いつも心に太陽を(前編) ◆7pf62HiyTE



【P.M.05:55 F-2 住宅街】


 『それ』の動きは余りにも速く――

「がはっ……」

 更に変身しようにもデッキあるいはベルトも反応しなかった故に――

「ぐっ……」

 2人の身体は醒杖によるなぎ払いによって軽く宙を舞い――

「城戸……!」

 左右の壁へと叩き付けられた――

「間違いない、アレはあの時俺を襲った……」

 唯一『それ』の攻撃による直撃を免れたキバットは『それ』が病院での襲撃者である事に気が付いていた。
 緑と金の装甲に身を包んだ戦士――名はレンゲルであるがそれを知る者はこの場にはいない。

「そんな、キバットを襲ったのはあの人じゃ……」

 激痛で思う様に動かなくとも何とか立とうとする翔一が口を開く。
 仮に目の前のレンゲルがキバットと自身が保護し先程倒した未確認を襲撃したとしても、その人物は逆に未確認生命体によって返り討ちに遭った筈、
 死体を確認した時は仮説の域を出なかったものの、先程その未確認である事は断定した。
 ならば、目の前のレンゲルは一体誰なのだろうか?

「いや、奴の持っていた鎧をあの未確認……そいつが手に入れたならば……」

 キバットはあくまでも冷静に思考を纏める。
 襲撃者の持つレンゲルの鎧を襲撃者を仕留めた未確認が確保した可能性が高い。その未確認が死んだ今、彼の所持品を持つ人物は――

 だが、そんなキバットの思考よりも早く真司はレンゲルの正体に気が付いていた。
 翔一達が到着した時点で未確認はスミロドンドーパントに変身していた為気付くのがワンテンポ遅れていたが、真司達はレンゲルに変身していた未確認と交戦していた。
 故に、その未確認生命体の所持品の中にレンゲルのデッキに相当する物が存在する事に気が付いた。そしてそれを持っている人物についても――

「……さん……」

 だが、気付いたからと言ってそれは到底納得出来るものではない。
 何しろその人物は翔一の仲間であり、自分を助けてくれた人物なのだから――
 だから、唐突に自分達を襲った事が理解出来ないのだ――

「どうしたんだ……小沢さん……! やめてくれ……!」


 真司の悲痛な叫びを聞いても目の前のレンゲルは決して表情を変えはしない――



 小沢の心と躰は未知なる存在の手(アンノウンハンド)が繰り出す糸に絡め取られていたのだから――






【P.M.05:42 E-4 住宅街】


「おい橘、もう病院過ぎたんじゃないのか?」

 そう口にする日高仁志ことヒビキの声で装甲車のハンドルを握る橘朔也は我に返り急ブレーキを掛けた。

「はっ……すまない、少し考え事をしていた……」
「無理もないか……」

 約30分程前、橘達はある者達と交戦した。厳密に言えば橘、ヒビキ、そして今現在車の後部で気を失っている小野寺ユウスケの3人が各々1人ずつ計3人の危険人物とそれぞれ交戦した。
 が、結論を言えばその戦いはある1人の参加者による戦いとすら呼べやしない蹂躙というものであった。
 結果、その時に対峙していた2人の参加者が命を落とす事となった。危険人物ではあったものの死んで良いという事はない。
 だが、重要なのはそこではない。経緯はどうあれ流れを踏まえて考えれば5対1の戦いになったと考えて良い。
 しかし、5人――橘達は殆ど為す術無く倒された。
 数時間前、海藤直也と名護啓介の2人と別行動を取ったが彼等がいたならば結果は変わっていただろうか?
 答えはNOだろう、恐らく死体が増えるだけだったと考えて良い。
 あの戦いでは少なくても橘が変身した仮面ライダーギャレン、ヒビキが変身した鬼こと響鬼はその時点で自身の持ちうる全力で繰り出した必殺技を叩き込んだ。それぞれある程度疲弊したとしても並の相手ならば撃退出来た筈だ。
 しかし結果としては殆ど……いや、全く通用しなかった。
 逆に相手の攻撃は凄まじく、自分達では全く対応しきれなかった。それ程までに凶悪な相手だったという事だ。幾つかの幸運――いや、偶然が重ならなければ全滅していたといっても過言ではない。
 数多の激闘を経た2人であっても恐ろしい相手だったのだ。それ故、その事ばかり考えてしまい目的地を過ぎてしまうのもある意味仕方のない事だろう。

