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This Love Never Ends♪音也の決意(前編) ◆LuuKRM2PEg





 ン・ダグバ・ゼバはバギブソンに跨ったまま、冷たい風を受けながら道路を進んでいた。何処までも続く闇の中を突き抜けながら、新たなるリントを求めて北の市街地を目指している。
 先程、大ショッカーがこの六時間もの間で二十人も死んでいると告げたが、ダグバは特に興味を向けていない。同族たるズ・ゴオマ・グが敗れたと知っても、どうでもよかった。
 ダグバの思考はただ一つ。究極の力を持つクウガのように、より強い恐怖を与えてくれる戦士と出会う事。この戦いで生き残っている程の猛者と巡り会う為に、街に向かう。体力の回復に充分な時間を使ったので移動を始めた。
 そして、彼の興味は他にも向いている。クウガを究極の闇に進化させるための生け贄として殺した男が持っていた、黒いカードデッキ。これは最初の戦いで殺した霧彦という男が使っていた物にとてもよく似ていた。
 ならば自分の力にもなるだろう。これさえあれば、もっと戦いを楽しむ事が出来るかもしれない。次にリント達と出会ったら、カードデッキを使ってゲゲルを行おう。
 毎日の日課を行うかのように考えながら、ダグバはハンドルを握り締める。数刻後、彼は目的地として定めた街を見つけた。すると感情が高ぶっていき、無意識の内に薄い笑みを浮かべていく。
 新たなる戦いを求めて。




「……お前、まだついてくるのか?」
「当たり前だ。あんたを一人にさせるつもりはないからな」
 真摯な言葉に紅音也はうんざりしたような溜息を吐くが、それでも翔太郎は何とか行動を共にする。
 焚き火の前で身体を休めてから一時間以上の時間が経過しており、彼らはE-2エリアに突入していた。広いエリアを見渡して他の参加者を捜すが、まだ誰とも遭遇していない。
 それに翔太郎は焦りを覚えていた。この六時間で照井や霧彦を始めとした二十人もの人間が殺されている以上、犠牲者が更に増える可能性もある。このままでは知らない場所でフィリップや亜樹子を始めとした仲間達が殺されてもおかしくない。
 そこで音也と行動しているが、向こうはこの状況にも関わらずしてどうも離れたがっている。別世界の人間を捜すと同時に単独行動の阻止も必要だった。

「お前、そんなに俺の後をつけたいのか?」
「そうじゃねえ! こんな時に一人で歩くなんて危ねえだろ!」
「おっと、俺は千人に一人の逸材……そんな危機を回避するなど、造作もない事だ」
「そんな都合の良い事が、そう何度も起こるわけ無いだろ!」
「言っておくが、俺は男と一緒に歩く趣味はない……悪いが、他をあたるんだな」
「俺だってねえ! ……って、さっきも言っただろうが!」

 まるで、川に流されている最中に起こった出来事を再現しているかのようで、翔太郎の苛立ちは思わず強くなってしまう。
 しかしそんな事はどうでもいい。こんな場所で単独行動なんてさせたら、音也だっていつ殺されてもおかしくなかった。もしそんな事になってしまったら、また木場の時みたいに犠牲となってしまう。

「あんたを放っておくわけにはいかねえ……紅と同じ世界に生きる奴を、悲しませたくねえからな」
「生憎だが、渡も名護も俺が死んだくらいで落ち込むような柔な奴らじゃない……特に渡は、この俺の息子だからな」
「そういう問題じゃねえ! ……てかあんた、子持ちなのか!?」
「ああ、二二年後の未来からやって来た俺の血を継ぐ男だ」

 未来からやって来た息子。音也から告げられた事実に翔太郎は更に驚いた。それが意味する事は、大ショッカーは世界だけでなく時間すらも自在に行き来する事の出来る相手である。
だが大ショッカーが得体の知れない相手である以上、今更驚いても仕方がない。
 問題は音也が一人でフラフラと行動しようとしている事だ。全ての女を守るとは言っているが、もしもかつての園咲冴子みたいな女に出くわしたら、騙されてしまう恐れがある。今は何としてでも、単独行動を止める必要があった。

