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強魔(中編)◆LuuKRM2PEg





微かな光だけが差し込む廊下を、翔一は駆け抜けている。
その手に、多数の医薬品が入ったケースを抱え込みながら。
飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブス。
人を助けるために用いられる、様々な道具が彼のデイバッグに収まっていた。
無論、足元や振動に気を配っている。
不用意なミスで、駄目にしてしまっては本末転倒だ。

(やっぱり、もっと持ってくればよかったかな……いや、足りなかったらまた取りに行けばいいか)

翔一に、医学の知識など一切持ち合わせていない。
同じ世界から呼び出されている木野薫なら、同じ状況に陥っても難なく解決するだろう。
しかしそれは、彼が一流の医者だからだ。
ただの料理人にすぎない自分では、出来る事は限られている。
それでも、放っておくことなど出来ない。
今はアギトの力を持ってしまった人を、助けることだけを考えよう。
その思いを胸に、翔一は病室を目指した。

「なっ…………!」

だが直後、彼は絶句したような表情を浮かべる。
先ほどまであった筈のドアが、無い。
それだけでなく、病室が荒れ果てていた。
窓ガラスは割られ、カーテンは千切れ、床には不自然な傷跡がいくつも刻まれている。
しかし、それらは翔一の関心を引き付けることは出来なかった。
彼がいない。
ここまで連れて来たはずの、アギトがいない。

「くう…………っ」

気づいた直後、微かな呻き声が聞こえる。
反射的に、翔一は振り向いた。
見ると、アギトを見守っていたはずのキバットが、床に倒れている。
すぐさま翔一は、彼の元に駆け寄った。

「キバット、キバット! 大丈夫ですか!?」
「翔一…………か?」
「しっかりしてください! 一体何が!?」

動揺したように、キバットへ訪ねる。
訪ねられた彼は、苦痛に耐えながら口を開いた。

「お前と入れ違うように、妙な奴が現れた……恐らく、この殺し合いに乗っているだろう」
「あのアギトの人は!?」
「分からない……俺としたことが、不覚を受けてしまった」
「そんなっ……!」

直後、翔一は愕然とした表情を浮かべて、両足が地面に落ちてしまう。
自分が手間取ったせいで、怪我をした人が消えてしまった。
この殺し合いに乗っている人が現れて、キバットが酷い目にあった。
自身の行動の愚かさを。
自分が遅れたせいで、同じアギトを助けられなかったことを。
罪悪感と自責の念が、彼の心に広がっていく。

「おい、翔一!」

二つの思いに押し潰されそうになった途端、声が聞こえた。
振り向いた先では、キバットが目の前で羽ばたいている。

「恐らく、まだそう遠くまで行ってないはずだ! 探すぞ!」
「そうだった、早く探さないと!」

後悔に潰されそうになった翔一は、力が戻った。
今はここで潰れている場合じゃない。
攫われた男の人を、助けることだ。
あの怪我では、どうなるか分からない。
翔一は己に活を入れて、キバットと共に病室から出た。


【1日目 夕方】
【D-1】


【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康、罪悪感 
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー
2:殺し合いはさせない
3:キバットと一緒にあの男性(ゴオマ) を探しに行く。
4:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:木野さんと会ったらどうしよう?
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※ゴオマを「不完全なアギトに覚醒した男」、モモタロスを「アンノウン」と認識しています。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。




D-2エリアの住宅街。
城戸真司の心は、未だに揺れ動いていた。
先程戦った、吹雪を放つ謎の怪物が持っていた、デイバッグ。
その中より出てきた、てるてる坊主を見た事によって、彼は動揺していた。
神崎士郎を主催としたライダーバトルの原因は、自分にある事。
神崎結衣との約束を反故した為、悲劇が生まれてしまった事。
全ての元凶は、自分である事。
真司の心に、罪悪感が広がっていく。
それによって彼の表情は、未だに暗いままだった。

