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愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE




【5:21】


「おい! 今の音は何だ!?」

 キバットが何とかデイパックの中から這い出る。そして周囲を見渡すと、ハードボイルダーと亜樹子が倒れているのが目に入る。

「渡! まさか今お前……」

 渡の傍ではサガークが飛んでいる。
 そう、渡はガイが走るのを見つけ奇襲を仕掛けたのだ。
 道路脇に潜みサガークを飛ばす、それに気を取られた隙を突いてジャコーダーによる鞭打を前輪に当てる。
 それだけでバイクはバランスを崩し、上手く行けば転倒させる事が出来るという算段だ。
 転倒しなくともバランスが崩れれば隙が出来る、そのまま畳み掛ければ良いという事だ。

「キバット族のキバットォ!」

 その一方、ガイはキバットに対し呼びつける。

「テメェ、誰だ!」
「ふん、キバットがいるということは貴様、仮面ライダーキバだな」
「違う……僕は仮面ライダーじゃない……キングだ!」

 ガイに対し言い放つ渡はゾルダのデッキとディスカリバーを構える。
 渡がどう言おうともキバットがいる以上渡がキバなのは明白。だがキバではなく別のライダーに変身する事から恐らく現状キバには変身不能ということだろう。
 無論、温存している可能性もあるがどちらにしてもこのままにしておくつもりはない。
 相手が龍騎の世界の仮面ライダーに変身するならば此方も龍騎の世界のライダーに変身して様子を見よう。
 そう考えガイはシザースのデッキを構える。

 ガイがこの地で最初にシザースに変身したのは大体12時10分頃、
 その後変身解除した後変身制限を確かめる為にシザースへと再変身を行い、制限の1つである再変身までの時間制限を約2時間だと割り出した。
 故に、再変身を行ったのはどんなに遅くても3時前という事になる。それ以上の場合むしろ3時間、あるいは2時間半と割り出す可能性が出てくるからだ。
 そして現在時刻は既に5時20分を過ぎている。故にシザースへの再変身は可能という事だ。


 渡とガイはそれぞれデッキをディスカリバー及びハードボイルダーにかざす。それにより双方の腹部にVバックルが装着される。


「「変身」」


 同時にデッキを挿入。渡が緑の装甲を、ガイが橙の蟹を模した装甲をそれぞれ纏いゾルダ、そしてシザースへの変身を完了する。


――SHOOT VENT――


 ゾルダは召喚機である機召銃マグナバイザーに1枚のカードを装填し、契約モンスターマグナギガの下半身を模したキャノン砲ギガキャノンを出現させ両肩に装備、


 そして、ギガキャノンとマグナバイザーによる波状攻撃をシザースへと仕掛けていく。


「おい渡! その武器じゃ姉ちゃんまで巻き込むぞ!」
「関係ない……」


 亜樹子の身を案じるキバットが口を挟むもののゾルダは構わず連射を続ける。


「ちっ……」


 こうなってはもう止められないと考え、キバットは砲撃を避けつつ亜樹子の所へと向かう。


「くっ……仮面ライダーの癖に人質もお構い無しだと……」
「僕は仮面ライダーじゃない!」


 人質作戦が通じない事にシザースは僅かながら焦りを感じる。それでも、


(確かにシザースは最弱クラスだ。だが、ゾルダは遠距離特化のライダー。懐に入り込めば勝機は十分にある!)


 ――GUARD VENT――


 自身の召喚機シザースバイザーに1枚のカードを装填し、ボルキャンサーの背中を模した盾シェルディフェンスを出現させ装備しゾルダの方へと向かう。
 ゾルダの砲撃、その一撃一撃は決して軽くはない。それでもダイヤモンドに匹敵する硬度を持つシェルディフェンスならば直撃しない限りは十分に耐えられるものだ。


 ――STRIKE VENT――


 更に1枚のカードを装填しボルキャンサーの腕を模した鋏シザースピンチを出現させ装備、そのままゾルダの懐に――


「終わりだ仮面ライダー!」


 その一撃を叩き込もうとした――が、


 エンジンブレードがそれを阻む。その重量による反撃によりシザースピンチの突撃を弾き、シザースは後方への後退を余儀なくされる。



「何ぃっ!?」



 まさか近距離用の武器を持っていたとは、想定外の事態に動揺しつつも何とか体勢を立て直す。それでも次は同じ手は喰わないと動こうとするが、


 今度はジャコーダーによる鞭がシザースの腕に絡みつく。そしてそのまま遠方に放り投げられた。


「何だとぉっ!?」


 そして空中から落下するシザースにギガキャノンが発射される。何とかシザースはシェルディフェンスで防ぐものの衝撃を完全に殺しきれない。


「おのれ仮面ライダー!」


 着地そのものには成功してもゾルダとの距離は大きく開いてしまった。そこから再び仕掛けるのは大きな手間だ。
 無論、ゾルダもシザースを近付けさせるつもりはない、無情なる砲撃を次々に撃ち込んでいく。


