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太陽は闇に葬られん ◆/kFsAq0Yi2



「……銃声?」

 もうすぐ午後八時を回ろうかという頃。E-7エリアの道路を進んでいた天道総司は、そう同行者が呟くのを聞いた。

 周囲は市街地からも離れ、人口の灯りもないまさに闇の中。視覚が不十分なこともあり自然と過敏になっていた天道の聴覚には何も届かなかったが、横に立つ男の顔は真剣そのものであり、そもそもそんな理由がないとはいえ、狂言の類とは思えない。

 天道と行動を共にする男・乾巧は『555の世界』に存在する怪人・ウルフオルフェノクが正体だ。天の道を行き、総てを司る男であるといえど、結局は人間である天道より、感覚器官はずっと優れている。天道の耳に届かない音でも、彼なら拾えてもおかしくない。

 しかし、銃声とは……

「穏やかじゃないな。どっちだ?」

 天道の問いに、こっちだと進行方向を巧が指差す。

 二人は現在、名護啓介の仲間である橘達捜索して行動中だ。こちらにいるという確信があるわけではなかったが、もしや……彼らの身に何か起こっているのだろうか?

 そうでないとしても、銃声がするということはそこに人が居て、ただごとではない事態が起こっていることは間違いないだろう。
 ならば自分達、人を護る仮面ライダーが向かうべきだろう。

「急ぐぞ」
「ああ」

 天道の言葉に、乾も間を置かずに答える。
 そして二人は、歩みを疾走へと変えた。

 その先に待つ、闇に恐れることなく――






 灰となった死体から全ての支給品を回収し、下僕と化させたクウガの男――確か、同行者からの呼び名は五代だったか――を伴ってE-5エリア病院への移動を再開したその直後、金居は正面から向かって来る二つの微かな足音に気付いた。

 灰になった男を始末した時点では、周囲に気配は感じられなかった。故に自身が手を下す場面を目撃されたとは考え難いが……金居は、五代を振り返る。


 地の石により支配したこの男からは、意識や言葉、感情といったモノが失われている。そんな男とどういった経緯で同行しているのか、怪しまれない可能性の方が低いだろう。

 無論、地の石の支配下に置かれたクウガ――ライジングアルティメットの圧倒的な力は把握している。さらに金居自身も、アンデッドの中でも最強クラスの実力を持つ、カテゴリーキング。よほどの相手でもまず後れを取らないということはわかっている。
 だが地の石による支配がどこまで信用できるものかわからず、また首輪による能力制限を考えると、殺し合いに乗っているにも関わらず金居は積極的に戦うつもりはなかった。

 故に、怪しまれる今の五代をそのままにはしておかず、接近する足音に気付いた時点で地の石を使って瞼を閉じさせ、全身から力を奪いまるで意識がないかのようにさせる。重力に抗えなくなった五代を背負った上で身近な、しかし道路からは十分な距離の空いた物陰に身を隠す。
 アンデッドである金居の五感は人間よりも上だ。夜の帳も手伝って、足音の主達と接触するまでにはずっと気絶していた五代を連れて動く無害な参加者を装える。成人男性と複数のデイパックの総重量は決して軽くはないが、やはり人外である金居にはそこまで問題ではない。

 二人で行動していることから、無差別なマーダーである可能性は低い。仮にそうでも、本来の姿への変身に予備動作など不要なため、相手の動きを伺っていれば良いだろう。
 今はとにかく情報を集めることが優先だ。様子を見て接触できるようであれば、それに越したことはない。

 果たして、二人組の男が姿を現した。

「この辺りか?」

 鋭い眼差しをした癖毛の男が、もう一人の男に問う。

「あぁ」

 茶髪の男が頷き、二人は油断なく周囲を見渡す。

 奴らはこちらの存在に気づいている――その事実に心中で舌打ちし、金居は考える。

 二人組の彼らがマーダーだろうとなかろうと、こちらの存在に気づかれているのならば身を隠すメリットは低いだろうと金居は考えた。問答無用のマーダーなら、発見されれば先制攻撃される。それ以外の交渉の通じる相手に対しても、姿を隠し続けるのは良い印象を与えるとは言い難い。