「城戸君」

そんな姿に見かねた小沢澄子は、溜息とともに口を開く。
顔を上げた真司に、彼女は厳しい視線を向けた。

「事情は分かったわ。貴方がライダーバトルとか言う奴の、元凶かもしれないって」
「かもしれないじゃなくて、本当に――」
「でも、今はそれを悔やんでいる場合?」

後悔に満ちた言葉を、小沢は遮る。

「落ち着いて。ここで後悔したって、何にもならないわ…………今やるべきことは、こんな馬鹿げた戦いを止めることよ」
「それはそうですけど……」
「なら、シャキッとしなさい。そんな状態だと、何も変える事は出来ないわ」

真摯な表情で、真司を咎めた。
後悔する気持ちは、小沢にも理解できる。
自分の行動によって、多くの悲劇が生まれてしまった。
そうなってしまっては、誰だって悲しみに沈む。
だが、今はそんな場合ではない。
過去を悔やむ事は、いつだって出来る。
そして、それをやり直す事も。
そんな小沢の思いを察したのか、真司の顔に覇気が戻る。
先程の暗い表情が、まるで嘘のように。

「そうですね……すいません、こんな時に」
「後悔する事なんて、いつだって出来るわ……大切なのは、これからどうやって生きるかを考える事よ」
「はい!」

真司は力強く、小沢に返した。
まだ、彼の心には罪悪感が残っている。
しかし小沢が言うように、今はそれに溺れている場合ではない。
そんなことでは、戦いを止める事は出来ないし、大ショッカーの思う壺だ。

「わかってくれれば…………ん?」

それでいい。
そう続けようとした小沢は、口を閉じた。

「どうしたんですか……」
「静かに」

怪訝に思った真司の言葉を、彼女は小声で遮る。
そのまま、耳を澄ませた。
どこからともなく、音が聞こえてくる。
金属同士がぶつかる、鋭い音。
男性の声と思われる、英単語。
そして、何かが砕けるような鈍い音。
それらは小沢だけでなく、真司の鼓膜にも入ってきた。
この近くで戦いが起こっている事を、二人は瞬時に察する。
直後、大きな叫びも聞こえてきた。

「城戸君!」
「わかりました!」

真司と小沢は、すぐに走り出す。
近くで起こっている戦いを止めるために。
そして、こんな悲劇を少しでも抑えるために。




時計の針は、少しだけ戻る。
E-2エリアに位置する、とある住宅街。
人々の声や、車の交通による騒音は、一切聞こえてこない。
まるでゴーストタウンを思わせる程の静寂が、辺りに広がっていた。
加えて、夕暮れによって空の明るさは徐々に減っていく。
沈んでいく太陽も、不気味さを引き立てるスパイスとなっていた。
その中を、四人の人物が歩いている。
戦闘を進む照井竜は、周囲の警戒を強めていた。
時計の針は、既に夕方の時間を差している。
そして赤みがかった空も、段々と暗くなっていた。
こんな戦場で、視界が効かなくなるのは正直言って、拙い。
殺し合いに乗った奴に、暗闇から襲撃を受ける可能性もある。

(おまけに、戦力として期待できるのが俺を含めて二人とは……)

照井は、後ろを歩く三人の方に意識を向けた。
別世界の刑事である、一条薫。
鬼と呼ばれる『仮面ライダー』となって魔化魍という化け物と戦う少年、桐谷京介。
ただの一般人と思われる女性、間宮麗奈。
刑事である一条は、それなりの体力や戦術はあるだろう。
だが、この場ではあまり期待できない。
この狭い世界の中には、ドーパントのような超人的腕力を持つ者が、大勢いるだろう。
そんな奴の前では、普通の刑事では赤子に等しい。
京介は、話が本当ならそれなりに期待できる。
しかし彼は、まだ若い。
そんな少年に、大人である自分が縋ってどうする。
万が一戦う状況に陥ったとしても、そこまで前面に出させてはいけない。
麗奈は論外だ。
彼女は、自分達警察官が守るべき一市民。
何が何でも、守らなければならない。

「一条、後ろはどうだ?」
「今のところ、足音などは聞こえてきません」
「そうか」

照井は、一番後ろの警戒を固めている一条と、軽い質疑を交わす。
そんな彼らの間では、怯えている麗奈を京介が励ましていた。
一般市民二人を、刑事二人が守るような体勢で、四人は歩いている。
体勢としては、当然の物だった。

「…………ん?」

その最中、照井は前方から一つの人影が近づいてくるのを、見つける。
距離が迫るごとに、その姿がはっきりと見えてきた。
見たところ、高い背丈を黒いコートで包んでいる、男性。
その体格は、引き締まっているように見えた。
年齢は、二十代から三十代の間かもしれない。
照井がそんな事を推測していると、男は足を止める。
それに合わせるかのように、四人も足を止めた。

(…………何だ?)

