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チューニング♯俺を利用しろ!(前編) ◆7pf62HiyTE


「みんな知ってるか?
 トランプはアメリカ等ではプレイングカードと呼ばれていて、英語では本来『切り札』という意味である。
 何故日本でトランプと呼ばれる様になったかについては諸説あるが、明治時代プレイングカードでゲームする者達がよく『トランプ(切り札)!!』と口にしていた所を耳にしたが為にトランプと勘違いした説がある。

 俺達のトランプ(切り札)を見せてやる!!

 ……オォォォォォォイ! 待ってくれぇぇぇぇぇ!!」



   ▼



 ――その一撃は確実に男の持つデイパックに絡みついた。
 そしてその手からデイパックを奪取する事に成功し、デイパックは離れた場所へと放り投げられた。


「誰だ?」


 男はそう問いかける。


「僕はくれな――」


 そう名乗ろうかとも思う。
 だが思い直す。最早自分には紅音也の息子であり、名護啓介の弟子である紅渡として戦う資格など何処にもない。
 そう、此処にいるのは自分のいたファンガイアと人間が共に暮らす世界を守る為に存在するファンガイアの王――故に、


「くれな……まさか……!」
「――いや、キングだ」


 それが今の自分だ――


「……聞きたくない名前だ」


 そう口にする男の言葉が気になるもののそんな事はどうでも良い。その思惑を余所に男は懐から何かを出そうとする。
 最初にデイパックを奪取すべく仕掛けたのは変身する手段を奪う為。
 制限の所為か今の自分は変身手段を使えない。
 だったらどうするか? 答えは簡単だ、相手の変身を封じつつあわよくば自分の掌中に収めれば良い。
 幸い素晴らしき青空の会の会員になった時にファンガイアバスターの訓練をしたお陰で鞭の使い方はある程度出来る。
 何より今使っているジャコーダーは兄である登太牙、そして先に戦ったキングが自分に対して使っていた武器、その使い方は身を以て理解している。故に――

 相手が変身道具を使う前にそれを持つ手に攻撃を仕掛ければ良い。
 道具を使わずに変身する者という可能性も無くはない。それでも多くの者は変身には何かしらの道具を使っている。故に有効な手段の筈だ。
 もし相手が変身してきた時は逃げに徹すればよい。
 無論疲弊している状況を踏まえれば無茶だと思う。それでも取れる手段がそう多くはない以上、無茶でもやるしかない。

 だからこそ、その男が懐から手を出した瞬間にジャコーダーの一撃をその手に当てた。


「ぐっ……」


 その一撃で何かのカードを落としたのが見えた。詳しくは知らないもののそれが男の変身道具なのだろう。
 とはいえ流石にジャコーダーで回収する前に相手に拾われる可能性が――いや、


「サガーク」


 そう、自分には仲間――いや、王の僕(しもべ)とも言うべきだろうかサガークがいる。
 サガークは自分の考えを察し高速で落ちたカードを回収しそのまま戻り確保したカードを渡してくれた。


「ハートのA……?」


 そのカードはトランプを彷彿とさせた。中に蟷螂が描かれている事から蟷螂の怪人に変身する事は予測できるが――


 そう考える前に光の何かが自分目掛けて飛んできた。


「それを返して貰おうか」


 見ると男は何時の間に出したのかはわからないが何かの弓を持っている。
 恐らくその弓を使って光の矢を発射したのだろう。


「くっ……」


 鞭と弓矢、どちらの方が射程が長いかなど考えるまでもない。
 両者共に変身こそしていないが疲弊具合などを省みても此方が不利なのは明白だ。
 ならば――
 ジャコーダーを構えたままデイパックの元へと――


「拾わせると思うか?」


 男は平然と光の矢を連発してくる。だが、少なくてもそれは想定内。
 右手でジャコーダーを振るい命中する前に何とか撃ち落として行き――
 左手で懐に仕舞ってあるガイアメモリを掴み――