 2人は装甲車から外に出て周囲を見回す。病院に向かう為に改めて自身の現在位置を確かめる必要があったからだ。
 彼等の手には場所を確かめる為の地図が握られている。地図によると病院まではそう距離は離れていない様だ。

「この辺りでも戦いがあったみたいだな」

 周囲を見回した所、何かが壊れた痕跡やデイパックの破片らしき物があった。それから考えて近くで戦いが起きたと考えて良い。



「そういえば……」
「何か知っているのか橘?」
「ああ、俺が戦った相手だったんだが……」

 橘は先の戦いで自身が戦った相手の事について話した。
 橘は名前を知る事は無かったがその相手、東條悟は元々病院方面から来たらしく、そこで橘の後輩である剣崎一真達と戦い、更に危険人物も迫ってきたという話もある。それを踏まえて考えるならばこの辺りが戦場になってもおかしくはない。

「そうか……何とか剣崎や名護、それに海堂と合流しなきゃならないな」
「いえ、恐らく剣崎はもう……」

 東條の話では病院にやって来た危険人物を止めようとし命を落としたらしい。それだけで死んだと考えるのは早計だろうが、

「もし、あの時の様にライダーシステムが機能しなければ……奴の推測はほぼ確実だと考えて良い……」

 先程の戦いで橘は変身解除後もう一度変身しようとしたがそれは出来なかった。どういう経緯かは不明だが変身に関してはある種の制限があるらしい。
 その制限を剣崎が受け変身不能状態に陥ったならば戦いにすらならないだろう。

「それに夏海……小野寺の仲間も……」

 更に、東條がユウスケの仲間の光夏海を殺した事についても話した。2人の間に重い空気が流れる。
 今ユウスケが気絶していた事はある意味幸運だったのかもしれない。
 何れは知らされる事ではあったが、あれだけの無惨な戦いの後で伝えるよりもある程度落ち着いた時に知らせた方が良いからだ。
 数人の仲間の死亡を確認する意味も込め2人は名簿を確認する――だが、夏海と剣崎はともかく先の戦いで命を落とした2人の名前は知らない故確認しきれない。

「名簿の配置から考えて、小沢の近くの誰かだと思うけどな……」

 ヒビキが口にする人物は北條透の事だ。名簿上では自身の世界の関係者が近くに書かれていた事、北條が今際の際に小沢の名前を口にしていた事から小沢の近くにある名前の人物という事は推測が付く。

「……待てよ」
「どうした橘?」
「ヒビキ、確かあの未確認生命体はダグバと名乗っていたな?」
「ああ、そういえばわざわざ名乗って……それがどうかしたのか?」
「少し上を見てくれ、ン・ダグバ・ゼバ……コイツに間違いないだろう」

 名簿を確認した所、先に戦った人物はン・ダグバ・ゼバなる人物と考えて良い。
 あまりにも特徴的な名前ではあるが、それが未確認生命体の名前の特徴と考えるならば別段不思議はない。
 が、重要な事はそこではない。問題は同じ様な法則で着けられた名前が他に2つあるという事だ。
 しかもダグバを含めそれらは小沢や津上翔一達から見て比較的近くにある。同一世界からの参加者の可能性が高い。


 橘が導き出した仮説は新たな絶望を呼び込むもの、それは――


「未確認生命体は他に2人いる」





【P.M.05:50 F-2 住宅街】


「どういうことだよキバット……」
「言葉通りの意味だ、さっき倒した奴以外に……」
「未確認が他に2人いるってことですか?」

 橘が導き出した仮説と同様の事をキバットが翔一、そして城戸真司に対し述べられた。
 此処に至るまでにはほんの数分ほど時を遡る事になる――



【P.M.05:46 F-2 住宅街】


「それじゃ、近くで休めそうな所探してくるから2人とも待ってなさい」

 そう言って小沢澄子は弾が入っていない拳銃を構えつつ周囲を調べに向かった。
 彼女を待つ翔一と真司の表情は重く俯いたままだ。
 小沢が単身で向かったのはほんの数分前の戦いで精神的に疲弊した2人を気遣ってのものだったのだろう。

