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狂気の果てに(後編) ◆MiRaiTlHUI






 まだ満足していない。
 目的は、自分が頂点に立つ事。
 それまで戦いをやめるつもりはないし、立ち止まるつもりもない。
 頭の中で響く声は、執拗に「戦え」と告げるが、そんな事は云われるまでも無かった。
 どうせこの高ぶりは、戦う事でしか押える事は出来ないのだから。




 今日という一日、既に何度も経験した事ではあるが、やはり誰も居ない市街地は寂しい。
 いつだって割と賑やかな生活を送って居た翔一にとっては、乾いた靴の音しか聞こえないこの空間は異質であった。
 だが、だからと言って立ち止まる訳でもなく。次の犠牲者が出る前に、何としてでもあのアギトの男を見付けねばならないのだ。
 翔一の足も、自然と走るか早歩きかのどちらかになっていた。

 病院から出て、何分くらいの時間が経過しただろう。
 恐らく、それ程の時間は経って居ない様に思う。
 頭を掻き毟りながら、翔一は呟いた。

「ああもう、どっちに行っちゃったかなぁ、あの人」
「こうなったのは自分の責任でもある。もう少し焦ったらどうだ」
「え、そう見えちゃいます……? これでも俺、結構焦ってるんだけどなぁ」
「悪いがお前が言う程焦っている様には見えないな」

 キバットの言葉に、翔一は歩を速めながらうーんと唸る。
 どうやら彼の目には、翔一は今それ程焦って居る様に見えないらしいのだ。
 これでも内心では結構焦って居る方だし、一刻も早く見付けたいと思っている。
 元来の明るさと軽妙さ故のあらぬ誤解だった。

「焦ったからって、俺がやるべき事を見失いやしません。やらなきゃいけない事は解ってるんですから」
「そうか……。だとするなら、お前は俺が思っていたよりも強い人間なのかもしれないな」
「ええ。こう見えて俺、結構強いんですよ。アンノウンだって沢山やっつけましたし」
「……そういう強さの話をしてるんじゃない」
「えっ、そうなんですか?」
「お前と話していると疲れる」
「はははは、良く言われます」

 白い歯を見せて、にっかりと笑って見せる。
 本当は笑って居られる状況などではないが、だからと言って場の空気を暗くするつもりもなかった。
 戦う時が来れば、確固たる覚悟を持って戦うつもりだ。だが、そうでない時はせめて、笑顔で居たい。
 だから無口なキバットが相手であっても、自らのペースは乱さずに居たいと願うのであった。
 それが津上翔一という人間の在り方だし、そこに間違いがあるなんて思ってもいない。

 不意に翔一が顔を上げた。
 元の世界に居た時は、アンノウンが行動を起こせばそれを察知する事が出来た。
 それと同じ能力がここでも使える訳ではないが、それでも起こった戦闘を察知する事は出来る。
 静謐である筈の市街地内で響き渡る、金属音の応酬と、気味の悪い狂った嗤い声。
 アギトであるが故か、いち早くそれを察知した翔一は、全速力で駆け出した。

「おい、どうした翔一!」
「誰かが戦ってます! もしかしたら、あのアギトの人かもしれません!」
「俺にはそんな音は聞こえなかったぞ」
「俺には解るんです。俺、これでもアギトなんで」
「ほう……それがお前が言っていた、アギトの持つ超能力とやらか」
「いや、今回はそういう訳じゃないですけど……まあ、そういう事でもいいです」

 たまたま翔一にだけ戦闘音が聞こえてしまったのだとしたら、単純な話だ。
 だが、仮にこれがアギトの超人的な五感によるものだとしたら、超能力と言っても差し支えない。
 翔一自身、アギトの力については完璧に理解している訳ではないのだから、説明が出来る訳も無かった。
 とりあえず、翔一にとってのアギトは「人が進化していく無限の可能性」なのである。
 それだけで十分だし、翔一だってそれ以上解明しようとも思わない。
 少なくとも自分にアギトの力があるのだから、自分は自分に出来る事をする。
 アギトの未来を否定する奴らが相手ならそいつらを倒すし、助けを求める声があれば助けに行く。
 アギトである以前に、それが津上翔一という人間だった。

