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G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI




 レイと共に走りながら、翔太郎は半分割れたイクサの仮面の下で笑った。
 こうして志を共にする仮面ライダーと共に同じ方向へ走ってゆくのが、今では随分と懐かしい事のように感じられる。実際には此処に連れて来られてからまだ一日と経過していないというのに。
 今も何処かで戦っているのであろうフィリップの為、絶対に俺達の力で勝利すると約束した名護の為、そして何より、仮面ライダーの意地にかけて、翔太郎が負ける事は許されない。
 例えどんなにボロボロにやられて身体一つになったとしても、食らいついてでも敵を倒す。その心そのものが仮面ライダーだと信じる翔太郎の心は、ボロボロにされればされる程に熱く燃え上がるのだ。
 だけれども、自分の体力が底をつきかけているというのもまた事実。それが分かっているからこそ、此処から持久戦に持ちこむつもりは無かった。
 となれば、今の翔太郎に取れる戦法は一つ。

「総司、アイツだってもう相当グロッキーな筈だ、デカいのぶつけて一発で決めるぜ!」
「分かった……!」

 そう叫び、左腕で腰に装着されたフエッスロットから一本のフエッスルを取り出した。
 イクサの戦い方は、名護の戦いを見ていたから分かる。ナックルの形をしたフエッスルが、恐らくこの武装のマキシマムドライブを起動させる為のキーだ。
 名護は当初勝てないと思われたアームズ・ドーパントを撃破し、男を見せた。総司はずっと閉ざしていた心を、少しずつだろうが、ようやく開いてくれた。この戦いでまだ何も成し遂げていないのは、翔太郎だけだ。少しずつでも前へ向かって歩き始めた総司の為、ここで正義の仮面ライダーの魂を示そう。
 そう決意するイクサとガドルの距離は、思考する一瞬のうちに無くなった。どうやらガドルが真っ先に潰そうと狙いを付けたのはイクサの方らしい。
 ガドルは割れたイクサの仮面目掛けて思い切り拳を振り抜くが、イクサはその場で前転して回避。ガドルの後ろへと回り込んで距離を取り、ナックルを突き付ける。

「食らいな、マッチョメン!」

 そう叫んで、ナックルの引鉄を引いた。
 同時に、大気を圧縮したエネルギー弾がナックルから発射され、ガドルの背で爆ぜる。
 僅かにガドルの身体が揺れ、イクサへと振り返ろうとするが、そうはさせまいと正面からレイが殴り掛かった。
 レイの拳は容易くガドルの掌によって受け止められ、反撃とばかりに強烈なボディブローがレイの腹を抉った。
 ぐう、と嗚咽を漏らすレイ。イクサの仮面の下で舌打ちをする翔太郎。必殺技を叩き込むだけの隙を作るだけが、こんなにも難しいとは思わなかった。
 もう迷っては居られないと、イクサナックルをベルトに戻した翔太郎は、そのまま先程取り出したフエッスルを装填した。

 ――イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ――

 片言の電子音が響くと同時、ガドルが此方に気付いたのか、レイの身体を投げ飛ばして振り返った。
 勝負は一瞬だ。連戦で傷付いているのであろう今のガドルであれば、翔太郎のイクサでも十分倒し得る筈だ。
 エネルギーが充填されたナックルをベルトから引き抜いたイクサは、強くアスファルトを蹴った。

「最早闘いを長引かせる余裕もないか。いいだろう――!」

 元より二人の距離は大して離れては居ない。一秒と掛からず、二人はお互いの懐へと踏み込んだ。
 この一撃を叩き込む為には、ガドルの隙を突かなければならない。だが、見る限りガドルに隙らしい隙などはない。
 ならばもう、下手な小細工は無しだ。いつだってそうしてきたように、真正面から踏み込んで、真っ向からブッ叩く!
 思い切り拳を振りかぶり、ガドルを目前にして跳び上がったイクサは――

「――オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 重力をも味方に付けて、光輝く拳の一撃をガドルの頬に叩き付けた。