「へえ、こんな所にいたんだね……君」
 共に行動する手段は無いかと考えようとした瞬間、翔太郎の耳に穏やかな第三者の声が響く。反射的に振り向いた先には、まるで財団Xの人間が着るような純白の衣服に身を包んだ男が立っていた。その青年は、一切の汚れを感じさせないような穏やかな微笑を浮かべている。
「なんだ、あんたは……?」

 殺し合いという状況にはまるでそぐわない青年の態度に、翔太郎は呆気にとられた。
 こんな事態で見知らぬ相手を前に笑っていられる事自体、そもそもおかしい。自分達を警戒させないためかもしれないが、ここまで明るいと逆に胡散臭さを抱いてしまう。
 だが今は彼と話す必要があった。

「てめえは……あの時の怪物か!」

 翔太郎が一歩前に出て対話を試みようとした瞬間、音也が叫ぶ。
 振り向くと、彼の瞳は青年を睨み付けていた。

「あの時の怪物……? って事は、あいつは敵なのか!?」
「ああ」

 音也の返事は短かったが、確かな警戒心は感じられる。翔太郎はそれを受けて青年に振り向くと、未だ笑っているのが見えた。

「せっかくまた会えたんだから、僕を怖くしてよ……リントの戦士達」

 涼しげに笑う彼はデイバッグに手を入れて、そこから黒いカードデッキを取り出す。それに立ち向かうために、翔太郎も無言でジョーカーメモリを懐から手に取った。
 この男は、端から落ちる直前に戦った白い仮面ライダーと同じで、仮面ライダーの力を殺し合いに利用している。フィリップや照井、おやっさん達が背負った名前を汚させるわけにはいかない。

「ああいいぜ……この音也様が、てめえの心に恐怖って奴を刻み込んでやる」

 不敵な笑みを浮かべる音也もバッグの中からイクサベルトを取り出して腰に巻き、ナックルを掌に押し付けた。それを見た翔太郎もジョーカーメモリのスイッチを力強く押す。

『READY』
『JOKER』

 二種類の異なる音声が発せられる中、青年もカードデッキをすぐ近くに立っているカーブミラーへ向けるように構えた。すると虚空より現れたVバックルがその腰に巻きついていく。

「変身」
「変身!」
『FIST ON』
『JOKER』

 音也がイクサナックルを、翔太郎がジョーカーメモリをそれぞれベルトに挿入した。すると一瞬で紅音也が仮面ライダーイクサへと、左翔太郎が仮面ライダージョーカーへの変身を果たす。

「ふふっ……変身」

 白と黒。対極の色を持つ二人の仮面ライダーを見た彼の笑みは更に歪み、カードデッキをVバックルに差し込む。すると、彼の周りに人型の虚像が回転しながら多数表れて、身体を包んで漆黒の鎧に形を変えた。
 複眼を血の如く赤に煌かせる仮面ライダーリュウガに変身したン・ダグバ・ゼバは、前に踏み出す。それを見て、ジョーカーの仮面の下で翔太郎は思わず冷や汗を流した。

(何だ……この嫌な感じは。まるで、テラーフィールドを受けてるみたいだ)

 リュウガから感じられるのは圧倒的威圧感と恐怖。それもテラー・ドーパントが発するようなそれらに匹敵する程、強大な存在。全身の神経が逃げろと警告を発していたが、翔太郎は何とかしてそれを振り払った。
 ここでこいつを見逃したらフィリップや亜樹子だけでなく、音也の仲間達を初めとした多くの人間が犠牲になる。これ以上、そんな暴挙を許すわけにはいかない。

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 自分にそう言い聞かせたジョーカーは強く叫びながら、疾走を開始する。風のような勢いでリュウガの目前に迫って右ストレートを放つが、リュウガは体勢をずらしてそれを避けた。ジョーカーはそれに止まらず反対側の拳を振るうがまたしても避けられる。
 矢継ぎ早にジョーカーは攻撃を繰り出すが、その度にリュウガは攻撃をかわす。それに若干の焦りを感じて、攻撃を切り替えることを選び右足で蹴りを放った。しかしそジョーカーの攻撃は胸部に当たろうとした直前、リュウガの片手一つで呆気なく受け止められてしまう。