不意に、照井の中で疑問が芽生える。
男の表情に、目を向けた事によって。
そこにあるのは、笑顔だった。
獰猛な獣が、獲物を見つけたときに浮かべるような、不気味な笑み。
それを見た照井の中で、違和感が更に強くなった。
だが、考えても仕方がない。
照井は声をかけようと、一歩前に出ようとした。

「Bー2号!?」

その直後。
背後より、驚愕の声が聞こえる。
それを聞いて、照井は反射的に振り向いた。
見ると、一条がAK-47 カラシニコフを構えている。

「一条、何を――!」
『ICEAGE』

照井の声は、遮られた。
後ろから聞こえる、電子音声によって。
聞き覚えのあるそれを聞いて、照井は再び前を向いた。
直後、彼の目は驚愕で見開かれる。
男の手に、照井がよく知る道具が握られていたため。

「ガイアメモリ……だと!?」

そう。自身の世界で流通されている、USBメモリーの形をした町を泣かせる悪魔。
秘密結社ミュージアムが開発している、ガイアメモリ。
しかも、自分がつい最近破壊した、アイスエイジ・ドーパントの力が封印されたメモリだ。
男はそれを、自らの首筋に突き刺す。
照井の行動は、決まっていた。

「敵襲だ、一条!」

彼は無意識のうちに叫ぶ。
そのまま、後ろに立つ桐谷と麗奈の首筋を掴み、横へ飛んだ。
刹那、彼らが立っていた位置の道路に、急激な冷気が通り過ぎる。
それによって、辺りが一瞬で凍り付いた。

「うわっ!?」
「キャアッ!」

京介と麗奈の悲鳴が聞こえる。
それに構わず、照井はすぐさま民家のドアを突き破り、玄関へ飛び込んだ。
三人の後をついてきたかのように、一条も姿を現す。

「照井さん。ガイアメモリと言いますと、あれは貴方の世界で人々に危害を加えていた……」
「そう、ドーパントだ。一条、お前の反応からすると奴は未確認生命体とやらで間違えないのか?」
「ええ、奴は我々の世界では『B-2号』や『第3号』と呼ばれていました」

二人の刑事は、先程交換した情報から襲撃者の正体を、一瞬で推測した。
まず、現れた男の正体。
それは一条の住む『クウガの世界』で、人々をある一定の法則性に従って殺した、未確認生命体。
そして未確認が使ったのが、照井の生きる『Wの世界』に流通していた機械、ガイアメモリ。
現れた敵は、ガイアメモリを使ってドーパントとなり、自分達に襲いかかってきた。

「しかし妙だ……奴は既に死んだはずだ。まさか、よく似ている別人……?」
「その究明は後だ。ガイアメモリを使っているなら、奴が危険人物である事は間違いない」

一条が疑問を口にするが、照井は遮る。
しかし彼自身、腑に落ちない点があった。
あの未確認生命体が持っているガイアメモリは、既にブレイク済み。
それなのに何故、ここにあるのか。
加えて、一条は未確認が既に死んでいると語っている。
疑惑が増えるが、今はそれどころではない。
照井はデイバッグから、バイクのスロットルを象ったようなベルト、アクセルドライバーを取り出す。
それを腰に添えると、ドライバーが一瞬で腰へ巻き付かれた。

