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不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg



太陽の輝きは、既に落ち始めている。
眩しい光は薄れて、闇が広がっていた。
世界に、夜が近づいている。
いつもなら、この暗闇を喜んだかもしれない。
しかし矢車想に、そんな感情は芽生えなかった。
むしろ彼の中で、後悔が生まれている。
その脳裏に三人の人間の顔が浮かんだため。

始まりの部屋で見せしめにされた、影山瞬。
自分を逃がすために戦った、剣崎一真。
病院から抜け出した矢先に食われた、光夏海。

みんな死んでしまった。
剣崎は分からないが、生きている可能性は低い。
光を求めようとした者達はみんな、闇へと消えた。
自分だけを残して。
また、一人になった。
仮面ライダーザビーとして、ZECTのエリート部隊シャドウから追い出されて以来だろう。
信じていた者全てから裏切られ、信じていた者全てから見捨てられた。
そして、地獄のどん底にまで堕ちる事になる。
あの時は、周りにいる者達が光に残り、自分一人だけが闇に追い出された。
しかし今度は逆。
自分は光の世界に残されて、周りの奴らは落とされた。
死という名前を持つ、永遠の暗闇に。

(これが……罰って奴か)

ふと、矢車は思う。
自分は闇に堕ちる事すらも、許されない。
死んで楽になる事すらも、許されない。
眩しい光の中を、生きていかなければならない。
逃げる事も許されず、ただ孤独に世界を生きる。
後ろ指を指されて罵られながら。
それが光から与えられた、罰。
前なら、誰が死のうと生きようと関係なかった。
けれども、今は違う。
三人がいなくなった事で、ある感情が矢車の中で芽生えていた。
寂寥感と虚無感。
それだけが彼の心を満たしている。
生きようが死のうが、どうでもいいと思っていた筈だ。
何故、そう感じるのかは矢車自身も分からない。

(さて、どうするか……)

ふと、矢車は考えた。
これからたった一人で、どう動くのかを。
キバーラとかいう白い蝙蝠はいるが、戦えるとも思えない。
だから仲間も兄弟もいないまま、一人で動く可能性が高かった。
いくら大ショッカーを叩き潰すとはいえ、敵の戦力は未知数。
加えて、組織力も技術力もかつていたZECTと匹敵、あるいは容易に上回るだろう。
それに対して、自分の戦力はキックホッパーとゼクトマイザーのみ。
ザビープレスもあったが、今更自分を認めるわけがない。
しかもここは戦場。
天道や加賀美、夏海や剣崎のような人間とそうそう出会えるわけがない。
むしろ自分に襲いかかったライダー達や黒いカブトのように、危険な連中と出くわす可能性の方が、大いに上回る。
今の状況は、自分の生きる世界を助けるために、他者を蹴落とすという地獄。
ならば殺し合いに乗る奴らなど、いくらでも沸いてくるだろう。
これでは、大ショッカーを潰すどころの話ではない。

(黒いカブト……か)

ふと、矢車は思い返す。
先程病院で自分達に襲いかかった、カブトによく似たライダーを。
身体が漆黒なのを除けば、寸分の違いもなかった。
幾度となく戦いを繰り広げた、天道総司が変身する仮面ライダーカブトと。
恐らく、自分と同じ世界の住民だろう。

(……しかし何故、俺を狙った?)

ふと、矢車は思案した。
ZECTが生み出したと思われる、見知らぬライダー。
何故自分を殺そうとしたのか。
そんな事をしては、世界が滅びる事に繋がるだけ。

(まさか、ワームがマスクドライダーシステムを奪ってそれを使ったのか……?)

ふと、矢車は一つの可能性を思いつく。
黒いカブトが自分達を襲った理由。
それは人類の敵であるワームが、あのゼクターとベルトを奪い取ってそれを使った。
人に擬態する能力を持って、社会に忍び込む連中ならあり得るかもしれない。
つまりあの黒いカブトが変身しているのは、ワーム。
例え自分の世界が滅亡の危機に陥ったとしても、ZECTのマスクドライダーシステムを使う資格者は、邪魔と思ったのだろう。
故に襲いかかった。
世界が救われたとしても、邪魔な存在はいらない。

(……もしかしたら、天道に擬態したワームなのか?)

