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君はあの人に似ている (後篇)◆/kFsAq0Yi2







 ――CLOCK OVER――

「うわあああああああああっ!」

 打ち負けたのは――やはりガタックの方だった。

 単純な拳と蹴りではなく、タキオン粒子を纏った必殺技としての激突。おおよそその威力は互角だったが、故により消耗していたガタックが競り負け、弾き飛ばされていた。

 亀裂の走ったコンクリの上を転がり、うつ伏せで止まったガタックの装甲が限界を迎えて消えて行く。ガタックゼクターも耐え切れず、強制的にベルトから排出された。

「――ユウスケ!」
「小野寺さんっ!」
「小野寺くんっ!」

 キバットが、京介が、そして一条が、変身の解けたユウスケへと叫びを上げ――

「――旨かったぜ、小野寺」

 同じくクロックアップ世界から帰還したコーカサスが、そうユウスケへと言葉を投げた。

「てめー、ユウスケはやらせねぇぞ!」

 自身とユウスケの間に割って入ろうとするキバットに、コーカサスは尋ねる。

「そういやおまえ、小野寺に紅渡を救って貰うとか何とか言ってたな……どういうことだ?」
「てめーにゃ関係ねぇことだろ!」
「あいつも俺の獲物だ。くだらねえ小物に横取りされてたら溜まらないからな」
「てめー……ッ!」
「まあ、今は小野寺か」

 キバットとの会話を一方的に断ち切ったコーカサスはユウスケを見降ろし、告げる。

「それは究極のクウガとやらじゃねえんだろ? 俺はそれを喰らいてえからな、仕込みはするぜ」

 コーカサスは三度、一条と京介へと距離を詰め始める。

「やめ……ろ……」

 そう呼び掛けるユウスケの声は、とても弱々しい物だ。ギリギリで戦い続け、遂に限界を迎えたのだろう。腕一本すら満足に動かせず、これ以上の無理をすれば命に関わるほど疲弊しているようにも見える。

 もはやコーカサスを阻める者はいない。仮に何かの変身手段があっても、クロックアップの前には使用前に簡単に潰されてしまう。

 それでも、ユウスケは必死に言葉を紡いでいた。

「やめ、ろ……っ!」

「――そこの彼の言う通り、やめた方が良いと思うわよ」

 その場に響いた新しい声は、京介の背負った女性から発せられたものだった。

「あ?」

 コーカサスに睨まれても、京介の背から降りた彼女は気の強そうな表情を変えなかった。

「理解できないけれど……あなたの目的は、そこの彼と戦うことでしょう?」
「あぁ。究極の力を持った、な。そのためには、他の参加者を喰って怒らせてやるのが良いらしい」
「そう。でも彼、今は制限で変身できないわよ」

 制限? というユウスケや京介の疑問を無視して、コーカサスは億劫そうに頷く。

「あぁ、そうだな。だからテメェらを肴にして、そいつをもっと旨くしてやろうってわけだ」
「そんなことをすれば、彼があなたを満足させる前に勝手に死んでしまうと思うけれど?」

 どういう意味だ、とコーカサスの問い掛けに、婦人警官はやれやれと言ったように鼻を鳴らす。

「わからないの? 彼の身体はもう限界よ。そのことを頭でわかっていても、目の前であなたが私達を手に掛ければ、きっと黙っていないわ。そこで彼が向かって来て、あなたは殺さずに止められる?」
「できなくはねぇと思うけどなぁ」
「――それでも、万全の彼と戦うにはこれ以上痛めつけたくないんじゃないかしら? それにいつあなたに襲い掛かるかわからない彼を、戦えるようになるまで一人で連れて動くつもり?」
「――なるほどなぁ」

 コーカサスは小さく頷き、傲然と腕を組んだ。

「要するに、まだ小野寺を繋ぐ鎖として利用価値があるから、自分達を喰わないでください、ってことか」
「――まあ、そうとしか受け取れないのならそれでも構わないわ」

 そう婦警は返すが、さすがに先の言い方ではそうとしか受け取れないのでは、とユウスケは思う。

「はっはっはっはっはっ!」

 強気過ぎる命乞いに、しかしコーカサスは盛大に笑い始めた。

「……ただの命乞いにしちゃ、随分と強気じゃねぇか、姉ちゃん。……面白ぇ」

 がっ、とコーカサスが彼女の首を掴む。途端に苦しそうな表情になるのを見て助けようとするも、ユウスケはもう自力で立ち上がることができなかった。ガタックゼクターはそんな資格者の傍から離れられず、真っ先に飛びかかったキバットはあっさり払われる。一条が怪我を押して、比較的健康な京介が叫びながら距離を詰めようとしたが、女性自身がそれを制止し、コーカサスを睨み返す。

