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その力、誰の為に ◆MiRaiTlHUI




 小野寺ユウスケは、これまで数々の世界を渡り歩いて来た。
 仮面ライダークウガとして、数え切れない程の世界をその眼に刻んで来た。
 そして、果てしない冒険の果てに辿り着いた世界は――ライダー大戦の世界。


「俺に戦えって言うのか? ワタルやカズマの様に……」

 消え入るような声で、ぽつりと呟いた。
 ユウスケ達があの世界に訪れた時には、既に手遅れだった。
 世界の融合は更に加速。それぞれの世界が、世界の存続を賭けた戦争を開始していたのだ。
 ブレイドの世界。ライダーはアンデッドと手を組み、キバの世界を排除しようとしていた。
 キバの世界。人類とファンガイアによる統一が成され、ブレイドの世界を排除する為の戦いを開始していた。
 それぞれの世界のライダーと怪人が、それぞれの世界を守る為に、殺し合いを繰り広げていたのだ。
 可笑しい。世界の壁を越えた彼らの旅は、こんな筈では無かった筈だ。
 折角守った世界が、折角守った人々が、結局は殺し合いの為に戦っていたのだ。
 そして、その果てに連れて来られたのが、大ショッカーによるバトルロワイアル。

「違う……こんな事、絶対に間違ってる!」

 確信を持って言える。こんな殺し合いは間違いだと。
 小野寺ユウスケの夢は、世界中の全ての人々を笑顔にする事である。
 目の前で、悲しい涙を流す人を見たくないから。悲しい思いをする人を見たくないから。
 だからユウスケはクウガとなった。旅を続けて、沢山の世界の人々を笑顔にする為に。
 ユウスケはこんな下らない殺し合いに参加する為に今まで旅を続けて来た訳じゃない。
 たった一つ勝者の世界を決めて、それ以外の世界中の人々はどうなる?
 その答えは子供にだって分かる。負けた世界は消えて無くなるのだ。
 その世界に生きる数え切れない程の命も、皆の優しい笑顔も……何もかも。

(だから俺が、こんな殺し合いは止めて見せる! 絶対に……!)

 自分の事だけを考えて殺し合ったその先に、誰かが笑顔になれる世界など有る筈がないのだ。
 だからユウスケは、全ての世界の人々と手を取り合って、共に世界を救う道を選ぶ。
 そもそも大ショッカーなど、初めから信用出来る訳がないのだ。
 アマゾンの世界で奴らがして来た事を、ユウスケは忘れはしない。
 悪を正義と偽り、小さな子供にまで悪の道を強要する。
 そんな事をする奴らが、本当の事を言っているとも思えない。
 もしかしたら、ライダー同士を潰し合わせる為の罠という可能性だってあるのだから。

「俺は絶対にこんな殺し合いには乗らないぞ、大ショッカー!」

 声高らかに宣言した。
 揺るがぬ決意をその胸に、小野寺ユウスケの戦いがここに始まる。




 市街地を歩きながら、デイバッグを漁る男が一人。
 ぼさぼさの頭に、だらしなく伸ばした不精髭。
 やる気の無さそうな表情を浮かべながら歩く男の名は、海堂直也。
 デイバッグから一本のベルトを取りだした海堂は、心底嫌そうな顔でそれを矯めつ眇めつした。

「何だってこいつがここにあんだよ……胸糞わりぃな」

 SMART BRAINのロゴが入ったそれを、再びデイバッグの中に叩き込んだ。
 正直言って、あのベルトにはろくな思い出が無い。
 というよりも、スマートブレインが関わって良い経験をした事など一度も無い。
 あの会社は最悪だ。大企業だか何だか知らないが、やる事は悪の秘密結社並み。
 オルフェノクを裏で操り、人間を捨てきれない者には制裁を下す。
 そうやって人間とオルフェノクの対立の構図を作り続けて来た会社だ。
 かく言う海堂自身も、スマートブレインに命を狙われ続けたのだから、その性質の悪さは熟知している。
 だからこそ考えたくないのだ。オルフェノクの王も死んだ今、今度こそ海堂は解放されたと思っていたから。
 当然、忘れられない“痛み”は抱えたままだが――。