 遠距離からのギガキャノンとマグナバイザーの砲撃、
 中距離からはジャコーダーによる牽制、
 至近距離まで迫ってもエンジンブレードによる迎撃、


 距離面において今のゾルダに死角は殆ど無い。故にシザースで対抗する事は非情に厳しいと言えよう。
 既に1度ボルキャンサーを召喚している以上単純に召喚する事は不可能、
 ファイナルベントならばまだ可能性もあるだろうが、それはゾルダにとっても同じ事、モンスター召喚を残しているゾルダの方に分がある事に変わりはない。


(ここまで最弱だとは思わなかったぞシザース!!)


 内心でそう叫んでいた。その一方、


「ちっくしょう……渡の奴本当にお構いなしだな……とりあえず命には別状ねぇみたいだが……全身を打ってやがる……骨も数本折れてるだろうなぁ……」


 キバットが亜樹子の様子を伺っていた。命には別状は無いものの重傷である事に違いはない。


「病院行くにせよ手当てするにせよ今の渡がそこまでやってくれるとも思えねぇし……とりあえず何か無いか……」


 早急に手当てすべき、そう考え周囲を見渡し治療に使えそうな道具を探す。


「つか、中身までぶちまけているじゃねぇか……大体スリッパなんて……ん?」


 と、地面に落ちている2つのリモコンを見つける。その内の1つは転倒した際の衝撃で壊れてしまい使用不能になっている。


「何かのリモコンか? カプッと」


 そう口にしつつまだ壊れていないリモコンを銜える。そして、近くに落ちていた1枚の紙を見つける。


「何々、大ショッカー特製爆だ……んだとぉ!?」


 その叫びが戦っているシザース達の耳にも届く。
 ゾルダの猛攻を防ぐので手一杯とはいえ、今のキバットの行動を見過ごすわけにはいかない。故にシザースは声を張り上げる、


「おい貴様、そのリモコンを返すのだ!!」
「ふざけんなぁぁぁぁぁっ! ガブリ!!」


 と、思わず一気にリモコンを噛み砕く。


「いでででで……」


 と、口から破損したリモコンがこぼれ落ちる。衝動的な行動故に口の中が痛い。


「って、まさかコイツは……」
「そうだ、貴様が今破壊したのは爆弾の起爆スイッチだ! 何て事をしてくれたのだ……ちっ、もう1つも使えんか……」
「爆弾……それって……」


 シザースの言葉にゾルダの動きが止まる。シザースはその様子からある一計を案じ行動を移す。


「こうなっては仕方ない。貴様達の想像通り、我々が東京タワーに爆弾を仕掛けたのだ。少なくても確実にタワーを消し飛ばす程のな」


 シザースはキバット達に東京タワーに爆弾を仕掛けた事をカミングアウトする。


「何だと!? ちょっと待て、それが確かなら……」


 先程東京タワーから響いた声により多くの参加者が集結しようとしている。
 つまり、狙いはその連中を一網打尽にする為だという事だ。


「ちっ、随分と迷惑な事をしやがるな……」
「私にとっては最大の褒め言葉だ」
「で、もしもの時はこの姉ちゃんを人質にするつもりだったって所か。あの姉ちゃんの善意を最悪な形で利用しやがって……」


 そう、シザースに毒づくキバットだ。自分が言えた事ではない事もあり、口にはしないもののゾルダも同じ想いではある。だが、


「貴様等、何か勘違いしている様だな」
「それは……どういう事?」


 シザースの返答にゾルダが応えた。


「もう1つ良い事を教えてやろう。そもそも私は便乗しただけに過ぎん」
「え?」
「便乗……ちょっと待て、それじゃあ……他にもいるってことか? 一体誰が……」


 が、2つあったスイッチを見て、考えられる最悪の可能性に思い当たった。


「まさか!? まずい! 渡、奴の戯言に耳を貸すな! さっさとコイツを倒せぇぇぇぇっ!」


 キバットが思い当たった可能性、信じたくは無い最悪なパターン。それが渡の耳に戻ったら渡はどうなるのか?
 しかしゾルダは動かない。その答えに薄々気付いていたのか、それともシザースが言う事が気になったのか、どちらにせよシザースの言葉を遮ろうとはしなかった。


