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強魔(前編)◆LuuKRM2PEg



EPISODE53 『強魔』


『クウガの世界』における、人類の脅威。
人々から未確認生命体と呼ばれた、戦闘民族グロンギ。
人類に極めて近い身体の構造を持つものの、決定的に違う部分を持つ。
極めて高い残虐性と、闘争本能。
それに従って、数え切れないほどの命をゲームのように、奪った。
暴力を好む、邪悪なるもの。
遥か古代、クウガによって封印されたが、王によって二百体余りのグロンギが現代に蘇った。
その中でも、特に高い能力を持つグロンギ達が、殺し合いの会場に呼び出される。
破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バ。
究極の闇をもたらす者、ン・ダグバ・ゼバ。
そしてもう一体、世界の命運を賭けた殺し合いに参加したグロンギがいる。
しかし、その者はこの二人と比べると、圧倒的に力が不足していた。
それどころか、グロンギ族の中でも戦闘能力は低い。
ズ一族のグロンギ、未確認生命体第3号。
ズ・ゴオマ・グ。
本来ならば、ズの中でも底辺に値するほどの、力しか持たない。
だがある時、ラ・バルバ・デからダグバのベルトの破片を回収するという、命を受けた。
その時、ゴオマは破片を己の身体に取り込んで、強大な力を手に入れる。
金の力を手に入れたクウガを、凌駕するほどの力を。
理由は、ダグバに反旗を翻すため。
王は『整理』と称して、メやズのグロンギを虐殺していた。
ゴ集団の中でも、相当の実力者であるゴ・バダー・バが、クウガに敗れたため。
ならば、それより弱いグロンギなど必要ない。
当然、ゴオマは納得など出来なかった。
故にダグバのベルトを己の身体に取り込み、王に挑もうとする。
しかしその矢先に、大ショッカーによってこの戦いに放り込まれた。
そんなゴオマの行く先は。






D-1エリアに存在する、病院。
清潔感溢れる建物の一室に、二つの人影があった。
床から天井、部屋を支えている柱、そして窓際にかけられたカーテンまでもが、白で構成されている。
無人であるはずなのに、汚れどころか埃一つたりとも見られない。

「よし…………と!」

津上翔一は、背負っていた黒いコートを身に纏っている、屈強な男をベッドに下ろす。
赤い鬼を思わせる風貌のアンノウンとの戦いで、怪我をしたと思われる不完全なアギト。
逞しそうな体のあちこちに、酷い傷が刻まれている。
ここに男を連れてくるまでに、翔一に疲労が溜まっていた。
しかし、休んでいる暇など無い。

(この人も、姉さんや可奈さんと同じだ……)

翔一の脳裏に、二人の女性の姿が思い浮かぶ。
たった一人の姉、沢木雪菜。
本当の『津上翔一』である沢木哲也の恋人だった彼女は、望まないアギトの力を手に入れてしまった。
それが暴走して人を殺してしまい、自らに絶望して命を絶ってしまう。
そしてもう一人は、岡村可奈。
かつて、自分と同じレストランでアルバイトをしていた彼女もまた、アギトの力を持っていた。
無論、雪菜の時のように自殺を図ろうとする。
しかし今度は違った。
自分と哲也が力を合わせて、可奈に生きる希望を与えた。
だから今度も、アギトである自分がやらなければならない。

(それにしても酷いな……アンノウンから追われるだけじゃなくて、こんな戦いに連れてこられるなんて)

アギトの力を持つ人間は、アンノウンに命を狙われる。
そうなったら、恐怖でまともに毎日を過ごせない。
それだけでなく、この人はこんな殺し合いに放り込まれた。
ならば、錯乱状態になってもおかしくない。

「おい、翔一」

大ショッカーとアンノウンへの憤りを感じていると、渋みのある声が聞こえる。
翔一は振り向くと、黒い蝙蝠が羽根をばたつかせているのが見えた。
キバットバットⅡ世は、その赤い瞳を輝かせている。

