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暁に起つ(後編) ◆MiRaiTlHUI




 海堂直也は、既に頭では理解していた。
 自分の力では、絶対にこの敵には敵わないのだろう、と。
 技量も、単純な腕力も、相手の方が圧倒的に上。勝っている要素など何一つない。
 オルフェノクとして強化された五感と、第六感までもが、海堂には勝ち目がないと悟らせる。
 それはこの会場に来て、初めて目の前の敵と戦った時から、とっくに解って居た事だった。
 それ程までに、今自分が相対している赤い怪人は、化け物過ぎる化け物なのだ。

 だけれども。
 それが何だ、と思う自分が居るのも、確かだった。
 頭では無理だと理解しても、この心は、この魂は未だ諦めてはいない。
 敵の圧倒的な強さに、この心は脅えるどころか、更なる熱を燈してさえいるのだ。
 地平線の向こうでギラギラと燃え盛る夕日は、そんな海堂の心を焚き付けている様だった。

 そうだ。最早、海堂に挫ける事などは許されない。
 海堂直也は。
 仮面ライダーは。
 今、暁に起ち上がったのだ。
 ならば、やらねばならない。
 この命尽きるまで、命を奪う悪と戦わねばならない。
 それが海堂の望む、仮面ライダーの姿。与えられた正義の使命。
 何よりも、海堂はまだ戦えるのだ。この心は熱く燃え滾っているのだ。
 なれば、例え儚くても、この命が尽きるまで、輝き続けずして何とする。
 赤く熱い鼓動は、この身を突き破らん勢いで激しく脈を打っているのだ。

「嗚呼、ならやるっきゃねぇよなぁ……だって俺は、仮面ライダーなんだからよぉ!」
「成程、どうやら貴様を戦士と認めざるを得ないらしいな……仮面ライダーよ」

 圧倒的な力を見せ付け、未だ顕在するアームズドーパントは悠々とのたもうた。
「そりゃどうも」と口先だけで返すが、悪にその力を認められた所で、何にも嬉しくは無い。
 仮面ライダーが喜びを感じていいのは、悪を倒せた時と、誰かを守り抜けた時、だけだ。
 海堂直也はそんなヒーローでありたいと思うし、今だって、そうあろうとしている。
 そんな海堂の心情を知ってか知らずか、眼前の敵は、一本のベルトを投げて寄越した。

「……こいつは!?」

 瞠目に目を見開き、投げ出されたそれを眇める。
 がしゃん、と音を立てて転がったのは、青と、銀色のベルトだった。
 中央のバックルには携帯電話が装着されていて、青いメモリーがセットされている。
 海堂は、携帯電話をバックルに装填して変身する仮面ライダーを、良く知っていた。
 多分、そんな仮面ライダーが居るのは、何処の世界を探したって自分の世界しかないと思うから。
 かつて装着したファイズギアの色違いとも呼べるそれを手に取った海堂は、眼前の怪人を眇め、問うた。

「おい、こいつぁ一体、どういうつもりだ」
「そのベルトは、オルフェノクとやらでなければ使えないらしい」
「ふざけんなよテメエ……この俺様に、情けを掛けようってつもりかよ!」
「吠えるのは勝手だが、今の貴様では、勝負にすらなるまい」

 痛い所を突かれた海堂は、言い返せなくなって歯噛みする。
 自分に使えぬ物であるなら、使える者に渡してでも戦うまで。そういうつもりなのだろう。
 誇りだが何だか知らないが、そうやって余裕ブッこいて武人を気取る悪に、海堂は嫌気が差した。
 上等じゃねえか、と思う。どの道不利な事には変わりないのだ。そっちがその気なら、乗ってやるまで。
 泣く子も黙る海堂直也様に、このベルトを与えてしまった事を、あの世で後悔させてやる。
 そして海堂直也は、この力で本当の仮面ライダーになって、皆を守り抜いてやるのだ。

