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愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE




【5:14】



「はぁ……はぁ……」


 戦場に残されたのは王蛇――いや、既にその鎧はもう無い――浅倉威だけだった。


「やるじゃねぇか……」


 変身が解除されたのはこの地における制限時間を超過したからだ。そういえば先に変身した時もいつの間にか変身が解除された。


「!! あの女は!?」


 だが、ここである事に気が付いた。見た限りファムの方が先に変身していた。つまりファムの方が先に変身解除される筈なのだ。


 その問いに答えるかの様に――


「無様だね、浅倉威……」


 美穂が浅倉の前に姿を現した。


「てめぇ……まさか最初から……」
「さぁ、どうだろうね。どっちにしてもあんたはもう変身不能、これで終わりだよ」
「何?」


 浅倉は再びデッキを構えVバックルに挿入する、しかし今度は王蛇に変身する事はない。


「ちっ……」


 だが、よくよく考えてみればそれは美穂にとっても同じ事の筈だ。故に条件は五分と――


「おい……なんだ、そのベルトは? まさか……」


 そう、美穂の腹部には見慣れないベルトが巻かれていた。


「他の世界の仮面ライダーのベルト……そう言えばわかるだろう」


 そのベルトはある世界の仮面ライダーのベルト――それを発展させた新世代ライダーに変身する為のベルト、仮面ライダーランスに変身する力を与えるランスバックルだ。
 なお、これは本来美穂に支給されていたものではない。
 美穂に支給されたものは自身のデッキを除くとサバイブのカードと鉄パイプ、そして爆弾及びそのリモコンである。
 そう、これはある参加者に支給されたものなのだ。
 その参加者に支給されたのはその参加者自身の武器を除くとエクストリームメモリ――そしてこのランスバックルなのだ。


「命乞いをしても無駄だよ……お姉ちゃんを殺したアンタを私は絶対に許さない……何度蘇って来たって同じ、何度でも殺してやる……」


 それは明らかな死刑宣告、だが――


「ふふふふふ……ははははははは……」


 浅倉は狂った様に笑い出す。別に泣き叫ぶ、あるいは土下座して許しを請う姿を期待していたわけではないが相変わらずの姿に苛立ちを隠せない。


「何がおかしい?」


 そう問う美穂であったが浅倉は只笑い続け――


「!! それは……」


 デイパックから王蛇の物とは違うデッキを出す事で答えを示した。そのデッキはインペラーに変身する為のデッキだ。
 美穂にとっては明らかに未知なる存在だ。彼女の知る限り生き残っていた6人は自分を除くと城戸真司、秋山蓮、北岡秀一、浅倉、そして自身を仕留めた黒い龍騎で全部だった筈。
 故にそれは本来ならば存在する筈のないデッキである。
 とはいえ驚いたのは一瞬だけ、よくよく考えてみれば破壊したはずの王蛇のデッキが存在する時点でそもそも有り得ない話なのだ。
 大方、既に倒されたライダーのデッキが浅倉に支給されていたか、浅倉が他のライダーを倒して手に入れたかのどちらかだろう。



「どうした? 震えているんじゃねぇか……怖いのか? 俺が」


 と、浅倉に自身の震えを指摘されるが、


「誰がアンタなんか……!」


 そう言って美穂はバックルに手をかける。それと同時に浅倉もインペラーのデッキを構え、


「「変身!!」」


 Vバックルにデッキを挿入――


 ――OPEN UP――


 ランスバックルからエネルギーフィールドが展開されそのまま美穂の身体を通過する。


 そして浅倉の身体に茶色のレイヨウを模した鎧を、美穂の身体に緑のダイヤとAを模した鎧をそれぞれ纏い仮面ライダーインペラー、そして仮面ライダーランスへの変身を完了した。