「この男は俺が見ておこう……お前は早く探してこい」
「分かったよキバット、ありがとう!」

翔一は朗らかな笑みを見せた。
そのままキバットに背を向けて、病室から飛び出す。
廊下は薄暗く、太陽の光が窓から差し込んでも、不気味な雰囲気を醸し出したままだった。
しかし翔一には、この程度は何てこともない。
眠りにつくアギトを助けるため、彼はリノリウムの床を駆け抜ける。


この時、翔一は気づかなかった。
病院の中に、侵入者がいることを。
知らぬ間にその人物と、入れ違いになってしまったことを。








桐生豪は、人気のない病院の廊下を歩いている。
先程の戦いによる、疲労を癒していた時だった。
何処からか、足音のような物が聞こえてくる。
桐生は辺りに警戒しながら、ゆっくりと近づいた。
すると、話し声と床を走るような音が連続で聞こえてくる。
それを耳にした直後、桐生の精神が一気に高ぶった。
この病院には、参加者がいる。
かつての後輩である橘朔也か、それとも違う奴か。
だがどちらにせよ関係ない。
参加者がいるなら、潰せば良いだけだ。

(…………やはり、不意打ちをするにしても使い慣れたレンゲルだな)

桐生は、同じ世界の参加者である金居との戦いを思い出す。
ただの優男かと思ったが、その正体は自分の敵であるアンデッド。
しかも、上級アンデッドの一体であるカテゴリーキングだった。
城戸真司と小沢澄子の時もそう。
初めて見るガイアメモリという道具を使って、不意打ちを仕掛けたが失敗に終わった。
やはりここは、慣れたレンゲルで戦うのが一番。
桐生はドアの前で止まり、懐に手を伸ばす。
右手には、クラブのカテゴリーAに値するアンデッド、スパイダーアンデッドが封印されているラウズカードを。
左手には、黄金色に輝くレンゲルバックルを。
それぞれ手にした。
レンゲルバックルの中にラウズカードを入れて、腰に添える。
濁った音が辺りに響く中、バックルよりカードが飛び出してきた。
それはベルトとなるように、桐生の腰へ巻き付いていく。
そのまま彼は、バックルのレバーを引きながら呟いた。

「変身」
『OPEN UP』

電子音と同時に、蜘蛛の紋章が刻まれた青いゲートが、桐生の前に現れる。
彼はその中を潜り、変身を果たした。
緑と金の二色に輝く装甲、紫色の双眼、額より伸びた銀色に煌めく二本の角。
ビーコックアンデッドである伊坂が、烏丸 啓を初めとした研究者達を操って、完成させた『究極のライダーシステム』
仮面ライダーレンゲルへと、桐生豪は姿を変えていた。






「………グッ」

ズ・ゴオマ・グは、呻き声を漏らす。
身体の節々に倦怠感を感じながら、瞼を開いた。
視界の先に見えるのは、純白の天井。
何事かと思いながら、ゴオマは体を起こす。
周囲を見渡した先には、白で満ちていた。
壁、カーテン、ドア。
そして、自分が寝ていたと思われるベッドまでもが、白かった。
直後、ゴオマの中で疑問が芽生える。
ここはどこなのか。
何故自分はこのようなところにいるのか。
ゴオマは自らの記憶を探る。
まず、あの廃工場で赤い鬼と戦い、殺した。
その後に、黒い蝙蝠が連れてきたグロンギの宿敵、クウガと戦った。
そこからの記憶が、全くない。

「ほう、目覚めたようだな」
「ん?」

思案に耽っているところに、聞き覚えのある声がする。
振り向くと、一匹の蝙蝠が目の前で飛んでいた。
先程、廃工場までクウガを連れてきたキバットバットⅡ世。
そんな彼に対して、ゴオマは嫌いなリントの言葉で質問した。