「……楽じゃねぇよなぁ、人間として生きて行くってのも」

 それでも海堂は、人間として生きて行く道を選んだ。
 オルフェノクになって人を襲うだけで生きていけるなら楽な世の中だ。
 だけれど、人間として生きて行くなら、そういう訳には行かない。
 そうなれば当然、この殺し合いにも乗るべきか否か、非常に悩むのだ。

「ちゅうか何だって俺なんだよ、チクショウ」

 世界の命運を賭けた戦いに海堂直也は選ばれた。
 オルフェノクの王が死んだ今、オルフェノクである海堂の命も残り少ない。
 世界が滅びようと滅びまいと、どちらにせよ海堂の未来はそう永くないのだ。
 そんな海堂が、こんな壮大なスケールの殺し合いに参加させられる意味が分からなかった。
 そもそも自分の命が残り少ないのであれば、世界が滅びようが知った事では無い。
 だけれど、それでは木場が命を賭けて守った世界を見捨てる事になってしまう。
 そんなのは、嫌だった。

「しゃあねえ、一発殺し合いとやらに乗ってやるとすっか。世界を守る為に、な」

 戦う気は起こらない。
 だけれど、「世界を守る為」という大義名分があるのならば、不可能ではない気がする。
 木場だって乾だって、言ってしまえば草加とかいういけ好かない奴だって、皆人間の未来を守る為に戦って来た。
 それなのに自分は何だ。自分はあの戦いで何をした。
 結局ろくに役にも立たずに、最後まで無駄に生き残っただけではないか。
 デルタに変身していた男も自分と同じくらい役に立って居なかった気もするが。
 だからもう一度……もう一度だけ、オルフェノクとして戦うのも悪くないかと、思う。
 これも世界を守る為。あいつらの様に、何かの為に戦って見るのも嫌では無い。
 だから――

「見てろよ木場ぁ、俺ぁやるぜ! 最強最悪のオルフェノクである俺様の底力、とくと見せちゃる!」
「最強か……面白い」
「え……?」

 不意に、海堂の耳朶を打ったのは、自分ではない誰かの声。
 低くくぐもった様な……だけれど、とても恐ろしい威圧感を含んだ声。
 冷や汗を流しながらちらりと見遣れば、そこに居るのは軍服を纏った男。
 おいおいおいおい今時軍服とかどんなセンスしちゃってるんですかお宅!とか。
 アイツ絶対色々やべえだろ何がやべえって主に頭とかその辺りがだよ!とか。
 ちゅうか何だっつうんだよあの威圧感、ラッキークローバーの皆さんのお知り合いですか?とか。
 思った事は色々ある。残念ながらここでは語り尽くせないくらいに。
 その果てで、海堂が出した答えは――。

「俺ぁ、逃げるぞっ! 戦略的撤退だぁぁぁぁぁっ!!!」

 緊迫感を少しでも紛らわそうと、おどけた様子で言って見せた。
 だけど、数々の修羅場をくぐり抜けて来た海堂になら、本能的に分かる。
 アイツは――あの軍服の男は、ヤバイ。本格的にヤバイ。
 多分北崎とか村上とか、アイツらと同じくらいヤバイ……と思う。
 だから逃げる。全速力で逃げる。だが、勘違いはしないで欲しい。
 これは戦略的撤退であって、決して怖いから逃げるのではないという事を。
 そんな事を自分に言い聞かせながらも、海堂は全速力で走り出したのであった。




 昼間の市街地のど真ん中に、軍服を纏った男は居た。
 クウガの世界に置いて、ゲゲルと称した殺人ゲームを繰り返す怪人グロンギ。
 その中でも最強を誇るゴ集団の、そのまた最強の戦士。
 破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バ。それが彼の名前である。

「リントのゲゲルか……面白い」

 大ショッカーとやらが催したこの殺し合い。
 死神博士と名乗ったあの男の話は、大体理解出来た。
 自分の世界を守る為に、他の世界の民族を全て狩らねばならない。
 その果てに自分の世界が生き残った暁には、どんな願いも叶えて貰えると言う。
 別に願い等に興味は無い。だけど、自分の世界が滅ぶのは困る。
 ザギバスゲゲルの果てにグロンギの王となりて、事実上の最強となる。
 それがガドルの目的。最強の二文字だけが、ガドルの求める真実なのだ。
 その為ならば他の世界がどうなろうと知った事では無い。