「何――ッ!?」

 次の瞬間、ジョーカーは足の裏が地面より高く浮かび上がるのを感じて、背中から勢いよく地面に叩きつけられた。そんな彼をリュウガは嘲笑いながら、がら空きとなった胸部を踏みつける。

「グアッ!」
「フフッ……」

 一度までならず二度も三度も蹴りを受けて、ジョーカーは苦悶の声を漏らす。連続して振り下ろされるリュウガの足は、鎧を打ち砕かんばかりの勢いで襲い掛かった。その最中、突然大気が爆発するような轟音が鳴り響き、リュウガの身体に何かが激突する。その衝撃で黒い身体は横に蹌踉めいた。
 敵の蹴りから解放されたジョーカーは荒く咳き込みながらも、何とか立ち上がる。そんな彼の元に、イクサが近づいてきた。

「すまねえ、紅!」
「全く、無鉄砲の馬鹿が……もう少し考えて動け」
「……悪かったよ」

 明らかに不機嫌を醸し出しているイクサの声に、仮面の中で翔太郎は僅かに沈んだ表情を浮かべる。普段なら反論しただろうが、流石に今回ばかりは向こうの言い分が正しかった。
得体の知れない相手に一人で突っ走っても、敗北に繋がるだけ。リュウガの猛攻が皮肉にも、ジョーカーの頭を冷やす結果となった。
 自省したジョーカーは目前に立つ仮面ライダーを仮面の下から睨み付ける。一方でリュウガはカードデッキから一枚のカードを取り出し、籠手に差し込んだ。

『SWORD VENT』

 くぐもったような低い音声と共に虚空から青龍刀が現れて、リュウガは黒い柄を握る。ドラグセイバーの刃が煌めいた瞬間、リュウガは走り出した。
 拙いとジョーカーが思った頃には、既に胸部が横に切り裂かれる。悲鳴を発する暇もなく、イクサもドラグセイバーの一振りを浴びていた。ジョーカーは何とか体勢を立て直すがそれを狙われたかのように、ドラグセイバーの突きを受ける。鎧から激痛が伝わる中、倒れないように耐えた。
 敵は青龍刀を持っているのに対し、こちらは特別な武器を持っていない。しかも、二対一という数のアドバンテージを打ち消すかのような身体能力をリュウガは誇っている。

(あの野郎は絶対に他の手札を持っている筈だ……こいつは、さっさと決着をつけないとやばいかもな)

 リュウガは恐らく、先程音也が変身した仮面ライダーライアと同じ世界に存在する仮面ライダーだ。だとすると奴はまだ、戦いを有利にする為のカードを残している。
 それがどんな物なのか分からない以上、あまりダラダラと時間をかけるのは宜しくない。
 横薙ぎに振るわれるドラグセイバーを背後に飛んで避けながら、思考を巡らせるジョーカーはイクサの近くに立った。

「おい紅、とっとと決めるぞ!」
「俺に指図するな……だが奇遇だな、俺もそうしようとしていた所だ」
「そうかよ!」
「お前が時間を稼げ、華麗なフィニッシュを決めるまでのな」
「OK!」

 イクサの自信に溢れた言葉にジョーカーも力強く頷いて、リュウガに向かって走る。敵はドラグセイバーを高く掲げ、勢いよく振り下ろしてくるがジョーカーは横に回って回避。
 そこから流れるように、ハイキックをリュウガの脇腹に放った。運良く命中して相手は微かに揺らぐ。
 しかしリュウガはそれを何事もなかったかのように足元を整え、突貫しながらドラグセイバーで斬り付けてきた。
 一合目は何とか避けられたが、二合目からの刃によって強化外骨格に傷が刻まれていく。神速の勢いで繰り出され続ける攻撃は、流石のジョーカーも全て避けることが出来ない。
 それでも致命傷にならないだけ幸いだった。目的はイクサが必殺の一撃を与えるまでの時間稼ぎ。すなわち、歌劇における序曲を奏でること。

(まだだ……もう少し、もう少しだ)

 リュウガの太刀筋を見極めながら、ジョーカーは回避行動を続ける。ドラグセイバーの刃を避けながら、少しでもイクサから距離が離れるように。
 下手に必殺技を放っても避けられる可能性がある以上、一人に意識を向けさせてもう一人が準備をする。特別な武装をどちらも持っていない今、方法はそれ一つしかなかった。

