肩の荷は未だ降りず ◆/kFsAq0Yi2
夜の帳に覆われたD-1エリアにおいて、煌々と光を漏らす白亜の建造物があった。
そのエリアにおいて最も大きな建造物。病院の二階広場で三原修二は頭を悩ませていた。
――園田真理がまた死んでしまった。
同じ流星塾の仲間。大ショッカーによりここに連れて来られる前、スパイダーオルフェノクへと変貌した同輩、澤田亜希により殺害された少女は、この地でもまたその命の華を散らしていた。
――これで草加は止まらないだろうな……リュウタ達も殺されちまう。
カイザに変身できる草加は、単純に戦闘で言えば一番頼りになったかもしれない。だが、真理が死んでしまった今、彼が大ショッカーの口から出た願いを叶えるという約束を信じ、異世界の参加者を殺し回ることは容易に想像できた。
そんな草加に、今の自分の同行者であるリュウタロス達を会わせるわけにはいかない。
そうなると自分達が頼れるのは、乾巧と野上良太郎の二人しかアテがない。
――リュウタロスの仲間であるモモタロスは、真理と一緒に放送で呼ばれてしまったのだから。
途中で気絶していた女性を拾い、身体を休めるのに一番良いだろうと二人が病院に付き、そこの一室に彼女を横たえた後――大ショッカーによる放送が行われた。
こんな状況に自分達を放り込んで、嘲笑う大ショッカーに対して怒りや恨みは当然あるものの、それを口にしたら最初のあの男のように殺されてしまうんじゃないのかと怯えて、三原は結局何も言えなかった。
代わりに、リュウタロスは激しく嘆いた。
モモタロスが死んだと聞いて、嘘だと喚き始めた。こんな状況で女性を起こすとまずい、と三原が何とか外に連れ出して、泣き叫ぶリュウタロスをひたすらに宥めた。
もしかして、仲間が死んだから草加のように優勝狙いに乗り変えないかという不安もあった。彼が敵になったら勝てるのか――そもそも自分はこの半日を共に過ごした稚気に溢れる怪人を撃てるのか、という三原の不安は杞憂だった。
それこそもう三十分近く泣き果たしたものの、リュウタロスはやがて落ち着き、こう言ったのだ。
「モモの分まで、僕が良太郎を守るから。僕ら、大ショッカーを倒すから。だから、心配しないでよね」
死した友にそう宣言するリュウタロスを見て、三原にも感じさせられるものがあった。
リュウタロスは見た目こそ恐ろしげだが、その心はまだ幼い。きっと人間なら子供なのだろう。
そんな彼は仲間の死を受け入れて、自分の成すべきことをきちんと把握し、理不尽に立ち向かうことを宣言したのだ。不幸にも先立った友のために。
そんな彼に比べて、自分は元の世界で真理の死体を見せられても、自分には関係ないと目を閉じ、耳を塞ぐだけだった。そうすれば無関係になれる、怖いことや面倒なことに巻き込まれずに済む、などと考えて、逃げ続けていた。
この幼いイマジンは、自分よりずっと強い。そう、本当の意味で認めざるを得なかった。
そしてそんな彼をもうこれ以上、悲しませたくなかった。
良太郎の手掛かりは何も掴めていない。そもそも自分達は殺し合いが始まってからというもの、放送前に見つけたあの女性以外にはたった一人の襲撃者としか接触しておらず、掴みようがない。
だが、彼女が持っていた四つの仮面をつけたみょうちきりんな剣――デンカメンソードは、野上良太郎の武器だという。
ひょっとすると彼のことを知っているのかもしれない。何にせよ話を聞く必要はある。
だが彼女の寝顔は随分と苦しそうで、しばらくは休ませてあげようよと他ならぬリュウタロスが言った以上、三原達は彼女の目覚めを待ち続けるだけとなっていた。
