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G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI




 目の前の赤い怪人から放たれる威圧感は、今までに相対して来たどんな敵よりも鋭かった。
 奴の気迫にあてられてか、ただ相対しているだけでも体力を削られていくような錯覚すら覚えるが、それは恐らくただの錯覚ではないのだろう。
 名護啓介が破壊のカリスマゴ・ガドル・バと相対するのはこれで二度目になるが、一度目でその理不尽なまでの強さを身を以て知ったからこそ、二度目となる今はあの時よりもずっと奴の気迫を脅威に感じる。
 だけれども、不思議と負ける気はなかった。命が脅かされる恐怖も、実際にはそれ程感じてはいなかった。
 今はそれよりも、もっと大きく、熱い思いが名護啓介を突き動かしているのだ。

「この身体、その全ての細胞が、正義の炎に燃えている」

 かつて世界を滅ぼすとまで云われたキバとも互角の実力を持つとされるライジングイクサの装甲に身を包んだ啓介は、誰にともなく一人ごちた。
 奴―ガドル―との戦いは、ここで終わらせよう。もうこれ以上、奴には誰一人殺させはしない。否、誰一人として殺させてはならないのだ。
 海堂直也は、その命の炎を燃やして正義を示し、逝った。彼が示した正義は、この名護啓介が継ぐと固く誓った。
 ならばここで奴を討たずして、どうして散って行った海堂直也に顔向けする事が出来ようか。
 倒すのだ。ここで奴を。海堂が貫き、しかし果たせなかった正義を、ここで啓介が完成させるのだ。
 それこそが今の啓介に出来るたった一つの手向け。戦士にしか出来ない、不器用だが崇高な手向けだ。

「行くぞ、ガドル――!」
「待って、名護さん!」

 いざ駆け出さんとしたイクサを引き止めたのは、後方のダークカブトだった。
 ちらと振り返ったイクサが見たのは、何度もバックルにメモリを装填し直すも、一向に変身が始まらない左翔太郎だった。

「クソッ、何でだよ、何で変身出来ねえんだ!?」
「翔太郎くん……この場では、一度変身すれば二時間は変身出来なくなるんだ」
「ああっ!? んだよそれっ、制限は十分の方だけじゃなかったのかよ!」

 両手を大仰に広げ、ややオーバーにも見えるリアクションで翔太郎は怒鳴った。

「翔太郎くん、君には他にベルトはないのか」
「……悪ぃな、今すぐ使えるのはコイツだけなんだよ」
「そうか。なら、君はそのまま下がっていなさい」
「名護さん……あんた、俺に黙って見てろって言うのかよ!?」
「戦士は、決して戦うべき時と退くべき時を見誤ってはならない」
「……っ」

 戦力外通告、とまで言いたい訳ではないが、戦えない者が戦場に出るのは危険すぎる。
 麻生恵や襟立健吾は生身でファンガイアと戦っていたが、この敵は、ガドルはそんな無謀が許される相手ではない。
 その双眸に反抗的な光を宿していた翔太郎も、不承不承といった様子ではあるが、一歩身を退いた。

「……ああわかった、わかったよ名護さん。その代わり、もし名護さんが危なくなったら、俺はすぐにでも飛び出して行くぜ」
「その必要はない。この俺を誰だと思っているんだ、俺は素晴らしき青空の会の戦士――名護啓介だぞ」

 イクサの仮面に隠れて表情は見えないだろうが、それでも不敵に笑う啓介。
 この一年間を仲間たちと共に戦い抜き、一回りも二回りも大きく成長した名護啓介に不可能はない。
 言外にそう告げる啓介の意思を汲み取ったのであろう翔太郎は、一言だけ「信じてるぜ」と告げると、ふっと笑った。

「もういいか」

 二人のやり取りを眺めていたアームズ・ドーパントが、背中のシールドソードを抜き放ち、歩を進める。
 アスファルトを踏む脚の、その一歩一歩がいやに重苦しく感じる。絶対的な強者の余裕と気迫が、赤い身体の全身からまるで瘴気のように滲み出ていた。
 脅えているのだろうか、ダークカブトは最初は落ち着かない様子で逡巡していたが、ややあって意を決したのだろう、イクサの隣に並び立った。

「名護さん、僕も、戦うよ……」
「ああ、だが総司君、君もこれだけは忘れないでくれ……退き際は決して見誤ってはならないと」
「分かってるよ……危なくなったら逃げろって事でしょ? でも、僕が逃げる時は、名護さんも一緒に……」
「悪いが、俺は逃げる事は出来ない。ここで必ず奴を倒す」
「そんな事、出来る訳……」
「倒さなければならないんだッ!!」
「っ、……」

 ダークカブトは、何事かを言おうとしたのか言葉を詰まらせるが、そのまま何も言う事は無かった。
 言いたい事が無くなった訳ではないだろう。不安が無くなった訳でもないだろう。それぐらい啓介にだって分かる。
 分かるが、それでも、戦士には退けぬ時がある。この戦いがそうだ。故に、これだけは決して譲る訳にはいかなかった。
 総司には悪いが、啓介は例え誰に止められようともこの戦いから降りる事は絶対にしないだろう。
 未だ自分の生き方さえも見出せぬ総司をそれに付き合わせる気もない。道連れにする気もない。
 危なくなったら逃げてくれればいい。その為の時間くらいは稼げる筈だ。
 啓介は自分の中の正義に従い、悪を討つ……ただそれだけだ。

