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それぞれの決意(後篇)」(2011/12/13 (火) 14:52:07) の最新版変更点

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*それぞれの決意(後篇) ◆/kFsAq0Yi2 ◆ 「――よし、こいつを使えば禁止エリアになる前には、余裕を持って解析できそうだな」  首輪を解析するに当たって、何か使える物がないかと探していた橘達は、幸運にも病院の三階で首輪の内部構造を調べることができる設備を発見することができた。  何故こんな、首輪を解析できる装置があるのか――その疑問がなかったわけではない。  そもそも何故大ショッカーはこんな風に、参加者が危機を脱することを手伝うような物を会場に用意しているのか。既に奴らが信用するに値しない悪の結社であるということは、橘自身も感じ取っていた。  殺し合いを主催した目的もわからない。士達から聞いた話を頭に入れても、やはり奴らが善意で世界の選別をするなどありえない。士は邪魔な仮面ライダー同士で潰し合わせ、世界征服をするつもりなのだろう、と言っていたが……誰一人、いつの間に拉致されたのかも気づかぬ内にこんなところにいるのだ。それこそ無数の世界を旅するディケイドや、あの恐るべき戦闘力を持つダグバが、だ。本当に世界征服がしたいだけならわざわざ手間を掛けずにその力で以ってして、抵抗勢力を一網打尽にしてしまえば良いはずだ。  ――あるいは橘がダグバを強く恐れるのは、それが原因なのかもしれない。  確かにダグバがまたいつ目の前に現れて、自分達を殺そうとするかわからない。その時にまた生き残れる保証もない。目の前に死をちらつかされ、恐怖を覚えるのは当然だ。  だがそのダグバもまた、結局は大ショッカーの掌の上なのだ。自分達はこの殺し合いを打倒するために、大ショッカーを倒さなければならないが、奴らはダグバさえ凌ぐほどの、もはや橘には想像すらできない存在なのだ。  まるで理解の及ばない、そんな奴らと戦わなければならない。それが恐ろしくて仕方がない。  だから橘はダグバやクウガへの恐怖心で、さらなる恐怖から目を逸らそうとしているのかもしれない……。  だが、だからと言って、かつてのように恐怖に屈するわけには行かなかった。  ――彼が、最期の瞬間まで、仮面ライダーとして戦い抜いたのだから……  橘はあの、誰より強かった後輩の死に、それを誓ったのだから。 「――門矢、行けるか?」 「任せろ」  橘の問い掛けに、機械の設定をしていた士がそう得意げに気に答える。  彼曰く――大ショッカーが何を考えて用意したかなんて関係ない、使える物は利用して、後で吠え面かかせてやるだけだ、とのことだった。  橘は、大ショッカーの脅威を自分より知っていてなおもそんな強気な男がいることに、どこか胸を撫で下ろしていた。  そうして首輪の解析が装置によって開始されたのを見届け、橘は溜息を漏らした。 「――門矢の言う通りだったな」 「何がだ?」 「Wの世界の参加者なら簡単に外せるだろうなんて勘違いの馬鹿馬鹿しさが、さ。――俺は自分が理解できない事態に対して、誰かを頼りたかっただけだったのかもしれない」  そう自嘲しながら、橘は続ける。 「――俺も、葦原のように何度も勘違いし、悪意ある者に騙されて、色々な物を失くして来た。組織も恋人も、先輩も……友も」  脳裏に蘇る大切な者達の姿。それらを瞼の裏に焼き付けながら、橘は言葉を紡ぐ。 「だが、そこで立ち止まってはいけないんだ。俺にはまだ……残されたものがあるからな。誰かに縋るんじゃなくて、自分の道は自分で歩かないと行けない……少なくとも、剣崎はそういう奴だった。なら俺は友として、あいつに恥じないように生きなければならない」 「――そうか」  橘の決意に、士は静かに頷いてくれた。  自分の世界。