 ――Wether!!――


 ドーパントに変身する力を与えるガイアメモリ、そのボタンを押し野太い声を響かせる。
 無論、少し前に変身したばかり故に変身に使えない事は重々承知している。
 だがそれは相手には知り得ない話、何かに変身すると思わせ警戒させれば十分だ。


「はっ!」


 警戒の為に一瞬身構えた男性にジャコーダーの鞭を飛ばす。男は何とか攻撃に気付き後退し回避した。
 失敗? いや、成功だ。


「サガーク」


 後退したお陰で密かに控えていたサガークが自由に動けた。サガークがデイパックを回収し戻ってきてくれる。


「くっ」


 そして相手の矢を警戒しつつ動きながらデイパックを探り何かのバックルを見つけた。
 そのままバックルを取り出し腹部に当てる。
 するとすぐさまベルトが展開し自身の腰に巻き付いてくれた。
 これで形勢は逆転――


「変……」


 ベルトに手を構えて変身しようとした。だが、その手が止まる――
 見てしまったのだ。今までは必死に戦っていたが故に見えなかったものを――
 目の前の男が流した血を――
 そう、人間が流す赤い血ではなく――
 緑色の血を――
 それを見た瞬間、青色の血を流す太牙の事を思い出してしまったのだ――


 そして同時に――


『やあ、仮面ライダーのみんな。……それから、怪人と一般人のみんなも、だね。』


 飛び交う飛行船のディスプレイ、そして首輪を含めた周囲のあらゆるスピーカーから刻み込む様に放送が流れ出してきた――


『僕の名前はキング……一番強いって意味の、キング。宜しくね』



   ▲



 度重なる激闘による疲労とダメージは決して無視出来るものではない。同時に度重なる変身を繰り返した為、当面は変身不能。
 故に紅渡は何処かで休息を取りたいと考えてはいた。
 だが問題は何処で取るかだ、現在位置は参加者が集おうとする東京タワーのあるD-5、
 参加者が集うという事は逆を言えば人通りが激しいという事、正直な所1人落ち着いて休める場所が近くにあるとは思えない。
 となると東京タワーから遠く離れるべきなのだろうが、仮に離れた所で絶対に戦いを避けられる保証もない。
 また、下手に離れすぎた場合、激戦区から離れる事になり次の行動が数手遅れる可能性もある。それ故に必ずしも良手とは限らない。

 一方で別の懸念もある。
 問題の東京タワーには爆弾が仕掛けられている。幸い起爆スイッチは破壊したものの戦いに巻き込まれる事により爆発する可能性が高い事に変わりはない。
 そして東京タワーには仕掛けた女性の呼びかけによって自身の父である紅音也や一時期弟子になった名護啓介が向かう可能性が高い。
 彼等をみすみす危険に巻き込んで良いものだとは思えない。
 仮に遠く離れるという事は2人を見捨てる事と同義である。
 世界を守る為には自分1人だけでも生き残れれば十分、だがそれは決して音也と名護を見捨てて良いという免罪符にはなり得ない。
 渡にとって守りたいのは自分の世界に住む人々。音也と名護もその対象なのだ。
 とはいえ、助けに行けば自分自身が爆発の危険に晒されるのも分かり切った話だ。助けに向かってみすみす自滅してしまっては笑えない笑い話にしかならない。
 つまり、何処で休もうとも一長一短、デメリットを抱えているという事だ。



 結論から言えば渡は東京タワーに向かう選択を取った。
 無論、爆発に巻き込まれ自滅する可能性は否定出来ない。それを理解しながらも音也と名護を見捨てる事は出来なかった。
 爆発の危険はあるかも知れないがすぐ近く、もしくは建物の1階ならば異変が起こってもすぐ対処は出来るだろう。