 その未だ強い光を灯した視線を受けて、今度はコーカサスが鼻を鳴らした。

「俺の牙を喉笛に立てられて、それでもまだ逃げられると思って居やがるなら……足掻いてみろよ」

 どさっ、と。無遠慮にコーカサスは女性の身体を投げ捨てる。

「良いぜ、それなりに満足できたからな。テメェの口車に乗ってやるよ。次に小野寺が究極のクウガになれるまで、テメェらもまだ喰わずにおいといてやる――まあ、その代わり俺に従って貰うがな」

 そうして未だコーカサスの変身を解かない牙王は、一条と京介を見やる。

「テメェらの支給品全部寄越せ。余計な真似をするならこの場で喰らってやる」
「く……っ!」
「……従って」

 歯噛みする一条に、喉元を押さえ咳き込んでいた女性が苦しそうに伝える。

「今は、犠牲者を出さないことを考えなさい」

 彼女の言葉を受けて、一条は強い葛藤を見せながらも、自らの持っていたデイパックと……懐に入れておいたアクセルメモリとドライバーをコーカサスの元へと差し出す。

「一条さん……」
「京介くん……耐えてくれ」

 すまん……、と。泣きそうな顔をしている京介に、あれだけのダメージにも見せなかった、今にも涙を零しそうな表情で、一条が告げた。
 京介も苦痛を耐える様子で、牙王の元へとデイバッグを届ける。

「さて……おまえもだ」

 複数のデイバッグを手にしたコーカサスは倒れて動けないユウスケの元へと歩み寄り、抗議するように飛ぶガタックゼクターを払い除けてユウスケの腰からライダーベルトを引き抜いた。
 乱暴な扱いにユウスケの口から悲鳴が漏れ、それを見てコーカサスが言う。

「心配するな――おまえらも、喰らう時には全員返してやるよ。喰う時には、な」

 ああ、それと……などとコーカサスが、元から背負っていた自身のデイパックへと手を伸ばす。

「おまえら、変身が解けてクロックアップがなくなれば……とか思ってるんだろ? 甘いんだよ」

 そうやって彼が見せたのは――クローバーの意匠が施された一つの箱。
 それに見覚えのあった彼らは、全員苦渋に顔を歪める。

 あれはこの一連の戦いにおいて最初に自分達を襲撃した仮面ライダー、レンゲルの変身アイテム。

「そんな……!」

 去っていなかった脅威に、京介がそう嘆きの声を漏らす。

「わかってるだろうが、逃げたら喰う。もしそいつが逃げ切ったら、代わりに残った奴らを、だ」

 レンゲルはラウズカードから、複数のアンデッドを召喚する能力を持っている。単純な戦闘力はもちろん、その数の暴力は彼らの抵抗をクロックアップ同様易々と無力化するものだった。この脅しを現実のものとするには十分な能力。

 完全に生殺与奪を握られている状況下にあることを全員が把握したところで、コーカサスは渡された大量の支給品をとって彼らから少し距離を取った後、変身を解いた。

「――っ、ユウスケさん!」

 堪え切れなくなったように、京介がユウスケへと駆け寄る。いつでも変身できるようにレンゲルバックルを腰に舞いた牙王はそれに目もくれることなく、支給品の確認を始める。それらの様子を確認した後、女性は一条の方へと歩み寄った。

「ごめんなさい、勝手なことをしてしまって」
「いえ……あなたが気に病むことではありません」

 先程の気丈さが鳴りを潜めた彼女の様子に、一条は首を振る。

「確かに、危険人物の意のままになってしまっている今の状況は好ましいものではありませんが、まずは民間人である彼らの安全の確保が我々の至上命題ですからね。むしろ私こそ、力不足でした」
「我々……ということは、あなたも?」