 だが、そもそも彼らがどこでこちらの存在に気付いたのか――その時点を読み誤れば、即座に戦闘に入り込むことは想像に難くない。単にこちらの存在に気付いただけならいざ知らず、もしも先程の銃声を聞かれて居れば……

 暗闇に潜む金居の視線の先で、茶髪の男の方がデイパックを漁り出す。そこから何かを取り出す様子を見せた直後に、突然男がこちらを向き、金居と目が合った――気がした。

「――おい。そこにいる奴、出て来い」

 やや高圧的な声で、茶髪の男が告げて来た。黒髪の男の視線もこちらを向く。
 仕方ないか、と金居は静かに五代を横たえて立ち上がり、茂みから姿を見せた。

「失礼した。だが殺し合いを強要されている状況なんでね、そちらが危険人物かと疑ってしまったんだよ」

 無差別マーダーではない。自分のようなスタンスだろうと、葦原涼のように本気で主催者を打倒し殺し合いを止めようとしている者だろうと、一先ず情報交換は期待できる。
 そう思った金居だったが、黒髪の男から厳しい追及が飛んで来た。

「まだ俺達を信用できていないのだろうが、こちらもおまえ達を信用することはできそうにないな。……もう一人はどうして出て来ない?」

 五代のことを見抜かれている。金居は思わず舌打ちしそうになり、首を振った。

「奴が出て来ないのは仕方ない。彼は放送前に見つけてからずっと意識がないからな」
「ほぉ、そいつぁ妙だな」

 茶髪の男が、そう一歩前に出たのを感じた。

「足音は二人分聞こえたぜ。意識がないまま歩いているって言うのかよ」

 まさかその通りだが、と答えるわけにはいかなかった。
 金居も気づいていた。彼らが明らかに自分を警戒していることに。
 だが、情報を聞き出すことを諦めるのはまだ早い。何とか自らの望む方向に誘導しようと思考を巡らせる金居だったが、それを無為にする一言が発せられる。

「しかも、銃を撃った後に……な」

 銃を撃った時点では、気配はなかったはずだったが、それでもこいつが察知しているのはクウガである五代と同じ、身体能力が向上した何者かだからか。
 労せずクウガを手に入れ、今また力を温存して参加者を一人仕留めるなど活躍はしたが、所詮は人間の作った玩具か、と金居は内心吐き捨て、二人の男の強い視線を受ける。

「おばあちゃんが言っていた……」

 脈絡なく、黒髪の男は人差し指を天に向け、そう漏らした。

「手の込んだ料理ほどまずい。どんなに真実を隠そうとしても、隠し切れるものじゃない……嘘など吐かずに、正直に話したらどうだ」

 男の言葉に、金居は決心を固めた。
 ――今回は情報収集を諦める、と。

 そうして密かにデイパックに手を入れた瞬間、そのデイパックが何かに弾かれた。

「――っ!?」

 弾かれた際に――何がぶつかったと言うのか、金居のデイパックは引き裂かれ、中身が零れ出していた。肝心の地の石だけは既に掴み、取り零すことも傷つけることもなかったのは唯一の幸いか。