 ちなみにキングとの戦いを終えた後、ここに至るまでの間、渡は何度かサガへの変身を試みていた。
 変身出来る時間が10分程度なのは身を以て理解している。後はどれくらい時間をおかなければ再変身出来ないかを把握するだけだ。
 その結果、ここに至るまで一度も変身出来ていない。サガに変身したのは大体4時過ぎ、現在時刻は6時少し前。
 つまり――最低でも2時間置かなければ変身出来ない可能性が高いという事だろう。
 それならば先に交戦したキング、そしてアポロガイストが本来の姿を温存していた事にも説明が付く。一度変身すれば2時間以上変身出来ない事を知っているのならば温存するのは至極当然の流れだからだ。

 つまり、具体的なアクションを起こすのは出来ればサガへの変身が可能となるであろう6時過ぎ、理想を言えば最低限ゼロノスへの変身は可能にしておきたい。
 もっとも、激戦区中の激戦区ともいうべき東京タワーに近付く以上はそんな都合の良い展開にはなり得ないだろう。
 とはいえそれぐらいの事は渡自身重々承知済みだ。問題は――


「もし父さんや名護さんが来たら何て言えば良いんだろう……」


 実際に音也達に遭遇した場合の対処を決めかねていたのだ。
 渡としては爆発の危険があるタワーからは早々に待避して貰いたい。
 しかし事情を話した所で聞いて貰えるとは思えない。むしろ、他の参加者達を守る為にタワーに残ると言い出しかねないだろう。
 渡が残るからと説明した所でそれは変わらない。
 あの時、キバットバットⅢ世も口にしていたが只説得しただけで引くとは思えない。むしろ自分の方に同行者を託す可能性すらあるだろう。
 それ以前に音也に至っては話を聞いて貰えるとすら思えない。
 そもそもの前提として音也は父親とはいえ渡自身が生まれる前に死んだ筈である。
 つまり、この地にいる音也が渡の父親であっても音也本人自身が知る筈の無い事なのだ。
 『父さん、僕は貴方の息子です』と言った所で、『誰が父さんだ? ファンガイアの新しい作戦か?』なんて言われ不審がられるのが関の山だろう。
 これでは聞いて貰える話も聞いて貰えない。



「でも、僕が父さん達と行動を共にするわけにもいかない……」


 傍にいて守るという選択も取れない。
 名護にしろ音也にしろ他世界の参加者を守ろうとするのは明白。
 無論、音也達のスタンスを咎めるつもりは全く無い。だが、自分の世界を守る為には彼等の守っている者達も殺さないとならないのだ。
 それは渡のスタンスとは真逆であり決して相容れる筈がないのだ。
 今更2人の前に立てる道理すら無いだろう。
 何より、自分はキングから一族の運命を託されたのだ。彼は敵であり傲慢ではあったが一族の為に戦っていた事は理解している。
 その彼が敵である自分を新たなキングとして先を託し逝ったのだ。その遺志を裏切る事は決して許されない。
 故に違う道を行く名護達と共に行く事等決して許されないのだ。
 それが王を打ち破り新たな王となった渡が背負うべき責任なのだ、そこから逃げる事などあってはならない事だ。

 それでも音也達に対する対応は考えねばならない。
 キバットも口にしていたが名護ならば止めようとするだろうし場合によっては殺す事だってあるだろう。
 無論、全てが終わった後なら喜んでその命を神に返そう。だがそれは自分達の世界を救った後の話だ、それまでは例え名護達が相手であっても引くわけにはいかない。
 最悪、彼等を倒す事すら視野に入れなければならないだろう。渡としては出来ればそれは避けたい所だ。


「父さんに名護さん……出来ればタワーに来ないで……そして僕の前に姿を見せないで……
 もし出会う事になったら……僕は貴方達を……」


 そして、東京タワー下部建物まで辿り着き建物の近くで身を潜める。
 外見上は戦いの痕跡が見られたものの今は静寂を保っている様に見える。しかし中がどうなっているかはわからない。
 流石に中に入れば退避が困難になる、故に現状は静かに躰を休めながら待機すべきだろう。