『IXA KNUCKLE RISE UP』

 戦術の第二段階が電子音声と伝わる。リュウガは反射的にそちらに振り向くのを見て、ジョーカーは距離を取った。

「吹き飛びやがれ!」

 リュウガに向けて真っ直ぐ伸ばしたイクサの左手から、大気の塊が砲弾のように発射させる。ブロウクン・ファングの一撃はリュウガに容赦なく激突し、衝撃で宙に浮かんだ。無論、その機を逃すジョーカーではない。

「行くぜ!」
『JOKER MAXIMUM DRIVE』

 ロストドライバーからジョーカーメモリを抜き取り、ベルトの脇に備え付けられているマキシマムスロットに挿入する。力強い音声と共に、切り札の記憶が右腕に流れるように両腕で構えを取った。その到達点である拳から黒いオーラが放たれていく。

「ライダー――」

 右手に凄まじいエネルギーが宿るのを感じてジョーカーは走った。腰を深く落として、目指す敵を仮面の下から睨みつけて。
 ジョーカーの脚力ならばリュウガが落ちるまでの時間に必殺を繰り出すことは、造作も無い。

「――パンチッ!」

 数秒後、神速の勢いで突貫したジョーカーのライダーパンチがリュウガの身体を打ち抜いて、そのまま近くの建物に吹き飛ばした。壁が破壊される轟音を鳴らしながら、周囲に粉塵が舞い上がる。
 それを見届けたジョーカーは軽いため息を吐くが、安堵はしていなかった。いくら必殺技を連続で叩き込んだとはいえ、それだけで戦闘不能になるわけではない。

「どうだ?」
「いや、まだわからねえ……」

 警戒を保ったジョーカーの元にイクサが駆け寄る。白い仮面に覆われている為、表情を窺う事は出来ないが声は警戒に満ちていた。相手の戦闘力が未知数である以上、油断など出来ないのは彼も同じ。
だがこのままじっとしていても何にもならない、そう思ったジョーカーはイクサに振り向いて、目を見開いた。
 リュウガが変身するために使ったカーブミラーより、巨大な黒い龍が顔を出しているのを見て。しかもその怪物は、イクサに殺意を込めた視線を向けていた。

「あぶねぇ!」
『GYAAAAAAAAAAAAAA!』

 大気を振動させるほどの咆吼をドラグブラッカーが発すると同時に、ジョーカーはイクサを突き飛ばす。遠のくイクサを目にした瞬間、ジョーカーの胴体は暗黒龍ドラグブラッカーに食い付かれた。

「ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
「左ッ!?」

 イクサの声はジョーカーの悲痛な絶叫によって、呆気なくかき消される。そんな彼らのことなど構いもしないドラグブラッカーはジョーカーを口に挟んだまま、市街地の建物に突っ込んで行った。壁や柱や家具、電柱や鏡など様々な物にジョーカーをぶつけては砕く。
 それはかつて霧島美穂の命を奪った手段の再現のようだった。本来ならば光夏海のように飲み込まれてもおかしくなかったが、仮面ライダーの装甲はドラグブラッカーの鋭い牙に耐えている。しかしそれでも、中にいる翔太郎に衝撃を与えていた。
 やがて何度目になるのかわからない激突の後、ドラグブラッカーはジョーカーの身体を無造作に放り投げる。彼の身体は隕石のように家の屋根を突き破り、そのまま床下にまで沈んだ。

「ぐっ……」

 ジョーカーは呻き声を漏らす中、身体の節々に伝わる痛みに耐えながらも何とか起きようとする。
 認識がまだ甘かったと悔いた。奴がカードを使う仮面ライダーなら、鏡から現れるミラーモンスターだって使役している。まさかリュウガはこちらの裏を読んでいたのか。
 仮面の下で歯軋りしながら、開いた穴から上を見上げる。その先に見えるのは、大きく開いたドラグブラッカーの口から灼熱が放たれる光景。
 刹那、周囲は煉獄の炎に飲み込まれていった。