 そのままランスは醒杖ランスラウザーを構えインペラーに仕掛けていく。
 対するインペラーは右足を上げ右脛に装着されている召喚機ガゼルバイザーに1枚のカードを挿入、


 ――SPIN VENT――


 電子音声と共にインペラーの契約モンスターの1体であるギガゼールの角を模した二連ドリルガゼルスタッブを出現させ右腕に装着しランスラウザーの斬撃を捌く。

 そして僅かな隙を突かんとガゼルスタッブでランスを撃ち貫こうとする。だが、ランスもランスラウザーを振り回しガゼルスタッブをはね除ける。


(どうやら浅倉といえども使い慣れていないみたいだね……これなら十分戦える……)


 ランスを纏った美穂は内心で十分に戦える事を確信していた。ランスに慣れていないという意味であれば条件は五分と五分ではある。
 だが、数回打ち合った限り勝てない相手というわけではない。状況次第では十分倒す事は可能だ。


(それにどちらにしてももう浅倉は王蛇には変身出来ない……けれどこっちはまだファムに変身出来る……そう、私の方が圧倒的に有利……)


 無論、不安要素が無いわけではない。


(でも……浅倉の奴が何か隠していないとも限らない……)


 先程見た限り、浅倉の右腕に見慣れないブレスレットが装着されていた。もしかしたら何かの武器の可能性はある。十分に警戒するに越した事は無いだろう。


(それに……何なんだ……浅倉に感じるこの嫌な感じは……)


 元々浅倉は仇ではある。だが前に戦った時に感じた怒りや憎しみとは別の全く異質なものを感じていた。それは一言で言えば――
 だが美穂はそれを決して認めない。例えそれを感じても浅倉にだけは決して負けるわけにはいかないのだ。


(そうだ、これは世界を懸ける以前の私の戦い……絶対に引くわけにはいかない……どっちにしてもコイツは障害にしかならないしね……)


 負けるつもりは全く無い。それでも不測の事態は想定しなければならない。


(その時は亜樹子、託したアレを……頼んだよ……)


 その時は亜樹子に爆弾のスイッチを押させ東京タワーごと浅倉を葬れば済む話だ。存在を知る美穂と存在を知らない浅倉、どちらが生存する可能性が高いかなど語るまでもない。


(さぁ浅倉……私は死なないよ……私が死ぬ時はアンタを殺した後だって決まっているんだからね……)


 その確信を持って美穂――ランスは挑む。


「ははっ、いいぜ……これがライダーの戦いってやつだ」


 浅倉――インペラーは楽しそうに笑いランスを迎え撃とうとする。



 東京タワー展望台に激闘の音が響き続ける――



 そしてその上空、ある者が静かに戦いの様子を伺っていた。
 それはヘラクレスオオカブトを模した昆虫コア、
 ある世界――仮面ライダーとワームの戦いが繰り広げられた世界のもう1つの可能性ともかつてあった戦いともとれる世界の仮面ライダー――
 ライダーブレスを持つ資格者の元へと飛来し、装着する事で仮面ライダーヘラクスに変身する力を与える存在、その名は――



 ヘラクスゼクター――



 無論、『彼』が認めし資格者が都合良くこの場にいるわけもない。
 それでも只『彼』は静かに戦場を見つめていた――



【1日目 夕方】
【D-5 東京タワー大展望台1階】

【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】映画死亡後
【状態】健康、恐怖(小)、仮面ライダーランスに変身中
【装備】カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式×2、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実、
【思考・状況】
0:浅倉を倒す。
1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す。
2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。タワーに来た場合は範囲外に誘導する。
3:城戸真司とは会いたいけれど……タワーには来て欲しくない。
4:今は亜樹子を利用して、一緒にステルスとして参加者を減らす。
【備考】
※大ショッカー製の拡声器は、通常の拡声器より強く声が響きます。

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】疲労(中)、興奮状態、仮面ライダーインペラーに変身中、テラー・ドーパントに1時間15分変身不可、仮面ライダー王蛇に2時間変身不可
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、カードデッキ(インペラー)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE
【道具】支給品一式、
【思考・状況】
0:美穂を倒す。
1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
2:特に美穂、黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。
【備考】
※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。
※それによる疲労はありません。
※ヘラクスゼクターが浅倉を認めているかは現状不明です。