「ファイズアクセル……それに、カイザギアだとっ!?」

 金居のデイパックから飛び出したベルトを見て、茶髪の男の方がそう驚愕の滲んだ叫びを発する。おそらくはそれと同じ世界の出身か。

「――乾、今は目の前の奴だ。……どうやら、やる気らしいぞ」

 先程金居のバックを貫いた、赤い機械のカブトムシを掌に受け止めながら、黒髪の男がそう乾という男を諭す。

 それらに対して金居は苛立ちを込め、地の石に念を送りつつ、叫んだ。

「ライジングアルティメット! こいつらを始末しろ!」

 背後で五代がすっと立ち上がる気配を感じながら、金居は口角を歪めた。

 言葉で相手の情報を得られないなら、その身を以って教えて貰うことにしよう。

「……全力で、な」

 未だ全容計り知れぬ、究極をも超越したこの闇の力を。







 眼鏡の男が命ずると、背後から一人の男が立ち上がった。
 その人形のように表情のない顔を巧達に向け、構えを取ると何もない腰に突如としてベルトが現れる。
 そのバックルから漏れ出す禍々しい紫の波動を見て、巧は本能で悟った。
 目の前に立つ男がこれから姿を変えるのは、自分が出会って来た全ての中で最強の存在。
 変身後の防御力を頼りに殴り合いに持ち込むなど、自殺行為でしかない……と。

「乾っ!」
「わかってるよっ!」

 微かに緊張を孕んだ声で呼びかけて来た天道はカブトゼクターと対となるライダーベルトを、巧は霧彦より託されたガイアドライバーを腰に装着する。できるなら相手の足元に転がったファイズアクセルを回収したくもあったが、さすがに数メートルの距離を埋めてそれを拾い、さらにそこから変身させて貰える隙がある相手だとは思えない。

「変身」

 ――HEN-SHIN――

 ――NASCA!――

 天道の声に続いて、ベルトに装着されたゼクターの電子音と、ガイアウィスパーの叫びが唱和される。

「キャストオフ」

 ――CAST OFF――

 ――NASCA!――

 天道がカブトゼクターの角を倒し、マスクドフォームの装甲を解除すると同時、巧の方もナスカメモリをガイアドライバーに挿入、その身を異世界の怪人へと変化させる。

 ――Change Beatle――

 そして二人は、変わっていた。

 天道は彼の世界を象徴する、深いワインレッドの装甲を纏い、夜に煌めく青い瞳を持つ仮面ライダーカブトに。

 巧は風となった戦友、園崎霧彦のもう一つの姿――マントを思わせる翼を生やした青い騎士のような怪人、ナスカ・ドーパントへ。

 彼らと同じくして、ライジングアルティメットと呼ばれた男もその姿を変え、眼鏡の男を守護するように前に出て来ていた。

 それは夜の闇よりなお暗い漆黒の身を黄金の装甲で覆い、全身に鋭い突起を生やした――どこかあの白い青年が最初に変身した姿を連想させる、四本角の仮面ライダーだった。

 先のカブトムシの怪人よりもがっしりとした体躯。やはり腕力勝負に持ち込むのは利口とは言えそうにない。

 故に、二人の武器は速さ。カブトにはクロックアップが、ナスカには超加速がある。
 その圧倒的な速度を活かして、ライジングアルティメットに指示を下す眼鏡の男を叩く。計り知れない力を感じさせるこの仮面ライダーと戦うより、それが有効的なはずだ。
 二人がそのために超高速移動を開始しようとした、その時。

 二人の目の前の闇が、一層濃くなった。

「うぁああああああああああああっ!?」

 全身を砕かんと襲い掛かる衝撃にナスカ・ドーパントは思わず叫び声をあげ、一瞬だけブラックアウトした視界が回復した時には、自分が天高くを舞っていることに気づく。

 何が起こったのか――それを理解する前に、何かが自分を飛び越えて行った。

 夜空に浮かぶ月の灯りを遮るのは、地上100メートルまで一瞬で跳躍した金の黒の仮面ライダー――ライジングアルティメット。
 ナスカウイングで体勢を整えようとしたナスカだったが、右手から殺到した光条をものともしないライジングアルティメットの固めた拳がその腹に叩き込まれる方が圧倒的に早かった。