「あの野郎!」

 仮面ライダーイクサは突然現れたミラーモンスターに対し、怒りと共にイクサナックルから大気の弾丸を発射した。それはドラグブラッカーの胴体に当たり、灼熱の放出を止める事に成功する。
 別に野郎一人が食われようが知ったことではないが、自分を庇った事だけは評価してやっても良い。そういう立派な心がけを持つ奴を失うのは我慢ならなかった。
 ドラグブラッカーは激痛で悶えた直後、ギロリとイクサを睨みつける。イクサはそれに張り合って仮面の下からドラグブラッカーを睨み返した。

「悪いが、てめえみたいな品性の欠片もない化け物とアイコンタクトをしても、嬉しくないんだよ!」
『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 殺意に満ちた咆哮と共に急降下しながら、ドラグブラッカーは火炎を吐く。一度までならず連射される熱の固まりは辺りを容赦なく破壊して逃げ場を奪い、イクサに迫った。
 しかしイクサもただでやられるような事はせず、左右に飛んでドラグブレスを避ける。灼熱の刺激がブラックアーマースーツを突き抜け、肌に刺さる中で音也は見た。破壊された物全てが石のような色になっているのを。
 どういう原理なのかは知らないが、あの炎に当たると拙いのは明らかだった。だが距離を取ろうにも、周りは炎で覆われている。
 仮面の下で舌打ちした瞬間、いつの間にかすぐ近くにまで迫っていたドラグブラッカーは勢いよく尾をイクサに打ち付けて、横薙ぎに吹き飛ばした。
 瓦礫の山を転がるが、イクサはすぐに立ち上がる。こんな所で倒れていたらジョーカーの二の舞になってしまうだけ。そんなのは御免だった。

「やってくれるじゃねえか……だがな、掠り傷にもならねえ」

 大口を開けながら迫るドラグブラッカーを睨むイクサは不敵に笑いながらフエッスルを取り出し、イクサベルトのフエッスルリーダーに再び挿入。
 そしてイクサナックルをベルトの脇に押し込んだ。

『IXA KNUCKLE RISE UP』

 イクサジェネレーターから放たれるエネルギーを感じたイクサは腰を深く落とす。
 どうせ逃げられないのなら下手に足掻いたって仕方がない。尤も、逃げるつもりなんて欠片もないが。退路は全て消されており、生き残るにはドラグブラッカーを倒すしかない。
 上等だ。

『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
「おるああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ドラグブラッカーの叫びを受けながら、イクサは炎の間を駆け抜ける。距離が縮む中でドラグブラッカーは尚も口から炎を発するが、イクサは左右に飛んで避けた。
 いかに威力が凄まじかろうと、所詮は単なる炎でしかない。千年に一度の天才を相手に単調な攻撃を繰り返しても、見切られるだけだ。
 やがて呼吸を整えるためなのか、ドラグブラッカーの炎が止まる。勝機が見えたと確信したイクサは左腕を真っ直ぐに伸ばし、イクサナックルのパワートリガーを力強く引いた。
 凄まじい轟音と共に放たれたエネルギーはドラグブラッカーの牙を砕きながら口内に飛び込み、体内で一直線に暴れまわる。口から食道、そして血管や臓器といったあらゆる組織を容赦なく焼いた。
 固い皮膚を誇るミラーモンスターといえども、体内は通常の生物と同じように脆い。ブロウクン・ファングを受けた結果、ドラグブラッカーは跡形もなく破裂するしかない。
 大気を震わせる爆音と共に、灼熱の大輪を咲かせて。

「へっ……手間取らせやがって。軽いかる……っ!」

 軽薄な言葉は突如として襲い掛かった疲労によって遮られ、イクサは右膝を落としてしまう。いくら軽口を吐こうとしてもやはり蓄積されたダメージは無視できない。リュウガに変身した野郎は、悔しい事にそれだけの戦闘力を持っていたのだ。
 さっさと変身を解いて休み、瓦礫の中に埋もれた翔太郎を探して無事を確認したらレディを探すために別れる。もし死んでいたら、一応簡単な墓でも作るつもりだ。
 しかし、そんな暇は無い。彼はすぐに立ち上がって、前に振り向いた。

「……そっちから来るとは、探す手間が省けたぜ」
「案外やるね、君」

 黒く燃え上がる炎の間から現れたのは、リュウガに変身したあの優男。こんな地獄のような状況でもまだ涼しい笑みを浮かべている敵に、イクサは吐き気を感じる。
 こいつは他者の命を奪うことに何の躊躇いも持たない。ほんの僅かな間しか顔を合わせていないが、それだけは確信できた。