 暫く走った所で、翔一は戦場となった市街地に辿り付いた。
 襲われて居るのは、翔一も良く知る小沢と、見知らぬ赤い戦士。
 襲っているのは、翔一の目の前で緑の戦士の変身を解いた――あのアギトの男だった。
 そして、考えるよりも先に両者の間に割り込もうとした翔一の耳朶を叩いたのは、小沢の言葉。

「城戸君! そいつは人じゃないわ……未確認よ!」

 それを聞いた途端、翔一の足が止まった。
 彼女が何を言っているのか、理解出来なかったのだ。
 だってそうだろう。あの人はアギトで、その力に苦しんでいる被害者では無かったのか。
 誰があの人を、既に滅んだ筈の未確認生命体だなどと思うだろう。
 思考が混濁する。色々と思う事があるが、今は目の前の状況を変えるのが先だ。
 アギトだと思っていた人は、小沢達をその手に掛けようと、肉食獣の化け物に変化した。
 それを見るや、面倒な考え事は全て吹き飛んで、翔一は戦場へと飛び出していった。
 小沢と、赤い龍のアギト(?)と、野獣の未確認の間に割り込み、

「小沢さん! この人が未確認って、本当ですか!」
「津上君!? ええ、そいつは未確認生命体B-2号よ!」

 現状を確認する。
 小沢が信頼に足る人間だと言う事は既に知って居るし、それを疑うつもりもない。
 つい今し方まで、自分がアギトだと思って助けていた男は、アギトではなかったのだ。
 それはかつて無作為に、或いは規則的なルールに従って、大勢の人間の命を奪った未確認生命体。
 アンノウンがアギトの未来を奪うのと同様に、未確認が誰かの未来を奪う事も、翔一は許せない。
 アギトだから殺すとか、ただのゲーム感覚だとか、そういう違いはあるが、その根底は変わらないのだ。
 理不尽な暴力で、平和に暮らしていた誰かの未来が奪われるのを、翔一は絶対に許すつもりはない。
 不意に、滅茶苦茶に破壊された赤いジャケットの男の遺体が視界に入った。

「小沢さん、あの人は、まさか……」
「……B-2号に殺されたのよ。私達が来た時には、もう……」

 瞬間、翔一の表情が激変した。
 今までの明るい表情とは比べ物にならない程の険しい表情。
 背中を向けた小沢やキバットに、それが見られなかったのはせめてもの救いだろうか。
 何はともあれ、これで病院で死んだ人と、赤いジャケットの人が、奴に殺された事が発覚した。
 押し寄せて来るのは、激しい後悔。人を信じたい……そんな願いが生んだ悲劇。
 それを改めるつもりはないが、それでも自分の行動によって人が死んだのだ。
 重たい重圧が、翔一の心を押し潰さんと迫る。

「翔一」
「解ってる、キバット」

 その声に、今までの軽妙さなどは皆無だった。
 重たく鋭い声が、視線が、目の前の獣の未確認に向かって放たれる。
 翔一の腹部で発生した小さな金の竜巻は、そのまま金色のベルトへと変わった。
 オルタリングが、翔一の心に従い、変身の輝きを放つ。
 いつも通りのポーズを取った後、翔一は高らかに叫んだ。

「変身ッ!!!」

 ベルトとなったオルタリングの両脇を、勢いよく叩いた。
 黄金の輝きが、オルタフォースとなって翔一の身体を包み込む。
 赤い二つの複眼に、雄々しく聳える龍の冠。金の装甲に身を包んだ翔一は、アギトへと変じていた。
 金のアギトとなった翔一を見るや、未確認は狂った様な嗤いを上げる。

「ゴラゲロ、ボソグ! ボソギデジャス、クウガ!(お前も、殺す! 殺してやる、クウガ!)」
「こうなったのは俺の責任です。あいつは、俺が倒します!」

 出来る事なら、アギトとして救いたかった。
 だけど、奴が人の命を奪う未確認であるのなら、話は別だ。
 悔いる事は後でいくらでも出来る。今はまず、この未確認を倒さねばならない。
 それは、翔一が普段アンノウンと戦う事と何ら変わりのない、アギトと異形との戦いだった。