そこに残して来た仲間達。そして門矢達、この会場で出会った新しい仲間――  橘にはまだ、仮面ライダーギャレンとして、護るべきものがあるのだ。  そのために戦うという宣言を、数多の世界を渡って来た旅人は、聞き届けてくれた。 「――そういえば、もう一つのバトルロワイヤル会場の方にも、他の世界のギャレン達がいるんだったな」  彼らも今の自分と同じような思いで戦っているのだろうか――橘はふとそう漏らす。 「――もう一つの、バトルロワイヤル会場?」  だがそれを知るはずの士は、怪訝そうな表情で聞き返して来た。 「おまえはライダー大戦の世界という、バトルロワイヤルの会場から来たんじゃなかったのか?」  だがその反応に、橘は困惑せざるを得なかった。  何しろ門矢士は、本気で橘の言葉が理解できないと言った風で居るのだから。 「――そんな世界、とっくに通り過ぎたぞ」 「――何?」  小野寺ユウスケから聞いていた話と違う。橘は思わず士を問い質していた。  返って来たのは、その世界を訪れたのは既に過去の話だと言うもの。アポロガイストを倒し、一度は大ショッカーを潰し、再編成されたスーパーショッカーも叩き潰したという。  だが現にこうして大ショッカーは健在。ユウスケがあの状況で嘘を吐く理由もない、と橘が異を唱えたところで―― 「そうか……俺とユウスケは、違う時間から連れて来られたんだな」  士がそんな解釈を示した。 「違う……時間?」  突拍子もない意見に、橘も疑問符を付けざるを得ない。 「別に、時間移動や時間操作――要は別の時間から誰かを連れて来る技術なんてそこまで珍しい物じゃない。タイムベント、ハイパークロックアップ、そして時の列車……確か、キャッスルドランの内部にも時間を行き来する扉があるんだったな」  士が珍しい物じゃないと語るそれらはしかし、橘にとっては十分、未知の驚嘆すべき術であった。同時に時すら操る大ショッカーへの恐怖もまた、確かに大きくなるのを感じる。 「大ショッカーについてはまた結成したのか、別の時間軸か、同名の別世界組織なのかはわからないが……どうして俺とユウスケを違う時間から連れて来たんだ?」 「……推測だが、例えば時間軸が違えば誤解も起き易い。本来仲間である相手と敵対していたり、するようになる場合もある。それが狙いじゃないか?」 「――なら別に、ライダー大戦の世界の頃から連れて来なくても良いと思うが……」  事情に詳しい士が見当もつかない以上、橘が無理矢理考えてもまた余計な勘違いを招くだけだろう。士とユウスケのどちらも互いを長い間世界を旅した仲間と思っていて、共に大ショッカーや殺し合いを打倒しようとする正義の仮面ライダーであることは、既に己の目で確認しているのだから。彼らがわからないなら、わからないのだと信じることにした。 「――しかし、それなら知人と合流してもある程度気を付けた方が良いのだろうな……大ショッカーめ、厄介なことを」  橘がそう毒づいたところで、ひゅわんという独特の飛行音が聞こえた。 「ねえ朔也さん。首輪の解析はもうちょっと時間掛かるでしょ?」 「ん? ああ、そうだな」 「それじゃ、そろそろ士の変身制限も解けると思うし、ちょっと二人きりで話して来ても良い?」 「キバーラ?」  キバーラの言葉に疑問を感じたように、士が振り返った。 「――お願い」 「……わかった」  キバーラの声に少し不安の色が混じっていることに気づいて、橘は頷いた。 「良いのか?」 「ああ。どうせしばらくは俺も見守るしかすることがないからな、門矢も暇だろう」  そう士を送り出し、橘は再び解析画面へと目を配りながら、別のことを考えていた。 「参加者が違う時間軸から来た可能性があるというなら……相川、おまえはいつからだ?」  もしかすると、今のように――少なくとも剣崎や栗原親子には友好的な相川始ではなく、ただの危険な怪人であるジョーカーアンデッドとして参戦している可能性もある。  そうなれば――死した剣崎の想いを裏切ってでも、本当に奴を封印するしかなくなる。  