「上等だ、見せてやろうじゃねえか……正義の仮面ライダーの力をなぁ!」

 人間の姿に戻った海堂は、青と銀のベルトを勢いよく腰に巻いて、携帯電話を開いた。
 変身コードは――3、1、5。液晶に表示されたマニュアル通りに、ボタンを打ち込んでゆく。
 こんなベルトは見た事がないし、どんな仮面ライダーであるのかも解りはしない。
 それどころか、これが何の為に造られたベルトなのかも、どんな奴が使っていたのかも。
 全く以て何もかもが解らないけれど、今となってはもう、そんな事はどうだって良かった。
 重要なのは、海堂直也が今、“正義であろうとする”その心ただ一つだからだ。

「変身ッ!!!」

 数多の世界の仮面ライダー達が唱えた言葉を、声高らかに宣言する。
 超高出力のフォトンブラッドが青い光となって全身を駆け廻って、この身を覆う。
 純白の装甲と、背部のバックパックが形成された瞬間に、この身体は凄まじい熱を感じた。
 全身が、焼ける様に熱いのだ。今にも灰となって崩れ落ちてしまいそうな程の、圧倒的熱量。
 この身を焼き尽くさん勢いの圧力は、満身創痍の海堂には少しばかりきつかった。
 だけれども、それが何だとばかりに脚を踏ん張り、拳を握り締めて耐える。
 この心は、こんなスーツよりも、もっと、ずっと、熱く、激しく燃え滾っているのだ。
 なれば、この海堂直也に、不可能などあろうものか。出来ぬ事などあろうものか。
 そうだ。何としてでも倒すのだ。目の前の悪を、命を奪う悪を――!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 それは、正義の雄叫びだった。
 赤く滾るこの情熱を、真っ赤に燃える暁の空に解き放ったのだ。
 身体を焼き尽くさん勢いの蒼き流動エネルギーが、漸く安定して、鮮やかな光を放つ。
 蒼の輝きは、海堂の心に応えるように眩い輝きを放って、灼熱の空へと溶けてゆく様だった。

 ――Complete――

 次いで、高らかに電子音が鳴り響く。
 暁に起ち上がるは、見まごう事なき正義の戦士。
 熱き魂を胸に刻んだ漢の称号は、仮面ライダー。
 正義の体現者に与えられたその名は、サイガ。
 そう。その名は――仮面ライダーサイガ!

 仮面ライダーサイガとなった海堂直也の魂(こころ)の炎が、この身へと燃え広がる。
 蒼い炎だった。サイガの関節から、身体中の節々から、蒼の炎は全身に火を点けてゆく。
 命を燃やす灯が、純白の装甲をも突き抜けて、熱く、熱く、燃え滾っているのだ。
 炎はサイガの魂と身体を震わせ、悪を許さぬ正義の灼熱となって大気をも焼いた。
 その気迫は凄まじく、さながらサイガが纏った、命のオーラのようで。

「見事な気迫だ、戦士・仮面ライダーよ」

 アームズドーパントが、何処か嬉しそうな声色で言った。
 サイガのスーツに流れる超高出力の流動体は、海堂の身体を今も蝕み続けていた。
 恰好付けて変身した手前、口に出しはしないが、この力は明らかに“過ぎた力”だ。
 他のギアなどの非ではなく、こいつは容赦なく装着者の身体を焼き尽くそうとする。
 こうして立っているだけでも、身体は全身が焼ける様に熱く、最早感覚すら感じはしない。
 だけれども、例えそんな業火に焼かれたとしても、海堂の闘志はそれ以上に熱く、激しかった。
 この身体を覆う炎すらも、熱き情熱へと変えて、ちっぽけな恐怖や不安をも、焼き尽くす。
 行ける。今ならば、何処までも、全速力で駆け抜ける事が出来る――!