「未確認の所持品も確かめておかないとね……」

 そういって近くの建物の裏へと向かっていった。
 そして残された翔一の近くで赤と黒の蝙蝠キバットバットⅡ世が声を掛ける、

「翔一……俯くのは勝手だが、さっきまでの元気はどうした?」

 それは叱咤するでも慰めるでもなく淡々かつ荘厳とした口調である。もっともそれは彼が誇り高き名門キバットバット家の二代目としての自覚から発せられたものだろう。

「目の前で人が死んでいるのに元気なんて出るわけな……」

 確かに先程仕留めた相手は人間では無くモンスターと等しい未確認である。
 だがその死に様は怪人や怪物の類ではなくまさしく人間のそれそのもの。
 そのような陰惨な場を目の当たりにして平然としていられるわけもないだろう。
 故にキバットの言葉を耳にした真司は反発したわけだが、

「蝙蝠が喋ったぁー!?」
「あ、城戸さん、この人はキバットっていうんですよ」
「人間ではないがな……まぁいい、俺の名前はキバットバットⅡ世だ」
「Ⅱ世って……」

 先程からずっとキバットは傍にいたものの、色々な事があったが故に気付く余裕すら無く今更ながらに驚愕したのであった。

「ともかく、目の前であんな風に人が死んでいるのを見て平然としている方がどうかしているんだよ……」
「お前がどう考えていようが俺にとってはどうでも良い。だが、少なくても翔一が落ち込んでいる理由はお前が考えているのとは違うぞ」
「お前見てると蓮の事を思い出すなぁ……蝙蝠が絡むとみんなああなのか……大体違うって言われても……ん、そういえば……」

 真司は今更ながらに先の戦いの事を思い出す。確かあの戦いで翔一は未確認を見て何と言っていた?

『こうなったのは俺の責任です。あいつは、俺が倒します!』
『俺、貴方の事を信じたかったです。でも、貴方を放っておけば、またああやって人を殺す』

 確かそう言っていた様な気がする。未確認の凶行に翔一が関わっていたというのか?

「津上……」
「すみません。実は俺、あの未確認がアギトだと思って助けたんです……まさか未確認だとは思わなくて……」

 思えばその時点で致命的な勘違いをしていたのかも知れない。
 キバットに連れられ未確認と赤い鬼の怪人が倒れている現場を見た時、
 翔一は『赤い鬼のアンノウンに襲われ、不完全なアギトの力で撃退したものの自身も重傷を負った』と判断していた。
 だが、その仮説は正しかったのだろうか? そもそも赤い鬼の怪人はアンノウンだったのだろうか?
 確かにあの赤い鬼は怪人そのものだ。しかしそれがアンノウンという確証は何処にもない。
 人間では無くてもキバットの様な知性を持った生物という可能性は否定出来ない。
 当然、それが必ずしも危険人物だったとは断定しきれない。
 もしかすると、未確認の方が赤い鬼の怪人を襲撃した可能性だってあったのかも知れない。
 その可能性を全く考えに入れずに自身の常識だけで誤った結論を導き出したという事だ。

「だから、病院の人やあの赤いジャケットの人が死んだのは俺の所為でもあるんです……」

 その表情は何時もの明るく脳天気な翔一にしては珍しく真剣そのものだった。

「そ、そんな気にするなよ……俺だってもっと早く此処に来てたらあの人を助けられただろうし……」

 真司は赤いジャケットの人物が死んだ原因は自分にもあると言う。自身がもっと早く立ち直り現場に駆けつけていれば助けられていたはずだと。

 もっとも、実際の所その可能性は限りなく低かっただろう。
 真司達は気付いていないがあのタイミングこそが真司にとって丁度良いタイミングだったからだ。

 真司と小沢が氷の怪人に遭遇したのは大体の時間で3時半。いや、正確な時間で言えば3時18分だ。
 そのタイミングで真司は龍騎に変身し制限時間まで変身した。つまり変身解除時間は3時28分という事になる。
 更にこの場においては制限の関係上再変身が可能までには2時間待たなければならない。
 故に再変身が可能となる時間は5時28分という事になる。

