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暁に起つ(前編) ◆MiRaiTlHUI




 夕方ともなれば、参加者を照らす太陽も、暁となって徐々に沈んで行く。
 天道総司と名乗った青年は、何処か虚ろな瞳で、沈みゆく太陽をぼんやりと眺めていた。
 海堂直也は別段何か下らない事を言う訳でもなく、黙々と歩を進めるだけだった。
 ここには車もなければ、人もいない。空っぽの街を染める夕焼けには、何処か寂しさを覚えるものだ。
 暁の不気味な寂しさと、妙な空気のざわつきが、名護啓介の心を焦らす。気は緩められない。ここは戦場なのだ。
 落ち着かない気持ちを宥めて、何ともない風を装って、名護は先陣を切って歩く。
 F-4から東京タワーへ向かうには、直線ルートでは不可能だ。例え迂回する事になっても、F-5を通らねばならない。
 人を率いる者として、自分が三人の代表となって先頭を歩くのは当然だと思うし、その行動自体に間違いは無かったと思う。
 例え何かがあったとしても、例えば、敵に襲われたとしても、自分が先陣を切って三人で共闘すれば、負けはないと思う。
 だけれども、名護の胸の奥で芽生えた、焦慮にも似た危機感は、そんな理屈で押し殺せるものではなかった。
 筆舌に尽くし難い、異様な圧迫感を肌で感じたのは、調度名護の眼前に一人の男が現れてからだ。

「君は」

 名護は脚を止め、前方に現れた軍服の男に一言、そう問うた。
 この質問に意味など無いと言う事に、既に本能で気付いていたのかも知れない。
 男の表情を見たその瞬間から、名護の胸中の警報はけたたましい程に鳴り響いていたのだから。
 だけれども、それが何故か、と問われても、上手な言葉で答える事など出来よう筈もない。
 超常の力などは一切持たぬ名護ですら感じ取れる程に、眼前の男が放つ気配は異様だった。
 下手に奴の間合いに踏み込めば、その殺気で以て縊り殺されるのだろうという確信が湧き上がる。
 戦うのであれば、一瞬たりとも気は抜けない。でなければ、自分達はこの戦いで生き残る事など出来やしないだろう。
 それは警戒心か、はたまた恐怖心か。何にせよ、それは圧倒的な危機感となって、名護にそんな確信を与えた。
 夕暮れの空を厚い雲が覆って、名護ら三人と、眼前の男、この場の全員に暗い影が落ちる。
 表情さえ窺い知る事が難しくなった仄暗い闇の中で、海堂が緊迫に満ちた声を発した。

「おいおっさん、あいつぁ、やべえぞ」
「おっさんと呼ぶのはやめなさい……不愉快だ」
「バッキャロー! んな事言ってる場合じゃねえんだよ!」

 先程までの余裕などはかなぐり捨てて、海堂が上ずった声で叫んだ。
 名護とて馬鹿ではない。海堂に言われずとも、目の前の男の気迫には気付いている。
 それが、殺し合いを否定するまともな男が発する筈のない、「殺気」の類である事にも、だ。
 名護らの不安と恐怖を煽る様に強風が吹いて、厚い雲は風に流され、再び日の光に照らされる。
 夕焼けに照らされた男の顔は、無表情に、しかし、その瞳は獣の様にギラついていた。
 懐から取り出した一本の小さな箱を、軍服の男は眼前で掲げ。

 ――ARMS――

 アームズ。兵器を意味する英単語が静寂の街中で鳴り響いた。
 ガイアメモリは男の首輪から男の体内へと取り込まれてゆき、見る間にその姿が変じてゆく。
 肥大化した筋肉はくすんだ血の様にどす黒い赤に染まり、その身体を銀色の鎧が包み込んでゆく。
 剣にナイフ、銃器といった単純な兵器が全身に纏わりついたその姿は、まさにアームズの名に相応しかった。
 赤い顔面を半透明の仮面が覆い隠して、仮面の下から露出した白の瞳が、ぎょろりと三人を睨んだ。




 疲れた身体を休めるのもそこそこに、天道総司と乾巧は警視庁の食堂に訪れていた。
 警視庁というと、東京の警察を総括する広大な施設だ。ともすれば、当然の様に食堂の規模も大きい。
 厨房に直接向き合う形のカウンター席と、いくつかの長テーブルや丸テーブルが規則的に並んでいた。
 カウンター席に座らされた巧の眼前に、大盛りのチキンオムライスが乗せられた皿がすっと差し出される。
 わざわざこの場所で巧を待たせ、その間に天道が腕によりを掛けて作った渾身のオムライスだった。
 巧はやや戸惑った表情を浮かべるが、天道に一言「食え」と言われると、何も言わずにスプーンを手に取り、食べ始める。
 恐る恐ると言った様子で最初の一口目を口に運び――二口目からは、ガツガツと食べ始める。
 そんな巧の姿を満足げに眺めながら、天道は自分の分のオムライスを一口食べて、自信ありげに頷いた。
 ふわふわのオムで包まれたチキンライスの味は、濃すぎず薄過ぎず、絶妙なバランスであった。
 相変わらず、完璧な料理だ。そんな自負を抱きながら、天道は巧に問うた。