【5:15】


 大展望台とフットタウンを繋ぐ直通エレベーターの中に亜樹子はいた。


「美穂さん……大丈夫かな……」


 彼女は震える手でデイパックを握りしめる。その中には自身の手持ち道具、そして爆弾のスイッチが入っている――







【5:00】


「言っておくけど、呼びかけした馬鹿な奴はもう私が倒したよ。で、どうする――聞くまでも無いね。下の建物の屋上で待ってるから」

 そう言って美穂は東京タワー内部にしか届かない様に音量を調節した拡声器の電源を切る。

「それで、ファムのデッキの使い方はわかった?」
「うん……でも本当に良いの? これ美穂さんの大事な……」
「そりゃ私だって何時もだったら貸したりしないわよ。だけどこっちのベルトは私も使った事ないから説明のしようがないのよ。ともかく、何とかして10分時間を稼いで貰わないとならないんだから……」

 2人は大展望台に続く階段の中にいた。

 美穂が考えた作戦を纏めるとこういう事だ。
 亜樹子にファムのデッキを渡し、彼女をファムに変身させて浅倉と戦わせる。この際、浅倉には美穂がファムに変身していると極力錯覚させる。
 拡声器を使ったのは確実に浅倉を戦わせる為に誘導する為だ。
 勿論、美穂が変身したファムでも苦戦した事を踏まえると戦い慣れていない亜樹子では対応しきれる道理は無いのは理解している。
 しかし、あくまでも亜樹子には徹底的に防戦、あるいは退避させ続ける様に指示をした。勿論、浅倉が狙い続ける程度にだ。
 倒せるなら倒しても構わない――と言いたい所だが、実の所美穂は亜樹子にそれが出来るとは全く思っていなかった。実力的な面から見ても、殺し合いに迷いのある精神的な面から見てもまず不可能だと判断していた。
 ファムのスピードと相手を翻弄する能力を最大限に駆使すれば致命傷を避け続けた上である程度時間を稼げると判断したのだ。
 そして最終的には大展望台に誘導し、ファムの変身限界時間を迎える段階で白い羽根を展開し目くらましをさせた上で離脱しファムのデッキを美穂に返却。
 その後、入れ代わる様に爆弾のスイッチを渡して亜樹子を展望台から離脱させ、美穂自身は浅倉を仕留めるべく動くという事だ。
 美穂の手元にはランスとファムがある。浅倉が他に変身手段がなければランスだけで仕留める事が出来、美穂自身はファムを温存出来るという寸法だ。
 また、他に変身手段があり膠着したならば既に変身したと錯覚させたファムに変身する事で浅倉の虚を突く事も出来るという事だ。

 なお、もし亜樹子が下手を打った場合は美穂自身が直接介入、あるいは爆弾を爆破する算段であった。
 無論、これは亜樹子が裏切りデッキを持ち逃げしようとした時も同じ事である。
 もっとも、亜樹子に裏切りの意志など全く無かったわけではあるが。

「でも私に出来るかなぁ……」
「不安なのはわからないでもないけど遅かれ早かれ直接戦う必要は出てくるわよ。少なくても秋山蓮辺りは騙したり出来ないだろうし、アイツは敵に回せば厄介よ。言っておくけど、その時は流石に私もアイツに付くわよ」

 そう、今の所は組んではいるものの所詮これは一時的な共闘に過ぎない。最終的に亜樹子の世界と美穂の世界は決着を着けるべく互いを倒さなければならなくなる。
 その時2人は敵対するのは当然の流れといえよう。