ふと、矢車は結論に辿り着いた。
黒いカブトの正体がワームならば、誰かに擬態しているはず。
そして、赤いカブトに選ばれたのは天道総司。
この二つから、導き出される答え。
先程の黒いカブトは、天道総司に擬態したワーム。
だから殺し合いに乗っており、人間である自分を襲った。
だとすると、本物の天道総司や加賀美新も狙っているかもしれない。
ワームに擬態された人間の果てなど、たった一つ。
消される以外、何もない。

(この三人の中の、誰かか……?)

ふと、矢車は身体を起こして名簿を見る。
そこに書かれている、自分の世界から連れてこられた奴らの名前。
天道総司と加賀美新。
これ以外に、三つある。
間宮麗奈、乃木怜司、そして見慣れないもう一人。
麗奈はかつて恋心を抱いたが、あっさりと裏切られた。
その正体はワームだった為。
後の二人は知らない名前だが、恐らくこのどちらかが黒いカブトに変身したのだろう。
しかし何故、天道総司でないのか。
奴に擬態したのなら、その名前を名乗るのが筋の筈。
もしや本物の天道総司に、存在を知られないために偽名を使ったのか。
だがそれでは、天道総司に擬態した意味がない。


様々な可能性を矢車は考えるが、真実に至る事は決してなかった。
矢車の見た黒いライダー、仮面ライダーダークカブト。
その正体は、確かに天道総司に擬態したワームだった。
しかし、厳密に言えば元は普通の人間。
ネイティブにより拉致されたとある少年が、過酷な人体実験によって人間で無くなってしまい、ダークカブトに選ばれてしまった。
その彼は、自暴自棄になった末に全ての参加者を殺そうとしている。
無論、自分の世界を助けようという思いは持ち合わせていない。
矢車はそんな事実を、決して知らなかった。


やがて彼は、考えるのを止める。
そんな事に気を向けていても、今はどうする事も出来ない。
また出くわしたときに、戦えば良いだけだ。

「…………ん?」

ふと、矢車の耳に声が聞こえる。
この部屋の外からで、距離は近いようだ。
耳を澄ませると、二人組の男が話している。
内容はここからでは聞き取れないが、無視するわけにはいかない。
この殺し合いに乗った、危険人物の可能性もある。

「この声って……もしかしたら、士!?」

矢車の傍らで飛ぶキバーラは、驚愕の表情を浮かべた。
声の主は、彼女にとってよく知る人物。
門矢士であること。
それを察した矢車は、ベッドから起きあがった。
士とかいう奴が何者かは知らないが、接触の余地はある。
夏海が知る参加者の一人で、大ショッカーについて知っている人物だ。
何かしらの情報は得られるだろう。
診察室から出た矢車は、キバーラと共にロビーを目指した。









E-4エリア、病院前。
門矢士は、いつまで経っても戻ってこない北條透の元に移動しようとして、ある男と遭遇した。
かつて旅の途中で訪れた、ダークライダー達によって支配されたネガの世界。
仮面ライダーダークキバとしてそこを率いた男、紅音也とよく似た男を。
しかし、髪の色や服装など異なる点がいくつかあった。
あの時出会った音也は茶髪だったのに対し、こっちは黒髪。
服装も派手だったが、この男は割とどこにでも見られる格好だ。
何より、病院で眠る剣崎一真のように、自分を知らないように見える。

「……なるほど、あんたはもう一人の紅音也か」

士は自らの推測を、口に出した。
ネガの世界には、光夏海とよく似た人間が一人だけいる。
絶望に反抗しながら、戦った女。
それと同じように目の前の音也も、ネガの世界に生きる音也とはまた違うもう一人の音也。
恐らく剣崎も、自分の事を知らなかったのはそういう理由だろう。

「……訳が分からん。お前、どうかしてるのか?」

しかし音也は、溜息と共に悪態を吐いた。
病院に行こうと思った矢先に、妙な男と出くわす。
自分の名前を知っていると思いきや、変な事を次々と口走った。
通りすがりの仮面ライダーだの、もう一人の紅音也だの。
正直、頭のネジが緩んでいるのではないかと、疑ってしまう。
そんな彼の考えを知らずに、士は言葉を続けた。