「……まだヘラヘラ笑ってやがるのか、この狂人が」
「仮面ライダー、今の君じゃあ僕を怖がらせる事は出来ないね。だから、その時を楽しみにしているよ」
「ああ、そうかい」

 イクサ自身は知らないがその感情は、乾巧が園咲霧彦を殺された時に抱いた怒りとよく似ていた。それは周囲に燃え盛る炎よりも凄まじく、イクサの中で熱く燃え盛っている。
 男がこの場を立ち去ろうとした瞬間、イクサはその道に弾丸を撃ち込んだ。

「その時なんてのはな……来ないんだよ!」

 奴が目を見開いた一方で、仮面の下から音也は大きく怒鳴り声をあげる。

「どういうつもり?」
「悪いがここからてめえを行かせる訳にはいかねえ……俺がてめえを倒す」
「もう動けないのに?」
「関係ねえ!」

 痛む身体に鞭を打ち、啖呵を切りながらイクサは走り出した。その先で嘲笑を向ける男の身体に歪みが生じ、そこから白い怪物の姿を変えていく。
 距離がゼロになろうとした直後、イクサは勢いよく怪物の頬に拳を振るったが、怪物の右手によって止められてしまう。反対側の手でストレートを繰り出すが、その瞬間にイクサは吹き飛ばされた。
 ン・ダグバ・ゼバが神速の勢いで振るった拳が、イクサの頬に容赦なく叩き込まれた為。仮面の右半分は呆気なく砕け散るが、イクサはふらふらと立ち上がった。
 しかしそんな行為を嘲笑うかのように、ダグバはゆっくりと迫る。目前にまでたどり着いた瞬間、イクサの鳩尾を殴りつけた。
 骨が砕かれそうな衝撃に苦しむ暇も無く、ダグバの攻撃は容赦なく叩きつけられる。脇腹、胸部、腹部、肩部、四肢と、身体の至る所に拳を振るった。
 最早それは戦いなどではなく、一方的な嬲り殺しだった。仮面の割れた部分からは音也の血が吐き出され、ダグバの身体を汚していく。
 それでもイクサはダグバを殴るが、微塵にも揺れない。諦めずにもう一度、拳を振るおうとした。
 だがその一撃が届く前に、ダグバの拳が残ったイクサの仮面に叩きつけられる。80トンの重量は凄まじく、イクサを遠くへ吹き飛ばすのに充分な威力を誇っていた。
 十字架を模ったバイザーも白いマスクも限界を迎える全てがただの破片となって地面に散らばる中、音也の顔を晒したイクサは地面に倒れた。




 ン・ダグバ・ゼバは倒れたイクサをぼんやりと眺めていた。
 連係攻撃でリュウガのデッキを破壊しただけでなく、ドラグブラッカーまでも殺した仮面ライダーに興味を抱き、究極の力を解放。しかし大口を叩いた割には無様な姿を晒している。
 所詮、一人では何も出来ない脆弱なリントでしかなかったと言う事か。もうこうなっては死ぬのも時間の問題だろう。

「そういえば、もう一人はどうなったのかな……?」

 不意にダグバはドラグブラッカーの吹き飛ばしたジョーカーの存在を思い出し、周囲を見渡した。もしも先程のような小細工を仕掛けようとしているのなら、それはそれで面白い。
 待ち伏せて返り討ちやれば良い……そう思ったが、辺りには誰かが近づいてくる気配が感じられない。ならば、ジョーカーもあそこで倒れたということか。
 ダグバは落胆して小さな溜息を吐く。

「悪いが、あいつの出番はねえよ……!」

 燃え盛る炎がようやく消えかかった頃に声が聞こえた。つい先程完膚なきまで叩きのめした男の声が。
 それに僅かな期待が芽生えて、ダグバはゆっくりと振り向いて見つける。男の姿は満身創痍と呼ぶに相応しい有様だった。
 口や額から血を流し、息も絶え絶えで、その身体を包む鎧の至る所に亀裂が生じており、そこから火花が音を立てて飛び散っている。
 誰がどう見ても、重症と判断するような怪我。その姿を見れば、誰でも立ち上がるのを止める筈の男。