「行くぞ、総司くん」
「うん……!」

 二人の掛け声が、戦闘開始のゴングとなった。
 最初に駆け出したのはイクサだ。手にしたイクサライザーから銀の弾丸を斉射しながら、一気にアームズ・ドーパントとの距離を詰める。
 弾丸がアームズ・ドーパントの振るう剣の舞を通過して、その体表にダメージを与える事は無かったが、そんな事は最初から百も承知だ。
 一瞬でも牽制する事が出来たなら、それで十分。イクサライザーによる斉射が止んだ次の瞬間には、イクサはアームズ・ドーパントの懐へと飛び込んで居た。
 ふっ、と息を吐き出し、振り下ろされたシールドソードにカリバーモードとなったイクサカリバーを叩き付ける。
 イクサの肩に上体に、強烈な振動がびりびりと伝播するが、今更その程度の攻撃でイクサを止める事など出来ようものか。
 激突した一瞬の間に、イクサライザーの銃口をアームズ・ドーパントの腹部に密着させた。

「……ッ!」

 この距離なら、どんな武器を持っていようと防げはしまい。
 ほんの一拍反応が送れたアームズ・ドーパントの腹部を、零距離で放たれた弾丸の嵐が打ち付ける。
 まるでマシンガンの如き勢いで吹き付けた弾丸の嵐は、アームズ・ドーパントの身体を数メートル後方へとふっ飛ばすが、それでもイクサは容赦をしない。
 瞬時にガンモードへと変型させたイクサカリバーからも怒涛の勢いで弾丸を斉射。二丁の銃口から放たれた圧倒的なまでの一斉射撃は、さしものアームズ・ドーパントと言えども完全に防ぐ事は出来ない。
 苦悶の声を漏らしながら、その巨体は受け身すら取る事無く、と言うよりも、反射的に身を守る為前方で構えた両の手の所為で受け身など取れる訳も無く、無様にアスファルトを転がった。
 が、それでもイクサが銃撃の手を休める事はない。ガドルがこの程度でどうこう出来る相手だなどとは、啓介自身も思ってはいないからだ。
 射撃を続けながらもアームズ・ドーパントへ向かって駆け出せば、相手もこのままでは拙いと判断したのだろう、銃撃の嵐に見舞われながらも、シールドソードを構え直し、ガードの姿勢を固めた。
 イクサの銃弾は確かにそれで防がれるが、しかし。

「やああああああああああああっ!!」

 その場の全員の耳朶を叩いたのは、未だ幼さの残る絶叫だった。
 イクサとは全く別のルートから回り込んだダークカブトが、クナイガンを振り上げアームズ・ドーパントへと肉薄する。
 咄嗟に左腕を剣へと変型させたアームズ・ドーパントは、イクサの銃弾を防ぎながらも、振り下ろされたクナイガンに見事に対処をして見せる。
 だけども、右のシールドソードでイクサの銃撃の嵐を防ぎながらでは、如何に強者と言えども、完璧な対応など出来る訳もない。
 ダークカブトが次の一撃に移るよりも早く、イクサもまた、防戦一方となったアームズ・ドーパントへと肉薄し、カリバーモードへと変型させたイクサカリバーを振り上げ、

「総司君、今だ!」

 声高らかに叫んだ。啓介の考えを理解したのであろう、ダークカブトも小さく頷き、イクサと息を合わせてクナイガンを振り抜いた。
 二人の攻撃がなぞった軌道は、確実に敵の武器の隙を縫い、その体表を抉る……筈だった。

「……所詮、その程度か」

 ぽつりと呟いたアームズ・ドーパントの声に、二人が反応する事はない。そんな余裕は存在しない。
 先程のイクサの合図が仇となったのだろう。タイミングの分かり切った一撃に対処する事など、武人のガドルにとっては造作もない事だった。
 ダークカブトのクナイガンを右腕の剣で、イクサのカリバーを左腕のシールドソードで受け止め、同時に二つの剣を弾き返す。
 溜まらず一歩身を退き、二人は無防備を晒すが、アームズ・ドーパントが狙いを定めたのはイクサではなく、ダークカブトの方だった。

「なっ……うわぁっ!?」

 カリバーを弾き返したシールドソードは、そのまま大きく弧を描いて、ダークカブトの胴部へと叩きつけられる。
 遠心力を味方につけたアームズ・ドーパントの一撃の威力は強烈だ。胸部装甲の真下、装甲の薄いライダースーツに剣に強烈な一撃を受けたダークカブトの身体は、まるでくの字にへし折られた棒きれのように宙を舞った。当然イクサの助けなど得られよう筈も無く、ダークカブトは無様にもんどりうって倒れ込む。
 イクサもまたアームズ・ドーパントに反撃を加えようと突貫するが、振り下ろしたカリバーによる一撃はシールドソードによって阻まれ、

「同じ手は二度も食わん」
「……ぐっ!」

 ならばとばかりに脇腹で構えたイクサライザーも、その引き金を引くよりも先にアームズ・ドーパントの右腕の機銃によって弾き飛ばされた。
 そもそもイクサライザーの弾丸ごときでは、この敵には大したダメージは与えられてはいなかったのだろう。
 油断をした訳ではなかった筈だが、それでもこの力の差には心中で悪態を吐かずには居られない程だった。
 だけども、アームズ・ドーパントはイクサへの追撃はしなかった。