「いや、あんたとよく似た男と出会った事があってな」
「何?」

音也はほんの少し、驚いたような表情を浮かべる。
それから、士は語り続けた。
自分が続けてきた世界を救う旅。
大ショッカーの悪行。
共に戦ってきた仲間達。
そして、旅の途中で訪れたネガの世界にいた、もう一人の紅音也。
音也は士の話を、半信半疑で聞いていた。

「なるほど、俺のような男前がもう一人いる……更に、えらーい人になっているとは。流石は俺様だ」

全てを聞き終えた後、彼は率直な感想を口にする。
目の前にいる門矢士とかいう男は、違う世界にいるもう一人の自分と戦った事があると言った。
そこにいる自分は世界の全てを、この手に収める王となっているらしい。
どうにも信じがたいが、嘘を言っているようにも見えなかった。
仮に真実だとすると、やはり自分は偉大という事になる。
例えどの世界で生まれようとも、神に愛された紅音也という男は、歴史に名を残すのだ。

「だが、そっちの俺はまるで駄目だな」
「何?」

先程と違って、今度は士が音也の言葉に驚いたような表情を浮かべる。

「この紅音也は、確かに世界を治める王の器を持つだろう。だが、人の音楽を奪うなど言語道断……」

力強く、そう言い放った。
王の称号を得たもう一人の自分の行為を、音也が喜ぶ事はない。
理由は、人類抹殺などという戯けた悪行を働いたため。
この紅音也は、人類全てに救いの手を差し伸べる愛の使者だ。
仮に気に入らない男がいたとしても、無意味に命を奪う事などしない。
ましてや、女に危害を加えるなど論外だ。
それはネガの世界という人間の、心の中にある音楽を壊しているに等しい。
故に、認める事など断じて許せなかった。

「やれやれ、俺の顔に泥を塗るとは……もう一人の俺は随分、小物のようだな」

例え王になったとしても、それは何人もの犠牲の上で成り立っている。
それで偉くなるなど、こっちから願い下げだ。
どうやら王様になった自分は、天狗になっているに違いない。
ここは、自分が根性を叩き直す必要があるようだ。

「どうやら、そっちの俺は調子に乗りすぎているようだな。我ながら不甲斐ない」
「心配はないぞ? ネガの世界には、強く生きる奴がいる……」
「ほう、そっちでも音楽は残っているのか」

士の言葉に、音也は若干の安堵を覚える。
ネガの世界には、絶望に反抗する人間がまだ残っていると聞いた。
だとすると、音楽はまだ絶えていない。
ならばこれから先、調子に乗ったもう一人の自分を叩きのめす奴が出るだろう。
出来る事なら、その時は自分も殴りに行きたいが。

「士ああぁぁぁぁぁ~~!」

士と音也が互いに顔を向ける中、声が聞こえる。
やたらに高い女の叫びが。
それに反応して、二人は振り向く。
見ると、一匹の白い小さな蝙蝠がこちらに向かっていた。

「キバーラ!?」
「無事だったのね、士!」

現れたキバーラは、士の顔を見た途端に表情を明るくする。
そして羽根の動きを、一層激しくした。
一方で、病院の中から一人の男が姿を現す。
うらぶれた雰囲気を放ち、左袖のないコートを羽織っていた。

「門矢士……お前がそうか」
「何だお前は……?」

いきなり現れた男に名前を呼ばれて、士は少し困惑する。
恐らくキバーラが教えたのかもしれない。
しかし、それにしても外見からして胡散臭かった。
服装からして、信用ならない。
何よりも、瞳から覇気が感じられなかった。
まるで全てのライダー達から敵と見なされて、自暴自棄となった自分のように。

「なるほどな……お前も、闇を見てきたんだな」
「闇だと……?」

士の顔を見ながら、矢車は呟く。
まるで、全てを見透かしたような瞳を向けながら。
それに苛立ちを覚えて、士は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「何を訳の分からない事を……」
「ちょっとあんたら、待ちなさいよ!」