「……っ!!」

 一瞬、ガドルが息を詰まらせた。強烈なまでの手応えだった。
 されど、それでもガドルは倒れない。イクサの全力の拳を受けて、それでもガドルは右腕を振りかぶっていた。
 次に予想されるのはガドルの反撃だ。反射的にマズイ、と思うが、全神経を叩き込んだ一撃をかました瞬間など、無防備に決まっている。
 イクサの両足が地面に着くよりも先に、ガドルのアッパーがイクサの腹を掬い上げた。どすん! と嫌な音が響いて、露出した翔太郎の口元から鮮血が飛び出した。
 だが、それでも翔太郎は意識を手放しはしない。まだだ、まだ終わっていないのだ。こんな所で負けてはいられない。仮面ライダーは、まだ戦える――!

「ウェイクアップッ!!」
「――ム!」

 ガドルの背後から、笛の音色にも似たメロディが響き渡った。
 レイの両腕に装着された鎖が解き放たれて、三つの魔皇石が埋め込まれた巨大な鍵爪が両腕に装着される。
 魔皇石とは即ち、莫大な魔皇力を発するパワージェネレーターだ。一人の仮面ライダーが装着するには明らかに強大過ぎる力が、レイの両腕で暴走する。これこそが、レイを常人では扱えぬシステムたらしめる由縁。
 まるで燃え上がる炎のように赤く、激しく輝く魔皇石を内包した鍵爪を振り上げ、レイもまたガドルに肉薄する。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 振り下ろした右腕の爪は、ガドルに命中する前に強靭な左腕によって受け止められるが、その程度でレイの攻撃は止まらない。
 一撃目が防がれたなら、二撃目で勝利への道を切り拓くのみだ。最初からこうなる事を読んでいたかのように、レイは間髪入れず左腕の爪を下方から振り上げた。

「ぬぅ……っ!」

 今度は確かな手応えを感じた。魔皇力漲るギガンティッククローは、ガドルの右腹から左肩に掛けてを深く、鋭く抉ったのだ。
 傷口から膨大な魔皇力のエネルギーが溢れ出し、これには堪らず、右のギガンティッククローを抑えていたガドルの力も弱まった。
 チャンスは今しかない。押し切れば、勝てる――!

「ハアアアアアアアアアアッ!!!」

 怪力に特化したレイの右腕は、弱りかけたガドルの拘束をも振り払って、二撃目としてガドルの身体を裂いた。
 一撃目と殆ど変らぬ箇所をギガンティッククローが抉り、ガドルの身体をよろけさせる。膨大な量の魔皇力と冷気がガドルの身体から溢れ出す。
 だけれども、例えどんな窮地に立たされようと、黙ってやられはしないのがガドルという男だ。

「なっ……」

 二撃目を叩き込んだ瞬間、ガドルの拳は、レイの腹部を鋭く、深く抉っていた。
 ガドルの拳がレイの腹部、ベルトのバックル部に僅かに減り込んだ時点で、レイキバット自身も回避しようとしたのだろうが、身体の殆どが顔面であるレイキバットにとってはそれすらも難しい。結果、押し出されるようにレイから離れたレイキバットは、意識を失って地へと落ちた。
 拳はレイキバットの居なくなったバックルを砕き、その腹部へと突き刺さり……直後、制御機関であるレイキバットを失ったレイの鎧は消失する。
 もしもあと一瞬でもレイの鎧の喪失が早ければ、ガドルの拳は生身の総司の身体を突き破り、この命も既に散っていた事だろう。それを理解しているのであろうガドルは、勝利を確信して言った。

「勝負あったな」
「……ううん、まだだよ!」
「なに?」

 ガドルの拳を、総司は両腕で抑え込んでいた。
 こんなもの、ガドルが少しでも力を加えれば簡単に解ける拘束である事くらい、総司にもわかっている。
 が、総司の狙いは何もガドルを永続的に拘束したいという訳でもない。ほんの一瞬でいい。ほんの一瞬でもガドルに隙を作る事が出来れば、それは必ず勝利へと繋がる。繋いでくれる。
 そう。彼らは決して、一人で戦っているのではない。例え一人で勝てない相手でも、二人揃えば――!