 その時だった。1人の青年が建物から出てくるのが見えたのは。


「あれは……」


 その男がタワーで何をしていたのかはわからない、殺し合いに乗っているのかそうでないのかすらもだ。
 だが確実に言える事は他世界からの参加者、つまりは倒すべき相手だという事だ。
 周囲に他の参加者は見えないが、近い内に現れる可能性は否定出来ない。
 疲弊している状況を踏まえるならば仕掛けるべきではない――


 だが、本当にそれで良いのだろうか?
 もし、キングが自分と同じ状況に立ったならば変身出来ないからと小さく縮こまっていただろうか?
 いや、それはきっと違う。恐らく彼ならば変身出来ずとも堂々と王として戦いに出た筈だ。
 ならばこのまま引き籠もっていて良いとは思えない。
 それだけじゃない、もし目の前の男が殺し合いに乗っている場合、やって来るであろう音也達に仇成す存在と成りうる。
 音也達を守る為にもこのまま放置して良い存在ではないだろう。

 故に――悪手なのは承知の上で渡は敢えて仕掛ける事を選んだ。

 無論、考え無しに襲うつもりはない。
 変身手段を持たない為、圧倒的に不利なのは理解している。
 だが手がないわけではない。手元にある武器ならば先手を打てなおかつその後のアドバンテージを取れる可能性はある。


「いくよ、サガーク」


 そう小声で呟き、未だ自分の存在に気付かぬ男にジャコーダーを飛ばした――



   ▼



 結論から述べれば東京タワー内部に自分以外の参加者を見つける事は出来なかった。
 故に相川始は早々にタワーを出る事に決めた。
 無論、もう少し探せば見つける事も出来るかも知れない。だが東京タワー内部には多数の爆弾、そして鏡の奥には多数のモンスターが潜んでいる。
 東京タワーは参加者が集わずとも危険地帯だという事だ。
 始の目的は栗原母娘の住む自分の世界を守る、その為に他世界の参加者を皆殺しにする事だ。
 それを踏まえて考えればタワーに潜む者達に固着する必要性は低い。モンスターが暴れ出すだけで爆弾が爆発するならわざわざ自分で手を下す必要は無い。
 戦う分には一向に構わないが、それに拘って自滅する必要性は全く無い。
 ここで自身の身を守れなければ、今は亡き『友』を裏切ってまで殺し合いに乗った意味すら無くなってしまう。
 それは決して許されない事だろう。

 とはいえ、タワーの建物から出る事までは決めてはいたがそこから先については正直決めかねていた。
 タワーから離れた者を追跡に出た左翔太郎、紅音也両名の帰還を待っても構わないが、長々と待つ義理もない。
 むしろこの殺し合いを打倒しようとする2人と相反する目的を持つ以上、ここで分かれても一向に構わない。
 それ以前に、2人が追跡している相手に苦戦、最悪敗北する可能性もある以上、拘る必要性は皆無だ。
 やって来た参加者を迎え撃つというのも良いが、爆発あるいはタワー倒壊に巻き込まれる危険もある。
 無論、『あの姿』もある以上それで倒れはしないだろうが、極力ダメージは避けたいのは言うまでも無い。
 それ以前にそもそも『あの姿』になるつもりなど全く無い。

 何にせよ、翔太郎達に対し思う所は多少はある為暫くはタワー近くで待っても構わないが、それ以降は好き勝手にやらせてもらうつもりだ。

 そう考えながらタワーを出る。何処かに誰かが潜んでいる可能性はあるだろうが目立つ様なものは見受けられない。
 2人と分かれてから20分強、彼等がバイクで出た事を踏まえるなら戻ってくる可能性はある。
 だが未だ戻ってこないという事は前述の通り苦戦しており、戻って来られるかもわからない状況に陥った可能性もあるだろう。



 その矢先だった。何かがデイパックに絡みついたのは――
 デイパックはすぐさま始の手元から離れ少し離れた所へと放り投げられた。


「誰だ?」


 放たれた何かは鞭の様なもの、故に飛んできた方向に潜んでいた襲撃者を見つける事が出来た。
 襲撃者は返り血を浴びているせいか血塗れ、高確率で殺し合いに乗っていると考えて良い。


「僕はくれな――」


 襲撃者は御丁寧に名乗って来た。だがそんな事は問題じゃない。
 今『くれな――』と言わなかったか?