そして―― 「志村純一。こいつも、俺達の世界の住人なのか?」  士との情報交換でわかったことだが、どうやらどの世界からの参加者か区別するために、名簿には世界ごとに区切るための行が開いているらしい。――この理屈だと、葦原涼達とダグバ達未確認は別世界の出身ということになるが、士が言うにはクウガとアギトの二つの世界には共通点が多く、両方に未確認が存在するということなので、未確認については偶然個体まで酷似していただけと考えれば納得できなくはない。  問題はそれに従うと、志村純一という橘も知らない人物が、剣の世界の名簿に存在していること。  最初は気に留めなかったが、その理屈がわかれば同じ剣の世界出身の金居と言う参加者についても推測は可能。恐らく苗字しかないことから偽名で、伊坂同様上級アンデッドである可能性が高いだろう。とはいえこれまで封印して来た上級アンデッド達の偽名を全て把握しているわけではないから、上級アンデッド最後の一体、ダイヤのカテゴリーキングであるのか、過去に封印したアンデッドなのかまではまだわからないが。  だが、志村純一の場合はそうはいかない。嶋昇のようにフルネームを揃えた偽名を持つアンデッドもいるし、園田真理のような一般人が参戦させられているなら、ただの一般人である可能性もある。前者ならともかく、後者なら急いで保護しなければならないだろう。  とはいえ士に繰り返し伝えられたように、今の戦力で迂闊に動くことはできない。勇気と無謀を履き違えてはいけないとはよく言われるが、ここはまさにそんな場面だった。  だが―― (志村純一――おまえが何者だろうと、俺は一人の仮面ライダーとして、おまえに接する)  人々に害成す者なら制裁を。罪なき一般人であるなら保護を。  剣崎なら、きっとそうするだろうから。  その決意を胸に、橘は首輪の解析を見守っていた。 ◆ 「――それで、話とは何だ、キバーラ」  士は病院の屋上で、星空をバックに浮遊する小さなキバット族にそう問い掛ける。 「あそこで迂闊に話せないこととか、あんたにはイロイロあるでしょ、士。――例えば、大ショッカーとの因縁とか、ね」  後半は士の耳元に飛来して、周囲に誰かいても聞き取れないようにキバーラは囁いた。 「――それに私も、イロイロと気になることがあるの」  ひゅわーっ、と士の耳元から離れたキバーラは、天に近い屋上と言う特別な空間を切り取る手摺にふわりと着地した。 「……ユウスケは、私や士……それに夏海とは、違う時間からここに来たのよね」 「――あぁ」  夏海、の名を出す時、指の半分もない純白の身体が震えるのを、士は見逃さなかった。 「――気を付けた方が良いわよ、士。あなたにとってここは多分、今までの旅の中で一番厳しい地獄になるわ」 「――想じゃないが、とっくに地獄さ」  もうその笑顔を見ることができない――士の居場所になると言ってくれた最愛の女性を想い浮かべそう返した士に、そうじゃない、とキバーラは首を振る。 「そういうことじゃないの、士。――あなたは、力が失われているとはいえ、ブレイドとの二人掛かりでゴ・ガドル・バっていうグロンギに、一方的にやられてしまったのよね?」 「――悪かったな」 「だから違うのよ、聞いて。――ここがあなたにとって地獄だって思った理由を」  諭すような口調で、キバーラは続ける。 「あなたは忘れているんでしょうけど――そのガドルの、名前の前にあるゴというのは、グロンギの階級。ゴというのはその中でも最上位集団であることを示しているわ」 「――なるほどな。やっぱり……」 「でも、本来あなたがかつて倒した究極の闇――ン・ガミオ・ゼダに比べれば、劣る階級でもある……グロンギは戦闘狩猟民族。階級はそのまま強さを現していると言って良いわ」 「……それだけこの首輪の制限が強い、ってことか? だが正直な話、制限を無視しても明らかにガドルの方が強かったぞ」 「それはガミオの復活が不完全だったせいでもあるけれど、多分もう一つ理由があるわ」 「……同じグロンギ族と言っても、住んでいる世界が違うから強さも違う……ってか?」 