「お前達仮面ライダーや無力な人間共を誘き寄せようとしたこの女共が爆弾を仕掛けたのだ。
 仮面ライダーなら自分達を守ってくれるという人間共の愚かなる信頼、
 貴様等仮面ライダーが弱者を守るという正義感を悪用してな。
 全く、私程では無いが迷惑な悪女共だ」
「出鱈目を言うんじゃねぇ! テメーが全部仕掛けた事だろうがぁぁぁ!!」


 キバットは反論する。だがそれは明確な理由のない感情論に過ぎない。


「冷静に考えてみろ。爆弾を仕掛けるならわざわざ2つもリモコンは必要無いだろう。それに私がこの女に罪を擦り付けるつもりならば私は仕掛けたとすら言わないのではないか?」
「くっ……」


 確かに2つのリモコンは種類が違う。普通に仕掛けるならば2種類も仕掛ける必要性は低い。
 また、1つは認めもう1つは否認していることもシザースは嘘を言っていないと考えて良い。
 亜樹子に全ての罪を被せるならば最初から全てを否定すれば良いからだ。


「貴様等仮面ライダーや人間共はこの女に騙されていたという事だ」


 そんな中、亜樹子が意識を取り戻す。それでも激痛で身体が動かない。


「ううっ……あれ……ここは……」
「おい、姉ちゃん……」
「喋る蝙も……」


 キバットは込み上げる感情を抑えながら亜樹子に問う。


「今、アイツが言った事は本当か?」
「え……?」
「東京タワーに爆弾を仕掛けた事だ……」
「ちょ……どうし……はっ」

 何故それを知っているのか? 美穂と自分しか知らない筈の事を、それ故に思わず応えてしまった。
 しまったと思ったものの既にもう遅い、


「ちっ……最悪のパターンじゃねぇか……」


 ノーと言って欲しかった。嘘でも良いから否定して欲しかった。キバットのささやかな願いは脆くも崩れ去った。


「フハハハハ、私が立ち聞きしていたのだよ。全く、本当に愚かな女共だ」


 勝ち誇るシザース。先程ゾルダに良い様にやられていたとは思えない不貞不貞しさだ。


「テメェ、状況わかってんのか? 渡に手も足も出なかっただろうが。おい渡、さっさとコイツを倒し……」


 リモコンが失われたとはいえ爆弾そのものは健在。早急に仲間に伝え退避した方が良い。そう考え渡に声をかけたがゾルダは立ちつくしたままだ。


「渡! 何ぼさっとしてやが……わた……」


 叫ぶキバットを余所にゾルダはゆっくりと口を開く、


「どうして……名護さんや父さん達を騙す事をしたの……
 みんなを助けるんじゃなかったの……
 戦いを止めるんじゃなかったの……」


 それは亜樹子に対する言葉だ。
 亜樹子の声が聞こえたならば名護や音也は確実に向かう。
 今更自分が言えた事じゃないが、その善意を踏みにじった事がどうしても許せなかったのだ。


「それ……は……」


 自分達の世界、そして街である風都を守る為だ。しかしゾルダの声が怒りに震えているのを見てそれ以上言葉を紡げなかった。


「渡……そりゃアレだ、この姉ちゃんも自分の世界を守りたかっただけなんだ。渡や冴子の野郎と同じなんだ……だからつい……」
「キバットは黙ってて!」


 と、マグナバイザーを2発撃ち込んだ。銃弾はそれぞれリモコンの残骸に命中し修理不能な程に破壊された。


「冴子さんと同じ……? 違うよ、あの人は僕なんかを助ける為に死んだんだ……」
「え……若菜姫のお姉さん……と会ったの……死んだ……?」
「あの人も来人君や霧彦さんを守りたかった筈……それなのに僕を守って死んだんだよ、そんなあの人と一緒にしないで……!」