「どうだ、美味いか」
「ああ」
「そうか」

 無愛想ではあるが、美味しそうにオムライスを頬張る巧を見ていると、何処か嬉しくなる。
 料理とは、誰かを幸せにする為のものだ。食べた人を笑顔にする料理こそ、天道が真に求める料理であるのだ。
 そして、自分が作った料理をこんなにも美味しそうに食べる奴が、悪人である訳がないというのも、天道の持論だった。
 考えても見れば、巧は半ば強制的に食堂まで連れてこられたが、嫌な顔はしていても、拒否はしなかった。
 終始「かったるい」だなんて言ってはいるけれど、天道にはそれが、ただ不器用なだけの様に思えた。
 表向きには人当たりの悪い無愛想な男ではあるが、根っこの所は、優しい男なのだろう。
 そんな乾巧に、天道は無意識の内に親近感を覚えていたのかもしれない。

「お前、こんな所に連れて来られてまで料理って、随分と図太い神経してるんだな」
「ああ、体調を整える上で、食事以上に優れた手段はないからな」

 そして何よりも、と続けて、天道は人差指で天井を差し、のたまった。

「おばあちゃんが言ってた。食べるという字は、人が良くなると書くってな」

 巧は何も言わずに、オムライスを食べ続けていた。
 天を差した指を降ろし、天道は自分のオムライスを食べながら考える。
 今ここで乾巧に食事を振舞ったのは、確かに体調の回復が一番の目的である。
 厨房の野菜はどれも厳選して選び、調理に使った食材も、栄養を第一に考えて作った。
 どういう訳か食材はどれも新鮮で、白米に至っては今朝炊かれたばかりとしか思えない輝きを放って居たのは幸いか。
 大ショッカーのせめてもの恵みか、それとも今朝まで普通に使われていた食堂なのか、それは結局分からず終いだが。

「美味かったぜ、ごちそうさん」

 やがてオムライスを綺麗に平らげた巧が告げたその言葉は、気持ちがいいくらいに爽やかだった。
 連戦続きの疲労や、殺し合いの不安すらも、忘れているのではないかと思う程、気持ちのいい表情だった。
 そんな表情も出来るんだな、と思いながら、天道は一言「ああ」と答え、自分のオムライスも平らげた。
 暫しの無言が続くが、やがて巧が、意を決したように天道へと振り返って、問う。

「なあ天道、お前には夢ってのは、あるか」
「何だ、藪から棒に……変な質問をする奴だ」
「悪かったな、変な質問をする奴で」

 あからさまに気分を害した様子で、巧は表情を顰めた。
 天道はやれやれと言った様子で嘆息一つ落とし、巧に向き直る。

「逆に聞くが、お前にはあるのか」
「ああ、あるね。とびっきりでっかい夢が」
「何だ、聞かせてみろ」
「世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、皆を幸せに出来たらいいと、思ってる」

 それを聞いた途端、天道は拍子抜けした気がした。
 大の大人が、自信ありげに大きな夢があると言うのだ。
 どんな野望かと思って問うてみれば、返って来たのは子供の様な夢。
 思わず返す言葉を失って、その大きな瞳で以て、巧をぼーっと見詰めてしまう。
 だけれども、それを告げる巧の表情には、やはり陰りはなかった。
 ポケットから取り出した、園咲霧彦のスカーフぐっと握り締めて。
 自信を持って、迷いもなく。心の底から、こいつはそう願っているのだ。
 なるほどこの男に料理を振舞ったのは、間違いなどでは無かったと思う。
 一拍の間をおいて、天道の表情にも元の冷静さが戻っていって、そんな天道に巧は再び問うた。

「お前は、どうなんだよ」
「俺も、お前と同じ様なものだ。友に誓った夢がある」
「そうか。聞かせて貰ってもいいか」

 胸中で、今はもう居ない加賀美新を思い描いて、小さく、しかしゆっくりと頷いた。
 今は亡き友との誓い。友の前で豪語した、天道総司の戦う目的。
 妹を守りたいという願い以前に、天道が希った、人としての強い想い。

「アメンボから人間まで、地球上のあらゆる生き物を守り抜いてみせる……俺が、この手でな」

 それを聞いた途端、巧がぽかんと口を開けっ放しにした。
 多分、こいつも先程の自分と同じ様な心境で、言葉を失ったのだろうと思う。
 やはり、天道総司と乾巧は似た者同士であるのだと心中で思いながら、天道は続けた。

「どうした。スケールがデカ過ぎて言葉すら失ったか」
「……お前、よくそんな臭い台詞を堂々と言えるな」
「お前に言われたらお終いだ」

 呆れた様に言う巧に、天道は憮然として言い返した。
 ともあれ、これで天道の中では一つの確信が持てた。
 この男は、信頼に足る男だ。どんな状況でも、自分の軸を見失わない強い男だ。
 仲間を集めて大ショッカーを打倒するのであれば、こんなにも心強い仲間はそうはいない。
 気に食わない点は多々あるが(主に自分に似ている所など)、それでもこいつは、揺るぎない仲間足り得る。
 それが分かったなら、これ以上の長居も、言葉すらも不要とばかりに二人は立ち上がった。
 最早十分休んだ。食事も摂った。ならば、こんな所で悠長に休んではいられない。
 命を護る為には、自分達が動き出さねばならないのだから。