「だから今の内に戦いに慣れた方が良いわよ。そもそも大事なデッキを貸してる時点で破格な話だと思うけど」

 実際問題、何れ敵に回る以上、貴重な戦力を分け与えるのは作戦とはいえリスクも大きい。
 と、2人が話している間に浅倉が迫る足音が響いてきた。

「ともかく、いざとなったら私が助けてあげるから。私だってここでファムのデッキを失うつもりは無いわけだからね」
「わかった……」

 そう言いながら美穂は少しずつ階段を上り大展望台へと向かう。

『待たせたなぁ!』

 浅倉の声が聞こえてくる。


「久しぶりだね……浅倉……でも……」


 美穂の背後では亜樹子が足元の硝子の破片にデッキをかざす事でVバックルを装着し、

「変身」

 浅倉に聞こえない程度の静かな声でデッキをVバックルに挿入し白鳥を模した純白の鎧を身に纏い仮面ライダーファムへの変身を完了、
 そしてゆっくりと静かに階段を降りていく、

『待っていると言っておきながら随分と遅いご到着じゃねぇかよ……』

 浅倉もまた王蛇へと変身しファムへと仕掛けていく。そして美穂は浅倉に気付かれない様に上へ向かう。


「既にアンタは私の策に嵌っているよ……」


 そしてファムと王蛇の戦いは進む。戦い慣れていない割にファムに変身している亜樹子は何とか王蛇の猛攻に耐えている。
 幾ら策とはいえど、戦力を貸し与えた事について自身の甘さを多少なりとも感じずにはいられない。

「ふぅ……私も甘いね……こうなったのも真司の影響か……いや、真司だったらそもそもあの子を戦わせたりしないか……」

 今更ながらに脳裏には城戸真司の姿が浮かぶ。だが自分のやっている事は真司とは似て非なるもの、所詮亜樹子を利用するだけ利用してボロ雑巾の様に捨てるだけでしかない。
 実の所、美穂は真司の存在だけは亜樹子には一切伝えていない。
 その理由は至極単純、真司の性格上亜樹子達他の参加者にとって都合の良い風に利用される事は明白。
 勿論、それ自体は真司がバカなだけだから同情の余地など全く無い。
 それでも、美穂は真司が亜樹子達に良い様に利用される事は極力避けたかったのだ。これは真司が自分の世界の貴重な戦力だからというだけではない。
 それはきっと、真司を正義無き悪意渦巻く戦いに巻き込みたく無かったからだろう。だからこそ、蓮や北岡等と接触する意志はあっても真司と接触する気は無かったというわけだ。
 とはいえ本音を言うならば、戦いが絡んでいない状況ならば会いたい所ではあった。

「全く……何でアイツみたいなのが仮面ライダーやっているんだろうね……」

 美穂は知らない。神崎士郎が催した仮面ライダーの戦いの理由に幼少時代の真司が犯したある過ちが関わっている事を――
 そして丁度その時真司はその事実を知り美穂や蓮達に対して責任を感じている事を――
 もっとも、仮にその真実を知った所で少なくとも美穂は真司を責める事はないだろう――
 自身の戦いの切欠である姉の死そのものには真司は一切関係ないのだから――


「それにしても……真司が仮面ライダーになった事は私達にとって良かったのか悪かったのか……」


 仮に真司がいなかったらどうなっていたのか――そんな疑問が不意に浮かぶ。


 何も変わらないだろう――そう断じる事は簡単だ。


 それでも、もしかしたら――


 いや、それはきっと気のせいだろう――振り払うかの様に大展望台へと急いだ――







【5:13】


 鳴海亜樹子は仮面ライダーではない。
 確かにドーパントであろうがミュージアムの幹部であろうが平然とスリッパを叩き付けてはいるが特別戦闘能力に秀でているわけではない。
 先程美穂に仕掛けたもののあっさり回避され返り討ちにあった事がその証明と言えよう。
 故に彼女が仮面ライダーの力を手に入れた所で戦える道理は全く無い。