「何処だ、ここは」
「ここは病院だ……お前はあの男によって、ここまで背負われていた」
「背負われていた…………だと?」

淡々と告げるキバットの言葉を聞いて、ゴオマは憤りを感じる。
その言葉が正しければ、自分はクウガに助けられた。
グロンギより圧倒的に劣る、リントに。
戦いに負けただけ無く、情けまでもかけられる。
その事実が、ゴオマの無駄に高いプライドを傷つけた。

「あの男に感謝するのだな……あのままでは、お前はのたれ死になっていただろう」
「何……ッ!?」

しかし、キバットはそんな心境など全く知らずに、言葉を続ける。
するとゴオマの中で、怒りが一気に沸き上がった。
いくら同じ蝙蝠とは言え、こうまで言われて黙っているわけにはいかない。
無論、キバットに侮辱するような意図は一切無かった。
だがゴオマは、それを酌み取る心を持ち合わせていない。
気がつくと、身体の疲れと痛みがある程度癒されていた。
体内に埋め込まれた、ベルトの破片による効果だが、彼は気にかけない。
キバットを捻り潰す為に、ゴオマはベッドより立ち上がろうとした。

『OPEN UP』

すると、何処からともなく声が聞こえる。
その直後、轟音と共に部屋のドアが破壊された。
それに反応し、ゴオマとキバットは振り向く。
ドアが床の上を跳ねる中、部屋の外から侵入者が現れる。
緑と金色の装甲に身を包んだ、謎の人物が立っていた。

「…………フン、やはり怪我人か」

二本の角が伸びた仮面から、男の声が聞こえる。
恐らく、それなりに高い年齢かもしれない。
レンゲルという名前を持つが、それを知るのは誰もいなかった。

「何だお前は? 俺達に…………グオッ!?」

キバットは講義しようとするが、途中で言葉が遮られてしまう。
レンゲルがその手に持っている杖、醒杖レンゲルラウザーによって横薙ぎに叩かれた為。
その衝撃を受けたキバットは、勢いよく顔面から壁に叩きつけられてしまった。
彼はそのまま、滑り落ちるように床へ落下する。
そんなキバットの様子など目もくれず、レンゲルは口を開いた。

「誰だろうと構わん……俺と戦え」

刹那、ゴオマの感情は高ぶっていく。
リントに助けられたという屈辱も。
自身が蔑まれたことによる怒りも。
レンゲルが現れたことによって、全てが払拭された。

「いいだろう……!」

邪悪な笑みを、レンゲルに向ける。
するとゴオマの体は、音を立てながら形が変わり始めた。
輪郭は歪み、黒いスーツの下から肉体が盛り上がっていく。
瞬時に、その体は異形へと変わっていった。
蝙蝠を思わせるような不気味な顔面、後頭部より流れる長髪、異様に発達した黒い肉体、両腕に備わった巨大な翼。
警察から『未確認生命体第3号』と称された怪人、ズ・ゴオマ・グの真の姿。
究極体と呼ばれる形態に、なっていた。

「貴様……アンデッドか? ならば、俺が封印してやろう!」

姿を変えたゴオマを見て、レンゲルは巨大な杖を振るう。
その先端は、敵の巨体を吹き飛ばすかのように思えた。
だが、それは届かない。

「ッ!?」

レンゲルは目の前の光景を、疑っていた。
勢いよく振るったレンゲルラウザーが、ゴオマに止められている。
しかも、片手の指五本だけで。
レンゲルは力を込めて、ゴオマの手を振り解こうとした。
だが、全く動かない。
まるで拘束具で、固く縛り付けられたかのようだ。
やがてレンゲルは苛立ちを感じて、反対側の手で殴ろうとする。