「その力が何処まで通用するか、この破壊のカリスマが確かめてくれる」

 ――ほざいてろよ。今から俺が、テメエをブッ倒してやるからよ!
 背部のフライングアタッカーが、ジェットの唸りを上げた。
 轟音を掻き鳴らし、蒼き炎が蜃気楼となって虚空に揺らめく。
 純白の装甲がもたらした殺人的な加速は、風よりも速く飛び抜け、敵との距離をゼロにした。
 一瞬、本当に、一瞬だ。装着者である海堂すらも予想だにしなかった速度で、サイガは飛んでいた。
 この場の誰もが感知し得ぬ速度で懐へ飛び込んだサイガは、蒼き二刀を引き抜き、振るう。

「――ッ!!」

 きぃん! という金属音が、何重にも重なって絶え間なく鳴り響いていた。
 右の次は左、左の次は右、息を吐く隙すらも与えぬ連続攻撃は、言わば死への抵抗。
 一瞬でも気を緩めれば、満身創痍のこの身体はすぐに朽ち果て、物言わぬ骸となろう。
 誰も守れぬまま、悪をこの手で討ち取る事も出来ぬまま、そのまま全てがお終いだ。

 勝利に繋げる為の唯一無二の手段は、怒涛の連続攻撃以外には有り得なかった。
 この身を蝕む熱も、痛みも、苦しみも、限界すらも意に介さず、サイガは連撃を叩き込む。
 弱くても、強くても、どんな攻撃でもいい。敵に見動きを取る隙を与えてはならない。
 サイガの猛攻は、さながら白と蒼の嵐。圧倒的な風圧で以て蒼き炎を撒き散らす、暴風。
 守ったら負けだ。守勢に出れば詰みだ。後戻り出来る道など、もう何処にもないのだ。
 このままでは足りない。強敵を打倒するには、まだ少し、足りない。
 ならば、もっと速くだ――!
 力を振るうなら、もっと激しくだ――!
 この魂の炎を燃やすなら、もっと熱くだ――!

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 怒涛の進撃は、徐々に敵の勢いを押しつつあった。
 そこに、身体的スペックなどというものは、最早関係ない。
 とうに限界を迎えたこの身を動かすのは、たった一つの正義の炎。
 燃える灼熱がこの身体を突き動かし、サイガの打撃に力を与えてくれるのだ。
 ぬう、と。驚愕の呻きを漏らす声が聞こえて、サイガの攻勢に、更なる勢いが乗る。
 このまま押し切れば勝てる――! なればこのまま、勝利まで一気に突っ走るのみ――!

「ぬ……ッ、ぐぅぅぅぅぅッ!」
「らぁああああああああああああああ!!!」

 やがて、勢いに乗ったサイガのトンファーが、敵の守りを突き破った。
 返す刀でそれを弾き飛ばして、もう一方のトンファーで左腕の大剣を弾き飛ばす。
 その瞬間から、敵はサイガの攻撃を半分近くしか打ち落とせぬようになっていった。
 今この場で繰り広げられているのは、たった一つのシンプルな事実のみだ。

“正義が、悪を押している”。

 熱い正義の魂が、冷酷な悪の力を正面から押しやっているのだ。
 どんな世界だって、最後には正義がのさばる悪を打ち倒すものだ。
 少なくとも、仮面ライダーが守り抜いて来た数々の世界は、そうだった。 
 それは何十年経っても決して変わらない、正義の味方のあるべき勇姿なのだ。

 ――見てるか、木場ぁ! 照夫ぉ!

 雄叫びを上げる仮面の下で、再びこの心に火を点けてくれた二人を思い描く。
 あの二人が居てくれたから、海堂は夢を失い腐っても、再び使命を掲げる事が出来た。
 あの二人が居てくれたから、見失いかけた生きる意味を再び見出し、起ち上がる事が出来た。
 そしてこの使命感は、孤独や不安を引き摺るだけの、無力だった日々をブチ壊すだけの力をくれた。
 なればこそ、今の自分に出来る事はたった一つ。たった一つの正義で示す、償いと、酬いだ。
 これは彼らの想いに少しでも酬いる為。その為に、今ここで、揺るぎなき悪を倒すのだ。
 小野寺が言った、みんなの優しい笑顔を奪う悪魔を、この手で仕留めて見せるのだ。
 燃え上る決意がある限り、今の海堂は何処までも走ってゆける。
 そんな気がして、不可能なんかは無いとすら、思う。

 心の中で涙を流すだけしか出来なかった日々も。
 無力に打ちひしがれ、何をしていてもからっぽだった日々も。
 今日で全部、おしまいだ。後はただ、今この瞬間を、全速力で突き抜けるのみ。
 命を賭けるだけの覚悟は、既に完了した。絡み付く迷いも、とうに振り切った。
 なれば、この身体を掣肘する足枷などは、最早何一つありはしない。
“限界”などと云う陳腐な概念も、最早何処にも存在しない――!