「ゲゲルを再開する」

 故にガドルの行動方針はすぐに決まった。
 元の世界で自分が進めていたゲゲルを、ここでも進行させる。
 そして戦士と思しき者を見付けた場合は、優先的に殺す。
 強い戦士を見付けた場合は、何としてでもこの手で仕留める。
 クウガを一方的に蹂躙した力を以てすれば、不可能ではない。
 それだけの自身が、ガドルを突き動かすのだった。
 と、そんな時であった。

「しゃあねえ、一発殺し合いとやらに乗ってやるとすっか。世界を守る為に、な」
「ん……?」

 ここからそう遠くない。声が聞こえるのだ。
 リント語で喋る若者の声。台詞から判断するに、リントの戦士らしい。
 となれば、このゴ・ガドル・バの得物である事は間違いない。
 声の聞こえた方向へと歩き出して、得物はすぐに見付かった。

「見てろよ木場ぁ、俺ぁやるぜ! 最強最悪のオルフェノクである俺様の底力、とくと見せちゃる!」
「最強か……面白い」

 面白いと、素直にそう思った。
 もしかしたら、こいつはリントでは無いのかも知れない。
 馬鹿にすら見えるこの自信。この男、あろう事か最強最悪を自負したのだ。
 グロンギの常識で言うなら、相当の力を持って居なければのたまう事すら許されない台詞だ。
 なればこのガドルの敵として不足はない。どんな力を持っているのかは知らないが、狩らせてもらう。
 と、思ったその矢先――男は、全速力で駆け出した。




「うおおおおおお! ちゅうか何だっつうんだよお前! 俺が何したんだっつうの!」

 あれからどれ程の時が流れただろう。
 最早海堂は恐慌状態に陥っていた。
 多分、追い付かれたら殺される。脚を止めたら殺される。
 一応一度は人間として生きて行こうと誓っただけに、死ぬのには抵抗があった。
 オルフェノクとして他の世界の敵を殺すと誓ったばかりではあるが、やはりそうすぐに割り切れない所が海堂らしい。
 いつだってそうだ。海堂は悪になり切ろうとして、毎回毎回結局は人の道を外れる事が出来なかった。
 自分自身のそういう所が駄目なんだと、本人は一応自覚してはいるのだが、そうそう簡単に治りはしない。
 何はともあれ今は逃げる事を最優先に考えねばならない。
 何せあの敵は、オルフェノクに進化した海堂の全速力にぴったりと着いて走り続ける化け物なのだ。
 高確率でオルフェノクに準ずる何らかの力を持って居ると見て、まず間違いないだろう。

「そ、そうだ! おまっ、お前! いや貴方! 貴方様! 俺と情報交換しませんか!」
「必要無い」
「じゃあほら、アレだアレ! この俺と話し合いをしようじゃないか! 軍人たるもの平和的解決を是非!」
「話にならん」
「何だっちゅうんだよチクショウ! 戦うだけじゃ平和は生まれねえんだぞこの馬鹿! 戦争馬鹿!」

 もう自分でも何を言っているのか分からなかった。
 とりあえず市民を守る軍人らしく、話し合いで解決してはくれないかと思った。
 だけど、まぁ想像通りあの軍人はこちらの言い分には耳すら傾けてくれなかった。
 あれはもう確実にゲームに乗っている。あの軍人、確実に殺人をやらかすつもりだ。
 だとすれば、こちらが何処まで逃げても、何を言っても無駄なのだろう。
 いい加減ストレスが溜まって来た海堂は、思い切って立ち止まった。

「はぁ……はぁ……お前は、どうやら、この俺様を、怒らせちまったらしい、な!」
「ようやくやる気になったか。リントの戦士よ」
「リントの戦士だか何だか知らんが、とにかくアレだ――!」

 海堂の表情に、影が浮かび上がった。
 それはまるで、蛇を、その毒牙を模したかの様で。
 やがて影は海堂を飲み込み、その姿を灰色の怪人へと変えた。
 海堂のオルフェノクとしての姿。蛇の特性を持った、スネークオルフェノクへと。