あの人は女性だし、リュウタロスは怪人だけどまだ子供だ。それなら自分は――未来では、きっとデルタとして勇敢に戦っているはずだ。また真理を助けることはできなかったけど、良太郎や乾さんのような他に護ってくれる人がいない以上、男である自分が頑張らないと、と三原は頬を叩く。
「そうだよ……護ってくれる人と遭えるまでで良いんだ。それまでは、俺が二人を護らないと……」
既に参加者の内からその三分の一もの死者を出すほど苛烈な、この世界を懸けた殺し合いで、他の世界の住人を助けてくれるような御人好しが、果たして何人存在するのかは三原にはわからない。
だが少なくとも乾と良太郎は信用できるし、彼らのような人間が他にいないと無理に考える必要はないはずだ。三原はそう、希望を持つことにした。
結局は他力本願だが、それでもその頼るべき他者と出会えるまでは自分が頑張ると決意できたというだけでも、これまでのことを考えると十分な進歩なのかもしれない。
――と、そこで病院の床を鳴らす軽快なステップに気づいた。
「修二ー、見回り終わったよー。誰かが戦った跡はあるけど、やっぱり僕ら以外には、今は誰もいないみたい」
現れたのは件のリュウタロスだった。放送直後はあれほど取り乱していたというのに、今はそれを微塵も感じさせず陽気に手など振っている。
「そっちは何もなかった?」
「ああ、うん……あの女の人のところずっと見てたけど、誰も来なかったし、まだ寝てるみたいだ」
実際には少し思考に没頭して余所見もしていたが、特に気配などはなかったし、大丈夫だろう、多分。
決意に対して少し無責任な気が自分でもして、三原は少しだけ肩を落とした。
「でもさ、病院の電気全部点けて良いの?」
リュウタロスの疑問はもっともだ。だが三原にももちろん――上策とは言えないものの、一応の考えはあった。
「そりゃ、本当はない方が外から目立たないから良いけど……また危ない奴が来るかもしれないけど、あの人を真っ暗闇の中で眠らせるのも何だか悪いし、この中に侵入されてても敵を見つけ易いんじゃないかなって俺は思ったんだ」
灯りもない夜の病院なんて、影を見るだけで自分は怖いし、と三原は内心呟く。
「それに危ない奴だけじゃなくて、きっと良い人も病院に人がいるかもしれないって来てくれると思うから……」
三原がそこまで呟いた時、硬い音が下の階から聞こえて来た。
誰かが歩いている音だと気づくのに、二人にはそう時間は掛からなかった。
「リュウタロス!」
焦りながら、しかし生来の気質もあって三原は小声で目の前の怪人に呼び掛ける。
「俺が様子を見て来るから、おまえはあの人のところに行っておいてくれ。もしも戦いになったら、俺が時間を稼ぐから、その間にあの人を連れて逃げるんだ」
そう、先程決意したばかりの言葉を、三原はリュウタロスに伝える。
少し声が震えたかもしれないけれど、そんなことを気にしている場合じゃない。
「うん、わかった」
リュウタロスは勢い良く頷き、あの女の人を置いて来た病室に向かう。
「――気をつけてね、修二」
リュウタロスの声に孕まれた感情が、ただの心配だけではなく。
微かに恐怖を含んでいたことを感じ取って、三原は彼を安心させるべく力強く頷いた。
……とは、言ったものの。やはり三原は三原だった。
デルタギアをいつでも装着できるように準備しながらも、気づかれないよう遠くの階段から慎重に一階に降りて物影に身を隠しているにも関わらず、エントランスにて視線を彷徨わせている二人の男を目にすると、恐怖に震えるのを抑え切れなかった。
「誰かいませんかー」などと呑気そうに二人揃って声を挙げていても、油断してはいけない。
もしも、彼らが殺し合いに乗っていたら――相手は二人だ、いくらデルタが強いライダーズギアと言ってもそれはあくまで自分の世界の話であって、別世界に対して優位性があるとは限らない。さらに言うと一度しか変身していないため、その力にも戦いにも慣れていない自分では相手二人が怪人やライダーなら数の差を埋めるなんて到底できないだろう。