 何時しか制限時間が訪れゾルダの鎧は消失していた。そして現れた渡の眼からは止めどなく涙が流れていた。


「そんな……フィリップ君……」


 フィリップの姉である冴子が渡を守る為に死んだ事実を聞き驚きを隠せない亜樹子を余所に、


「テメェ……」


 何時もの陽気さはなりを潜めたキバットが静かな怒りの感情を込めて亜樹子に話しかける、


「渡はな……口では自分の世界を守る為に他の世界の連中を皆殺しにするって言っておきながらどこか迷っていたんだぜ……
 そこに聞こえたアンタの言葉を信じていたんだ……元の優しい渡に戻れた筈だったんだ……
 よくも渡の心を踏みにじってくれたな……
 渡だけじゃねぇ、アンタの言葉が助けになった人々が他にもいる筈だ……なんでそいつらを裏切る様な真似を……」


 亜樹子もそれを理解出来なくはない。それでも自分の世界を守る為には仕方のない事だと言い聞かせていた。
 甘い言葉に騙される方が悪いと言い聞かせてきた。
 だが、面と向かって突き付けられると辛い事に代わりはない。


「仮面ライダーの話も嘘だったって事だな……みんなのために戦うヒーローって話も……」
「違う……本当に仮面ライダーは……」


 自分の行動は幾ら侮辱されても構わない。だが仮面ライダー、つまりは翔太郎や竜を侮辱しては欲しくはない。


「じゃあ、アンタの世界の仮面ライダーがやって来たらどうするつもりだったんだ? アンタの言う通りなら名護達同様のこのこやって来て爆弾に吹っ飛ばされるんじゃないのか?」
「それは……適当に理由をつけて……」


 そう、翔太郎達がやって来てもそれで切り抜けるつもりだった。だが、それがキバットの逆鱗に触れた。


「はっ……何を言ってやがる、そんな適当な理由でみんなを見捨てる様な薄情な連中だっていうのかよ……
 テメーにとって仮面ライダーはそんな軽いものだったのかよ!?
 巫山戯んじゃねぇ! テメーが一番仮面ライダーを侮辱しているんじゃねぇか!!
 俺の知っている仮面ライダー……といえるかどうかは微妙だが名護の野郎はそんな安っぽい口車であっさり他人を見捨てる様な奴じゃねぇ!
 テメーに仮面ライダーを語る資格なんてねぇ!」


 キバットの怒号が亜樹子の胸に突き刺さる。
 よくよく考えてみればその通りだろう。
 あのハーフボイルドの翔太郎が泣いている人々がいる状況で見捨てるわけがない。
 竜が危機に脅かされている人々がいる状況で黙ってみているわけがない。
 自身の父である荘吉も守るべき人々がいる状況で動かない事など有り得ない。


 そう、適当な理由を付けて離れさせる事がそもそも無理な話なのだ。
 危機的状況にあるとわかっていてあっさり見捨てる様な者が仮面ライダーである筈がない。


 理解していたと思っていた――
 だが本当は全く理解出来ていなかった――
 亜樹子はキバットに指摘されるまで忘れていたのだ。
 仮面ライダーは決して皆を見捨てたりしないものだという事を――


 風都を守ると言っておきながら――
 風都が作り上げ守ってきた仮面ライダーを自ら否定してしまったのだ――


「テメーの言葉は渡にとっては希望だったんだ……まだ戻れるかもしれなかった……
 けどそれが嘘だとわかった以上もう渡は止まらねぇ……あんたの仲間達だって皆殺しにするだろうな……
 それにさっきも言ったがあんたの言う仮面ライダーもきっとタワーにやって来る……
 爆発に巻き込まれるってわかってもな……
 テメーのやった事は自分の世界すら守っちゃいねぇよ……
 只の……只の人殺しだ……」


 キバットの言葉が余りにも重く、亜樹子は何も返す事ができなかった。


「って、んな事言っている場合じゃねぇ! 渡の変身が解除されたって事は……」


 そう、前述の通り既に渡の変身は解除されている。つまりキバットの知る限り既に渡は戦闘手段を失ったという事だ。


「ハッハッハッハ、そういう事だ」


 同じ様に変身解除されているガイが笑っていた。


「時間稼ぎって随分セコイ真似するじゃねぇか……大体テメーだって変身解除されているんじゃねぇか!」
「元々シザースなど小物、私の力はこんなものではない! 大ショッカーの幹部であるアポロガイストを舐めるな!」
「大ショッカー!? あいつらの仲間か!?」