「軍人一名様、あの世へご招待、ってな……!」
「貴様はリントでは無いのか……益々面白くなって来たな」

 相対する軍人も、その身体を変化させてゆく。
 元々屈強だった肉体は更に屈強な黒金の身体へと造り変わってゆく。
 オルフェノクとは明らかに違う、黒金の身体は、何処かカブトムシを連想させる。
 頭に映える立派な一本角なんて、どう見たって日本古来の立派なカブトムシであった。
 スネークオルフェノクとガドルの二人が、じりじりとお互いの間合いを測り合う。

(何だよアイツ、とんでもねえ気迫じゃねえか)

 それがスネークオルフェノクが感じた第一印象であった。
 北崎が変身するドラゴンオルフェノクと対峙した時と同じような感覚。
 全身の毛穴が開く程の、壮絶なる存在感。心なしか息苦しく感じる程の、強大な威圧感。
 それらがプレッシャーとなって、まだ戦ってすらいないスネークオルフェノクを消耗させる。
 だけど、ここでじっとしていては、敗北はあり得たとしても確実に勝利は訪れない。
 痺れを切らしたスネークオルフェノクが、逆手持ちの短刀を手に駆け出した。

「ラァッ!」
「…………」

 灰色の刃を黒金の胴に突き立てる。
 ……が、ガドルはまるで反応を見せない。
 刃は確かに肌に食い込んでいるのに、痛がる素振りさえ見せはしない。
 ならばとばかりに、もう一度灰色の刃を振り抜き、ガドルの身を切り裂――けない。
 何度も何度も、滑る様に刃を走らせるが、ガドルの身体には傷一つ付きはしないのだ。

「どんだけ固ぇんだよ!」
「貴様の力はその程度か」

 ガドルの装甲は、クウガのタイタンソードでだって傷つける事叶わなかったのだ。
 それを数段格下のスネークオルフェノクの刃などが、ガドルに致命傷を与えられる訳がない。
 海堂が感じた本能的恐怖は、やはり間違いでは無かった。こいつはとんでもなく強い。
 だけど、今更そんな事に気付いた所で、もう遅い。

「フンッ」
「うぉっ!?」

 ガドルが横薙ぎに腕を振り払った。
 反射的に上体を屈めた事で攻撃事態は回避する事に成功する。
 だけど、それは決して次の行動に移す事を考えた回避では無い。
 あくまで反射的に、だ。結果として、完全にバランスを崩してしまった。
 その刹那、スネークオルフェノクの胴に入ったのは、重く鋭い蹴り。

「ぐぁっ!」

 防ぐ手段など無い。
 一方的に吹っ飛ばされたスネークオルフェノクが、地面をのたうち回った。
 その瞬間、悟った。自分は絶対にコイツには勝てない。絶対に勝利は掴めない。
 このまま戦えば殺される。話も通じないコイツは、確実に自分を血祭りに上げる。
 逃げなければならない。何としてでもこの場から逃げ出さなければ、自分はここで終わりだ。
 まだ痛む身体を無理矢理起こして、一目散に駆け出す。

「何処へ行く」
「おわっ!」

 ただの一跳びで、ガドルはスネークオルフェノクの前方へと躍り出た。
 退路を防がれたスネークオルフェノクが、ぎりぎりと歯噛みする。
 この化け物に、得物を逃がしてやるつもりは無いらしい。優秀な狩人だ。
 一歩一歩と迫り来るガドルに、スネークオルフェノクもまた一歩一歩と後じさる。
 ――と、その時だった。奇跡が訪れたのは。

「おおおおおおおりゃあああああああああああっ!!」
「「……ッ!?」」

 この場の全員の耳朶を打つ絶叫。
 スネークオルフェノクが見たのは、自分を飛び越して、ガドルに蹴りを浴びせる赤い戦士の姿。
 まるでクワガタムシを模したかの様な立派な角。赤い二つの複眼に、赤い装甲。燃え盛る右脚。
 その名は戦士クウガ。「クウガの世界」に於いて、超古代の英雄となった戦士。
 クウガのマイティキックがガドルの胸板を打つ。浮かび上がる紋章。数歩後じさるガドル。
 これは流石に効いたか? ……と思ったが、ガドルはすぐに紋章を振り払い、胸を張った。

「なんちゅう奴じゃ……今のでも倒せないってのかよ!」
「あんたオルフェノクだよな!? 殺し合いには乗って無いって事でいいんだよな!?」
「お、俺か!? 俺ぁお前、そりゃ……ちゅうか何でお前がオルフェノクを知っとるんじゃ!」