 強さを数値に置き換える事が出来るのであれば、桁違いという言葉が真っ先に思い浮かぶ。
 それはそのまま、目の前の怪人と自分達の強さの桁が、一つくらい違っているという事だ。
 普通戦いと言うものは、何らかの目的があって、それを成す為に勝利を求めて力を振るう。
 精神的な拠り所となる強い何かが無ければ、戦う力など生まれよう筈もないからだ。
 天道総司の姿をした自分は、戦う理由としては十分過ぎる程の憎しみを掲げている。
 海堂直也と名護啓介は、多分、守る為だとか、そんな下らない理由の為だと思う。
 だけれども、目の前の怪人からは、そういう理由らしい理由が感じられなかった。
 憎しみによる破壊でもなく、守りたいが故の戦闘という訳でもない。
 ただ戦いたいから戦っている。ただ力を求めて戦っている。
 そんな気がして、彼は目の前の怪人の事を、狂っている、と思った。
 例え歪んでいようとも、明確な目的を以て行動している自分に、目の前の敵の事など理解出来る筈も無かった。

「駄目だ……今の僕らじゃ、こいつには勝てない」

 結果を悟ってしまったダークカブトが、ぽつりと呟いた。
 アームズドーパントの力を異様なまでに引き出し振るう奴は、今の自分の身の丈に合った敵ではない。
 海堂が変身したライオトルーパーは猛然と殴りかかるが、敵に碌な打撃すら与えられず、いなされ、カウンターを叩き込まれた。
 バーストモードとなったイクサも果敢に挑むが、その攻撃は全て左腕の巨大な剣で受け止められ、反撃の一撃を叩き込まれた。
 さっきからそれの繰り返しばかりで、どんなに頑張っても、状況はこちらに転びはしなかった。

「チックショウ、この野郎が!」

 ライオトルーパーが、右太腿に携行していたアクセレイガンを引き抜いて、踊り掛かった。
 我武者羅な軌道を描いて振り下ろされた一撃は、今度はアームズドーパントが握り締めた巨大なシールドソードに阻まれた。
 先程まで背に背負っていた巨大なそれは、盾としても申し分の無い、先端の砕けた大剣だった。
 アクセレイガンの一撃を容易く受け止めた大剣は、そのままライオトルーパーの胸部装甲を切り裂いて、数歩後退させる。
 間髪いれずに左腕の大剣を突き付ければ、それは巨大な機銃となって、圧倒的な速度で弾丸を打ち出した。
 ズガガガガガガ、と炸裂音を響かせて、ライオトルーパーの身体が遥か後方へと吹っ飛んでゆく。

「貴様……!」

 イクサが憤慨した様子で、口元から排出された形態電話を手に取った。
 すかさずそれのボタンを打ち込んで、変わった電子音声を響かせる。

 ――ラ・イ・ジ・ン・グ――

 青と白の携帯電話はけたたましい警報音を鳴らし、イクサが最後のボタンを押し込もうと指を伸ばす。
 しかし、それよりも早く動いたのは、それによる危機感を覚えたのであろう、アームズドーパントのだった。
 即座に突き出された機銃から放たれたのは、先程のガトリングとは違う、一発の銀色の弾丸。
 それはイクサの指が携帯電話のボタンに触れるよりも速く、携帯電話に着弾。そのまま液状に拡がった。

「何!?」

 それは溶かした鉄の様で、イクサの携帯電話を包み込むと、すぐに硬化した。
 狼狽するイクサを尻目に、アームズドーパントがガトリングを連射しながらイクサの間合いに飛び込む。
 太陽の紋章を描いた胸部装甲が超高速・高威力で以て放たれた機銃によって爆ぜ、抉られ、苦しげな呻きを上げる。
 されど容赦などしてくれよう筈もなく、懐に飛び込んだアームズドーパントは、右腕の大剣でイクサを上段から叩き斬り。
 左腕の機銃を再び大剣へと変化させて、よろめくイクサを横一閃に斬り裂いた。

「ぐあっ……!」

 倒れ伏したイクサを踏み躙って、今度は彼方で起き上がったライオトルーパーに再び銃口を向ける。

「……ンの野郎ぉぉ!!」

 猪突猛進。駆け出したライオトルーパーは、機銃など恐れぬ様子で突貫する。
 馬鹿かあいつは、と思って、ダークカブトはすかさずアームズドーパントの機銃をクナイガンで射撃した。
 高威力の機銃故、僅かなブレはそのまま大きなブレとなって、明後日の方向へとガトリングは放たれる。
 アームズドーパントはすぐに斉射をやめ、その機銃をダークカブトへと向けた。
 まずい、と思って、腰のスラップスイッチを叩こうとするが。

「でかした天道ぉぉぉぉぉ!!!」

 それには及ばず、敵の懐に飛び込んだライオトルーパーがアクセレイガンを叩き付けた。
 きぃん! と音を鳴らして、それはシールドソードに受け止められるが、攻撃はそれで終わりでは無い。
 踏み躙られたイクサが、脚の下からイクサカリバーの赤い刃をアームズドーパントに叩き付けたのだ。
 一瞬怯んで力が緩んだ隙に、ライオトルーパーが右上段からハイキックを叩き込む。
 それは左腕が変化した大剣によって弾き返されるが、今度はガンモードとなったイクサカリバーが下方から照準を定めていた。
 流石に対処し切れずに、イクサカリバーから放たれた銀の弾丸はガトリングの如き勢いでアームズドーパントの装甲を炸裂させる。
 たまらず後退したアームズドーパントに、イクサとライオトルーパーは、二人同時に正拳突きを叩き込んだ。
 しかしそれはさほど効いている様子でもなく、アームズドーパントは一歩後退しただけに過ぎない。