 ――イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ――

 総司の想いに応えんばかりに鳴り響いた、片言の電子音。
 最早立っているだけでも体力を奪われる程に傷付いて居るというのに――それでもイクサは、翔太郎は立ち上がったのだ。

「貴様、まだ立てるのか……!」
「悪ぃな、これが仮面ライダーなんだよ……さあ! お前の罪を、数えろッ!!」

 誰よりも驚愕したのは、ガドルだった。
 装甲は凹み傷付きボロボロで、割れた面からは血反吐すら吐き出すという無様な姿だが、それでも翔太郎の双眸には、決して悪に屈せぬ強い光が宿っていた。
 そう、翔太郎はまだ、勝利を諦めてはいない。何故なら翔太郎は、人々の希望、正義の味方――仮面ライダーだからだ。
 自分が仮面ライダーを名乗る限り、悪に屈せぬ熱いライダー魂をこの胸に宿す限り、翔太郎は何度だって立ち上がる。
 例えどれだけボロボロに傷め付けられようと、悪を倒すまでは、何度でも、何度でもだ――!

「安心しな、これで最後にしてやるよ!」

 割れた仮面の内側でニヤリと笑みを浮かべた翔太郎は、不敵にそう告げる。
 最後、というのは、事実上、これが最後のマキシマムドライブであるという事を翔太郎自身も理解しているからだ。流石に名護のライジングから、間を置かずしての二連続ライズアップにはシステムも堪えたのだろう。オーバーヒート寸前のベルトからは耳障りな警告音が鳴り響き、ベルトのあっちこっちから、ひっきりなしに煙が噴出される。暴走寸前のイクサエンジンは、翔太郎の身体とスーツ全体に強烈な過負荷が掛けるが、それでも翔太郎は挫けない。
 これが本当に最後の一撃だ。この一撃で、ガドルを確実に倒さなければいけない――否、仮面ライダーの全てをぶつけて、この敵をここで、確実に倒す!

(あと一撃だ。あと一撃だけでいい、頼む、耐えてくれ!)

 翔太郎の想いがイクサに届いたのか、暴走寸前のエネルギーはイクサを自壊させる事はなく、残った全エネルギーをナックルに集中させてくれた。あとは、打ち出すのみだ。
 ガドルは邪魔な総司を突き飛ばし、すぐ様イクサに応戦しようとするが――総司を突き飛ばすというその行為自体が、明らかに致命的な隙を作っていた。強き者には強き振る舞いで応じるというその精神が仇となったのだ。が、それを理由に攻撃を止めはしない。どんな高尚な精神を持っていようと、こいつが悪の怪人である事に変わりは無いのだ。だからここで倒す。そしてこいつとの戦いを終わらせる。

「ライダーパンチッ!!」

 ガドルの懐へと潜り込んだイクサは、悪を倒す必殺の技名を叫び、暴走寸前のエネルギーの全てを、ガドルの体表へと叩き込んだ。
 ドンッ! と、一際大きい炸裂音が響く。レイの二段攻撃による傷跡が生々しく残るガドルの胸部で爆ぜた膨大な熱量が、その身体を遥か後方へと吹っ飛ばした。
 重たい筈のガドルの身体が、ここへ来て始めて、人形のように宙を舞い、地へと落ちた。今度ばかりは言い逃れは出来まい、見まごう事無く、直撃だ。
 ようやく翔太郎はこの一撃を、仮面ライダーの想いと力を、破壊のカリスマへと届かせたのだ。

「見たかっ……仮面ライダーは、絶対に負けねえ! 街や人を泣かせる悪が居る限り、絶対にだ!」

 倒れて動かなくなったガドルにイクサナックルを突き付けて、翔太郎が宣言する。
 これが仮面ライダーだ。守りたいものがある限り、何処までだって強くなれる漢の姿だ。
 翔太郎は、総司に名護に、そして敵のガドルにすらも、真の仮面ライダーの在り方を、その魂を見せ付けたのだ