「仮面ライダーの皮を被った愚か者か……まずは貴様から葬ってやる」
「総司くんっ!」

 アームズ・ドーパントがシールドソードを向けた相手は、腹部を押さえながら立ち上がったダークカブトだった。
 いけない、と、すぐにイクサは取り落としたイクサライザーを拾い上げ、もう一度アームズ・ドーパントへ挑もうと躍り掛かるが、再びアームズ・ドーパントの右腕の機銃による斉射を受け、たまらず仰け反る。
 剥き出しになったライジングイクサの胸部装甲から派手に火花を舞い散らせながら、思わず片膝を着いたイクサを後目に、アームズ・ドーパントはシールドソードを振り上げ、ダークカブトへと歩み寄ってゆく。

「ひっ……」
「また逃げる気か?」
「ぼ、僕はっ……」

 圧倒的な威圧感を放ちながら歩を進めるアームズ・ドーパントは、誰が見たって恐ろしい。
 無意識のうちにだろう、一歩身を引いたダークカブトへと、アームズ・ドーパントは厳しい一言を投げる。
 そんな挑発に乗る必要はない。逃げてもいいのだ。総司が今逃げ出したとしても、啓介に彼を責める気など毛頭無い。
 いや、寧ろ、師匠である自分は、彼が逃げるだけの時間を稼いでやらねばならない。それは強い戦士である自分の役目ではないか。
 カリバーの切先をアスファルトに突き立て、それを杖代わりに立ち上がり駆け出したイクサは、アームズ・ドーパントの背に組み付いた。

「総司くん、逃げなさい! 今の君に、これ以上戦うのは無理だ!」
「そんなっ……だって、名護さんはまだ戦ってるのに!」
「俺は戦士だ、例え君が居なくても、一人でも戦える!」

 そこまで告げた所で、アームズ・ドーパントの腕は、イクサの身体を振り払った。
 振り返り様にシールドソードによる一撃を叩き付けられるが、イクサは上段で構えたカリバーでその一撃を何とか凌いだ。
 少しでも力を緩めれば、そのまま押し切られる。ライジングですらこれだけ不利な状況に追い込まれるとは、些か予想外であった。
 イクサの仮面の下、啓介が苦悶に表情を歪めたその時、アームズ・ドーパントの怪力が突然に弱まった。
 見上げれば、今イクサがそうしたように、ダークカブトがアームズ・ドーパントの背に組み付いていた。

「一人で戦えるなんて、そんなの嘘だ! 名護さんが、海堂みたいに殺されるなんて、僕は嫌だよ!」
「総司くん……っ!」

 危なくなったら逃げろと、あれだけ何度も言ったのに。
 総司は馬鹿だ、出来の悪い弟子だ。だけれども、嫌な気はしない。
 こんな弟子ではあるが、それでも自分は素晴らしい弟子に恵まれたものだと思う。
 なれば、弟子がこうまでして時間を稼いでくれたのに、その想いに応えない師匠などがあって良い訳がない。
 総司への説教は後回しにして、イクサは、身動きが取れなくなったアームズ・ドーパントが体勢を立て直すよりも先に、その体表に思いきりカリバーを叩き付けた。
 アームズ・ドーパントの胸部装甲を赤く煌めく刃が乱暴に斬り付けて、派手な火花と白い煙がイクサの視界を彩った。
 イクサは二度三度と言わず、何度も何度も、乱暴にその刃を叩き付けて、

「総司くん、離れなさい!」
「うん!」

 最後にアームズ・ドーパントに組み付いたダークカブトを離脱させ、通常のイクサの三倍以上の威力を誇るキックで以て、赤の巨体を蹴り飛ばした。
 アームズ・ドーパントに対処の術などはなく、イクサの蹴りの直撃を受けたその身体は、数歩よろめきはするものの、それでも倒れる事無く地を踏み締め仁王立ちする。
 数時間前に戦った時よりも、敵の動きにキレがない。先程の攻撃でも感じたが、どうやらガドルは幾度にも及ぶ戦闘のダメージを、未だ回復し切れていない様子だった。
 だとするなら、チャンスは今しかない。倒すなら、何としてでも此処で、確実に、だ。
 そして、師匠として、総司に「正義」を伝えるのも、今を置いて他にはない。

「総司くん。俺は師匠として、君にこれだけは伝えておかなければならない」
「えっ……」
「正義は絶対に勝つという事を」

 絶対に、という言葉を強調してそう言い切ったイクサは、イクサライザーとイクサカリバーをぐっと握り締め、アームズ・ドーパントを見据える。

「そこで見ていなさい。きみの師匠が、悪を討ち倒すその瞬間を――!」

 名護啓介は、例え相手がどんなに強敵であっても、一度決めた正義は真っ直ぐに貫く誇り高き戦士。
 総司には、そんな名護啓介の弟子であるという事に誇りを抱き、胸を張って生きていて欲しい。
 だからこそ、ここで無様を晒す訳にはいかない。弟子の為、全ての参加者の未来の為、名護啓介は、ここで悪を討ち取らねばならないのだ。
 カリバーをガンモードへと変形させ、ライザーと共に、二丁拳銃として構え――そして、怒涛の勢いで銀の弾丸を一斉に発射する。
 凄まじいまでの弾丸の嵐を、アームズ・ドーパントはシールドソードで何とか防ぐが、やはり全てを防ぎ切れる訳はない。
 防御し切れなかった無数の弾丸がアームズ・ドーパントを襲い、クリアーのフェイスカバーに亀裂が生じる。
 アームズ・ドーパントがたまらず一歩後じさったその瞬間には、既にイクサは敵の懐へと飛び込んで居た。