「仮面ライダーの力とはこの程度か」

 低く、唸る様な声に、この場の空気が緊迫する。
 やっとの思いで通した攻撃なのに、こいつには碌に効いてすらいないのだ。
 だというのに、イクサとライオトルーパーは、一歩も身を引かずに、構えを解こうともしない。
 そんな光景を見ていて、ダークカブトは、言い知れぬ不快感を覚えた。
 普通は戦わない。普通は逃げる。普通は命が惜しい筈だ。
 それなのに、何故にこいつら仮面ライダーは。

「どいつもこいつも……!」

 どれだけ傷め付けても立ち上がった剣崎一真を思い出して、ヒステリックな呻きを漏らした。
 気に入らない。こいつらはどういう訳か、どんなに傷ついても、逃げる道を選ぼうとはしない。
 命と引き換えに、自分よりも強い敵に立ち向かって行くこいつらが、どうしようもなく苛つくのだ。
 或いは、それは情緒不安定な彼の、一種の発作のようなものだったのかもしれない。
 何故、と問われても応える事など出来ないが、気付いた時には、クナイガンを携え、駆け出していた。
 そうだ、見せつけてやればいい。無意味だという事を、仮面ライダーの力などまやかしだと言う事を。

「うわあああああああああああああああっ!!!」

 絶叫と共に突貫して、まずは手始めに、クナイガンを一閃、二閃。
 直線射線上に佇んでいたイクサとライオトルーパーを、背中から叩き切った。
 後ろからの攻撃などに対処出来る筈も無く、二人は訳も解らぬ内にもんどりうって倒れた。
 そんな二人に、これ以上の興味は無いと言う様に返す刀でアームズドーパントへと斬り掛かる。
 勢いは怒涛。滅茶苦茶な動きで、無理矢理にクナイガンを叩き付ける。
 当然何度繰り返そうが、銅色の短剣は黒金の大剣に阻まれ、攻撃は通らない。
 終いには、ダークカブトの攻撃の合間を掻い潜って、アームズドーパントの大剣がその銅を抉った。
 めきりと嫌な音を立てて、ヒヒイロノカネが凹み、亀裂が走る。
 吹っ飛ばされた身体は、しかし、後方のイクサによって受け止められた。

「スタンドプレイは止めなさい! 一人では無理だ!」
「うるさい! 仮面ライダーが何だっていうんだ! どんなに足掻いたって無駄じゃないか!」

 ダークカブトの絶叫が響いて、その拳はイクサの顔面へと叩き込まれた。
 まさか味方に対するガードの姿勢など、万全である訳が無い。イクサは再び殴り倒された。
 そんな光景を見るや、呆れた様に息を吐いたアームズドーパントを見て、ダークカブトの頭に血が昇る。
 全てが不愉快だ。仮面ライダーも、意味のない破壊を撒き散らす戦闘狂(バトルマニア)の怪人も。
 どいつもこいつも壊してやりたい。滅ぼす為の、意味のある破壊を、この手で――!

「バッカお前、状況解ってんのかこのバカ、バカッ! バカタレが!」

 ライオトルーパーがダークカブトの肩を掴んで、口煩く罵詈雑言を吐き掛ける。
 煩わしい、と感じたダークカブトは、有無を言わさずに斧と片手に振り抜いた。
 イオンの刃を思いきり叩き付けられたライオトルーパーの胸部が派手に爆ぜて、仰け反る。
 更にもう一撃と、今度はその腹部のベルト目掛けて、横一閃に斧の一撃を叩き込んだ。
 ダークカブトのアックスは、誰にも阻まれる事無くライオトルーパーの腹部を抉り――

「テ、メェ……!」

 火花を噴き出しながら、バックルを叩き壊されたベルトがアスファルトへと落ちた。
 最早使い物にすらならなくなったスマートバックルが、ぶすぶすと黒い煙を上げる。
 生身を晒した海堂直也の頬を、ダークカブトの拳が打ち付けて、その身体を遥か後方へと吹っ飛ばした。
 仮にも仮面ライダーに殴られたのだ。ただで済む訳もなく、海堂直也の身体はそのままぐったりと動かなくなった。
 今がそんな事をしている場合ではないと言う事になどは、混乱したダークカブトではもう考える事すらも出来ない。
 元々彼は情緒不安定なのである。当初から全てを敵だと判断しているのだから、こうなるのも無理はなかった。
 いざとなったら、二人に仮面ライダーの無力さを知らしめた後で、クロックアップで逃げたっていい。
 どうとでもなるのだから、やりたいようにやればいいではないか。それは、そういった安直な判断であった。
 こうして苛立ちも最高潮に達した時、ダークカブトの眼前へと迫って居たのは、赤い体躯の怪人だ。
 思わず構えたダークカブトのアックスを、左腕の大剣で弾き返して、アームズドーパントは右の大剣でダークカブトを叩き伏せた。
 肩口から装甲が派手にひしゃげて、身体が壊れる嫌な音が響いたと思ったら、今度は左の大剣で掬い上げられた。
 ヒヒイロノカネなど容易く引き裂いて、ダークカブトの身体は宙へ舞う。