「くれな……まさか……!」
「――いや、キングだ」


 だがすぐさま襲撃者は言い直した。よりにもよって敵の中でも最悪の敵とも言って良い相手が名乗っていた名前だ。


「……聞きたくない名前だ」


 故にそう呟いてしまった。別人なのはわかっているが、それでもそう思わずにはいられない。
 だが状況は悪化している。ラルクのバックルはデイパックの中に入れたまま、そのデイパックが投げ飛ばされた以上変身は不可能だ。
 となれば懐にしまってあるカードでカリスに変身するしかない。
 本当なら翔太郎が何時戻ってくるかわからない為、カリスへの変身は避けたい所だ。だが状況的に四の五の言える状況でもない。
 素早く懐に手を入れカードを出し変身する。すぐさまカードを掴んだ右手を――


 だが、その瞬間に手に衝撃が奔る。先程の鞭が直撃したのだ。その衝撃から来る激痛から思わずカードを落としてしまう。


「ぐっ……」


 拾おうとしたがそれよりも早く、


「サガーク」


 その声に応えるが如く何かが飛び込んできてカードを回収しそのまま襲撃者へと渡した。


「ハートのA……?」


 目の前の襲撃者は此方が変身する僅かな隙を突いて仕掛けている。
 此方を変身させない為なのは明白だ。
 恐らく最初にデイパックを取り上げたのもそれが狙いなのだろう。
 そして同時に襲撃者が相当な場数を踏んでいる事は容易に推測出来る。

 ハートのAが奪われた以上、カリスへの変身は不可能。
 一応他のカードを使う事でそのカードに封印されたアンデッドに変身する事は可能。流石に同じ轍を踏むつもりはない、
 カリス程の力を発揮出来ないがこの場を切り抜ける事は可能――


「――!」


 ほんの一瞬湧き上がる衝動、それが何かは解らない――
 だが今迂闊に他のアンデッドに変身すれば取り返しがつかなくなる可能性がある、故に今まだ使わない。
 襲撃者は変身を封じれば優位に立てると考えている。相手がその気なら見せてやろう、変身せずとも使える力があるのを――


 仮面ライダーカリスの使う武器である醒弓カリスラウザー、それはカリスのバックルから出現する弓形の武器である。
 では、カリスに変身しなければ使えないのであろうか? 答えはNoだ。
 そもそも仮面ライダーカリスも相川始も仮の姿でしかない。
 その真の姿である■■■■■がカードを使う事でカードに封印されたアンデッドの姿を借りたものでしかないのだ。
 マンティスアンデッドの封印されたハートのAを使い仮面ライダーカリスに、
 ヒューマンアンデッドの封印されたハートの2を使い相川始の姿に変身しているという事だ。
 そして始が変身の際に出現させるカリスバックル、これはカリスの能力と言うよりは■■■■■の能力だ。
 つまりそこから出現させるカリスラウザーを模した弓であるカリスラウザーもまた■■■■■の能力によるもの。
 そう、相川始の姿のまま、分かり易く言えば変身せずともカリスラウザーは使えるという事だ。