 殺し合いに乗っている、とも。殺し合いに乗って居ない、とも。
 どちらとも答える事が出来なかった。先程は殺し合いに乗ると決意したのだが――。
 いざ殺されかけてみると、気持ちが揺らぐ。こんな恐怖を振り撒いてまで、他者を殺さねばならないのか?
 と、そんな事を考える暇が与えられる訳も無く、すぐにガドルが突貫して来た。

「言った筈だぞクウガ。その力では俺に勝てないと」
「何ぃ……!?」

 ガドルは元の世界で、一度クウガを一方的に倒している。
 だけれど、“このクウガ”はそんな事は知らない。知る訳がない。
 ガドルが倒したクウガと、今ここで戦っているクウガは別人なのだから当然だ。
 お互いがお互いの事実を知らないまま、クウガとグロンギの宿命の戦いが始まろうとしているのだ。

「な、何だよお前ら、同じ世界の住人かよ! なら何で殺し合っとるんだ、バッカかお前らは!」
「未確認の奴らは、皆の笑顔を奪う! 俺が戦うのは、あんな奴らに笑顔を奪われたくないからだ!」
「お前……」

 この男には、戦う理由がある。
 皆の笑顔を守りたいから。そんな下らない理由の為に、戦うと言うのだ。
 世界の命運を賭けた殺し合いにおいて、こいつは笑顔を守る為に戦うと言うのだ。
 自分はどうだ。戦う理由は……絶対に戦わなければならない理由なんかは、無い。

(俺ぁ、どうすりゃいいんだよ)

 クウガとガドルの戦いを眺めながら、スネークオルフェノクは思考する。
 赤の仮面ライダーと黒の化け物の戦いは、一方的と言って差し支えなかった。
 クウガが拳を振るおうと、ガドルには通用しない。
 されどガドルが拳を振るえば、クウガの装甲に減り込んで傷つける。
 余りにも圧倒的。圧倒的戦力差。これじゃあの赤いライダーは、殺されちまう。
 そう思った所で、海堂はスネークオルフェノクの化身を解いていた。

「そこの赤いの、さっきの質問の答えだがぁ、俺ぁこのゲームに乗るっ!」
「はぁ!? いきなり何言って……」
「だから俺ぁお前を見捨てる! 悪く思わないでくれな! そんじゃ!」
「お、おい! お前ぇっ!!」

 突然の挨拶であった。
 憤慨して振り返るクウガの仮面に、ガドルの拳が直撃する。
 吹っ飛ばされたクウガを見て、海堂は一目散に逃げ出した。
 俺はあいつの様にはなれない。笑顔を守る為……だなんて、馬鹿らし過ぎる。
 ああ、アイツは大馬鹿者だ。こんな事を言ってる奴から順に殺されて行くのだ。
 現に今だってそうだ。あのカブトムシ野郎に手も足も出ないでいやがる。
 力も無い癖に、無駄に戦って死ぬなんて、海堂は絶対に御免だった。
 だから逃げる。今はまず、生き残る為に。

「随分と弱くなったな、クウガ!」
「うわぁぁっ!?」

 海堂の背後から、悲鳴が聞こえる。
 あの大馬鹿者が派手にやられているのだろう。
 力任せに殴りつける様な不吉な音が聞こえれば、それと一緒に聞こえる悲鳴。
 辛くて、苦しそうな若者の悲鳴。力が無いのに強がるから、ああなるのだ。
 その点、自分はあんな馬鹿とは違う。あんな考え無しとは大いに違う。
 知略的に戦い、上手く他者を蹴落として、今度こそ自分の世界を守るのだ。

「ヌンッ!」
「ぐぁぁぁぁっ!」

 悲鳴は止まない。
 何度も何度も、男は悲鳴を上げ続ける。
 その度に、胸が締め付けられる様な気がする。
 何故だ。自分は非道になると決めた筈ではないか。
 木場達が守ろうとした人間の未来を守る為に、戦うと決めた筈ではないか。
 そうでなければ、皆無駄になる。木場の死も、照夫の死も、皆無駄になってしまうのだ。

(俺ぁ戦うんだ! 世界を守るんだろ! 情に流されるな、海堂直也!)