「仲間割れなどしている余裕は、無かった筈だが」

 その声には、静かで、しかし熱い、確かな怒りが感じられた。
 強者の誇りを持つが故、弱者に舐められたと感じた時には、きっと許せないのだろう。
 それがどれ程崇高な感情であるかなど、ダークカブトには理解出来なかったし、しようとも思わなかったが。
 宙を舞うダークカブトが、地面に叩き付けられようとした時、急迫したのは凄まじい連射性を誇る機銃の弾丸だ。
 ダークカブトを徹底的に破壊しようと構えられた銃口から、怒涛の勢いで放たれた弾丸は黒き装甲を派手に爆ぜさせる。
 アスファルトへしたたかに打ち付けられるが、そんな痛みも、機銃による痛みに比べればマシかと思った。
 圧倒的な斉射は収まらず、アスファルトに無数の穴を穿ちながらダークカブトの命を刈り取ろうと唸りを上げる。

「くっ、そぉ……!」

 何でこうなるんだよ、と心中で毒づきながら、歯噛みする。
 何もかもが上手くいかない。何をやっても自分は失敗する。
 それは、自分が世界にとっての邪魔者だからか?
 だから、世界はこうまでして自分を排除しようとするのか。
 そんな事を考えるとたまらなくなって、一滴の涙が頬を伝った。
 結局、何をしたってこの自分に居場所などはないのだ。
 ならば破壊するしかない。壊すしかない。滅ぼすしかない。
 それしか、残っていないというのに――

「ゴ・ガドル・バの力をたたえて死ね」

 死刑宣告と、ダークカブトの変身解除は同時だった。
 あまりの過負荷に耐えられなくなったヒヒイロノカネが、粒子となって消失したのだ。
 世界だけでなく、カブトの鎧までが、この自分を拒絶しているように思って、思わずアスファルトを殴る。
 そんな彼に向かって狙い定められるは、グレネードランチャーと化したアームズドーパントの左腕だった。
 ランチャーから放たれた砲弾は、どん! と音を響かせて、大気を震撼させる。
 これで終わりか、と流石の彼も死を覚悟して瞳を閉じるが。

「総司君っ!」

 そんな両者の間に割り込んで来たのは、イクサだった。
 両腕を広げ、その身体で以て、迫るグレネードランチャーを受け止めたのだ。
 派手な爆音と、灼熱の爆風が、イクサの装甲で巻き起こって、そのまま地へと崩れ落ちる。
 とうとうイクサの装甲も限界を迎え、生身を晒した名護啓介は、しかし満足そうな表情で振り向いた。
 口元からは僅かに血を流して、脚だって小刻みに震えている。平気で居られる訳が無い。辛いに決まっているのに。
 それなのに、こんなにボロボロになってまで、したり顔で微笑む彼が理解出来ずに、思わず声を荒げてしまう。

「何で……どうして僕なんかの為にっ!?」
「俺は、君と良く似た男を知っている。彼もまた、君と同じ様に、悩み、苦しんでいた」

 なんだよそれ、と思わずには居られなかった。
 何処の世界に、こんな自分程酷い人生を送った人間がいるというのだ。
 何も知らない癖に知った風な口を利く名護啓介に、どうしようもない怒りが込み上げる。
 だけれども、その怒りは不思議と、先程まで感じていた憎しみの怒りではなかった。
 この感情が理解出来なくて、それが新たな苛立ちを呼んで、もう一度アスファルトを殴る。
 ちゃき、と音がして、今度はそんな二人をアームズドーパントの機銃が狙いを定めていた。
 今度こそ、終わりだ。今からレイに変身したって、間に合う訳が無い。
 ここで名護と二人揃って死ぬのか、と思うと、心の奥底で、言い知れぬ恐怖心が芽生えた。
 まだ自分は何も成し遂げて居ないというのに、こんな所で死ぬのか、と歯噛みする。
 ――が。

「いけませんガドルさん! 勝敗は決しました! これ以上は最早、勝負ではありません!」
「――!?」

 今度は、金色の小さな龍だった。
 ガドルと呼ばれた男のデイバッグから飛び出したそれが、機銃を弾いて叫ぶ。
 しかしアームズドーパントは意に介した様子もなく、飛び出した金の龍を、右の大剣で殴り飛ばした。
 ぎゃふんと情けない声音を発して、吹っ飛んで来た金の龍を、名護がその手で掴み取る。

「君は、渡君の……!」

 呼び掛けるが、金の龍――タツロットは答えない。目を回して、気絶している様子だった。
 今度こそ邪魔者の居なくなったアームズドーパントは、再び機銃を二人へと向けるが、二度ある事は三度ある。
 イクサ、タツロットと続いて妨害され続けて来たアームズドーパントの行動を、三度目に掣肘するのは。

「らぁああああああああああああああああっ!!!」

 何処となく蛇らしい身体的特徴を持った、灰色の異形だった。
 見た事もない灰色の怪人は、後方からアームズドーパントへと組み付き、唸りを上げる。
 我武者羅に組み付いた灰色を、アームズドーパントは振り落とそうとするが、そう上手くは行かない。
 灰色は、しぶとくアームズドーパントにしがみついて、その行動を封じていた。

「おい、天道に、名護のおっさん! ここは俺様に任せて、お前らぁ逃げろ!」
「直也君!? 無謀な真似はやめなさい! 君一人で勝てる相手ではない!」
「いいか、俺様にかかりゃなぁ、足手纏い二人を助けるくれぇは朝飯前なんだよ!
 ここぁ大人しく俺様に任せて、お前らはすっこんでろっての、この役立たず共が!」