不穏な空気になりそうな所に、キバーラが仲裁に入った。
このまま放置していては、喧嘩になりかねない。
それを彼女は、本能で察していた。

「こんなことしたって、夏海が喜ぶわけないでしょ!」
「夏海?」
「あっ……!」

その瞬間、キバーラは気づく。
士は夏海が死んだ事を、知らない。
もう二度と会えないのだ。
後悔を覚えるが、もう遅い。

「そういえば、夏海はどうした? 一緒じゃないのか?」
「夏海は…………」

俯くキバーラの声は、震えていた。
本当はこんな現実など、言いたくない。
伝えるのが、怖い。
認めたくなんかない。
それでも、いつかは知られる事実。
キバーラはそれを、士に伝えた。
彼女は既に、殺されてしまった事を。

「な、夏海が…………死んだ?」

キバーラから突きつけられた事実によって、士は呆然とした表情を浮かべた。
その声は、震えている。
夏海が死んだという、真実を知ったため。

「嘘だろ……?」
「本当よっ! あたしだって認めたくないわ! でも、夏海はもういないのよっ!」
「何だと…………!?」

認める事は出来ない。
夏海がこの殺し合いの犠牲にされた事を。
彼女がもう、この世にいない事を。
それを知った瞬間、士から全ての力が消えていった。
彼はその場に、へたり込んでしまう。
これまで積み重ねてきた物全てが、崩れ落ちるような感じがした。
士の中で、絶望が広がっていく。

――士君!

彼の中で聞こえる、夏海の声。
ディケイドの力を手に入れたあの日、全てが始まった。
彼女や光栄次郎、小野寺ユウスケや海東大樹と繰り広げた旅。
夏海が危機に陥ったとき、幾度となく助けてきた自分。
自分の帰りを待ってくれていた、夏海。
全てのライダーから敵視されても尚、自分を救おうとした彼女。
そして、これからも誰一人欠けることなく、仲間達との旅は続くはずだった。
けれども、それはもう二度とない。
夏海に会う事はもう、出来ないのだ。
夏海の笑顔を見る事はもう、出来ないのだ。


思い出が走馬燈のように蘇る中、士の中である感情が芽生える。
夏海が死んだきっかけを作ったのは、誰だ。
何の罪もない彼女が何故、犠牲にならなければならない。
そう、この戦いを開いた奴らが原因だ。
それは悪の組織、大ショッカー。
奴らだけでなく、餌に釣られて参加者を襲う連中も同類だ。
誰かを殺すような奴らなど、消えてしまえばいい。
夏海の命を奪った奴らなど、潰してしまえばいい。
破壊する。
全てを破壊してみせる。
果てしない憎悪が、士の中で広がっていた。

(俺は破壊者……全てを破壊する力を持つ。だったら、この殺し合いに乗った連中と大ショッカーを――――!)
「おい」

そんな中、彼の耳に音也の声が響く。
直後、士の頬に衝撃が走り、身体が地面に倒れた。

「士!」

キバーラは悲鳴を零した。
一方で士は汚れた床に叩き付けられるが、すぐに見上げる。
自分を殴りつけた音也の方を。

「てめえ、何しやがる!」
「根性注入」

怒鳴る士に対して、音也はあっさりと答える。

「やれやれ、惚れた女の願いもロクに叶えられない駄目男とはな」
「何だと!?」
「大方、ヤケになって復讐でもして、最後は後を追うつもりだったんだろ?」
「なっ……!?」

侮蔑が混じった言葉。
士はそれを聞いた途端、顔が驚愕に染まっていく。
自分の全てが、見破られていたから。

「お前、確か士と言ったな? そんな事をして、彼女の為になるとでも思ってるのか?」
「何……?」
「夏海ちゃんだっけか? その子は、お前がそんな道に歩くのを望むような子か? 他者を無意味に傷つけ、人の音楽を奪う事を」
「違う!」
「なら何故へこたれてる? お前は、その子と一緒に生きてきたんじゃないのか?」

音也は静かに、士へと問いかける。
父親が悩む子どもを、諭すかのように。
その瞳からは厳格でありながら、どこか優しさが放たれていた。

「彼女を幸せにしようと思うなら、お前が強く生きるしかない」
「何?」
「人は前に進むものだ。悲しみを乗り越え、大きくなった時……大切な人は隣にいる。お前は、前に進むしかない」