 始は腹部に出現させたカリスバックルからカリスラウザーを出現させ構えすぐさま光の矢を放っていく。


「それを返して貰おうか」
「くっ……」


 矢の射程は鞭よりも長いのは明白。これにより状況は一転した。
 襲撃者もそれを察してか鞭を構えたまま投げ出されたデイパックの元へと走る――


「拾わせると思うか?」


 その言葉と共に数発の矢を放つ。襲撃者はそれを鞭で打ち落としていく。
 とはいえ、この局面に至るまで相手は一切変身をして来ない所を見ると今の段階では変身出来ない可能性が高い。
 デイパック回収に向かったのも中にある物を使い変身する為、
 そこまで解っているなら後はこのまま押し切――


 ――Wether!!――


 聞き覚えのある野太い声が響く――
 アレはジョーカーの男が変身する時に使うメモリを作動させる時の声。
 つまり、目の前の男はメモリを使い変身するのか――
 読みが甘かった、無謀な突撃はそれを悟らせまいとするフェイント、
 ならば一度距離を取り、状況を見て別のアンデッドに変身するしかない。


「……!」


 そう思う矢先再び衝動が襲いかかる。だが、考えている余裕はない。



「はっ!」


 すかさず相手が鞭を飛ばしてくる。何とか察知できたため回避は出来た。
 だが、メモリを使ったにも関わらず変身しなかった、何故だ――


「サガーク」


 その言葉と共に何かの物体がデイパックを持って襲撃者に渡した。
 この瞬間、襲撃者の真の狙いに気が付いた。
 襲撃者は最初からその物体にデイパックを回収させるつもりだったのだ。
 無謀な突撃もメモリの作動音も全ては注意をそらせる為のフェイントだったという事か。


「くっ」


 デイパックを回収した以上、後は変身するだけ。此方の矢は完全に警戒されている故当たる様なヘマはしないだろう。
 中にはラルクのバックルがある為、変身されるのは確実。
 変身時にエネルギーフィールドが展開される為、変身途中に攻撃を仕掛けても防がれるのは明白。
 こうなれば此方も変身するしかない


 そして襲撃者がベルトを装着した。此方もカードを構えそれに備え――


「変……」



 だが、何故か襲撃者の手が止まっている。
 視線から見て始の手を見て動きを止めてしまったらしい。
 見ると血が流れていた。どうやら最初に攻撃を受けた時に傷を負ったらしい。
 大方、人間の物じゃない緑色の血を見て驚いているのだろう、今に始まった事じゃない――


 その時――


『やあ、仮面ライダーのみんな。……それから、怪人と一般人のみんなも、だね。』


 飛び交う飛行船から放送が流れる――


『僕の名前はキング……一番強いって意味の、キング。宜しくね』


 既に封印された筈の忌々しい敵によって――



  ▲



「ちっくしょう……20人もかよ……」


 放送はフィールドを飛び交う数隻の飛行船を軸に流れる。
 故にフィールドの上空を飛び行くキバット、そしてガタックゼクターの耳にも伝えられる。


「とりあえず渡に名護、それに親父さんは無事みたいだけどよ……」


 キバットの住む世界の仲間は皆無事とはいえ素直に喜べないでいる。


「それにしても冴子の野郎……生きていたのかよ……」


 一方、渡を守る為に死んだと思われた園咲冴子の名前が呼ばれていない事から無事だという事も判明する。
 無論、恐らく渡はそれを喜ぶのは容易に予想が着くし、生きていた事に関して悪く言う程キバットも悪趣味ではない。だが、