「ガドル、覚悟ッ!!」

 咄嗟に右腕を剣に変形させ、それを突き出すアームズ・ドーパントだが、その一撃はイクサの剣によって弾き上げられた。
 矢継ぎ早にシールドソードを振り上げるが、それもまた、イクサカリバーが確実に叩き落す。
 がら空きになった敵の胴部を、イクサの怒涛のラッシュが襲う。我武者羅な剣戟であるが、それは確かに敵の体力を奪っていた。
 しかし、敵もさるもの。剣戟も全く同じ調子で幾度か続けば、その軌道は読まれて当然だ。
 振り下ろしたイクサカリバーを右の剣で受け止め、横薙ぎに振り抜かれた巨大なシールドソードが、イクサの胸部装甲を捉えた。

「――ッ!!」

 それは確かに、たった一度の反撃かもしれない。
 されど、元々尋常ならざる怪力を秘め、メモリ自体とも異常なレベルで適合したガドルの一撃は、やはり強烈だ。
 たったの一撃でダークカブトに大ダメージを与えたその攻撃を、胸部に直接受けたのだ。そのダメージは半端ではない。
 全身に伝播する痛みと衝撃が、啓介の意思に反して、足元からガクガクとこの身を震わす。
 今にも崩れ落ちそうなその身体で、それでもイクサは、イクサライザーを構えた。
 同時にアームズ・ドーパントもまた、右腕の機銃を、ほぼ零距離でイクサへと構える。

 ――二人の斉射は同時だった。

 ドドドドドドッ! と派手な銃撃音を掻き立てて、二人の身体が派手に爆ぜる。
 イクサの剥き出しの胸部装甲を何発もの弾丸が穴を穿ち、アームズ・ドーパントの傷だらけの胸部を無数の弾丸が抉る。
 見る者全てが息を飲む。強烈な威力を持った弾丸の応酬が、ほぼ零距離でお互いの身を削り合っているのだ。
 数秒に及ぶ斉射が終わった後で、お互いはほぼ同じ動作でお互いの剣を振り上げ、それらを激突させる。
 最早防御行動を取る事すらも出来ず、イクサの装甲はアームズ・ドーパントの剣戟によって派手に損傷させられるが、イクサも黙ってやられはしない。
 防御を捨てた分、この身で攻撃を受けながらも、敵の身体目掛けてカリバーを叩き付ける。何度も何度も、力の限りに剣を叩き付ける。この攻撃は、確実に敵の体力をも削っている筈だ。
 やがて、振り上げた二人の獲物が激突した。その衝撃はイクサの腕を伝って、最早満身創痍と言っても過言ではない啓介の身体全体に、骨の髄から震え上がる程の振動が伝播するが、

 ――イ・ク・サ・カ・リ・バー・ラ・イ・ズ・アッ・プ――

 それでも体力を残していたのは、戦術をより多く温存していたのは、イクサの方だった。
 痛む身体を動かし、左腕でカリバーフエッスルをベルトへと装填したイクサは、そのまま左腕でエネルギーを充填。
 シールドソードと激突したままのイクサカリバーの刀身が、チャージアップされたエネルギーによって光り輝いた。

「その命――!」

 輝くイクサカリバーの一撃が、シールドソードとの押し合いを征し、一気に下方まで降り抜かれる。
 粉々に砕かれたシールドソードは、最早原形すらも留めず銀の欠片となってアスファルトへ落ちた。
 勢いそのままに、イクサカリバーを振り上げたイクサは、残つ力を振り絞って、遥か上方へと跳び上がり。

「神に返しなさいッ!!!」

 それはまるで、闇夜を照らす灼熱の太陽の輝きを背に受けたかのように。
 太陽の光と灼熱を受け光り輝くイクサの刃が、亀裂の入ったフェイスカバーを叩き割って、そのままアームズ・ドーパントの股下まで一気に刃を振り抜いた。
 完全なる直撃だ。よもや防いだなどとは言わせまい。勝った、正義が悪を倒したのだと確信し、イクサはアームズ・ドーパントに背を向け、歩き始める。
 一拍の間を置いてから、イクサの後方で、アームズ・ドーパントの身体が爆ぜたのであろう、大爆発の音が聞こえた。
 背に吹き付ける爆発の颶風に煽られながらも、勝利を果たしたイクサは、後方で待つ二人の仲間の元へと凱旋する。
 強化形態であるイクサの変身が通常よりも早く解除される頃には、啓介の背を焦がす熱も颶風も収まっていた。