 海堂の声でそう叫んだ灰色が、アームズドーパントに振り払われ、大剣を叩き付けられる。
 ならばとばかりに、オルフェノクの力で具現化させたナイフを取り出して、海堂はそれを受け止める。
 だけれども、付け焼刃の戦術で歴戦のアームズドーパントの攻撃を裁き切れる訳が無かった。
 右のシールドソードで灰色のナイフを払われ、左の大剣で袈裟斬りに身を斬り裂かれる。
 大きく仰け反り、その場で倒れ伏した灰色には目もくれず、アームズドーパントは再び二人に機銃を向けた。

「ンのヤロ、させるかよぉおおおおおおおお!!!」

 しかし、海堂のしぶとさもさるもの。
 すぐに起き上がり、今度は我武者羅に機銃にしがみ付いて、その銃口を逸らさせる。
 そんな海堂の灰色の身体に、シールドソードが振り下ろされて、海堂の姿勢ががくりと落ちた。
 その痛みに、立つ事すらままならない様子だった。地に膝を付けて、それでも機銃を離そうとはしない。
 これでは無理だ。どう頑張ったって、勝てる訳がない。逃げなければ、海堂はこのまま死ぬだけだ。
 名護はそんな海堂を救おうとしたのだろう、もう一度立ち上がって、イクサナックルを構えた。
 イクサナックルを掌に打ち付けようとするが、そうやって構える名護自体が、既に満身創痍。
 馬鹿かこいつは、と思って、気付いた時には、そんな名護の肩を強引に引っ掴んでいた。

「馬鹿なの!? 勝てる訳ないじゃないかっ!!」
「それでも、直也君を見捨てる事は出来ない。離しなさい、総司君!」
「どうして! どうして君ら仮面ライダーは、どいつもこいつもそうやって!」

 苛立ちも頂点に達すれば、この身体も勝手に震えるものだ。
 名護の肩を掴んだ腕は、怒りと、理解し得ぬ憤りと、良く解らない感情とで、震えていた。
 名護といい海堂といい、さっき戦った剣崎とか言う奴も、だ。
 仮面ライダーはどいつもこいつも、自分の命を投げ出す様な真似ばかりする。
 別にそれ自体は構わない。死を望むというのなら、望み通り殺してやればいいだけだ。
 だけれどもこいつらは、そうやって牙を剥いた筈の自分をも救おうとしているのだ。
 それがどうにも理解出来なくて、彼はどうしていいのかわからなくなった。
 混乱する彼の気持ちを知ってか知らずが、今度は海堂が絶叫する。

「おい天道! お前今、どうしてっつったな!」

 元気そうに叫ぶが、本当なら、今の海堂にはこうして口を利く余裕だって無い筈なのだ。
 アームズドーパントの機銃を無理矢理上部へ向けるが、そんな海堂の身体を、右腕の大剣が弾き飛ばす。
 蛇の皮膚だか装甲だかは、大剣の刃に容易く切り裂かれて、爽快なくらいの打撃音と共に数メートル吹っ飛んだ。
 だけれども、海堂はすぐに立ち上がって、もう一度アームズドーパントに組み付いて、叫ぶ。

「俺様にもなぁ、天道、お前みてぇな、どうしようもねえ馬鹿な仲間が居たんだよ!」
「だから……!? それが何だっていうの……!?」
「そいつはなぁ、くっだらねえ事で悩んで、苦しんで、くっだらねえ戦いで死んじまった!」

 蛇の顔にも似た海堂の顔面に、重たいシールドソードが叩き込まれた。
 うぶっ、とか、そういう情けない声を上げて、海堂は思わず機銃から手を離した。
 そんな海堂目掛けて、今度はアームズドーパントの機銃による斉射が撃ち込まれる。
 今までは受け続けて来た攻撃はどれもライダーの装甲越しにだったが、今は違う。
 海堂は今、その身体に、直接弾丸を撃ち込まれて居るのだ。痛くない筈がない。
 弾丸の嵐は容赦なく海堂の身体を吹っ飛ばすが、しかし、それでも海堂は立ち上がる事をやめはしなかった。

「人類を滅ぼすだの何だの言っちゃ居たが、結局、あいつは……最後の最後まで、誰かの為に戦った!
 ……ほんとはなぁ……俺ぁ、そんなあいつが、ずっと羨ましかったんだよ! 憧れてたんだよ!」

 海堂直也の声は、一言紡ぎ出す度に、震えていた。
 怒りの震えか、武者震いかは、はたまたそのどちらもなのかは、解らないけれど。
 海堂が変じた灰色の異形は、人間よりもずっと逞しくなってしまった拳を握り締める。
 そんな海堂の姿に、言い知れぬ気迫を感じて、思わず黙ってしまった。
 尚も絶叫を続ける海堂の声は、先程とは打って変わって、重たく感じた。

「なのに、なのに俺ぁよぉ……そんなあいつの死に様に、なんっっっにもしてやれなかった!
 木場も、照夫も……俺ぁ結局、誰も守れちゃいねぇ。ただ、指を咥えて見てるだけしか出来なかった!」