きっと、成す術もなく殺される。リュウタロスを悲しませることになるかも知れないし、何より自分が死ぬのも痛い目を見るのも嫌だ。
それでも、リュウタロスと約束したのだ。自分が様子を見て来る。危険人物なら、時間を稼ぐ。
男は自分だけで、後は女子供だけ。それなら、自分がやるしかない。
ここで頑張らないで、いつ頑張るんだ。
「あ、あのっ!」
そう勇気を振り絞って、三原は物影から飛び出し、二人の男に呼び掛けた。
「あ、あなた達は、殺し合いに乗っているんですか――!?」
◆
葦原涼のアパートを出てから、一時間と少し経過した頃。
津上翔一と城戸真司は、D-1エリアの病院を目指していた。
蜘蛛のモンスターに操られた小沢澄子を救い出すという当面の目的を持つ二人だが、目的地をどこにすれば良いのか二人ともよくわかっていなかった。
一先ず小沢が変身した緑のライダーが向かって行った北側を目指す、という大雑把な行動方針はあったものの、それだけで見つけ出すのはさすがに無理があるというもの。
そんな二人に策を授けたのはキバットバットⅡ世だった。
曰く、小沢や未確認の前に操られていた男は病院にいる怪我人を狙ってやって来た、と。
結果は――返り討ちに遭い、未確認の暴力に晒されると言った無惨なものだったが、またその時と同じように病院に集まる負傷した参加者を狙う可能性は高いと、キバットは推測を二人に伝えた。
結果として二人は、即座にそれに乗った。小沢が居なくとも、病院はそのモンスターの思考したように、怪我人が集まり、それを狙う危険人物も集まり易い場所。人を護る仮面ライダーとして共に戦うことを決意した二人は、当然のように病院を目指していた。
二人の仮面ライダーを導く高貴な夜の眷属の後ろ姿はしかし、どこか悲しげで。
目的地についての提言をしてくれてから、またキバットは黙り切っていた。
その蝙蝠の姿は、真司にまだこの地で生きているはずのある男を連想させていた。
「なあ、キバット。おまえずっと元気ないよな」
余計なお世話だとか、無遠慮に傷口に踏み込んでいるんじゃないか、といった心配は、もちろん真司にもあった。
それでも、ひょっとしたら自分が力になれるんじゃないか、という気持ちの方が勝るのが城戸真司という男の常だった。
「……おまえには関係ないことだ」
「そんなこと言っちゃいけないですよ、キバット。せっかく城戸さんが心配してくれてるのに」
ある意味真司以上に空気が読めないと思われる翔一がそう口を挟む。
黙れと返すキバットに、今度は真司が喰いつく。
「関係なくないだろ! 何か悩みがあるなら、力になれるかもしれないじゃないか」
「そうですよ。俺達、もう仲間なんですから。遠慮なんかしなくて良いです」
「仲間、だと?」
笑わせる、とキバットは切り捨てる。
「手伝ってやっているからと、勘違いをしていないか? 俺は大ショッカーが気に食わないだけであって、おまえ達とは違う世界の住人だ。おまえらの仲間などになったつもりはない」
「でも、おまえの世界を脅かす大ショッカーは許せないんだろ」
真司も引き下がらない。意地を張るのが蝙蝠だと、ある仮面ライダーの姿を思い出しながら。
彼の時と違って、今、自分達の目的は一致しているはずだ。
そのキバットが隠す悩みを共有して、少しでも負担を減らしてやりたい。真司も翔一も同じ想いだった。
当然だ、とキバットは間を置いてから頷いた。
「それじゃ、やっぱり俺達は仲間ですよ」
間を置かなかったのは、真司の隣を歩む翔一。