 警察であると一目でわかる服装の女性の問い掛けに、一条は頷く。

「その前に、まずは彼の手当てをしましょう。詳しい話はその途中からでも」

 一条の言葉に婦警も頷き、京介に仰向けにして貰っているユウスケの元へと向かう。

「……すいません、一条さん。俺……」

 そう苦しげな息の中呟いたユウスケに、一条は首を横に振る。

「君は十分頑張ってくれた。本来なら、俺がやらなくちゃいけないことを……あいつの、五代雄介のように、立派にやり抜いてくれた」
「五代……ユウスケ?」
「それが俺の世界の、戦士クウガの名だ」
「――そうよ。謝る元気があるなら、この先のために使いなさい!」

 遅れて話に入って来た婦警が、そう厳しい激を飛ばす。

「あなたは未確認生命体の脅威から、人々を護った第四号でしょう!? 弱音なんか吐かないで、英雄らしく強くありなさい!」

「……えっ?」

 何故彼女が、第四号を知っているのか――ユウスケと一条は顔を見合わせる。

 とてもよく似た、しかし確かに異なる世界から連れて来られた者同士が互いの素性を知るのは、そのすぐ後のことだった。






「……つまり、俺と小野寺くんは別々のクウガの世界、小沢さんは小野寺くんが訪れたのとはまた別のアギトの世界から来た、ということか……」

 互いの情報交換を終え、それをまとめた一条の呟きにユウスケが頷く。
 手当てと言っても何の道具もなく、三人が面倒を見ているだけだが、一応例の婦警こと小沢澄子が牙王相手に交渉しユウスケの体力を回復させるための食糧だけは取り返していた。とことん豪胆な人だとユウスケは感心してしまう。

「それにしても、鳴海亜樹子が殺し合いに乗った危険人物というのは本当なのか、キバット?」

 聞けば一条達は当初、仮面ライダーアクセルに変身する照井竜に率いられて行動していたが、彼は未確認生命体第三号の襲撃から一条達を護ってその命を落としてしまったという。
 その第三号は小沢とその仲間が何とか倒したとのことだが、人の姿をした相手を射殺したことで出来た心の隙をレンゲルバックルの邪悪な意志に付け込まれてしまい、小沢が操られて先程一条達、そして駆け付けたユウスケとの交戦、合流に繋がったということだが。
 小沢がレンゲルに変身し二人を襲ったということと、それは操られていたからだというのは自己申告だが、もし本当に危険人物なら自分が先程の襲撃者であるなどわざわざ不利になることを言うとは思えず、ガタックゼクターが小沢をまったく警戒しないことからその言葉を三人とキバットは信じた。

 話は逸れたが、一条達にとって照井という存在はとても大きなものとなっていた。その彼が信頼できると伝えていた人物の凶行は、俄かには受け入れ難いものとなっていたのだろう。

「俺だって、認めたくなかったさ。そうじゃなかったら、どれだけ……」

 そう呟くキバットは、多くの事情が重なり自身の世界の存続のため修羅の道を選んだ紅渡という自身の相棒を説得するために、それができる仮面ライダー――ユウスケを頼りに来たそうだ。
 渡が他者を犠牲にする道を選ぶ決定打になったのが、その亜樹子の所業だったという。

「嘆くのはそこまで。キバットの話を信じないわけじゃないけれど、実際の事情はわからないし、それでも状況が状況だから実際に会ってみるまでは最悪の事態も想定しておくべきだってことよ」

 一条達とキバットの双方の気持ちを汲んだ落とし所へ、小沢が持って行く。ユウスケへの第一声と言い、弱さを見せるなと強調するのは、彼女自身が心の迷いを一度怪人に利用されたことに負い目を感じているからだろう。

「当面の問題は、結局あいつをどうするかということに変わりはないわ」

 そう小沢が示すのは牙王。彼は小沢の支給品から手に入れたアビスのデッキを手にし、鏡の中にも配下を忍ばせるようになっていた。
 仮面ライダーに変身できる強力な支給品を手にしながら、戦いの中で気づけなかったことに京介が自分を責めたが、ずっと小沢を庇って動き続けていた上に、カードデッキで変身できることを知らなかったため、仕方がないことだと言えた。

「あいつは紅渡くんのことも狙っているし、私達に彼を探させようともするでしょうね。それに、自分から第零号の元に向かおうとしている……特に、装備を全て取られた今の私達が第零号に遭遇するのは危険過ぎるわ。――まあ、小野寺くんが変身できるようになれば大丈夫なんでしょうけどね」
「――え?」