 どさりと崩れ落ちた巨体から排出された黒金塗りの小さな箱は、ぱきんと音を立てて砕け散った。
 それがアームズメモリの最期だった。兵器の記憶を宿したガイアメモリは、もう二度と使いものにはならないのだろう。
 いくら連戦による疲労を抱えていたとはいえ、アームズのメモリとガドルの適合率はかなりのもの。これを使い三人の仮面ライダーを圧倒したガドル自身も、よもや真っ向からのぶつかり合いで敗北を喫するなどとは思ってはいなかった。
 奴は、名護啓介と名乗った男が変身した仮面ライダーイクサは、成程ガドルも認めざるを得ない真の強者なのであろう。
 ガドルは海堂直也との戦いで学んだ。仮面ライダーとは、正義の心さえあれば、能力の限界すらも越えて何処までも強くなる存在なのだと。
 今し方戦った男は、ガドルの思惑通りより強い仮面ライダーとなり、見事この破壊のカリスマが変じたアームズ・ドーパントを打ち倒して見せたのだ。

「あの時手も足も出なかったリントが、随分と強くなったものだな……」

 そして、ガドルはそれを嬉しく思う。
 ようやくこのゴ・ガドル・バが戦うに足りる敵が現れたのだ。あのクウガさえも成し得なかった破壊のカリスマの打倒を、今ここで成し遂げんとする者がようやく現れたのだ。
 なれば武人として、破壊のカリスマとして、ガドルは全力全霊を持ってその敵を、仮面ライダーを打ち倒さねばならない。それが戦士が戦士に払える、最大限の礼儀ではないか。
 ディケイドとブレイドによって与えられた大傷と、今し方ライジングイクサによって斬り付けられた身体は重たく、今もガドルの身を苛むが、最早そんな事は関係ない。
 戦いは常に生きるか死ぬかだ。この命を討ちとらんとする強者が現れた以上、それに背を向けて逃げ出すゴ・ガドル・バではない。
 痛む身体に鞭打って、ガドルは再び立ち上がり、アスファルトを踏み締めた。

「リントの戦士、仮面ライダーよ……決着はまだ着いてはいないぞ」
「あいつっ……メモリブレイクされたってのに、まだ戦えるってのかよ!?」

 驚愕の声を上げたのは、先程の戦いで見ているだけしか出来なかった帽子の男だった。
 既に変身を解除した名護啓介は、イクサへの変身が不可能となった今でも、決して臆する事なくガドルから視線を外しはしなかった。それでこそこのゴ・ガドル・バが認めた仮面ライダーであると言えよう。
 その一方で、三人目の黒い仮面ライダー……否、仮面ライダーの皮を被った愚か者、ダークカブトは、名護とガドルの間で所在なさげに佇んでいた。
 真の戦士との決戦を望むガドルにとって、仮面ライダーにすらなり切れない紛い物にさしたる興味はない。とは言うものの、それでも元の世界でガドルがゲゲルの標的としていた男性警察官よりはよっぽど強いのだろうという事も分かりはするが、海堂直也や名護啓介、門矢士や葦原涼と言った、このガドルの身体に幾つもの傷を負わせた真の戦士達と比べれば随分と見劣りするものだ。
 此処は神聖なる戦士の決闘場。戦士ですらない紛い物がいつまでも此処に居るのは、ハッキリ言って場違いというものではないか。僅かな苛立ちと共にそう考えたガドルは、まずはダークカブトから片付けてやろうと、その身を漆黒の強化外骨格で覆い隠し、悠然と歩き出した。
 ガドルが変じたこの姿は、奇しくも目の前の黒いカブトと同じ、黒いカブトムシに似た姿だった。これこそが、最強集団ゴの、最強の戦士の真の姿。
 この姿になったガドルがまともに戦って負けた経験は、未だかつてゼロだ。如何に此方が手負いとて、例えアームズ・ドーパントの姿で撃破されたとて、真の力を解放したガドルを打ち倒すのはそう簡単ではない。
 胸元の装飾品を毟り取り、それを一振りの巨大な大剣へと変化させる。ダークカブト程度の敵ならば、大剣による一撃で十分撃破可能だろうし、もしもこの力に恐れをなして逃げるのであれば、目の前の獲物を捨て置いてまでわざわざ追い掛けてやる気も起きない。
 戦うも逃げるも、好きにすればいい。そういった判断に従い歩を進めるが、しかしダークカブトは、その場から逃げ出しはしなかった。

「貴様、俺と戦う気か」
「名護さんだって、戦ったんだっ……僕だって……!」

 自分を奮起させるようにそう呟いたダークカブトは、銅色の短剣を引き抜き、ガドルへ向かって駆け出した。
 猪突猛進。軌道の見え透いた、まるで子供の喧嘩のような攻撃だった。攻撃は単調だし、獲物のリーチでも此方が勝る。負ける訳がないと分かっていながらも、ガドルは大剣を振るった。
 大剣の一撃は、咄嗟に突き出された短剣によって何とか直撃だけは防がれるが、単純な力押しで圧勝した大剣は、ダークカブトの短剣を弾き飛ばした。
 宙を舞うクナイガンに一瞬気を取られたダークカブトの胴を、横薙ぎに振るった大剣が思い切り殴りつけた。