 ――さあ、行こうぜお前らぁ!

 そして、正義を背負って戦う海堂は、一人ではない。
 この胸には、今もみんなが生きている。
 熱い命が、今も強く脈を打ち続けているのだ。
 あの戦いで散ってしまった木場に、照夫に、結花。
 今を必死に生きる乾に、ここで出会った名護や、小野寺に天道。
 今まで出会ったみんなの想い。熱い正義の心に、強い決意の灯。
 それら全てを背負って戦う海堂に、みんなの想いが、力を与えてくれる。
 故にこそ、やらねばならぬ。どんな強敵相手にも、諦める事は許されないのだ。
 そうだ――海堂直也は今、正義の疾風(かぜ)となって、悪の炎を吹き消すのだ!

「だからよぉ! もっとだ! もっと! 熱く、燃え上がれぇええぇぇぇぇぇええええっ!!!!」

 身体を焼く蒼き灼熱は、この魂の炎と一緒になって、熱く、高く、燃え上がる。
 蒼の炎は、いよいよ以て身体全てを覆い尽くし、純白の装甲などは見えなくなった。
 周囲の大気が高熱過ぎる炎に熱せられて、二人の周囲だけが蜃気楼の如く歪んで見える。
 これは自分の命を焼く行為だ。そんな事は、一年間戦い続けた海堂には、嫌という程わかっていた。
 だけれども、海堂に止まるつもりはない。誰にだって、海堂を止める事など出来やしない。
 一度燃え盛った炎は、後は全て焼き尽くすまで燃え拡がるしかないのだから。

「何故だ。あれ程弱かった貴様が、何故ここまで強くなれる」
「さぁなぁ……んなこたぁ、俺は知らねぇ! けどなぁ、多分、理屈じゃねぇんだろうよ!」

 そう――理屈では、最早ないのだ。
 きっと、一歩でも退けば……一瞬でもこの心の熱を冷ませば。
 この命の炎も、一緒になって燃え尽きるのだろうと、直感的にそう思う。
 驚く程に深く冷たい死の闇は、海堂のほんの数ミリ後方で、この身を追い立てているのだ。
 少しでも気を抜けば、この命はあっと言う間に死の闇に飲みこまれて、それで本当にお終いだ。
 なればこそ、だった。海堂はもう、立ち止まることも、振り返る事も出来ない。出来る訳がない。
 後はもう、全力でレッドゾーンすらもブチ抜いて、最期までフルスピードで駆け抜けるしかないのだ。

 ――嗚呼そうさ、イカれてる! イカれちまってるとしか言えねぇよなぁ!

 自分でも解るくらいに、この頭はイカれていた。 
 熱く滾る情熱が、まともな思考などは完全に焼き払っていた。
 だけれども、同時に海堂は、イカれた奴ほど恐ろしいという事も、理解している。
 語る言葉もなく、理解の及ばぬ理由でぶつけられる力ほど恐ろしいものは、他にないのだ。
 サイガの怒涛のラッシュはやがて、歴戦の勇士の守りを、その戦術を、完全に突破した。
 勝った、と。サイガの仮面の下、燃える蒼の炎に包まれながら、海堂は確信した。

「らぁあああああああっ!!!」
「ぐぅ……!?」

 最後の一撃は、強烈だった。
 渾身の力が込められた蒼きエッジは、その銀の胸部装甲を見事に抉る。
 豪快な打撃音が響いて、その屈強な身体がくの字に折れ曲がって、吹っ飛んだ。
 破壊のカリスマを自称した化け物は今ここに、正義の仮面ライダーサイガに敗れたのだ。

「はぁ……はぁっ、はぁ……っ、どう、だ……の、野郎っ!」

 同時に、サイガの身体にどっと疲労が押し寄せる。
 集中力の糸が切れるのと同時に、この脳を焼き切らんばかりの灼熱を感じる。
 全身が、燃えるように熱い。筋肉は徐々に灰化し、今ここに立っているだけでも苦痛を伴った。
 限界を突破して蓄積された疲労は、蒼の炎となって勢いを増し、今にもこの身を灰燼に帰さんとする。
 だけれども、仮面ライダーサイガは、海堂直也は、それでも倒れはしなかった。

 ――まだだ……まだ、倒れる訳にはいかねぇ!