「俺達だって、大切な人がいる自分の世界を護りたい。でも、そのために何の罪もない人を犠牲にするなんてやっぱりおかしいです。だから、こんなことを強制する大ショッカーが許せない。
同じ気持ちを持って戦うなら、それは仲間なんじゃないですか?」
自分が言いたかったことを上手く言葉にして貰った真司はそうだそうだと頷く。
「おまえは俺達を助けてくれたじゃんか。俺達はおまえのこと、もう仲間だって思ってるんだからな」
二人の男の訴えに、夜に舞う赤と黒の蝙蝠は答えず、そのまま時が流れるだけかと思われた。
「――仲間とやらでも、少しは遠慮を覚えろ」
そう溜息を漏らしたのは、根負けしたキバットだった。
「おまえ達に心配されるほど俺が落ちぶれているのは――先の放送で、知人の名が在ったからだな」
その言葉に、真司はまた土足で踏み込んでしまった、と後悔を覚える。隣の翔一も、一瞬だけ息を止めたのが感じられた。
そんな彼らの様子に、「勘違いするな」とキバットは続ける。
「そいつは知人で、かつては共に戦いもしたが……互いに道を違え、拳を交えた敵だ。……実力は、俺の知る全ての者で最強だったがな」
そう。故にキバットは焦っていた。
「奴のことだから殺し合いに躊躇などなかっただろうし、俺は奴とは違って大ショッカーの思惑に乗り、悪趣味な催しの駒に成り下がるつもりはない。
だが、俺の世界で最も強力な参加者が死んだわけだ。もしも殺し合いが続けば、俺の世界が勝ち残れる可能性は限りなく低くなった、ということが問題だ」
いくら真夜に非道な行いをし、惨めな振舞いを続けたが故に見限り、紅親子と力を合わせ真夜のため打倒した相手とはいえ、キバットにキングへの情が一切残っていないわけではなかった。
無論、眼前に現れたなら互いに敵と見なし、手段はともかく戦うつもりではあった。
だが彼とは永き時を生きた戦友でもあり、真夜への仕打ちに耐えられず離反したキバットだったが、真夜との関係という一点を除けばキングを立派なファンガイアの王だと今でも認めてはいた。そうでもなければこの闇のキバの力、与えたなどしない。
凶悪なゴブリン族を滅ぼし、強大無比のレジェンドルガにさえも自らと力を合わせて打ち勝ち、ファンガイアに平和と繁栄を齎した、偽りなき勇者であり英雄であった者、キング。
自らの知らぬところで二度目の命を散らせた戦友を嘲笑った、あの大ショッカーのキングとやらに憤るより先に、あんな奴にまで嗤われるほどに堕ちてしまったかつての友に、哀惜を覚えないと言えば嘘になる。
とはいえやはりキバットを悩ませたものは、自らが彼から奪った闇のキバと未来より現れた黄金のキバ、二つの王の鎧を結集してようやく打倒し得るほどの戦力を誇るあのキングの脱落。
制限があるとはいえ、その彼がこうも早く敗れ去ったのは、運悪く制限時間に引っかかったのか。それとも、単純に異世界の戦士や怪人はキバの世界で最強の存在だった彼をも凌いだのか。
願わくは前者であって欲しい。だが希望的観測であることもわかっているからこそ、それほどに危険な戦場で、真夜の愛した男とその息子がいつまでも無事でいられるとキバットは思えなかった。
彼らが死ねば、真夜は悲しむ。そしてその真夜も、忌々しい大ショッカーによって世界ごと命を奪われることになる。
だが、頼れる者などいない。翔一の炎のアギトの力はチェックメイト・フォーに匹敵か凌駕する勢いだが、キングには及ばない。その彼を打倒し得る存在が居るなら、この二人の仮面ライダーも屠られるだけだろう。
既に参加者の三分の一が命を落とすほどのこの殺し合いを、本当に止めることができるのか。
かと言って、屈辱に甘んじて大ショッカーの思惑に乗ったところで、音也も渡も殺し合いに乗るなどあり得ない以上、散々繰り返したが戦力の問題もあり、キバの世界の優勝は絶望的のはずだ。