 自分に言い聞かせる。
 ここでまた情に流されてしまっては、結局いつも通りだ。
 何も成せないまま、何も守れないまま、何もかもが終わって行く。
 木場も照夫も、目の前に居たのに何一つ出来なかった。何も守れなかった。
 今度は違うんだ。違って見せるんだ。あんな異世界の奴、知ったこっちゃない。
 だけど、だけどそれなのに――!

 ――俺が戦うのは、あんな奴らに笑顔を奪われたくないからだ!

 アイツには、戦う理由がある。自分を突き動かす力がある。
 木場や、乾と同じだ。守りたい未来があるから、守りたい想いがあるから、戦えるんだ。
 木場が命を賭けて守った未来を守る為に殺し合いに乗るとは言うものの、木場がそれを望むだろうか。
 あいつなら、木場ならどうする。きっと世界の為とかじゃなく、もっと別な何かの為に戦うだろう。
 それが一体何で、何の為に戦うのかなんて事は海堂の知った事ではないが――。

(木場ぁ、照夫ぉ……俺ぁ、決めたんだ。やるって、世界を守るって……それなのによぉ!)

 気付いた時には、海堂は全速力で走り出していた。
 今まで走って来た道を、真逆へと。来た方向へと、逆走を開始していた。
 あの時海堂は、照夫を守れなかった。木場を救えなかった。見ているだけしか出来なかった。
 今度はどうする? 今度は、あの赤い仮面ライダーとか言う奴を見捨てるのか?
 皆の笑顔を守る為に戦うと言ったアイツを。自分の命を救ってくれたアイツを。

(ああ、知るかよ! 知るかっちゅうんだよ! あんな奴俺の知ったこっちゃねえ!)

 だけど……海堂の脚は止まらない。
 木場だってきっと、こうするだろう。アイツは、馬鹿だから。
 だけど、只の馬鹿じゃない。アイツはカッコよかった。いつだって眩しかった。
 海堂には無いものを沢山持って居たアイツが、本当はいつだって羨ましかった。
 そんな事は自分自身でも絶対に認めたくはないが、それが事実なのだ。
 だから――!

「待てぇええええええええええええええええええい!」

 絶叫した。
 目の前で戦う、赤の異形と黒の異形に向かって。
 何故か支給されていたオレンジ色のベルトを、腰に巻き付ける。
 こいつはかつて一度使った事がある。スマートブレインの兵士として。
 だから使い方は分かる。こいつに大した力が無い事だって、先刻承知だ。
 だけれど、もう止まらない。ここまで来て、引き返せるものか。

「お前、何で……! 逃げたんじゃなかったのか!」
「うるへーうるへー! 俺ぁなぁ、決めたんだよ! もう、何も出来ないのは御免なんだよ!」

 だから戦う。
 守る為に戦ったあいつらの様に。
 誰よりもカッコ良かったあいつらの様に――!

「変身ッ!」

 刹那、電子化されたコンバットスーツが海堂の身を包んだ。
 黒いスーツに、銅色の装甲。銀の丸が、仮面のど真ん中に煌めいた。
 スマートブレインが開発した、量産型ライダーズギア。
 その名も、ライオトルーパー。

「変わった……? だが、クウガでは無い」
「っらぁあああああああ!!」

 駆け出したライオトルーパーが、思い切りガドルの顔を殴り付ける。
 効かない事は分かってる。だけど、何もせずに見ているなんて、もう出来ない。
 だからもう一度力一杯に殴りつける。もう一度、もう一度。
 何発も何発もガドルを殴りつけて、それでも効かない。
 お返しだとばかりにライオトルーパーを殴りつけるガドル。

「っ、おわ!?」

 いとも簡単に、ライオトルーパーの身体は吹っ飛んだ。
 だけれど、今度は無様に地面を転がったりはしない。
 吹っ飛んだオレンジの身体を、後方に居たクウガが受け止めてくれたのだ。

「お前、何考えてるんだ!? 勝てないって分かってただろ!?」
「んなこたぁ知らん! 大体にして、お前だって一人じゃ勝ち目なかろうが!」

 言いながら、クウガの腕を振り解いた。
 自分の脚で地を踏み締めて、もう一度ガドルを睨む。
 そうだ。クウガ一人でも、ライオトルーパー一人でも、勝ち目は無い。
 だけれど、ここで二人が手を組んで立ち向かえば、もしかしたら勝てるかもしれない。
 乾だって木場だって、一人じゃ勝てない戦いを何度も協力して乗り越えて来たのだ。

