の声に、ユウスケは何も言い返せなかった。 「そうですよ」  それまで黙って見ているだけだった少年も、男の言葉に後押しされたように、そこで口を開く。 「自分を助けてくれた人が苦しんでいて、そのまま誰かのために犠牲になってしまったら……俺は、本当に立派だと思いますけど、それでも――残された者として、とても、悲しいです」  少年の言葉には――それを体験した者だけが持ち得る本物の感情が込められているように、ユウスケには感じられた。 「だから、あなたも自分のことをもっと大事にしてください。俺も鍛えてますけど、あなたの力は俺なんかよりずっとずっと凄いです。その力で守れる人が、俺達以外にももっとたくさんいるはずなんです。あなたが無事で居てくれるだけでも、救われる人がいるはずなんです。……だから、お願いします」  そう少年に頼まれては、その想いを無下にできるはずもなく。 (中途半端、か――)  誰も巻き込まずにダグバを倒すために単独行動を、などと言っているはいるが、自分はただ――橘の言葉が、その後に続く拒絶が怖くて、あの場から逃げ出しただけではなかったのだろうか。  彼がダグバやそれに等しい究極のクウガに恐怖はしても、ユウスケ自身を拒絶する理由などどこにもないというのに。  そう考えてしまえば、もう――ユウスケには、彼らの申し出に抗うことなどできなかった。 「あなた達の、名前は……?」  ユウスケの問いに、ロングコートの男が懐から警部補の階級が記された警察手帳を取り出す。 「俺は、警視庁未確認生命体合同捜査本部所属、一条薫だ」 「俺は桐谷京介って言います。この人のことは、わかりませんけど……」  一条に続いて名乗った後、背負った女性をそう振り返った少年の名に、ユウスケは強く反応する。 「桐谷京介、って……ヒビキさんの弟子の、京介くんかっ!?」 「!? ヒビキさんを知って――」 「――ようやく、追い付いたか」  京介の問いかけは、その男の声によって遮られた。  ――どうして、その声を聞くまで気づけなかったのだろう。  いつの間にか自分達の背後に立っていたその壮年の男からは、強烈な威圧感が放たれている。  それが男の隠そうともしていない闘気と、そして殺気というべき感情による物であることは、既に何度もその類の感情に晒された三人には、一瞬で理解できていた。 「――どいつが、小野寺だ?」  鰐の皮を思わせる衣服に身を包んだ男の問いに答えることなく、ユウスケと一条が女性を背負った京介と男の間に立ち、それぞれ戦うための覚悟を決めた戦士の言葉を紡ぐ。 「――変身っ!」  されど――何も、変わらない。  アークルは現れない。アクセルドライバーに押し込んだアクセルメモリも、内包する地球の記憶を解放することはない。 「!? どうしてっ!?」 「――やはり、か……!」  変身の叶わなかったことにユウスケは動揺した声を上げ、一条は無力を噛み締める。 「ああ、なるほどな……おまえが、小野寺か」  一方でそう一人呟いた男は苛立たしげに舌打ちし、気だるげに息を吐いた。 「やっぱりクウガとやらになって戦えねえのかよ……おまえのせいだぞ」  そう誰もいないのに何者かに語りかけるように言葉を発する男に、ユウスケは問い詰める。 「おまえ、誰だ? どうして俺のことを知っている!?」 「俺は牙王だ。――まあ、戦えないならそれはそれで、仕込みぐらいはしておくとするか」  言い終えると同時に、何もない空間から恐竜や鰐の顎を模したようなバックルが現れ、一人でにベルトが男の腰に巻かれる。  男がバックルのボタンを押すのを見て、突然の事態に戸惑うことなく一条はデイバックへと手を伸ばす。ユウスケは京介に振り返り、避難を促す。 「その人を連れて逃げるんだ、京介くん!」 「変身」  ――GAOH FORM――  ユウスケが視線を戻せば、バックルの前に翳されていた黄金のカードケース――電王のライダーパスに似ているそれが、同じように分解され、破片が牙王に纏わりつき、装甲して行く。 「――そっちに装甲車がある! それで逃げろ!」  少年相手に無茶なことをユウスケの叫ぶ間に、胸板へと天に伸びた牙のような一対の白い角が、両肩へと恐竜の頭を思わせるショルダーアーマーが、金と黒で構成されたスーツに装着される。  破片は最後に、顔面で恐竜の顔によく似た形を作り――それが展開して、異形の仮面となった。  全ての過程を終え、その仮面ライダー――ガオウは、全身から赤黒い波動を放った。  それに怯まず、生身でユウスケはタックルを仕掛けた。  だがガオウは、事もなく片手を払い、ユウスケの身体を路上に転がらせる。  ダメージも疲労も蓄積された身に、軽くとはいえ仮面ライダーの打撃を受けたユウスケは思わず悲鳴を発し、激痛に行動を縛られる。 「くだらねえ真似すんじゃねえよ――おまえは、メインディッシュって奴だ」  そうユウスケに告げるガオウの胸板で、金属音が鳴る。  AK-47 カラシニコフから一条の放った、対オルフェノク用スパイラル弾は、しかし仮面ライダーの装甲に傷一つ着けることができずに弾かれていた。 