「――大丈夫ですよ。キバットの世界だって、俺達が護って見せます」
まさに八方塞なキバットだったが、その必要最低限の心情の吐露に対し、翔一は眩く、柔らかい笑顔を浮かべた。
「そうだ。なんたって俺達は、人類の自由と平和を護る――仮面ライダーだからな!」
その翔一に続いて、翔一よりも力強さを感じさせる表情でキバットに告げるのは、真司。
「城戸さん、でもキバットは人間じゃないですよ」
「あー、そっか! でもなぁ、おまえはもう仲間だからな! キバットもキバットの世界も、俺達が護るってのに変わりはないから、安心してくれよ!」
騒がしく手を動かし、真司がそう指差しながらキバットを励まそうとする。
何となくわかっていたが、この二人の男はあまり頭が良いとは言えないだろう。キバットの気が滅入るほどの状況をきちんと認識できているか、疑ってしまうほど。
だが、それでも。
あの凶暴な未確認との死闘を潜り抜け、小沢澄子という同行者を蜘蛛の怪物に連れ去られても。
力強く、優しい笑顔を浮かべるこの異世界の戦士達を信じても良いのかもしれないと、キバットは不覚にも一瞬思ってしまった。
「ふん……好きにしろ」
そう呟いてキバットは再び前を見る。
本音を言えば、潰し合うべき世界の住人である自分をここまで想ってくれる人間達に、悪い気はしないと考えながら。
二人と一匹の向かう先には、夜の中で光を零す白亜の建造物の姿があった。
……そうして、現在に至る。
「あ、あのっ!」
全体の電灯を点けた無防備な病院のロビーで、参加者が居ないかと呼び掛けていた彼らの前に、気弱そうな一人の青年が姿を現し、問いを投げて来た。
「あ、あなた達は、殺し合いに乗っているんですか――!?」
◆
「うーん、修二大丈夫かなぁ」
病室の隅で座って、リュウタロスはそう心配を口にする。
「でも、修二強くなったなー、特訓した甲斐があったよね」
熱っぽいとか、バイトがあるとか、見苦しい言い訳をあれだけ吐いていた修二が、戦いになったら自分が時間を稼ぐ間に逃げるように、なんて言って来た。
リュウタロスは彼の成長が何だか自分のことみたいに嬉しくなって、へへーっと膝を抱えて笑う。
戦いの音も、修二の叫び声なんかも聞こえて来ない。今のところは上手く行っているのかな、とリュウタロスは思う。
六時間の間に、モモタロスを含めて20人も死んでしまっている。それなのに自分達はまだ他の参加者とまったく接触できていない。
そこで眠っているお姉ちゃんが起きる前に他の参加者が来たことで、事態が好転すると良いな、とリュウタロスが考えた時だった。
「うっ……」
ベッドから漏れる呻き声に、リュウタロスは思わず「あっ!」と声を発し、立ち上がった。
駆け寄ってベッドを覗き込むと、美しい女性がゆっくりと瞼を開けるところだった。
「お姉ちゃん、目が覚めた?」
◆
白い、シオマネキのような大きなハサミを持った怪人の姿が、脳裏に蘇る――
――おまえ達にも聞かせてやろう……私のレクイエムを。
そうして、複数の醜悪な異形を薙ぎ払い――
――麗奈さん。
響いたのは、彼女を愛し、彼女が愛した男の声。
――そこで彼女の意識はまどろみから浮上した。
(今のは……夢?)
重たい瞼を開きながら、彼女――間宮麗奈は思考をはっきりさせ始めた。
(確か……怖い男の人が現れて、照井さんがやられて、一条さんと、桐谷くんが追い詰められて……それで……)
山羊の意匠を持つ異形の怪物が、自分に向かって来るビジョン。
その後どうなったのか、思い出せない。
殺し合いを強要されたこと自体が夢だったのか、と逃避したくなったが、首筋に覚える硬質な感触がそれを許さない。
(ここは……どこなの?)