「――っ!!」

 その一撃により生じた悲鳴は、声さえも粉砕されていた。隕石のように地上へと落下するナスカはたった二発の、しかし規格外の攻撃により、乾巧の姿へと戻っていた。

 ドォンッ! と地を揺らし、草木が黒い炎に吹き散らされた大地に半径数メートル規模のクレーターが生じる。

「――がっ、はっ……おぶ……っ」

 乾巧――ウルフオルフェノクは生きていた。激突の直前に、紙一重でオルフェノクの姿へと変身を果たしたおかげで、死ぬことはなかった。
 だが自由落下さえ遥かに超えた速度で地面に叩きつけられ、オルフェノクといえども無事で済むはずがなかった。そもそもその前にナスカの時点で受けた攻撃だけでも甚大なダメージが巧の身体に刻まれていたのだ。

 夜空を彩る星々が瞬いた気がした後、ウルフオルフェノクとなっても痛みにより満足に動けない巧の真横に、天より絶対的な暴力の化身が降臨した。

 ライジングアルティメットの着地により、大地がまるで怯えているかのように震える。

 全身を貫く激痛と恐怖で動けないウルフオルフェノクを無視して、ライジングアルティメットは正面を向いたままで手を夜空へ掲げ、そこから先程星空を呑み込んだ闇の波動が放たれた。

 先程自分達を吹き飛ばしたのもこれか――そう巧が思った瞬間に、その闇の津波から何かが投げ出される。

 それは、全身の赤い装甲に亀裂を走らせたカブトの姿だった。
 さすがに天道だけあって、およそ三発波動の直撃を受けつつも未だ倒れ込むような無様を晒しはしない。だがやはり限界なのか、先程巧を援護しただろうカブトクナイガンを手にしたまま持ち上げることもできず、片膝を着いていた。

 ざっ、と大地を踏み締めながら、ライジングアルティメットがカブトの方へ走る。

 必殺の拳を携え、数十メートルの距離を一瞬で詰めつつあるライジングアルティメットの前から、電子音を残してカブトが消える。

 クロックアップを発動させたのだと、ウルフオルフェノクは勝利を確信した。

 先程からの様子を見るに、絶大な暴力で巧達の命を削りに来るこの仮面ライダーからは意志が感じられない。やはりあの眼鏡の男――おそらくは大事そうに抱えているあの石に操られているのだろう。

 ならばあの男を倒す、もしくはその石を奪う――それで自分達の勝ちのはずだ。そしてクロックアップの力は先のカブトムシの怪人との戦闘でも通じた、自分達の切り札だ。

 それが背後を振り返りもせず後ろ向きに放たれた、ウルフオルフェノクのすぐ横の空間を貫いて行った暗黒の波動に易々と捕えられて、その超加速状態を強制的に解除される光景を目の当たりにするまでは――巧は、クロックアップを無敵の力だとさえ思っていた。

「天道ォォオオオオオオオオオオッ!」

 闇の波動に全身を削られ、眼鏡の男の眼前に罪人のように叩き伏せられたカブトを見て、絶叫しながらウルフオルフェノクが駆け出す。

 クロックアップさえも見切ったライジングアルティメットがそれを見逃すはずはなく、凄まじい瞬発力によって一瞬でウルフオルフェノクの背後に立ち、拳が繰り出された。
 神速の拳がギリギリで横に跳躍したウルフオルフェノクを掠める。だが防御した上からわずかに掠めただけで、ウルフオルフェノクをさらに数十メートルも飛ばすほどの威力。路面に激突した際、既にダメージの蓄積されていた巧の身体はオルフェノク態を保つことができずに、再び乾巧の生身を晒す。

 激痛に苛まれ、呻き声を上げる巧の横にいくつかの何かの塊とともに転がって来たのは、限界を超えたダメージによってカブトの鎧が融けるように消えて行く天道総司。

 振り返った先に立っていたのは石を持つのは眼鏡の男ではなく、左手にまるで鋏のような形状の剣を握った黄金の怪人だった。ライジングアルティメットと同じように、クワガタムシを連想させるような異形をしている。