 まさか主催者である大ショッカーの仲間だとは思わなかったので驚きを隠せない。だが、その事は今はどうでも良い。


「っつーことはまさか!? 渡、もう戦うのは無理だ、すぐに逃げるぞ!」


 ガイの言葉から察するに奴は変身を残している。故に変身手段を持たない今の渡に勝ち目はない。だが、渡は俯いたまま動けない。


「どうした? 裏切られたショックで動く事も出来んか?」
「渡!」


 だが、ゆっくりと顔を上げ、


「サガーク!」


 その言葉と共にサガークが渡の所に戻ってくる。


「いや……まだサガに変身出来ねぇ筈……何を考えて……」
「むっ! 貴様、それはまさか……」


 そう、サガークは渡にある物を持ってきていたのだ。


 ――Weather!!――


「うそ……どうしてウェザーのメモリが……」


 転倒した際、ガイの懐からウェザーのメモリも投げ出されていたのだ。
 戦いの最中、渡はウェザーメモリの存在に気付き密かにサガークに回収させたという事だ。


「いや、だがなんとかドライバーが無けりゃ使えねぇ筈……」


 そう、キバットが知る限りドライバーが無ければ変身は不能。
 亜樹子から見てもコネクタがついていない人間が使える筈がないと判断しており、ガイに至ってはそもそも使い方を知り得ない。
 しかし渡は構う事無く首輪のコネクタに挿入した。



 ――Weather!!――



 その瞬間、ウェザーメモリに内包された気象の記憶が渡の全身を駆けめぐる――



 それに呼応するかの様に全身に力が漲っていくのを感じる――



 何処からともなく雷鳴が轟いていく――



 ありとあらゆる方向から熱風はたまた冷風が吹き荒ぶ――



 突如として雨までもが降り注ぐ――



 その中心――



 魑魅魍魎跋扈するこの地獄――



 紅渡が此処にいる――



 ウェザー爆現――



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 ウェザーメモリ、それは数あるガイアメモリの中でも異質な存在となっていた。
 本来の持ち主である井坂深紅郎が長きに渡る研究の果てに進化を続け――
 渡した張本人である程のシュラウドの予測すら超える物となった――

 その力を以て変身したウェザードーパントの力は絶大。

「くっ……まさかこれ程の力を持つとは……!」

 利用出来ないと思っていた物が強大な牙となって自分に向けられガイは苦い顔をする。

「そんな……竜君がやっと倒した筈なのに……」

 特訓の果てに漸く竜が撃破した筈のウェザーを目の当たりにし亜樹子も俯く。


 だが、この状況下に置いてもキバットはまだ諦めなかった。
 槍の様に降りしきる雨が痛く感じる。それでも何とかウェザーの元に向かう。


「渡! もういいだろ! お前の勝ちだ、殺す事なんかねぇ!!」


 これ以上、渡に凶行を重ねさせない為説得をするのだ。


「裏切られて辛いかも知れねぇ……けど、殺したって誰も喜びはしねぇって解っている筈だろ」
「キバット……」
「なぁ、深央の事が原因だってんならアレはお前だけのせいじゃねぇ」


 キバットが考え付く最も大きな原因は鈴木深央を殺してしまった事だろう。実際、その時太牙にも大きく責められた。
 だが、アレは元々太牙との戦いに巻き込まれた事によるもの、ある意味では事故とも言える。


「俺や太牙にだって責任はあるんだ、お前1人が全てを背負い込む必要はねぇんだよ。
 加賀美の兄ちゃんの事にしたってそうだ、アレはいきなり変身が解けた事による事故だったし何より俺がもっとしっかり止めてりゃ避けられていた筈だ」


 加賀美の一件にしても変身制限による解除がなければ避けられるものだった。


「キングの時はそもそもやらなきゃやられていた、お前が新たなキングになって世界を救うにしても、もっと違うやり方がある筈だ。他人を音楽を奪わないで済む方法がある筈なんだ」


 新たな王としての使命だとしても皆殺しにするだけしか無いという事は無い筈だ。


「耳を澄ませてみろよ……聞こえてくるはずだ、みんなが奏でている音楽が……それを守る事こそが本当にやるべき事じゃねぇのかよ……なぁ……渡……素直になれよ……」


 ウェザーの力が圧倒的なのはキバットも理解している。此処をしくじれば渡をもう二度と取り戻せないだろう。故に必死になって渡を説得する。


 そして――


「キバット……キバットは僕にとって一番の相棒だと思っているよ」


 ウェザー、いや渡がそう応えた。


「渡……当たり前だろ、今までだってそうだったしこれからだって……」
「あの時はごめん……冴子さんと戦った時、キバットなら僕の危機を助けてくれると思ってそれを利用した……」