 そう、まだだ。まだ海堂は、仮面ライダーとして、何の証も立ててはいない。
 何よりも怖いのは、証を立てず、何も成さないまま死に絶える事ではないのか。
 敵はまだ生きている。生きて居れば、また他の誰かの命を奪う為に、その力を振るう。
 そんな事は許せない。許せる訳がない。それでは、この命を燃やしてまで挑んだ戦いは無意味だ。
 なればこそ、せめて最期に、この海堂直也が正義に生きた証を立てねばならない。
 笑顔と命を奪う絶対的な悪を、この手で、この力で、完全に仕留めねばならない。
 嗚呼、そうだ。その為に、クズだった海堂直也は正義に目覚め、暁に起ち上がったのだ――!

「もう、決めちまったからなぁ……! 俺はせめて、俺の心にある正義の味方になるって、よぉ……!」

 そう。それこそが、海堂が求め、示した正義のカタチ。
 この命は、最期に向かうべき道標(みちしるべ)を見付けたのだ。
 そしてこの身に最期に残ったのは、それを貫く為の、強く、熱い意志と力。
 なれば、やる事はたった一つ。今ここに、示すのだ。
 命の証を。誰よりも熱い、一人の漢が生きた証を。
 それを、最期まで正義を貫く事で成し遂げる事が出来るのならば――!

「嗚呼、ここで死ぬのも、悪くはねぇよなぁ――!」

 悪くはない。悪くはないと、思う。
 何せ、自分は最期の力を振り絞って巨悪を討つのだ。
 今後襲われるかも知れない無数の命を救う事が出来るのだ。
 正義に生きて、正義に散る。熱い漢の生き様を貫いて、皆の命まで救えるのなら、上等だ。
 この海堂直也の最期を見届けてくれる人が誰も居ないのは、確かに少しばかり心残りだけれど。
 何、それも別段気にする事は無い。正義とは、誰かに見せ付ける為に行使するものではないのだから。
 少なくとも、それを理解出来るくらいには、海堂は真っ当に正義の味方を名乗ったつもりである。
 だから。最期に、仲間二人を救い、悪を打ち倒し、それが沢山の命を救う事に繋がるなら――
 それだけで、海堂直也にとっては、上等過ぎるくらいに、生きた証を立てた事になるのだと、思う。

 ――Exceed Charge――

 濃縮された超高圧力のフォトンブラッドが、サイガの身を駆け巡る。
 この身を包む蒼の炎の中、蒼き輝きが一点の眩き輝きとなって、両のトンファーへと集中してゆく。
 やがて蒼きエナジーブレードは、蒼の炎よりも熱く、圧倒的な熱量を放出して、激しく瞬いた。
 身体は重たい。指一つを動かすだけでも、全身がバラバラになりそうな苦痛を伴う、生き地獄だ。
 だけれども、決意を固めた男は強く、命が消え去ってしまいそうな痛みにも、一瞬たりとて止まりはしない。
 身体ごと持っていかれそうな、圧倒的過ぎる力の奔流を振り上げて、サイガは真っ直ぐに駆け出した。




 天道総司が、乾巧を引き連れて警視庁を出てから、既に数分が経過していた。
 まずは何処に行こう、なんて明確な目的があった訳ではないのは、彼らにとっては珍しい。
 ここは殺し合いの場なのだから、歩いて居れば自ずと誰かと出会うだろうと考えたのだ。
 第一、今も誰かの命が奪われて居るかもしれない中で、休み続けている気にもなれなかった。
 そんな中で、真っ先に表情を変えたのは、天道の仲間である巧だった。

「おい、天道」
「ああ、解って居る」

 巧の言葉に、天道は警戒心を強める。
 先程戦ったカブトムシの怪人の時と同じだ。
 何者かの足音が、こちらへ迫ってきている。
 それも急速に、真っ直ぐに走って、こちらへ向かっているのだ。
 表情を顰め、いつでも行動を起こせるように身構える。
 そんな二人の元へ現れたのは――。