 ガドルが吹っ飛ばされてから既に十秒程の時間が経過したが、ガドルの変身は未だ解除されなかった。
 まさか、まだ生きているのだろうか。イクサの必殺技を受けた直後、レイの二段階の必殺技を受けて、トドメにもう一度イクサの必殺技だ。
 数時間前にガドルの圧倒的な力を見せ付けられた総司でも、流石に勝っただろうと思った。というよりも、思いたかった。
 十秒程度の時間が、酷く長い時間であるかのような錯覚さえする。
 ややあって、不安を抱きながら見詰める総司の眼前で……ガドルは、むくりとその身を起こした。

「なっ……そん、な……っ!?」
「良くここまで戦ったな、仮面ライダーよ。だが、惜しいな……この破壊のカリスマを倒すには、今一歩及ばなかった」

 思わず絶句する総司にそう告げたガドルの身体は、先程の黒の身体ではなく、金色の身体へと変わっていた。
 直感する。これは、今までのガドルとは違う。今までの圧倒的な戦闘力ですら、奴はまだ全力を出してはいなかったのだ。
 では何故このタイミングでその姿を晒したのか。……恐らくは、イクサの最後の一撃を受ける寸前に金の姿へと強化変身し、イクサの攻撃によるダメージを和らげたのだろう。でもなければ、あれだけの連続攻撃を食らって無事である筈がないと、少なくとも総司は思う。
 既に仮面ライダーの力を全て使い果たした自分達に、今のガドルに打ち勝つ術はない。逃げ出す事も出来はしない。それほど気温は低くない筈なのに、背筋がぞっとして、嫌に身体が冷える気がした。
 折角生きる為に戦おうと決めたのに、折角希望を信じたのに、それが全く通用していなかったのだから、これで絶望しない訳がなかった。
 だがしかし、それでも、こんな状況でも絶対に諦めない男達を、総司は知っている。

「しょ、翔太郎……」

 総司に背を向け、ガドルに向き合うのは、翔太郎が変身した仮面ライダー――イクサだった。
 もう何度も限界を越えた筈なのに、戦える訳がないのに、それなのにイクサは、未だ戦意を失ってはいなかったのだ。

「素晴らしい闘志だ、仮面ライダーよ」
「ああ、言ったろ? これが仮面ライダーだって」

 いつも通り軽妙にそう言ってみせるが、それが痩せ我慢である事などは言うに及ばず。
 総司は、またあの時と同じ――剣崎一真や海堂直也が死んだ時と同じ不快感を感じていた。
 こんな状態で戦い続ければ、翔太郎はきっと死んでしまう。名護以上にボロボロのその身体で、これ以上戦える訳がないのに。
 こんな生きる意味もまだ見出せていない自分なんかの為に、立派に生きる意味を持った人間が帰らぬ人になってしまうのは、もううんざりだった。

「もうやめよう翔太郎! こんな事したって殺されるだけだよ!」
「……諦めんな総司。仮面ライダーの心がある限り、俺達は不死身だ」
「不死身って、そんなの……」
「不死身なんだよ。海堂って奴の魂(こころ)が、名護さんとお前に受け継がれて今も生きてるように、木場さんも、紅も、俺の中じゃみんな今でも生き続けてんだ。
 だから仮面ライダーは死なねえ。希望を繋いでくれる奴が居る限り、悪を倒すまで、何度だって蘇る。……そういうモンだろ、名護さん?」

 翔太郎に視線を向けられた名護は、暫し苦しそうに表情を歪めるが、やがてゆっくりと頷く。
 総司は、翔太郎が何を言っているのか、名護が一体何に頷いたのかを、まるで理解出来なかった。
 何を言った所で、死んだら終わりではないか。例え一人が囮になって仲間を救ったとしても、残された方は辛く苦しいだけだ。
 何としてでも引き留めようと総司はイクサに縋り付くが、イクサはまるで意に介さず、総司を指差して言った。

「なあ破壊のカリスマさんよ、見たか、コイツを」
「ム……?」
「総司だよ。コイツは紛い物でもモドキでもねえ。今はまだ未熟だが、それでもこいつはもう、本物の仮面ライダーだ」
「理解出来んな」
「……そいつは残念だ」