 渡が口にするのは冴子との戦闘時、あの時渡は自分の危機をキバットが見捨てられる筈がないとその良心を利用した。
 その時の事を謝罪する。


「何を今更、俺とお前の仲だろう? お前の為だったら幾らでも利用されてやるよ」
「ありがとう……だったら……僕のお願いを聞いてくれる?」
「おう、何でも言ってみろよ」


 説得が届いた、キバットは内心で安堵していた。だが、


「キバット……名護さんや父さんを守って……」
「え? 何を言っているんだ? いや、そりゃ当たり前だろうけどよ……」
「それで……全てが終わったら、キバット……太牙兄さんの力になって……僕を……殺して……」
「おい……冗談は顔だけにしろよ……」


 キバットに動揺が奔る、渡は何を言おうとしているのだろうか?


「僕はもう、キバットと共には行けない……」


 渡が口にしたのは明確なる訣別宣言だ。


「何でだよ! 何でそんな事を言うんだよ!! 渡!」
「きっと……キバットや名護さんはこれからも僕を助けてくれる……だけどもう僕はキバットや名護さんを都合良く利用するだけ利用して裏切りたくはないんだ……」
「なんだよそれ……」


 それは渡はこれからも他の参加者を皆殺しにする意思表示であった。
 当然、それはキバット達の願いとは真逆である。
 それでもキバット達は渡が危機に陥れば助けに入るだろう。
 だが、彼等の良心を利用する事は先程亜樹子が仮面ライダーの良心を利用した悪行と同じ事。
 幾ら目的を達する為とはいえ、それは余りにも辛く感じ、同時に醜く見えた。
 故に渡はキバット達を利用する事も、キバット達が良い様に利用される事も容認出来なかった。
 だからこそ渡はキバットと別れる事に決めたのだ。
 それは愚かな選択かもしれない。それでも渡は敢えて選ぶのだ。


「これから先はもうキバットを頼らない……だから……」


 ウェザーが繰り出す竜巻にキバットを飲み込ませ、


「渡! 頼む!! 考え直せ!! 早まるんじゃねぇ!!」
「さよなら……」


 そのまま突風で吹き飛ばした――


「わたるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅー!!!」


 キバットを飲み込んだ竜巻は一気にウェザー達のいる戦場から遠く離れていった――


「名護さんと父さん……それに太牙兄さんを頼んだよ……」


 長年の相棒に別れを告げ、ガイと亜樹子の方に向き直る。


「茶番は終わったか?」
「どうして待っててくれたの?」

 考えてもみれば、キバットが説得している間幾らでも仕掛ける隙はあった。にもかかわらずガイは静かに待っていた。

「貴様が説得に応じた所を狙うつもりだっただけだ」

 ガイ自身ウェザーの強大さは理解している。隙があると解っていても油断は出来ないと判断していた。
 だが、説得に応じ変身を解除したならば容易に倒せる。故にそのタイミングを待ったという事だ。
 仮に説得に応じなくても時間は稼げた。変身時間が少なくなればそれだけでも勝機は見える。
 渡さえ仕留めれば彼の持つ変身道具は総取り、その後はそのままタワーから離れれば良いだろう。
 自身の手で爆破出来ない以上、それに拘るつもりは全く無い。

「偉大なる大ショッカーの為、仮面ライダーキバ、まずは貴様から始末してやるのだ!」
「何度も言わせないで……僕はもう、仮面ライダーでもキバでもない……キングだ!」
「そんな事などどうでも良い……アポロチェンジ!」

 そう言ってガイは本来の姿であるスーパーアポロガイストに変身した。

(恐らく、アレが切り札……でも、僕にはまだ戦う手だてがある……)


 何故渡は何の迷いもなくウェザーメモリを使えたのだろうか?
 その答えは単純、渡の手元にはもう1つガイアメモリがあったからだ。その説明書きを見て首輪のコネクタの存在に気付いたという事だ。
 無論、このことはデイパックの中に閉じこめられていたキバットが知り得ない話だ。
 そのガイアメモリは本来は北岡に支給されていた物、
 それはT2ガイアメモリと呼ばれる次世代型ガイアメモリ、
 それはエターナルを持つ大道克己に重要な関わりを持つ者が持っていたメモリ、
 その名はT2ガイアメモリ・サイクロン、
 それを使う事により風の力を持つ緑の怪人サイクロンドーパントへと変身出来るのだ。