「だからほら、行くぞ、赤いの!」
「お、おう……!」

 威勢で押し切って、構えを取った。
 クウガも、ライオトルーパーと肩を並べて構えを取る。
 二人でなら――二人でなら、あのカブトムシ野郎にひと泡吹かせてやれる!
 そう信じて、第二ラウンドが始まろうとしていた。……のだが。
 運命は、意外な形となって彼らの味方をしてくれた。

「ん……?」

 これから戦おうと言うタイミングで、ガドルの姿が変わった。
 黒金のカブトムシの身体が、一瞬にして軍服の男へと戻ってしまったのだ。
 自分の手足を矯めつ眇めつするガドルを見る限り、どうやら自分の意思でやった訳ではないらしい。
 どういう訳かは分からないが、これはチャンスかも知れない。
 ライオトルーパーとクウガの二人が、息を呑む。
 されど、異変が起こったのはガドルだけではなかった。

「って、あれ!? なんで!?」

 今度はクウガだ。
 赤い装甲が一瞬で消えて無くなった。
 その身体が、ただの人間の若者へと戻って行く。
 こうして見れば、自分よりも年下にさえ見える青年であった。
 自分は危うく、こんな奴にまで守られるだけで終わるかも知れなかったのだ。
 皆混乱している。ガドルも、クウガだった男も。
 突然の強制変身解除に、面喰らっている様だった。
 だけど、これはやはりチャンスだ。逃げるなら、今しかない。

「よっし、行くぞお前!」
「えっ!? ちょ、何を……!」
「バッキャロお前、逃げるに決まってんだろ!」
「え、逃げ……!? でも!」
「ええいうるへー!」
「おわっ!?」

 気付いた時には、ライオトルーパーが男を担いでいた。
 この変身だっていつ切れるかは分からないのだ。
 悔しいが、今は逃げるのが一番延命に繋がる。
 だけど今度は身捨てた訳ではない。
 飽くまで、こいつと一緒に逃げるのだ。

「おい、アンタ本当に殺し合いに乗って無いんだろうな!」
「その話は後だっちゅうに!」

 ライオトルーパーは駆ける。
 小野寺ユウスケを背負って、一目散に。


【1日目 日中】
【G-4 市街地】

【海堂直也@仮面ライダー555】
【時間軸】最終話 アークオルフェノク撃破後
【状態】疲労(小)、 スネークオルフェノクに二時間変身不可、ライオトルーパーに変身中
【装備】スマートバックル@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、不明支給品×2
【思考・状況】
1:とりあえずは小野寺ユウスケを連れて逃げる
2:何処かで情報交換をしたい
【備考】
※デイバッグの中はまだきちんと調べていません。


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(中) クウガに二時間変身不可
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品×3
【思考・状況】
1:海堂直也は信じてもいいのか?
2:殺し合いには絶対に乗らない
【備考】
※デイバッグの中身はまだ確認していません。


「逃げたか」

 市街地のど真ん中で、ぽつりと呟いた。
 突然怪人体の変身が解けてしまった事に、混乱していたのだ。
 それでなくても、変身を解いた今、変身したままの奴を追いかけられるとは思えない。
 仮に追い付いたとしても、あのオレンジに変身した男は弱い。
 最強最悪などと口だけの存在であった。
 クウガはクウガで何処か不自然だったし、追いかけてまで殺す気になれなかったのだ。
 だから今は無理に追いかけないが、次に出会った時は容赦はしない。
 そう、次に出会った時は絶対にこの手で――。

「ボソギデジャス」

 ――殺してやる。


【1日目 日中】
【G-5 市街地】

【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第45話 クウガに勝利後
【状態】健康、怪人体に二時間変身不可
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品×3
【思考・状況】
1:ゲゲルを続行する
2:何故変身が解除された……?
【備考】
※デイバッグの中はまだきちんと調べていません。


010:正義ノミカタ 投下順 012:笑顔とお宝
010:正義ノミカタ 時系列順 012:笑顔とお宝
GAME START 海堂直也 023:人を護るためのライダー
GAME START 小野寺ユウスケ 023:人を護るためのライダー
GAME START ゴ・ガドル・バ 036:二人のジョーカー