ぼやけていた視界がはっきりしたその時、彼女の目に映ったのは、最後の記憶と似通ったものだった。
「お姉ちゃん、目が覚めた?」
そう幼さを感じさせる声と共に彼女の視界に飛び込んできたのは、龍を思わせる顔をした、異形の怪人だった。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
絶叫が、夜の病院に響き渡った。
◆
「いいえ、殺し合いには乗っていませんよ」
決死の覚悟で放たれた三原の問いに、ニコニコしている方の男が答えた。
こちらを安心させるような笑顔の男に、若干警戒を解きつつ三原は確認する。
「ほ、本当ですか?」
「本当です」
「ほ、本当に本当ですか?」
「本当に本当だって」
もう一人の男もそう三原に答える。
どちらも人畜無害そうな容貌をしているが、信用しても大丈夫なのだろうか?
「そうしないと、自分の世界が危ないのに、ですか?」
「それでも、他の誰かや世界を犠牲にするなんて間違ってる。こんな殺し合いだって、世界の崩壊だって、俺達が止めてやるさ」
「だって俺達は、人類と自由の平和を護る、仮面ライダーなんですから。だから、安心してください」
「本当に……?」
何度目になるだろうか。三原はそう呟いて、固めていた覚悟を解きつつあった。
この人達は、信用できる?
「失礼かもしれませんけど、あなたは戦いに慣れている人には見えません。こんなところに連れて来られて、怖かったですよね。でも、もう大丈夫です」
三原のことを見透かしているように、笑顔の男が一歩踏み出して、力強く頷く。
「俺、津上翔一って言います。アギトです」
「あっ、俺は城戸真司。仮面ライダー龍騎」
もう一人の男もそう続けて、自己紹介をして来る。三原も釣られて、「俺は三原修二って言います」と名乗る。
「三原さんか。俺も翔一も仮面ライダーだから、きっと三原さんのこと護れるよ。だから、もう心配しなくて大丈夫ですよ」
そう、城戸と名乗った男も屈託な笑顔を見せて。
三原は、肩の荷が降りるのを感じていた。
この二人はきっと、本当に殺し合いを止めようとしている、人を護る仮面ライダーだ。
もう、無理に自分が頑張らなくて良い――そう三原が思って、自然と顔が綻んだ時だった。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
病院の上の階から、女性の悲鳴が聞こえて来たのは。
三原は振り返り、津上と城戸も厳しい表情になったかと思うと、直ぐに走り始める。
「ま、待ってくださいっ!」
猛烈な勢いで階段を昇る二人を追って、三原も必死に走る。
さっきの悲鳴は、多分あの女性のものだろう。
リュウタロスが他に誰もいないことを確認したはずなのに――まさか、別口から誰かが侵入して来たのだろうか?
もしも、二人が殺されていたら――三原のそんな不安は、直ぐに晴れた。
「お姉ちゃん、やめてよ~!」
駆け付けた先で繰り広げられていた光景が、ある意味脱力物だったためだ。
真剣な恐怖を浮かべた妙齢の美女が、キャアキャア言いながら子供っぽい仕草のやたら厳つい顔をした紫の怪人に、とりあえず枕だの花瓶だのと言った投げられる物を手当たり次第に投げつけて、部屋の外に追い出しているという図は、当人達は必死でもどこか愛嬌があった。
そういえば、もう慣れていたけれどもリュウタロスは異形の怪人で、目が覚めていきなりそれを目にしたら女性がどういう反応に出るか考えるべきだった、と三原は頭を抱えたくなった。
だが三原がその光景に対し誤解を解いて場を収めなければ、と思えたのは、リュウタロスのことを彼はよく知っていたからで。
初対面の二人の仮面ライダーにとっては、(冷静になってみれば明らかに妙だと気付きそうだが)リュウタロスという怪人が女性に襲い掛かっていたようにしか見えなかったのだろう。
「その人から離れろ、モンスター!」
「城戸さん、俺が行きます! 二人をお願いします――変身!」
疾走の速度を一段上げた津上翔一の姿が光に包まれて、それが消えたと思ったら現れたのは黒い体躯に金の装甲を持つ仮面ライダー。自己紹介によれば、アギト。
彼が勢いよく殴りかかって来たのを、リュウタロスは慌てて飛び退いてかわす。
「わっ、何々!?」
「もう、あんなことは繰り返させない!」
リュウタロスに構えるアギトの後ろでは、「大丈夫ですかっ!?」と城戸が新たな異形に驚く女性に駆け寄り、保護していた。
それを感じ取ったアギトが、気合いと共にリュウタロスへと距離を詰め――
「わー! 待って待って! 待ってください!」
彼らの間に、何とか三原が割り込んだことによってアギトが止まった。
「退いてください、三原さん。危ないですよ!」
「違うんです、こいつは違うんですってばっ!」
この様子を見るに、やっぱりこの二人は信用できるんだろうけど――
――自分が頑張らなくて良いなんて思ったのは甘かったと、三原は痛感させられていた。
病院の周辺を見回り、特に他の参加者の姿が見受けられなかったために二人に遅れて病院の中に入ったキバットバットⅡ世は、二階の喧騒が聞こえて来て直ぐそこに向かい、一部始終を見ていた。