 余談だが先の戦いでキングが使わなかったのはキング自身その力よりも自身の持つファンガイアの力を信頼していたという理由がある。


(何にしてももうキバットには頼れない……でもこれで良いんだ……どんなに愚かであっても……みんなから蔑まれても僕は……)


 揺るぎない決意と共にウェザーは突風、雷、冷気を次々に繰り出していく。スーパーアポロガイストはそれらを回避しつつウェザーに迫る。


 その様子を亜樹子は見る事しか出来ない。全身の激痛から動く事が出来ないのだ。
 こうしている間にも翔太郎達はタワーに近付き、爆発に巻き込まれる瞬間が迫っている。それでも亜樹子にはどうする事も出来ない。

 助けを呼ぶ? 何を今更な話だろう。
 散々人の善意を踏みにじり裏切っておきながら困った時には助けて貰う、あまりにも虫が良すぎる。
 仮面ライダーを裏切りながらその仮面ライダーに助けられる等あまりにも都合が良すぎる話だ。
 仮に助けが来た所でタワーの爆発に巻き込まれる危険がある事に変わりはない。
 それは全て自分自身の愚かな行動が引き起こした結果でしかない。


 残酷な話だが来ない事を願う事が最善と言えよう。それでも――


「助けて……翔太郎君……フィリップ君……竜君……」


 どんなに醜く愚かであっても助けを願わずにはいられなかった――





 亜樹子の呼び声はまさしく祭典への招待――
 だがそれに拘わる者その全ては愚か者達だ――
 言うなればこれは愚者の祭典――
 そしてここまでの物語は未だ前奏曲(プレリュード)に過ぎない――



 無論、前奏曲だけで終わるかも知れない――
 だが破滅的な結末を奏でる輪舞曲(ロンド)に繋がるかも知れない――
 はたまた死者に捧げる鎮魂曲(レクイエム)へ続く事もあるだろう――



 前奏曲から繋がる物語の行方は――



【D-5 右T字路】

【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、返り血、ウェザードーパントに変身中、キバ及びサガに30分、ゼロノスに40分、ゾルダに1時間55分変身不可
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ウェザーメモリ@仮面ライダーW、
    エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王
    ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、
    バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ドッガハンマー@仮面ライダーキバ、T2ガイアメモリ(サイクロン)仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ、北岡の不明支給品(0~1)
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
0:アポロガイストと亜樹子を殺す。
1:爆発の危険のある東京タワーへ向かい皆殺し? それとも退避? あるいは……
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:加賀美の死への強いトラウマ。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、恐怖(小)、怪人態に変身中、シザースに1時間55分変身不可、 ボルキャンサー1時間40分召喚不可
【装備】シザースのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、インドネシアの魔除けのお面@仮面ライダークウガ、真理の携帯美容師セット@仮面ライダー555、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、
【思考・状況】
0:キバ(渡)を倒す。その後はタワーから退避。
1:大ショッカーの意思通り、全ての敵を倒し、世界を破壊する。
2:参加者の変身アイテムを奪う(たとえ自分の力にならなくても)。
3:ディケイド、牙王はいずれ始末する。
4:全てのライダーと怪人にとって迷惑な存在となる。
【備考】
※スーパーアポロガイストの状態ですが、能力は抑えられています。
※制限の詳細な時間設定と能力が抑えられていることを、何となく把握しました。

【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半(少なくても第38話終了後以降)
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、恐怖(中)、精神的ショック(大)、ファムに変身不可1時間35分変身不可
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
0:今更仲間に会わせる顔はないけど助けて欲しい……
1:風都を護るため、殺し合いに乗る。
2:翔太郎や竜に東京タワーに来て欲しくないが……
【備考】
※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。















【5:35】



 あれだけ大きく見えていた筈の東京タワーが小さくなっていく――



 ウェザーの力によって吹き飛ばされたキバットは未だその動きを止めなかった――



「ちくしょう……なんでだよ渡……」



 無論、渡の真意がわからないわけではない。



 渡はキバットを守る為、ウェザーの持つ竜巻、及び突風でキバットを危険地帯であるタワー周辺から遠く離れた場所まで飛ばし安全を確保したのだ。
 キバットは度々軽々と投げ飛ばされている。その事実から考えてもウェザーの放つ強い突風を受ければ簡単に遠くまで吹き飛ぶのは自然の流れだ。
 更に言えばキバットはキバに変身時はバックル部となっている事もありその身体は割と頑強だ。ウェザーの突風程度ではダメージは殆ど無い。