かつて未来からやってきた、悲しみに沈んだ息子、紅渡。
恋人が死んで、自暴自棄になっていた彼を諭すための言葉を、音也は士に告げた。
大切な人を守れなくなった男は、決まってヤケになる。
しかし、そんなのを望む女なんて、どこにもいない。
だから残された男はどれだけ苦しくても、どれだけ悲しくても、強く生きる。
そうやって、乗り越えるしかない。

「強く生きる……か」

音也の言葉は、傍観者でいた矢車の耳にも入っていた。
こんな戦場では、ただの綺麗事にしかならない。
しかし不思議と、悪いようには聞こえなかった。
闇の中で生きる自分には、戯言にしかならないはずなのに。
少し前ならば、無視していただろう。
でも今は、絶対に聞かなければならない気がした。

「悲しみを乗り越え、前に進む……」

一方で士は、音也の言葉を復唱する。
彼の言いたい事は正論だ。
例え憎しみに溺れ、大ショッカーと戦おうとしても、その果てには何も残らない。
夏海だって、戻ってこない。
士自身、頭ではよく分かっていた。
だけれど、それでも簡単に受け入れる事は出来ない。

『みんなぁーーーー! あたしの話を聞いてーーーーーー!』

悩みが広がっていた時だった。
突然、外から大きな声が聞こえてくる。
それは病院の中を容赦なく響いて、四人の意識を向けるには充分な威力を持っていた。

『こんな戦いはもうやめて! 自分の世界を守りたいからって、他の人達を殺すなんておかしいよ!』
「何……!?」

それは、誰の言葉かは分からない。
何らかの機械を通したような女の言葉に、皆は驚いていた。
士も、矢車も、キバーラも、音也も。

『仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローでしょ! 少なくとも、あたしの世界ではそうだった!』
『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』
『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』

名前も知らない声の主は、言葉を続けていた。
大ショッカーの言いなりになっても、何の意味がないと。
自分達は東京タワーに待つと。
そして、仮面ライダーは人類の味方であると。
四人の耳に、それは聞こえていた。

「なるほど……東京タワーか」

そんな中、音也は口を開く。
声からして、今の放送を行っていたのは恐らく女だ。
それもかなり若い。
ならば、何としてでも行くべきだろう。
あれだけの声では、野蛮な連中も引き寄せるに違いない。
そんな奴らからレディーを守るのは、男として当然だ。

「音也、行くつもりか?」
「当然だ」
「罠かもしれないぞ」
「おいおい、か弱いレディーが助けを求めてるんだぞ? なら、男として行くに決まってるだろ」

士の疑問に、音也はあっさりと答える。
この男は、今の放送をまるで疑っていない。
ここは殺し合いの場であるから、何かしらの罠がある可能性も充分にある。
しかし音也は、そんなことなどまるで考えていないように見えた。
それに士は溜息を吐いて、キバーラは呆れた表情を浮かべる。

「紅音也……あんた、バカでしょ?」
「大きなお世話だ、コウモリ娘」
「はあ!?」
「お前、もしかしたらあのコウモリもどき……キバットバットⅡ世の仲間か?」

目の前で飛ぶ白い蝙蝠に、音也はデジャブを感じていた。
かつて渡や次狼達を助けるために、力を借りた喋るコウモリもどき。
キバットバットⅡ世の姿と、被って見えたのだ。

「……そうよ、あたしは娘のキバーラよ」
「やっぱりな……まあ、別にどうでもいいが」
「何よそれ!」

しかし、音也は特に驚きはしない。
予想が当たったところで、なんという事もないからだ。
傍若無人な態度の音也にキバーラは、怒りを覚える。
だがそれは、呆気なく無視された。

「そういうことだ、俺は失礼させて貰う」
「紅と言ったな……本当に、東京タワーに行って光が掴めると――」
「思ってる」

矢車の問いかけを、音也は遮る。
その瞳からは、力強い光が放たれているように見えた。
自分自身に絶対の自信を持ち、全ての言葉を真実にする。
そんな雰囲気を、音也は持っているような感じがした。
まるで幾度となく戦った、天道総司と似ている。
不意に彼は、そんな事を思った。