 小沢のその言葉に、ユウスケは思わずそう疑問の声を漏らす。

「万全のあなたなら、第零号にも対抗できる……もちろん牙王にも。そうなんでしょう?」
「いや、でも……小沢さん。俺、クウガの力をきちんと使えるなんて保障……」
「なら使いなさい」

 はっきりと言い切られて、ユウスケは二の句を繋げなくなってしまう。

「あなたはずっと四号――クウガとして戦って来たんでしょう?」
「それは、そうだけど……」
「さっき、私が操られて二人に襲い掛かっていた時にも、あなたは皆の笑顔を護るためにその力を行使したわ。あなたならできるから、自信を持ちなさい」
「小沢の姉ちゃんの言う通りだぜ、ユウスケ。おまえは俺が見込んだ立派な仮面ライダーじゃねぇか」

 そうキバットが相槌を打って来て、ユウスケは不慣れな展開に戸惑ってしまう。こういうのは、いつも士の役目なのに……確かにキバット族には、士より好かれてたけど……

「私は、あなたのような人達を知っているわ。氷川くんや、ここに連れて来られている津上くん、それに城戸くん……あなたや彼らのような存在が、仮面ライダーだというのなら。私はあなたの心が、ただの暴力や負の感情なんかに負けることなんて考えられない。あなたとそっくりな彼らが、それに打ち克つところを私は何度も見て来たから」

 そう激励して来る小沢の姿に、ユウスケはある人の姿を想い起こす――
 ずっと自分を支え、最期まで信じてくれた、八代藍刑事を……

「それとも、こんなにたくさんの人間に支えて貰っても自分には無理ですなんて、情けないことを言うつもり?」

 ……いや、こんなに厳しくはなかったかな、姐さんは。
 どちらかというと、同じ八代でも小沢同様にG-3システムの開発者である八代淘子の方が彼女には似ているなと、ユウスケは結論付けた。

 他にも、ヒビキがやはり皆を護るために戦ってくれていること――ダグバに襲われながらも一命を取り留めたことを小沢とユウスケから聞かされた京介の安堵や、小沢から己の父親までこの戦いに巻き込まれていることを知ったキバットが一瞬落ち込みはしたものの、この殺し合いを打倒すれば関係ないと彼女と共に奮起するなど、情報交換とそれに伴う交流は続いたが……

「――随分元気になったみてぇじゃねぇか」

 そう声だけで割り込んで来たのは、支給品にあった食糧を貪っていた牙王だった。

「……おまえらの武器は、ここにまとめておいた」

 牙王は一つのデイパックを掲げて見せる。とはいえ気に行ったのか、それとも抑止力のためか、アビスのデッキは反対の手に握られていたが。

「こいつはおまえらを喰う時まで預かっておくぜ」

 そう凄みのある笑みを見せた牙王は、それと自分自身のデイパックを装備し、立ち上がる。残りのデイパックとその中身は、一応は返してくれるということか。……食糧は全部取られてしまったようだが。

「さっき――つっても、おまえらがダラダラと喋り始めるよりも前だが、南の方で街が燃えてるのが見えたんでな。……確かダグバは人間を燃やすんだったな、小野寺?」
「そう言っても、他にも炎を武器とする参加者はいるわよ。第零号とは限らないんじゃないかしら」
「テメェに聞いてるんじゃねぇよ」

 ずっと自分との交渉口に立ち続ける小沢に、牙王は嫌そうに目を細めた後、呆れたように溜息を吐く。

「ダグバや紅渡じゃなくても、火の手はかなり広かった。それなりの獲物ってことだろ」

 ユウスケほどではないにせよ――疲弊していたはずの牙王はそれを微塵も感じさせない様子で、そう言葉を続ける。

「立て。そいつのとこに向かうぞ」

 従わねば、それすなわち死。抗えるわけもなく三人が立ち上がり、未だ満足に動けないユウスケに一条が手を差し出すが。

「俺がやりますよ。一条さんでも、さすがに辛いでしょう?」
「しかし……」
「彼らは一般人よ、一条さん。私達からすれば、護衛対象は固まって貰う方が良いと思うけれど」
「小沢さん……それでも」
「これ以上言わないと、わからないほどあなたは疎くないと思いますが」