 では、真司と小沢が未確認の所に辿り着いた正確な時刻は何時だったのか? 
 その時刻は5時29分――そう、再変身が可能となった直後なのだ。その時には既に赤いジャケットの男は事切れていて1分か2分早かった所で既に死は不可避だった。
 更に言えば数分早く駆けつけても真司は龍騎には変身不能、変身しようとして変身出来なかった時点でワンテンポ遅れる。戦いに置いては致命的な遅延だ。
 更に使い慣れていないアビスのデッキでは思う様に戦えない。故に結果が大きく変わる事は無かったという事だ。
 とはいえあくまでも仮説の話ではあるし、真司が知り得ない事である以上、責任を感じてもおかしい事ではない。

 そんな中、真司は更に言葉を続ける。

「それに、アイツが未確認だろうがなんだろうが助けたいと思ったんだろ、死なせたくなかったんだろ? 俺だってあの場にいたらそうするさ」

 真司は翔一の行動を責める事はしない。
 かつて餌を与えなかった事で自身のモンスターに喰われ自滅しそうになった浅倉威を真司は助けた事がある。
 浅倉威は凶悪な殺人犯で仮面ライダー同士の戦いにおいても何人ものライダーを仕留めた危険人物だ。
 客観的に言えばあのまま自滅した方が良かったという見方もある(もっとも、真司以外のライダーは敵が減る程度の意味で自滅を期待していたわけだが)。
 それでも真司は浅倉を必要とした少女がいた、浅倉でも死んで欲しくない人がいる。そう考え浅倉を助けたのだ。
 故に、真司も目の前で誰かが死にそうな現場に遭遇したならばそれが凶悪な人物であったとしても助けに入っていたと断言出来る。

 目の前で傷付き苦しんでいる人々を守る、それが城戸真司の戦う動機であり仮面ライダーとして戦う理由なのだから。


 その自身が選んだ行動により望まぬ結果を突き付けられる事もあるだろう。
 その先に辛い事や苦しい事は数多く待っているのだろう。
 真司自身も何度と無く迷う事もあるだろう。


 それでも根底にある本質――『願い』は決して揺るがない。


 他者から見れば愚かであろうとも、誤りであろうともそんな事は問題ではない。


 真司自身が長い長い戦いの果てに辿り着いた事なのだから――


「城戸さん……ありがとうございます」

 翔一が少し笑みを浮かべ真司に応えた――

「翔一、名簿を出してくれ」

 ――その流れを断ち切るかの如くキバットが口にする。

「何なんだいきなり……」
「キバット、急に何で……」
「少し気になる事があってな」

 と、翔一の出した名簿を確認する。
 キバットが気になったのは未確認の存在だ。詳しい事は知らないが恐らく自身の世界におけるファンガイアに相当する存在と考えて良い。
 基本的に戦いに関わる気は無い為、知ろうが知るまいがどうでも良いとも言える。
 とはいえこの戦いには一応真夜のいる世界が懸かっている。
 流れがどうなるか不明瞭ではあるし現状自身がやる事など殆ど無いわけだが、このまま未確認を野放しにするわけにもいかない。
 把握出来る所は把握しておくべきだろう。
 何よりこのまま大ショッカーの思惑通りにいくのは気に入らない、それがキバットの本心だ。

「(音也や渡、それにキングの位置関係から同じ世界の連中は固まって書かれているのは明白。そして、未確認は翔一の世界からの参加者……つまり翔一の近くに未確認の名前が書かれている)」

 勿論、普通に考えれば名前を見ただけでは誰が誰かなどわからない。しかし、

「(連中の言動から考え、奴等は人間とは違う文化形態を持っている……名前に関してもな)」

 突然だがここで名前に関しての解説をしよう。
 翔一達がアンノウンと呼ぶ異形の存在だがそれはあくまでも警察側が付けた呼称でしかない。
 彼等にはそれらとは別にちゃんとした名前がある。もっともそれが触れられる事は基本的に無いわけだが。
 また、キバットの世界に存在するファンガイアもそれぞれが固有の呼び名である真名を持っている。
 例えば真夜は『冷厳なる女鍋の血族』、キングは『暁が眠る、素晴らしき物語の果て』という真名を持っている。
 我々人間からすれば明らかに異質ではあるがそれが彼等の文化形態である以上とやかく言う事では無いだろう。
 閑話休題、つまり未確認生命体が人間達と違う文化を形成しているのであれば当然名前に関しても人間社会からは考え付かない様なものになっていても不思議ではないという事だ。