「一体、何を……?」
「一条、お前はここで二人を守れ。奴は俺が倒す」

照井は一条に告げると、バッグからアクセルメモリを取り出す。
彼は敵に立ち向かうために、家の外へ出た。
目の前には案の定、白い異形が殺気を向けている。
顔面はホッケーマスクに酷似した形で、全身からヤマアラシのように体毛が突き出していた。
氷河期の記憶を持つドーパント、アイスエイジ・ドーパント。
戦いを経験したとはいえ、油断は禁物。
そう思いながら彼は、アクセルメモリを懐より取り出した。

『ACCEL』

スイッチを押すと、メモリから高い音声が発せられる。
それを耳に感じた彼は、腕に力を込めながら、口を開いた。

「変……身ッ!」

手に取ったアクセルメモリを、ドライバーの上部に差し込む。
すると、ベルトの中央が赤く輝いた。
照井はアクセルドライバーのパワースロットルを、手前に捻る。

『ACCEL』

それによって、乗り物のエンジンが轟くような音と共に、復唱された。
Wのメモリの持ち主に対する、復讐を果たす力の名前が。
アクセルメモリから、ドライバーを通じてパワーが流れ込むのを感じる。
直後、照井の目前に真紅の破片が現れ、身体を覆った。
それは、一瞬の内に鎧へと変貌する。
青い輝きを放つ両眼、額から伸びるAの形を象った銀色の角、炎のような赤さを持つ装甲。
謎の女、シュラウドよりもたらされた、疾走の名を持つ戦士。
仮面ライダーアクセルへと、照井竜は姿を変えた。

「さあ……振り切るぜ!」

アイスエイジ・ドーパントと対峙しながら、アクセルは力強く告げる。
そのまま、地面を蹴って疾走を開始した。
頼れる武器とも呼べるエンジンブレードは、この手にはない。
しかし、それでも負けるつもりはなかった。
この程度の危機を乗り越えられないようでは、目的を果たせない。
自分から全てを奪った、Wのメモリを持つ男への復讐。
その思いを胸に、アクセルは拳を振るった。

「ダアッ!」

顔も知らぬ者への、憎悪が込められた一撃。
真っ直ぐに突き進むそれは、敵の身体に強く当たった。
アイスエイジ・ドーパントは一撃を受けて、微かな呻き声を漏らす。
蹌踉めくが、すぐに足元を立て直した。
すぐさま反撃の為に、両腕を前に突き出す。
それを見て、アクセルは横に飛んだ。
直後、敵の掌から膨大なる冷気が煙のように噴出する。

「チッ!」

アイスエイジ・ドーパントは舌打ちをしながら、腕の向きを変えた。
しかし、放たれる冷気はアクセルの身体に掠りもしない。
彼はこの会場に連れてこられる前、アイスエイジ・ドーパントを倒した事がある。
その経験があって、冷気への対処法が学ばれていた。
だが、それを『今』のアイスエイジ・ドーパントが知る由はない。
ここにある事実は、獲物が手にかからないと言う事のみ。
それに苛立ちを覚えて、煙の流れを止めて突進した。
先程のお返しをするように、アイスエイジ・ドーパントは剛拳を振るう。
しかしアクセルは、身体を捻って敵の横に回り込んで、回避に成功。
そのまま、カウンターの横蹴りをアイスエイジ・ドーパントの右足に向けて、勢いよく放った。

「フンッ!」
「ガアッ!?」

十二トンの衝撃を受けて、悲痛な叫びを口から漏らす。
それによって、体勢が一気に崩れ落ちた。
アクセルが、敵の動きを封じるために繰り出した、回し蹴り。
命中したのは奇しくも、ゴオマの手によって命を奪われた、メタル・ドーパントに変身したモモタロスが最後にダメージを負わせた場所。
ようやく癒えてきた傷が、今の一撃によって再び開いてしまった。
右足に激痛を感じ、アイスエイジ・ドーパントはその場に蹲ってしまう。
その隙を見逃さずに、アクセルは次の一撃を繰り出そうとした。
しかしアイスエイジ・ドーパントは、右腕を前に突き出す。

「ッ!?」

それを見たアクセルは、反射的に背後へ跳躍。
敵の手から噴出される冷気を、回避する事に成功した。
本来ならば、受けても特に問題はない。
アクセルメモリの力があるので、身体を凍らされても溶かせば良いだけ。
しかし、今はエンジンブレードがないので、戦力に若干の不安がある。
故に、ほんの僅かな攻撃でも油断は出来なかった。