「おまえは、オードブルって奴だな」  一条が続けて放つ弾丸を気にも留めず、ガオウは一気に距離を詰める。  咄嗟にデイパックを掲げたが、ユウスケの時とは違って全力のライダーの拳が一条を襲っていた。  まるで大型トラックに撥ねられたように、一条の身体が宙を舞い、家屋の壁に激突しそれを突き破る。 「――っ! 一条さんっ!!」  路地を一つ挟んだ大型車線上に停車してあった装甲車の方に向かっていた京介が思わず振り返り、崩れ落ちる瓦礫と立ち込めた粉塵に向けて、叫び声を発する。  その悲痛な声はユウスケの耳にも届いていた。  生身であんな目に遭っては、助かりっこない――理不尽な暴力で人々の笑顔を奪う悪のライダーに、ユウスケの中にドス黒い憎しみが生まれる。  もしも変身できていれば、あの黒いクウガになってしまっていたかもしれない。 (一条さん――っ!)  もう一人のクウガを知る刑事。会って間もない自分を心配してくれた人。そんな彼が、あっさりと殺された。  だがそのことを嘆き、立ち止まっている暇など、今はない。 「どうやら、効果覿面って奴みてえだな」  二人の敵意の籠った視線を受けながら、そうユウスケを見て嗤ったガオウは腰に付いていた二つのパーツを連結させ、デンガッシャーのように組み立てる。  そして黄金のライダーパスを腰に翳すと、電子音が生じる。  ――FULL CHRAGE―― 「――京介くん、逃げろっ!」  ユウスケが叫ぶと同時に、ガオウの持つ大剣の先端が高速回転を始め、電流のようなエネルギーを纏う。 「――らぁああっ!」  ガオウの叫びと共に、その先端が放たれた。  文字通りの飛ぶ斬撃と化したその一撃は、背負った女性を放さないまま何とか横に逃げた京介の脇を通り過ぎて――その先にあった装甲車を、まるでバターのように引き裂いた。  エンジンを貫き、刀身に宿っていたエネルギーが引火させたのか――巨大な鉄の箱は、呆気なく爆発四散する。 「うわああああああっ!?」  降り注ぐ鉄の欠片から意識の無い女性を護りながら、京介が悲鳴を上げる。  そのすぐ隣のいくつかの家屋を貫き、崩壊を引き起こしながら、ガオウの構えた大剣の柄にその刃がブーメランのように舞い戻り、装着された。 「はっ――さて、トドメと行くか」 「やめろ――っ!」  何とか立ち上がったユウスケは、ガオウに必死に組みつく。が、身動ぎだけで払われてしまう。  今度は倒れ込まず、膝を着きながらも、ガオウと京介達の間にユウスケは立ち塞がった。 「おまえ……! どうしてこんなことをするんだっ!?」  理不尽な暴力への純粋な怒りを込めて、ユウスケはガオウに問う。  それに対して、ガオウは可笑しそうに鼻を鳴らす。 「そりゃ、おまえを強くしてやるためだよ」 「な――に……?」  思わぬ言葉に、ユウスケは衝撃を受ける。 「聞けばおまえ、ダグバに他の参加者を喰われたら、奴に対抗できるだけの究極の力を出したしたそうじゃねえか。おまえは雑魚ばっかの中でやっと見つけた極上の獲物だ。豚は太らせてから喰え、って奴だな」  ガオウがどうしてそんなことを知っているのか、どうしてそんなことを言うのか、どうしてこんな酷いことができるのか、ユウスケにはわからない。  だが――  ――こうまでしてあげたのに、何で怖くならないのかな? 早くしてよ。  そう言って、二人の参加者を屠ったダグバの姿が憎しみと共に蘇る。  この仮面ライダーは未確認と同じだ。理解できない自身の快楽のために、他者に理不尽な暴力を振るい、皆の笑顔を奪って行く。  ここで止めなければ。倒さなければ、一条だけでなく、もっとたくさんの人の笑顔が犠牲になる――っ! 「邪魔だ」  そうガオウに払い除けられ、再び地に倒れるユウスケ。視界の端には、迫り来る凶手から女性を庇い、変身音叉を構えるも――自分や一条と同じく、それが叶わない京介の姿が映った。 「やめ……ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」  二人ににじり寄りながら大剣を構えるガオウに、ユウスケは絶叫する。  そして、心から欲する。  あの二人を助ける力を。  この状況を打破するための、力を。  皆の笑顔を護るための、本当の力を!  全てを闇に覆い尽くす究極の力を手にしながら、そんなものではなく、たとえちっぽけでも誰かの笑顔を護るための切実な力を欲するユウスケの叫びに――  ――天は、応えた。 「――やらせるかよぉおおおおおおおっ!」  そう、聞き覚えのある声がしたかと思うと――空から舞い降りて来た金と青の影が、ガオウを目掛けて突撃した。  周回する軌道を描いた二つの影は、ライフル銃による狙撃も受け付けなかった仮面ライダーの装甲に火花を散らせ、ガオウを苦鳴と共に後退させる。 「これ以上の悪事は、この俺様が見過ごさねえぜ!」 「――キバットっ!?」  器用なことに、飛びながら片方の翼をまるで指差すようにガオウに突きつけた、顔だけの蝙蝠のような小さい金色のモンスター――かつての同僚とまったく同じ声と姿をした存在に、ユウスケは思わず叫んでいた。 「えぇっ!? 何で兄ちゃんが俺の名前を知ってるんだよぉ!?」 