「まさか渡を後押し為にわざと死んだふりしたって事はねぇよなぁ……」


 冴子のやり口を考えると、渡を修羅の道に堕とし戦わせ、自身は乱戦の状況を切り抜ける為に敢えて死んだふりをした可能性もある。


「ていうか、確かタワーから呼びかけた姉ちゃんと同じ世界出身なんだよな……あの世界の女ってあんなんばかりなのかよ……」


 渡達仮面ライダーを騙し東京タワーの爆発に巻き込もうとした鳴海亜樹子の存在も踏まえその世界の女性は悪女ばかりではないのかと考えるキバットだった。


「けど……まさか世界毎に殺した人数を伝えるなんてよ……」


 放送では世界毎のキルスコアが伝えられていた。
 『クウガの世界』の参加者が仕留めた数が7人というのは驚異的ではあるがキバットにとってはそれよりも重要な事がある。
 一番重要なのは『キバの世界』つまり渡達の世界の参加者が3人仕留めたという事実だ。
 事実としてその内の2人、加賀美新とキングを仕留めたのは渡だ。残りの1人はキングがデイパックを複数所持していた事からキングが誰かを仕留めたと考えて良い。
 だが、それは一部始終を把握しているキバットから見ての話でしかない。

 普通に考えてこのほど死亡が伝えられたキングが仕留めたとは考えず、むしろ生き残っている3人が殺したと考える方が自然だ。
 つまり、渡のみならず音也や名護が警戒される可能性があるという事だ。

 更に問題なのは世界毎のキルスコアが今後も伝えられるならば、今後も渡がキルスコアを伸ばして行くと面倒な事になる。
 まず、音也や名護が危険人物として警戒される可能性だ。
 キングがいるなら(言い方悪いが)キング1人に全てを押しつければ良かったが今後は残る3人が警戒されるのは必至。
 無論、音也と名護ならば自身にかけられた誤解を解いてくれるかもしれない。だがその後はどうなる?
 渡自身が殺し合いに乗って何人も仕留めたと判断される可能性が高い。
 時間が経てば立つ程、渡の立場が危うくなり本当に戻れない所に行く事になる。それこそもう殺すしか無い程に――


「どうすりゃいいんだよ……渡、放送聞いているなら考え直してくれ。これ以上親父さんや名護を裏切らないでくれよぉぉぉぉ……」


 とはいえ、現状は願う事しかできないでいる。
 しかし、キバットにとって重要な事はもう1つある。
 それは放送を担当した者――『キング』が口にしたある事だ、
 一見すると単純にその人物に対しての侮辱と取れる発言ではある。いや、言い方から察するにどう考えても侮辱としか思えない。
 だが、冷静に考えてみて欲しい。ある人物が醜態を晒していてその人物の名前が自身と同じだったとするならばどうだろうか?
 少なくてもあまり良い気はしないだろうし、関係ないと一言釘を刺すぐらいな事を言っても罰は当たらない。

 だが、それはあくまでも一つの面で見た話でしかない。
 キバット達にとっての『キング』に取ってその発言は暴言以外の何者でもない。
 確かに何も知らない人物から見れば僅か6時間の中で無惨に退場した20人の中の1人でしかない。
 しかし少なくてもキバットや渡達にとっては傲慢で横暴ではあったものの確かにファンガイア、あるいはその世界の王であった。
 結果だけを見れば6時間、いや4時間強で退場した以上、決して良いものとはいえない。それでも弱い存在ではなかった。
 たった4時間程度の戦いを高みから見た程度で偉そうな事を語らないで欲しい、キングと敵対していたとはいえキバット自身も多少は憤りを感じていた。
 キバットでさえもそうなのだ、あの時散り行くキングに対して敬意を払い、その遺志を受け継ごうとする渡が聞いたらどんな反応をするだろうか?


「これ以上があるとは流石に思えねぇけど……渡……ブチキレテ無茶なんてするんじゃねぇよ……」



  ▼



「キング……!」


 放送が終わった。既に剣崎一真の死を聞かされた事もあり、始にとって死者の名前はさほど重要ではない。
 20人という数字が些か大きいとは思ったが所詮はその程度だ。
 だが、重要なのはキングがアドバイスと称して奴の知り合いの死を持ちだした事だ。
 その人物に当て嵌まる人物など1人しかいない、剣崎の事だ。
 奴は、人々を守る為に戦い死んだ剣崎の行動を嘲笑い無駄だと侮辱したのだ。
 始にとってそれは決して許される事ではない、出来うるならば今すぐにでも奴の所に向かい――