「これは俺のコンサート……偉大なる紅音也様が奏でる音楽は、これで終わりじゃねえ!」

 紅音也がン・ダグバ・ゼバの前に再び立ち上がったのだ。




 いつもなら戦いなんて面倒な物は他人に任せて、自分はのんびりと高みの見物としていたはず。もし戦いが起こっても、翔太郎に任せてその隙に野郎と離れる事が出来た。
 しかしそんな事を許していい相手ではないし、最初からするつもりもない。

(ゆり……わりぃな、お前の母さんの形見をこんなにまでして)

 既にボロボロとなったイクサの鎧を見ながら、紅音也は麻生ゆりの事を考える。
 チェックメイト・フォーのルークに母親を殺され、ファンガイアとの戦いに身を投じた俺の惚れた強い女の事を。全ての始まりは彼女の愛を得るために、戦士になったあの日からだった。
 あいつがいたからこそ、俺は人々の音楽を守れた。あいつがいたからこそ、今まで戦うことが出来た。ここで倒れるのはゆりの侮辱に他ならない。

「まだやるの?」
「当たり前だ……」

 静かな言葉を告げる度に口から血が流れるが、そんな事はどうだっていい。そんな程度で諦めるほど天才は柔ではないからだ。

「俺は戦わなきゃいけねえんだよ……てめえみたいな野郎から、全ての世界に生きるレディを守るためにな!」

 この世界には大ショッカーによって多くの女性が無理やり連れてこられた。全ての女が守る対象である音也にとって、それは決して許される事ではない。
 無論、蛇のライダーやダグバのような狂人の犠牲になるのを容認するなど、死んでも出来なかった。

(次狼……お前は真夜を守るためにキングに立ち向かった時、こんな気持ちだったのか?)

 ダグバを睨みつけながら、紅音也は次狼の事を考える。
 ゆりを巡って奴とは何度も戦った。イクサの所有権を巡ったり、命を賭けた戦いを繰り広げたり、なんて事も無い喧嘩をしたり、数え切れない。
 憎憎しいとは何度も思ったが、決して嫌いになれなかった狼野郎。だからこそ、息子を託すことが出来た。

「他の世界のリントを潰さないと、世界を守れないのに?」
「リンゴだが何だか知らねえが、俺に不可能は無い! 世界も、全ての女も、俺が守る!」
『IXA KNUCKLE RISE UP』

 全身に伝わる激痛など関係ないと言う様に、フエッスルをイクサベルトに叩き込みながらイクサナックルを押し付けて、音也は地面を疾走する。その拳に輝きを乗せながら。
 ダグバはそんなイクサをつまらなそうに見つめながら腕を向ける。刹那、その先から走るイクサの身体が爆音と共に灼熱の炎に包まれた。究極の力を得た者のみが使う事を許される超自然発火能力。
 北條透と東條悟の命を奪った火炎が今、紅音也の命を奪おうと襲いかかった。音也の全身は一瞬で火達磨となり、誰もがもう助からないと思う姿にされてしまう。皮膚は焼け焦げ、残ったイクサの鎧も次々と崩壊した。

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ん……?」

 しかしそれでも音也の足は止まらない。炎に飲み込まれても尚、走る事をやめていなかった。全身が今にも崩れ落ちそうなほど熱い、炎が傷口を通って体内にまで進入する。
 だけど関係ない。そんな程度で止まる程、柔な身体ではない。紅音也の中で燃え盛る思いに比べれば、こんなのは火の粉にも満たない熱さだ。
 音也自身は知らないが、その決意はこの世界に来て初めて殴り合った男、園咲霧彦とよく似ているものだった。

(真夜……わりぃな、せっかく生き返ったのにまた死ぬ事になっちまって)

 未来から来た息子、紅渡と共にバットファンガイアを倒した日の事を思い出しながら、紅音也は真夜の事を考える。
 ひょんな事から出会ってから彼女に積極的アプローチを仕掛け、遂に結ばれた運命の女。チェックメイト・フォーのクイーンであるがそれでもこの思いは変わらない。
 もしもまた、自分が死んでしまった事を知ってしまったらあいつは泣くだろうか。真夜の涙を思い浮かべてしまった音也は、心の中でもう一度だけ謝った。