「えぇ、二重の意味でね」  勿体つけたようなキバーラの話し方に、士は苛立ちを覚える。 「どっかの鳴滝みたいに、焦らしてないでさっさと要点を言え」 「――その鳴滝さん……いえ、あなたを旅に送り出した紅渡の方だったかしら。正直言うと小難しくて興味なかったから、誰から聞いたかさえはっきり覚えてなかったことなんだけど、ここに来て思い返してみたの」  キバーラは飄々とした彼女にしては珍しく、本当に自信がなさそうにそう語る。 「私達が旅して来た世界は――ここで出会った仮面ライダー達を見ればわかるでしょうけど、結局はクウガやキバと言ったその仮面ライダーが存在し得る一つの可能性の姿に過ぎない、IFで分岐したパラレルワールドの一種なのよね」 「――あぁ。アギトや剣、響鬼の世界。同じ名前と同じ姿をした、しかしまったく別人の仮面ライダーが生きる世界が無数に存在するってことは、大体わかった」  思えばかつて訪れたネガの世界も、そんな世界の一つだったのだろう。 「そう。さっき首輪を回収したネガタロスも、彼がイマジンなのにキバを知っていたのは電王とキバが同時に存在する、私達の知らない世界の住人だったって考えるのが自然ね」 「――だが、なら奴は何故電王の世界の参加者扱いなんだ?」 「――きっと、オリジナルに近い世界の住人だったから、じゃないかしら」 「オリジナル?」  どういうことだ、と士はキバーラへと一歩近づく。 「オリジナルってのはどういうことだ」 「先に断って置くと、私達が巡って来た世界が紛い物だとか言いたいわけじゃないわよ」  士の怒気に気づいてか、対照的にクールにキバーラが告げる。 「パラレルワールドって言うのはIFの世界だって言ったでしょ? IFの数だけ分離した世界がある。例えばジョーカーアンデッドが、世界を滅ぼす破壊者である世界があるかもしれないし、どっかの強欲社長が自作自演のために造り出しただけの安っぽい仮面なんていう世界だってある」  例えば、オルフェノクの使徒再生によってアギトに覚醒を果たす者がいる世界。例えば、人類が新人類にその数を逆転され、支配権を奪われてしまった世界。例えば、友と世界のために運命と戦った男が、運命に敗れて世界のために友を犠牲にした世界。例えば、渋谷ではなく海に巨大隕石が落ち、地球上の水が枯渇してしまった地球を救うために、一人の仮面ライダーが過去を改編しようとした世界――ひょっとすると、そんな世界も存在するのかもしれない。 「だけど、IFで枝分かれしたって言うのなら――その選択の元になった世界があるはずよ。そしてそれを繰り返して行けば、それぞれの仮面ライダーの世界には樹の根っこから直接伸びた、幹に相当するそれぞれの仮面ライダーの源流たる世界――オリジナルが存在するはずじゃないか、っていう仮説を聞いたことがあるの」  キバーラの説明する世界のあり様、そこで便宜上使われるオリジナルと言う呼び名に、士はなるほど納得はしたが。 「……それが俺にとっての地獄と言うのと、何の関係があるんだ?」 「――あなたを旅に出した紅渡が言ってたでしょう? あなたの使命は、破壊による再生だったって……」  でもね、とキバーラは言葉を区切る。 「ディエンドは例外にしても――キバである紅渡は生きていた。何故なら彼とは別のキバをあなたは倒していた――必要だったのは、その仮面ライダーと同じ種類のカードだったから。もう少し言うと、ダブルはあの時見逃された。どうしてだと思う?」 「……俺が知るか」 「樹を育てる時はね、その樹にとって邪魔な枝を切ってやることも大事なの――あなたの役目は、その枝切りだったということよ」  きっとダブルの世界は若い、枝分かれの少ない世界なのね、とキバーラは言う。 