「(ズ・ゴオマ・グにゴ・ガドル・バ、そしてン・ダグバ・ゼバ……この特徴的な名前と翔一との位置関係から見て奴等が未確認と考えて良い。
 ――だが、どういう事だ? 近くと言えば近くだが微妙に離れているのが引っかかるが……)」

 キバットの推測通り、翔一や小沢の比較的近くにゴオマ達の名前は描かれている。
 しかし厳密に言えば翔一達のグループとゴオマ達のグループの間は行が空いている。近くのグループと言えば近くではあるが引っかかりが感じる。

「(だが、翔一の周囲の連中は皆知り合いらしい……それ以外にも未確認がいるとなると、少し離れた所に書かれている連中も翔一の世界の連中と考えるべきか?)」

 しかし、前に『アギト』についての話を聞く際に翔一のグループに書かれている連中が翔一の知り合いである事は把握済み。
 それ以外に翔一の世界の連中がいるとなると近くのグループという事になるだろうが――

「(仮にそうだとして、その内の1人が死んだ時点で……)」
「おい、どうしたんだよ……」
「まだ確証があるわけではない……静かにしろ」
「キバット、俺達に関係がある事だったら俺達も知るべきじゃ……」
「一理あるな……いいだろう。だが、長々と説明する気はない。結論だけ言うぞ――」






【P.M.05:48 E-4 住宅街】


「ダグバ以外にも未確認が2人いるって言うのか……」
「ああ、名前から考えて間違いないだろう。ガドルとゴオマ、それがこの地にいるダグバとは別の未確認だ」
「だからと言って、ダグバよりも強いとは限らないだろう」
「いや、ダグバ程強くは無くても俺達が今まで戦ったアンデッドや魔化魍よりずっと強いと考えて良い」

 橘は名護達と見つけたクウガと未確認の戦いについて書かれた記事の事について話す。
 その記述によると『未確認生命体第41号』との戦いでは半径3km全てが吹き飛ぶ程の大爆発が発生したとあった。
 勿論、その記事以外にも大きな爆発が起こったという記述があった。
 それは未確認との戦いがそれだけ熾烈なものであるという事の証明だろう。

 少なくても橘達が経験した限り大量の被害は出ても周囲数キロを巻き込む程の大災害は殆ど無い。
 また、自分達の戦いは基本的に表沙汰にはならない。それを踏まえて考えればクウガと未確認の戦いの記事も氷山の一角でしかないと考えて良いだろう。
 つまり、実際の戦いは記事以上のものであり、それに関わるクウガと未確認の強さも相当なものと考えて良いだろう。
 アンデッドや魔化魍の戦いよりも大きな被害を出している事からその強さは自分達よりもずっと格上という事だ。

「どうしたものかな……」

 ヒビキは橘の仮説を神妙な面持ちで聞いていた。無論、橘の仮説が正しいというわけではないがダグバの実力は身を以て経験している。
 残る2人がそれより強いという確証は無いものの、逆に弱いという保証もない。相当な強さであると考えるべきだ。

 重要なのはダグバに手も足も出なかった現状でどうやって対抗するかだ。
 何時ものヒビキならば鍛えるだけだと答えれば済むし今もそう思っている。
 しかし、その鍛えている時間の間でダグバや他の未確認は多くの参加者を殺し回るのは明白。
 魔化魍ならばある程度対策が取れるが、ある程度知性のある未確認がどう行動するかは読み切れない以上対策も取りづらい。
 仲間達と力を合わせるとしても生半可の力では無駄に犠牲者を増やすだけだ。
 更に言えば弟子になって間もない桐谷京介や鬼の道を断念した天美あきらをその危険に巻き込む事など言語道断だ。

「橘には何か策はないのか?」
「俺の知る限り対抗出来る人物は2人だけだ」

 橘がいう2人の1人は相川始ことジョーカー、
 ジョーカーはアンデッドの中でも特異な存在で、彼がバトルファイトを勝ち残った場合世界が滅亡すると言われている。
 だがその実力はアンデッドの中でも最強、恐らくジョーカーならばダグバにも対抗出来る筈だ。
 とはいえ世界を滅ぼす危険人物をアテにはしたくはない。では、もう1人は――