どこかあの鬼に似ている異形から女性を護ろうと立ち向かった津上だったが、キバットがあの紫の怪人から特に害意が見受けられなかったと感じたのは正しく、三原とかいうどう見ても殺し合いに乗っていない参加者の仲間だったらしい。
未確認をアギトと勘違いして犠牲者を出し、小沢を蜘蛛のモンスターに奪われてしまったために、心に余裕がなかったのだろうことは情状酌量に値するが――翔一は何の落ち度もない参加者に襲い掛かった挙句、早速しかも無駄にアギトへの変身を使ってしまった。
二人してリュウタロスというその怪人に平謝りする仮面ライダーを見て、やっぱり大丈夫なのかこいつら、と思わざるを得ないキバットであった。
【1日目 夜】
【D-1 病院】
【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、リュウタロスへの気まずさ
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:翔一と共に誰かを守る為に戦う。
2:モンスターから小沢を助け出す。
3:ヒビキが心配。
4:蓮にアビスのことを伝える。
5:三原、リュウタロス、女性(麗奈)と情報交換する。
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。
※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】強い決意、リュウタロスへの申し訳なさ、仮面ライダーアギトに二時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、 ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。
1:城戸さんと一緒に誰かを守る為に戦う。
2:モンスターから小沢さんを助け出す。
3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。
4:木野さんと北条さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。
5:三原、リュウタロス、女性(麗奈)と情報交換する。
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※龍騎の世界についての基本的な情報を得ました。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。
【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】疲労(極小)、安心と軽い精神的な疲労
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555
【道具】なし
1:津上、城戸、麗奈(名前を知らない)と情報交換を行う。
2:巧、良太郎と合流したい。草加、村上、牙王を警戒。
3:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやる 。
4:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※巧がオルフェノクの可能性に気付いたもののある程度信用しています。
【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康 、津上と城戸への軽い怒り(直ぐに収まる程度)
【装備】リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト 、デンカメンソード@仮面ライダー電王
1:翔一と城戸に謝って貰う。
2:良太郎に会いたい
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスの分まで頑張る。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※ドレイクゼクターがリュウタロスを認めているかは現状不明です。
【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】精神的疲労(中)、人間不信 ワームの記憶喪失、混乱状態
【装備】ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:何がどうなってるの!?
1:リュウタロス、津上(どちらも名前を知らない)を警戒。他の二人は誰?
2:とりあえず一条、京介、照井についていきたいけど、三人はどこ?
3:他人が怖い。
4:殺さなければ殺される……。
5:あの人(影山)は一体……?
【備考】
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※ 一時的にウカワームの記憶を取り戻しましたが、再び失いました。
※ ただし、何か強いショックがあれば取り戻すかもしれません。
最終更新:2012年02月09日 20:12