「つまりあなたは世界の破壊者なんて言われているけど、実際には九つのオリジナル世界とそこから派生した無数の世界を存続させるために、存在したら困る世界を破壊して――それから、壊した世界を本来存在しなかったディケイドの物語に再構成して、新たな別の世界として確立させた。それがあなたの旅だったんじゃないかしらって、私は思ったのよ」  キバーラの語る旅の意義に――士は、一応頷いておいた。 「俺も大体そんなもんだと思うな。それで、キバーラ――」 「何が俺にとっての地獄と繋がるんだー、でしょ? わかってるわよ」  手摺に肘を着いて体重を預ける士の横を、とことことキバーラは歩く。 「ここからは、鳴滝さんでも紅渡でもない、私が何となく考えただけのただの思いつきよ」  キバーラはそうやってまた士を焦らし、一度息さえ区切った後、士に向き直った。 「――ここに連れて来られたのは、そのオリジナル世界の住人達なんじゃないかしら」  そうして、士が待っていた言葉をようやく寄越した。  だが―― 「……まだわからないな」 「根拠は、紅渡や剣崎一真……ワタルやカズマと言った名前は、かつて私達が旅した世界のライダーとも同じだけれど、フルネームが同じと言うのは……それがよりオリジナルに近い存在だからじゃないかと私は思うの。だから剣立カズマより、剣崎一真の方が多くの世界に存在しているんじゃないかって」 「そういうことじゃなくてだな……」 「えぇ、あなたにとって地獄な理由でしょ?」  キバーラは再び、ふわりと浮き上がる。 「――あなたは世界の破壊者と言っても、その破壊の目的はオリジナル世界の存続だった。それならあなたは、他の世界に対するようには、オリジナルやそれに近い世界の住人達には、世界の破壊者として振舞えないんじゃないかしら、っていうことよ」  背後に回ったキバーラを追って、士も身を翻す。 「つまり、今までディケイドが多くの世界で発揮して来た、世界の破壊者としての異常性――相手の本質を無視したみたいに簡単に破壊する理不尽な力の多くは、ここに集められた参加者相手には無効になっている可能性があるわ。ライダー大戦の世界で敵となった、あの『剣崎一真』との戦いのように」 「――例えば、不死のアンデッドを殺すことができない……とかか?」 「ありえるでしょうね」  キバーラは首肯する。  確かにディケイドの力は強いと言うよりも、どこかおかしいということは、士も感じたことはある。明らかに、エネルギーや衝撃が足りてないだろう一撃でも、次々と敵が爆発四散していった覚えがある。なるほど破壊者の権能と言われれば納得できる事柄だ。 「ま、アンデッドについてはどうせ首輪の制限でどうにかできなくはないんでしょうけど――今までみたいにはいかない、もう世界から特別扱いして貰えないということを、肝に銘じた方が良いでしょうね」 「――そんなことは、大体わかってる」  あの牙の意匠を身に纏った仮面ライダーや、破壊のカリスマを名乗るグロンギ。激戦を潜り抜けて来たはずの士でも、決して油断ならない参加者がゴロゴロいることなど既に嫌と言うほど理解させられている。 「――本当にわかっているの?」  そこで、怒ったようにキバーラが士の眼前までずいっと寄って来た。 「確かに、ユウスケはオリジナル世界の住人じゃないから、あなたは破壊者として優位に戦うことができる――でもユウスケが変身したクウガ本来の力は、決してディケイド相手に劣るわけじゃないの。そのユウスケが何とか互角だからって、カードも足りないような状況でダグバと、究極の闇を齎す者と戦えるなんて思ってるんじゃないの?」 「どうした? 珍しく随分心配してくれるじゃないか」 「……言わせないでよ」  ぷいっ、とそっぽを向いたキバーラに、士は理由を悟って「すまない」と、彼にしては珍しく真っ当に謝罪を口に出す。 「……それに、あなたがかつて激情態として戦ったあの姿……アルティメットクウガっていうのね、不完全なのよ」 「――何?」  全てのライダーを破壊するための破壊者としての旅、その最後にして最大の敵として士の前に立ち塞がった、士の知る究極の闇を齎す者を――キバーラは、不完全と呼んだ。 