 今にも泣き出しそうな声音で絶叫して、海堂はその身体を奮い立たせる。
 走り込んで行くが、今度はそんな海堂の腹に、巨大な大剣による一撃が叩き込まれた。
 言葉は最後まで告げられず、海堂は堪らず倒れ伏して、震える灰色の指を、ぐぐぐと握り締める。
 アスファルトと言えど、異形となった力の前にはただ蹂躙され、指の形に砕けてゆくだけだった。
 海堂は砕けたアスファルトで出来た砂利を、思いきりアームズドーパントへと放り投げる。
 目潰しのつもりだろうが、相手もまた異形。人間の喧嘩戦法などが通用しよう筈も無い。
 意にも介さず歩を進めるアームズドーパントに対して、海堂は再び立ち上がった。

「けどなぁ……そんなのはもう、終わりだ! 終わりにしてやる! 俺ぁここで、変わるんだよ!」
「直也君……」
「もうこれ以上、俺様の目の前で誰一人傷付けさせねぇ! 誰一人だって、殺させやしねぇ!
 嗚呼そうさ……俺ぁ守るんだ! 今度は俺が……みんな、この俺様が、守り抜いてやるんだよ!」

 それは海堂直也という一人の“人間”の、決意の絶叫だった。 
 そんな海堂に返されたのは、言葉でも何でもなく、大剣による袈裟斬りだ。
 思いきり振り下ろされた大剣を、しかし今度は、灰色のナイフで受け止める。
 僅かに驚愕した様子のアームズドーパントをよそに、海堂は我武者羅なキックを突き出した。
 それを受けて数歩後じさるアームズドーパントの懐へと、海堂は追撃とばかりに飛び込んだ。
 灰色のナイフと、シールドソードが激突して、がら空きになった胴へ、左腕が変じた大剣が叩き込まれる。
 よろめく身体を根性で支え、それでも海堂は、アームズドーパントに組み付いて、絶叫した。

「おい名護ぉ! 小野寺と、響鬼のおっさんは言ってたよな!? 仮面ライダーは、人を護る為に戦うって!」
「……ああ、そうだ! 俺達仮面ライダーは、人々を護る為、命を賭して戦う正義の戦士だ!」

 海堂の絶叫に応える為に、名護もまた、暑苦しい程の絶叫で返した。
 アームズドーパントに組み付いた海堂の影に、仄暗い光が浮かんで、その中に海堂の表情が見える。
 ぼんやりとしていて良くは見えないけれど、名護の答えを聞いた海堂は、不敵に口端を吊り上げていた。
 どうして。どうして海堂は、笑っていられるのだろう。今だって、痛くて、辛くて、苦しい筈だ。
 もう今にも倒れ伏して、殺されたって可笑しくないのに、それなのに海堂は、不敵に笑っているのだ。
 理解など、とうに越えている。不可解過ぎる事象に対する疑問が、津波の様に押し寄せる。
 だけれども、絶叫を続ける海堂と名護の間には、何の疑問も存在してはいない。
 それが余計に不可解で、また、不愉快でもあった。

「良く言ったぜ、名護ぉ……ああ、そうだよ……仮面ライダーってのぁつまり、正義の味方だ」

 満足げに鼻を鳴らした海堂は、しかしシールドソードによる一撃で吹っ飛ばされてしまう。
 だけれども、もう倒れはしない。二本の脚は強く大地を踏みしめて、しっかりと構える。
 言い知れぬ気迫が、これまで以上に海堂からは満ち溢れていて、思わず固唾を飲んだ。
 それは、アームズドーパントすらも黙って見守る程の、戦士たる圧倒的な気迫。

「なら、もうお前らだけに戦わせる訳には、行かねえよなぁ……だって、今から俺も、なるんだからよぉ――!」

 やがて海堂は、大きく息を吸い込んだ。脚は肩幅以上の感覚で踏ん張って、腰は据えて。
 右の腕は左肩よりも高く、指まで真っ直ぐに掲げ、左の腕は拳を作り、腰元まで引いて。
 子供時代に、誰もが憧れたヒーローのようなポーズを気取って、海堂は声高らかに宣言した。

「みんなを護って、世界だって救っちまう、誰よりもカッコ良い正義の味方に――仮面ライダーに!」

 仮面ライダーとは、つまり、そういうものだ。
 悪の魔の手から人々の命を救い、世界を覆う陰謀から、この世の平和を守ってみせる。
 理不尽な暴力を振るう悪が居る限り、彼らは何度だって蘇り、正義の心を炎と燃やして悪に立ち向かう。
 死ぬかもしれないし、負けるかもしれない。勝てる確証なんて、いつだって何処にだってありはしない。
 だけれども、護りたいという熱い願いが炎となって燃え滾る限り、そんな恐怖などはすぐに消し飛ぶ。
 それこそが、仮面ライダーだ。それこそが、護る為に力を震える、正義の戦士の有るべき姿だ。
 今この瞬間、海堂直也はまさしく仮面ライダーの名を名乗るに相応しい真の戦士となったのだ。
 そして、そんな海堂が取った構えは、奇しくも護る為に戦った、初代仮面ライダーと同じものであった。