「ジョパギ、バ (弱い、な)」

しかし、その一撃も届かなかった。
ゴオマの声が聞こえた瞬間、視界が大きく揺れる。
それと同時に、レンゲルの身体は勢いよく床に倒れた。
脳が大きく揺れるのを感じる。
敵に殴られたと察知するのに、時間は必要なかった。
レンゲルラウザーを支えにして、彼は立ち上がろうとする。
その瞬間、首が締め付けられるのを感じ、身体が浮かび上がった。

「グ…………アッ!」
「チョグゾ、ギギ (ちょうど、いい)」

仮面の下から、呻き声が漏れる。
ゴオマは片手一本だけで、レンゲルの巨体を持ち上げていたのだ。
その手に込める力を、次第に強くする。
首の下から、メリメリと奇妙な音が鳴り始めた。
レンゲルは抵抗しようとするも、地に足がついていない状態ではロクに出来ない。
そんな反応に満足感を感じて、ゴオマは笑みを浮かべる。
弱者を蹂躙する、自身の圧倒的な力。
それによって、悶え苦しむリント。
この男の命を握っているのは、自分。
生きるも死ぬも、自身の思うがままだ。
ならば、もっと苦しめてやるのも悪くない。
身の程を知らないリントには、当然の報いだ。
ゴオマは、部屋の窓ガラスに目を向ける。

「ダアッ!」

そのまま勢いよく、レンゲルの身体を投げつけた。
凄まじい腕力に抗う事が出来ず、そのまま窓に激突する。
ガラスが割れる高い音と共に、レンゲルは外に放り込まれていった。

「うおおおぉぉぉぉぉっ!」

破片と共に、悲鳴が落下していく。
重力に引きつけられたレンゲルの身体は、勢いよく地面にぶつかった。
そんな彼を追うために、ゴオマも割れたガラスから飛び出す。
そのままレンゲルのすぐ近くに、着地した。
倒れた仮面ライダーを見下ろしながら、無防備な脇腹を目がけて蹴りを放つ。

「フンッ!」
「ぐおっ!」

レンゲルは悲鳴を漏らした。
その声にゴオマは充足感を感じて、追撃を加える。
一度蹴られるたびに、レンゲルの装甲に不自然な凹みが生じて、火花が飛び散った。
衝撃が鎧を通じて、中にいる桐生の身体に襲いかかる。
しかし、ゴオマの攻撃が止まる事はない。
異様に発達した足による蹴りが、レンゲルに反撃する余地を奪っていた。
やがてゴオマは、ボールのように彼の身体にキックを放つ。
それによって、レンゲルは軽々と吹き飛ばされ、背中からコンクリートの壁に叩き付けられた。
彼は固い地面に落下するも、すぐに体勢を立て直す。
そして脇腹に備え付けられたホルダーより、二枚のラウズカードを取り出した。
レンゲルはそれを、レンゲルラウザーに読み込ませる。

『BITE』

一枚目。コブラアンデッドが封印されたクラブのカード、バイト。

『BLIZZARD』

二枚目。ポーラーアンデッドが封印されたクラブのカード、ブリザード。

『BLIZZARD CRUSH』

カードコンボ、ブリザードクラッシュの準備は整った。
アンデッドの力が、レンゲルの中に駆け巡る。
それを知らせる音声が、レンゲルラウザーから発せられた。
レンゲルは、勢いよく跳躍する。
そして空中で両足を、ゴオマに向けた。
眼下の敵に向かって、足の裏から膨大なる吹雪が放出される。
自らの身体をドリルのように、レンゲルは高速回転させた。

「ヌオオオオォォォォォォッ!」

咆吼と共に、ゴオマとの距離は縮んでいく。
両足から発せられる冷気は、異形の皮膚に突き刺さった。
そして、回転するレンゲルの両足は、グロンギに到達しようとする。
対するゴオマは、両腕を目前で交錯させた。
回避行動も取ろうとせずに。
その様子に、動揺と言ったものは一切感じられなかった。
刹那、レンゲルの足とゴオマの腕が衝突する。
轟音が響き渡り、コンクリートの地面が沈み込んだ。