 だが――それでもWとアクセル、風都を守る2人の仮面ライダーにとって大きな力になっていた事に違いはない。
 彼女の助言や行動が大きな助けになった事も度々あり、Wに変身している際に無力化するフィリップ、あるいは左翔太郎の肉体の安全を確保するのは彼女の役目だ。
 そう、仮面ライダーの戦いを間近で見続けてきているのだ。それこそ何回も何十回もだ。

 実戦経験は無くてもその動きそのものは亜樹子の中に刻み込まれている。
 夢の中に入り込むドーパント、ナイトメアドーパントが見せた夢の中にて彼女は翔太郎と共にWに変身し多彩なフォームを使いこなしドーパントと戦った。
 それは所詮は只の夢でしかなく、イメージの産物でしかない。だがイメージというのは亜樹子自身の記憶に刻まれているからこそ発現するものだ。
 Wの事を良く知るからこそ多彩なフォームを使いこなしていたと言えよう。

 つまり――亜樹子が見てきた経験、それこそが亜樹子の持つ武器という事だ。

 そう、ファムに変身した亜樹子は自身の持てる経験を生かしファムの能力を引き出し王蛇に対抗したのだ。
 だが、見ると実際に戦うのは大きく違う、一撃一撃が重く膝をつくかも知れない、倒れそうだと何度思った事か。
 何よりも感じた事が『怖い』という事だった。

 翔太郎君やフィリップ君、それに竜君は何時もこんな経験をしていたのか――

 しかし倒れるわけにはいかない。ここで倒れてしまえば作戦が潰れてしまう。そうすれば自分達の世界、風都を守る事は出来ない。
 野上良太郎達を裏切り此処にいる意味が無くなってしまう。それは決して許される事ではない。

 故に亜樹子は王蛇の猛攻に耐え作戦を実行した。
 何とかタイミングを見計らい一度地上に降りてハードボイルダーの位置を把握、
 その後、鉄塔を上り大展望台に移動、
 そして、変身解除のタイミングを見計らい姿をくらまし先行していた美穂と合流しデッキの返却――

 それは容易な事ではなかった――亜樹子にとってはギリギリの戦いであったと言えよう。
 最後のファイナルベントの撃ち合いも所詮は時間稼ぎの手段、モンスターを倒せるかもと思わなくも無かったがやはりそれは無理だった。
 あの時ブランウイングが今一度突風と羽根を展開してくれなければどうなっていたことだろうか?

 ともかく目くらましが出来たお陰で何とか離脱出来、美穂にデッキを返す事に成功したというわけだ。
 その後美穂から手筈通り爆弾のスイッチを受け取り、彼女が浅倉に接触している間にエレベーターで離脱したという事だ――







【5:17】


「はぁ……はぁ……」


 亜樹子はエレベーターから降りた後すぐさまフットタウンから出てハードボイルダーの元へ向かった。
 浅倉が乗っていたハードボイルダーを回収しタワーから距離を取る為だ。
 ハードボイルダーは元々風都を守る仮面ライダーにしてハーフボイルド探偵である翔太郎の物、凶悪犯罪者が持っていて良いものではない。それは亜樹子にとって絶対に譲れない事だった。
 また、ハードボイルダーを確保しておけば仮に翔太郎達の何れかがやって来た時に離脱の理由付けも出来る。
 戦闘力を持たない自分を早急に退避させる風に誘導する事はそう難しく無いだろう。後は適当な理由を付けて戻らせない様にし向ければ完璧だ。
 無論、この事はちゃんと美穂とも打ち合わせ済みだ。美穂は浅倉との決着、亜樹子はハードボイルダーの確保、それぞれの目的を果たせるならば問題はないだろう。
 後はどのタイミングで爆弾を爆破させるかだ。今はまだ時期尚早、もう少し参加者が集まるのを待たなければならない。

 とはいえ今は早々にタワーから離脱した方が良いだろう。亜樹子はそう思い足を急がせる――


 何故彼女はそこまで急いで離脱しようとしたのだろうか?
 爆弾を爆発させればタワーが倒壊するから?
 戦いに巻き込まれる事を避ける為?
 それ自体に間違いはない――だが、亜樹子は気付かない。自身がここまで離脱しようとする事にそれらとは別のある要因が関わっている事を――