「ボソグ……ボソギデジャス! (殺す……殺してやる!)」

地の底から響くような声で、アイスエイジ・ドーパントは叫ぶ。
アクセルには敵が何を言っているのか、解読出来ない。
しかし、明確な殺意が込められている事は、瞬時に理解できた。
互いに距離が空いた中、睨み合う。
視線が激突する中、二人は地面を蹴った。
一瞬で距離は縮むと、互いの拳は激突する。
そこから、取っ組み合いが再び始まった。




アクセルとアイスエイジ・ドーパントの戦いを、一条は見守っている。
同時に、自身に支給されたアサルトライフルを構えていた。
彼は現在、アイスエイジ・ドーパントを狙撃するための隙を見極めている。
この状況では、弾丸数に限りがある為、無闇に発砲する事は出来ない。
加えてこの中に装填されている「対オルフェノク用スパイラル弾」という弾丸。
それが目の前のドーパントという存在にも、通用するかどうか。

(あれが……彼の世界における『仮面ライダー』の姿か)

そして、照井が姿を変えた異形の戦士。
恐らくあれが、仮面ライダーと呼ばれる存在なのだろう。
照井の世界では、町を守るヒーローという意味合いを持つらしい。
それを体現するかのように、彼は戦っている。
まるで、第四号として未確認生命体達と戦ってきた、五代雄介のようだった。

(だが、大ショッカーは彼らの事を、世界を崩壊に導く存在と言っていた……)

始まりのホールで、死神博士が語っていた言葉。
世界を崩壊に導く因子。
仮面ライダー。及び、敵対する組織と怪人。
それを再び、思い返す。

(……しかし、何故彼らがその原因なんだ?)

ここで不意に、一条の中で疑問が芽生えた。
何故、これらの存在が世界を崩壊へと導いてしまうのか。
その因果関係が、あまりにも不明すぎる。
大ショッカーは現象を言っただけで、理由は述べていなかった。
刑事であるならば、他者の意見だけでなく自らの頭を使って、原因を突き止めなければならない。
もしも彼らの言っていたことが、仮に真実だとしよう。
自分達が生きる世界の為とはいえ、他の数え切れないほどの命を犠牲にしていいはずがない。
警察官として。いや、人間としてあってはならない。

「あの、一条さん!」

思考に意識を向けていた一条の耳に、声が響く。
振り向くと、京介が狼狽したような表情を浮かべていた。

「やっぱり俺も、照井さんの手伝いを!」
「それは駄目だ。いくら戦えるとは言え、君のような若者を危険な目にあわせる訳にはいかない」
「でも!」

尚も、頑なに懇願する。
その瞳には、人々を守りたいという強い意志が感じられた。
憧れなどではなく、本当の意味で。
この若さでそのような強い意志を持つ若者に、一条は共感を覚えた。
自分も彼の立場なら、真っ先に助けに行くかもしれない。
しかし、だからこそだ。
刑事である自分が、年下をあてにするようでは本末転倒になってしまう。

「それに君には、間宮さんを守って欲しいんだ」
「俺が?」
「そうだ。もしも今、君が照井さんを助けに行ったとしよう……その時に、危険人物が現れるかもしれない」

麗奈の方に振り向きながら、一条は京介を諭した。
熱意を無駄にするのではなく、代案を示す形で。
無理に断っても、相手は納得しない。
それならば、別の良好な手段を与える。
対話における、基本的な方法だ。

「俺は情けない事に、君のような力を持っていない。だから、君にはここにいて欲しいんだ」
「分かりました……すみません、勝手に突っ走ろうとして」

一条の言葉に納得したのか、京介は頷く。
それに安堵を覚えて、彼は改めて戦場に振り向いた。
アクセルとアイスエイジ・ドーパントが戦いを繰り広げている、舞台に。
そして、ライフルを構え直す。
まだ、互いに取っ組み合いをしているままだ。
しかし焦る事はない。
狙撃するための、隙を待てば良いだけだ。
こちらが狙撃して、アクセルが決める。
その為に、白い怪物を標準に定めた。

(まだだ……)

一条は、待っている。
アクセルを妨害せずに、アイスエイジ・ドーパントにダメージを与えられるチャンスを。
白い怪物が、剛拳を振るう。
赤い戦士が、後ろに飛んで回避した。
それによって、両者の間に距離が開く。

(今だ!)