 数瞬ののち、スミロドンとアギトが、同時にアスファルトを蹴った。
 アギトとしてアンノウンと戦い抜いた翔一の技量は、先の二人とは比べ物にならない。
 その肉を引き裂こうと突き出された強靭な腕を片腕でいなし、カウンターの拳を叩き込む。
 しかしそれは、今や究極の片鱗を見た敵には蚊程のダメージすらも与えられない。
 その拳を減り込ませたまま、スミロドンの強烈な蹴りがアギトの胴を抉った。

 アスファルトを転がりながら、これが未確認の力か、思う。
 まだ一合しかしていないが、こいつは並のアンノウンとはレベルが違う。
 それこそ、エルロードと同等くらいの力は持っているかもしれないと思う程。
 野獣は一瞬の動きで転がるアギトに急迫し、巨大な腕でその頭を掴み上げた。
 そのまま近場のビルの壁まで飛び付き、アギトの身体をコンクリートの壁に叩き付ける。
 圧倒的な怪力だった。どごん! と轟音が響いたかと思えば、コンクリートに亀裂が入る。
 強烈な物理ダメージを受けたアギトが、声にならない嗚咽を漏らした。

「ボンゾボゴ、ボソギデシャス、クウガッ!!(今度こそ、殺してやる、クウガッ!!)」
「ぐっ……このっ――」
「ゲェァァアハハハハハハハハハハァッ!!」

 巨大な腕に仮面ごと鷲掴みにされたアギトは、そのまま何度も頭を壁に叩き付けられる。
 未確認生命体の圧倒的なまでの怪力で以て行われる暴力は、流石のアギトでも堪える。
 強烈な連続の打撃に、意識が飛びかけたその時だった。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――!!」

 咆哮が響いたかと思えば、赤い龍がスミロドンの身体を弾き飛ばしていた。
 その場でずるりと崩れ落ちたアギトの身体を、赤い龍のアギト(龍騎)が支えてくれる。
 何とか立ち上がったアギトは、龍騎に一言礼を告げた。

「ありがとうございます、貴方は?」
「ああ、俺は城戸真司、小沢さんの仲間だ! あんたこそ大丈夫かよ!?」
「ええ……大丈夫、です。俺、もっとキツい戦いも……戦い抜いて来たんで」

 龍騎の腕から離れたアギトが、戦況を確認する。
 どうやらあの赤い龍は、龍騎の手によって呼び出された仲間らしい。
 空を自由に飛び回る赤龍には、流石のスミロドンもペースを乱されている様だった。
 得意の脚力で跳び回ろうにも、常に空を舞い、自由自在に尻尾の刀をぶつけて来る相手にはどうにも出来ない。
 次第にスミロドンも龍の動きに追い付く様になっているようだが、それでもこれはチャンスだ。

「城戸さん、貴方は小沢さんの方をお願いします」
「おう、任せろ! ……って、あんた一人であの化け物に勝てんのかよ!?」
「だから俺、こう見えても結構強いんですって。まだ見せて無い“とっておき”もあるんですから」
「マジかよ……! あいつに勝てる保証は!?」
「マジです。勝てる保証は無い……っていうか、証明出来ませんけど、勝ちます」
「……わかったよ! 小沢さんは俺が守るから、あいつはあんたに任せていいんだな!?」
「はい、もう大船に乗ったつもりで居てくれて大丈夫です」

 相手を安心させようと、軽妙な口調で告げる。
 アギトの言葉を受けた龍騎は、わかったと告げて、小沢の元へと走り出した。
 これで後顧の憂いは断ち切った。あの人なら、多分小沢さんを守り抜いてくれる。
 この殺し合いの場では、力を持たない人間は何処に居たって危険なのだ。
 それを考えれば、あの人に守りを任せたのは、現状で最も安全を確保出来る手段である。
 すぐに体勢を立て直したアギトは、赤い龍と戦うスミロドンの元へと駆け出した。