「停まりなさい、総司君!」
「えっ……あ――」

 スーツを来た若い男を担いで走る、白い仮面ライダー。
 雪男をそのまま模した様なデザインのそれは、どうみても自分の世界のライダーではない。
 巨大な肩に乗った男は、自分達を見付けるなり、そのライダーに停まるように命令したが。
 問題は、男が呼んだ、その名前だ。奴は今、確かに「総司」と呼ばなかったか?
 天道の表情が険しくなって、嫌な予感が、頬に汗を滴らせる。

「お前は」

 天道がそう告げた瞬間、白い仮面ライダーの装甲が消失した。
 バックルから、ゼクターにも似た一匹の蝙蝠が強制的に弾き出されたようだった。
 十分間の変身時間を満了したライダースーツが、制限によって形を保てなくなったのだろう。
 そして、白の装甲の中から現れた男は、天道自身も良く知る顔であった。

「お、おい天道……こりゃ、一体どういうこったよ!?」

 乾巧が、狼狽した様子で声を荒げる。
 白いライダーの変身を解いた男は、長身の、天然パーマの男だった。
 それなりに整った顔立ちで、しかし、瞠目に目を見開くその表情は、些か子供らしい。
 だけれども、その顔は、その身体は、見まごう事無き天道総司のものである。
 今、この場に、天道総司が二人居るともなれば、何も知らない巧が驚かない訳がなかった。
 天道と巧の狼狽を知ってか知らずか、もう一人の天道は、息を荒げ、髪の毛を掻き毟る。
 今にも泣き出しそうな子供らしい表情で、しかし天道総司の事を、強く睨みつけて。

「どうしてっ……どうしてお前が! どうしてこんな事に! どうしてっ!?」
「落ち着くんだ総司君! 焦っては、殺し合いに乗った奴らの思う壺だ!」
「うるさい、黙れっ!」

 宥めようとしたスーツの男を、もう一人の天道が振り払った。
 これにはさしもの天道も困惑せずには居られない。
 どういう事だ、と心中で呟き、思考する。
 今の発言を聞く限り、恐らくスーツの男は殺し合いに乗ってはいないのだろう。
 だけれども、目の前に居るのが自分に擬態したワームであるなら、スーツの男は恰好の餌食である筈だ。
 にも関わらず、変身しない男を担いで、一緒に逃げて来た事を考えると、恐らく二人は仲間。
 だが、それは可笑しい。もしも擬態が未だ世界を怨んでいるのなら、そんな事はしない筈だからだ。
 ともすれば、こいつは殺し合いに乗って居ない――或いは、未だ悩んでいるのか?

「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 そんな天道の思考を尻目に、擬態は絶叫し、駆け出した。
 何の武器も持たずに、生身で天道に挑み掛かろうと言うのだ。
 咄嗟に身を乗り出そうとした巧を片手で制し、天道は考える。
 こいつが悩みを抱えたまま殺し合いに放り込まれたのなら、自分にはやるべき事がある。
 そう、世界はお前の敵ではないという事を、もう一度教えてやらねばならない。
 だけれども、恐らく今の擬態は、天道の言葉に耳を貸したりはしないだろう。
 どうしたものか――そう考えている内に、擬態と天道の距離は、ゼロになっていた。


 【1日目 夕方(放送直前)】
【E-6 警察署(警視庁)前】
※外部にGトレーラーとトライチェイサー2000が並んで配置されています。


【天道総司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】最終回後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、仮面ライダーカブトに50分時間変身不能
【装備】ライダーベルト(カブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー電王トリロジー、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仲間達と合流して、この殺し合いを打破する。
0:擬態天道を説得したいが……。
1:首輪をどうにかする。
2:間宮麗奈、乃木怜治、擬態天道、草加雅人、村上峡児、キングを警戒。
3:情報を集める。
【備考】
※首輪による制限が十分であることと、二時間~三時間ほどで再変身が可能だと認識しました。
※空間自体にも制限があり、そのための装置がどこかにあると考えています。
※巧の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※クロックアップにも制限がある事を知りました。