「ぐぁっ……!?」
「おい、総司っ!!」

 細身のダークカブトの身体は、容易に大剣に薙ぎ払われる。
 ごろごろとアスファルトを転がったダークカブトは、起き上がり様に先程取り落とした短剣を拾い上げ、すぐに再びガドルへ向かって駆け出して来た。
 強い意思を持つ訳でも無いダークカブトは、今の一撃で戦闘不能にまで追いやれると踏んでいたのだが、どうやら思っていたよりもタフらしい。
 二度目の突貫は、一度目よりも賢かった。ダークカブトの接近に対し、ガドルは勿論大剣で対応しようとそれを振るうが、ダークカブトは大振りなガドルの横一閃を、上体を前のめりに屈める事で回避した。
 そうなれば、ガドルとダークカブトが肉薄するまでに掛かる時間はほんの一瞬だ。
 クロスレンジまで飛び込んだダークカブトは、ガドルの首を掻き斬らんと、我武者羅にクナイガンを振り抜く。
 だが、まだ対処し切れぬ速度では無い。掲げていた大剣の角度をほんの少しずらし、クナイガンによる刃の一撃をその刀身で見事に防ぎ切った。
 互いの獲物から火花が舞い、反動でダークカブトの身体が僅かに後方へ下がった。すかさず大剣を振り上げ構え直し、ダークカブトへ向けて振り下ろすが、

 ――PUT ON――

 ガドルの一撃がダークカブトを襲うよりも先に、ダークカブトは銀色の鎧を身に纏った。
 上半身の全体を覆い尽くした鎧は見るからに重厚そうで、事実としてガドルの大剣は、ダークカブトが突き出した左腕の装甲によって阻まれていた。
 とは言うものの、完全に防ぎ切ったという訳でもない。クウガの鎧すらも容易に破壊するガドルの怪力を前にして、如何に重厚な装甲と言えども“安全”などは有り得ないのだ。
 そのままガドルが剣を押し込むと同時、ダークカブトの左腕に装着された銀の装甲は耐久度の限界を越えて砕け散るが、最早そんなダメージすらもお構いなしだった。
 ダークカブトは、砕け散った左腕の装甲など意にも介さず、いつの間にか右腕で握り締めていた短斧を力一杯振り被って、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおあっ!!」

 それをガドルの脇腹へと力の限りに叩き付けるが……悲しいかな、剛力体のガドルに傷を付けるには、まだまだ力不足だった。
 捨て身の覚悟で飛び込み、渾身の一撃のつもりで振るった攻撃でこの程度なら、やはりこいつは大した敵ではあるまい。
 これはお返しだと言わんばかりに、大剣をダークカブトへ向けて振り下ろした。
 一瞬ののち、それはダークカブトの肩を守る銀の装甲へ食い込み、装甲全体に亀裂を生じさせた。
 ここまでの戦いで既にその身体はボロボロだったのだろう。ダークカブトは、ガドルの大剣に押し切られるようにガクンとバランスを崩し、その片膝をアスファルトへと打ち付けた。

「うぐっ……!」
「紛い物の仮面ライダー風情が、何故そこまでする」

 声を掛けるが、ダークカブトは、何も答えようとはしなかった。
 先程までよりは些か戦士らしい奮闘を見せたが、それでもこのガドルには遠く及ばない。
 これで終わらせてやろう。装甲に食い込んだ刃を引き抜き、今度はその仮面を叩き割り頭蓋を砕き割ってやろう。
 そう思い、剣に力を込めようとした、その時だった。

「だって……、僕の後ろには……名護さんや、翔太郎が居るから……っ」
「何――? ……ッ!!」

 ほんの一瞬注意を逸らした、その刹那。
 ダークカブトの銀の装甲全体に稲妻が走り、それがダークカブトの身体から浮かび上がり始めた。
 今まで幾度か見て来た光景だったが故に、それが何を意味するのかはもう知っている。
 危険を察知したガドルは、取り急ぎ銀の装甲に食い込んだ剣を引き抜こうとするが、

 ――CAST OFF――

 それよりも先に鳴り響いた電子音。
 同時に、目の前の装甲が弾け飛んだ。胸部、仮面、右腕、あらゆる箇所の装甲が、弾丸の如き速度でガドルへと殺到する。
 リントの警察官が用いる銃弾などよりもよっぽど威力の高い殺傷兵器と化した仮面ライダーの装甲は、ガドルの身体を強かに打ち付け、ガドルもこれにはたまらず両腕でガードの体勢を取った。
 腕の甲に激突し、何処かへと弾け飛んでいく装甲をやり過ごすまでに掛かった時間は、秒数にすれば二、三秒程度の事だっただろう。
 だけれども、極限の戦いにおけるその数秒は、大きい。この僅かな間に、ダークカブトのベルトが三連続の電子音声を鳴らしていた事に気付けぬガドルではない。
 しかし、だからと言って小細工などはしない。両腕の守りを解き、今すぐにでも剣を構え直し反撃ようとしたガドルの視界に飛び込んで来たのは――その場で左脚を軸に一回転して勢いを付け、右脚を振り上げるダークカブトの姿だった。

