※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI




 病院内で鳴り響く、金属音の応酬。
 甲高い音は非常に耳触りで、まともな会話すらも掻き消されてしまう。
 それ以前に、この現状でまともな会話を交わす事自体が難易度の高い事であるのだが。
 タイガとネガ電王が打ち鳴らす金属音を背景に、それでも二人は言葉を交わした。

「ブレイド……貴方はやはり、剣崎一真なんですか!?」
「何っ!? なんで俺の名前を知ってるんだ!?」
「じゃあやっぱり、また私達の旅を終わらせる為に……!?」
「何言ってるんだアンタ一体!」

 だけど二人の意思はかみ合わない。
 お互いの知り得る常識が、かけ離れ過ぎているのだ。
 仕方のない事と言えば、仕方がない。

「第一、何でブレイドを知ってるんだ!?」
「貴方、私を覚えてないんですか!?」
「だから何の話をしてるんだ!」

 埒が明かないとばかりに、ブレイドが怒鳴った。
 光夏海が知る剣崎一真と、今ここに居る剣崎一真はイコールではない。
 別の時間軸の同一人物なのか。はたまた全く別の世界の存在なのか。
 その答えを知る術は残念ながら存在し得なかった。

「貴方はまた、士君を消す為に戦うつもりじゃないんですか……!?」
「その士って奴が誰なのかは知らないけど、俺は殺し合いに乗ったつもりはない!」
「えっ……、士君を、知らない……?」

 ここで夏海を襲うのは、壮絶な違和感。
 この剣崎一真という男、あの時出会った剣崎一真とは違い過ぎる。
 何よりも、あの時の様な余裕が感じられないし、あの時の様に嫌な感じもしない。
 どちらかと言うと、真っ直ぐに生きる剣立カズマに近いイメージであった。
 もしかしたら、あの剣崎一真とは別の剣崎一真なのかも知れない。
 ネガの世界に居た、自分とは異なるもう一人の自分の存在を思い出す。
 それを考えれば、同じ顔と名前をしているからと言って、同一人物と断定するのは早計だ。

「わかりました、剣崎さん。今は貴方を信じますっ……」
「……ああ、何が何だか分からないけど、話はアイツらを止めた後だ!」

 キバーラとブレイド。
 二人の視線が交差して、共に頷いた。
 話は目の前で戦う二人を止めてからでも遅くは無い。
 それぞれの剣を構えて、二人は戦場へと駆け出した。




 視界を埋め尽くすのは、廃墟。
 何処までも続く、破壊され尽くした廃墟の山。
 地面には瓦礫が降り積もって、足場と呼べる場所は僅かしかない。
 乃木怜治率いるワーム軍団によって破壊されたエリアの一つであった。
 荒廃し、無秩序な世界となった大地を、矢車は踏み締める。

 全てを失った彼にとっては、別に世界がどうなろうが知った事では無かった。
 それこそ、ワームが人類を滅ぼして、地獄を創ろうと自分には関係ない。
 世界も他者も……それどころか、自分にすらも興味が沸かない。
 正直な所、矢車にとっては何もかもどうだって良かった。

 どうでもいい世界で、どうでもいい枠組みの中で。
 どうでもいい他人が、どうでもいい人間関係を築いて。
 どうでもいい諍いが、どうでもいい戦いを招いて、そしてどうでもいい結末を迎える。
 どうでもいい自分は、当然の様にどうでもいい他者と必要以上の接点を持とうとはしない。
 そんなどうでもいい枠組みの中で生きて行く事には苦痛しか感じない。
 だから矢車は、自分が死のうと、他人が死のうと、全く動じはしない。
 ――筈だった。

「兄貴……」

 だけど、そんなどうでもいい世界の中に、たった一人だけ。
 どうでもいいでは済ませなくなってしまった、大切な人が居たとしたら。
 何もかもを捨てた矢車が、たった一つだけ捨てる事が出来なかったもの――。
 人間らしい一切の感情を投げ捨てて、だけども人間を捨てられないたった一つの要因。
 大切な大切な、誰よりも大切な「弟」が、そこには居た。