「キングフォームになった剣崎なら対抗出来るだろう……」
「キングフォーム?」
「ああ、俺達のライダーシステムの強化形態……」

 先程北條のデイパックを確かめた際に見つけたラウズアブゾーバーと自身の持つギャレンバックル、そしてラウズカードを取り出し、

「コイツと13枚のカードを使って13体のアンデッドと融合した姿だ。ジョーカーになる危険を伴うがジョーカーに匹敵する力を持っている……」
「ちょっと待ってくれ、さっき剣崎は……」
「そうだ……だからもうアイツを頼るわけにはいかない……それにアイツが生きていても俺はアイツをジョーカーにはさせたくない」

 橘の表情は重く思わずアブゾーバーとバックルを落としてしまう。ヒビキはそれを拾い上げる。

「橘はなれないのか? そのキングフォームって奴に」

 と、ラウズカードを見ながら橘に問いかける。

「いや、本来のキングフォームはカテゴリーKのアンデッドとだけ融合した姿だ。恐らく俺じゃその姿にしか成れないだろう。それ以前に手元にカテゴリーKのカードが無い以上最初から無理な話だ……
 何より、アブゾーバーを起動させるにはカテゴリーQが必要だ。それが手元に無い今はカテゴリーJと融合したジャックフォームにすらなれない」
「打つ手無しか……」

 2人の間に流れる空気が重い。

「小野寺以外に太刀打ち出来る奴はいない……か」

 先の戦いで唯一ダグバに対抗出来たのは漆黒のクウガとなったユウスケだけである。
 途中で力尽きたもののダグバすらも圧倒していた事は2人にもわかる。
 無論、ユウスケだけに頼る事は心苦しいが他に有効な策が無いのが現状だ。




 しかし、

「果たしてそうだろうか?」

 橘はそれには否定的だ。

「どういう事だ橘、あの時の小野寺の力はお前だって見ただろう」
「それはわかっている。だが俺にはアレが恐ろしいものに見えた……」

 そう、あの時のクウガは何時もの赤い姿のそれとは違い全身が黒く、肩や両足そして両腕に突起物がある事からも非常に刺々しく、何も知らない見れば恐怖と破壊の象徴でしかないだろう。

「橘の言いたい事はわかる、だが実際はアイツのお陰で俺達は……」
「アイツがダグバと同じ力を持っている、それはつまりアイツもダグバと同じ事が出来るという事だ。その力が俺達に向けられたらどうする?」

 橘の危惧はその力がダグバ以外の他者に向けられた時の事を警戒する。それが意味する事など語るまでも無いだろう。

「そうさせない為に俺達がいるんじゃないのか?」

 強い力に呑まれる危険性はヒビキも理解している。理解しているからこそそうさせない為に自分達がいるとヒビキは応える。

「俺達にそれが出来るとは思えない」
「橘!」
「ヒビキ……ダグバの言動を思い出せ」

 先の戦いでのダグバの言動を思い返す。あの時、ダグバは対峙していたはずのクウガを放置して橘達の所に向かい殺戮を繰り返した。
 クウガなど歯牙にもかからない存在だったのか? いや――

『……なんだ、まだ怖くなってないの? クウガ』
『こうまでしてあげたのに、何で怖くならないのかな? 早くしてよ』

 その言葉から察するにダグバはクウガに何かをさせようとしていたのはわかる。

「まさか……」

『…………君も、なれたんだね』
『究極の力を、持つ者に!』

 度重なるダグバの凶行の果てにユウスケは漆黒のクウガとなった。ダグバはそれに驚く事無く、漆黒のクウガへと向かっていった。

「そうだ、ダグバにとって最初から俺達などユウスケをあのクウガにさせる為の生贄でしかなかったんだ……俺達を殺す事で小野寺の心を憎しみと怒りで満たす事が狙いだったんだろう……」
「憎しみと怒りか……」

 それを聞いた以上、あのクウガが望ましい存在とは言えなくなった。憎しみに囚われる事は自分達にとって一番あってはならない事だからだ。

「だが、そんな事やってダグバに何のメリットがあるんだ? 自分を倒しかねない相手じゃないのか?」
「ダグバにとってはそれでも構わないんだろう。あの時のダグバはそれを楽しんでいた様だったからな……それが目的だったんだろう」