 これがあの男の正体か。ライジングアルティメットという暴風と比べてしまえば弱いものだが、身体を押されるような圧迫感。この怪人もラッキークローバーや先のカブトムシの怪人に匹敵する実力を秘めた者であることは想像に難くない。
 そんな強敵が、さらにあの絶対の暴力を使役している。今自分達はこの会場において最も危険な相手と戦ってしまったのだと巧が悟った時は既に遅い。

 まだ戦闘――と言っても良いかわからないほどに一方的だが、互いに最初の変身をしてから30秒前後しか経過していないというのに、既に勝敗は決しているも同然だった。

「大人しく騙されておいてくれれば、こんなことにはならなかったんだがな」

 嘲るように、金色の怪人――ギラファアンデッドが告げる。

「哀れだと思うよ。俺も一度見たが、それでもライジングアルティメットの力がこれほどとは思っていなかったからな」

 背後からはそのライジングアルティメットが近づいて来る足音。それを受けて巧は立ち上がる。

 敵の強さはあまりに絶望的。ナスカメモリも遠くに落とした以上、天道は変身できない。
 それなら自分が戦うしかない。命に換えても、天道が逃げるための血路を切り開く。
 海堂直也がそうしたように、仮面ライダーとして最期まで戦う。

 ファイズギアを装着した巧に対して、敵は手出しをしなかった。

「――どうした? 早く変身しろよ」

 その様子をいぶかしんだ巧が手を止めていると、ギラファアンデッドがそう変身を促す。

「何、勘ぐることじゃない。おまえ達から情報が得られるとはもう期待していない。それならあいつの性能を確かめる実験台になって貰おうというだけだ」

「そういうことかよ……その傲慢さが命取りになるぜ!」

 ――Stading by――

 巧はそこで『555』をコードしたファイズフォンを天高く掲げて、叫んでいた。

「変身っ!」

 ――Complete――

 ベルトから全身に流れ込むフォトンブラッドが夜の闇を切り裂く光となり、胸部と四肢を銀の装甲が包み、最後にΦを象ったマスクが一際強く輝いた。
 仮面ライダーファイズに変身を果たした巧だが、既にその肉体は限界が近かった。
 それでも天道を逃がし切る時間を――そう思った巧の耳に、予想だにしなかった音声が潜り込んで来る。

 ――Stading by――

 音のした方を見れば、カブトに変身するのとは別のベルトを巻いた天道が、黄色と紫の携帯電話を右手に持っていた。

「変――」
「――バッカ野郎ッ!」

 先程ギラファアンデッドに挑み、あしらわれた際に、ただではやられず散らばっていた奴の支給品を回収していたのだろう。カイザフォンを躊躇いなくギアに装着しようとした天道を、ファイズは思考を挟む余地もなく反射的に止める。

「おまえ、これカイザギアなんだぞっ!? 人間が変身したら死ぬって言っただろうが!」
「乾――離せ」

 仮面ライダーに掴まれては、さすがの天道も抗えないのか――それでも彼は強い意志を感じさせる面差しのまま、巧にそう告げる。

「何もしなくとも、このままでは死ぬだけだ。俺が何とかする」

 そう言った天道が左手で投げた物にファイズが一瞬気を取られた隙に、天道はカイザフォンを空いた左手に投げ、意識を戻したファイズが止める前にベルトに装着していた。

「変身」

 ――Complete――

 再び闇を押す強い閃光が、今度は天道より生じる。χをモチーフとした仮面に、全身を走る黄色いフォトンストリーム、紫の瞳を持つ仮面ライダーカイザが、そこには誕生していた。