「オオオオオオォォォォッ!」

勢いを保ったまま、レンゲルはゴオマを潰そうと体重をかける。
ブリザードクラッシュのAPは、2400。
重量に換算すると、24トンもの威力を誇っている。
これだけの重さならば、敵はひとたまりもない。
レンゲルは自らの勝利を、心中で確信する。
その直後だった。

「ハアアァァッ!」

突如、咆吼が聞こえる。
その直後、レンゲルの視界は揺らぎ、体勢が一気に崩れ落ちた。
回転の勢いが制止された途端、彼の身体は吹き飛ばされていく。
目の前に、赤みの増した空が見えた。
途端、レンゲルは地面へ叩き付けられていく。

「グハッ!」

痛々しい悲鳴が、仮面より漏れた。
レンゲルが力押しに負けた理由。
ゴオマの腕力が、ブリザードクラッシュを押し返す程に強い。
それはごく単純で、シンプルな物だった。
しかし、本来ならば同じ状況に陥ったとしても、レンゲルに分があったかもしれない。
だが、今のゴオマはごく一部とは言え、究極の力をその身に取り込んでいる。
それは金の力を手に入れたクウガすらも、圧倒するほど。
よって、ブリザードクラッシュを弾き返しても、何らおかしくはない。
無論、レンゲルにそれを知る由はなかった。
この怪物は強い。
先程戦った、カテゴリーキングに迫る程かもしれない。
微かな戦慄を覚える中、既にゴオマは目前にまで迫っていた。
レンゲルは反撃しようと見上げるが、もう遅い。

「ボンゾパ ゴセン ダンザ (今度は、俺の番だ)」

ゴオマは嘲笑うように呟く。
右足を彼は振り上げて、勢いよく下ろす。
立ち上がろうとしたレンゲルは、蹴りによって再び倒れた。
そんな彼に目がけて、ゴオマは攻撃を続ける。
一発目の蹴りは、胸板に。
二発目の蹴りは、脇腹に。
三発目の蹴りは、太股に。
四発目の蹴りは、腹部に。
五発目の蹴りは、肩に。
一度打ち込まれるたびに、レンゲルの装甲から血液のように、火花が飛び散った。
その度に抵抗が弱くなるのを見て、ゴオマは更に力を込める。
そしてレンゲルの上に馬乗りになって、顔面に握り拳を叩き込んだ。

「フンッ!」

ゴオマは、レンゲルを殴る。

「グウッ!」

レンゲルは、ゴオマに殴られる。

「ダアッ!」

ゴオマは、レンゲルに拳を振るう。

「ガアッ!」

レンゲルは、ゴオマに殴られて悲鳴を漏らす。
もはや、これは戦いと呼べる光景ではなかった。
ここにあるのは、ただの一方的ななぶり殺し。
片方が憂さを晴らすために、もう片方に暴力を振るう。
古来より数え切れないほど行われた、残虐な所為。
グロンギという種族を象徴するような、凶暴性がそこに感じられた。
やがて何度目になるか分からない、暴力の後。
ついに、レンゲルの鎧が限界を迎えてしまった。
装甲を構成する物質は、分解する。
それによって、資格者である桐生豪の生身が晒されてしまった。
だが、ゴオマはそれに気を止めるようなお人好しではない。

「き、貴様…………ッ!」

蚊の鳴くように弱々しい声が、喉から漏れる。
それが桐生豪の、この世に残す最後の言葉となってしまった。
ゴオマは、顔面を目がけて拳を叩き込む。
肉が潰れる、鈍い音が響いた。
この一撃によって、鼻骨が一気に沈んでいく。
続くように、ゴオマは顔の各部を潰していった。
額、両眼、耳、頬、首、頭部。
グロンギの圧倒的力ならば、この程度は容易い。
ゴオマの攻撃によって、桐生の身体は痙攣を起こす。
しかしそれも、すぐに止まってしまった。