「ビダバ、クウガ!(来たか、クウガ!)」

 赤い龍の尻尾を回避し、そのまま飛び上がったスミロドンは、龍の背部にその巨大な爪を突き刺した。
 長い体躯を悶絶させながら、鼓膜を震わす絶叫を響かせる。そして、次の瞬間には龍の姿が掻き消えた。
 会場に掛けられたモンスターの時間制限を超過したのだ。当然、アギトにそれを知る術は無いが。
 何はともあれ、これで再びスミロドンとアギトの一対一の戦いであった。

「俺、貴方の事を信じたかったです。でも、貴方を放っておけば、またああやって人を殺す」
「ゴセグ、ドグギダ! ゴラゲロ、ボソギデジャスジョ!(それが、どうした! お前も、殺してやるよ!)」
「何言ってんのか、さっぱり分かんないですけど――」

 一瞬で間合いを詰めて来たスミロドンの爪を回避し、逆にアギトがアッパーを叩き込んだ。
 カウンターだ。スミロドンの強靭な腹筋に、アギトの拳がめきりと音を立てて減り込んだ。
 次いで、右脚のハイキックから左脚のハイキック。連続でスミロドンの頭を蹴り飛ばし、そのまま後方へと吹っ飛ばす。
 しかしそんなもので大した致命傷を与えられはしない。すぐに立ち上がったスミロドンに対し、アギトは構えを取った。

「――お前が人の命を奪うっていうなら、俺がお前を倒す!」

 重く鋭い口調で、ハッキリとそう宣言した。
 そして同時に、翔一の中に残って居た「人に対する喋り方」も消え去った。
 もうこれ以上、病院で死んだ人や、あの赤いジャケットの人の様な犠牲を出さない為にも。
 津上翔一という一人の人間の中で、人としての義憤が、絶対的な怒りの炎となって燃え上る。
 こいつは、アンノウンよりも性質(タチ)の悪い悪魔だ。見境なしに人を殺す、最悪の敵だ。
 ならば自分は、アギトとして、人の命を守る為に戦って見せる。
 それがアギトとして覚醒した自分に課された使命でもあるのだ。

 それを再確認した時、心の炎はアギトの身体にまで燃え広がる。
 オルタリングの輝きが黄金から紫に変わると同時、全身を灼熱の炎が覆った。
 そして、それは一瞬。すぐに炎の中から、新たな姿を得たアギトが現れる。
 当然、未確認にとっては初めて見る姿だ。目の前の敵が驚いているのが、手に取る様に解る。

 赤かったアギトの複眼は明るい黄色に。
 金色だった冠は赤く、常時クロスホーンを展開した状態に。
 上半身の筋肉組織は溶岩の如き熱量を放出しながら、更なる分厚さを体現する。
 燃え盛る業炎の姿。それが翔一が変じた、更なる進化を遂げたアギトの姿であった。
 それを見て何を思ったのか、スミロドンは狂った嗤いを上げながら飛び込んで来る。

 次の瞬間には、再び二人の拳が交差した。
 巨大な爪を持つ強靭な腕と、燃え盛る溶岩の如き腕が絡み合う。
 スミロドン放った拳を、アギトの腕が絡め取ったのだ。
 すぐにスミロドンは腕を引き、一瞬の内にもう一度爪を突き出す。
 その速度は並大抵ではない。スピードに劣るバーニングフォームでは完全に追い付くのは不可能だった。
 スミロドンの爪がアギトの溶岩の装甲に向けて振り下ろされ――その一撃を、まともに受ける。
 究極の一片を垣間見たスミロドンの力は相当。アギトの装甲を以てしても、翔一へのダメージは免れない。
 一瞬だけよろけそうになった足元を、それでも踏ん張って、アギトはその腕をがっしと掴んだ。

「――ッ!?」

 これで逃げ道はない。絶好の好機だ――!
 右腕を思いきり振りかぶり、その赤の拳に、灼熱の炎を纏わせる。
 それは、どんな強力なアンノウンをも打ち砕いて来た、必殺の炎の拳。
 燃え盛る灼熱が、ゴゴゴと音を立てて、周囲の空気を燃やし尽くさんと唸りを上げる。
 そして数瞬の後。