 そう言って、はん、と笑う。
 イクサは総司の襟首を掴み上げると、遥か後方へ向かって投げ飛ばした。
 アスファルトへと強かに身体を打ち付けた総司だったが、すぐに駆け付けた名護が総司の身体を起こし、大丈夫かと声を掛けてくれた。
 総司の身体は、大丈夫だ。少なくとも、既にボロボロに傷め付けられている名護や翔太郎に比べたら、ずっとマシな方だ。今本当に大丈夫ではないのは、自分よりも翔太郎ではないか。

「ねえ、名護さん、何でだよ、何で翔太郎を止めてくれないんだよ!?」
「言った筈だ。彼は、仮面ライダーだからな……それに、ここで全員殺されるよりは……ずっと、マシだ」

 非情な言葉であるが、その言葉を告げる名護は、苦しそうだった。
 酷く表情は歪み、今にも泣き出しそうな程に、両の瞳を硬く閉ざして、歯を食い縛っていた。
 これでは海堂が死んだ時と同じだ。また同じ事の繰り返しだ。一体何度、こんな事を繰り返せばいいのだ。
 そうするしかないのだと頭では理解していても、それを認める事の出来ない総司は、名護の腕を振り払った。

「総司くん!?」
「僕は、そんなの、嫌だ! もう、嫌なんだ!」

 涙ながらに絶叫するが、総司の声は、もう誰にも届かない。
 イクサとガドルは再び肉薄し合い、お互いの拳をぶつけ合っていた。
 が、当然不利なのはイクサだ。拳を突き出しても、既に限界を迎えたイクサの攻撃などガドルに通用する訳がない。どんな攻撃もガドルに命中する前にいなされ、逆に強力な打撃で返される。
 ガドルの拳が、イクサの残った仮面をも粉々に砕いた。既に割れていた胸部装甲を砕き割った。心臓部のイクサエンジンを破壊され、最早まともな戦闘すらも出来なくなったイクサに、それでもガドルは容赦なく攻撃を続ける。
 最早これを戦いなどと呼べはしない、一方的な暴虐でしかないのだが、それでもイクサは倒れない。強い精神力で以て、何度殴られようとも、アスファルトを踏み締め続ける。そしてイクサが倒れない限り、ガドルは攻撃をやめはしない。

「行こう、総司くん……彼が作ってくれたチャンスを、無駄にするな。
 今は生きて、必ず仇を討つんだ。海堂くんと翔太郎くんの仇を、俺達の手で……!」
「そんなのっ……嫌だ! 僕はもう何も喪いたくない! ダークカブトゼクターのような犠牲は、もう沢山だ!」

 翔太郎は今も必死に戦い続けている。海堂だって、きっと同じように戦い続けていた筈だ。
 自分が命を奪ってしまった剣崎だって、ダークカブトゼクターだって、きっと最期は“守る為”に必死になって挑んでいった筈だ。
 それなのに……それなのに、また諦めて犠牲を出して、次に賭けようなどというのは、もう嫌だった。

「僕は諦めない! だって、翔太郎が教えてくれたんじゃないか! 仮面ライダーは絶対に諦めないって!」

 そうだ。名護も、翔太郎も、何度も不可能を可能にして来た。限界を越えて来た。
 こんな自分を仮面ライダーと呼んでくれるなら、仮面ライダーの資格があるというのなら、自分にもまだ出来る事がある筈だ。
 全てが終わったと諦めるのはまだ早い。失ってから気付くのではなく、今度は自分の力で、自分自身で守りたい。
 守り抜く為の力が欲しい――!