 結論から言えば亜樹子は焦っていた。早急に離脱しなければならないという――
 そして同時に慢心もしていた。自分達の作戦を気付いている者は誰もいないと――


 故に亜樹子は気付かない。作戦の前提を根底から崩している者が存在している事を――



「急いでここから――」



 ハードボイルダーのハンドルに手をかけたその瞬間――



「離れ――」



 フロントカウルから突如、何かが飛びだし亜樹子の腹部に直撃――



「なっ……わたし……きいてな……」



 そしてそのまま亜樹子の意識は途切れた。
 その直後、物陰から1人の男性が現れる。



「聞いてないだと? 龍騎の世界のデッキを使っていたならば十分に予測出来る事だろうが」

 その男はガイ、その正体はGOD機関の幹部であったアポロガイスト、現在は全世界の秘密結社を結集した組織大ショッカーの幹部である。
 そう、ガイは亜樹子達の作戦を把握し、自身もまたそれに便乗し密かに爆弾を仕掛けたのだ。つまり、既に亜樹子達の作戦はガイによって出し抜かれている状態となっていたのだ。

 さて、ここに至るまで全く姿を見せなかったガイは何をしていたのだろうか?
 ガイもまた他の参加者がやって来るのを待っていた。但し、亜樹子達と違いガイは入口の辺りで隠れて待機していたわけだが。
 そう、彼も浅倉が入ってくるのを確認していたのだ。しかしガイは最初から浅倉と戦おうとは思わなかった。
 そもそも爆弾で爆破すれば済む話である以上、わざわざ無駄に戦力を浪費する必要性は皆無。故にガイは浅倉を黙認した。
 だが、ここである物が気になった。それは浅倉の乗っていたハードボイルダーだ。有用であれば自身の戦力にしたい所ではある。
 響いてきた美穂の声が確かならば戦場は屋上、距離は大分あると考え確保しようと動いたものの――
 屋上というキーワードからある可能性を考えた。そう、屋上から地上に降下する可能性だ。
 それに気付いた瞬間、ガイはハードボイルダーの確保を断念し、他の者に気付かれない様にしつつ様子を伺った。
 そしてその推測通りファムが降下しハードボイルダーを手に入れ少し移動し、ファムと王蛇が鉄塔を上っていくのを確認した。恐らく大展望台に戦場を移そうとした事は容易に予想がつく。
 そして空から白い羽根が一気に舞い降りるのを見て戦いが終わった事を確信。今度こそハードボイルダーを――

 が、ここである考えが浮かんだ。タワーから離脱しようとする者はハードボイルダーを使うのではないかと。
 そのタイミングで仕掛けるのは有効ではなかろうか?
 暫く待ってからでも遅くはないだろう。ガイはそう考えその時を待った。

 そして、亜樹子がやって来たというわけだ。ハードボイルダーのフロントカウルはガラスの様に透明な板状となっている。
 そこからならば自身の持つシザースの契約モンスターであるボルキャンサーを呼び出す事が出来る。
 予期せぬ方向かつタイミングでの奇襲、回避する事は容易では無いという事だ。
 無論、避けられる可能性も無くは無かったがその時はその状況に応じて臨機応変に対処すれば良い話だ。

 とはいえ結果としてそれは杞憂に終わった。ものの見事に亜樹子はボルキャンサーの突撃を腹部に受け意識を失った。
 なお、少なくても今は命を奪うつもりはない。いざという時の為の盾、あるいは人質として大いに利用させて貰うつもりだ。
 宿敵とも言うべき仮面ライダーは人質に弱い、それを確保した時点で自身は大きく優位に立ったという事になる。