「ハアアッ!!!」

 どごん! と、強烈な破壊音が響き渡る。
 炎の砲弾となったアギトの拳が、スミロドンの胸部を抉ったのだ。
 次いで、拳を叩き込んだ箇所から、膨大な熱量を持ったフレアが噴き出した。
 撒き散らされた灼熱の炎を浴びて、アギトの筋肉の亀裂からは更なる炎が溢れ出る。
 微動だにしないアギトをよそに、スミロドンは数メートル後方まで一気に吹っ飛ばされていた。




 ようやく宿敵と出会えたのだ。
 我らの一族を狩る、怨敵が目の前に居るのだ。
 ならばどうして止まっていられよう。
 例え変身する手段が尽きたとしても、倒すのだ。
 例えこの身が朽ち果ててでも、倒さねばならない敵がそこには居るのだ。

 ――或いは、“彼が”そんな事を考える様になった時点で、既に異常だったのかもしれない。




 戦いが終わっても、市街地から喧騒は消えなかった。
 金属音や、怒号が聞こえる訳ではない。ただ、異常な声だけが響いていた。
 男は黒いコートを脱ぎ棄てて、屈強な筋肉を夕日に晒す。
 足元で砕けた金色のガイアメモリを踏み躙って、獣の如き息遣いで唸った。
 剥き出しになった瞳は真っ直ぐに灼熱のアギトを捉え、

「キヒヒヒヒヒ、ヒヒハハハハ、キッヒッヒヒヒャハハハハ――」

 未確認は、人の姿を晒して尚も嗤い続けていた。
 その光景を見ているだけでも不愉快だと、小沢澄子は思う。
 やはり未確認生命体は、決して解り合う事のない、人類全体の明確な敵だ。
 奴は多分、まだ自分が戦いに敗れたなどとは思っていない。
 まだ戦える。まだ殺せる。そう言わんばかりに、嗤いを止めないのだ。

「あ、あれっ!?」

 次に声を発したのは、アギトだった。
 未確認の男と相対するアギトが、その変身を解除したのだ。
 否。解除したと言うよりも、身体を覆う灼熱が、勝手に抜け落ちたと言うべきか。
 それもこの会場に掛けられた変身制限によるものだろうが、今はタイミングが悪すぎる。
 人間としての姿を晒す津上翔一は、最早戦う力などは持たない一般人同然なのだ。
 狼狽した様子の津上翔一に、未確認の男は一足跳びに跳び掛かった。

「クウガッ! クウガァァァッ!」
「な……っ!?」

 飛び込んだ未確認の男が、翔一の首を掴んで、持ち上げる。
 その腕に力を込めて、ギリギリと締め上げ――翔一の命を奪わんとする。
 流石に戦闘直後、しかも完全な不意打ちとあっては、翔一も十全たる力は発揮できない。
 苦痛に悶えながら、何とか未確認の腕から逃れようと、何度も男の身体を蹴る。

「城戸君!」
「駄目だ、俺ももう変身出来ない!」

 見れば、城戸真司も既に龍騎の変身を解除されていた。
 こっちも制限による強制変身解除が訪れたのだろうと判断するや、心中で舌を打つ。
 後から変身したアギトと殆ど同じタイミングでの変身解除というのが些か不可解だが。
 何はともあれ、龍騎に変身出来ない真司などは、最早自分と同じ完全な一般人だ。
 恐らく肉弾戦でも一般人よりも圧倒的に強いであろう未確認には太刀打ち出来まい。
 ならばどうする。今まさに散らんとしている翔一を救う手段は――

「小沢さん!?」
「私が、奴を仕留めるわ」

 両手で拳銃を構え、狙いをしっかりと未確認へ定める。
 この銃に込められた神経断裂弾は、未確認生命体を排除する為のもの。
 全身に張り巡らされた神経を強制的に断裂させ、生命維持を不可能にする必殺の道具だ。
 残念ながらアンノウンにそれが通用する事は無かったが、目の前のあいつはアンノウンではない。
 ならばこの武器の使い時は、今を置いて他には無い。
 足腰を踏ん張らせ、寸分の違いなく狙いを付ける。
 そして。

 ――ばぁん。
 一発目の銃弾は、狙いを大きく逸れた。
 未確認の肩に命中したそれは、貫通までとは至らなかった。
 さが、肩口で止まった銃弾は、それでも未確認にとっては致命傷。
 よく見れば、今までの戦いの影響か、未確認の身体は元々傷だらけだ。
 本来ならば、戦い続ける事自体が難しいくらいの状況である筈なのだ。