「……相棒」
「お願いだよ兄貴」

 弟は、矢車にすがる。
 無様に跪いて、無様な泣き顔を見せて。
 それでも弟はすがった。たった一人の兄に。

「俺の仇を取ってくれよ……兄貴」
「はぁ……」

 最早、溜息を漏らす事しか出来なかった。
 こんな自分に何かを求めるのは、もうきっと彼だけなのだろう。
 矢車の存在だけを心の支えにして、矢車という拠り所にすがって生きて行く。
 結局の所、弟が誰かに敗北したとして、その無念を晴らすのはいつだって兄である矢車だった。

 嗚呼、これは夢だ。儚い夢でしかないのだ。
 死んでしまった弟への想いが、こんな下らない夢を矢車に見せるのだ。
 だけど、夢と分かって居ても、それをただの夢を切り捨てる事は出来ない。

 どうでもいい世界の中で、たった一人。
 どうでもいいとは言えない大切な人からの願い。

 それが兄による仇討ち。弟を笑った奴らへの復讐。
 ちっぽけで、陳腐な願いだけれど、それこそが死んでしまった彼の唯一の願い。
 そんな弟の最期の願いに報いる事が、自分に出来る唯一の兄らしい事だとするなら。
 矢車に、兄として弟にしてやれる事は、たった一つしか無いのではないか。

 結局の所、矢車は本当の意味で何もかもを捨てる事は出来なかった。




 これで何度目になるだろうか。
 硬質な白虎の爪と、青白い炎を描いた紫の剣が激突した。
 振り下ろされた紫の刃を、左の爪で受け止めて、絡め取る。
 剣の自由を奪ってから、即座に右の爪でネガ電王の身体を切り裂いた。
 仰け反ったネガ電王は、しかし剣を離そうとはしない。
 紫の剣を叩き落して、タイガが再び爪を振り下ろす。

「君、弱いね」

 バランスを崩したまま後退する事も出来ずに、ネガ電王の装甲が爆ぜた。
 紫の装甲に、硬く鋭い爪に引き裂かれた傷跡を生々しく残して、火花と共に数歩後退。
 状況は現在、圧倒的にタイガの優勢。その理由は、二人の武器にあった。
 武器を両腕に装備したタイガと違い、ネガ電王の武器はあくまで一つ。
 斧や槍に変型させようが、銃にして距離を取ろうが、結局は武器の数で劣る。
 それこそが単純な力のぶつけ合いで、戦力を分かつ決定的な理由だった。

「チッ……お前、英雄にしちゃ中々『ワル』いオーラ放ってんじゃねえか」
「だから僕は、最終的に英雄になれるなら、正義だろうと悪だろうとどっちだって構わないんだってば」

 大仰な動きでタイガが振り抜いた爪を、紫の剣で受け止めた。
 手首一つで振るう剣と、肘から先の腕全体で振るう爪の重量の差。
 それがそのまま威力の差となって、ネガ電王の腕に振動を響かせる。
 すぐに剣を引き抜いて、矢継ぎ早に振り上げられた右の爪にぶつけ返す。

「英雄は英雄でも、悪の英雄でも構わねえって事か」
「まぁ……そういう事になるかも」

 振り下ろされた左の爪を剣で受け止めて、ネガ電王は笑った。
 こいつは強い。それも、目的の為に手段を選らばない辺り、悪としての素質は十分過ぎる。
 自分の組織に招き入れ、一から悪の魅力について教え込んでやるのも有りかも知れない。

「よし、気に入った。お前、俺の悪の組織に入らねえか? 幹部の椅子を用意するぜ?」
「別にいいけど、君の仲間になれば、僕がもっと英雄に近付けるって保証でもあるのかな」
「ああ、俺の組織は最後に勝てる悪の組織だからな。お前を最強の悪の英雄にしてやるよ」
「ふーん……」

 タイガの攻撃が止んだ。
 次いで、ネガ電王もその腕を引く。
 お互いの視線が交差して、一拍の間が流れた。

「それも、面白そうかも」
「なら、決まりだな?」

 お互いの意見が一致した。
 同時に、それぞれの武器を力一杯に振り下ろす。
 タイガの爪がブレイドを。ネガ電王の剣がキバーラを。
 この戦いを止める為、戦いに割り込もうと走り込んで来た二人を切り裂いた。

「うわっ!?」
「きゃあっ!?」

 二人の正義が、もんどりうって病院の床を転がる。
 破壊する事に躊躇いを持たぬ悪の刃が、正義の装甲を抉ったのだ。
 装甲を突き抜ける痛みが二人の身体を蝕んで、すぐに体勢を立て直す事を困難とさせる。

「何やってんだお前……!」
「何って……僕は英雄になれればそれでいいから」
「ま、そういうこった。こいつは俺が立派な悪の英雄に育ててやるから、安心しな」

 そう言って嘲笑うネガ電王に、剣崎一真は怒りすら感じた。
 東條の願いは、元を辿ればライダーバトルを止めたい、という物だった筈。
 そんな彼の純粋な心を利用して、人の命を奪う悪の道へと引きずり込もうとする。
 元は剣崎と同じ「人を守る仮面ライダー」だった男が、道を踏み外すのが堪らなく嫌だった。

「何言ってんだ、ふざけるなっ! そいつに利用されてるってわからないのか!」
「利用でも何でもすればいいよ。僕もその悪の組織っていうのを利用するだけだから」
「ククク……益々気に入ったぜ、お前。コイツを正義の英雄なんかにするのは勿体ねえ」

 このネガ電王とかいう奴は、分かっていない。
 東條は、大切な人間を全て殺す事で英雄になろうとしている。
 悪の組織の一員として戦い、最後には仲間を皆殺しにするつもりなのだ。
 歪んだ考えだと思うし、そんな事で英雄になれるのだとしたら、絶対に間違っている。
 ブレイドの身体を突き動かすのは、命を守りたいというたった一つの願い。
 悪とは言え、こんな下らない事で命が奪われてたまるものか。
 醒剣を突き立てて、その身体を起こした。

「東條……俺はお前に、そんな間違った英雄になって欲しくない!」
「そうです……! 英雄になりたいなら、私達と一緒に大ショッカーを倒すべきです!」

 キバーラが身を起こし、言った。
 彼女の言う通りだと、剣崎一真は思う。
 死ぬ必要の無い無数の命を守り抜き、全ての世界を救う方法を見付ける。
 その方が遥かに困難で、だけど人として遥かに立派な行動。まさしく英雄と言える。

「わかんねえのか? そんな事言ってる奴らから食われるんだよ」
「うん。英雄になる前に、あの“見せしめの人”みたいに首輪を爆発されるのは御免だし」

 嘲笑う様に、タイガが言った。
 見せしめ……影山瞬という名の、一人の男の死。
 剣崎は知らない男だけど、それでも怒りを覚えずには居られない。
 彼がどんな人間かは知らないが、死んでいい命なんて有りはしないのだ。
 人間には一人一人違った人生があって、誰にだって、自分を待つ大切な人が居る。
 だからこそ命は尊いのに……それなのに奴らは、簡単に命を踏み躙った。
 その瞬間に、剣崎一真の行動は決まったと言っていい。
 大ショッカーには絶対に従わない。
 何があっても殺し合いを潰す。
 その為にも。

「これ以上あんな犠牲を出さない為にも、俺達仮面ライダーが戦うんだろ!」
「ごめん剣崎君……悪いけど、これ以上君と話しても時間の無駄っぽいかも」

 それ以上の言葉は必要なかった。
 タイガがその爪を振り上げて、走り出す。
 だけど、その道を塞いだのは、緑の閃光だった。
 何処からともなく現れた緑が、機械仕掛けのバッタが。
 病院の床を跳ね回って、その身体に体当たりを仕掛けたのだ。

「あの“見せしめの人”みたいに……だとぉ?」

 その声には、怒りが含まれて居た。
 凍て付く様に冷たい、だけど燃え上る様に熱い感情。
 彼の怒りは、周囲の空気を凍て付かせて、誰も彼もが動きを止めた。
 黒のコートを翻して、床に転がった銀のベルトを腰に装着して――
 男は冷たい眼差しでもって、タイガを睨み付けた。

「笑ったな……? お前今……俺の弟を笑ったな?」
「……何言ってるの?」
「ククッ……ハハハッ……いいぜ、笑えよ……」

 ああ、そうだ。
 笑いたいなら笑えばいい。

「もっと笑えよ……?」

 その代わり。

「……変身」

 弟を笑った奴は、兄である自分が叩き潰すから。




 程なくして、戦況は大きく変わった。
 緑のライダー――キックホッパーの乱入。
 その、たった一人の男の行動が、場の流れを変えたのだ。

「はぁっ!」

 緑の右脚が、宙で弧を描いた。
 タイガは当然巨大な手甲でそれを受け止める。
 だけれど、それは所詮最初の一撃を防いだだけに過ぎない。
 キックホッパーの攻撃は、その名の通り良くも悪くもキックだけ。
 キックだけに特化したライダーの攻撃が、一撃で終わる訳が無かった。

「せやっ!」

 一撃目を防いでから、一秒と経過してはいない。
 右脚を一度も地面に着地させる事無く、繰り出されるのは次の蹴り。
 それが終わったら、また次。その次も、キック、キック、キック。
 目にも止まらぬキックの嵐が、タイガの身体を襲った。

「くっ……こんな攻撃……」

 呟くも、タイガは対処し切れない。
 そもそもタイガの攻撃は、一撃一撃が非常に重たい。
 それ故に予備動作も大きく、攻撃の速度も必然的に遅くなる。
 今まではテクニックで補っていたのだが、今回は状況が別だった。
 ホッパーの蹴りの連続が、あまりにも速過ぎるのだ。

「はぁっ! ふんっ! らぁっ!」
「ぐっ……」

 防ぎきれていたのも、最初の数発だけだ。
 戦いが長引けば長引く程に、隙が大きくなってゆく。
 直線的な打撃ならば、まだ対処のしようだってあっただろう。
 だけど、ホッパーの攻撃は読めない。何処から蹴りが飛んでくるか分からないのだ。
 それ故に防ごうにも防ぎ切れず、謝った方向でガードを出せば、突いて来るのはその隙。
 出来た隙に、一撃でもキックを叩き込まれれば、そこから全てが瓦解してゆく。

「つっ――」
「らぁぁっ!!」

 それでもタイガは手甲を構える。
 蹴り脚が見えた左方向へと、半ば反射的に。
 だけど、緑の回し蹴りは手甲の直前でその軌道を変えて。
 内側へと捻り込まれた膝によって、足全体の軌道が上部へ逸れた。
 結果、緑の脚は見事にタイガの仮面を打ち据えたのだ。

「このっ……」

 ふらつく足元。
 頭が揺らされ、感じる目眩は軽い脳震盪。
 如何に仮面ライダーの仮面と言えど、その上からの揺さぶりには無意味。
 開いてしまった上半身へと連続的に叩き込まれるのは、次の蹴りだ。
 宙に掲げた膝を軸に、足先を自由に回転させ、打ち込まれる打撃。
 右から、左から、上部から、前方から。
 最早対処は完全に不能。

「……ライダージャンプ」

 ――RIDER JUMP――

 遠くなりかけた意識の中で、タイガが微かにその声を聞いた。
 霞んで見える視界の中で、目の前の緑の左脚が真っ赤に光輝いた。
 拙い。このままでは死ぬ、と。東條悟の本能が、警鐘を鳴らし立てる。
 対する判断は、両腕の手甲を前方で重ね、ガードの姿勢を作る事だった。

「ライダーキック……!!」

 ――RIDER KICK――

 電子音と共に、緑の身体が舞い上がった。
 病院の天井に触れるか触れないかの位置まで飛び上がって。
 緑とも赤ともつかない眩い光が、稲妻となって緑の脚を駆け廻る。
 後の事など考えている余裕は無い。今持てる全力であのキックを防ぐのだ。
 自分は既にアドベントもファイナルベントも使っているのだから、そうするしか生き残る術が無かった。
 二本の脚でリノリウムの床を踏み締めて、構える両腕に持てる全力を注ぎ込む。

「はぁっ――!!」
「うっ……!!」

 刹那、緑と赤の稲妻が、タイガの手甲で弾けた。
 爆発的な衝撃。両腕を吹き飛ばされてしまいそうな振動。
 踏ん張る脚に激烈な重みを感じて、その威力を身を持って知る。
 だけど、それでも、耐えた。デストクローの装甲は、敵のキックに耐え抜いたのだ。
 痺れる腕で何とか手甲を握り締めて、安心感と、一縷の希望を胸に抱く。
 だけども、そんな希望を打ち砕いたのは、目の前の“金色の脚”だった。

「えっ――」

 まるで、バッタの脚をそのまま模した様な金具。
 緑の左足に装着された金色の脚が、ガチャンと音を立てて動いた。
 何が起こったのかを理解するよりも先に、飛び跳ねたのは緑の身体。
 再びその左足にタキオンの稲妻を纏わせて、繰り出される第二の飛び蹴り。
 手甲を構えたままの状態で、その脚がもう一度手甲を捉えたのは一瞬の後。
 そして、そこから繰り出されるのは、連続でのライダーキック。
 二撃目で、手甲に僅かな亀裂が走った。
 三撃目で、手甲の亀裂が全体へと広がった。
 四撃目で、手甲は甲高い音を立てて砕け散った。

「嘘だっ……」

 輝く緑のライダーキック、その五撃目。
 今度の攻撃は、酷くスローモーションに見えた気がした。
 勝ち続けて英雄になる筈の自分が、こんな所で死んでしまうのか。
 そんな疑問が東條の頭を駆け廻って、これ以上の対処は不可能であった。
 何の対処も成さないタイガの銀の装甲に直撃するは、稲妻迸る必殺の蹴り。
 刹那、全身に響き渡る衝撃と振動。銀の胸部装甲が砕かれ、次いで全身の鎧が消失する。
 最早それが痛みと呼べる感覚であるのかを感知する暇すら無く、東條は意識を手放した。






「チッ……こいつはやべえな」

 紫の剣で白銀のサーベルを受け止めて、ネガ電王はごちる。
 あの緑のライダーが現れた事で、戦況は大きく変わってしまった。
 タイガは緑のライダーにやられ、自分に課せられたのは二人の正義との戦い。
 たった一人で、白銀のライダーと、紫紺のライダーを相手にせねばならないのだ。
 先程まで圧倒的に有利だった筈の悪が、今では正義に屈しかけている。
 この現状を、ネガタロスは呪わずには居られなかった。

「ヴェイッ!」
「ぐっ……!」

 ブレイドの醒剣が、ネガ電王の身体に叩き付けられた。
 眩い火花が閃いて、電王の装甲を通して僅かな痛みがネガタロスを襲う。
 だけども、この程度で怯む事はない。すぐに体勢を立て直し、剣を振るった。
 紫の剣はブレイドの銀の装甲を切り裂いて、その身を後退させる。
 だけど、直後に待って居るのは、白銀のサーベルによる攻撃。

「チッ……!」

 何度も言うが、現状は一対二。
 例え片方に攻撃を仕掛けようと、その後で待って居るのはもう一方の攻撃。
 一方の攻撃を防いだところで、その隙を突いて来るのはもう一人の剣。
 認めたくは無いが、特に変わった武装でも無い限り、現状で勝利する事は難しい。
 どう考えたって、たった一人でそれなりに戦える二人を相手にするのは難しかった。

「またこの展開かよ……!」

 思えば、あの時だってそうだ。
 有利かと思っていた電王との戦い。現れたのは突然の乱入者。
 真っ赤に煌めくキバの鎧を身に纏い、名も知らぬ敵がネガ電王の邪魔をした。
 結果、二人の正義の仮面ライダーを相手に、ネガ電王は成す術もなく敗退した。
 だけどそれは、ネガタロスにとっても貴重な経験となった。
 今回は違う。今回は前の様には行かない。
 いざとなれば。

「仕方ねえっ!」

 ――FULL CHARGE――

 一瞬の隙を突いて、翳したのはライダーパス。
 紫の光を放つバックルが、必殺の電子音声を響かせる。
 だけど今回は、これを戦いの為に使用するつもりはない。
 そう、前回の戦いで学んだ事を活かす為に。

(無理な状況では、無理に戦わない……それが勝つ悪の賢さだ!)

 禍々しい光を伴った剣先を、横一閃に振り抜いた。
 飛び出した刃は、キバーラとブレイドの上体を切り裂いて、すぐに帰還する。
 ネガタロスの予想通り、二人は僅かな爆発と共に、一瞬ではあるが動きを止めた。
 一応こちらの必殺技なのだ。倒すつもりで使ったのでは無いとは言え、只で済む訳はない。
 相手が体勢を立て直すその前に、ネガ電王は病院の窓ガラスを突き破って、外へと躍り出た。

 ネガタロスが選んだ最後の手段とは、戦略的撤退であった。






 黒のコートを翻して、矢車は大きく嘆息した。
 今し方自分が倒した男は、無様にリノリウムの床を転がっている。
 見ればこの男はまだ若い。自分よりも大幅に年下に見える。
 動かなくなった東條の顔を一瞥して、苛立ちを込めた嘆息を、また一つ。
 その場へ駆け付けて来たのは、先程まで一緒に居た夏海と、もう一人の男だった。
 夏海はすぐに横たわる東條を抱き起こし、その様態を確認する。

「……大丈夫です、気絶してますけど、まだ生きてます!」

 どうやら自分が倒した男はまだ生きていたらしい。
 別に命を奪うつもりも無かった。ただ腹が立ったから、潰しただけだ。
 それ故に男の安否に蚊程の興味も無かったし、これ以上その男の顔を見ている気にもなれなかった。
 だから何も言わずに、このまま立ち去ろう。
 そう思い、歩き出そうとした時であった。

「おい、待てよ! アンタ、さっきは助けてくれたんだよな?」
「……あ?」
「ありがとう」

 振り返った矢車を待ち受けていたのは、笑顔を浮かべる男であった。
 男は、剣崎一真は、何の裏も持たない笑みで、矢車を真っ直ぐに見詰める。
 その視線が眩しくて。その言葉が眩しくて。剣崎という男が、眩しくて。
 これ以上見てられないとばかりに、矢車は剣崎から視線を外した。
 そのまま何も言わずに立ち去ろうとするが、しかし剣崎はそれを許さない。

「お、おい、ちょっと待ってくれよ!」

 剣崎の手が、矢車の肩を掴んだ。
 行く手を阻まれた矢車は、ただ項垂れるように立ち止まる。
 溜息だけを微かに漏らして、矢車は何をするでもなく、その場で腕を組んだ。

「アンタ、味方なんだよな? 一緒に大ショッカーと戦ってくれるんだよな?」
「お願いします矢車さん……私達と一緒に大ショッカーと戦って下さい!」

 僅かに首を傾けて、様子を見遣る。
 東條から道具一式を預かった夏海が、またも眩しい瞳で自分を見詰めていた。
 地獄に落ちて、それでも白夜を目指そうとした、こんな自分に掛けられたのは、期待。
 下らない、ちっぽけな自分に、こいつらはまだ何かをさせようと言うのか。

「はぁ……気が変わった。弟を笑った大ショッカーは俺が叩き潰す……だが、お前らと行動する気は無い」
「なんでそんな事言うんですか! 目的が同じなら、一緒に戦えばいいじゃないですか!」

 夏海の言葉は尤もだ。
 大ショッカーの言う通りに戦う気にもなれないし、出来る事ならとっとと死にたかった。
 だけど、それ以前に矢車は、大切な事を忘れていた。忘れてはいけない、大切な事を――。
 そう。下らない理由で大切な弟を死に追いやったのは、他でも無い大ショッカーなのだ。
 奴らは勝手な基準で弟を不必要と決めつけ、何の抵抗も許さぬまま、弟を惨殺した。
 それを思い出した途端、込み上げて来る感情は、熱く、激しい怒り――愛憎。
 弟の待つあの世へ行くのは、大ショッカーを叩き潰してからでもいい。
 自分が仇を討つ事を、あの弟もきっと望むだろう。
 だから、矢車は行動を開始したのだ。

「今の俺にはまだ、お前らは眩しすぎる」
「またそんな訳の分からない事を……!」

 そう、まだ彼らは眩しすぎる。
 白夜を目指して旅を始めた矢車は、しかしまだ白夜を見付けては居ない。
 これから旅立とうとした矢先、弟を失って、自分はこんな所へ連れて来られたのだから。
 弟の居なくなってしまった世界で、自分一人白夜を目指した所で意味がない。
 それ故に、矢車はもう一度光から目を背け、生きる道を選んだのだ。
 だけど――それなのに。

「それでも、俺達はアンタと一緒に行くぞ。その方が安全だからな」

 今度は、剣崎だった。
 東條の身体をその背に抱えて、矢車に追随する。
 こいつらはどうあっても、自分を一人にはしてくれないらしかった。
 言っても聞かないなら、何を言っても無駄か。ならばもう、好きにするがいい。
 矢車はぽつりと、勝手にしろ、と呟き、その歩を進めるのであった。




【剣崎一真@仮面ライダー剣】
【時間軸】第40話終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、仮面ライダーブレイドに二時間変身不可
【装備】ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA~6.9)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:人々を守り、大ショッカーを倒す。
1:今は夏海、矢車と共に行動する。二人から話を聞きたい。
1:橘朔也、相川始と合流したい。
2:何故、桐生さんが?……
3:Wとディケイドが殺し合いに否定的ならアイテムを渡したい。
4:龍騎の世界で行われているライダーバトルを止めたい。
【備考】
※龍騎の世界について大まかな情報を得ました。


【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】疲労(小)、弟たちを失った事による自己嫌悪、キックホッパーに二時間変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品(0~1)
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:剣崎一真、光夏海と行動するが、守る気はない。
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:天道や加賀美と出会ったら……?
【備考】
※支給品は未だに確認していません。
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。


【光夏海@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダーキバーラに二時間変身不可
【装備】キバーラ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品(0~4)、カードデッキ(タイガ)@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーを倒し、皆と共に帰還する。
1:剣崎と共に、矢車と行動する。
2:剣崎からブレイドについての情報を聞きたい。
3:士、ユウスケ、大樹との合流。
4:おじいちゃんが心配。
5:キバーラに事情を説明する。
【備考】
※支給品は未だに確認していません。
※矢車にかつての士の姿を重ねています。
※矢車の名前しか知らないので、カブト世界の情報を知りません。
※大ショッカーに死神博士がいたことから、栄次郎が囚われの身になっていると考えています。
※キバーラは現状を把握していません。
※東條のデイバッグを預かりました。


【東條悟@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】インペラー戦後(インペラーは自分が倒したと思ってます)
【状態】気絶中、疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダータイガに二時間変身不可
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を犠牲にして、ただ一人生還。英雄になる。
1:……………………(気絶中)。
2:自分の世界の相手も犠牲にする。
3:ネガタロスの悪の組織を利用し、英雄になるのもいいかも。
4:基本的には病院で参加者を待ち伏せてから殺す(二階の廊下が気に入ってます)。
【備考】
※剣の世界について大まかな情報を得ました。



 ぱりぃん!と。
 周囲に響き渡るガラスの破砕音。
 先程窓を突き破ったネガタロスが立てた音であった。
 漆黒の身体を太陽の下に晒して、ネガタロスは気付いた。

「……変身が解けてやがる」

 電王の紫のオーラアーマーが、消失していた。
 解除した覚えは無い。戦闘が終わって、病院から飛び出た時には既に、だ。
 一体どういう理由で電王の変身が解けてしまったのか。
 それについても思考しなければならない。

「その為にも、まずは仲間だ!」

 そう。何が何でも、まずは優秀な仲間を見付けなければならない。
 優秀な悪を見付けだして、幹部ないし兵隊として招き入れてやる。
 そうして、揺るがぬ確実な組織力を手にしてから、この殺し合いを蹂躙するのだ。
 最後まで勝ち残った自分の組織は、元締めである大ショッカーを潰しにかかる。
 それを締めとして、新たな悪の組織の真の旗揚げとなるのだ。
 その為にも、今はボスである自分の安全を確かなものとする。
 ボスさえ居れば組織は何度でも復活出来るのだから。

 しかし、物事はそう上手くは行かない。

「なっ――」

 突然自分を襲ったのは、銀の何か。
 無数の銀の塊が、弾丸の如く自分の身へ迫った。
 何の対処も出来ずに、ネガタロスの身体は飛び交う銀に打ち据えられた。
 思いもよらぬ出来事に体力を奪われ、それでもその場に踏ん張って、目を見張る。

「壊してやる……」
「あ? なんだ……お前」

 そこに居るのは、漆黒の戦士。
 まるでカブトムシの様な黒と赤の装甲。
 金色の瞳は不気味に揺らめいて、自分を真っ直ぐに見据える。
 スリムなそのボディは、太陽に背を向けて、不気味に歩を進める。
 それだけで、ネガタロスには分かった。
 こいつは悪だ。揺るぎなき悪だ。

「お前、悪だろ……! いいぜ、今なら俺の組織に入れてやる!」

 両手を高らかに広げ、宣言する。
 この男は、間違いなく立派な兵隊となる。
 強くて、揺るぎの無い悪。それが目の前の黒いカブト。
 こいつをここで引き込む事は、間違いなく自分の勝利に繋がるのだ。
 だけど、ネガタロスの申し出に対しての返答は、電子音であった。

 ――CLOCK UP――

 それからの事は、ネガタロスにも良く解らなかった。
 何が起こったのか。自分の身を何が襲ったのか。
 少なくとも、この時点では、何一つ。

「今なら幹部の椅子を用意してや――」

 言葉を言い終える前に、黒いカブトが消えた。
 それから一秒――一瞬すら待たずに、自分を襲ったのは激痛。
 黄色とも赤ともつかない稲妻が胴体で弾けて、大量の砂が噴き出した。
 何かに蹴られたのか? と、そんな疑問を抱く痛みだった。
 だけどもうこれ以上は、立って居る事すらも難しい。
 崩れゆく体制のまま、僅かに残った意識を向ける。
 そこに居たのは、漆黒の悪魔。

「やっぱ……最後に勝つのは、強い悪か」

 こいつは間違いなく、悪だった。
 有無を言わさぬ完全な悪だった。
 自分とは違う、仲間を必要としない悪だった。
 そう。勝つのは何時だって、強い悪なのだ。
 自論を証明するのは、皮肉にも自分自身の最期。

「潰れちゃえ」

 黒いライダーの短刀が、ネガタロスの首を掻き切った。
 こうしてネガタロスは、悪に生き、悪に散るという結末を迎える。
 最期まで悪として生きようとしたネガタロスにとっては、最高のクライマックスであったとも言えよう。
 しかし、それで死んでしまっては意味が無いのだが――そんな事は今更言っても遅過ぎる。



【ネガタロス@仮面ライダー電王&キバ クライマックス刑事 死亡確認】
 残り50人



 黒い悪魔は、先へ進む。
 大量の砂と、黒い死体を踏み躙って。
 彼が先程まで持って居た道具を全て奪い取って。
 病院の中に居るであろう参加者を、皆殺しにする為に。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】健康 情緒不安定気味 仮面ライダーダークカブトに変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)@仮面ライダーカブト
【道具】基本支給品×2、不明支給品(1~3)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王
【思考・状況】
0:病院にいる参加者達を、全員殺す。
1:天道総司を殺し、『天道総司』に成り代わる。
2:全ての世界を破壊するため、手当たり次第全員殺す。
3:特に優先的に『カブトの世界』の五人を殺害する(最終的には自分も死ぬ予定)。
4:僕はワームだった……。
【備考】
※ 名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※ 参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※ ネガタロスの支給品を全て奪いました。



040:Try-Action Delta form 投下順 042:三様
040:Try-Action Delta form 時系列順 042:三様
028:勝利か敗北か 剣崎一真 046:Kの名を胸に刻め/闇に消える光
028:勝利か敗北か 東條悟 046:Kの名を胸に刻め/闇に消える光
028:勝利か敗北か 矢車想 046:Kの名を胸に刻め/闇に消える光
028:勝利か敗北か 光夏海 046:Kの名を胸に刻め/闇に消える光
028:勝利か敗北か ネガタロス GAME OVER
028:勝利か敗北か 擬態天道 046:Kの名を胸に刻め/闇に消える光