 そう強く願ったその時、宙に一点の穴が穿たれた。
 そこから飛び出した赤いカブトムシは、イクサを嬲り続けるガドルに激突した。
 カブトゼクターの動きは、先程までの比では無い程に、素早く、そして鋭かった。
 まるで総司の強い想いに応えんとばかりに、怒涛の勢いでガドルに突撃し、イクサの身体からガドルを引き離してゆく。
 攻撃のラッシュが終わった途端、力尽きたイクサは、どさりとその場に倒れ込んだ。

「翔太郎っ!!」

 駆け寄った総司が、翔太郎の上半身を抱き起こす。
 翔太郎はまるで総司を咎めるように、僅かに目尻を上げた。

「なんで、逃げなかった……」
「だって……僕ら、仲間だろ」
「……馬鹿野郎」

 無念そうに、ぽつりとそう呟くが、その反面、翔太郎の表情は何処か嬉しそうでもあった。
 総司がようやく翔太郎の事を仲間だと呼んだのが、翔太郎にとってはよっぽど嬉しかったのだろう。
 こんな状況下でも嬉しそうに微笑む翔太郎を見ていると、やはり総司の涙は止まらなくなってしまう。
 数分前と全く同じ光景だった。先程と違うのは、翔太郎の命が、今度は本当に燃え尽きる寸前、という事だろうか。

 だけれども、既に翔太郎の命は風前の灯。
 数秒と待たず、翔太郎の表情から、最後の笑顔すらも消え去った。
 まるで糸の切れた人形の様に――翔太郎の頭部は、ガクンと項垂れた。
 総司は悟った。翔太郎も、ダークカブトゼクターと同じように、もう帰っては来れない所へ逝ってしまったのだと。

(翔太郎……)

 ――また、自分の所為で、掛け替えのない命が散らされてしまった。
 自責の念が総司を苛むが、今はそれ以上に、総司を突き動かす強い想いがあった。
 溢れ出る涙は止まらないし、この哀しみは心に重く圧し掛かる。だけれども、今は、それ以上に。
 そっと翔太郎の状態を地面に寝かせた総司は、すっくと立ち上がり――デイバッグから取り出したベルトを、腰に巻き付けた。
 無機質でシンプルな見た目をした、銀色のベルトだ。ずっと使い慣れて来た、今はもう相棒の形見となってしまったベルトだ。
 今まで総司にダークカブトの力を与え続けて来たこのライダーベルトだが、今はこのベルトこそが切り札となり得るのだと、総司は確信する。
 そして総司は、確信の理由となる存在の名を――決して臆することなくガドルに挑んでいく、あの勇敢な相棒に似たそいつの名を高らかに叫んだ。

「――カブトゼクターッ!!!」

 呼ばれたカブトゼクターは、ガドルへの猛攻を止め、とんぼ返りをして総司の元へと飛翔する。
 あれだけ酷い仕打ちをしたというのに、それでも自分の為に戦ってくれる仲間。天道総司の相棒だったそいつを掴み取り、手の中に収まったそいつに、語りかける。

「カブトゼクター……君は、こんな僕と、一緒に戦ってくれるの?」

 言葉を発する事の出来ぬカブトゼクターは、代わりにキュインと、嬉しそうに鳴いた。
 カブトゼクターはこの自分を、天の道を継ぐに相応しい“仮面ライダー”だと認めてくれたのだ。
 こいつが自分を友と認め共に戦ってくれるならば、最早これ以上黙っている訳にはいかなかった。

「ありがとう……君が力を貸してくれるなら、僕はもう一度戦える。今度は仮面ライダーとして……守る為に!
 今はもう居ない天道と、ダークカブトゼクターの意志は……いや、死んで行った総ての仮面ライダーの意志は、この僕が継ぐ!」

 さっき翔太郎が言った通り、仮面ライダーとは不死身の戦士だ。
 その魂を受け継いでくれる者が居る限り、仮面ライダーは何度でも蘇り、必ず悪を打ち倒すのだから。
 総司の知る限り、一人の立派な仮面ライダーとして戦っていた天道総司だって、きっと最期の瞬間まで勇敢に戦ったのだろう。
 そして、その最期を看取ったカブトゼクターがこの自分を選んでくれたのなら、自分にはそれを、天の道を継ぐ義務がある。
 剣崎を殺してしまった罪を背負い、海堂を見殺しにしてしまった無力感すらも糧に、今度は仲間と共に、生き抜いていかねばならない。