「何故そう言い切れる?」
「愚問だな、俺は紅音也…………全ての女性の味方だからだ。あそこにいる子は、俺を待ってる」

矢車の疑問に、はっきりと答える。

「俺は全ての女性を助ける為なら、命ある限り戦う……例え孤独になってもだ。戦うってのは、そういうことだからな」

音也は続けて、ここにいる全員に言い放った。
大切な人を亡くして悩む、士と矢車を立ち直らせるために。
それは、ある男が口にした言葉と似ていた。
とある世界、全てから見放されて絶望のどん底に落ちた門矢士の前に、一人の男が現れる。
大ショッカーによって片腕を奪われた、結城丈二。
彼もまた、士を奮い立たせるために、音也と似たような言葉を告げた。
例え孤独になろうとも、戦士は命ある限り戦い続けなければならない……と。
あまりにも似すぎている、二つの世界で起こった出来事。
しかしそれに気づく術を持つ者は、誰もいない。

「じゃ、今度こそ俺は行くからな。着いてくんなよ」

そう言い残して、音也は去っていった。
一人で動くのは危険極まりないが、男とつるむ趣味はない。
何よりも、自分ならばどんな困難が来ようとも、容易に乗り越えられる。
それよりもまずは、東京タワーにいるレディーの元へ向かう事だ。
名前も知らない、異世界の女性。
彼女もまた、この戦いを止めるために動いている。
なら、自分のやる事は一つだけ。
東京タワーに向かって、彼女のサポートをする事だ。

(そういや、キングの事を言い忘れてたな……)

病院から離れてしばらくして、音也は思い出す。
先程出会った士に、危険人物であるキングの事を教えなかったのを。
別に言う義理は無いが、情報は大切。
せめて、互いの事くらいは話すべきだったか?
いくら男と関わり合いになりたくないとはいえ、焦りすぎたかもしれない。

(……あまり会いたくないが、次に話せばいいか)

しかし後悔したところで、もう遅い。
今更病院に戻っても、みっともないだけだ。
もしもまた奴らと出会うなら、その時にキングの事を話せばいいかもしれない。
それに士とかいう奴も、気持ちに変化があるだろう。

(まあ、精々頑張るんだな。応援くらいはしといてやるよ)

東京タワーに向かう音也は、心の中でそう呟いた。



【1日目 夕方】
【E-4 平原】


【紅音也@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】疲労(中)
【装備】イクサナックル(プロトタイプ)@仮面ライダーキバ、ライアのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考・状況】
0:東京タワーに向かって、声の主を助ける。
1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する
2:女性を見たらとりあえず口説く。冴子辺り探してみる。
3:乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。間宮麗奈については会ってから判断。
4:もう一人の自分に嫌悪
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、巧の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。









紅音也が去った後の病院では、二人の男と白い蝙蝠が残っている。
門矢士と矢車想、そしてキバーラ。
あれから彼らは語り合った。
互いの事。
同じ世界から連れてこられた人物。
これまで起こった出来事。
そして、夏海に関して。

「夏海は、戦ってたんだよな……仮面ライダーとして」
「ええ、戦ってたわ。立派にね」
「そうか」

キバーラの声を聞いて、士はゆっくりと頷く。
彼の表情には、先程は存在していた物が、感じられなかった。
絶望や失意といった、マイナスの感情。
音也の言葉を聞いたからか。
東京タワーから発せられた放送を聞いたからか。
それは彼自身でも、分からない。

『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』
『俺は全ての女性を助ける為なら、命ある限り戦う……例え孤独になってもだ。戦うってのは、そういうことだからな』

あの言葉が、彼の中で未だに響いていた。
もしも夏海が東京タワーにいたら、同じように殺し合いを止めようと呼びかけてたか。
夏海は自分が大ショッカーと戦う事を、望んでいるのか。
まだ生きているかもしれない、ユウスケや海東。
そして一真のように、正義の心を持つまだ見ぬ仮面ライダー。
彼らと、手を取り合って大ショッカーを潰す。

「夏海…………」

彼女の名前を、再び呼んだ。
それで何かが変わるわけではない。
もしも夏海が今の自分を見たら、どう思うか。
考えるまでもない。
いつものように笑いのツボを押して、自分を立ち上がらせてただろう。