「……おまえ、あの時の蝙蝠か」  首を振りながら、そうガオウが立ち上がる。 「おまえがここにいるってことは、あいつも近くに来てやがるのか?」 「渡は……今は、いねえ」  そうガオウの言葉を否定するキバット。ユウスケは彼らの口から出た名前に気を取られていた。 (ワタル……)  かつて訪れたキバの世界で、友達となった幼い少年――ワタル王子。  彼もまた、ライダー大戦の世界で自らの世界の存亡を賭けて戦っていた。  そこで再会した直後に自分はここに連れて来られたが――彼は今、どうしているのか。  ……などと、感傷に浸っている場合ではなかった。 「そうか。じゃあ、とっとと失せろ。おまえは特別に見逃してやる」 「そうはいかねえ! この兄ちゃんに、渡の大馬鹿野郎を救って貰うんだからな!」  突然そう言われ、ユウスケは顔を上げる。  ワタルを、救う? 「あー……兄ちゃん、承諾も得ないで勝手に口走っちまったけどよぅ……」  ユウスケの方に寄って来るキバットの代わりに、青いクワガタムシ型のメカ――ガタックゼクターが、ガオウを牽制している。 「兄ちゃんに、頼みがあるんだ。だからその前に、兄ちゃんに死なれちまったら困るんだよ。勝手だけどよぉ、助太刀させて貰うぜぇ」 「いや……助かる!」  ユウスケはそう本心から礼を述べつつ立ち上がり、また気だるげな溜息を漏らすガオウを睨む。 「何にしても、まずはこいつをどうにかしないと……」 「あぁ。俺だって、このままじゃ仮面ライダーと戦うなんてできねぇ。本当はあいつが力を貸してくれたら良いんだが……何考えてんのかわかんねぇし」  そうキバットは、ガオウを牽制するように飛び回るガタックゼクターを見、それからユウスケに真剣な表情で振り返る。 「だから、兄ちゃん――!」  するりとキバットが、ユウスケの左手の方に飛んで来た。 「普通の人間にゃちょっとしんどいだろーけど、俺の力、使ってくれ!」 「えっ……?」 「キバって、いくぜぇぇぇぇぇっ!!」  ガブリ、っと。  キバットが、ユウスケの手の甲に噛み付いた。  魔皇力が注がれた瞬間、ユウスケは思わず身を捩った。  既に疲労が蓄積されていたその身に、人間にとっては毒である魔皇力を体内に取り込んだのだ。もはや疲労は、直接痛覚に訴えて来るほどの物。  だが、それでもユウスケはもう、膝を屈しなかった。  その腰に鎖が巻かれると、それが銀のベルトへと姿を変える。  ユウスケに余計な手間を掛けさせないためか、ユウスケの手からその牙を抜いたキバットは自分からバックルへと頭を下にして収まった。 「変……身……っ!」  言葉を発するのも億劫なほどだったが、ユウスケはそう叫んだ。  キバットの身体から湖面が波打つような波動が放たれ、ユウスケの輪郭が変化して行く。  そうして夜の市街地に現れたのは、頭上に輝く月のように黄色い瞳と、血の色をした体色の異形。  それはファンガイアの王たる証の鎧を纏った戦士――仮面ライダーキバ。 「変身……した?」  再び女性を背負った京介が、そう驚愕の声を漏らした。 「おまえがそれになるのかよ」  少し呆れたように、ガオウは吐き捨てた。 「俺が……キバに」  そしてキバ――ユウスケは、かつて自らが仕えた友にして王たる者のそれと同じ鎧を纏ったことに、わずかばかりの感嘆を漏らしていた。  自然と、変身する前に感じていた魔皇力による苦痛はある程度軽減していた。それでも長時間の戦闘ができるほどの体力が今のユウスケに残っているのかは怪しいが。 (――これなら、戦える!) 「気をつけろよ、兄ちゃん。こいつ認めたかねぇが、強いぜ!」  そうキバットが警告を飛ばし、ユウスケもそれを感じ取っていたからこそ、油断なく構える。 「……まあ、良い。邪魔するってんのなら味見ぐらいしてやるとするか」  そう言ってガオウは、大剣を片手にキバへと距離を詰め始めた―― |092:[[Sを受け入れて/地獄の兄妹]]|投下順|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |091:[[献上]]|時系列順|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |075:[[交錯]]|[[一条薫]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |075:[[交錯]]|[[小沢澄子]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |075:[[交錯]]|[[桐矢京介]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |083:[[会食参加希望者達(後編)]]|[[牙王]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| |075:[[交錯]]|[[小野寺ユウスケ]]|093:[[君はあの人に似ている (中編)]]| ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: