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加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE




「みんな知ってるか? ワルツ王と呼ばれるヨハン・シュトラウス2世は生涯に3回結婚しており、その父ヨハン・シュトラウス1世は愛人……



 ってんなこと言っている場合じゃねぇぇぇぇ! 渡!! 頼むから考え直してくれぇぇぇぇぇ」







「さっきから五月蠅いわねこの蝙蝠……結婚とか愛人とか……」
「すみません……キバット、少し黙っててくれる? ところで、気になったんですけど……妙にここに詳しい気が……」
「当然よ、ここ私の家だもの」



 園咲邸のある部屋に園咲冴子、紅渡がいた。先程の戦闘で冴子が負った怪我の応急処置をする為だ。



「それじゃ、この場所は冴子さんの街……」
「とは限らないわ。私も最初は風都だと思ったけど……」



 と、窓から見える西数キロ先にある巨大なタワーを指す。



「東京タワー?」
「あそこには風都タワーがある筈だった……でも、実際には違う建物がある……それに、本当だったらこの場所から風都タワーなんて見えない筈なのよ」



 冴子によると2年程前に風都第三ビルが建てられ、それにより今いる冴子の妹である園咲若菜の部屋から風都タワーは見えなくなっていたのだ。
 ちなみに冴子がわざわざ若菜の部屋に入ったのは自分の部屋を渡に伏せる為、若菜の部屋に使える物があればそれを確保する為である。もっとも、若菜の部屋には冴子から見て使えるものは無かったが。



「恐らく、殺し合いの舞台として私達の住む風都をベースにして街を作ったって所ね。勿論、ベースはあくまでもベース、所々変えている部分があるから私をアテにしても無駄よ」



 地図を見ながら冴子は語る。風都をベースにしているとはいえ、建物の所在も元々の風都と同じとは限らず、全く違う場所に存在する可能性もあるという事だ。



「それよりも、貴方の世界の知り合いについて教えてくれるかしら?」
「え?」
「一応組んでいる以上は当面互いの世界の相手に手を出すわけにはいかないでしょ。まぁ、名簿の配置から大方見当は付くだろうけど」



 2人は互いの知り合いについて話し合う。
 冴子の世界の知り合いは4人、
 冴子の夫で園咲家の婿養子となった園咲霧彦、
 風都にある鳴海探偵事務所で探偵をしている左翔太郎、
 鳴海探偵事務所の所長である鳴海亜樹子、
 そして――



「名簿ではフィリップと書かれているけど――来人、私の弟よ」



 冴子の弟である園咲来人、以上について語られた。



「え? どうしてフィリップになって……?」



 と、渡は当然浮かぶ疑問を口にするものの、冴子としてもそこまで話すつもりはない。



「そこまで話す義……」
「この女の事情なんてどうだっていいだろうが……それより渡、考え直すなら今の……」
「……それより貴方の方は?」
「オィィィィィ!」



 キバットバットⅢ世の言葉に気を留める事無く2人は話を続ける。
 渡の世界の知り合いは2人、
 会った事のない渡の父親である紅音也、
 ファンガイアや犯罪者を許さない強い正義感の持ち主でイクサの変身者であり一時期渡の師匠でもあった名護啓介、



「……それだけ?」
「はい、僕の知っている人は……それに、冴子さんの方もそれだけですか?」
「もしかしたら1人か2人はいるかも知れないけど私の知っている人はこれで全部よ、それよりキングって名前に心当たりは無いの?」



 冴子が指摘するのは渡達の近くに書かれていたキングという名前だ。渡の世界の参加者である可能性が高いが――



「……無いです。」
「わかったわ、当面はお互いの世界の参加者には手を出さない。私も貴方のお父様や名護さんには手を出さないから、貴方も霧彦さんや来人に手を出さないってことで良いわね?」
「……左さんと鳴海さんは?」
「その2人なら別に構わないわ、まぁ今の貴方じゃトドメさせないだろうけどね。但し、霧彦さんや来人に手を出すなら……」
「……わかりました」

 本来ならば冴子にとって同じ世界の参加者である翔太郎と亜樹子は味方である。
 しかし、元々の世界で敵対している事を踏まえるとこの場でも敵対は避けられない。故にこの2人については排除しても構わないと判断した。
 もっとも、2人で1人の仮面ライダーである翔太郎が1人でどうにか出来るとは思えないし、亜樹子に至っては何の力も持たない人間だ。特別警戒する事もないだろう。





 その一方、




「(渡の奴……本気でこの女と組んで殺し合いに乗る気か……)」



 キバットは冴子のデイパックの中で苛立ちを感じていた。
 このままだと冴子に都合よく利用される事は確実だ。そして利用価値が無くなればゴミの様に捨てられるだろう。
 キバット自身、渡が殺し合いに乗る事を望んではいない。故に本来なら今の渡をキバに変身させたくはない。
 だが、今突っぱねればそのまま冴子に利用価値無しと見なされそのまま殺されるのがオチだ。
 確かに互いの変身道具や武器の殆どは交換しているから互いに手が出せない様に見える。だが実際はそうではない。
 冴子は自身に支給されていた武器の中で渡に渡していないものがあった。先の戦闘で冴子が使っていたナイフことファンガイアスレイヤーのことだ。
 つまり、今刃向かった所で武器を持つ冴子に殺されるだけという事だ。



「(完全に渡にとって不利な状況じゃねぇか……)」



 とはいえ、現状ではこのまま冴子に従う以外の選択肢は無い。隙を見てキバに変身した時に何とか渡を説得し冴子から離れるべきだろう。



「(最大の問題は、渡を説得出来るかって事だ……)」



 渡を説得出来る可能性について考える。諦めてはいないものの、今の渡には自分が何を言っても聞いてくれそうにない。
 原因についての心当たりはある。渡自身の手で最愛の女性である鈴木深央を結果として殺してしまったからだ。
 もう二度と大切な人を失わない為、自分の大事な人達のいる世界を守る為に殺し合いに乗り優勝を目指している。
 キバット自身、その想いを理解していないわけではないし、その決意をそう簡単に変えられるとは思っていない。
 だが、そんな渡の行動を名護や恵、静香、健吾達が望むわけがない。渡が他の世界の人々を悲しませてまで守られたいとは思わないはずだ。



「(けど俺じゃ無理だ……名護や渡の親父さんの声なら届くか……)」



 名護や音也ならば渡を説得出来るかもしれない。
 名護は色々奇行も目立ち何度も対立したが最近では何故か心境の変化があったせいか渡の正体を知っても尚、渡の味方をしてくれた。不安要素が無いではないが、彼ならば何とかなるかもしれない。
 音也は言うまでもなく渡の親父だ、きっと渡の暴走を止めてくれる筈だ。問題は――



「(でも、会った事ねぇんだよなぁ……父ちゃんから聞いた事はあ……いや)」



 実は、一度だけキバットは音也と出会っている。正確には渡に音也の魂が乗り移った時に出会ったわけだが、



『渡? 知らないなぁ、そんな奴』
『神様の悪戯だな、コイツの身体に俺の魂が宿っちまったらしい』



「(アイツじゃ無理な気がしてきたぁぁぁ! この女に騙されそうな気すらするんだけどよぉぉ!)」



 その時の言動を見る限り、音也に渡の説得は難しい気がしたキバットであった。



「(後は加賀美の兄ちゃんが言ってた『俺よりもすごい奴』か……せめて名前だけでも聞いていれば……)」



 そんな中、先の知り合いについて話していた時、キバットから見て1点だけ気になる点があったのだ。
 それは渡達の近くに書かれている『キング』の存在だ。
 渡は心当たりが無いと言っていたが厳密に言えばあるのだ。
 ファンガイアの中でも実力者とも言うべき『ルーク』、『ビショップ』、『クイーン』、そして『キング』と呼ばれるチェックメイトフォー、『キング』はその中でも頂点に君臨している。
 分かり易く言えばファンガイアの王と言っても良い。
 渡達の時代のキングは登太牙、しかし渡にとってはファンガイアのキングではなく、幼き頃からの親友あるいは父親違いの兄である。
 故にキングという名前だけで太牙の存在に結びつかなかったのだ。
 一方のキバットはキングが指し示しているのがファンガイアのキングの可能性が高い事に薄々気付いていた。
 だが、それならば奇妙な話なのだ。



「(だったら太牙って名簿に書けば良いだろ……その方が渡や名護が気付く筈だ……)」



 そう、登太牙ではなくキングという名前が名簿に書かれている事が奇妙なのだ。他の世界にとってはどちらであっても構わない。
 だが、自分達の世界、少なくても太牙の存在を知る渡や名護にとっては太牙という名前の方が都合が良いのだ。



「(待てよ……結局の所、『キング』ってのは称号だ……つまり……この『キング』は太牙の事じゃないって事か……)」



 キバットの脳裏にある仮説が浮かんだ。それが意味する事は通常はまず有り得ない事だ。だが、



「(いや、死んだ筈の渡の親父さんもいるんだ……有り得ないとは言い切れねぇ……)」



 とはいえ、



「(考えても仕方ねぇか、太牙じゃなければ渡の知らない人物でしかねぇ……太牙であってもアイツは渡を恨んでいる……どうにもならねぇか……くそっ……大ショッカーの奴等……悪趣味な事しやがって……)」















Interlude King & Fang





「随分と派手な事しやがって……」



 荒れ地となったB-8に1人の壮年の男性いた。彼の名は牙王、全てを喰らわんとする男だ。

 ディケイド及びアポロガイストとの戦闘直後、牙王はある事を確かめた。
 1つは支給品の中にあったガイアメモリ、ホッパーメモリの能力だ。
 説明書きによると首輪にあるコネクタに挿し込む事でホッパー・ドーパントなるものに変身出来るとあった。
 来た当初は使うつもりは無かったがある問題が起こったのだ。
 それは先程の戦闘時、突然変身が解除されたという問題だ。理由は不明だが長時間の変身は不可能ということだ。
 更に再変身を試みたがマスターパスは反応せず変身は出来なかった。どうやら1度変身した場合、ある程度時間をおかなければ変身出来ないらしい。
 これでは折角の獲物を見つけても喰らう事が出来ない。変身出来なくてもある程度渡り合える自信はあるが圧倒的に不利である事に違いはない。
 故に、得体は知れないもののガイアメモリを使う事にしたのだ。
 牙王は試しにメモリを首輪に挿し込みホッパー・ドーパントに変身した。その能力はホッパーの名の通り驚異的な跳躍力、単純ではあるが使う者次第では凶悪な力を発揮する。
 事実として本来の持ち主であるイナゴを食すゴシックロリータファッションの女は変身せずとも驚異的な身体能力を誇っていた。
 その彼女とホッパーの組み合わせは強大、ミュージアムにおいても処刑執行人としての重要な役割を与えられていた。

 その観点から考えれば牙王との相性も良いと言えよう。
 牙王はマスターパスを使いガオウへと変身し同じ世界の仮面ライダーである電王及びゼロノスを圧倒している。
 特に決戦においては桜井侑斗の機転により各フォームに変身した4人の電王とゼロノスが立ち塞がったにも関わらずそれらを圧倒、
 しかし、ガオウの能力は実の所同じ世界の仮面ライダーである電王の各フォーム及びゼロノスと比較して圧倒的に秀でているというわけではない。
 にもかかわらず圧倒出来たのはひとえに変身者である牙王自身の能力と言って良い。
 素の能力が優れているのであれば当然ホッパーの力も引き出せるのは容易に理解出来るだろう。

 変身解除後、暫くの間は食事をしつつ身体を休めていた。そしてB-8での戦いの音を聞き動こうとした。
 あわよくば戦場にいる連中を皆喰らうつもりではあった。
 が、結論から言えば戦闘に介入することは出来なかった。
 戦場に向かう前に変身しようとしたがその時点ではまだ変身出来なかったのだ。実の所再変身可能までにはほんの数分足りなかったというわけだ。
 故に牙王は戦闘に介入せずそのまま待ち続け戦闘が終わった後、変身する事無くゆっくりと戦地に駆けつけたというわけだ。

 戦闘が激しかったという事は容易に理解出来る。その激しい戦闘に介入出来なかった事が悔しかった。
 さぞかしその場所にいた連中は喰い甲斐のある連中であっただろう。自分が先に出会った獲物達とは比べものにならない位にだ。

 その最中、牙王の脳裏にある連中の姿が浮かび上がる。
 それは神の列車を巡る戦いで対立した相手、特異点1人を消す程度の意味しか持ち得ないある1日を消そうとした自分に対し、



『たった1日でも死んでも忘れたくない時間はあるんだ……無くしたくない時間が……』



 そう言い放った少年だ。その人物こそその時牙王が消そうとした特異点である。そして、



『モモタロス!』
『良太郎、思い出したか!』



 そう言って特異点こと野上良太郎、モモタロス他仲間のイマジン達が電王へと変身し自分へと立ち向かってきたのだ。
 前述の通り、4人の電王及びゼロノスをガオウは圧倒した。だが、それでも良太郎とモモタロスが変身した電王は立ち上がり、



『そういうのを往生際が悪いって言うんだ、知ってるか?』
『ああ、最後までクライマックスって意味だろ?』



 そう言って往生際悪くガオウへと挑み――遂にダメージを与えたのだ。そしてガオウライナーとデンライナー及びゼロライナーによる列車戦にすら敗北し、最後の一騎打ちの果てに――



『時間に喰われるのは……俺の方か……』



 そう言って牙王は砂になって消えた――と思ったが気が付いたら大ショッカー立ちのいる最初の場所にいたという事だ。
 何故自分が生きているのかについては別段気にしていない。時間に喰われたと思ったら喰われなかった程度の問題でしかない。
 生きているなら今度こそ全てを喰らえば良いだけの話だ。
 名簿には良太郎とモモタロス、それにリュウタロスの名前があった。あの時同様立ち向かってくるだろう、喰い甲斐のある連中である奴等は――



「喰ってやるさ……次こそな」



 向かってくるならば次こそ喰らう、同じ世界であっても組むつもりはない。
 彼等は先に出会った連中よりもずっと喰い甲斐があるだろう。何しろ自分を一度は喰らった奴等なのだから。

 無論、彼等に固着するつもりもない。喰い甲斐がある奴等がいるならばそいつらでも構わない。
 彼等を喰らえる事は期待しつつ牙の王の名を持つ男は往く――







 其処より少し離れた場所、1人の男性がアテもなく歩いていた。彼はキング、ファンガイアの頂点に君臨する男だ。
 B-8の惨状を引き起こした元凶の1人であるその男はその場所で自分に刃向かい逃げていった5人を追いかけようとしたが結局見失った。
 制限のせいか本来の姿であるバッドファンガイアに変身する事は出来ないが、戦闘後自身のデイパックを確認した所自分に相応しいものがあった。
 先の戦闘で殺した男の持つ変身道具も手元にあったがそれよりもずっと自分にとって都合の良いものだ。
 それはファンガイアの王を守護する為に作られたヘビ型人工モンスターサガークと専用武器のジャコーダー、腰に取り付く事でベルトに変形しジャコーダーを挿し込む事で運命の鎧とも呼ばれるサガの鎧を纏う事が出来るのだ。
 武装こそ少ないがキバに匹敵する潜在能力を持っている。
 この説明だけでもファンガイアの王であるキングに相応しいのは理解出来るだろう。
 サガークはキングから見て未来の世界のファンガイアの王にしてキングの息子である太牙が所持しているものだ。
 本来なら息子が持っているであろうサガの鎧が自分に支給されたという事実はその名の通り運命的なものを感じずにはいられない。
 仮にファンガイアの姿に戻れずとも、サガの力があれば十分に戦える。元々ファンガイアの王の為の武装なのだ、使わずとも戦い方は概ね把握出来ている。
 説明書によるとサガークの眷属であるククルカンやマザーサガークは制限の都合呼び出せないが問題は何もない。
 サガとファンガイアの力を以て他の世界の参加者を皆殺しにし、紅音也、紅渡の親子を殺しこの手に愛する真夜を取り戻すのだ。

 その名が示す通り、運命に導かれる様にかつてキバの鎧を纏っていたキングの称号を持つ男は往く――





Interlude out















「っぷ……」



 喉の奥から胃の中の物が湧き上がってくるのを感じた。
 冴子と渡は園咲邸を出た後、目的地をB-6のホテルに定め移動を行っていた。
 目的はホテルに集うであろう参加者を仕留める為である。ホテルは拠点にするには丁度良い場所だからだ。
 誰もいない可能性もあるがその時は其処で待ち伏せるなり自分達の拠点にするなりすればよい。

 その途中のC-6を通りかかった時に1人の頭部を割られた死体を見つけたのだ。渡はそれを見て先程自分が殺した加賀美の事を思い出し嘔吐感をもよおしたというわけだ。



「冴子さん……」



 早くこの場所から離れたい、そう言おうとした渡であったが、



「少し気になる事があるわ、気持ち悪いんだったら向こうに行っててくれる?」



 冴子は死体を調べるつもりだった為、渡の言葉に取り合わない。



「わかりました……」



 渡は渋々冴子と死体から距離を取って行く。そして残された冴子は死体の頭部を眺めあるものを見つけた。



「これはガイアメモリのコネクタ……」



 血塗れだったが故に識別しにくかったがこめかみの所にガイアメモリのコネクタを見つける事が出来た。
 それが意味する事は男が自分と同じ世界からの参加者という事だ。
 ガイアメモリを使いドーパントに変身したが敗北した? 真っ先に考え付くのはそれだ。しかし、仮にそうならあるものが無いのが妙だ。
 もしドーパントに変身して敗北し殺された場合、メモリブレイクされたガイアメモリが近くに無ければおかしい。
 仕留めた人物が確保する可能性は低いだろう、メモリブレイクされたメモリなど無用の長物以外の何物でもないからだ。
 だが、現場の近くにメモリはない。恐らく持ち去ったと考えるのが自然だ。

 では、何故メモリを持ち去ったのだろうか? ブレイクされたメモリなど必要無かろう?
 が、こうは考えられないだろうか? ブレイクされていなかったとしたら?
 つまりお粗末な話ではあるが、変身していない状態で襲われ殺されたという事だ。これならメモリはブレイクされずに残り、同時に持っていく意義も出てくるだろう。

 だが、それならそれで別の疑問が出てくる。ガイアメモリを持っていく事自体は別に良い。
 しかしガイアメモリは生体コネクタもしくはドライバーに挿して使う物だ。それ無しに使う事は不可能である。
 生体コネクタ自体は専用の道具があればすぐに付けられるがそんな都合良く生体コネクタを付ける道具が支給されるわけもないし、ドライバーにしても同じ事だろう。
 つまり、基本的にガイアメモリは自分の世界の人間以外にとっては無用の長物という事だ。何を考えてガイアメモリを持ち去ったのだろうか?



「使えないけど持っていく……確かにかさばる物じゃないから有り得なくはないけど……何か引っかかるわね……」



 そう口にしながら死体を眺めていった。
 それは只の死体、冴子にとっては何の意味も持たないものだ。
 自分の世界の人間であっても冴子にとってはとるに足らない人物でしかない筈だ。
 それでもだ、
 それでも冴子はその死体から目を逸らす事が出来なかった。
 心の奥底から何かが湧き上がってくる様な気すらしたのだ。



「悲しんでいる……? 馬鹿馬鹿しい、そんな事有り得ないわ……」



 それはきっと気のせいなのだろう。早々にこの場所から離れホテルで休んだ方が良いだろう。
 そう思い死体から目を逸らそうとした。が、その直前あるものが目に付いた。



「……!」



 そう、それは首輪だ。冴子の脳裏にある仮説が浮かび死体の首輪を注視した。そして、



「見つけたわ……」



 仮説通り、首輪にガイアメモリを挿し込むコネクタを見つける事が出来た。
 恐らく首輪にドライバーと同様の機能を持たせ、ガイアメモリを用いドーパントへと変身する事を可能にしたという事だろう。
 その気になって調べればコネクタを見つける事自体は難しくはない。恐らく仕留めた人物はドーパントに変身する力を得る為にメモリを奪ったという事だろう。
 そしてこの事実は2つの事を浮き彫りにする。
 1つは参加者に他のガイアメモリが支給されている可能性、わざわざ首輪にコネクタを付加したのだ。ドーパントに変身させる為にガイアメモリを支給する可能性は大いにあり得る。
 もう1つはガイアメモリの技術を手にしたという事実から大ショッカーの背後にガイアメモリの技術を与えた人物がいる可能性があるという事だ。
 真っ先に考え付くのは自身の父である園咲琉兵衛、それに園咲家を出て行ったシュラウドこと冴子の母園咲文音だ。
 だが必ずしも彼等とは限らない。ミュージアムの協力者は数多く存在するし個人レベルでもガイアメモリの改造や研究は一応可能だからだ。現状これ以上考えても仕方がないだろう。


 そして今一度死体を一瞥する。もし、何気なく少し眺めただけだったら首輪のコネクタの存在に気付く事はなかった。
 この死体に思う所が無ければ長々と注視する事など無かったという事だ。
 死体の人物が誰かを冴子は知らない。それ故に何故気になったか等知る事は無いだろう。


 その人物がほんの少し未来に冴子が出会う筈だった人物であったとしても今の冴子にそれを知る術など無い。



 安い言葉で言うならば運命――それが2人を引き合わせ重要な事に気付かせたのだろう。それで十分だ。



「さて……そろそろ行こうかしら」





 その一方、死体から十数メートル離れた渡は1人冴子を待っていた。
 冴子の様子を見る限り死体の人物に何か思う所があったのは渡にもわかる。
 もしかすると死体の人物は冴子にとって大切な人だったのだろうか?
 だが、少なくても霧彦や来人ではないのは確かだったし、それ以外に大切な人が参加させられているわけではないのは聞いている。勿論、隠していた可能性もあるだろうが。
 疑問は尽きないが、何にしても冴子が哀しみを感じていると渡は感じていた。そしてそれを感じる度、自分の心の奥底が締め付けられる気がした。
 守る為とはいえ、誰かを殺めるという事はその哀しみを他の皆に与える事、キバットや加賀美が何度も止めようとした事も理解出来ないわけではない。



「それでも……僕は……」



 だが、今更もう戻る事など許されない。自分の世界の皆を守る為に敢えて自分は修羅の道へ進むのだ――







 そして、運命の円舞曲は静かに奏でられる――







「待たせたわね、わた……」




 遠方から冴子が声をかけようとした時、何かが数回渡にぶつかっていった。



「え? サガーク……?」



 渡は何が起こったのか考えつつ振り向くと、



「こんなに早く会えるとは、紅渡……」



 眼前にはロックミュージシャンの服装をした男が立っていた。



「え、僕を知っているんですか……?」



 自分の世界からの参加者なら協力してくれるかもしれない。少なくとも敵対する理由は皆無だ。しかし、



「キング自ら貴様を地獄に送ってやる……絶滅せよ」



 目の前の人物が何を言っているのか理解出来なかった。



「サガーク」



 そして、太牙が持っていた筈のサガークがその男の腹部に取り付きベルトとなり、



「変身」



 その言葉と共にジャコーダーを挿し込みサガへと姿を変えた。サガは早々にジャコーダーを鞭状に変形し状況が理解出来ない渡を絡め取り数メートル先へと放り投げた。



「がばっ……」



 渡の全身に激痛が奔る。それでも何とか立ち上がり、



「どうした? キバに変身しないのか?」
「ちょ、ちょっと待ってください……どうして僕を殺そうとするんですか? 僕達が戦う理由なんて……」



 渡には理解出来なかった。ルール上、同じ世界の人間と敵対する必要は全く無い。だが、



「理由だと? 貴様と紅音也は俺から真夜を奪った、それだけあれば十分だろう」
「僕と父さんが……母さんを……?」



 目の前の男性の口ぶりから音也と渡の母である真夜、そして男の三者の間に何かがあった事はわかる。だが、何故自分もなのだろうか?
 少なくても自分は目の前の男とは初対面だ。渡の理解が追いつかないまま、



「キバに変身しないならばそれでも構わん。そのまま死ね」



 サガのジャコーダーによる攻撃が渡を襲おうとしていた――







「何が起こりやがった! 俺にわかるように事情を説明しろ!」



 冴子のデイパックの中で轟音を聞きつけたキバットが騒ぐ。



「口で言うより見た方が早いわね」



 そう言って冴子はデイパックからキバットを出す。キバットは外の様子を見て驚愕した。20数メートル先では渡が何度もサガによる行く度の攻撃を必死に回避していたのだ。



「なっ……サガだと!? まさかあのキングは太牙の事か!?」
「太牙? 誰なの?」
「渡の親友で兄……」
「それじゃ違うわね、少なくともあの子はあの男を知らなかったわ……そういえばあの子と音也が真夜を奪ったとかどうとか言っていたわね? その事について心当たりは無い?」
「あるぜ……そいつは恐らく太牙の親父さんだ。くっ、渡の親父さんがいたから可能性はあるとは思ったが……
 だが、それならおかしいじゃねぇか! 何で渡が渡のお袋さんを奪ったって事になるんだ!? 少なくとも渡は関係ねぇ筈だぜ!」
「さぁ、私はあの男の気持ちが全くわからないわけじゃないけど……それよりこの状況を何とかするのが先決よ」
「そうだ、早く渡を助けねぇと」



 と、すぐさま飛び立とうとしたが、冴子の手に掴まれ動けない。



「何しやがる!」
「状況を考えなさい、相手は貴方達の事を知っているのよ。変身する前に貴方を仕留めるに決まっているでしょ」



 キバへの変身はキバットが噛みつく事で行われる。つまりこのまま考え無しに向かっていった所で先にキバットを叩けば簡単に変身を阻止出来るという事だ。



「距離にして20メートル、相手の武器は中距離でも使える鞭……策も無しに向かっていっても潰されるのがオチね」
「じゃあどうするっていうんだ!? 渡を見捨てて逃げるっていうんじゃねぇんだろうな!?」
「あの子にタブーのメモリを預けているのよ? それを取り戻さないでこのまま逃げられるわけないでしょ」



 現状キングは渡に夢中で冴子の方には気付いていない。故にこのまま逃げる事自体は可能だ。
 だが、ここで逃げればほぼ確実にタブーのメモリを失う事になる。この殺し合いを勝ち抜く為にはそれは避けねばならない。
 かといって変身していない状況では手持ちの道具を使ってもサガに対抗する事は不可能だ。
 変身解除されるまで渡が逃げ切ってくれればまだ可能性はあるが望みは薄いだろう。



「言っておくが、奴がファンガイアのキングならファンガイアになれる筈だ、太牙が変身した所は見た事ねぇがアイツもそうだとは限らねぇ。変身するって考えた方が良い」
「ともかく、一端あの男と距離をとって互いの道具を戻して変身して戦うしかないわね……」
「……ていうかよ、どっちにしろ一度渡を助けなきゃならねぇだろうが」



 そう、距離を取る為には一度渡を助ける為戦闘に介入する必要がある。だが、サガを相手に生身で向かうのは自殺行為だ。



「こうなりゃ仕方ねぇ、俺は1人でも渡を助けに行く、テメェは何処へなりとも逃げやがれ!」



 と、強引に冴子の手から逃れようとしたが、



「……1つ方法があるわ」
「本当か!?」
「但し、その為には貴方の協力が必要よ」



 冴子はキバットにその方法を説明する。



「ちょっと待て、俺にそれをやれっていうのか!?」
「少なくても貴方1匹が無鉄砲に突っ込むより可能性はあるわよ。それで出来るの? 出来ないの?」



 キバットは躊躇するものの、今にもサガに殺されそうな渡を見て、



「出来なくはねぇが……どうなっても知らねぇぞ……」
「じゃあ決まりね、早くしなさいあの子を助けたいんでしょ?」
「……くっ、テメーはいけ好かねぇが渡を助ける為には仕方ねぇ、その代わり絶対に渡を助けろよ!」
「善処するわ。それにもし上手く行ったら共闘している間は今後私のする事には逆らわない、それで良いわね」
「あぁ……本当はイヤだが状況が状況だ、仕方ねぇ飲んでやる」





 そう言って冴子の手を離れ、





「キバっていくぜぇぇぇぇぇ!!」





 その言葉と共に冴子の手の甲へと噛みつき魔皇力を注入していく。それと共に冴子にベルトが巻かれ、





「変身」





 冴子はキバットを手に取りバックルへと取り付ける。するとキバットから波動が放たれると共に冴子の姿がキバへと変化したのだ。
 そしてすぐさま緑のフエッスルをバックルにセットし、





「バッシャーマグナム!」





 その声と共にデイパックからバッシャーマグナムが飛び出しキバの右手に収まると共に右腕に上半身、そして複眼が変化し色も緑色のバッシャーフォームとなった。

 冴子の考えた作戦は、冴子自身がキバへと変身しその力で渡を救出しすぐさま離脱し、その後互いの道具を戻して再度変身を行いサガを撃破するというものだ。
 バッシャーフォームとなったのはタブードーパント変身時における光球による遠距離攻撃を冴子が得意とする為、遠距離攻撃に適したフォームをとったという事だ。



「それでも、今のキバじゃサガとやり合える程の力はねぇし、普通の人間がキバの力に耐えられるかまではわからねぇ、死ぬ事は無いと思うが長時間戦うのは無理だぜ」



 サガのスペックは魔皇竜タツロットの力で真の姿となったエンペラーフォームと同等、つまりタツロットが無いが故エンペラーフォームとなれず力を抑制されたキバではサガとやり合うのは厳しい。
 また、その強大すぎる力故暴発の危険を抱えたかつてのキバであるダークキバの反省を生かし今のキバはダークキバと比較して安全性は向上したものの強大な力を持つ事に違いはない。
 資質を持たないものがそうそう簡単に扱える代物ではない。



「私の事を心配してくれているの? いけ好かないんじゃなかったの?」
「そんなんじゃねぇ、俺様の力を使って死なれちゃ目覚めが悪いだけだ! 後から文句言われるのもイヤだしな」
「ふっ、余計な心配は無用よ、仮にもミュージアムの頂点に立つことになる私がその力に耐えられないワケがないわ。さっさとあの子を助け出しあの男を倒す、異論は無いわね」
「ああ」





 そう言って、渡を助けに向かおうとし――





 ――たものの、背後から何かが迫ってくるのが見えた。フィッシュアイ効果により前方240度の視界を確保出来るバッシャーでなければ気付けなかっただろう。





 すぐさまデイパックからエンジンブレードを取り出し振り向き、





「ほう、なかなかやるじゃねぇか」





 迫る斬撃を防いだ――目の前には冴子が知らない謎の戦士がいた。



「誰……まさかあの男の仲間?」
「俺は牙王だ。別にあいつは仲間じゃねぇ……獲物だ」



 その戦士は牙王が変身したガオウだった。
 アテも無く歩いていたらサガが渡を襲っているのを見つけガオウに変身して仕掛けようとしたら冴子がキバに変身したのが見えた。故にまずは手近なキバを喰らおうと奇襲をしかけたという事だ。