「本当に変身するとはな」

 その光景を前にして、愉快そうにギラファアンデッドが嗤う。

「乾」

 カイザへの変身を果たした天道が再び呼び掛けて来る。
 呼び掛けられたファイズの方は、ショックのあまりに最初動けなかった。
 真理、木場、海堂、霧彦。護れなかった、亡くしてしまった大切な仲間達の顔が脳裏に浮かび、そこに新たに天道の顔が並ぶ。
 だが天道の呼び声に正気を取り戻し、唇を噛み切る思いで彼の横に並ぼうとする。

「――これを使って、俺にあいつから石を奪え、って言うんだろ?」

 天道が投げて来たのはファイズアクセル。それを装着しながら、ファイズはカイザへとそう返した。
 だがカイザの返答は、ファイズの予想を大きく外れた物。

「それを使って逃げろ」

 その言葉に、ファイズは天道を振り向く。問い詰める前に、二人を飛び越えてギラファアンデッドの前にライジングアルティメットが降り立った。
 両掌が翳され、再びの暗黒の波動が二人の仮面ライダーを呑み込み、大きく吹き飛ばす。

 草木が焼き払われ荒い肌を露出した大地に叩きつけられた二人は、元々限界に近いダメージを蓄積させていたために、その一撃だけで変身を保つのが一杯一杯となっていた。

「奴らには……二人だけでは、勝てない」

 息も絶え絶えに、立ち上がったカイザがファイズにそう言う。

「この脅威を他の者達に伝えなければならないが……クロックアップさえ捕えるような奴だ。二人とも逃げると言うのは……無理だろう」

 再び主人が狙われることを警戒しているのか、ライジングアルティメットはゆっくりと歩く。仮にアクセルフォームとなっても、警戒している奴を超え背後のギラファアンデッドを仕留めるのは困難だとファイズにも把握できた。

「それなら、オルフェノクに変身できるおまえが生き残るべきだ」
「ふざ……けんなよおまえっ!?」

 痛みを怒りで捩じ伏せ、ファイズはカイザに詰め寄る。
 自分を逃がすために。そのための理由作りをするために、天道は一度変身すればベルトが外れた瞬間に命を落とすカイザの力を纏ったのだと悟ったファイズの心は雑多な理由が統合された怒りで一杯だった。
 もはや自分は助からないのだから逃げろと言った時に、万が一にも巧が彼を見捨てずに残らないように、自ら命を断つようなことを……

 だが憤怒のままに詰め寄るファイズに対し、吹き飛ばされる寸前に掴んでおいた、二人分のデイパックを投げて渡したカイザはもはや彼に取り合わず、迫り来る敵を睨んでいた。

「――俺の夢は、人間からアメンボまで、世界中の総ての命を守り抜くことだ」

 迫り来るライジングアルティメットに対して徒手空拳ながら隙なく対峙したカイザは、天道総司はそう強く言い切った。

「それをこんなところで終わらせないでくれ、乾」

 その言葉を最後に、カイザはライジングアルティメットに突撃して行く。
 呪われたベルトの力で、崩れ行く灰となる背中をファイズに幻視させながら。

 ファイズは――巧は、その後ろ姿を見送ったままに数瞬立ち止まっていたが、猛襲したライジングアルティメットの拳にカイザが捕えられたのを見て――決心を固める。

「――早くしろ、乾っ!」

 口腔に血が溜まったのか、普段より不明瞭な天道の叫びに対し、ファイズは絶叫と共にアクセルフォームを発動させた。

「うわああああああああああああああああああああっ!」

 そして、全力で駆けた。



087:防人(後篇) 投下順 088:太陽は闇に葬られん(後編)
087:防人(後篇) 時系列順 088:太陽は闇に葬られん(後編)
084:Round Zero ~Killing time 五代雄介 088:太陽は闇に葬られん(後編)
079:生きるとは 乾巧 088:太陽は闇に葬られん(後編)
084:Round Zero ~Killing time 金居 088:太陽は闇に葬られん(後編)
079:生きるとは 天道総司 088:太陽は闇に葬られん(後編)