「見ろ、総司君。あれが、きみが理解出来ないと言った、正義の仮面ライダーの姿だ」

 そう告げる名護の表情は、真剣そのものだった。
 こいつらは、本気で、何の冗談も無しに、正義の味方になるつもりなのだ。
 そんな馬鹿二人を見ていると、不思議と心の奥底で、何かが震えるような気がした。
 未だに仮面ライダーの名にしがみついて、馬鹿馬鹿しい行いを続ける愚者への怒りか。
 それとも、彼の狂行に感化されたこの心が、未だ感じた事もない感情を抱いているのか。
 今はまだ前者だと思う。だけれど、不思議と目の前に居る仮面ライダーを否定する気には、なれなかった。

「馬鹿ばっかりだ……どいつも、こいつも」

 消え居る様なか細い声で、ぽつりと呟いた。
 視線の先では、再び海堂とアームズドーパントが戦闘を再開している。
 どんな攻撃を繰り出したって、全身兵器の完璧な戦術が相手では通用しない。
 一撃叩き込まれる度に、海堂の身体は軋みを上げて、苦しそうな呻き声を漏らして。
 それなのに、海堂は何度だって立ち上がって、何度だって強大な敵に挑み掛かってゆく。

「お前らぁ、いつまで、突っ立ってやがんだ……とっとと、逃げろっちゅーとろーが……!
 折角、カッコつけたんだからよぉ……なぁ、最後まで、カッコ、付けさせてくれよぉ」

 紡がれる言葉は最早、息も絶え絶えといった様子だった。
 解って居た。いくら格好付けた所で、本当はもう限界なのだ。もう、戦える筈もないのだ。
 それなのに海堂は馬鹿みたいに格好付けて、自分達二人を逃がす為にたった一人で立ち上がり続ける。
 馬鹿だ。馬鹿としか言いようがない。そんな行動の何処に、どんな意味があるというのだ。
 そこから理解出来ずに、最早言葉も失って、暫くはぼーっと眺めていた様に思う。
 名護はそんな海堂に背を向け、立ちつくす自分の横に並ぶと、不意にその肩を掴んだ。

「行こう、総司君。ここは直也君に任せるんだ」
「へえ、直也君を見捨てる訳には行かないんじゃなかったんだ」
「……彼は今、その命の炎を燃やし、正義を行おうとしている」
「…………」

 そこで、気付く。
 この肩に置かれた名護の手は、震えていた。
 遥か遠くを見詰める名護の表情は、震えていた。
 悔しさに、怒りに、苛立ちに、そして、自分の無力に。
 打ちひしがれる気持ちを堪えて、それでも名護啓介は、この肩を掴む。
 ぐぐぐ、と、変な力が込められて、戦闘直後のこの身体が僅かに痛んだ。
 だけれど、そんな名護の姿を見てしまったからには、もう何も言えなかった。
 名護は、まるで自身に言い聞かせるように、ゆっくりと口を開く。

「直也君は今……正義を、行おうとしているんだ……!」

 震える声で、ゆっくりと、しかし力強く、そう言った。
 夕陽の光を受けて、名護の頬に光が走った気がしたが、良くは見えなかった。
 頬を流れた光は、一滴の水滴となって、漆黒のアスファルトに落ちると、すぐに乾く。
 名護や海堂がどうしてこんな行動に出るのか、彼には理解出来なかった。
 結局、誰も彼の疑問には答えてくれていないではないか。
 仮面ライダーとは何だ。泣くくらいなら何故逃げ出す。
 数々の疑問は胸中で渦を巻いて、彼の精神が再び不安定になってゆく。
 何故だ、どうしてなんだ。頭を掻き毟って、荒く息を吐き出し、行き場の無い苛立ちを吐き出す。
 そんな彼の気持ちを察知したのか、デイバッグからは一匹の蝙蝠が飛び出した。
 彼の周囲を旋回するのは、最後に残った変身手段――レイキバットだ。

「どうやらこの俺の力が必要なようだな、総司」
「レイキバット……解って居るなら、僕に力を貸せ!」
「ふん……いいだろう。行こうか、華麗に、激しく」

 彼の腹部に巻かれた黒のベルトに、レイキバットは収まった。
 全てを凍て付かせる雪の結晶が、冷気を伴って彼の周囲を舞う。
 しかしそれも一瞬でだ。冷気と結晶は、すぐに白き装甲として再構成される。
 それは、未確認生物である雪男を、そのままライダーにしたような外見だった。
 名護の済むキバの世界とはまた異なるキバの世界に存在する戦士――仮面ライダーレイだ。
 レイは名護啓介の身体を担ぎ上げると、一瞬だけ海堂とアームズドーパントへと振り向いた。
 海堂は未だに勝ち目の無い戦いに興じて居て、今だって大剣に蹂躙されている最中だった。

「直也君……! 君の正義は、絶対に忘れない! 絶対にだ!」

 そんな海堂に向かって、レイに担がれた名護が、声を大にして叫んだ。
 恥ずかしいくらいの絶叫だけれど、名護はきっと、恥ずかしいなどとは思ってはいないのだろう。
 それはこれから散りゆく海堂への激励のように聞こえて、レイはやはり、言い知れぬ苛立ちを覚えた。
 自分達だけ逃げるというのに、これから死ににゆく仲間にそんな言葉を送る事に意味などある訳もない。
 先程まで仲間だの見捨てられないだの言っていた事を考えれば、全くもって不可解な連中だと思う。
 ともあれ、この姿になった以上、長居は無用だ。戦闘をしたって、勝てる見込みはないのだから。
 名護を抱えたレイは、向かう先などは考えず、我武者羅に駆け出した。




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