「ボセゼ、ズダシレバ (これで、二人目か……)」

両手に血の生暖かい感触を感じながら、ゴオマは笑みを浮かべる。
また一つ、ゲゲルのスコアを上げた。
吹雪を伴った先程の蹴りを受けて、ほんの少しだけ腕に痛みを感じる。
だが、それだけ。
究極の力を手に入れた自分には、敵ではなかった。
物言わぬ屍となった桐生から離れた途端、ゴオマの身体に変化が起こる。
瞬く間に、脆弱なリントを模したような姿に、変わってしまった。
しかし、ゴオマは特に気に止めない。
彼は、桐生の遺品であるデイバッグとレンゲルバックルを手に取った。
どうやら、このゲゲルでは自身の能力が思うように使えない、ルールがあるらしい。
数度に渡る戦いで、ゴオマはそれを感じ取った。
ならば、戦うための道具は多いに越した事がない。
そして、ゴオマの関心を引く支給品がもう一つあった。
廃工場で繰り広げた戦いの時に使った、スミドロン・ドーパントに変身する為の道具とよく似た物。
アイスエイジ・ドーパントの記憶が込められた、ガイアメモリが彼の手に握られていた。

「ガセド、ビダジョグバゾググバ  (あれと、似たような道具か)」

その形から、ゴオマは判断する。
強大なる力の代償に、凄まじい疲労を残すガイアメモリの一種。
戦えるのは有り難いが、使うタイミングを見極めなければならない。

(戦え……戦え)

その直後、ゴオマの脳裏に声が聞こえた。
地の底から響くような、低い声。
それによって、彼の思考は一瞬で彼方へと消え去った。
何事かと思い、ゴオマは周囲を見渡す。
しかし、敵の気配は感じられない。
気のせいだと感じたゴオマは、病院に目を向けた。
この中には、宿敵のクウガに酷似したリントの戦士がいる。
ならば、潰さないわけにはいかない。
ゴオマは、病院に戻ろうとした。

「…………ん?」

だが、その足はすぐに止まる。
すぐ近くで、話し声のような物が聞こえたため。
ここより少し距離が離れているが、グロンギの卓越した聴覚を持ってすれば、察知する事など容易い。
耳を澄ませれば、どうやら集団のようだ。
それを察したゴオマの行動は、決まる。
近くにいると思われる集団を、この手で潰すこと。

(戦え…………戦え!)

頭の中に、再びあの低い声が聞こえる。
だが、ゴオマはそれに気を止めない。
ガイアメモリを手にしながら、己の本能のまま足を進めた。
更なる参加者と戦い、ゲゲルに勝ち残るために。
自分自身が、レンゲルバックルに封印された、アンデッドに支配されている事を知らずに。
クラブスートのカテゴリーA、スパイダーアンデッドの猛毒は、ゴオマの精神を確実に蝕んでいた。



052:時(いま)を越えて… 投下順 053:強魔(中編)
043:太陽と天候 時系列順 053:強魔(中編)
042:三様 津上翔一 053:強魔(中編)
042:三様 ズ・ゴオマ・グ 053:強魔(中編)
048:嘆きの龍騎 桐生豪 053:強魔(中編)
048:嘆きの龍騎 城戸真司 053:強魔(中編)
048:嘆きの龍騎 小沢澄子 053:強魔(中編)
044:Rの定義/心に響く声 一条薫 053:強魔(中編)
044:Rの定義/心に響く声 照井竜 053:強魔(中編)
044:Rの定義/心に響く声 間宮麗奈 053:強魔(中編)
044:Rの定義/心に響く声 桐矢京介 053:強魔(中編)
040:Try-Action Delta form 三原修二 053:強魔(中編)
040:Try-Action Delta form リュウタロス 053:強魔(中編)