「だって、本当はクウガの世界に魔皇力なんてないじゃない――魔皇力で無理矢理姿と力の一部を引き出しただけで、本来のアマダムの覚醒プロセスを経ていない、残念仕様よ。  本物は夏海が夢に見ていたような、聖なる泉が枯れ果てた――負の感情に心を喰われた生物兵器。本当に破壊者としてのディケイドと同じように、世界を闇に葬り去ってしまいかねない存在――それが仮面ライダークウガアルティメットフォーム」  キバーラはアルティメットクウガではなく、クウガアルティメットフォームと呼んだ。正式名だからそう呼んだだけなのか、あるいは意図的に区別したものなのか――  いや、ここは気にするべきではない細かいところか。それより重要なのは、キバーラの語る真の究極の闇という存在。あの破壊のカリスマをして、遥かに遠いと言わしめるほどの力を誇った存在。  ――ガドルとの戦いで受けた傷が、疼きを増す。  ダグバという名に惹かれるような感覚がまた強くなり、士はそれを振り払う。    つまるところ、今のユウスケは魔皇力での覚醒と言うIFではなく、オリジナルと同様のアルティメットフォームへの変身を遂げた存在。その力は恐らく、士がかつて戦ったものを凌ぐ――当然、それと同等以上だというダグバも。  そしてユウスケの変身したクウガと違い、士はダグバを相手に世界の破壊者として戦うことができない。なのに、認識が甘いのではないか――キバーラはそう言いたいのだろう。 「別にクウガだけじゃないわ。仮面ライダーの中には、世界の破壊者にも負けないような戦士が他にもたくさんいるわよ。私の父が管理する闇のキバの鎧だって、その気になれば世界を破壊できるような代物なんだし。――ライダー大戦の世界の途中からここに連れて来られたユウスケは多分、そんなのと同じ次元で戦うようになってしまったんだわ。私の魔皇力に汚染された出来損ないじゃなくて、本当の凄まじき戦士として――」  どこか自嘲していたキバーラは、再び士の方を向いた。 「――破壊者としての特権がないままで、せっかく集めた力を取り戻していない状態で。そんなところに入って行ってユウスケを助けられるって、本気で思う、士?」 「――当たり前だろ」  キバーラの問いをきちんと受け止めながら、まるで気負いすることなく士は答えた。 「要は、破壊者だの悪魔だのって特別扱いされることがないだけで――俺もただの、いつ命を落とすかもしれない仮面ライダーとして戦わなきゃならない……ってことだろ?」 「――そうよ。自分自身の力を入れても、あなたは10の内、たった二つの力しか取り戻していない。コンプリートフォームも激情態も使えない。そんな状況で立ち向かうつもり?」 「――そんなこと。皆も今までの俺も、当たり前にやって来たことだろ」  ――例え世界に良くも悪くも特別扱いされて来たのだとしても、士はいつも本気だった。  本気で己が貫きたい信念、護りたいという想いに従って、いつだって命ある限り戦う、仮面ライダーであり続けた。  それは士の仲間達も――話題のユウスケも、どこかにいるはずの海東も、旅で出会って来た仲間達も――そしてその命を散らせてしまった剣崎一真と、光夏海も。  皆、特別だから戦ったのではない。その身体を突き動かす、確かな衝動があったから。 「世界に愛された特別な英雄だからじゃない。皆、仮面ライダーとして、何かを護りたいという想いがあるから戦って来たんだ。それなら、俺に破壊者という特権がなくなったとしても……何も、変わることはない。仲間と同じ土俵に立っただけだ。  そして俺は仲間を信じている。あいつらなら、何かの加護がなかろうと、自分の信じるモノのために立ち向かうはずだ。それならあいつらの仲間の俺も、恐れて立ち止まるわけにはいかないだろ」  士は手摺に体重を預けるのをやめて、キバーラに向けて歩み始める。確かな想いを、胸に秘めて。 「例えカードが一枚も使えなくても――俺は護るべきモノを護り抜くために、理不尽を破壊し、これからも仲間達と旅を続ける。