 だから今は、誰よりも強かったあの男の名を借りよう。そして天道に出来なかった事を、自分がやり遂げるのだ。
 この姿と記憶に泥を塗らぬように、これ以上無様な姿を晒さぬように――そして何よりも、もう二度と、翔太郎のような大切な仲間を喪わぬ為に。
 戦おう、現実と。目の前のガドルと。そして、戦って戦って戦い抜いて、仮面ライダーとして、今度は自分が総てを変えてみせよう。
 ……そして許されるなら、全てを終わらせて元の世界に帰ったら、今度は自分がひよりに言ってあげたい。

 ――大丈夫、僕がそばにいる。

 あの優しい言葉を、今度は僕が、ひよりに返してあげたい。
 その言葉だけで、人がどれだけ安心出来るのかを、総司は知っているから。
 だから今度は、生きている自分が、天道の分までひよりを安心させてあげたい。
 こんな自分にも、生きる意味が出来た。だからここで負ける事も終わる事も、絶対に許されはしない。
 強い決意と共に、総司はきっとガドルを睨んだ。

「――僕の名前は、天道総司。天の道を継ぎ、総てを司る男――またの名を、仮面ライダーカブト!」

 そう宣言すると同時、静観するガドルと総司の間に、時空の扉が開かれた。
 眩い緑色の光が空間を歪曲させ、内部から現れたのは、天道総司のもう一つの相棒、ハイパーゼクター。
 時空を裂いて現れたそいつもまた、ガドルを牽制するように体当たりを仕掛け、総司の元へと飛翔した。

 最早迷う事は何もない。総司の想いに、力は応えてくれた。
 天の道を往く男にのみ従う太陽の使者が、始めて生きる為に生きようと決意した男の存在を認めてくれたのだ。
 それは、どんな強敵をも打ち倒し、正義を貫く為の最強の力。時空すらも超越し、どんな不可能をも可能に変えてくれる勝利の鍵。
 この力で、総司は飛ぶ。全てを救い、全てを守り抜く為に――仮面ライダーの力で、全てを変える為に。

「変身ッ!!!」

 カブトゼクターをベルトに叩き込むと同時、ハイパーゼクターが総司の腰に取り付いた。
 同時に、総司の全身を、黒いスーツと銀色の鎧が覆い尽くす。頭部を覆う仮面は、薄いブルーの複眼と、巨大な一本のカブトホーン。
 時間流にすら干渉するタキオン粒子を意のままに操る為、より効率よく粒子を放出する為に設計された鎧は、従来のマスクドフォームよりもずっと硬く、しかし軽い。
 並大抵の攻撃では傷付ける事すら叶わぬヒヒイロノオオガネを全身に纏ったその姿こそ、仮面ライダーカブトの最強形態――ハイパーフォーム。

 ――CHANGE HYPER BEETLE――

 変身の完了を示す電子音が響き、巨大な複眼が煌めいた。
 新たなる戦士の誕生に驚きを隠せないガドルに見せ付けるように、カブトが纏う銀色の装甲が変形を開始する。
 まずは胸部の装甲が、続いて両腕両脚のプレートが、背部の装甲が。全身の装甲が次々と展開されてゆき、カブトの外見を変えてゆく。
 展開された装甲の基部からは黄金の輝きと虹色の粒子が溢れ出し、まるで甲虫の羽根のように開いた背部からも、同様の光が放出される。
 全身から虹の輝きを撒き散らすその姿は、背から光の翼と見まごうばかりの粒子を放出するその姿は、さながら神話に登場する聖人の如き神々しさだった。
 夜の闇をも掻き消さんばかりの輝きの中で、総司は左腰に装着されたハイパーゼクターのボタンを叩き、叫ぶ。

「ハイパークロックアップッ!!」

 ――HYPER CLOCK UP――

 虹色の粒子を絶え間なく放出するハイパーカブトを中心に、時空が歪んでゆく。
 波動は緑の輝きを伴って空間を歪曲させ、ハイパーカブトの姿を揺らがせる。
 間もなくハイパーカブトの姿が不可視になったと思われたその刹那、ハイパーカブトはこの時空から姿を消した。



102:G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト 投下順 G線上のアリア/リレーション・ウィル・ネバーエンド
時系列順
ゴ・ガドル・バ
擬態天道
名護啓介
左翔太郎
ン・ダグバ・ゼバ