「獲物……まさか貴方1人で私達全員を相手にするつもり?」
「そうだ、全員俺が喰ってやる」
「出来るものならやってみなさい」



 ガオウの言葉にもキバは決して怯まない。
 だが、内心では、



「(マズイわね……あの子が殺されるのは時間の問題……それ自体はともかくタブーも失いかねないわ……かといってこの男が一筋縄ではいかないのも確か……)」



 焦りを感じていた。当初考えていたプランが潰されそうになっているのだ、焦って当然と言えよう。







 一方、



「何時までも逃げられると思うな」



 何度も飛び交うジャコーダーによる攻撃を渡はかわし続けていた。最初の一撃以降は何とかかわし続けているが疲労は蓄積される。
 執拗な攻撃はキバットを持つ冴子に気を回す余裕すら与えてくれず、更にはキバットが来る様子もない。
 時間が来ればあの時同様変身が解除されるだろうが、それまで保つとは思えない。

 その最中、渡は目の前の男に襲われる理由を考えていた。
 あの男の話では音也が真夜を奪ったという事らしい。それが意味する事は1つ、男は太牙の父親で真夜と太牙の仲を音也が引き裂いたという事だろう。
 真夜と音也の間に自分が生まれた事を踏まえるならば自分が真夜を奪ったという事もある意味では正解だ。
 つまり――



「僕が――僕さえ生まれなければ誰も不幸にならなかったの――」



 自分の存在そのものが全ての元凶と考えたのだ。自分さえ生まれなければ、深央を殺す事も無かった筈で全てが上手く行っていただろう。
 しかし今更自分が死んだ所で起こった事は戻らない。



「だったら――僕はどうしたら良いの――?」



 自身の存在を自ら呪う者は目的を見失いながら踊り続ける――







 そして、彼を今でも救おうとする相棒は――



「(くっ、このままコイツに構っていたら渡が危ねぇ……それに……)」



 少し離れた場所にはホテルが見える。



「(このまま戦いが続けばホテルから誰かがやって来る……これ以上ややこしい事になればそれこそどうなるかわからねぇ……どうすりゃいいんだよ……)」





 更なる混乱と闘争の予感に不安を感じていた――





 時刻は4時よりほんの数分前、





 戦いの円舞曲は決して終わる事はなく――





 むしろそのテンポを加速度的に上げて行こうとしていた――





【1日目 午後】
【C-6 平原】


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、返り血、加賀美の死にトラウマ、精神が不安定
【装備】ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
2:今は冴子と協力して参加者を減らす。
3:加賀美の死への強いトラウマ。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。


【キング@仮面ライダーキバ】
【時間軸】現代編/復活後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダーサガに変身中、バッドファンガイアに5分変身不可
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、不明支給品(0~1)、北岡の不明支給品(0~2)
【思考・状況】
1:目の前の渡を殺す。
2:ゲームに勝ち残り、真夜を再び自分の物にする。
3:先程戦った仮面ライダー達(クウガ、ディエンド、ナイト、草加、フィリップ)を殺す。
4:紅渡と紅音也を殺す。
【備考】
※ 制限によって、ライフエナジーを吸う牙は、一度に一人分しか現れません。
※ 再び現れるのに、時間が必要です(どの程度かは、後続の書き手さんにお任せします)


【園咲冴子@仮面ライダーW】
【時間軸】第16話終了後
【状態】左の太ももに刺し傷(応急処置済)、ダメージ(小)、仮面ライダーキババッシャーフォームに変身中
【装備】キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、加賀美の支給品0~1
【思考・状況】
1:この場を切り抜ける。
2:最後まで生き残り、元の世界に帰還する。
3:同じ世界の参加者に会った場合、価値がある者なら利用する。
4:今は渡と協力して参加者を減らす。
【備考】
※照井と井坂を知らない時期からの参戦です。
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。


【牙王@仮面ライダー電王】
【時間軸】:死亡後
【状態】:健康、仮面ライダーガオウに変身中
【装備】:ガオウベルト&マスターパス@仮面ライダー電王、ガイアメモリ(ホッパー) @仮面ライダーW
【道具】、支給品一式、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:目の前の3人を喰らう。
2:全ての参加者を喰らい、最後に大ショッカーも喰う。
3:変身が解除されたことによる、疑問。



046:Kの名を胸に刻め/闇に消える光 投下順 048:嘆きの龍騎
046:Kの名を胸に刻め/闇に消える光 時系列順 048:嘆きの龍騎
032:カンタータ・オルビス 紅渡 065:魔皇新生♪ルーツ・オブ・ザ・キング(前編)
032:カンタータ・オルビス 園咲冴子 065:魔皇新生♪ルーツ・オブ・ザ・キング(前編)
020:巡り会う世界 牙王 065:魔皇新生♪ルーツ・オブ・ザ・キング(前編)
039:究極の幕開け キング 065:魔皇新生♪ルーツ・オブ・ザ・キング(前編)