通りすがりの、仮面ライダーとしてな」 「そう――どうやら愚問だったみたいね、門矢士……いいえ、仮面ライダーディケイド」  ふぅ、とキバーラが小さく吐息を漏らす。  安心したような――それとも諦めたような、そんなどっちともつかないようなキバーラの様子を見て、彼女の真下まで来た士は口の端を歪めた。 「大体、所詮はおまえのちっぽけな脳みそが出した下手な仮説だろ。アテになるのか?」 「あー、ひっどぉい! もー心配してやらないんだからね!」  そう言ってびゅーんと飛び去って行ったキバーラは、しかし直ぐにUターンして来る。 「ちょっとぉ、呼び止めなさいよねぇっ!」 「知るか」 「――あなたにとって地獄だって思った理由が、もう一つあるのに?」  ハイテンションから一転、気遣うような声色の思わぬ言葉に、士はしかし顔を顰めた。 「また長話に付き合せるつもりかよ」 「今度はさっきよりは短いわよ……多分」  自省しているのか、キバーラの声には元気がなかった。 「さっきの、オリジナル世界から参加者が集められているんじゃないのって言ったわよね。そう考えた理由はもう一つあるのよ」 「……幹を殺せば、樹は死ぬな」 「――えぇ」  つまり、無数の世界が融合を始めており、それを防ぐためだという建前なのに参加した世界はたったの九つ。士達が長い旅で巡った世界からの参加者など、一人もいない。  所詮は大ショッカーの虚言だと思っていたが……キバーラの仮説がもしも事実ならば。 「参加していない世界……海東の奴の世界はライダーや怪人から見て、実質剣の世界のIFなんだろう。ユウスケ達の九つは語るに及ばず、だ」 「シンケンジャーの世界は仮面ライダーがいないから、除外するとしても……BLACKとRXとか、アマゾンの世界がどうなっているのかはちょっと気になるけれど……」 「大ショッカーの言葉は真実である可能性が存在する、ってことか」 「そう……あなたが一度死んでまで完遂した世界の再生が、台無しにされるかもしれないってこと」  それでね士、とキバーラは続けた。 「ひょっとするとだけど……この殺し合いの結果に起こる世界の破壊には、ディケイドの力が悪用されているかもしれない」 「……は?」  キバーラの思わぬ言葉に、士は首を傾げる。 「何を言っているんだ。おまえがディケイドはオリジナル世界に対しては破壊者としての働きが弱いって……」 「あなたはね。でも、考えて。あなたや海東――ディケイドとディエンドは、世界を渡る力を持っているわ。でも当然それは制限されているわね」 「元々任意で使えるわけじゃないがな……ってかおまえはどうなんだ」 「私はその能力がある人の血を吸って、一時的に借りてるだけだから……言っとくけど、私が吸った程度じゃ解決できないような制限になってると思うわよ――ってそういう話は後回しにして」  士の周りをくるりと飛んだキバーラは、再び夜空に浮かぶ双子の赤星となって、天へと昇る。 「……ディケイドライバーを作ったのは、大ショッカーでしょ」  士も忘れかけていた事実を、キバーラは告げる。 「材料なんかの問題で、それをもう量産できないとしても、ディケイドライバーに組み込まれた技術は実例として沢山のデータを与え、またその技術を進歩させたはずだわ。  そしてその技術は、オリジナル世界をも破壊する能力を産み出し――それの機能が首輪に埋め込まれているんじゃないかしら」 「――何?」  キバーラの大胆な仮説に、士の思考はまた付いて行けない。 「だから、その世界の参加者が全滅するのがどうして世界の滅びに直結しているのか、という疑問に対する、私なりの答えよ――首輪には、参加者を疑似的な世界の破壊者にする機能があるんじゃないのかしら。そんな状態でその世界を代表する仮面ライダーや怪人を破壊し尽くしたら――破壊された側の世界は滅びを迎えてしまうはずよ」  どんな参加者――それこそ最強のグロンギであるン・ダグバ・ゼバや不死のアンデッドでさえちっぽけな首輪の爆発で死ぬというのも、その破壊者という特性を付与する力が、制裁たる爆破の際には装着者自身に向けられるからなのかもしれない。  