チャンスが出来たと、確信した。
銃身を構えて、一条は引き金を引く。
それによって、銃声と共に弾丸が発射された。
一発だけでなく、何十発も。
7.62口径の弾丸が、嵐の如く怪物に向かっていった。
空気を裂きながら、一瞬の内にアイスエイジ・ドーパントの身体に着弾。
直後、敵の意識はこちらへ向いた。

「今です!」

一条は、アクセルに叫ぶ。
これが目的だった。
最初から、ダメージなど期待していない。
少しでも敵の意識を、アクセルから外させるため。
本題は、ここからだった。

「でかしたぞ、一条!」
『ACCEL MAXIMUM DRIVE』

ベルトのレバーを、握り締める。
直後、力強い電子音声がバックルより発せられた。
それを耳にしながら、アクセルはパワースロットルを何度も捻る。
そして、ドライバーより膨大なるエネルギーが、全身に纏われていった。
炎のような赤いオーラが、アクセルより発せられる。
身体の底から力が沸き上がるのを感じた彼は、勢いよく地面を蹴った。

「ああああああぁぁぁぁぁっっ!」
「ッ!?」

咆吼と共に、疾走するアクセルはアイスエイジ・ドーパントと距離を詰める。
目前にまで迫って跳躍し、渾身の力を込めて後ろ回し蹴りを放った。
アクセルグランツァーの名を持つ一撃によって、アイスエイジ・ドーパントの身体は一気に吹き飛ばされていく。
そのまま、轟音を鳴らしながら民家の壁を破壊していった。
瓦礫が崩れ落ち、粉塵が周囲に舞い上がっていく。

「絶望が、お前のゴールだ」

そんな中、アクセルは呟いた。
ガイアメモリという悪魔に溺れた、愚か者への宣言を。
しかし、まだ気を抜けなかった。
メモリブレイクは果たしたが、それが完全な勝利に繋がる訳ではない。
吹き飛んだ敵の方に、アクセルが振り向こうとした。

『OPEN UP』
「何ッ!?」

突如、電子音声が鳴り響く。
その直後、煙の中から一本の長い影が、勢いよく飛び出してきた。
それはアクセルに激突して、後ろに吹き飛ばす。
あまりに唐突な出来事に、彼は対応が遅れてしまった。

「ぐあっ!?」

仮面の下から、悲鳴が漏れる。
コンクリートの地面に激突するが、すぐに体勢を立て直した。
そして、振り向く。
突然現れた、金と緑の煌めきを放つ異形の戦士、仮面ライダーレンゲルの方へと。

「ジャデデ、ブセダバ……! (やって、くれたな……!)」

レンゲルラウザーを構えながら、憤怒の声を漏らす。
アクセルによって吹き飛ばされたゴオマは、すぐさまレンゲルへの変身を行った。
自身に煮え湯を飲ませた、愚かなリント達を潰すために。
彼は気づかなかった。
レンゲルの力とガイアメモリを利用した時点で、自身の精神が砕かれている事を。

「ウガアアァァァァァッ!」

一切の理性が感じられない咆吼を発しながら、レンゲルは走る。
そして、レンゲルラウザーを横薙ぎに振るった。

「ぐっ!」

アクセルには、それを避ける手だてがない。
レンゲルは、その獲物を振るい続ける。
一発、また一発とアクセルの身体にレンゲルラウザーを打ち付けていった。
胸部、肩、腕、股、顔、腹部。
まるで、暴風雨のような勢いだった。
先程の不意打ちに加え、相手はリーチの長い武器を持っている。
エンジンブレードがあれば対応できたかもしれないが、ここにはない。
それら二つの要因があって、彼は次第に追い込まれていった。
攻撃を避けるにしても、武器の長さがそれを許さない。
アクセルのダメージは、徐々に蓄積されていった。