 小沢の言葉に、一条はようやく「任せる」と手を引いた。
 少年に申し出をさせたものが、単なる厚意だけではないのだろうことは、ユウスケにもわかる。
 立場的に一条が彼を頼るわけにはいかないが、実際、今の一条がユウスケを背負って長距離移動するのには無理がある。京介の心情的に、一条の体力的にも、これが一番なのだろう。

「……っ、ごめんな、京介くん」
「大丈夫ですよ、小野寺さん。俺、鍛えてますから」

 その朗らかな笑顔を見て、ユウスケは彼も立派な鬼――仮面ライダーだと安心する。
 小沢を護り抜いてくれただけで十分だが、目の前でユウスケや一条が身体を張り続けるのをただただ見せられたこと――しかも、仕方がないのに仮面ライダーの力があったことに気付けなかったことに強い後悔を抱いているのだろう。残された者の悲しみを味わったことがあるという彼には、今度も見ているだけだという、より一層強いその念が。
 だから、本当は年下の少年に背負って貰うなんて気が引けることだが……それで彼の心が少しでも軽くなるなら、今は素直に身を任せようと、ユウスケは思っていた。

「……小野寺くん」

 そうしてユウスケを背負った京介が立ち上がると、小沢がそう声を掛けて来た。

「お礼を言い忘れていたわ。さっきは止めてくれて、本当にありがとう」
「えっ……いや、そんな」

 止めて、ということは、彼女が変身したレンゲルのことを言っているのだろう。
 ユウスケはあの時、小沢が操られているなど知らず一条と京介を助けることしか考えてなかった。操られていただけの被害者を、下手をすれば傷つけていたかもしれない以上、素直に感謝の言葉を受け取れなかったが、小沢は押し切って来る。

「良いから。私が素直に礼を言っているんだから、受け取っときなさい。取り返しがつかなくなる前に助けてくれて、感謝しているわ」

 そう男らしい言葉で、素直に謝って来られるのだから……ユウスケとしては戸惑いながらもそれを聞き入れるしかなかった。

「一条さん、私が持ちます」
「しかし、小沢さん……」
「あなたが身軽な方が私達は安全かと思いましたが、違いますか?」

 巧妙に相手を黙らせて、ふんっ、という男らしい掛け声とともに相当な重量のあるデイパックを持ち上げる小沢には、あれだけ頼りになった一条も形無しのようだった。気がつけばキバットともすっかり馬が合ったようで、彼女は天然のリーダー気質なのかもしれない。
 それでもさすがに重かったのか、結局軽めのデイパックを一つずつ一条と京介に渡したが。

「一条さん!」

 手持無沙汰な様子の一条に、ユウスケは声を掛ける。

「俺も、頑張ります。――その、五代さんのように」

 そうユウスケは、笑顔と共に一条に親指を立てて見せた。
 本人は、自覚していなかったのかもしれないが……情報交換の際に、必要以上に口を開かないと思われた見た目からは想像できないほど、一条がその五代雄介という人物をどれほど信頼し、認め、尊敬し、想いやっていることがよくわかるぐらい、彼は自分の世界のクウガについて語っていた。

 あの一条が、そこまで言う人物なら――皆の笑顔を護るために戦う五代雄介という男に、尊敬を抱くのは難しいことではなくて。同じクウガとして、そんな人のようになりたいと、ユウスケは心から思っていた。

(会ってみたいなぁ……)

 その想いはより強くなっていた。それを呑み込んで、ユウスケは言葉を続ける。

「あそこで、クウガになって、俺……本当に、良かったです。一条さん達を助けられて」

 気を失う前までは、自分はもう未確認と同じ、忌むべき存在になってしまったと思っていた。
 だが、その力で一条達の笑顔を護ることができた。
 そして一条に、自分のしていることが、中途半端な自暴自棄だと諭された。
 おかげでユウスケは、真っ暗な闇の中で、仲間という光を取り戻すことができた。
 その名前を冠した女性も、あのどこか胡散臭いオルフェノクも、もういないけれど。彼らの願いを、歪めずに済んだ。
 一条と京介、それに小沢やキバット、それにガタックゼクターという新しい仲間もできた。
 結果として牙王の捕虜となり、またキバットの頼みによって新たになすべきことも増えたが……あの時、言い訳して立ち止まらなくて――本当に、良かった。