あなたが苦戦する理由の一つもこれかもしれないわね、とキバーラは語る。 「仮にディケイドの世界の破壊者としての力が、オリジナルにも適用されるとしても――敵対する参加者も皆破壊者だっていうなら、あなただけ突出することはできないじゃない。  その上で、元から破壊者としての能力を持つあなたと海東の首輪は、その部分の余裕を世界移動能力の制限に使っているかもしれない――つまり、ネガタロスの首輪を解析しても、あなた達の首輪は外せない可能性があるわ」 「――それが事実なら、俺は随分と大ショッカーに嫌われていることになるな」 「嫌われるだけのことをして来たじゃない?」  からかうようなキバーラの言葉に、士は苦笑するしかなかった。  門矢士は――元は大ショッカーの大首領だったのだ。もっとも、結局士は傀儡のお飾り首領だったのだろうが。  それが仮面ライダーディケイドとして大ショッカーへと牙を剥き、二度に渡って組織を壊滅させたのだ――恨まれるのは当然、もしそうでなくても、他より入念に対策されてもおかしくはないだろう。 「なるほどな。もし首輪が外せなかったら、さすがに俺も打つ手はない」  士はキバーラの言わんとすることを理解した。  その上で、長く連れ添った旅の仲間に告げる。 「だが、言ったはずだ。俺には仲間がいる――もしも俺が戦えなくても、あいつらなら大ショッカーに負けたりすることはない。だから、長話して貰ったところ悪いが、今の俺がするべきことに変わりはないぞ、キバーラ」 「――そう」  落ち込んだような声でキバーラが答えた。  彼女が気を遣ってくれているのは、やはり夏海のことを想ってなのだろうと思い、士は込み上げて来る感情を抑えながら、キバーラにいつもの調子で笑いかけた。 「大体、それもおまえの小さな頭で考えただけのことだろ? 実際に解析してみなくちゃ何もわからないだろ」 「――あー、またそんなこと言う! ひっどぉい!」  キバーラの声に明るさが戻ったのを感じて、士は小さく、本当に小さく、笑った。 「話はもう終わりか? なら、朔也のところに戻るぞ」 「――えぇ、そうね」  キバーラが頷き、士は身を翻して、来た道を戻って行く。  横にキバーラが並んだのを見て、士は呟いた。 「そう言えば前に、海東の奴が俺の台詞をパクりやがったことがあったな」 「ヒビキの世界のこと? あんた、いつまで根に持つのよ」 「俺は悪魔だからな、しつこいんだ――あの時の意趣返しでもしてやるか」  不敵に笑って、士は屋上の出入口に向かって歩いた。 「俺の旅の行先は、俺だけが決める――誰にも、どんなものにも、邪魔をされてたまるか」  そう、宣戦布告して。  門矢士は、己の選んだ道へ続く扉を、確かな決意と共に開いた。 |099:[[それぞれの決意(前篇)]]|投下順|099:[[それぞれの決意(状態表)]]| |099:[[それぞれの決意(前篇)]]|時系列順|099:[[それぞれの決意(状態表)]]| |099:[[それぞれの決意(前篇)]]|[[葦原涼]]|099:[[それぞれの決意(状態表)]]| |099:[[それぞれの決意(前篇)]]|[[橘朔也]]|099:[[それぞれの決意(状態表)]]| |099:[[それぞれの決意(前篇)]]|[[日高仁志]]|099:[[それぞれの決意(状態表)]]| |099:[[それぞれの決意(前篇)]]|[[矢車想]]|099:[[それぞれの決意(状態表)]]| |099:[[それぞれの決意(前篇)]]|[[門矢士]]|099:[[それぞれの決意(状態表)]]| |099:[[それぞれの決意(前篇)]]|[[鳴海亜樹子]]|099:[[それぞれの決意(状態表)]]| ----

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