「ガアアァァッ!」
「ぐは――――っ!」

やがて、レンゲルは渾身の力を込めた一撃を放つ。
それを受けて、アクセルは背後の壁に激突。
直後、変身のタイムリミットが限界を迎えてしまった。
装甲を作る破片は分解され、照井の身体を晒す。
同時に、アクセルドライバーも地面に転がってしまった。

「くっ……!」

身体の節々に痛みを感じながらも、照井は起きあがろうとする。
だが、ダメージがそれを許さない。
そんな中、レンゲルは照井の命を奪おうと歩いていた。
一歩、また一歩と進もうとする。

「やめろっ!」

突然声が響き、レンゲルの足が止まった。
振り向くと、京介が変身音叉を構えながら、走っているのが見える。
彼はそれを額に掲げると、鬼の紋章が浮かび上がった。
そして、京介の身体を青い炎が包み込む。
変化は、すぐに終わりを告げた。
桐谷京介の身体は、銀色に輝く鬼へと変わる。
音撃戦士を目指した彼が、数え切れないほどの修行の末に会得した力。
京介変身体。またの名を強鬼。

「はあっ!」

姿を変えた彼は、レンゲルに拳を打ち付ける。
それは頬に勢いよく激突し、衝撃で巨体を蹌踉めかせた。
しかし、レンゲルはすぐに立ち直る。
そして睨んだ。
標的にした照井を庇うように立つ、京介変身体を。

「バンザ、ビガラ……? (何だ、貴様……?)」
「俺が相手だ!」

その一言を聞いて、レンゲルの中で苛立ちが芽生えた。
たかがリントの分際で、自分の邪魔をするなんて。
ならば、望み通りに潰してやろう。
明確な殺意を抱きながら、レンゲルラウザーを構えた。
その一方で、倒れた照井の元に一条と麗奈が駆けつける。

「照井さん、大丈夫ですか!?」
「一条……何故、彼がここにいる……?」
「申し訳ありません……私の力不足です」

京介が戦場に飛び出した理由。
それは照井を助けるという、善意からだった。
その為に、一条の制止を振り切って変身する。
後悔の表情から、照井は本能的にそれを察した。

「……いや、こうなった以上仕方がない……くっ!」

彼はアクセルドライバーに手を伸ばそうとする。
しかし、痛みがそれを邪魔した。
そんな照井の変わりに、一条がアクセルドライバーとメモリを取る。

「その怪我では無理です、すみませんがお借りします」
「何をするつもりだ……!」
「私が行きます」

その一言を残して、彼は振り向いた。
自分達の為に戦っている、京介の方へと。

「フンッ!」
「うわっ!」

彼は敵の長い杖に翻弄されて、攻撃を受けている。
それを見た一条は、急いでアクセルドライバーを腹部に添えた。
すると先程照井がやったように、腰に巻き付かれていく。

『ACCEL』

一条はもう片方の手で、アクセルメモリのボタンを押した。
疾走を意味する言葉を耳にしながら、彼は思う。
自分も、彼のように未確認と戦うときが来たのだと。

(五代……俺も、戦うぞ!)

一条の脳裏に、浮かぶ男の姿。
自らの笑顔を犠牲にして、みんなの笑顔のために戦ってきた2000の技を持つ男。
本当は戦いたくないのに、未確認生命体第4号となって何度も戦った。
五代雄介。
彼に任せてばかりの自分に、嫌悪感を覚えた。
本当ならば彼のような一般市民を、守るための立場なのに。
そして、今も桐谷京介という若者に頼っている。
このままで、いいわけがない。
一条は力強い視線を向けながら、その言葉を口にした。