「響鬼の武器に爆弾のスイッチか、何と都合が良い」

 デイパックの中を確かめた所、響鬼の武器である装甲声刃、そして爆弾のスイッチを確認した。
 仮面ライダーの1人である響鬼の力を手中に収めたのはガイにとって都合が良かった。
 そして、亜樹子達の仕掛けた爆弾のリモコンは最も大きな成果だった。
 これで東京タワーの爆弾は全て自身の支配下に置かれた事になる。
 そう、東京タワーに集う参加者の命は全てガイが握ったという事になるのだ。
 ガイは装甲声刃を自身のデイパックに移し、自身の持つ爆弾のスイッチを亜樹子が持っていたデイパックに移した。
 亜樹子のデイパックに2つのリモコンを固めたのはスイッチを1つの場所に固めて置きたかったというのが理由だ。

「ならば最早此処に長居は無用、さらばだ愚かなる仮面ライダー共よ!」

 そう言いつつ亜樹子を背負いハードボイルダーに騎乗しタワーを後にした。
 爆弾の仕掛けてあるタワーに長居をした所でメリットは少ない、
 スイッチを押さなくとも戦いの余波に巻き込まれる事で爆弾が起爆しその爆発に巻き込まれる可能性はある。
 ガイ達が仕掛けた爆弾が互いに誘爆し合う事で発生する威力は非情に大きい。
 少なくても東京タワーを完全に倒壊させる事だけは確実。
 故に爆弾の有効射程外まで早急に退避する必要があるのだ。リモコンの有効射程ギリギリまで離れておく必要があるだろう。


 だが――ガイが早急にこの場を離れたのは本当に爆発による被害を回避する為だったのか?
 自身の戦闘を避けた上で戦力を温存する為だったのか?

 ガイは気付かない、自身が離れた理由の中に『恐怖』というものが存在していた事を――



 そう、亜樹子達には彼女達が知らぬ『恐怖』という感情が刻み込まれていたのだ。
 その発生源は浅倉、彼を見た瞬間にその呪いは刻み込まれたのだ。
 浅倉が凶悪な風貌をした犯罪者だから?
 否、断じて否、歴戦をくぐり抜けた亜樹子達が今更凶悪な風貌をした犯罪者というだけでそこまで恐怖するわけがない。



 ここで1つの事例を紹介しよう。
 亜樹子達の世界にて凶悪事件を引き起こすドーパント、その発生原因となっているのはガイアメモリと呼ばれるものだ。
 そのガイアメモリを流通させているのはミュージアムと呼ばれる組織、
 その組織の中心にいるのは園咲家の人間達、そしてその頂点に君臨するのは園咲琉兵衛である。
 ところで、ガイアメモリによる事件に園咲家の人間が関わる事が度々あった。
 にも関わらず、ガイアメモリ事件の核心とも言うべき園咲家そのものに迫る事に関しては殆ど無かった。
 捜査線上に上がらなかったというわけではない。
 園咲霧彦が幹部であったにも関わらず、
 フィリップが園咲来人である事が判明したにもかかわらず、
 園咲若菜がミュージアムの幹部に就いたにもかかわらず、
 園咲家そのものを直接調べるという行動に何故か至る事が出来なかった。
 ここまで事件の中心に何度と無く関わっているにしては些か不自然過ぎるのではなかろうか?
 警察という組織が動けなくても、フィリップの検索が封じられていたとしても、探偵である翔太郎が地道に調査する事は十分に可能だった筈だ。

 何故、調べなかったのか?

『初めて私の姿を見た時から君は既に負けていたのだよ、私の恐怖……テラーにね』

 そう、それは琉兵衛の持つテラーメモリの力によるものだ。
 その能力はテラーの名の通り『恐怖』、相手の恐怖心を増幅させるというものだ。
 故に翔太郎は知らず知らずの内に園咲家そのものへの接触を避けていたというわけだ。