 願わくば、他の参加者と出会うまでに自分の力が戻って、獰悪な牙から笑顔を護れるように――
 ――今度こそ、今までみたいに中途半端ではなく、本当の意味で皆の笑顔を護れるように。

 その想いを胸に、ユウスケは暗闇の中を、仲間と共に進んだ。






 悲観的な状況でも、優しさを忘れず、強くあろうとする同行者達に、一条は安心するとともに、申し訳なさを抱いていた。

(……五代のように、か)

 先程小野寺ユウスケが自分に告げて来た言葉を、一条は反芻する。
 確かに、五代の人格は多くの人の手本となるものかもしれない。だが、それ故に彼が無理をしているということを知る一条は、内心複雑であった。
 本当は暴力を嫌い、自由に、気ままに冒険する五代雄介に、自分は寄り道をさせてしまっている。
 本当なら、その役目は自分が替わってやりたかった。五代には冒険だけしていて欲しかった。
 皆の笑顔のために、自分の笑顔を犠牲になんてして欲しくなかった。
 いつも五代は笑っている。だけどそれは、他の人を悲しい想いにさせないためで――いつだって五代は、その拳を振るうたび、心の中で泣いていた。

 小野寺ユウスケ。彼には自分が五代に言えなかった、五代にずっと言いたかったことを、別人だとわかっていてもぶつけてしまった。
 それで、あんなに辛そうだった彼が笑顔を取り戻してはくれたが――

 また五代のように苦しい想いをする者を生み出してしまったのかもしれないと、一条は苦悩する。

 また、小沢の世界やかつてユウスケが訪れたという別のアギトの世界の情報も、一条にとっては懸念することだった。
 五代があれだけ我が身を犠牲にして、未確認の脅威を打ち払ってくれたとして――得られる平和は束の間で、アンノウンという脅威が、自分達の世界にも現れるのではないか。
 現状を考えれば、自分達がその新たな脅威に、第四号抜きで太刀打ちできるとは思えない。
 いったい自分は、いつまで五代をこんなことに付き合せなければならないのか――

 せめて、自分に力があれば……五代にも、ユウスケにも、こんな負担を押し付けなくて良いのに。
 だが、照井が命を賭して自分に託して行ったアクセルの力さえ、自分は護り切れなかった。結果、牙王という危険人物に奪われてしまっている。

 挙句、いくら表に出さなくても、全身に蓄積されたダメージを同行者達にも気遣われてしまっている始末。
 こんな自分で、照井のやり残したことを達成できるのか。そう不安がある。
 だが、先程ユウスケに皆が説いたように――例え不安でも、やるしかないのだ。

(あのキバットという存在は、知性と自我を持ち俺達に協力的だ。事実、何度も力になってくれた。信頼できる相手に間違いないだろう。だからこそ……)

 だからこそ、照井が信頼できると言っていた鳴海亜樹子が殺し合いに乗っているのではないか。その最悪の可能性が一条の中でも拭い切れない。
 ならばそれを確かめ、事実ならその彼女を正気に戻すことも――照井から使命を託された自分の役目だと、一条は気を強く持ち直す。

 そして、やはり五代と合流したかった。彼が力を貸してくれれば――もう一人のクウガと、力を合わせてくれれば。きっと第零号にも、負けはしない。
 何よりこの殺し合いという極限の場所では、きっと五代が涙を流すような光景が繰り広げられ、彼の心を傷つけるような決断が迫られる場面が何度もあるだろう。
 その時に手を汚すのは、自分の役目だと――一条は認識していた。

 ただ今は、牙王の脅威をどうにかすることが最優先だ。誰かを保護したり合流したりする前に、自分自身が死んでしまっては照井に申し訳が立たない。さらに言えば、それでも命を投げ出してでも護らなければならない者達が一緒にいる。

 背後から自分達を見張るように歩いてついて来る牙王の隙を探りながら、一条は夜の中を歩いていた。

 自分達の進む方向にある、牙王と同等、そしてそれ以上の脅威にまだ、気づくことなく。



 そうして、牙の王と彼に捕らわれた四人の参加者、そして自我を持った四つの支給品は――

 ――さらなる戦いを目指し、歩みを続けた。




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