「やっぱりお前も、暗い地獄を見てきたんだな……」

考える中、矢車の声が聞こえた。
士はそちらに振り向く。
目を合わせた途端、矢車は言葉を続けた。
彼は士に興味を見いだす。
夏海とキバーラが言っていた、士という男。
見てみれば、闇の世界の住民に必要な暗闇が、瞳の奥に宿っていた。
それを感じた矢車は、自然と感情が高ぶっていく。

「お前の瞳には闇が見えた。それも極上の……な」
「そういうあんたこそ、まるでどん底に落ちたような顔をしてるな」
「ああ、俺は堕ちたんだ……もう二度と抜け出せない、暗闇の果てへとな」
「ははっ、地べたを這い蹲ったのか」

彼らは知らぬ間に、饒舌となっていた。
大切な人を失った者同士、世界の全てから拒絶された者同士、孤独の闇を味わった者同士。
どこか、共感を感じていたのか。
生まれた世界は違えど、歩いてきた道は同じ。
それでも今の彼らは、心の底に残っている物があった。
かつて抱いていた『希望』の燃え滓。
知らぬ間に、士と矢車の奥底からはそれが沸き上がっていた。

「それで、あんたはこれからどうするつもりだ?」
「さあな……俺も考えていたところだ」
「じゃあ、俺達も……ぐっ!」

士は立ち上がろうとした瞬間、全身に激痛を感じる。
度重なる戦いで負った、戦いの傷。
休んでいる内に少しは和らいだが、まだ彼の動きを阻害していた。
そんな士に、矢車は肩を貸す。

「やれやれ……世話が焼ける」
「悪かったな」
「とっとと治すぞ」

互いが乱暴な言葉をかけると、診察室に向かった。
まずは病室に向かい、本格的な手当をする。
北條透は応急処置をしたが、それだけでは心許ない。
今は彼を待ちながら、傷を治す事に専念すべきだ。
それから、音也が行った東京タワーへと向かう。
矢車が言うように、罠があるかもしれないが行くべきだ。

(そういや、この矢車とかいう男……あの時のライダーと声が似てるな)

行動方針が決まった直後、士は思い出す。
初めて訪れた『クウガの世界』で、クウガと戦った際に突然現れた飛蝗のライダー達。
その中の一人と、声が似ていたのだ。
だが、矢車は自分の事を知らないように思える。
恐らく音也や一真のように、別の世界にいるもう一人のライダーと考えるのが妥当か。
何にせよ今は、そこまで重要視する事でもないだろう。



かつては光の下を歩いていた、二人の男。
門矢士と矢車想。
再び闇を見た男と、今だ闇を彷徨う男。
彼らは二人とも、かつてはある思いを持っていた。
強い心(レイジングハート)という名の、不屈の魂。
果たして、それを取り戻すときが来るのか。
二人の行く道にあるのは、光か闇か。



【1日目 夕方】
【E-4 病院/一階】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】全身に大程度のダメージ(軽い応急処置済み)、悲しみ、疲労(小)
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA~6.9)@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
0:北條を待ちながら、体を休める。
1:大ショッカーは、俺が潰す!
2:仲間との合流。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:少し休んだら、矢車やキバーラと共に東京タワーに向かう。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ライダーカード(G3)はディエンド用です。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。



【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】疲労(小)、全身に傷(手当て済)
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、キバーラ@仮面ライダーディケイド
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:士に若干の興味、手当てをしながら話をする。
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:天道や加賀美と出会ったら……?
4:音也の言葉が、少しだけ気がかり。
【備考】
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。
※10分間の変身制限を把握しました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は夏海以外には出来ないようです。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※黒いカブト(ダークカブト)の正体は、天道に擬態したワームだと思っています。



059:Round ZERO ~ WORM INVASIVE 投下順 061:究極の目覚め(前編)
059:Round ZERO ~ WORM INVASIVE 時系列順 061:究極の目覚め(前編)
051:綺想曲♭もう一人のカブトと音也 門矢士 081:光と影
051:綺想曲♭もう一人のカブトと音也 紅音也 071:愚者のF/幕間劇
054:閃光の刻 矢車想 081:光と影