 ――だが、少なくても始自身にはその資格はない事も理解していた。


 何故なら奴の言動が的を射ている事は始自身の行動が証明しているからだ。

 口だけの正義の味方が役に立たない――
 ゲームをクリア出来るのはいち早く性質を理解し攻略法を見つける――
 クリアしたいなら他の参加者を蹴落とす――

 嗚呼、悔しいがその通りだ。
 自分自身、早々に他の参加者を襲撃し1人仕留めていた。
 口先だけの正義の味方が語る言葉も甘いと斬り捨ててきた。
 そして何よりそんな正義の味方を利用し他の参加者を蹴落とそうとしてきた。
 まさしく奴の助言通りの行動を取ってきた自身にキングの言葉を否定する資格など何処にもない。


 そんな事は最初から分かり切った事だ。だがやはり剣崎に対する侮辱は許せない――
 やりきれない想いが始の中で渦巻く――


 そんな中、今は怒りをあらわにしている状況ではない。
 そう、目の前にいる襲撃者と戦っている最中なの――

 ――だが、襲撃者は下を向き拳を握ったまま震えていた。
 どういう事だ? 放送で何か怒りに震える事があったのか?
 剣崎に対する侮辱を聞いた所で事情を知らない襲撃者にとってはどうでも良い話の筈だ。
 何にせよ隙を見せているならばこのまま仕留めても構わないだろう、そう考えカリスラウザーを構え――


 ――が、ふとある考えが浮かび、


「紅渡……お前は何故殺し合いに乗っている?」


 自分でも意外な行動なのは承知の上だ。それでも敢えて目の前の襲撃者――紅渡へと話しかけた。


「……!」


 始の呼びかけに気付き渡は始の方に向き直る。
 ちなみにバックルにかけた手はそのままであり、始の方もカリスラウザーを向けたままだ。


「聞こえなかったか? お前は――」
「僕は……僕の世界に住むみんなを守る為に他の世界のみんなを殺さなきゃならないんだ……!」


 その目的自体は始と大差はない。声の震え具合から考えても殺戮や戦いを楽しんでいない事は解る。
 だがそれ故に――


「友や仲間、家族を裏切る事になってもか?」


 無論、これ自体は自身にも当てはまる事だ。
 少なくても始はそれを理解した上で殺し合いに乗っているが、始自身良心の呵責を感じている。
 だからこそ渡自身はどう考えているのかを問う。


「そんな事はわかっているし許されるとは思っていない……全てが終わったら僕は消えても構わない……!」


 渡にとってそれは揺るぎない本心からの言葉だ。
 始はその渡の言葉に対し僅かながらも気圧されていた。


「お前が守った世界にお前自身がいなくても構わないというのか?」
「構わない……僕の存在がみんなを悲しませるのなら……僕自身が全ての罪を背負って最後に消えて終わりにする!」


 始自身は全てが終わった後、栗原母娘の元に戻り、彼女達を守り共に過ごす事を考えていた。
 確かに始自身はアンデッドである関係上どんなに傍にいようと思っても何れは別れざるをえない時は訪れる。
 だが、それはあくまでもその時が訪れた時の話だ、少なくても剣崎や栗原母娘が望む限りはそれに応えたいと思っている。
 しかし目の前の渡は自身を犠牲にし消え去る事に迷いはない。他者を殺す事に関しては迷っている節はあるものの、守りたい物を守る、その為に自身が生贄になるという揺るぎない意志は十分に感じた。


「引くつもりはないんだな、ならば――」


 始はカリスラウザーに手を掛ける。来るのかと思いつつバックルに添えた手に力を込めるが――



「俺を――利用するか?」



 始の口から飛び出したのは意外な言葉だった。



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072:愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 (後編) 紅渡 080:チューニング♯俺を利用しろ!(後編)
071:愚者のF/野外劇 相川始 080:チューニング♯俺を利用しろ!(後編)