「ウ、グゥッ……リントグッ……!(リントがッ……!)」

 呻きと共に呟いた言葉に、小沢は戦慄すら覚えた。
 剥き出しになった未確認の瞳が、ぎょろりとこちらを睨んだのだ。
 先程までの戦闘での圧倒的な力量差もあって、それは確かな恐怖心となって小沢の枷となる。
 だが、しかし。

「津上君、そいつから離れなさい!」
「うっ……は、はい!」

 腕の力が弱った未確認の身体を、翔一の爪先が思いきり蹴飛ばした。
 最早虫の息となった未確認は、堪らず翔一の首から手を離す。
 翔一は自らの首を押さえ、咳込みながらも小沢の元へと駆けよった。

 そうだ。例え相手がどんなに恐ろしい敵であろうと、自分達は今まで恐れず立ち向かって来たのだ。
 同じ参加者とは言え、相手が未確認生命体で、見境なしに誰かを殺すのなら、小沢の中に容赦という言葉はあり得ない。
 スミロドンに防がれた一発と、今し方放った一発を考えるなら、残った弾丸は四発だ。
 四発あれば、確実に未確認を仕留める事が出来る筈だ。

 ――ばん、ばん、ばん。
 三発連続で放たれた弾丸は、それぞれが未確認の身体に命中する。
 実践的な拳銃の扱いとなれば、小沢は素人に等しい。
 それ故、発射の反動と、コルトパイソンの扱いにくさ故、上手く心臓を射る事は叶わない。
 一発は脇腹を掠める様に命中し、二発目は胸部の筋肉に。三発目は鎖骨の周辺に命中した。
 命中した箇所から真っ赤な血を垂れ流しながらも、未確認は進む。
 こちらへ向かって、一歩、一歩と、その歩みは止まらない。

「キヒッ……ヒヒ、ハハハハ……リントグッ……ボソグ、ボソ、ギ……デ、ジャス!
 (リントがッ……殺す、殺、し……て、やる!)」

 真司はもう、見て居られないとばかりに視線を逸らしていた。
 翔一は、辛い現実を見る様に、眉を顰め、神妙な面持ちで僅かに俯く。
 例え人を殺す化け物とは言え、敵が人の姿をしている以上は、そこに良心の呵責が生まれる。
 心優しい二人には、嬲り殺しも同然となった未確認生命体を、真っ直ぐに見る事が出来ないのだろう。
 人としては、それが普通だ。こうしている自分だって、不愉快極まりないのだから。
 だけど、警察官として、人間として、こいつを見逃す事は、もっと出来ない。
 だから。

「もう、いいでしょう」

 ――ばぁん。
 最後の一発は、未確認の腹部に命中した。
 一瞬だけ痙攣した未確認は、その場でばたりと倒れ込んだ。




 全身から、血の気が引いて行く。
 これが死ぬ、という事なのだろうか。
 嫌だ。死にたくない。折角力を手に入れたのに――
 折角この力で、思う存分他者を蹂躙出来ると思ったのに。

「リントッ……クウガ……ッ!」

 ズ・ゴオマ・グが最後に見たのは三人のリントだった。
 忌々しく小賢しい技術力で、我らグロンギに楯突いたリントと。
 少し姿は違うが、我らグロンギを愚弄する宿敵、クウガに変じるリント。
 嗚呼、殺したい。忌々しい奴らを、この手でブチ殺してやりたい。
 眼前の三人に向け、その腕をゆっくりと伸ばすが――
 伸ばされた腕は、誰にも届く事無く地へと堕ちた。

「ボソ、グ……クウ、ガ……ァ」

 狂人は、霞みゆく視界の中で、クウガの男へ呪詛の言葉を吐き出した。
 彼が宿敵クウガなどではないという事を、ついぞ最後まで知る事はなく。
 それが、理性を失い狂い果てた男の最期だった。