【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)ウルフオルフェノク、仮面ライダーファイズに50分時間変身不能
【装備】ファイズギア+ファイズショット@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×2、ルナメモリ@仮面ライダーW、首輪探知機、ガイアメモリ(ナスカ)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー。世界を守る。
0:天道がもう一人……?
1:仲間を探して協力を呼びかける。
2:間宮麗奈、乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。
3:霧彦のスカーフを洗濯する。
4:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、ザンバットソードによる精神支配(小)、仮面ライダーイクサに1時間50分変身不可
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW、
    ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:総司君がもう一人……!?
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:東京タワーに向かいたかったが……。
3:総司君のコーチになる。
4:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
5:後でタツロットから情報を聞く。
6:軍服の男(=ガドル)は絶対に倒す。海堂の仇を討つ。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ザンバットソードに精神を支配されています。
※ザンバットバットの力で、現状は対抗できていますが、時間の経過と共に変化するかもしれません。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※タツロットは気絶しています。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、全身打撲、極度の情緒不安定気味
    仮面ライダーダークカブトに1時間50分変身不可、仮面ライダーレイに2時間変身不可
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+ダークカブトゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、ネガタロスの不明支給品×1(変身道具ではない)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:全ての世界を破壊するため、最終的には全員殺す。
0:極度の錯乱状態。
1:「仮面ライダー」という存在に対して極度の混乱。
2:当面は『天道総司』になりすまし名護を利用する。
3:天道総司を殺し、『天道総司』に成り代わる。
4:特に優先的に『カブトの世界』の五人を殺害する(最終的には自分も死ぬ予定)。
5:僕はワームだった……。
【備考】
※名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※海堂直也の犠牲と、自分を救った名護の不可解な行動に対して複雑な感情を抱いています。
※仮面ライダーという存在に対して、複雑な感情を抱いています。





 アスファルトには、人間一人分の量に相当する灰燼が降り積もって居た。
 最初は蒼い炎がめらめらと燃え残って居たが、それもすぐに燃え尽きてしまった。
 よほど高熱だったのだろう。凄まじい勢いで、身体の全てを燃やし尽くして逝ったのだ。
 命を、魂を、そして身体すらも燃やして戦った男は、確かに強かった。
 この破壊のカリスマに打ち勝ったのだから、それは間違いない。

 しかし、ゴ・ガドル・バは死んではいない。
 この身体も、痛みはするが大きな問題は無い。
 少し休めば、また問題なく戦う事が出来るだろう。
 だけれども、ガドルがその心(プライド)に負った傷は、大きい。
 何せ、ガドルは敗れたのだ。弱者だと侮って居た仮面ライダーに、完全敗北したのだ。
 最後の瞬間だって、既にアームズドーパントの変身は解けて、後は死を待つだけだった。
 強き戦士と真っ向から戦い、散る事が出来るのであれば、それも悪くはない、と。
 例え一瞬であっても、ガドルはそう思ってしまったのだ。

 だけれども、サイガの最後の一撃は、ガドルには届かなかった。
 圧倒的な熱量を迸らせたブレードが、この首を掻き切ろうとした、その瞬間。
 あと、ほんの数ミリでその攻撃は届いていたにも関わらず――サイガは、灰化した。
 まず最初に、脚ががくんと崩れて灰になった。次に腕が、胴が灰になって、燃え尽きた。
 白い仮面と、全身の装甲から夥しい量の灰が零れ落ちて、サイガは散ったのだ。
 下らない死に方であるが、しかし、ガドルはそんな彼を笑おうとは思わなかった。