 だが肉体的なダメージが無いとは言え精神的なダメージはとても大きかった。



「俺にとっては渡だって大事なんだよ……お前が誰かを傷付けたり傷付けられたりするのを黙って見ていられるわけなんてねぇよぉ……」



 渡の言い分はわかる。恐らく自分は渡が危機に陥ればきっと助けに入る。渡がどんな修羅の道に堕ちたとしてもだ。
 だがそれは本来キバットの望む事ではない。
 渡はキバット自身をこれ以上修羅の道に巻き込むまいと別れを告げたのだろう。
 人を殺す自分といるより、守ろうとする名護や音也と共にいた方が良いと――
 そして全ての決着が着けば太牙と共にキバとして渡を断罪してもらうと――


「だから違うんだよ……俺が渡と一緒にいたのは渡がキバだからじゃねぇ、王だからじゃねぇんだ……渡が渡だからじゃねぇかよぉ……俺に渡を殺す事何て出来るわけねぇに決まっているだろ……」



 だがキバットの言葉は渡には届かなかった。最早、渡を深い闇から助け出す事は出来ないのだろうか?



「もう……駄目なのか……俺達……」



 キバットの瞳から涙が止めどなく溢れ出す、それはさながら闇夜に降り注ぎ続ける雨の様だった――



 そんな時だった――何かにぶつかったのは。



「いてっ……なんだ?」



 何かにぶつかったお陰で漸く止まる事が出来た。だが、一体何にぶつかったのだろうか?



「って、お前は……!」



 それは加賀美の相棒――ガタックゼクター



 そういえばあの戦いの後いつの間にかいなくなっていた。今まで全く気にも留めなかったが――



 そして、何故このタイミングでキバットの前に現れたのだろうか? 全くの偶然? あるいは――



『もしかしたら俺だって君の力になれるかもしれない。いや、俺よりもすごい奴に心当たりはあるんだ』



 キバットの脳裏に加賀美と出会った時の言葉が浮かぶ。
 あの時加賀美は渡を助けようとしてくれていた。その甲斐も空しく死を迎えたものの最後までそれは変わらなかった。
 しかし、加賀美の死は渡に暗い影を落とした。結局の所、加賀美の行動は無駄だったという事なのか――



「まさか……加賀美の兄ちゃん、死んでもまだ渡を助けたいって願っているのか?」



 だが、キバットにはそうとは思えなかった。加賀美が死すともその意志は未だ消えずガタックゼクターが受け継いでいる。



 ガタックゼクターは渡を助け出そうとしていたのだろう。



 それは都合の良い愚かな妄想かも知れないし実際そうかも知れない。



 それでもキバットにとってガタックゼクターは闇夜に惑う者を助ける月に見えた。



 キバットの思惑を余所にガタックゼクターは何処かへと向かおうとする。



「ついてこいって言うのか? 渡を助けてくれそうな奴の所に……」



 真意はわからない。だが、今は選択の余地等無いだろう。



 唯一の問題はその方向がタワーとは逆方向という事だ。とはいえ、現状渡の所に戻っても何も出来ない可能性が高い、



 ならば加賀美の遺志の宿るガタックゼクターに全てを懸けるのも1つの手だろう。



「わかったぜ……加賀美の兄ちゃん、俺はあんたに懸ける!」



 そして今一度タワーの方へ向き直り。



「渡……お前がどんなに修羅の道に堕ちても俺は諦めねぇ……絶対にそこから助け出してやる……だから……それまで死ぬんじゃねぇぞ……」


 かくして、キバットはガタックゼクターに導かれる様に何処かへと向かう。その目的地は未だ見えなくとも――



 心に降り注ぐ雨が上がり――



 月明かりで輝く虹が見えた気がした――



【全体備考】
※大ショッカー製の爆弾@現実及びZECT製の爆弾@仮面ライダーカブトのリモコンが破壊されました。但し、仕掛けられた爆弾そのものは健在です。
※亜樹子の支給品一式、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、ハードボイルダー@仮面ライダーWがD-5 右T字路に放置されています。
※キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバがガタックゼクター(及びライダーベルト)と共に何処かに向かいました。何処へ向かうかは後続の書き手さんにお任せします。但し、少なくてもタワーとは逆方向です。




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