「変身ッ!」

五代が何度も口にした、戦うための二文字。
その声と共に、メモリをアクセルドライバーに突き刺した。
そのまま、パワーハンドルを捻る。

『ACCEL』

電子音声が鳴り響いた瞬間、一条の周囲に赤い欠片が生成された。
一瞬の内に、それらは彼の身体に集束される。
真紅の輝きを放つ戦士、仮面ライダーアクセルへと一条薫は姿を変えた。
理不尽な暴力から、人々を守るために。
失われてはいけない、誰かの笑顔を守るために。
アクセルが持つその思いは、似ていた。
まるで、五代雄介が仮面ライダークウガとなる為に抱いた信念と。

「おおおおぉぉぉっ!」

変身を果たしたアクセルは、その名の通りに疾走を始めた。
京介変身体と戦っている、戦場へと。
彼は力を込めて、拳を握り締める。
そのまま、レンゲルにそれをぶつけた。
未確認と戦っている、五代のように。

「グッ!?」

京介変身体をいたぶる事に集中していたレンゲルは、その一撃を無様に受けてしまった。
吹き飛ぶ相手に目を向けず、アクセルは手を伸ばす。
レンゲルの手によって傷を受けて、倒れてしまった京介変身体へと。

「桐谷君、大丈夫か!」
「その声は……一条さん!? 俺は大丈夫です!」
「気持ちは分かるが、無茶をしすぎだ。彼女を放ってはいけないだろう」

赤い戦士は銀色の戦士を支えて、立ち上がらせる。
そして、突っ走った事に対して咎めた。

「すみません、でも俺は――!」
「分かっている、人を守りたいんだろう。だがそれは後だ」

謝罪の言葉を遮って、アクセルは振り向く。
既に起きあがっている、レンゲルに。
照井との戦いでダメージを負ったにも関わらず、未だに顕在していた。

「奴は強い。少しでも油断したら、負けると思うんだ」
「分かりました!」

アクセルの言葉に、京介変身体は頷く。
金の力を手に入れたクウガすらも圧倒した、未確認生命体第3号。
怪物の姿でなくても、それは顕在だった。
レンゲルに戦慄を覚えるが、負けるわけにはいかない。
アクセルと京介変身体は、敵に特攻しようとした。

「チッ!」

そんな二人を前に、レンゲルは脇腹より四枚のラウズカードを取り出す。
ハートのキング。
スペードのキング。
スペードのクイーン。
それらのカードを放り投げて、最後の一枚をレンゲルラウザーに読み込ませた。
クラブの10、テイビアリモートのカードを。
それによってレンゲルラウザーの先端から、三つの光が発射される。
すると、三枚のラウズカードは徐々に形を変えていった。

「「なっ!?」」

アクセルと京介変身体は、反射的に足を止める。
目の前に、突然三体の異形が姿を現したため。
パラドキサカマキリの始祖たるカテゴリーキング、パラドキサアンデッド。
コーカサスオオカブトの始祖たるカテゴリーキング、コーカサスビートルアンデッド。
ヤギの始祖たるカテゴリークイーン、カプリコーンアンデッド。
それら全てが、テイビアリモートの効果によって封印が解かれた、レンゲルの傀儡となった上級アンデッド。
レンゲルは三体の先頭に立って、進撃を開始した。

「ハハハハハハハッ!」

邪悪な笑い声が、仮面の下から聞こえる。
レンゲルとコーカサスビートルアンデッドはアクセルに、パラドキサアンデッドとカプリコーンアンデッドは京介変身体に。
それぞれ二手に分かれて、攻撃を仕掛けた。
アクセルと京介変身体は、何とか立ち向かう。
しかし、二対一という数の優劣。
加えて召喚された、三体の上級アンデッド。
それらの要因によって、二人の仮面ライダーは不利に追い込まれてしまう。

「うわあっ!」

やがて京介変身体は、アンデッド達から攻撃を受けて吹き飛ばされた。
凄まじい一撃を受けて、彼は地面に叩き付けられる。
その瞬間、カプリコーンアンデッドは視界を別の方に移した。
この場では、何の力も持たない一組の男女の方へと。
レンゲルからダメージを受けた、照井竜。
そんな彼の元にいる、間宮麗奈。
そんな二人の元に、カプリコーンアンデッドは歩みを進めた。


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053:強魔(前編) 照井竜 053:強魔(後編)
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