「ハアアアアアアアアアアアッ!!!」

 まるで体中の力を振り絞るかのように、ダークカブトが腹の底から裂帛の絶叫を響かせる。
 咄嗟に大剣を振り上げようとするが、ガドルが重たい剣を振り上げるよりも、ダークカブトが既に振り上げた脚を振り下ろす方が速いのは明白だった。
 一瞬ののち、ガドルの肩に踵落としの要領で叩き落されたその一撃の威力は、微々たるものだった。所詮紛い物の仮面ライダーではこんなものかと落胆するが、すぐにガドルはそれを否定する。歴戦の戦士だからこそ分かる。今の一撃に込められた感情は、そんなちっぽけなものではない。まだ何かがある筈だ。
 そして、気付く。踵落としを直撃させたその直後に、ダークカブトがベルトの角を倒したのだ。

 ――RIDER KICK――

 刹那、ベルトから駆け巡った稲妻が、ガドルの視界を眩く照らす。
 タキオン粒子と呼ばれるそれは一度ダークカブトの仮面まで昇り、そのままガドルと密着した右脚へと充填される。

「ライダーキック……ッ!!!」

 仮面ライダーのみに許された必殺の一撃の名を高らかに叫び、ダークカブトは右脚に一気に全体重を乗せた。
 そして、奇しくもそこは、先の戦いでディケイドエッジによって斬り裂かれ、未だ回復の追い付かぬ左上半身。それに気付いた時には、ダークカブトの振り下ろした右脚によって、ガドルの身体は地に叩き落されていた。
 タキオンによる爆発音が、至近距離でガドルの耳朶を叩く。ディケイドエッジによる傷跡を通して、既にボロボロである筈のこの身に稲妻が駆け巡る。思わず両手をアスファルトに着いて、この身を支える。
 どうせ紛い物の仮面ライダーには何も出来まいと、油断し過ぎた。手負いの身体とは言え、剛力態となったこのガドルの身体を地に着けるとは、破壊のカリスマの名が泣くというもの。
 もうこれ以上の油断は出来まい。これから行うのは、先程までの遊びのような生ぬるい戦いなどでは断じて無い。生きるか死ぬか、生死を掛けた本気の死合いだ。
 確実な殺意を胸に、ガドルは再びその剣を握り締め――ダークカブトへの反撃が始まった。


 それから繰り広げられたのは、最早戦闘と呼べるものでは無かった。
 ガドルが一歩全身すると同時に、剣による一撃がダークカブトを襲う。ダークカブトには反撃の余地すらも与えられず、ただ後退する事くらいしか出来なかった。
 剣による攻撃を防ごうとクナイガンを振り上げれば、それを弾き上げられ、次の瞬間にはヒヒイロノカネで出来た胸部装甲に強烈な斬撃を叩き込まれ、ダークカブトは更に後退する。
 ダークカブトは、自分自身、もう何度攻撃を受けたかも覚えていなかった。ヒヒイロノカネは最早まともな装甲とは思えぬ程にズタズタに引き裂かれ、身体に蓄積された疲労は、ダークカブトの意識を朦朧とさせる。
 地球上で最も硬いとされる鉱物を用いた装甲のお陰で、今すぐに命に危険が及ぶ事こそ無いが、それでもいつまでこの身体が持つか。あとは殺されるのを待つだけ、なのだろうか。

(ほら見ろ……やっぱり、無理なんじゃないか)

 内心で、そう自嘲する。
 どんなに必死になって挑んだって、自分よりも強い者に真っ向からぶつかり合って勝てる訳がないのだ。
 海堂直也だって、自分の分を弁えず、或いは自分の死を悟った上で挑んで、そして結果は当初の想像通りだった。
 名護さんが勝利出来たのだって、それは名護さんが強いから勝てたというだけだ。心も体も弱っちい自分に、そんな事は最初から無理だったのだ。少しでも希望を持って挑んだ自分の愚かしさを呪わずには居られない。
 最早反撃する気力さえも消え失せたダークカブトの装甲を、横薙ぎに振るわれたガドルの剣が叩き付ける。強烈な衝撃は胴から全身へと伝播し、内臓でもやられたのか、口元から溢れ出した血液がダークカブトの仮面から漏れ出した。
 まさに立って居られるだけでも奇跡、というくらいに絶望的な状況であった。
 それでも、ふらふらになりながらも立ち上がったダークカブトは、目前に迫るガドルにか細い声で言った。

「もういいだろ……早く、殺せよ」
「何?」
「とっとと、一思いに殺せって、言ってるんだよ」

 ダークカブトの言葉を理解したのであろうガドルが、ゆっくりと息を吐いた。
 それは単なる呆れによる嘆息か、それとも別の何かであるのか、ダークカブトには見当もつかないが、今となってはそんな事もどうだっていい。

「いいだろう」

 そう一言告げたガドルが、ゆらりと大剣を振りかぶった。

「おい、やめろ! 総司っ!!」

 翔太郎が叫ぶが、それでやめてくれる相手ではないのだろうという事は容易に想像がつく。
 あれだけ仲間がどうと言っておきながら、結局この土壇場では翔太郎も名護さんも何もしてくれなかった、仲間なんてそんなものかと、薄れ行く意識の中で毒吐く。
 ……いや、違うか。ダークカブトは知っている。彼らには今、他に変身する為の手段など残されては居ないのだ。助けようにも、助けに来れる訳がないのだ。
 それならば仕方があるまい。確実に殺されると分かっていて生身で飛び込むような馬鹿はいまい。あの海堂だって、変身能力を一つ残していたからこそ、ああして飛び出していけたのだ。
 他人の為に、確実に死ぬと分かっている戦場へ、命を投げ出してまで飛び出して行く事など出来ないのは当然の事。所詮、それが人間というものだ。期待するだけ馬鹿馬鹿しい。
 そうして死を覚悟したダークカブトには、最早ガドルの攻撃を避けるつもりさえなかった。
 奴はきっと、今振りかぶった大剣でダークカブトの仮面を叩き割り、この装甲ごと身体を真っ二つに引き裂くつもりなのだろう。
 さぞ醜い死に様を晒す事だろう。だけどもそれは、醜い人生を送って来た自分には調度いい、当然の死に方であるかのようにも思えた。