「見事だったぞ、仮面ライダー」

 ガドルは彼を、真の仮面ライダーであると認めた。
 というよりも、認めざるを得ない、と云った方が正しいか。
 結果はどうあれ、勝利したのは自分ではなく、仮面ライダーだ。
 歴戦の勇士たるガドルに打ち勝ったのは、正義の仮面ライダーなのだ。
 なれば、その実力を認めない訳には行かない。情けない負け惜しみを言うつもりもない。
 名も知らぬ男は、最期まで仮面ライダーとして戦い、仮面ライダーとして気高く散った。
 彼は喜びはしないだろうが、彼こそが、真の戦士と名乗るに相応しいのだと、ガドルは思う。
 そんな事を考えて、ガドルは眼前の灰燼の中から、燃え残ったベルトの破片と、銀のメモリを拾い上げた。
 ガイアメモリは直接装着していた訳ではないからか、燃えずに灰の中に埋もれたままだった。
 それの有用性を知っているガドルは、ガイアメモリをポケットに入れて、次にベルトを見る。

「……もう、使い物にならんか」

 焼け付いたサイガのベルトはもう、原形を留めてはいなかった。
 中央の携帯電話は、表面はどろどろに溶けて、中身も所々が焼け付いて黒や茶色に変色していた。
 しかし、別に構わないだろうと思う。恐らく、彼以上にこのベルトを使いこなす男はいないだろうから。
 名も知らぬ彼だけが、仮面ライダーサイガとして最高のポテンシャルを引き出す事が出来たのだと思う。
 正直、彼がサイガギアを使いこなせるかどうかは、賭けだったが、今にして思えば、そう確信が持てる。
 サイガギアは、彼が当初使っていたベルトや、先程戦った狼の男が使っていたベルトと似ていた。
 その上で、蛇の男も、狼の男も、怪人態が似た様な姿をしていた事が、決定的な判断材料だった。
 そして、弱者だと思っていた蛇の男は、揺るぎなき強さを持った仮面ライダーであったと、今は思う。
 少なくとも、自分に勝利した男が、ただの弱者であるなどとは思いたく無かった。



 今はもう、彼の形見となったサイガギアの残骸を、降り積もった灰燼の中へと投げ捨てる。
 それは仮面ライダーを目指して戦い、仮面ライダーとして散った男の“夢のかけら”だった。
 ガドルが歩き始めれば、やがて静寂になった戦場に、冷たい夕闇の風が吹き抜けてゆく。
 静かな音楽を奏でるように吹き渡った風は、ベルトと首輪だけを残して、全てを運んでいった。
 風の音色は、まるで声を抑えて泣くように。静かに、静かに、海堂直也を運んで、消えてゆく。


 夢を描いた遠い空は、暁に染まっていた。
 茜色に照らされた雲は、何処までも、何処までも、続いていて。
 悲しいくらいに、空はやさしく煌めいていた。



【海堂直也@仮面ライダー555 死亡確認】
 残り41人













【1日目 夕方(放送直前)】
【F-5 道路】
【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第45話 クウガに勝利後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、怪人態に50分変身不可、アームズドーパントに2時間変身不可、悔しさ
【装備】ガイアメモリ(アームズ)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:ゲゲルを続行し、最終的にはダグバを倒す。
1:強い「仮面ライダー」及びリントに興味。
2:タツロットの言っていた紅渡、紅音也、名護啓介、キングに興味。
3:蛇の男は、真の仮面ライダー。彼のような男に勝たねばならない。
【備考】
※変身制限がだいたい10分であると気付きました。
※『キバの世界』の情報を、大まかに把握しました。
※ガドルとタツロットは互いに情報交換しました。
※タツロットはガドルの事を『自分を鍛えるために戦う男』と勘違いしています。
※また、ガドルが殺し合いに乗っている事に気づいていません。
※海堂直也のような男を真の仮面ライダーなのだと認識しました。

【全体の備考】
※F-5 道路に破損したスマートバックルが放置されています。
※F-5 道路に破損したサイガギアが放置されています。



066:暁に起つ(前編) 投下順 067:第二楽章♪次のステージへ
066:暁に起つ(前編) 時系列順 067:第二楽章♪次のステージへ
066:暁に起つ(前編) 名護啓介 079:生きるとは
066:暁に起つ(前編) 海堂直也 GAME OVER
066:暁に起つ(前編) 擬態天道 079:生きるとは
066:暁に起つ(前編) 天道総司 079:生きるとは
066:暁に起つ(前編) 乾巧 079:生きるとは
066:暁に起つ(前編) ゴ・ガドル・バ 087:防人(前篇)