 思えばダグバは自分達を殺そうとした時よりも漆黒のクウガと戦っている時の方が活き活きとしていた気がする。

「きっと、ダグバはこれからも小野寺を追いつめる為に他の参加者を殺し続けるだろう……今よりも憎しみと怒りに支配された小野寺と戦う為に……だが、その果ては……」

 未確認とクウガの戦いは周囲数kmに被害を及ぼす程のものだ。故に未確認の中でも最強と呼べるダグバとそれに匹敵する力を得たクウガの戦いの果ては――

「破滅しかない――ということか」


 そう話し合う2人を余所に――近くのガラスの破片の奥から彼等を見つめるモノがいた――


 『そいつ』はゆっくりと片方の男に狙いを定め――






【P.M.05:51 F-2 住宅街】


 『それ』は静かに時を待っていた。
 『それ』にとっては世界を懸けた戦いなど理解出来ないでいる。只『自身』が戦い勝ち残ればそれで良いと考えていた。
 とはいえ『それ』にとって状況は芳しくはなかった。宿主である男――桐生豪は意のままに戦ってくれたが何れも惨敗、
 カテゴリーKのみならず別の世界の仮面ライダーにすら勝てない体たらくだったからだ。
 そして最後に戦った相手は蝙蝠のアンデッドの様なもの。その力は強大で最強の仮面ライダーであるレンゲルの力を持ってしても為す術が無かった。
 とはいえ悲観する事は無いだろう。桐生が使えなくなったならば目の前の蝙蝠のアンデッドを利用すれば済む話だ、今度は奴を利用する事にした。
 奴自身もそれを望んでいた為か奴も『それ』にとって都合良く動いてくれた。レンゲルの力で数人の参加者を圧倒し1人仕留める事が出来た。
 だがまたしても一度桐生を撃退した仮面ライダーと女が現れた。『それ』はレンゲルの力で今度こそそいつ等を仕留めようとした。
 が、途中で変身は解除、それでも宿主は戦いたがっており『それ』も戦闘意欲を煽り、虎の怪物に変身させ仕留めさせようとした。
 しかし、別の仮面ライダーが現れそいつの攻撃で変身は解除され、女の銃弾によって奴は死に絶えた。
 これで『それ』の戦いは終わったのだろうか?
 否、バックルに装填されたままの『それ』の邪悪な意志は決して消えやしない。全てのアンデッドと仮面ライダーを倒し頂点に立つ為に戦うのだ。
 宿主がいなくなったならば別の宿主を探せば良い。そいつを自分の意のままに操れば済む話だ。

 そしてその標的はすぐ傍にいる――



 未確認生命体第3号あるいはB-2号と呼称されるズ・ゴオマ・グとの戦いで翔一と真司は大きなショックを受けていた。
 翔一は自身が彼を助けた事で死者を出した事について、
 真司は目の前で『人間』が『人間』によって殺された事について、
 落ち込む2人の一方で実際にズ・ゴオマ・グを仕留めた小沢は気丈に振る舞い2人を引っ張っていった。それこそ落ち込む素振りなど見せないかの様に――

 だが彼女は本当に何も感じていなかったのか? 未確認を自身の手で仕留めた事に何もショックを受けなかったのか?

 そんな筈はないだろう。彼女だって殆ど死に体となった未確認を一方的に射殺した事に不快感を覚えていた。
 そもそも彼女は開発や研究、あるいは後方からの支援が主な仕事で基本的に最前線に出たりしない。
 実際に怪人を仕留める事など慣れてはいない。
 それ以前に彼女自身も人間の感情や人格を持っている。同僚から見れば非常に意外だが学生時代は些細な事で落ち込んだりどうでも良い事で有頂天になった事もあると自身が語っている。
 彼女はG3を発展、進化させたシステムとしてG3-Xを造り出したが同時期にG4システムも造り出していた。
 だがG4システムは装着員に強大な力を与える反面、身体への強い負荷により死に至らしめるという根本的な欠陥を抱えていた。その危険性故に彼女はそのシステムを封印した。
 そう彼女自身も人が死ぬ事が良しとしていないのだ。そうでなければ人を死に至らしめる危険なシステムを封印する訳が無い。