 何故このことを長々と説明したのか?
 答えは簡単だ、浅倉は本人も知らず知らずの内にテラーの力を発揮しているという事だ。
 無論、幾らガイアメモリの力が絶大とはいえ変身していない状態、なおかつ種々様々な力が制限される状況でそれが発揮されるわけがない。
 だが、今の浅倉に関しては少々事情が違う。
 本来ガイアメモリはコネクタを介した上でそれに内蔵された記憶を引き出しその力を発揮する物だ。
 しかし浅倉はガイアメモリを直接喰らった事で直接記憶と力を取り込んだ。
 ある者が毒素等に対するフィルターの役目をするドライバーを介してはその力を十分に発揮出来ないと語り直挿しを推奨していた事がある。
 無論、それに伴うデメリットもあるわけだが、おおよそ理に適った話ではある。
 だが、浅倉の行った事は直挿しというレベルを遙かに超えている。数値的に言うならば直挿しの数倍の力を発揮出来ると考えて良い。
 そして記憶や力が直接体内を巡っているのであれば、変身せずともその力をある程度発揮出来るのも当然の理と言えよう。

 無論、浅倉はその事実を知らない。だが、浅倉は狂気や闘争心を隠す事なく普段から剥き出しにしている。野獣の本能が如く――
 当然、それと同時にテラーの力である『恐怖心の増幅』もある程度発揮されるのは自然の流れである。

 勿論、制限下である以上、精神力次第で容易に抵抗出来るささやかなものでしかない。ドーパントに変身しない限りは戦局を大きく変化させるということはまずない。
 実際、亜樹子や美穂は若干の震えを感じてはいたものの元々浅倉自体が恐ろしい存在でもあった事もあり大きな影響は無い。

 だが、それはあくまでもその事実を知っていればという話だ。
 その事実を知らない限り、相手にしてみれば『何が何だが解らないが恐ろしいものを感じる』という事でしかない。
 知らない故にその力は未知数、下手を打てば取り返しのつかない事になる。『未知への恐怖』に対する不安あるいは警戒心は決して拭い去れない。
 故に本能的にそれを避けるというのは至極当然の流れである。

 浅倉の発する『恐怖』――それは知らず知らずの内に周囲に影響を僅かに与えているという事だ。







【5:20】


 東京タワーを背にハードボイルダーは走る。
 その馬力故に早々に想定される爆発範囲からの離脱には成功している。
 このまま真っ直ぐ走ればD-6に、T字路で曲がればE-5に向かう事になるだろう。

「後はどのタイミングで爆破させるかだけだ」


 そう思い、T字路の辺りで速度を緩めようとした時『何か』が前方を横切る。


「何だ?」


 思わずガイは急ブレーキをかけようとした。その瞬間、


 別の『何か』か前輪に命中し、車体のバランスが崩れた――


 元々乗り慣れていないマシンとスピード故にバランスを立て直す事が出来ず――


 ハードボイルダーはスピンしガイと亜樹子、そして彼等の持つデイパックはそのまま周囲に放り出された――


「くっ、何だ今の奇襲は!?」


 それでもガイは大ショッカーの幹部怪人、放り出されようとも何とか体勢を立て直し自身が元々持っていたデイパックを手放さず抱え着地に成功する。
 それでも亜樹子本人や彼女の持っていたデイパック等幾つかのものはそのまま放り出され、その中身もぶち巻かれてしまったが。

 ガイは冷静に思考する、恐らく先程前方を横切ったのは急ブレーキを誘った『何か』、そしてブレーキをかけた事で一瞬速度が落ちた隙を狙い仕掛けられたという事だろう。
 ならば敵はすぐ近くにいる。だが相手は何者か? 人質である亜樹子を抱えている以上、仮面ライダーが仕掛けるとは思えない。

 その問いの応えるかの様に、道路の脇には――




068:愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) 投下順 068:愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)
068:愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) 時系列順 068:愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)
068:愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) 霧島美穂 068:愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)
068:愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) 鳴海亜樹子 068:愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)
068:愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) 浅倉威 068:愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)
068:愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) アポロガイスト 068:愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)
068:愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) 紅渡 068:愚者の祭典への前奏曲(第三楽章)