(名護……もしも渡に会えたら、あいつの事を頼んだぞ。お前は俺が見込んだ男だからな)

 ダグバとの距離が縮む中、紅音也は名護啓介の事を考える。
 ある日突然未来から現れた堅物の男。最初はあまりにも胡散臭くとっとと追い払おうとも思っていたが、あいつはあいつなりに信念を持っていた。
 不安な事には不安だが、少なくとも未来を託すには問題ないかもしれない。

(乾、左、天道、士、コウモリ娘、その付き添いの男……お前らも精々頑張るんだな)

 炎が勢いよく燃え上がる中、紅音也はこの世界で出会った者達の事を考える。
 野郎どもに白いメスのコウモリ。別にどうなろうと関係ないが、流石にこんな殺し合いの犠牲になるのは気分が悪い。
 とりあえず、無事を祈るだけはした。

『こんな時に一人で歩くなんて危ねえだろ!』
『あんたを放っておくわけにはいかねえ……紅と同じ世界に生きる奴を、悲しませたくねえからな』

 不意に先程の翔太郎の言葉が脳裏に蘇る。
 もしもあいつが生きていて、自分が死んでしまったらあいつは悲しむのだろうかと、不意に音也は考える。
 普段なら知らない野郎がどんな感情を抱こうとどうでもいいはずなのに、何故か気になった。もしかしたら自分を庇った相手だからなのか?
 そこまで考えてもどうにもならないが。

(渡……お前はみんなを守れ……そして人の中に宿る音楽を守り続けろ。俺の息子であるお前なら、出来るはずだ)

 そして紅音也の脳裏に思い浮かべるのは、偉大なる血を受け継いだ紅渡。あいつは優しさを持つが、誰かのために自分自身の存在を消そうとする危うさも持つ。
 もし、また自分が死んだと知ったらあいつは悲しみに沈んでヤケにならないだろうか……父親として、そんな不安が芽生えた。
 いや、そんな事はない。あいつは俺の息子だからどんな試練が待ち受けていようとも、立ち上がる強さを持っている。
 キングから大牙を助けに行った時だって悲しみを乗り越えて、大きくなった。だから渡はもう一人で歩いていける。
 俺の息子なら誰かのために強く生きていける……父親だからこそ出来る絶対の確信だった。

(まだだ……俺はまだ終わらねぇ。終わらせてたまるか!)

 燃え盛る炎の勢いが強くなるが音也はそれを感じる事は出来ない。あらゆる神経と血管は既に焼け落ち、音也から全ての感覚を奪っていた。
 だけども足は止まらない。声帯も焼かれ、声にもならない絶叫を発しながら残る全ての力で拳を握り締める。
 この身体を動かすのは、止めどなく溢れ出す比類無きこの自信。全ての女が生きる素晴らしい世界を守るという誓いが、音也の力となっていた。

「――――――――――ッ!」

 終わらないこの愛が胸中で燃え上がる中、音也はダグバにブロウクン・ファングを放った。それもただの一撃ではなく、ダグバ自身の炎を乗せた灼熱の一撃。
 全てのエネルギーが眩い輝きとなってイクサナックルから解放された。何もかもが飲み込まれていくので、音也は何も見る事が出来ない。
 ただ一つだけ、感覚が消えた後で確かな感触が一つだけあった。決して間違いでも錯覚でもないと確信出来る成功。
 最後に打ち込んだブロウクン・ファングがダグバの身体を打ち抜き、吹き飛ばしていた事だけは確かだった。
 そしてそこは奇しくも、ウルフオルフェノクとなった乾巧がユートピアのメモリを砕く際に拳を叩き込んだ場所と寸分の狂いもない、同じ場所でもあった。



085:愚者の祭典/終曲・笑う死神(後編) 投下順 086:This Love Never Ends♪音也の決意(後編)
083:会食参加希望者達(後編) 時系列順 086:This Love Never Ends♪音也の決意(後編)
078:決意の名探偵 左翔太郎 086:This Love Never Ends♪音也の決意(後編)
078:決意の名探偵 紅音也 086:This Love Never Ends♪音也の決意(後編)
064:いつも心に太陽を(後編) ン・ダグバ・ゼバ 086:This Love Never Ends♪音也の決意(後編)