 故に小沢自身もまた『人間の姿をした』未確認生命体を自ら射殺した事で精神的に疲弊していたのだ。
 それでも人々を率先して守る警察という立場もあり、落ち込む2人の前では何事もなかったかの様に気丈に振る舞わなければならない。そうでなければ人々など守れないのだから。
 だが、それが彼女の精神を加速度的にすり減らしていく――

 そう、迫る『糸』に気付く事も、振り払う事も出来ぬ程に――




「あいつみたいな奴がまだ2人もいるのかよ……」
「奴を見ても相当に危ないのは確かだ。信じるにしろ信じないにしろ警戒すべきだろう」
「冗談じゃない……」

 未確認が危険人物なのは真司にだって理解出来る。だが、先程戦った未確認の最期は人間のそれそのものだ。
 真司にとっては未確認も人間と同じだ。故に彼等と戦う事に戸惑いが生じるのはある意味仕方のない事だ。

「城戸さん、貴方の気持ちわかります。俺だって本当はあの人の事を信じたかったですし、倒さないで済むなら倒したくはありませんでした」

 翔一はそんな真司に対しこう口にする。

「でも、あの人が誰かの命を奪う以上は止めないと……」
「そんな事は言われ無くったって解っている! だけど俺には……」

 人を殺すならば倒す事も辞さない翔一に対し、真司は理解していても出来ないと訴える。

「それぐらいにしておけ、どちらにせよこの事はあの女に話しておいた方が良いだろう」

 言い争いになる前にキバットが2人を止める。確かにこの事は未確認に詳しい小沢を交えて話し合うべきだろう。


 その時、


──OPEN UP──


 電子音声が響いてきた。


「今の声……まさか!」


 前に1度同じ音声を聞いているキバットが周囲を見回す。


「おい、キバットどうしたんだ?」
「あれは!?」


 2人と1匹が振り向く先に『それ』はいた――


 金と緑に彩られ、クラブあるいはスパイダーをモチーフとした甲冑を身に纏った戦士――


 その名はレンゲル――


 レンゲルは醒杖レンゲラウザーを構えたまま翔一達へに迫る。


「くっ……!」


 レンゲルが敵か味方かは不明。しかし迫り来るならば応戦せねばならない。故に翔一は腰にオルタリングを出現させ――


「アレは……まさか……」


 一方の真司は目の前の相手の正体に薄々気付いていた。何故『彼女』が変身しているのか? 何故自分達を襲おうとしているのか?
 疑問が渦巻くものの迫り来る以上対処しなければならない。故に近くの建物のガラスにデッキを掲げVバックルを出現させ――


「「変身!!」」


 それぞれのもう1つの姿、アギトそして龍騎へと変身しようとした――が、


 ベルトは応えなかった――当然だろう、この地では1度変身解除されれば2時間は同じ姿には変身出来ない。
 翔一も真司もほんの数分前に変身して戦ったばかりだ。変身が出来る道理などないだろう。


「どうしたんだ?」
「やっぱり……」


 それを知らない翔一は疑問に感じ、ある程度話を聞いていた真司は表情を強ばらせる。


 だが、レンゲルは決して足を止めたりはしない――故に――


「翔一……!」


 見ているだけのキバットの呟きと共に――




063:草加雅人 の 仮面 投下順 064:いつも心に太陽を(後編)
063:草加雅人 の 仮面 時系列順 064:いつも心に太陽を(後編)
062:狂気の果てに(後編) 津上翔一 064:いつも心に太陽を(後編)
062:狂気の果てに(後編) 城戸真司 064:いつも心に太陽を(後編)
062:狂気の果てに(後編) 小沢澄子 064:いつも心に太陽を(後編)
061:究極の目覚め(後編) 小野寺ユウスケ 064:いつも心に太陽を(後編)
061:究極の目覚め(後編) 橘朔也 064:いつも心に太陽を(後編)
061:究極の目覚め(後編) 日高仁志 064:いつも心に太陽を(後編)
061:究極の目覚め(後編) ン・ダグバ・ゼバ 064:いつも心に太陽を(後編)



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最終更新:2011年12月11日 13:41