「……フンッ!」

 いよいよガドルが大剣を振り下ろす時が来た。
 月の光に照らされた大剣がダークカブトへと急迫し――刹那、感じたのは、腹部への衝撃だった。

「えっ――」

 何が起こったのか、今の彼には理解し得ぬ光景だった。
 何かに押されたように、この身体が後方へと突き飛ばされ。宙を舞う彼の視界の先で、つい先刻まで自分が装着していた筈のダークカブトゼクターが、大剣に特攻を仕掛けていた。
 そして、気付く。この身体には、もうヒヒイロノカネは装着されていない事に。眼前に拡がる世界は、ダークカブトの仮面を通してではなく、自分の肉眼で見る世界だという事に。

「―――――――!!!」

 吐き出したのは、何の意味も持たない、声にもならない声だった。
 飛んでゆくダークカブトゼクターへと手を伸ばすが、後方へと飛ばされながらでは、届く筈も無い。
 まるでスローモーションの映画でも見ているかのように。目の前で、ダークカブトゼクターは爆発した。
 小さな身体から溢れ出した多量のタキオン粒子が虹色の輝きを撒き散らし、爆発を誘発する。爆煙とタキオンの輝きがガドルを飲み込むが、そんな事でダメージを与えられる訳もない。
 すぐに晴れた視界に移ったのは、大剣を構え全身を続けるゴ・ガドル・バの姿だった。
 目の前で起こった事実を漸く理解出来た彼は――

「あっ……あ、う、うわぁあああぁぁぁああああぁあぁぁああぁぁああああぁッ!!?」

 まるで泣きじゃくる子供のように、腹の底から絶叫した。
 ダークカブトゼクターだけは、どんな時でも自分と一緒に居てくれた。
 この身体が化け物に変えられたその時から、このゼクターだけは、ずっとそばに居てくれた。

 それが、そんな小さな相棒が、目の前で、殺された。
 こんな簡単に、別れの言葉すら交わさせず、ほんの一瞬で殺された。

 ダークカブトゼクターは、もう二度と自分の呼び掛けに応えてくれる事はなくなったのだ。
 どうしてダークカブトゼクターが自分の変身を無理矢理解除し、飛び出して行ったのかなど考える余地すらない。
 ただ怒りとも哀しみともつかない感情がこの胸を埋め尽くして、とっくに枯れ果てたと思っていた筈の涙を滂沱と流させる。
 もう自分には何もない。誰も一緒に戦ってはくれない。唯一無二の身内が居ないこんな世界に、もう意味などはない。
 終わらせてやる。これで全部、何もかも終わらせてやる――!

「――ああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 絶叫と共に、この身を緑の異形へと変質させてゆく。
 一体何故どうして自分がこんな行動を取っているのかなんて、自分自身にも解らない。
 ただ沸き起こる激情に任せて、ネイティブワームとしての姿を晒した彼は、ガドルへと飛び出して行った。
 腕から生えた鍵爪を振りかぶりガドルの懐へと飛び込むが、最早我武者羅飛び込んだサナギワームの一撃など、ガドルに届く訳がない。ワームの一撃は掠りもせずに、振り下ろされた剣がこの身を引き裂いた。
 硬質な外骨格に覆われているとは言え、ヒヒイロノカネよりは脆い装甲は容易く引き裂かれ、人間のものとは思えない鮮血が飛び散った。

「うぐっ……」

 無様な声を漏らしながら、遥か後方へと吹っ飛ばされたワームが、地面をのたうつ。
 ガドルはその場から一歩も動かず、ただ悠然とした動きで剣を突き出し、それをボウガンへと変えた。
 必殺の威力を秘めた空気弾が、ガドルのボウガンから射出されるが、そんな事を分析出来る程彼の心中は穏やかではない。
 自分に死が急迫する事など理解も出来ず、ただ我武者羅に立ち上がって、突貫しようとした、その時だった。
 眼前に、白の装甲を身に纏った戦士が立ち塞がり――その身で以て、空気弾の一撃を受け止めたのだ。
 装甲の表面で炸裂した空気弾は、太陽の紋章が描かれた装甲を粉々に砕き、その身体を後方へと吹っ飛ばす。
 白い装甲と緑の異形が激突して、二人の身体は揃ってアスファルトを転がった。



101:Oの始まり/嗤う運命(後篇) 投下順 G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト
101:Oの始まり/嗤う運命(後篇) 時系列順
096:Tを継いで♭再戦(前篇)] ゴ・ガドル・バ
096:Tを継いで♭再戦(前篇) 擬態天道
096:Tを継いで♭再戦(前篇) 名護啓介
096:Tを継いで♭再戦(前篇) 左翔太郎
091:献上 ン・ダグバ・ゼバ