 三人の間に、言葉は無かった。
 勝利したと言うのに、こんなにも気持ちが悪いのは初めてだと思う。
 津上翔一も、城戸真司も、小沢澄子も、各々に形容しがたい不快感を噛み締めて。
 それでも生き抜いて行かねばならないのが、バトルロワイアルの非情さ。
 小沢が未確認の男が持って居たデイバッグを拾い上げ、言った。

「行きましょう。結構派手に戦ったし、ここもすぐに人が集まって来るかも知れないわ」
「小沢さん……俺、さっきは戦うって言ったけど、やっぱりこんなのって……」

 城戸真司は、今にも泣き出しそうな顔だった。
 怪人の姿をしたまま敵を倒せていたならばまだしも、あの男の最期は、あまりにも人らしかった。
 それも、最後の最期まで執着を見せつけ、憎しみに囚われたまま逝く姿など、人としては最悪の死に様だ。
 人ならざる未確認を最期の瞬間に人たらしめたのは、人だけが持つ、剥き出しにされた醜悪な感情だったのだから。
 それが真司という心優しい人間の心に、一体どれだけの影を落としたのかなど、小沢には計り知れない。
 だが、それでもここで立ち止まっている訳には行かないのだ。
 自分達は、生き残ってこの殺し合いを打破せねばならないのだから。

「今は無理に元気を出せとは言わないわ。でも、ここで立ち止まって居ても仕方ないのよ」

 デイバッグを抱えて歩き出した小沢の後を、二人の男が追随する。
 翔一は翔一で何か思う事があるらしく、嫌に元気が無い様子だった。
 これは立ち直るまで、何処かで休憩をした方がいいかもしれない。
 それに、出来るならここに居る三人の間での情報の共有も済ませておきたい。
 その為にも、まずは休める場所を探す事にしようと、小沢は判断したのだった。


【1日目 夕方】
【E-2 住宅街】


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】健康、疲労(中)、罪悪感、仮面ライダー龍騎に二時間変身不可
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー、絶対に戦いを止める。
0:人の死による不快感
1:今は小沢に着いて行く
2:ヒビキが心配
3:蓮、霧島、北岡にアビスのことを伝える
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。
※アギトの世界について認識しました。


【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤(第46話終了後以降)
【状態】健康、疲労(中)、不快感、仮面ライダーアビスに二時間変身不可
【装備】コルト・パイソン+神経断裂弾(弾数0)@仮面ライダークウガ、アビスのデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×4、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ
    レンゲルバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クラブA~10、ハート7~K、スペードの7,8,10~K)@仮面ライダー剣
    ゴオマの不明支給品0~1、三原の不明支給品(0~1)
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー、殺し合いを止める。
1:今は休める場所を探し、二人を落ち着かせる
2:真司と翔一の二人と情報の共有を図りたい
3:何故後から変身したアギトが龍騎と同じタイミングで変身解除されたのか……?
【備考】
※真司の支給品のトランプを使うライダーが居る事に気付きました。
※龍騎の世界について大まかに把握しました。


【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康、疲労(中)、罪悪感、仮面ライダーアギトに二時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、
    ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー、殺し合いはさせない。
0:自分の行動がゴオマの殺人に繋がった事による罪悪感
1:今は小沢さんに着いて行く
2:落ち着いたら、小沢さんや城戸さんと情報交換がしたい
3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
4:木野さんと会ったらどうしよう?
5:何故突然変身を解除されたのだろう?
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。


【全体備考】
※スミロドンメモリはバーニングライダーパンチによってブレイクされました。
※ズ・ゴオマ・グの遺体はE-2 住宅街に放置されています。
※ズ・ゴオマ・グの遺体には、ダグバのバックルの欠片が埋め込まれたままです。

【ズ・ゴオマ・グ@仮面ライダークウガ 死亡確認】
 残り43人



062:狂気の果てに(前編) 投下順 063:草加雅人 の 仮面
062:狂気の果てに(前編) 時系列順 063:草加雅人 の 仮面
062:狂気の果てに(前編) 津上翔一 064:いつも心に太陽を(前編)
062:狂気の果てに(前編) ズ・ゴオマ・グ GAME OVER
062:狂気の果てに(前編) 城戸真司 064:いつも心に太陽を(前編)
062:狂気の果てに(前編) 小沢澄子 064:いつも心に太陽を(前編)